(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179464
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】断熱性能検査方法及び断熱性能検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
G01N25/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098333
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 耕策
(72)【発明者】
【氏名】三澤 智也
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐志
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA09
2G040BA25
2G040CA01
2G040DA02
2G040DA15
2G040DA16
2G040EB02
(57)【要約】
【課題】構造体の内部にある対象物の断熱性能を高精度に検査できる断熱性能検査方法及び断熱性能検査装置を提供する。
【解決手段】本発明の断熱性能検査方法は、構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する方法であって、加熱源が、検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱するステップと、温度測定部が、前記被加熱体の温度を測定するステップと、制御部が、前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出するステップと、を備えた。本発明の断熱性能検査装置は、構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する装置であって、検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱する加熱源と、前記被加熱体の温度を測定する温度測定部と、前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出する制御部と、を備えた。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する断熱性能検査方法であって、
加熱源が、検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱するステップと、
温度測定部が、前記被加熱体の温度を測定するステップと、
制御部が、前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出するステップと、を備えた断熱性能検査方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記加熱源が前記被加熱体を非接触加熱する前に、ファンが前記構造体に対して送風するステップを、さらに備えた断熱性能検査方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記温度測定部は、前記被加熱体と接触した状態で温度を測定する温度センサを有し、
前記加熱源が前記被加熱体を非接触加熱する前に、前記被加熱体の表面形状を測定し、その測定結果に基づき前記温度測定部を接触させる位置を変更するステップを、さらに備えた断熱性能検査方法。
【請求項4】
請求項1において、
同一の前記検査対象物の手前側にある前記被加熱体の表面のうち、2つ以上の異なる位置で断熱性能を測定する、断熱性能検査方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記構造体は、前記被加熱体である表面鋼板で形成される外箱の内側に、前記検査対象物である真空断熱材を貼り付けた、冷蔵庫であって、
前記温度測定部を、前記外箱に接触させる、断熱性能検査方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記構造体は、樹脂で形成される内箱の外側に、前記検査対象物である真空断熱材を貼り付けた状態で発泡断熱材が充填された、冷蔵庫であって、
前記内箱と前記真空断熱材との間の一部に、前記被加熱体が設けられており、
前記温度測定部を、前記内箱に接触させる、断熱性能検査方法。
【請求項7】
