(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179478
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/00 20060101AFI20241219BHJP
B60W 10/22 20060101ALI20241219BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20241219BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20241219BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20241219BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60W10/00 150
B60W10/22
B60K5/12 G
B60G17/015 A
B60W10/30
F02N11/08 Y
B60G17/015 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098355
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克也
【テーマコード(参考)】
3D235
3D241
3D301
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB23
3D235CC01
3D235EE33
3D235EE55
3D235FF34
3D235HH12
3D241AA01
3D241AC01
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA05
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3D301DA38
3D301EA19
3D301EA25
3D301EA26
3D301EA27
3D301EB05
3D301EB08
3D301EB09
3D301EB13
3D301EB22
3D301EC01
3D301EC05
(57)【要約】
【課題】エンジン始動時に発生する振動やショックを、適切に、低減することが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの振動を抑制するとともに、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なエンジンマウントと、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なサスペンションと、を備え、車体に伝わる振動を低減する車両の制御装置において、エンジンを始動する際に、高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1以上である場合に、エンジンマウントの剛性を低下させ(ステップS5)、高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1以上であり、かつ、低周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第2閾値α2(α2>α1)以上である場合に、サスペンションの剛性を低下させる(ステップS7)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として少なくともエンジンを搭載し、前記エンジンと車体との間で前記エンジンを支持して前記エンジンの振動を抑制するとともに、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なエンジンマウントと、車輪を前記車体に支持するとともに、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なサスペンションと、を備え、前記車体に伝わる振動を低減する車両の制御装置であって、
前記車両の運転状態および前記エンジンの運転状態、ならびに、前記車体の加速度をそれぞれ検出する検出部と、
前記車両を制御するとともに、前記エンジンマウントの剛性および前記サスペンションの剛性をそれぞれ制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記エンジンを始動する際に、前記加速度の検出値を周波数分析し、
相対的に高い高周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが所定の第1閾値以上である場合に、前記エンジンマウントの剛性を低下させるとともに、
前記高周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが前記第1閾値以上であり、かつ、前記高周波数域よりも低い低周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合に、前記サスペンションの剛性を低下させる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンを搭載した車両の制御装置に関し、特に、エンジンから車体および車室に伝わる振動を低減する車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンからの振動伝達を遮断するとともに、サスペンション等から入力される振動に基づく車室内の振動や騒音も低減することを目的とした車体振動低減装置が記載されている。この特許文献1に記載された車体振動低減装置は、エンジンの荷重を受けるゴムブッシュ、ゴムブッシュによって仕切られた2つの流体室を有するマウントケース、二つの流体室を連通するオリフィス、二つの流体室のうち一方の流体室を容積可変に閉塞する可動閉塞部材、および、可動閉塞部材を制御信号に従って駆動するアクチュエータからなるアクティブマウントを備えている。