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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179532
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】内燃機関のバランサ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/26 20060101AFI20241219BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16F15/26 N
F16F15/26 L
F02B77/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098455
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒須 慶太
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 稔
(57)【要約】
【課題】一対のバランスシャフトのそれぞれに設けられた歯車のバックラッシの温度上昇時における増加量を減少させることができる内燃機関のバランサ装置を提供する。
【解決手段】バランサ装置2は、鉄系材料により構成された第1歯車32及び第2歯車36が設けられた第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35と、これらのバランスシャフトを平行且つ回転可能に支持するアルミニウム合金製のハウジング(上部ハウジング21、下部ハウジング22)と、を含む。ハウジングには、これらのバランスシャフトと直交し且つこれらのバランスシャフトを超えて延設された補強部材(ボルト43~44、ナット45)が設けられている。補強部材は、第1歯車32及び第2歯車36と比較して熱膨張率が等しい或いは小さいため、ハウジングの熱膨張に伴う第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の軸間距離の変化を規制する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のバランサ装置であって、
クランクシャフトと連動して回転し且つ第1歯車が設けられた第1バランスシャフトと、
前記第1歯車に噛合する第2歯車が設けられた第2バランスシャフトと、
アルミニウム合金により構成され、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを互いに平行且つ回転可能に支持するハウジングと、を有し、
前記第1歯車及び前記第2歯車は、鉄系材料により構成され、
前記ハウジングには補強部材が設けられ、
前記補強部材は、
前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトに対して直交し、
前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを超えて延設され、
前記鉄系材料と熱膨張率が等しい材料又は前記鉄系材料よりも熱膨張率が小さい材料により構成されて前記ハウジングの熱膨張に伴う前記第1バランスシャフトと前記第2バランスシャフトの軸間距離の変化を規制する、内燃機関のバランサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバランサ装置であって、
前記補強部材は、ボルト及び前記ボルトの脚部に螺合されるナットを含み、
前記ボルトは、前記ナットと協働して前記ハウジングを押圧する頭部を有する、内燃機関のバランサ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関のバランサ装置であって、
前記ハウジングは、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを互いに平行且つ回転可能に支持する軸受部を有し、
前記補強部材は、前記軸受部に沿って延設された、内燃機関のバランサ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関のバランサ装置であって、
前記ハウジングは、前記補強部材が延設された前記軸受部を複数含む、内燃機関のバランサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバランサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトを回転させるためのピストン及びコンロッドの往復運動に伴って発生する振動を打ち消すためにクランクシャフトに連動して回転するバランスシャフトを含むバランサ装置を備える内燃機関が知られている。バランサ装置には、第1歯車を備える第1バランスシャフト、及び第1歯車と噛合する第2歯車を備える第2バランスシャフトを含むものがある。
【0003】
一方、バランサ装置のハウジングは、軽量化の要請からアルミニウム合金により構成される場合がある。アルミニウム合金製のハウジングは従来の鉄系材料(例えば、鋼鉄)で構成されたものと比較して熱膨張率が大きいため、内燃機関の作動に伴う温度上昇によってバランスシャフト間の軸間距離が増大してバックラッシが大きくなり、その結果として歯打ち音が増大するとの課題がある。より具体的に述べると、第1歯車及び第2歯車がアルミニウム合金よりも熱膨張率が小さい鉄系材料によって構成されていると、これらの歯車とハウジングとの熱膨張率における差異に起因して内燃機関の温度上昇時におけるバックラッシが増大する。
【0004】
