(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179520
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】引戸装置
(51)【国際特許分類】
E05F 5/00 20170101AFI20241219BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E05F5/00 D
E06B3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098427
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000239714
【氏名又は名称】文化シヤッター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 茂
【テーマコード(参考)】
2E014
【Fターム(参考)】
2E014AA02
2E014FA05
2E014FB01
2E014FB05
2E014FB11
(57)【要約】
【課題】 使用状態に応じて、扉体を引き残しのある状態と、引き残しのない状態に選択的に位置決め可能とすることで、安全性と利便性を向上させた引戸装置を提供する。
【解決手段】 扉体10と、引込み領域Sと、出没部材22を有する出没機構20と、位置決め機構30と、を備え、扉体10は、引込み領域Sに引き込まれた際に、出没部材22が突出位置に位置する場合には、出没部材22が第1位置決め部材32に当接することにより、扉体10の引き残し部分10aを有する第1引込み位置に位置決めされ、出没部材22が退避位置に位置する場合には、出没部材22が第1位置決め部材32に当接することなく、扉体10の引き残し部分10aのない第2引込み位置に引き込み可能に構成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部に形成された開口部の幅方向に移動可能な扉体と、
前記壁部の前面側に画成される領域であって、前記扉体を引き込み可能な引込み領域と、
前記扉体に設けられるとともに、前記扉体の上端部より外側に突出した突出位置と、前記扉体の上端部より内側に退避した退避位置との間で出没可能な出没部材を有する出没機構と、
前記引き込み領域における前記扉体の引き込み位置を規定する第1位置決め部材を有する位置決め機構と、を備え、
前記扉体は、前記引込み領域に引き込まれた際に、
前記出没部材が前記突出位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することにより、前記扉体の引き残し部分を有する第1引込み位置に位置決めされ、
前記出没部材が前記退避位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することなく、前記扉体の引き残し部分のない第2引込み位置に引き込み可能に構成されている
ことを特徴とする引戸装置。
【請求項2】
前記第1引込み位置に位置する前記扉体に覆われた前記開口部を構成する縦枠の前面は、前記扉体を前記第2引込み位置に引き込むことで露出可能であることを
ことを特徴とする請求項1に記載の引戸装置。
【請求項3】
前記位置決め機構は、第2位置決め部材を有し、
前記扉体は、前記第2引込み位置に引き込まれた際に、前記第2位置決め部材に当接することで前記第2引込み位置に位置決めされる
ことを特徴とする請求項2に記載の引戸装置。
【請求項4】
前記第2位置決め部材は、前記扉体の上端部に設けられた機能部品に当接することで前記扉体を前記第2引込み位置に位置決めするように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の引戸装置。
【請求項5】
前記位置決め機構は、前記第1位置決め部材及び前記第2位置決め部材を支持する基台を備え、前記第1位置決め部材は、前記基台に対して前記幅方向の位置を位置調整可能に設けられ、前記扉体の引き残し部分の幅を調整可能に構成されている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の引戸装置。
【請求項6】
前記出没機構は、前記出没部材を前記突出位置と前記退避位置との間で出没動作させるための操作部を有し、該操作部は、前記扉体の戸尻側の前面に配置されている
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の引戸装置。
【請求項7】
前記出没機構は、前記出没部材を前記突出位置と前記退避位置との間で出没動作させるための操作部を有し、該操作部は、前記扉体の戸尻側の端面に配置されている