そして、特許文献1に記載された車体振動低減装置は、エンジンマウントとして上記のアクティブマウントを用い、エンジン回転数を四つの領域に区分して、各領域毎に予め設定した制御内容(制御モード)で、アクティブマウントを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1に記載された車体振動低減装置では、エンジン回転数の異なる周波数域に対応した制御内容でアクティブマウントが制御される。例えば、エンジン回転数が30Hzから60Hzの間の領域では、サスペンションから伝達される振動を想定して、そのような振動をキャンセルするようにアクティブマウントが制御される。それにより、中高速こもり音を低減する、とされている。しかしながら、特許文献1に記載された車体振動低減装置では、対応する振動の態様によっては、十分な振動低減効果を得られない可能性がある。例えば、エンジンから車体および車室に伝わる振動のうち、エンジン始動時に発生する低周波数域の振動は、相対的に振幅や変位が大きくなる。また、そのような低周波数域では、共振が発生する場合もある。それに対して、特許文献1に記載された車体振動低減装置におけるアクティブマウントは、ブッシュ型の流体マウントをベースにして、ばね定数や減衰係数を可変にしたエンジンマウントであり、車体に固定されたエンジンで発生する異なる周波数域の振動に対応して振動低減効果を発揮する。しかしながら、上記のようなアクティブマウントは、基本的には、エンジンの定常運転時に発生する異なる周波数域の振動を対象にして振動低減を行うものであり、一時的あるいは瞬間的に発生する過大な振動や衝撃の全てに対応するものではない。そのため、上記のようなエンジン始動時の振幅や変位が大きい振動に対しては、振動低減効果を十分に発揮できないおそれがある。
【0005】
この発明は上記のような技術的課題に着目して考え出されたものであり、エンジンから車体および車室に伝わる振動全般を低減するとともに、特に、エンジン始動時に発生する振動やショックを、適切に、低減することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、動力源として少なくともエンジンを搭載し、前記エンジンと車体との間で前記エンジンを支持して前記エンジンの振動を抑制するとともに、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なエンジンマウントと、車輪を前記車体に支持するとともに、ばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて剛性を変更可能なサスペンションと、を備え、前記車体に伝わる振動を低減する車両の制御装置であって、前記車両の運転状態および前記エンジンの運転状態、ならびに、前記車体の加速度をそれぞれ検出する検出部と、前記車両を制御するとともに、前記エンジンマウントの剛性および前記サスペンションの剛性をそれぞれ制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記エンジンを始動する際に、前記加速度の検出値を周波数分析(または、周波数解析)し、相対的に高い高周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが所定の第1閾値以上である場合に、前記エンジンマウントの剛性を低下させるとともに、前記高周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが前記第1閾値以上であり、かつ、前記高周波数域よりも低い低周波数域における前記加速度の振動加速度レベルが前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合に、前記サスペンションの剛性を低下させることを特徴とするものである。
【0007】
なお、この発明における前記コントローラは、車速が所定値以下であり、かつ、前記エンジンがアイドリング運転されている状態であり、かつ、前記エンジンの暖機が完了した状態で、前記周波数分析を実施するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両の制御装置では、特性(ばね定数や減衰係数)を変えることが可能なエンジンマウントおよびサスペンションを制御することにより、エンジンで発生する周波数域の異なる振動にそれぞれ対応して、車体(車室)の振動低減が図られる。高周波数域の車体の振動、すなわち、車体の加速度が大きい場合は、エンジンマウントの剛性を低下させることにより、エンジンから車体に伝わる振動が低減される。一方、低周波数域の車体の振動(車体の加速度)が大きい場合には、サスペンションの剛性を低下させることにより、エンジンから車体に伝わる振動が低減される。例えば、エンジンの始動時には、低周波数域の振動が大きくなり、エンジンマウントの剛性を変化させるだけでは、十分な振動低減効果を得られない場合があった。それに対して、この発明の車両の制御装置では、エンジン始動時のように、低周波数域の振動が大きくなる場合は、サスペンションの剛性が低下させられ、それにより、エンジンの振動を車輪側に逃がすことができる。そのため、エンジン始動時に振動やショックが大きくなる場合であっても、効果的に、車体の振動を低減することができる。
【0009】
なお、上記のような車体の加速度の検出、および、その車体の加速度の周波数分析は、車両の停止時、もしくは、車速がほぼ0の極低車速時に、エンジンの暖機が完了していて、アイドリングの回転数が安定した状態で実施される。そのため、加速度を計測するのに適した条件の下で、車体の加速度を精度よく検出することができ、その加速度の周波数分析を適切に実施することができる。
【0010】