これに対し、アルミニウム合金と熱膨張率が略等しい材料(例えば、樹脂材料)によって構成された第1歯車及び第2歯車を備えるバランサ装置が提案されている。即ち、ハウジング並びに第1歯車及び第2歯車のそれぞれの熱膨張率を揃えることにより、温度上昇時における熱膨張量が互いに略等しくなり、以て、バックラッシの増加量を低下させることができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-295591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1歯車及び第2歯車が樹脂材料により構成されると、鉄系材料により構成される場合と比較して強度上の懸念が生じる。具体的には、これらの歯車が樹脂材料で構成されたバランサ装置は、バランスシャフトが備えるバランスウェイトの重量が大きくならざるを得ない大型の内燃機関、及びクランクシャフトの回転速度が大きくなる内燃機関等への適用が困難となり得る。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、種々の内燃機関にも適用可能であり、内燃機関の温度上昇に伴うバランスシャフト間の軸間距離の増加に起因するバックラッシの増大を抑止できるバランサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明に係る内燃機関のバランサ装置は、クランクシャフトと連動して回転し且つ第1歯車が設けられた第1バランスシャフトと、前記第1歯車に噛合する第2歯車が設けられた第2バランスシャフトと、アルミニウム合金により構成され、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを互いに平行且つ回転可能に支持するハウジングと、を有している。
【0009】
前記第1歯車及び前記第2歯車は、鉄系材料により構成され、前記ハウジングには補強部材が設けられ、前記補強部材は、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトに対して直交し、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを超えて延設され、前記鉄系材料と熱膨張率が等しい材料又は前記鉄系材料よりも熱膨張率が小さい材料により構成されて前記ハウジングの熱膨張に伴う前記第1バランスシャフトと前記第2バランスシャフトの軸間距離の変化を規制する。
【0010】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関のバランサ装置であって、前記補強部材は、ボルト及び前記ボルトの脚部に螺合されるナットを含み、前記ボルトは、前記ナットと協働して前記ハウジングを押圧する頭部を有する。
【0011】
本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関のバランサ装置であって、前記ハウジングは、前記第1バランスシャフト及び前記第2バランスシャフトを互いに平行且つ回転可能に支持する軸受部を有し、前記補強部材は、前記軸受部に沿って延設されている。
【0012】
本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係る内燃機関のバランサ装置であって、前記ハウジングは、前記補強部材が延設された前記軸受部を複数含む。
【発明の効果】
【0013】
補強部材は、例えば、第1歯車及び第2歯車と同じ材料(一例として、鋼材)によって構成される。従って、第1の発明に係るバランサ装置によれば、第1歯車及び第2歯車の強度を充分に保つことができるので、適用される内燃機関が限定されない。
【0014】
加えて、補強部材はハウジングを構成するアルミニウム合金よりも熱膨張率が小さいので、温度上昇に伴うハウジングの熱膨張量は、補強部材が設けられていない場合と比較して小さくなる。従って、第1の発明によれば、内燃機関の温度上昇時における軸間距離の増加量が補強部材によって小さくなり、そのため、バックラッシの増加量が減少する。即ち、補強部材によって歯打ち音の増加量が減少する。
【0015】
第2の発明では、補強部材は、例えば、ハウジングに形成された貫通孔にボルトが挿通され且つ貫通孔から露出したボルトの先端(即ち、脚部)にナットが螺合されることによって構成される。従って、第2の発明によれば、補強部材を容易に構成することができる。
【0016】
第3の発明では、第1バランスシャフト及び第2バランスシャフトを回転可能に支持する軸受部に沿って補強部材が設けられるので(即ち、軸受部の近傍に補強部材が設けられるので)、補強部材が他の位置に設けられる場合と比較して温度上昇時における軸間距離の増大を効率よく低下させることができる。
【0017】
第4の発明では、複数の軸受部のそれぞれに補強部材が設けられているので、ハウジングが熱膨張した場合であっても第1バランスシャフトと第2バランスシャフトとが平行に保たれる。そのため、第4の発明によれば、温度上昇時に第1バランスシャフトと第2バランスシャフトとが平行ではなくなることに起因して第1歯車及び第2歯車との噛合が不完全となって異音が発生することが抑止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る内燃機関のクランクシャフト及びバランサ装置を含む要部構成図である。
図2図1に示されたバランサ装置のII-II矢視線(折れ線)断面図である。
図3図1に示されたバランサ装置のIII-III矢視線断面図である。
図4図1に示されたバランサ装置のIV-IV矢視線断面図である。
図5図1に示されたバランサ装置のV-V矢視線(折れ線)断面図である。
図6図1に示されたバランサ装置の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図1~6を参照しながら説明する。説明中の同じ符号(参照番号)は、重複する説明をしないが同じ機能を有する同じ要素を意味する。実施形態に係る内燃機関1は、直列4気筒機関である。図1には、内燃機関1のクランクシャフト11及びバランサ装置2が示されている。
【0020】
図1に示されるように、クランクシャフト11は、内燃機関1の各気筒を隔てる壁部及び内燃機関1の両端部に設けられた軸受12(図4~5を参照)のそれぞれに回転自在に支持された複数のクランクジャーナル部11aを有している。加えて、クランクシャフト11は、クランクジャーナル部11aの回転軸(軸心)に対してオフセットされた4つのクランクピン部11bを有している。クランクピン部11bのそれぞれには、内燃機関1の各気筒に配設されたピストンのコンロッド(不図示)が連結されている。更に、クランクシャフト11は、駆動ギア11cを有している。
【0021】
図4~5に示されるように、軸受12は、シリンダブロック13の下面及び軸受ビーム14の上面によって保持されている。軸受ビーム14は、複数のボルト15によってシリンダブロック13に対して固設(締結)されている。具体的には、ボルト15のそれぞれは、軸受ビーム14に形成された貫通孔に挿入され、更に、シリンダブロック13に形成されたネジ穴(雌ネジ)に螺入されている。
【0022】