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の引戸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部の幅方向に開閉移動自在となっている扉体を備えた引戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開口部にスライド自在に設けられた引戸について、手指詰めがない安全性の高い引戸に関する従来技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、引戸本体に設けられた引手や凹部を引戸の引き残しに設けることで、引戸を扉引き込み部に引き込んで引戸の戸尻が戸当たりゴムに当接して停止した場合に、手指挟みが生じないように構成したものである。
ところで、このような引戸は、引戸を扉引き込み部に引き込んだ場合、開口部には、常に引戸の引き残しが存在するため、引戸と方立等の間の清掃を容易に行うことができず、改善の余地があった。
また、開口部には、常に引戸の引き残しが存在するため、車椅子の使用時や大型の荷物を搬入搬出する際に開口部での出入りが困難になる場合もあり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであって、使用状態に応じて、扉体を引き残しのある状態と、引き残しのない状態に選択的に位置決め可能とすることで、安全性と利便性を向上させた引戸装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題に鑑みて、本発明の一つは、以下の構成を具備するものである。
壁部に形成された開口部の幅方向に移動可能な扉体と、前記壁部の前面側に画成される領域であって、前記扉体を引き込み可能な引込み領域と、前記扉体に設けられるとともに、前記扉体の上端部より外側に突出した突出位置と、前記扉体の上端部より内側に退避した退避位置との間で出没可能な出没部材を有する出没機構と、前記引き込み領域における前記扉体の引き込み位置を規定する第1位置決め部材を有する位置決め機構と、を備え、前記扉体は、前記引込み領域に引き込まれた際に、前記出没部材が前記突出位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することにより、前記扉体の引き残し部分を有する第1引込み位置に位置決めされ、前記出没部材が前記退避位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することなく、前記扉体の引き残し部分のない第2引込み位置に引き込み可能に構成されていることを特徴とする引戸装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上のように構成されているので、引戸装置の使用状態に応じて、扉体を引き残しのある状態と、引き残しのない状態に選択的に位置決め可能とすることで、安全性と利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る引戸装置(全閉状態)の全体を示す概略正面図(部分拡大図を含む)である。
【
図2】
図2(a)は、同引戸装置の全閉状態を示す断面概要図であり、
図2(b)は、同引戸装置の第1全開状態を示す断面概要図であり、
図2(c)は、同引戸装置の第2全開状態を示す断面概要図である。
【
図3】同引戸装置の扉体を、引き残しのある第1引込み位置に位置させた状態(第1全開状態)を示す概略正面図(部分拡大図を含む)である。
【
図4】同引戸装置の扉体を、引き残しのない第2引込み位置に位置させた状態(第2全開状態)を示す概略正面図(部分拡大図を含む)である。
【
図5】
図5(a)は、
図3に示す引戸装置(第1全開状態)を上方から見た断面模式図であり、
図5(b)は、
図4に示す引戸装置(第2全開状態)を上方から見た断面模式図である。
【
図6】引戸装置の他の例を示す概略正面図(部分拡大図を含む)である。
【
図7】
図6に示す引戸装置を上方から見た断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
本発明に係る実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。本発明の一実施形態に係る引戸装置1は、例えば、学校、病院、高齢者施設、住宅等の建物の出入口を開閉する引戸装置として適用される。
【0010】
(引戸装置)
引戸装置1は、
図1~
図5に示すように、建物の躯体の壁部Wに開口する開口部5を開閉する扉体10と、扉体10に設けられる出没機構20と、扉体10の引き込み位置を規定する位置決め機構30と、を含み構成される。
以下、引戸装置1の具体的な構成の例について説明する。
【0011】
<扉体の配設態様>