したがって、この発明の車両の制御装置によれば、エンジンから車体および車室に伝わる振動全般(異なる周波数域にわたる振動やショック)を低減するとともに、特に、エンジン始動時に発生する振動やショックを、適切に、低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、この発明の車両の制御装置で制御の対象にする車両の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、この発明の車両の制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2のフローチャートで示す制御の一例を説明するための図であって、車体の加速度(振動)に対する周波数分析結果、ならびに、低周波数域、高周波数域、第1閾値、および、第2閾値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0013】
図1に、この発明の実施形態で制御対象にする車両Veの駆動系統および制御系統の一例を示してある。
図1に示す車両Veは、駆動力源として、エンジン(ENG)1を搭載しており、エンジン1の出力トルクを、トランスアクスル2やデファレンシャルギヤ(図示せず)等を介して、駆動輪(車輪)3へ伝達する構成となっている。また、車両Veは、アクティブマウント4、および、アクティブサスペンション5を備えている。そして、車両Veは、アクティブマウント4およびアクティブサスペンション5をそれぞれ制御して車体6または車室(図示せず)の振動を低減するため、検出部7、および、コントローラ(ECU)8を備えている。
【0014】
アクティブマウント4は、エンジン1と車体6との間で、エンジン1を支持してエンジン1の振動を抑制する“エンジンマウント”である。それとともに、アクティブマウント4は、アクティブマウント4自体のばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて、“エンジンマウント”としての特性を変更可能な構成となっている。
図1に示す例では、エンジン1と車体6との間の三箇所にアクティブマウント4が設けられている。アクティブマウント4は、例えば、前述の特許文献1に記載されている“アクティブマウント”と同様に、複数の流体室の間に設けたオリフィス(図示せず)の面積を変化させて“エンジンマウント”としての特性を制御する方式の周知のものである。そのようなオリフィスを用いた方式の“アクティブマウント”の具体的な構成については、前述の特許文献1の明細書で説明されている。あるいは、アクティブマウント4は、電磁ソレノイド(図示せず)の電磁力を利用して“エンジンマウント”としての特性を制御する方式のものを採用してもよい。そのような電磁ソレノイドを用いた方式の“アクティブマウント”の一例が、例えば、特開2006-264402号公報の明細書で説明されている。
【0015】
アクティブサスペンション5は、車輪(上記の駆動輪(前輪)3、および、後述する後輪9)を車体6に支持して路面から車輪3,9に伝わる振動を吸収する“サスペンション装置”である。それとともに、アクティブサスペンション5は、アクティブサスペンション5自体のばね定数または減衰係数の少なくともいずれかを変化させて、“サスペンション装置”としての特性を変更可能な構成となっている。アクティブサスペンション5は、例えば、モータ駆動の電動アクチュエータでサスペンションストロークや減衰力を変化させて“サスペンション装置”としての特性を制御する方式の周知のものである。そのような電動アクチュエータを用いた方式の“アクティブサスペンション”の例が、例えば、特開2005-90616号公報の明細書や、特開2011-16475号公報の明細書等で説明されている。
【0016】
なお、この発明の実施形態で制御対象にする車両Veは、エンジン1のような内燃機関を搭載した車両Veであればよく、
図1に示すような、駆動力源としてエンジン1だけ搭載するいわゆるエンジン車両に限定されない。例えば、エンジン1とモータ(図示せず)を駆動力源とするハイブリッド車両(図示せず)であってもよい。あるいは、発電機(図示せず)を駆動するための動力源としてエンジン1を搭載した、シリーズ方式のハイブリッド車両(図示せず)、もしくは、いわゆるレンジエクステンダーと称されるような電気自動車(図示せず)等であってもよい。
【0017】
また、この発明の実施形態で制御対象にする車両Veは、
図1に示すように、駆動トルクを前輪(駆動輪)3に伝達し、前輪3で駆動力を発生させる前輪駆動車であってもよい。あるいは、車両Veは、駆動トルクを、例えばプロペラシャフト(図示せず)等を介して後輪9に伝達し、後輪9で駆動力を発生させる後輪駆動車(図示せず)であってもよい。あるいは、車両Veは、トランスファ機構(図示せず)を設けて、駆動トルクを前輪3および後輪9の両方に伝達し、それら前輪3および後輪9の両方で駆動力を発生させる四輪駆動車(図示せず)であってもよい。
【0018】
検出部7は、車両Veを制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するための機器あるいは装置であり、例えば、電源部、マイクロコンピュータ、センサー、および、入出力インターフェース等を含んでいる。特に、この発明の実施形態における検出部7は、車両Veの運転状態、および、エンジン1の運転状態を検出するとともに、上述のアクティブマウント4およびアクティブサスペンション5をそれぞれ制御するための各種データを検出する。具体的には、車体6の加速度を検出する車体加速度センサー7aを有している。その他に、検出部7は、例えば、車速を検出する車速センサー7b、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサー7c、エンジン1の冷却水の温度を検出する水温センサー7d、エンジン1のオイルの温度を検出する油温センサー7eなどを有している。エンジン1本体の加速度を検出するエンジン加速度センサー(図示せず)等を有していてもよい。そして、検出部7は、後述するコントローラ8と電気的に接続されており、上記のような各種センサーや機器・装置等の検出値または算出値に応じた電気信号等を検出データとしてコントローラ8に出力する。
【0019】
