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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179504
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】キャビテーション処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 17/00 20060101AFI20241219BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20241219BHJP
   B08B 3/10 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B23P17/00 A
B08B3/02 D
B08B3/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098400
(22)【出願日】2023-06-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 英明
【テーマコード(参考)】
3B201
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB02
3B201BB22
3B201BB43
3B201BB62
3B201BB87
3B201BB92
(57)【要約】
【課題】対象物の対象穴の側面にキャビテーション処理を行うキャビテーション処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】軸線23と側面22とを有する対象穴20aを含むワーク(対象物)10aと、噴口102aを有するノズル102とを処理液104中に浸漬し、噴射方向が軸線23に対して傾斜し、且つ、軸線23の方向から見たときに、噴射方向が、噴口102aから側面22に下ろした法線32に対して傾斜するように、噴口102aから噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う処理液104の噴流C1を噴射する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射する、
キャビテーション処理方法。
【請求項2】
前記対象穴の断面は、実質的に円形である、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項3】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項1又は2に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項4】
前記ノズルを、前記軸線に沿って移動させる、
請求項1~3のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項5】
前記ノズルを、前記対象穴に挿入する、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項6】
前記軸線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、5度以上90度未満である、
請求項1~5のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項7】
前記軸線の方向から見て、前記法線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、1度以上10度以下である、
請求項1~6のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の表面にキャビテーション処理を行うキャビテーション処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の対象物に対するキャビテーション処理が行われている(特許第6872929号公報)。キャビテーション処理は、対象物にキャビティ(気泡)を含む流体の噴流を衝突させ、キャビティが崩壊する際の衝撃力によって対象物の表面を処理するものである。キャビテーション処理によって、対象物の表面に圧縮残留応力を付加できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キャビテーション処理の対象となる対象物の形状や大きさは様々である。適切なキャビテーション処理を行うためには、対象物の条件に応じた適切な方法で、対象物の表面に噴流を衝突させる必要がある。
本発明は、対象物の対象穴の側面にキャビテーション処理を行うキャビテーション処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
代表的な本発明は、
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射する、
キャビテーション処理方法である。
【0005】
実質的に円形とは、円形に加えて、楕円形や内角が鈍角である正多角形など、円形に近似する形状を含む。また、それらの形状において、若干の凹凸や歪みなどの変形を有する形状であっても良い。対象穴の断面の形状は、例えば、円、楕円、正10角形、正20角形、10辺以上の正多角形を縦横の一方方向に縮小した形状である。対象穴の断面の形状は、軸線の方向に沿って変形しても良い。例えば、対象穴の断面の一部が、軸線の方向に沿って縮小しても良い。好ましくは、対象穴の断面形状は、軸線の方向に沿って連続的に変化する。