扉体10は、躯体の壁部Wに開口する開口部5の幅方向に移動可能に設けられ、開口部5を開閉するものである。開口部5は、
図1及び
図2に示すように、例えば、第1縦枠2と、第1縦枠に離間して配置された第2縦枠3と、第1縦枠2と第2縦枠3の各上端に連結された上枠4と、床Gにより画成される。
【0012】
第1縦枠2は、左右方向一方側の壁部W(Wa)の開口の端面に上下方向に延びるように設けられている。また、左右方向他方側の壁部W(Wb)には、その壁面に対して略直角方向に延びる控え壁部W(Wc)が配設されており、この控え壁部W(Wc)の端面に上下方向に延びる第2縦枠3が設けられる。上枠4は、第1縦枠2と第2枠体の上端に連接されて略水平方向に延びるように設けられている。
【0013】
また、第1縦枠2及び第2縦枠3のそれぞれには、
図2に示すように、第1縦枠2及び第2縦枠3と、扉体10との間の気密性を確保するための、例えば、合成樹脂等の弾性部材からなる気密部材2a,3aが配設されている。
【0014】
扉体10は、このような第1縦枠2、第2縦枠3、上枠4及び床Gにより画成される開口部5を開閉するものである。控え壁部W(Wc)の前面側には、扉体10を引き込み可能な空間としての引込み領域Sが画成されており、全閉状態の扉体10(
図2(a)参照)は、この引込み領域Sに引き込まれることで、後述する第1全開状態(
図2(b)参照)、又は第2全開状態(
図2(c)参照)の開状態とすることができる。
【0015】
<扉体の構成>
次に、扉体10の具体的な構成について説明する。扉体10は、正面視略矩形状の扉本体11と、扉本体11の表裏両面の戸先側に設けられた引手12と、扉本体11の上端から上方へ突出して設けられた複数の吊り部材13と、扉本体11の戸尻側に設けられた出没機構20と、を備えている。
【0016】
[引手]
引手12は、扉体10を開閉するために手を掛ける凹所をなす部位である。この引手12は、扉本体11の表側面及び裏側面の戸先側であって、扉体10の後述する引き残しとなる引き残し部分10a(
図2(b)、
図3参照)に設けられる。引手12に手を掛けて左右方向に力を加えることで扉体10を開閉することができる。
なお、本実施形態の例では、引手12を、扉本体11の表側面及び裏側面に対して内側に凹む凹所として形成したが、その例に限定されない。例えば、扉本体11の表側面に設けられる引手12は、表側面より外側に突出する握り部を有する取手として構成してもよい。
【0017】
[吊り部材]
吊り部材13は、
図1及び
図5に示すように、吊りローラ13aと、この吊りローラ13aを回転自在に支持する支持ブラケット13bを有し、扉本体11の戸先側及び戸尻側の上端に所定間隔をあけて複数(図示例では2つ)設けられる。
【0018】
吊りローラ13aは、躯体側に取り付け固定された上側ガイドレール(不図示)に案内されて転動するように構成されている。
支持ブラケット13bは、吊りローラ13aのローラ軸13a1(
図5参照)を支持する板状の支持部13b1と、この支持部13b1の上側部分における左右の端部から略直交状態に設けられた上片部13b2と、上片部13b2の下方に画成される下部空間13c(
図1参照)を有し、平面視略コ字状をなすように形成されている。この支持ブラケット13bは、例えば、金属製の板状部材を折り曲げ加工することや、各構成部を溶接等で接合して形成することができる。
【0019】
支持ブラケット13bの支持部13b1の下端部は、ネジ等の固定手段や溶接により扉本体11の上端に取り付け固定され、この状態で上片部13b2及び下部空間13cは、後述する位置決め機構30に対向するように配置される。
支持ブラケット13bの上片部13b2は、後述する位置決め機構30の当接部33b(
図4参照)、及び、戸当たり部材40の当接部42b(
図1参照)に当接可能に構成されている。また、支持ブラケット13bの下部空間13cは、後述する位置決め機構30の第1位置決め部材32を挿通可能な空間をなす。
【0020】
扉体10は、このように構成された吊り部材13によって、躯体側に設けられた上側ガイドレール(不図示)に可動に吊るされた状態で開口部5の幅方向(左右方向)に移動可能に設けられる。
また、扉体10の上端部に設けられた吊り部材13や、躯体側に設けられた上側ガイドレール(不図示)は、
図1に示すように、躯体側に着脱自在に取り付けられるカバー部材6でカバーされており、ゴミや埃から保護されるように構成されている。
【0021】
なお、扉体10は、上側ガイドレールとともに、床Gに敷設した下側ガイドレール(不図示)で扉体10の下端部を案内するように構成してもよい。
【0022】
[出没機構]
扉体10の戸尻側には、出没機構20が設けられている。この出没機構20は、手動操作可能な操作部材21と、操作部材21の操作により扉体10の開閉方向に対する交差方向(