コントローラ8は、例えば、マイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であり、この発明の実施形態におけるコントローラ8は、車両Veを制御するとともに、特に、アクティブマウント4の剛性、および、アクティブサスペンション5の剛性をそれぞれ制御する。コントローラ8には、上記の検出部7で検出または算出された各種データ等が入力される。コントローラ8は、入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。そして、コントローラ8は、その演算結果を制御指令信号として出力し、上記のように車両Veを制御するように構成されている。なお、
図1では一つのコントローラ8が設けられた例を示しているが、コントローラ8は、制御する装置や機器毎に、あるいは、制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
【0020】
上記のように、動力源としてエンジン1を搭載した車両Veにおいては、エンジン1で発生する振動が、車体6および車両Veの運転者や搭乗者に伝わると、車両Veの乗り心地あるいは快適性に影響する。特に、エンジン1を始動する際には、エンジン1から車体6に伝わる振動やショックが大きくなり、車両Veの乗り心地や快適性が低下してしまう。そのようなエンジン1を始動する際の大きな振動やショックを適切に低減するために、この発明の実施形態における車両Veのコントローラ8は、例えば、次の
図2のフローチャートに示す制御を実行するように構成されている。
【0021】
図2のフローチャートに示す制御は、車両Veの停車時で、かつ、エンジン1がアイドリング運転されている状態で実行される。そのため、先ず、ステップS1では、車速が0であり、かつ、エンジン1がアイドリング運転の状態であるか否かが判断される。この場合、車両Veがほぼ停止している状態を含めて判断してもよく、したがって、車速が0であるか否かを判断する代わりに、車速が(0に近い)所定車速以下であるか否かを判断してもよい。
【0022】
車速が0ではない、または、エンジン1がアイドリング運転の状態ではないことの少なくともいずれかであることにより、このステップS1で“No”と判断された場合は、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0023】
それに対して、車速が0であり、かつ、エンジン1がアイドリング運転の状態であることにより、ステップS1で“Yes”と判断された場合には、ステップS2へ進む。
【0024】
ステップS2では、エンジン1の冷却水の温度(エンジン水温)が所定の温度範囲内の値であるか否かが判断される。この場合の所定の温度範囲は、エンジン1の暖機が完了している状態を判定するための閾値として、予め定められている。エンジン水温が所定の温度範囲内の値である場合に、エンジン1の暖機が完了していて、エンジン1のアイドリング運転が安定する状態であると判断される。
【0025】
エンジン水温が所定の温度範囲外の値であることにより、このステップS2で“No”と判断された場合は、エンジン1のアイドリング運転が安定しない状態であると判断される。そのため、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0026】
それに対して、エンジン水温が所定の温度範囲内の値であることにより、ステップS2で“Yes”と判断された場合には、ステップS3へ進む。
【0027】
ステップS3では、車体6の振動が計測される。具体的には、車体6の加速度(車体加速度)が検出される。それとともに、車体加速度の検出値に対して周波数分析(または、周波数解析)が実施される。例えば、一時的に記録していたエンジン1の始動直前から所定時間の間の車体加速度センサー7aの検出値が取り込まれ、その検出値に対する周波数解析が行われる。
【0028】
続いて、ステップS4では、高周波数域で車体振動が所定値以上であるか否かが判断される。具体的には、上記のステップS3で周波数分析した結果から、高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1以上であるか否かが判断される。
【0029】
図3に示すように、車体6の振動(車体加速度)は、周波数F1から周波数F2の間の相対的に高い高周波数域と、周波数F1以下の、高周波数域よりも低い低周波数域とで、典型的あるいは標準的な振動の態様が異なっている。高周波数域では、相対的に小さい振動加速度レベルで、比較的に安定した振動が発生する。それに対して、低周波数域は、前述したようなエンジン1の始動時に発生する振動やショックを含んでおり、相対的に大きい振動加速度レベルで、一時的あるいは瞬間的に大きな振動が発生する。そのため、この発明の実施形態では、上記のような高周波数域と低周波数域とが区別され、それぞれの周波数域に対応する閾値が設定されて、車体6の振動の状態が判断される。この場合の第1閾値α1は、高周波数域において、振動低減の対策が必要な振動を判断するための閾値として予め定められている。高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1以上である場合に、車両Veの乗り心地や快適性に影響するレベルの振動が発生していて、その振動に対して振動低減の対策が必要であると判定される。
【0030】
したがって、高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1未満であることにより、このステップS4で“No”と判断された場合は、特に、上記のような振動低減の対策は必要ないと判断される。そのため、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0031】
それに対して、高周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第1閾値α1以上であることにより、ステップS4で“Yes”と判断された場合には、ステップS5へ進む。