【0006】
対象穴の軸線は、例えば、断面の重心を通る。対象穴は付加製造によって製造されても良い。
【0007】
キャビテーション処理の際、対象物とノズルとは、いずれも槽に貯留された処理液中に浸漬される。処理液中において、ノズルから対象物に向けて処理液の噴流が噴射される。処理液は、例えば水である。処理液は、水に研磨材が混合されたものでも良い。槽に貯留された処理液に、研磨材が混濁されても良い。
【0008】
対象物は、金属で構成される。対象物を構成する金属は、例えば、耐熱合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、鉄鋼である。対象物は、例えば、機械部品、医療用機器部品、医療用器具である。機械部品は、例えば、配管、バルブ、配管継手、航空宇宙用部品である。医療用器具は、外科用インプラントを含む。航空宇宙用部品は、航空機エンジン部品その他の航空機部品、ロケットエンジン部品、宇宙船部品、人工衛星部品、ロケット用配管を含む。対象物は付加製造によって製造されても良い。
【0009】
対象物が有する対象穴は、底面を有する穴でも良い。対象穴は、対象物を貫通する底面を有さない穴でも良い。対象穴は、直線状に延びる穴(軸線が直線)でも良い。対象穴は、屈曲して延びる穴(軸線が曲線)でも良い。対象穴が延びる方向は、上下方向でも良い。対象穴が延びる方向は、水平方向でも良い。対象穴が延びる方向は、上下方向又は水平方向に対して傾斜する方向でも良い。対象穴が屈曲して延びる場合に、対象穴の開口部における軸線の方向は、任意の方向であって良い。対象穴は、分岐を有さない穴でも良い。対象穴は、分岐を有する穴でも良い。対象穴の内径は、例えば、24mm以上である。
【0010】
ノズルの噴口径は、例えば、0.5mm~3mmである。噴流の噴射圧力は、例えば、10MPa~200MPaである。
【0011】
軸線に対する噴流の噴射方向の傾斜角度は、例えば、15度~75度である。
【0012】
ノズルは、軸線に沿って移動して良い。例えば、ノズルは、噴流の流れの上流側から下流側に向けて移動しても良い。ノズルは、噴流の流れの下流側から上流側に向けて移動しても良い。軸線と平行な軸には、軸線自体も含む。すなわち、ノズルは、軸線周りに回転しても良い。ノズルは、軸線とは異なる軸であって軸線と平行な軸周りに回転しても良い。ノズルは、キャビテーション処理を行う当初から対象穴に挿入しても良い。ノズルは、キャビテーション処理を行う当初は対象穴の外側に位置しており、その後移動させて対象穴に挿入しても良い。
【0013】
対象穴の側面の全面に対してキャビテーション処理が行われても良い。対象穴の側面の一部の面に対してキャビテーション処理が行われても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキャビテーション処理方法によれば、キャビテーション処理装置は対象物の対象穴の側面にキャビテーション処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態のキャビテーション処理装置
図2】第1実施形態のノズル部分およびワークの軸線断面図(図3のII-II線断面図)
図3図2のIII-III線断面図
図4】第1実施形態におけるキャビテーション処理される領域の説明図
図5】帯状領域の説明図
図6A】第1実施形態におけるキャビテーション処理の例示図
図6B】第1実施形態におけるノズルの回転の説明図
図7A】第1実施形態におけるキャビテーション処理の例示図
図7B】第1実施形態におけるノズルの移動の説明図
図8A】第1実施形態におけるキャビテーション処理の例示図
図8B】第1実施形態におけるノズルの移動の説明図
図9】第2実施形態のワークの軸線断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1実施形態のキャビテーション処理方法に用いるキャビテーション処理装置について説明する。図1に示すように、キャビテーション処理装置100は、槽101と、ノズル102と、載置台103と、供給管105と、高圧流体供給源(不図示)と、を有する。キャビテーション処理装置100は、ワーク(対象物)10aに対してキャビテーション処理を行う。
【0017】
槽101は、処理液104を貯留する。処理液104は、例えば水である。槽101は、貯留した処理液104を循環させる装置を有していても良い。
【0018】
供給管105は、例えば、上下方向に延びる直管である。供給管105の内部を、高圧流体供給源(不図示)から供給される処理液104が通過する。
【0019】
ノズル102は、供給管105の下端部に接続されている。図2に示すように、ノズル102は、噴口102aを有している。ノズル102は、噴口102aから、処理液104の噴流C1を噴射する。噴流C1の噴射方向の詳細は後述する。処理液104は、高圧流体供給源(不図示)から供給管105を通ってノズル102へと供給される。噴流C1は、キャビティを多く含む。ノズル102及び供給管105は、水平方向(前後方向及び左右方向)と上下方向との3軸方向に移動できる。ノズル102及び供給管105は、垂直軸周りに回転できる。ノズル102及び供給管105の回転軸30は、供給管105の中心軸と一致する。噴流C1の噴射速度(圧力)やノズル102及び供給管105の3軸方向の移動及び回転は、制御装置(不図示)により制御される。ノズル102の噴口径(内径)は、例えば、0.5mm~3mmである。