構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する断熱性能検査装置であって、
検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱する加熱源と、
前記被加熱体の温度を測定する温度測定部と、
前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出する制御部と、を備えた断熱性能検査装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記被加熱体は、前記構造体の表面鋼板であって、
前記加熱源は、前記表面鋼板を誘導加熱するコイルである、断熱性能検査装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記構造体は、冷蔵庫であって、
前記被加熱体は、鋼板で形成された外箱であって、
前記検査対象物は、前記外箱の内側に配置された真空断熱材のうち、左右側面及び背面の真空断熱材を含む、断熱性能検査装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記温度測定部は、前記真空断熱材と接着している領域における前記外箱の温度を測定する、断熱性能検査装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記被加熱体との距離を一定にするスペーサを、さらに備えた断熱性能検査装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記スペーサは、前記被加熱体のうち、非接触加熱される領域と離間した領域と接触する、断熱性能検査装置。
【請求項13】
請求項12において、
非接触加熱される領域の外周側にあって前記被加熱体との隙間を塞ぐ壁を、さらに備えた断熱性能検査装置。
【請求項14】
請求項11において、
前記温度測定部は、接触式の温度センサと、前記温度センサを前記被加熱体に押し付ける弾性部と、を有する、断熱性能検査装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記温度測定部は、前記温度センサ及び前記弾性部の外周側にあって前記被加熱体へ向けて延びるガイドを、さらに有する断熱性能検査装置。
【請求項16】
請求項14において、
前記温度測定部は、前記温度センサの表面を覆う保護層を、さらに有する断熱性能検査装置。
【請求項17】
表面鋼板で形成される外箱の内部に真空断熱材を配置した状態で発泡断熱材を充填するステップと、
前記発泡断熱材が発泡した後、前記外箱を非接触加熱したときの前記外箱の温度を測定することにより、前記真空断熱材の断熱性能を算出するステップと、
前記断熱性能が所定の条件を満たさない場合に、不良品として排出するステップと、を備えた、冷蔵庫又は給湯機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性能検査方法及び断熱性能検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空断熱材等の断熱材は、一定の断熱性能を満たしているか否かの検査が行われる。例えば、特許文献1には、断熱材などの被測定物に熱抵抗材を接触させた状態で、被測定物と熱抵抗材の間で熱を発生させ、熱抵抗材の内部の温度差を測定することで、被測定物の熱伝導率を測定する技術が開示されている。また、特許文献2には、真空断熱材のフィルム内にテスト層と被加熱層を設け、被加熱層を誘導加熱したときに計測される真空断熱材外部の温度変化から、テスト層の熱伝導率を計測することで、真空断熱材の密閉空間の圧力を調べる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-131257号公報
【特許文献2】国際公開第2022/130920号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2の技術では、断熱材などの検査対象物が、例えば冷蔵庫などの構造体の内部に組み込まれた場合、構造体を介して温度を測定することになるので、構造体の熱伝導の影響を受けて、検査対象物の断熱性能を検査精度が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的は、構造体の内部にある対象物の断熱性能を高精度に検査できる断熱性能検査方法及び断熱性能検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の断熱性能検査方法は、構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する方法であって、加熱源が、検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱するステップと、温度測定部が、前記被加熱体の温度を測定するステップと、制御部が、前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出するステップと、を備えた。