図1の上下方向)に昇降動(出没動)する出没部材22とを有する。
【0023】
操作部材21は、例えば、手動により回動操作可能なレバーからなり、
図1に示すように、扉本体11の戸尻側の表面側に面して設けられる。また、出没部材22は、例えば、金属材料等の硬質材料からなるロッド部材(棒状部材)として構成されており、扉本体11の戸尻側の内部に配置される。
この出没部材22は、操作部材21の操作により、扉体10の上端部より外側に突出した突出位置(
図3参照)と、扉体10の上端部より内側に退避した退避位置(
図4参照)との間で出没可能に構成されている。
【0024】
具体的には、出没機構20は、レバーからなる操作部材21を下方へ回転させた状態では、ロッド状の出没部材22が上方へ移動して扉本体11から上方へ突出した状態に維持され(
図3参照)、操作部材21を上方へ回転させた状態では、出没部材22が下方へ移動して扉本体11内へ没入した状態に維持(
図4参照)されるように構成されている。このような出没機構20は、例えば、周知のフランス落とし構造等を用いることができる。
【0025】
なお、上記実施形態において、操作部材21は、扉本体11の戸尻側の表面側に面して設けられているが、その配設の例に限定されない。例えば、操作部材21を扉本体11の戸尻側の端面に面して設けるように構成してもよい。
【0026】
(位置決め機構)
次に、扉体10の引き込み位置を規定する位置決め機構30について説明する。
位置決め機構30は、引き込み領域Sの奥側上方に位置する躯体に取付け部材(不図示)を介して取り付け固定される。この位置決め機構30は、
図3に示すように、基台をなす本体部31と、本体部31の左右方向一端側に設けられる第1位置決め部材32と、本体部31の上部に設けられる第2位置決め部材33と、を含み構成されている。この位置決め機構30は、引込み領域Sに引き込まれた扉体10の引き込み位置を規定するように機能する。
【0027】
[本体部]
本体部31は、第1位置決め部材32と第2位置決め部材33とを支持する基台をなし、例えば、金属製の筐体から形成される。この本体部31は、ネジ等の固定手段により取付け部材(不図示)を介して、引き込み領域Sの奥側上部に位置する躯体に取り付け固定される。
【0028】
[第1位置決め部材]
第1位置決め部材32は、例えば、金属製の硬質の部材からなり、略矩形平板状に形成されている。この第1位置決め部材32は、本体部31に対して開口部5側に略水平方向に突出して延びるようにネジ等の固定手段や溶接により不動に取り付け固定される。
【0029】
この第1位置決め部材32は、扉体10を、引き残しのある第1引込み位置に位置決めするように機能する。具体的には、
図3及び
図5(a)に示すように、出没機構20の出没部材22が突出位置に位置する場合、扉体10が引込み領域Sに引き込まれた際に、扉本体11の上端部より外側に突出した出没部材22の先端部分22aが第1位置決め部材32の先端に当接することにより、扉体10は、引き残しのある第1引込み位置に位置決めされる。この状態が、扉体10の第1全開状態をなす。
【0030】
[第2位置決め部材]
第2位置決め部材33は、本体部31に固定される基部33aと、基部33aに着脱自在に取り付けられる当接部33bとを有する。基部33aは、例えば、金属製の筐体からなり、本体部31の上部にネジ等の固定手段や溶接により不動に固定される。当接部33bは、例えば、弾性を有するゴムや合成樹脂から形成されており、基部33aに対して、ネジ等の固定具や、各種係止手段(例えば、突部と凹部とを嵌着する嵌合手段等)により着脱自在に取り付けられる。
【0031】
この第2位置決め部材33は、扉体10を、引き残しのない第2引込み位置に位置決めするように機能する。具体的には、
図4及び
図5(b)に示すように、出没機構20の出没部材22が退避位置に位置する場合、扉体10が引込み領域Sに引き込まれた際に、出没部材22は、第1位置決め部材32に当接することがないため、扉体10は、引き残しのない第2引込み位置に引き込み可能となる。
【0032】
この場合、扉体10に設けられた吊り部材13は、吊り部材13の上片部13b2の下方に画成される下部空間13cより第1位置決め部材32を挿通させた状態で、吊り部材13の上片部13b2が第2位置決め部材33の当接部33bに当接することにより、扉体10は、引き残しのない第2引込み位置に位置決めされる。この状態が、扉体10の第2全開状態をなす。第1引込み位置に位置する扉体10に覆われた開口部5を構成する第2縦枠3の前面は、扉体10を第2引込み位置に引き込むことで露出される。
【0033】
(戸当たり部材)
次に、扉体10の全閉した位置を規定する戸当たり部材40について説明する。
戸当たり部材40は、