【0020】
図2及び図3に示すように、本実施形態のキャビテーション処理方法において、ワーク10aは、直管である。ここで、図2は、図3のII-II線断面図である。ワーク10aは、1つの対象穴20aを有する。対象穴20aは、軸線23を有する。対象穴20aの軸線23は、ワーク10aの軸線でもある。対象穴20aは、断面円形で、直線状に延びる穴である。すなわち、対象穴20aの軸線23は直線である。対象穴20aの軸線23は、対象穴20aの中心軸と一致する。対象穴20aは、両端が開口している。対象穴20aの一方の開口部21は上方向に開口している。対象穴20aの他方の開口部(不図示)は下方向に開口している。対象穴20aは、円筒形状の側面22を有する。対象穴20aの内径D1は、ノズル102の外径よりも大きい。さらに、対象穴20aの内径D1は、ノズル102の回転直径D2よりも大きい。よって、ノズル102を対象穴20aに挿入して、回転させることができる。対象穴20aは、軸線23の方向に沿って内径が変化しないものであっても良い。対象穴20aは、軸線23の方向に沿って内径が変化するものであっても良い。
【0021】
本実施形態のキャビテーション処理方法においては、ノズル102の回転軸30と対象穴20aの軸線23とを一致させる。ここで、噴流C1の噴射方向に平行であって噴口102aを通る直線を、噴流中心線31とする。噴口102aを通る直線とは、噴口102aの中心を通る直線の意味であり、以下において同じである。図2に示すように、噴流中心線31は、対象穴20aの軸線23(ノズル102の回転軸30)に対して傾斜している。このとき、噴流中心線31と軸線23とがなす角のうち鋭角の角度を、第1傾斜角度αとする。すなわち、噴流C1の噴射方向は、対象穴20aの軸線23に対して、第1傾斜角度αだけ傾斜している。第1傾斜角度αは、例えば、15度~75度である。なお、噴流中心線31と軸線23とは交わらず、両直線はねじれの位置にある。よって、第1傾斜角度αは、任意の点において交わる、両直線の平行線同士がなす角度として定義される。図2においては、噴流中心線31と軸線23の平行線23a(図3を合わせて参照)とが交わっている。平行線23aは、軸線23よりも、紙面に直交する方向の奥側に位置している。また、噴流中心線31は、図2の紙面に対して傾斜している。よって、実際には、第1傾斜角度αは、紙面に対して傾斜した平面上の角度である。
【0022】
また、図3に示すように、軸線23の方向から見たときに、軸線23と噴口102aとを通る直線は、噴口102aから対象穴20aの側面22に下ろした法線32と重なる。法線32は、噴口102aを通り側面22の接線に直交する直線である。噴流中心線31は、法線32に対して傾斜している、このとき、噴流中心線31と法線32とがなす角のうち鋭角の角度を、第2傾斜角度βとする。すなわち、噴流C1の噴射方向は、噴口102aから対象穴20aの側面22に下ろした法線32に対して、第2傾斜角度βだけ傾斜している。第2傾斜角度βは、例えば、1度以上10度以下である。
【0023】
図1に示すように、載置台103は、ワーク10aを載置し固定する。載置台103は、ワーク10aをボルト、クランプなどの締結具で固定するものや、ワーク10aを挟み込んで固定するものである。載置台103は、上下方向に移動できる。載置台103の上下動により、ワーク10aを槽101に対して出し入れできる。載置台103の上下方向の動作は、制御装置(不図示)により制御される。
【0024】
このように構成されたキャビテーション処理装置100は、ワーク10aの任意の箇所に対して、任意の距離から、噴流C1を噴射できる。
【0025】
本実施形態においては、対象穴20aの側面22の全面が、キャビテーション処理を行う領域である。すなわち、対象穴20aの側面22の全面が、キャビテーション処理による効果を付与したい領域である。
【0026】
キャビテーション処理装置100によって行われる、本実施形態のキャビテーション処理方法の工程は、以下のとおりである。
最初に、槽101に処理液104を貯留する。貯留する処理液104の量は、ワーク10aを十分な深さに浸漬できる量である。十分な深さは、例えば、300mm~500mmである。このとき、ノズル102及び載置台103は、処理液104の液面より上側に位置している。
次に、ワーク10aを載置台103に載置固定する。ワーク10aは、対象穴20aの一方の開口部21が上向きとなる姿勢で固定される。
次に、載置台103を下方向に移動させて、槽101に貯留された処理液104にワーク10a(載置台103)を浸漬する。
次に、ノズル102を水平方向に移動させて、対象穴20aの開口部21の上側にノズル102を位置させる。この際、ノズル102の回転軸30と対象穴20aの軸線23とを一致させる。
次に、ノズル102を下方向に移動させて、槽101に貯留された処理液104にノズル102を浸漬する。そして、ノズル102と対象穴20aの開口部21との間の距離を、キャビテーション処理に適した距離とする。開口部21は、キャビテーション処理を行う領域の上端部である。キャビテーション処理に適した距離は、例えば、ノズル102の噴口径の40倍~100倍程度の距離である。よって、ノズル102の噴口径が1mmであれば、ノズル102と開口部21との間の距離は40mm~100mmとすることが望ましい。