【0007】
また、上記課題を解決するための本発明の断熱性能検査装置は、構造体の内部にある対象物の断熱性能を検査する装置であって、検査対象物の手前側に位置する被加熱体を非接触加熱する加熱源と、前記被加熱体の温度を測定する温度測定部と、前記温度測定部の測定値に基づいて、前記検査対象物の断熱性能を算出する制御部と、を備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造体の内部にある対象物の断熱性能を高精度に検査できる断熱性能検査方法及び断熱性能検査装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】断熱性能検査装置の概略構成を示す平面図。
【
図1B】断熱性能検査装置の概略構成及び構造体の一部を示す断面図。
【
図4】断熱性能検査装置を冷蔵庫の製造ラインに適用したときの製造検査システムの概略構成を示す図。
【
図6】断熱性能検査装置の概略構成及び実施例2における構造体の一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例0011】
図1~
図5を用いて実施例1を説明する。
図1Aは、断熱性能検査装置の概略構成を示す平面図であり、
図1Bは、断熱性能検査装置の概略構成及び構造体の一部を示す断面図である。実施例1は、構造体8として、検査対象物である断熱材10(真空断熱材)が表面鋼板9(外箱)の内側に貼り付けられた冷蔵庫を想定したものである。なお、冷蔵庫となる断熱箱体は、外箱と内箱(図示省略)の間に、真空断熱材の他、ウレタンフォームなどの発泡断熱材(図示省略)が設けられることで構成される。断熱性能検査装置1は、コイル3と、電力供給回路4と、ベースプレート5と、スペーサ6と、防風壁7と、温度メータ11と、PC12と、温度測定部2と、を備える。
【0012】
コイル3は、被加熱体である表面鋼板9を誘導加熱するための加熱源であり、銅線が螺旋状に巻回されたものである。表面鋼板9を非接触で加熱できるため、表面鋼板9から検査装置への熱拡散が抑制されるだけでなく、表面鋼板9の形状ばらつき(表面の微小な凹凸)に起因する加熱ムラも抑制される。電力供給回路4は、高周波電力をコイル3へ供給する。周波数は、表面鋼板9における磁場の表皮深さが表面鋼板9の厚さより薄くなるように設定されることで、表面鋼板9を効率良く加熱できる。すなわち、冷蔵庫の外箱を形成する表面鋼板9は、一般的に厚さが100μm以上あるため、周波数は500Hz以上あることが望ましい。例えば、周波数を20~30kHzに設定すれば、IHクッキングヒーターなどで用いられているコイル3及び電力供給回路4を改良して使うことができ、断熱性能検査装置1を低コストで構成することが可能となる。
【0013】
スペーサ6は、表面鋼板9とベースプレート5との距離を一定にするためのものであり、望ましくは、表面鋼板9のうち、非接触加熱される領域(加熱領域)より外側の離間した領域と接触するように設けられる。これにより、温度測定部2が設置される領域を除き、ベースプレート5と加熱領域との間にギャップが生じ、ベースプレート5と表面鋼板9との接触による、表面鋼板9からの熱拡散が抑制される。また、表面鋼板9とコイル3との距離も一定に保たれるため、誘導加熱量を一定に保つことができ、検査の精度が向上する。なお、スペーサ6の材質は、例えば、発泡ウレタン、ポリスチレンなどの硬質かつ断熱性能の高いもの(熱伝導率の低いもの)が望ましい。
【0014】
防風壁7は、加熱領域の外周側にあって表面鋼板9との隙間を塞ぐ壁であり、表面鋼板9における加熱領域周辺を無風状態にして、風による熱拡散の影響を抑える役割を果たす。防風壁7は、表面鋼板9の形状ばらつきを吸収して密閉空間を形成させるために、軟質なものが望ましく、表面鋼板9からベースプレート5への熱拡散を抑えるために、断熱性能の高いものが望ましい。防風壁7の材質は、例えば、発泡ゴム、発泡ウレタン、シリコンゴム、グラスウールなどである。
【0015】