【0032】
ステップS5では、高周波数域の車体6の振動に対する振動低減対策が実施される。具体的には、アクティブマウント4の剛性を低下させる制御が実行される。例えば、アクティブマウント4のばね定数が小さくなるように制御され、アクティブマウント4の剛性が低下させられる。アクティブマウント4のばね定数を小さくすることに伴い、アクティブマウント4の振動が適切に減衰するように、アクティブマウント4の減衰係数を変更してもよい。アクティブマウント4の剛性が低下することにより、エンジン1の振動がアクティブマウント4で吸収されやすくなり、エンジン1から車体6に伝わる振動が低減する。
【0033】
続いて、ステップS6では、低周波数域で車体振動が所定値以上であるか否かが判断される。具体的には、上記のステップS3で周波数分析した結果から、低周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第2閾値α2以上であるか否かが判断される。
【0034】
図3に示すように、車体6の振動(車体加速度)は、周波数F1から周波数F2の間の相対的に高い高周波数域と、周波数F1以下の、高周波数域よりも低い低周波数域とで、典型的あるいは標準的な振動の態様が異なっている。高周波数域では、相対的に小さい振動加速度レベルで、比較的に安定した振動が発生する。それに対して、低周波数域は、前述したようなエンジン1の始動時に発生する振動やショックを含んでおり、相対的に大きい振動加速度レベルで、一時的あるいは瞬間的に大きな振動が発生する。そのため、この発明の実施形態では、上記のような高周波数域と低周波数域とが区別され、それぞれの周波数域に対応する閾値が設定されて、車体6の振動の状態が判断される。この場合の第2閾値α2は、上述の第1閾値α1よりも大きな値であって、低周波数域において、振動低減の対策が必要な振動を判断するための閾値として予め定められている。低周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第2閾値α2以上である場合に、車両Veの乗り心地や快適性に影響するレベルの振動が発生していて、その振動に対して振動低減の対策が必要であると判定される。
【0035】
したがって、低周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第2閾値α2未満であることにより、このステップS6で“No”と判断された場合は、特に、上記のような振動低減の対策は必要ないと判断される。そのため、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0036】
それに対して、低周波数域における車体加速度の振動加速度レベルが第2閾値α2以上であることにより、ステップS6で“Yes”と判断された場合には、ステップS7へ進む。
【0037】
ステップS7では、低周波数域の車体6の振動に対する振動低減対策が実施される。具体的には、アクティブサスペンション5の剛性を低下させる制御が実行される。例えば、アクティブサスペンション5のばね定数が小さくなるように制御され、アクティブサスペンション5の剛性が低下させられる。アクティブサスペンション5のばね定数を小さくすることに伴い、アクティブサスペンション5の振動が適切に減衰するように、アクティブサスペンション5の減衰係数を変更してもよい。アクティブサスペンション5の剛性が低下することにより、エンジン1の振動がアクティブサスペンション5で吸収されやすくなり、エンジン1から車体6に伝わる振動が低減する。
【0038】
前述したように、エンジン1の始動時には、低周波数域の振動が大きくなり、アクティブマウント4の剛性を変化させるだけでは、十分な振動低減効果を得られない場合があった。それに対して、この発明の実施形態における車両の制御装置では、エンジン1の始動時のように、低周波数域の振動が大きくなる場合は、アクティブサスペンション5の剛性が低下させられ、それにより、エンジン1の振動を車輪3,9側に逃がすことができる。そのため、エンジン1の始動時に振動やショックが大きくなる場合であっても、効果的に、車体6の振動を低減することができる。
【0039】
上記のようにして、ステップS7で、アクティブサスペンション5の剛性を低下させる制御が実行されると、その後、この
図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0040】
以上のように、この発明の実施形態における車両の制御装置では、特性(ばね定数や減衰係数)を変えることが可能なアクティブマウント4およびアクティブサスペンション5を制御することにより、エンジン1で発生する周波数域の異なる振動にそれぞれ対応して、車体6の振動を低減することができる。高周波数域の車体6の振動、すなわち、車体加速度が大きい場合は、アクティブマウント4の剛性を低下させることにより、エンジン1から車体6に伝わる振動を低減することができる。一方、低周波数域の車体6の振動(車体加速度)が大きい場合には、アクティブサスペンション5の剛性を低下させることにより、エンジン1から車体6に伝わる振動を低減することができる。
【0041】
したがって、この発明の実施形態における車両の制御装置によれば、エンジン1から車体6および車室に伝わる振動全般(すなわち、異なる周波数域にわたる振動やショック)を低減するとともに、特に、エンジン1の始動時に発生する振動やショックを、適切に、低減することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン(ENG)
2 トランスアクスル(TA)
3 駆動輪(前輪,車輪)
4 アクティブマウント(エンジンマウント)
5 アクティブサスペンション(サスペンション)
6 車体
7 検出部
7a (検出部の)車体加速度センサー
7b (検出部の)車速センサー
7c (検出部の)エンジン回転数センサー
7d (検出部の)水温センサー
7e (検出部の)油温センサー
8 コントローラ(ECU)
9 後輪(車輪)
Ve 車両