図1に示すように、第1縦枠2側の開口部5の上方に位置する躯体に取付け部材(不図示)を介して取り付け固定される。この戸当たり部材40は、基台をなす本体部41と、本体部41の上部に設けられる位置決め部材42と、を含み構成されている。この戸当たり部材40は、扉体10の全閉状態となる位置を規定するように機能する。
【0034】
[本体部]
本体部41は、位置決め部材42を支持する基台をなし、例えば、金属製の筐体から形成される。この本体部41は、ネジ等の固定手段により取付け部材(不図示)を介して、第1縦枠2側の開口部5の上方に位置する躯体に取り付け固定される。
【0035】
[位置決め部材]
位置決め部材42は、本体部41に固定される基部42aと、基部42aに着脱自在に取り付けられる当接部42bとを有する。基部42aは、例えば、金属製の筐体からなり、本体部41の上部にネジ等の固定手段や溶接により不動に固定される。当接部42bは、例えば、弾性を有するゴムや合成樹脂から形成されており、基部42aに対して、ネジ等の固定具や、各種係止手段(例えば、突部と凹部とを嵌着する嵌合手段等)により着脱自在に取り付けられる。
【0036】
この位置決め部材42は、扉体10を全閉位置に位置決めするように機能する。具体的には、
図1に示すように、扉体10を閉じた場合、扉体10に設けられた吊り部材13は、吊り部材13の上片部13b2が位置決め部材42の当接部42bに当接することにより、扉体10は全閉位置に位置決めされる。この状態が、扉体10の全閉状態をなす。
【0037】
なお、本実施形態においては、扉体10を全閉位置に位置決する戸当たり部材40を設けているが、その例に限定されない。例えば、
図2に示す第1縦枠2が、見込み方向にさらに長く形成されることで、第1縦枠2の見込み部分に、扉体10の戸先側の端部が当接するように構成されている場合には、上述した戸当たり部材40を除いて構成してもよい。つまり、扉体10は、戸先側の端部が第1縦枠2の見込み部分に当接することで、全閉位置に位置決めされることになる。
【0038】
次に、引戸装置1の使用の態様について説明する。
(第1態様)
先ずは、引戸装置1を、扉体10の引き残しのある第1態様で使用する場合を説明する。
この第1態様は、安全性を考慮した通常の使用の態様である。第1態様では、出没機構20の出没部材22は、扉体10の上端部より外側に突出した突出位置(
図3参照)にある。この場合、出没機構20は、レバーからなる操作部材21を下方へ回転させた状態となっており、ロッド状の出没部材22が上方へ移動して扉本体11から上方へ突出した状態に維持されている。
【0039】
全閉位置に位置する扉体10(
図1参照)は、扉本体11の戸先側に設けられた引手12に手指を掛けて引込み領域Sに引き込むことで開口部5を開状態とすることができる。この場合、扉体10は、
図3及び
図5(a)に示すように、引込み領域Sに引き込まれた際に、扉体10の上端部より外側に突出した出没部材22の先端部分22aが第1位置決め部材32の先端に当接することにより、引き残しのある第1引込み位置に位置決めされることになる。
【0040】
したがって、引戸装置1を第1態様で使用する場合、例えば、扉体10の裏面に設けられた引手12に手指を掛けて扉体10を引込み領域Sに引き込んだとしても、引手12は、引き残し部分10a(
図2(b)、
図3参照)に設けられているため、第2縦枠3との間で手指が挟まれることを防止できる。
【0041】
(第2の態様)
次に、引戸装置1を、扉体10の引き残しのない第2態様で使用する場合を説明する。
この第2態様は、扉体10と第2縦枠3等の間の部位の清掃や、開口部5での出入りが困難になる場合等の必要時のみの使用の態様である。第2態様では、出没機構20の出没部材22は、扉体10の上端部より内側に退避した退避位置(
図4参照)にある。この場合、出没機構20は、レバーからなる操作部材21を上方へ回転させた状態となっており、ロッド状の出没部材22が下方へ移動して扉本体11内に没入した状態に維持されている。
【0042】
全閉位置に位置する扉体10(
図1参照)は、扉本体11の戸先側に設けられた引手12に手指を掛けて引込み領域Sに引き込むことで開口部5を開状態とすることができる。この場合、扉体10は、
図4及び
図5(b)に示すように、引込み領域Sに引き込まれた際に、出没部材22は、第1位置決め部材32に当接することがないため、扉体10は、引き残しのない第2引込み位置に引き込み可能となる。具体的には、扉体10に設けられた吊り部材13は、吊り部材13の上片部13b2の下方に画成される下部空間13cより第1位置決め部材32を挿通させた状態で、吊り部材13の上片部13b2が第2位置決め部材33の当接部33bに当接することにより、扉体10は、引き残しのない第2引込み位置に位置決めされることになる。第1引込み位置に位置する扉体10に覆われた開口部5を構成する第2縦枠3の前面は、扉体10を第2引込み位置に引き込むことで露出される。