温度メータ11は、温度測定部2の測定値を読み取り、温度を算出してPC12に出力する。PC12(制御部)は、電力供給回路4にON/OFFの信号を出力し、加熱タイミングを制御する。さらに、PC12は、温度メータ11から表面鋼板9の温度を読み取り、温度上昇挙動から断熱材10の断熱性能(熱伝導率)を算出する。
【0016】
次に、温度測定部の構成について、説明する。
図2は、温度測定部の構成を示す断面図である。温度測定部2は、検査対象物である断熱材10の手前側に位置する表面鋼板9の表面温度を測定するものである。温度測定部2は、温度センサ15と、表面保護層16と、断熱部14と、第1弾性部13と、第2弾性部17と、平行ガイド18と、を備えている。温度測定部2のうち、表面鋼板9と接触する部分(主に表面保護層16の表面)の面積は、表面鋼板9の熱の拡散を抑えるために、できるだけ狭い方が望ましい。
【0017】
温度センサ15には、例えば熱電対や測温抵抗体が用いられる。表面鋼板9の熱の拡散を抑えるために、温度センサ15は、できるだけ小型で熱容量の小さいものが望ましい。
【0018】
表面保護層16は、温度センサ15の表面を覆い、温度測定部2を表面鋼板9に接触させるときに、摩擦によって表面鋼板9および温度センサ15に傷や摩耗が生じるのを防ぐものである。表面保護層16は、耐摩耗性を有するものが望ましい。また、表面保護層16は、表面鋼板9の熱の拡散を抑えるために、熱容量の小さいものが望まく、表面鋼板9の温度を温度センサ15で正確に測定するために、熱抵抗の小さいものが望ましい。さらに、形状ばらつきを有する表面鋼板9と確実に接触させるために、表面保護層16は、柔軟性のあるものが望ましい。表面保護層16の材質は、例えば、フッ素樹脂シート、高密度ポリエチレンシート、シリコン、ブチル、ポリウレタンゴムシートである。
【0019】
断熱部14は、温度センサ15からの熱の拡散を抑えるための断熱層である。ここで、断熱部14に温度センサ15が埋まって表面鋼板9との接触状態が悪くならないように、断熱部14は、一定程度の硬さを有し、少なくとも後述の第1弾性部13及び第2弾性部17よりも硬い。断熱部14の材質としては、発泡ウレタン、ポリスチレンなどの断熱性能の高いものが望ましい。
【0020】
第1弾性部13および第2弾性部17は、温度測定部2を反ベースプレート側(表面鋼板側)に押し付け、形状ばらつきを有する表面鋼板9に対しても、温度センサ15(表面保護層16)を確実に接触させるものである。ここで、第1弾性部13の反発係数は、第2弾性部17の反発係数よりも低くするのが望ましい。これにより、温度測定部2が表面鋼板9に押し当てられた場合、温度センサ15(表面保護層16)の高さが後述の平行ガイド18の高さと同等となる状態まで第1弾性部13が縮み、温度測定部2の高さがスペーサ6の高さと同等となる状態まで第2弾性部17が縮む。第1弾性部13及び第2弾性部17の材質は、例えば、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、クロロプレンである。
【0021】
平行ガイド18は、温度センサ15、断熱部14及び第1弾性部13の外周側にあって表面鋼板9に向けて延びる足部を有し、温度測定部2の表面が表面鋼板9に対して傾斜しようとした場合に、足部の先端が表面鋼板9と接触する。これにより、熱拡散の抑制のために温度測定部2の表面の面積を前述のように狭くしても、温度測定部2が表面鋼板9に対して傾斜するのが抑制され、温度測定部2の表面と表面鋼板9との接触面が略平行に保たれる。平行ガイド18は、硬質で、耐摩耗性があり、表面鋼板9に傷を与えないものが望ましい。平行ガイド18の材質は、例えば、ポリカーボネート、ABS、フッ素樹脂である。
【0022】
このように、第1弾性部13、第2弾性部17及び平行ガイド18を設けることにより、表面鋼板9と温度測定部2との接触ムラが抑制され、その結果、温度測定部2の測定誤差が低減する。
【0023】
次に、断熱性能(熱伝導率)の検査の流れについて説明する。
図3は、熱伝導率の検査方法を示すフローチャートである。まず、前述の断熱性能検査装置1が構造体表面に設置される(ステップS1)。次に、温度測定が開始され、所定の時間間隔で温度測定部2が取得した温度が記録される(ステップS2)。その後、PC12が、加熱開始の指令であるON信号を電力供給回路4に出力することで、加熱が開始される(ステップS3)。所定の時間経過後、PC12は、加熱停止の命令であるOFF信号を電力供給回路4に出力することで、加熱が終了する(ステップS4)。次に、温度の測定及び記録が終了する(ステップS5)。PC12は、得られた各時間における温度データから熱伝導率を算出する(ステップS6)。