次に、高圧流体供給源(不図示)を起動して、ノズル102から噴流C1を噴射する。噴流C1は、対象穴20aの開口部21から、対象穴20aの内部に進入する。
次に、必要に応じて、ノズル102を回転軸30(対象穴20aの軸線23)周りに回転させる。また、必要に応じて、ノズル102を下方へ移動させ、対象穴20aに挿入する。
【0027】
上記の方向に噴射された噴流C1は、図2及び図3に示すように、対象穴20a内部を螺旋状に旋回しながら進行する。噴流C1の軌跡40は、対象穴20aの軸線23を中心とし、対象穴20aの側面22に沿った螺旋状である。噴流C1の軌跡40は、噴流C1の中心が噴流C1の進行に伴って対象穴20aの側面22に描く線である。そして、図4に示すように、対象穴20aの側面22において、噴流C1の軌跡40を中心とする所定の幅の螺旋状の帯状領域B1に対して、キャビテーション処理が行われる。ただし、種々の条件に応じて、帯状領域B1の形状は変化する。種々の条件とは、例えば、噴流C1の噴射方向(第1傾斜角度α、第2傾斜角度β)、対象穴20aの直径、噴流C1の噴射速度(圧力)などである。図4及び図5に示すように、帯状領域B1の形状とは、例えば、軌跡40に沿った長さL1、軌跡40を中心とした幅w、1周したとき対象穴20aの軸線23の方向に進行する距離(軌跡40が描く螺旋のピッチ)pなどである。噴流C1の進行に伴って、その中に含まれるキャビティが崩壊するので、帯状領域B1の長さL1には限界がある。
【0028】
なお、キャビテーション処理において、噴流C1内でのキャビティの成長及び崩壊に伴い、ノズル102からの軌跡40に沿った距離に応じて、キャビテーション処理の強さが変化する。キャビテーション処理の強さとは、例えば、付与される圧縮残留応力の強さや、表面に形成されるディンプルの密度や深さである。そのため、キャビテーション処理を行った際には、ノズル102からの距離が最も適した距離である点において、最も強い処理が行われ、その点から離れるにつれて、処理の程度が弱くなる。軌跡40に直交する方向についても、同様に、軌跡40から離れるにつれて、処理の程度が弱くなる。ここでは、必要とされるだけの強さの処理が行われる領域を帯状領域B1とする。図5に示すように、帯状領域B1の周囲には、処理が行われるがその強さが十分ではない領域である周辺領域S1が生じる。図5以外の図においては、周辺領域S1は表示せず、帯状領域B1のみを表示する。帯状領域B1の内側においても、キャビテーション処理の強さは一様ではなく、ノズル102からの距離に応じた処理むらが生じる。
【0029】
条件によっては、ノズル102から噴流C1を噴射するだけで、対象穴20aの側面22の全面についてキャビテーション処理が行われる。この場合の条件とは、例えば、対象穴20aの上下方向の長さが十分に短いことや、対象穴20aの直径が十分に短いことである。
【0030】
一方、条件によっては、ノズル102から噴流C1を噴射するだけでは、対象穴20aの側面22の全面についてキャビテーション処理が行われない。例えば、図6Aに示すように、帯状領域B1aの長さL1が螺旋の1周に満たず、対象穴20aの側面22のうち、周方向の一部にしかキャビテーション処理が行われない場合がある。この場合の条件とは、例えば、対象穴20aの直径が大きく、帯状領域B1aの長さL1が軌跡40の1周よりも短いことである。この場合、噴流C1を噴射しながら、ノズル102を対象穴20aの軸線23周りに回転させる。ノズル102を回転させることで、図6Bに示すように、新たな帯状領域B1bに対してキャビテーション処理が行われる。新たな帯状領域B1bは、ノズル102の方向(噴流C1の噴射方向)に応じて、ノズル102の回転前の帯状領域B1aとは異なる領域となる。このように、ノズル102を回転させることにより、対象穴20aの側面22の全面(周方向の全周)についてキャビテーション処理が行われる。
【0031】
例えば、図7Aに示すように、ある点における帯状領域B1aと、そこから対象穴20aの側面22を1周した点の帯状領域B1aとが離隔しており、一部にしかキャビテーション処理が行われない場合がある。この場合の条件とは、例えば、軌跡40が描く螺旋のピッチpが帯状領域B1aの幅wよりも長いことである。この場合、噴流C1を噴射しながら、ノズル102を下方へ移動させる。ノズル102を下方へ移動することは、ノズル102を対象穴20aの軸線23に沿って移動させることと、実質的に同じである。ノズル102を下方へ移動させることで、図7Bに示すように、新たな帯状領域B1bに対してキャビテーション処理が行われる。新たな帯状領域B1bは、ノズル102の上下方向の位置に応じて、ノズル102の移動前の帯状領域B1aとは異なる領域となる。このように、ノズル102を移動させることにより、対象穴20aの側面22の全面についてキャビテーション処理が行われる。また、この場合に、ノズル102を回転させることで、対象穴20aの側面22の全面についてキャビテーション処理が行われる場合もある。
【0032】
例えば、図8Aに示すように、帯状領域B1aの長さが足りず、対象穴20aの側面22のうち、上側の一部にしかキャビテーション処理が行われない場合がある。この場合の条件とは、例えば、対象穴20aの上下方向の長さが、帯状領域B1を軌跡40に沿って巻き付けたときの軸線23方向の長さL2よりも長いことである。この場合、噴流C1を噴射しながら、ノズル102を下方へ移動させる。このとき、ノズル102を対象穴20aに挿入しても良い。ノズル102を下方へ移動させることで、図8Bに示すように、新たな帯状領域B1bに対してキャビテーション処理が行われる。新たな帯状領域B1bは、ノズル102の上下方向の位置に応じて、ノズル102の移動前の帯状領域B1aとは異なる領域となる。このように、ノズル102を移動させることにより、対象穴20aの側面22の全面についてキャビテーション処理が行われる。