【0043】
したがって、第2態様では、開口部5に扉体10の引き残しがないため、開口部5の有効開口が最大となるため、車椅子の使用時や大型の荷物を搬入搬出する際に容易に出入りすることができる。
また、第2態様では、扉体10が第2引込み位置に引き込まれた際、第1引込み位置に位置する扉体10に覆われた開口部5を構成する第2縦枠3の前面が露出されるため、扉体10と第2縦枠3との間の部位を清掃することや、第2縦枠3に設けられた気密部材3a等の機能部品の取り換え、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0044】
以上のとおり、本発明に係る引戸装置1は、使用状態に応じて、扉体を引き残しのある状態と、引き残しのない状態に選択的に位置決め可能とすることで、安全性と利便性を向上させることができる。
【0045】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る引戸装置の他の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図6は、引戸装置の他の例を示す概略正面図(部分拡大図を含む)であり、
図7は、
図6に示す引戸装置を上方から見た断面模式図である。
なお、第2実施形態の引戸装置1’は、上述した引戸装置1における位置決め機構30の構成の一部を変更したものであるため、主にその変更部分について説明し、引戸装置1と同一となる構成には同一の符号を付けて重複する説明を省略する。
【0046】
第2の実施形態の引戸装置1’の位置決め機構30’は、
図6に示すように、基台をなす本体部31と、本体部31の左右方向一端側に設けられる第1位置決め部材50と、本体部31の上部に設けられる第2位置決め部材33と、を含み構成されており、上述した位置決め機構30の第1位置決め部材32を、第1位置決め部材50に変更して構成したものである。
【0047】
第1位置決め部材50は、上述した第1位置決め部材32と同様に、例えば、金属製の硬質の部材からなり、略矩形平板状に形成されており、本体部31に対して開口部5側に略水平方向に突出して延びるようにネジ等の固定手段や溶接により不動に取り付け固定される。
この第1位置決め部材50には、
図7に示すように、その突出する左右方向(開口部の幅方向)に長い貫通孔としての長孔51が形成されている。この長孔51は、出没機構20の出没部材22の先端部22aが挿通できる大きさに形成されており、扉体10の上端部より外側に突出した出没部材22を、この長孔51に受け入れる(挿通する)ことで、扉体10の移動を制限することができる。
【0048】
長孔51の形成位置及び左右方向の長さは、扉体10の移動が制限された状態で、扉体10の戸先側に設けられた引手12が、常に、開口部5内に位置するように設定される。この長孔51は、左右方向に長く形成されているため、出没部材22を長孔51に挿通させる場合の位置合わせを容易に行うことができる。
【0049】
次に、引戸装置1’の使用の態様について説明する。
この引戸装置1’は、上述した第1態様と第2態様に加え、例えば、室内の換気が必要な場合等に、扉体10を一定時間、開状態に維持する第3態様で使用することができる。以下、第3態様について説明する。
【0050】
(第3態様)
引戸装置1’は、通常、安全性を考慮した第1態様で使用されているので、この第1態様から第3態様に切り替えて使用する場合を説明する。
引戸装置1’の扉体10は、第1態様において、引込み領域Sに引き込まれた際に、扉体10の上端部より外側に突出した出没部材22が第1位置決め部材50に当接することで、引き残しのある第1引込み位置に位置決めされる。この状態から、出没機構20の操作部材21を操作して、出没部材22を扉体10の上端部より内側に退避した退避位置に位置させる。
【0051】
次に、扉体10を、出没部材22が第1位置決め部材50に形成した長孔51に挿通可能な位置まで移動させる。その後、出没機構20の操作部材21を操作して、出没部材22を扉体10の上端部より外側に突出させて第1位置決め部材50の長孔51に挿通させる。この状態で扉体10の移動は制限される。つまり、扉体10は、出没部材22の先端部分22aが長孔51の左右方向の長さの範囲内でしか移動することができないため、引き残し状態でその移動が制限される。
【0052】
また、引戸装置1’は、第2態様から第3態様に切り替えて使用する場合もあるが、その場合には、引き残しのない第2引込み位置に位置決めされている扉体10を、出没部材22が第1位置決め部材50に形成した長孔51に挿通可能な位置まで移動させる。その後、出没機構20の操作部材21を操作して、出没部材22を扉体10の上端部より外側に突出させて第1位置決め部材50の長孔51に挿通させればよい。