【0024】
ここで、熱伝導率の算出方法を説明する。PC12は、得られた温度データから、加熱前の温度データと所定時間経過後の温度データを抽出し、温度上昇量を算出する。この温度上昇量は、断熱材10の熱伝導率と相関があり、断熱材10の熱伝導率が低い方が、表面鋼板9の熱が断熱材10側へ拡散しないため、温度上昇量が高くなる。そこで、事前に、熱伝導率の分かっている断熱材10を組み込んだ構造体を用意し、これらを測定して熱伝導率と温度上昇量と検量線を取っておく。そして、PC12は、この検量線を用いて、測定で得られた温度上昇量から熱伝導率を算出する。
【0025】
図4は、断熱性能検査装置を冷蔵庫の製造ラインに適用したときの製造検査システムの概略構成を示す図である。製造検査システムは、コンベア22と、温度安定化エリア19と、形状測定エリア20と、熱伝導率測定エリア21と、を有する。冷蔵庫は、温度安定化エリア19に移動する前に、外箱の内部に真空断熱材を配置した状態で発泡断熱材が充填され、発泡が完了している。コンベア22は、立てられた状態の冷蔵庫を、温度安定化エリア19、形状測定エリア20、熱伝導率測定エリア21の順に、移動させる。本実施例では、冷蔵庫の外箱の内側に配置された真空断熱材のうち、左右側面及び背面の真空断熱材を、検査対象物とする。
【0026】
温度安定化エリア19は、ファン23が設置されており、冷蔵庫の表面(特に、測定対象の表面鋼板9の部分)に対して送風して、断熱箱体の温度を製造検査システム(熱伝導率測定エリア21)の環境温度に近付ける。ここで、製造ラインにおいて、冷蔵庫は各工程の環境温度に晒されて表面及び内部の断熱材の温度が変化する。この温度変化は、外気温の変化、製造ラインの稼働状況など、様々な要因によりばらつく。断熱材の内部に温度分布がある場合、測定時において表面鋼板から断熱材へ拡散する熱量が温度分布に依存して変化し、測定結果に影響を与える。したがって、温度安定化エリア19において、ファン23を用いて断熱材の表面近傍の温度を製造検査システムの環境温度に近付け、安定化させることで、熱伝導率の算出誤差を低減する(検査の精度を向上させる)ことができる。
【0027】
形状測定エリア20は、形状測定装置24が設置されており、冷蔵庫表面の形状(凹凸)を測定する。冷蔵庫表面(表面鋼板9)の凹凸が大き過ぎると、断熱性能検査装置1の温度測定部2の接触が不十分になったり、コイル3と表面鋼板9との距離が変化して誘導加熱量が変化したりすることで、熱伝導率の算出誤差が発生する。そこで、誘導加熱及び温度測定の前に、形状測定エリア20において、表面鋼板9の形状を測定し、測定結果がPC26(制御装置)に出力される。凹凸の量が所定の閾値を超える場合、PC26は、誘導加熱及び温度測定の位置(温度測定部2を接触させる位置)を、凹凸の少ない位置に変更するよう、熱伝導率測定エリア21のロボット25に指示する。
【0028】
熱伝導率測定エリア21は、断熱性能検査装置1とロボット25が設置されている。具体的には、冷蔵庫の各面(左右側面及び背面)に2台の断熱性能検査装置1と1台のロボット25が設置されており、各面について2箇所で断熱性能の検査が行われる。ロボット25は、PC26による指示に従い、断熱性能検査装置1を移動させ、温度測定部2を表面鋼板9の所定位置に接触させる。熱伝導率測定エリア21における検査の結果、熱伝導率が所定の条件を満たす場合、コンベア22は当該冷蔵庫を良品として排出し、熱伝導率が所定の条件を満たさない場合、コンベア22は当該冷蔵庫を不良品として排出する。
【0029】
また、製造検査システムは、製造ラインの工程終盤に設置され、各エリアが仕切られていないことが望ましい。冷蔵庫が同じ室温に晒され続け、断熱箱体内の温度分布が小さくなるためである。冷蔵庫が同じ室温に晒される時間は、5分以上が望ましく、特に30分以上の場合、断熱箱体の表面鋼板9近傍の内部の温度分布がほぼ一定になるため、温度安定化エリア19を省略することも可能である。
【0030】
図5は、冷蔵庫における温度測定位置の例を示す図である。冷蔵庫の側面の表面鋼板9の内側には、冷媒を通す配管30が配置されており、この配管30の近傍は、表面鋼板9の内側に真空断熱材10aが接着しておらず、非接触領域となる。したがって、前述の加熱領域の内部又は近傍に非接触領域が位置していると、温度測定により算出される熱伝導率が、真空断熱材10aの実際の熱伝導率より高めの値となり、誤差を発生する。そこで、表面鋼板9の内側に真空断熱材10aが接着されている接触領域32のうち中央近傍を、温度測定位置とする。これにより、加熱領域の内部又は近傍も接触領域32となるため、熱伝導率の算出誤差を低減できる。