【0033】
また、上記のような種々の条件が重なった場合には、ノズル102の回転と移動を同時に行っても良い。さらに、上記のような種々の条件によらず、ノズル102を回転又は移動させても良い。
【0034】
このように、ノズル102から噴流C1を噴射し、必要に応じて、ノズル102を回転又は移動させることで、対象穴20aの側面22に対してキャビテーション処理が行われる。ここで、噴流C1を対象穴20aの軸線23に直交する向きに噴射したとすると、対象穴20aの側面22に衝突した噴流C1は、側面22を1周して、最初に衝突した点に戻ってくる。すると、ノズル102から噴射される噴流C1と戻ってきた噴流C1が衝突して、その点におけるキャビテーション処理が妨げられる。しかしながら、本実施形態においては、噴流C1が螺旋状に旋回しながら進行するので、そのように噴流C1同士が衝突しない。よって、噴流C1によるキャビテーション処理が妨げられない。
【0035】
また、ノズル102を回転させることで、帯状領域B1の内側における、周方向の処理むらを低減できる。ノズル102を軸線23に沿って移動させることで、帯状領域B1の内側における、軸線23の方向の処理むらを低減できる。
【0036】
なお、本実施形態のキャビテーション処理方法の各工程の順序は、上記の順序に限られない。例えば、載置台103やノズル102を移動させてから、槽101に処理液104を貯留しても良い。ノズル102は、下方向に移動させてから水平方向に移動させても良い。ノズル102は、水平方向と下方向とに同時に移動させても良い。
【0037】
第2実施形態のキャビテーション処理方法について説明する。本実施形態においても、第1実施形態と実質的に同じキャビテーション処理装置100が用いられる。
【0038】
図9に示すように、本実施形態のキャビテーション処理方法において、ワーク10bは、屈曲する管である。ワーク10bは、1つの対象穴20bを有する。対象穴20bは、軸線23を有する。対象穴20bは、断面円形で、直線状に延びる部分と屈曲して延びる部分を有する穴である。対象穴20bは、上下方向に延びる上流側直線部201と、上流側直線部201の下端から水平方向へ屈曲する屈曲部202と、屈曲部202の先端から水平方向に延びる下流側直線部203と、を有する。そして、対象穴20bの軸線23は、対象穴20b自体と同様に、直線部分と屈曲部分を有する。
対象穴20bは、両端が開口している。対象穴20bの一方の開口部21は、上流側直線部201に形成されており、上方向に開口している。対象穴20bの他方の開口部(不図示)は、下流側直線部203に形成されており、水平方向に開口している。対象穴20bは、円筒形状の側面22を有する。対象穴20bの内径は、ノズル102の外径よりも大きい。さらに、対象穴20bの内径は、ノズル102の回転直径よりも大きい。よって、ノズル102を対象穴20bに挿入して、回転させることができる。対象穴20bは、軸線23に沿って内径が変化しないものであっても良い。対象穴20bは、軸線23に沿って内径が変化するものであっても良い。
【0039】
本実施形態においては、対象穴20bの側面22の全面が、キャビテーション処理を行う領域である。
【0040】
本実施形態のキャビテーション処理方法の工程は、第1実施形態のキャビテーション処理方法の工程と実質的に同じである。ノズル102から噴流C1を噴射し、必要に応じて、ノズル102を回転又は移動させることで、対象穴20bの側面22に対してキャビテーション処理が行われる。噴流C1の軌跡40は、対象穴20bの軸線23を中心とし、対象穴20bの側面22に沿った螺旋状である。対象穴20bの屈曲部202においても、噴流C1は、側面22に沿って螺旋状に旋回しながら進行する。なお、供給管105が屈曲可能なものであって、対象穴20bの屈曲部202において、ノズル102が屈曲する軸線23に沿って移動しても良い。
【0041】
本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10a,10b ワーク(対象物)
20a,20b 対象穴
22 側面
23 軸線
32 法線
102 ノズル
102a 噴口
104 処理液
C1 噴流

図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-12-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射する、
キャビテーション処理方法。
【請求項2】
前記対象穴の断面は、実質的に円形である、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項3】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項4】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項2に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項5】
前記ノズルを、前記軸線に沿って移動させる、