【0053】
以上説明したとおり、引戸装置1’を第3態様で使用する場合には、扉体10は、開閉されることなく、一定時間、開状態に維持することができるため、室内の換気等を確実に行うことができる。
【0054】
本発明は、上述した各実施形態の具体的構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
上記実施形態において、第1位置決め部材32,50は、本体部31に対して不動に固定されているが、そのような構成に限定されない。例えば、第1位置決め部材32,50を、本体部31に対して左右方向(開口部の幅方向)に位置調整可能に設けることで、第1引込み位置を調整可能に構成(引き残し部分10aの幅を調整可能に構成)するように構成してもよい。この場合、例えば、第1位置決め部材32,50の本体部31側の端部に、左右方向(第1位置決め部材32,50の長手方向)に複数の貫通孔(不図示)を隣接して形成し、これら貫通孔を選択してネジ等の固定手段により本体部31に取り付け固定するように構成すればよい。
【0056】
また、上記実施形態において、第2位置決め部材33は、位置決め機構30,30’の本体部31に設けられ、扉体10の上端部に設けられた吊り部材13に当接することで扉体10を第2引込み位置に位置決めするように構成しているが、そのような構成に限定されない。例えば、第2位置決め部材を、引き込み領域S奥側の壁部W(Wb)に設け、扉体10の戸尻側の端面をこの第2位置決め部材に当接されることで位置決めするように構成してもよい。
【0057】
<総括>
以上のとおり、上記実施形態では以下の発明を開示している。
(1)
壁部に形成された開口部の幅方向に移動可能な扉体と、前記壁部の前面側に画成される領域であって、前記扉体を引き込み可能な引込み領域と、前記扉体に設けられるとともに、前記扉体の上端部より外側に突出した突出位置と、前記扉体の上端部より内側に退避した退避位置との間で出没可能な出没部材を有する出没機構と、前記引き込み領域における前記扉体の引き込み位置を規定する第1位置決め部材を有する位置決め機構と、を備え、前記扉体は、前記引込み領域に引き込まれた際に、前記出没部材が前記突出位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することにより、前記扉体の引き残し部分を有する第1引込み位置に位置決めされ、前記出没部材が前記退避位置に位置する場合には、前記出没部材が前記第1位置決め部材に当接することなく、前記扉体の引き残し部分のない第2引込み位置に引き込み可能に構成されていることを特徴とする引戸装置。
(2)
前記第1引込み位置に位置する前記扉体に覆われた前記開口部を構成する縦枠の前面は、前記扉体を前記第2引込み位置に引き込むことで露出可能であることを特徴とする上記(1)に記載の引戸装置。
(3)
前記位置決め機構は、第2位置決め部材を有し、前記扉体は、前記第2引込み位置に引き込まれた際に、前記第2位置決め部材に当接することで前記第2引込み位置に位置決めされることを特徴とする上記(2)に記載の引戸装置。
(4)
前記第2位置決め部材は、前記扉体の上端部に設けられた機能部品に当接することで前記扉体を前記第2引込み位置に位置決めするように構成されていることを特徴とする上記(3)に記載の引戸装置。
(5)
前記位置決め機構は、前記第1位置決め部材及び前記第2位置決め部材を支持する基台を備え、前記第1位置決め部材は、前記基台に対して前記幅方向の位置を位置調整可能に設けられ、前記扉体の引き残し部分の幅を調整可能に構成されていることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の引戸装置。
(5)
前記出没機構は、前記出没部材を前記突出位置と前記退避位置との間で出没動作させるための操作部を有し、該操作部は、前記扉体の戸尻側の前面に配置されていることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の引戸装置。
(6)
前記出没機構は、前記出没部材を前記突出位置と前記退避位置との間で出没動作させるための操作部を有し、該操作部は、前記扉体の戸尻側の端面に配置されていることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の引戸装置。
【符号の説明】
【0058】
1:引戸装置
2:第1縦枠
3:第2縦枠(縦枠)
4:上枠
5:開口部
10:扉体
10a:扉体の引き残し部分
13:吊り部材(機能部品)
20:出没機構
21:操作部材
22:出没部材
30,30’:位置決め機構
31:本体部(基台)
32,50:第1位置決め部材
33:第2位置決め部材
W:壁部
S:引込み領域