【0031】
ここで、接触領域及び非接触領域の位置は、冷蔵庫の機種によって異なる場合があるため、PC26は、検査対象の冷蔵庫の機種情報に基づき、当該機種に対応して予め設定された温度測定位置を読み出す。但し、読み出した温度測定位置における凹凸の量が、形状測定エリア20における形状測定の結果、所定の閾値を超える場合、予め設定された別の温度測定位置を読み出す。
【0032】
なお、真空断熱材10aが完全にリークしているときは、真空断熱材10aが膨らむため、表面鋼板9も大きく膨らみ、凹凸の量が大きくなる。したがって、このときの表面鋼板9の凹凸の量を予め取得して閾値を設定しておけば、形状測定エリア20において、真空断熱材10aのリークが発生した冷蔵庫を特定できる。そのような冷蔵庫は、熱伝導率測定エリア21をスルーして、不良品として排出されても良い。
【0033】
また、設計上は接触領域であっても、表面鋼板9と真空断熱材10aの間に接着不良が発生している場合があり、その場合は、算出される熱伝導率が、真空断熱材10aの実際の熱伝導率より高めの値となる。このような算出誤差を防ぐために、冷蔵庫の各面について2箇所で断熱性能の検査が行われる。2箇所で算出された熱伝導率のうち、一方の熱伝導率のみが予め設定された閾値を超える場合、当該箇所は接触不良と見做され、他方の熱伝導率が検査結果として出力される。それ以外の場合、2つの熱伝導率の平均値が検査結果として出力される。なお、
図5では、同一の面の真空断熱材10aの手前側の表面鋼板のうち、水平方向に異なる2箇所で断熱性能の検査が行われているが、鉛直方向に異なる2箇所で断熱性能の検査が行われても良い。
【0034】
以上述べたとおり、本実施例によれば、冷蔵庫のように、検査対象物の断熱材が構造体内部に組み込まれたものに対しても、熱伝導率の算出誤差を低減でき、高精度の検査が可能となる。
【0035】
なお、本実施例では、冷蔵庫の左右側面及び背面の真空断熱材を検査する例を示したが、扉や天井面、底面など他の面を検査しても良い。但し、全面を検査するには工程が複雑となるため、冷蔵庫の左右側面及び背面のみの検査が、コスト面で有利である。
【0036】
また、本実施例では、温度測定部2を断熱部14と第1弾性部13で構成した例を示したが、弾性と断熱性を兼ね備えた1つの部材で構成しても良い。さらに、本実施例では、温度測定部2に接触式の温度センサを用いる例を示したが、温度測定部2に赤外線温度センサなどの非接触式の温度センサを用いても良い。非接触式の温度センサを用いれば、熱拡散や接触ムラによる誤差を抑制することができる。また、本実施例では、表面鋼板9を誘導加熱する例を示したが、赤外線やマイクロ波を用いて、表面鋼板9を非接触加熱しても良い。
そこで、実施例2では、内箱27に温度測定部2を接触させる。ただし、内箱27は、一般にABSなどの樹脂で形成されるため、誘導加熱に適さない。したがって、実施例2では、内箱27と真空断熱材10aの間に、被加熱シート28が設けられる。被加熱シート28は、誘導加熱により発熱するシートであり、その材質は、例えばアルミ、銅、ステンレスなどの金属である。被加熱シート28の厚さは、誘導加熱の磁場の表皮深さより厚く設定することが望ましい。
真空断熱材10aは、グラスウールなどの芯材を、金属層を含む外包材で包んで構成されている。仮に、真空断熱材10aの内部に被加熱シート28を設置すると、真空断熱材10aの製造時にシワが発生し、誘導加熱時の加熱量がシワに応じてばらつき、熱伝導率の算出誤差に繋がる。また、被加熱シート28の端部で真空断熱材10aの外包材を損傷し、リークによる不良を発生させるリスクもある。なお、真空断熱材10aの外包材の厚さは、誘導加熱の磁場の表皮深さより薄いので、誘導加熱するには、数MHz以上の高い周波数が必要となり、検査装置の高コスト化に繋がる。
本実施例によれば、真空断熱材が内箱に貼り付けられた冷蔵庫であっても、熱伝導率を高精度に算出することが可能となる。なお、本実施例では、被加熱シート28を誘導加熱する例を示したが、赤外線やマイクロ波を用いて、被加熱シート28を非接触加熱しても良い。
なお、前述の実施例1,2では、構造体として、検査対象物である真空断熱材が外箱又は内箱に貼り付けられた冷蔵庫を想定したものであったが、構造体は、冷蔵庫以外であっても良い。例えば、加熱した温水を貯留して供給する貯湯タンクと、金属製の外箱と、貯湯タンクと外箱の間の断熱空間に配置される真空断熱材と、を備えた給湯機が、構造体であっても良い。