請求項1~のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項6】
前記ノズルを、前記対象穴に挿入する、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項7】
前記軸線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、5度以上90度未満である、
請求項1~のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項8】
前記軸線の方向から見て、前記法線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、1度以上10度以下である、
請求項1~のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線及び前記軸線に直交する線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射する、
キャビテーション処理方法。
【請求項2】
前記対象穴の断面は、実質的に円形である、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項3】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項4】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項2に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項5】
前記ノズルを、前記軸線に沿って移動させる、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項6】
前記ノズルを、前記対象穴に挿入する、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項7】
前記軸線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、5度以上90度未満である、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項8】
前記軸線の方向から見て、前記法線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、1度以上10度以下である、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
代表的な本発明は、
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線及び前記軸線に直交する線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射する、
キャビテーション処理方法である。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線及び前記軸線に直交する線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射し、前記噴流を前記側面に沿って進行させ、前記側面の前記噴流が通過した領域に対してキャビテーション処理を行う
キャビテーション処理方法。
【請求項2】
前記対象穴の断面は、実質的に円形である、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項3】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項1に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項4】
前記ノズルを、前記軸線と平行な軸周りに回転させる、
請求項2に記載のキャビテーション処理方法。
【請求項5】
前記ノズルを、前記軸線に沿って移動させる、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項6】
前記ノズルを、前記対象穴に挿入する、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項7】
前記軸線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、5度以上90度未満である、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【請求項8】
前記軸線の方向から見て、前記法線に対する前記噴射方向の傾斜角度が、1度以上10度以下である、
請求項1~4のいずれかに記載のキャビテーション処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
代表的な本発明は、
軸線と側面とを有する対象穴を含む対象物と、噴口を有するノズルとを処理液中に浸漬し、
噴射方向が前記軸線及び前記軸線に直交する線に対して傾斜し、且つ、前記軸線の方向から見たときに、前記噴射方向が、前記噴口から前記側面に下ろした法線に対して傾斜するように、前記噴口から前記噴射方向に沿ってキャビテーションを伴う前記処理液の噴流を噴射し、前記噴流を前記側面に沿って進行させ、前記側面の前記噴流が通過した領域に対してキャビテーション処理を行う
キャビテーション処理方法である。