加えて、シリンダブロック13から下方(クランクシャフト11からバランサ装置2へ向かう方向)へ延設されたスカート部16の内側には、シリンダブロック13から下方へ延びる支持部材17が配設されている。スカート部16の下方にはオイルパン18が設けられている。
【0023】
バランサ装置2は、シリンダブロック13の下方であってスカート部16及びオイルパン18の内側の空間に配設されている(図3を参照)。バランサ装置2は、上部ハウジング21、下部ハウジング22、第1バランスシャフト31、第1歯車32、第1バランスウェイト33、従動ギア34、第2バランスシャフト35、第2歯車36及び第2バランスウェイト37を含んでいる(図6を参照)。
【0024】
上部ハウジング21及び下部ハウジング22は、互いに結合されて第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35等が納められる中空部を構成する(図1、4を参照)。加えて、互いに結合された上部ハウジング21及び下部ハウジング22によって、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35を互いに平行且つ回転可能に支持する第1軸受部23及び第2軸受部24が構成される。上部ハウジング21及び下部ハウジング22のそれぞれは、アルミニウム合金により構成されている。
【0025】
第1歯車32、第1バランスウェイト33及び従動ギア34は、第1バランスシャフト31に設けられている。即ち、第1歯車32、第1バランスウェイト33及び従動ギア34は、第1バランスシャフト31に対して固定され且つ第1バランスシャフト31と共に回転する。第2歯車36及び第2バランスウェイト37は、第2バランスシャフト35に設けられている。
【0026】
第1歯車32及び第2歯車36は、互いに噛合しており且つ歯数比は1:1である。従って、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35は、互いに等しい回転速度にて逆方向に回転する。なお、図2において、駆動ギア11c、従動ギア34、第1歯車32及び第2歯車36のそれぞれは、基準円により示されている。
【0027】
従動ギア34、第1歯車32及び第2歯車36の直径がバランサ装置2の高さ(即ち、上部ハウジング21及び下部ハウジング22の高さの合計)よりも大きいため、上部ハウジング21及び下部ハウジング22のそれぞれには開口部25が形成されている(図2、6を参照)。即ち、2つの開口部25のそれぞれから、従動ギア34、第1歯車32及び第2歯車36の一部が露出している(図1~2、6を参照)。
【0028】
第1バランスシャフト31には、2つの太径部31aが形成されており、太径部31aのそれぞれが第1軸受部23及び第2軸受部24によって支持されている(図1、3、6を参照)。同様に、第2バランスシャフト35には、2つの太径部35aが形成されており、太径部35aのそれぞれが第1軸受部23及び第2軸受部24によって支持されている。上部ハウジング21及び下部ハウジング22には、第1軸受部23及び第2軸受部24に内燃機関1の潤滑油(エンジンオイル)を導入する導油経路が形成されているが、導油経路の図示及び説明は省略される。
【0029】
従動ギア34は、クランクシャフト11の駆動ギア11cと噛合している(図2を参照)。従って、クランクシャフト11から第1バランスシャフト31へトルクが伝達され、更に、第1バランスシャフト31から第2バランスシャフト35へトルクが伝達される。駆動ギア11c及び従動ギア34の歯車比は2:1である。即ち、クランクシャフト11が2回転したとき、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35が1回転している。駆動ギア11c、従動ギア34及び第1歯車32及び第2歯車36のそれぞれは、鋼材により構成されている。加えて、駆動ギア11c、従動ギア34及び第1歯車32及び第2歯車36のそれぞれは、はすば歯車(ヘリカルギア)である。
【0030】
第1バランスウェイト33及び第2バランスウェイト37のそれぞれは、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35に対して、これらのバランスシャフトの回転軸と重心がオフセットするように配設されている。具体的には、第1バランスウェイト33の重心の第1バランスシャフト31に対する回転位置(位相)は、第2バランスウェイト37の重心の第2バランスシャフト35に対する回転位置に対して180°オフセットされている。第1バランスウェイト33及び第2バランスウェイト37の回転位置は、クランクシャフト11の回転に伴って発生する振動が、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の回転に伴って発生する振動によって相殺されるように調整されている。
【0031】
上部ハウジング21及び下部ハウジング22は、複数のボルト41によって互いに結合(締結)されている。具体的には、ボルト41のそれぞれは、下部ハウジング22に形成された貫通孔に挿入され、更に、上部ハウジング21に形成されたネジ穴(雌ネジ)に螺入されている。
【0032】
バランサ装置2は、複数のボルト42によってシリンダブロック13(具体的には、支持部材17)に対して締結される。具体的には、ボルト42のそれぞれは、上部ハウジング21のフランジ21aに形成された貫通孔に挿入され、更に、支持部材17に形成されたネジ穴(雌ネジ)に螺入されている。なお、図1において、ボルト42におけるフランジ21aを超えて延在している箇所(区間)は、図示が省略されている。
【0033】
更に、下部ハウジング22に形成された2つの貫通孔(補強孔)に、ボルト43~44が挿通されている。ボルト43~44のそれぞれは、第1歯車32及び第2歯車36と同じ鋼材によって構成されている。加えて、補強孔の反対側に露出したボルト43~44の先端(即ち、脚部)に、ナット45が螺合されている。
【0034】
補強孔のそれぞれは、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の下方であって、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35と直交する方向に第1軸受部23及び第2軸受部24に沿って形成されている。具体的には、補強孔の一方は、第1バランスシャフト31の太径部31aの一方と、第2バランスシャフト35の太径部35aの一方と、を回転可能に支持する第1軸受部23に沿って形成されている。同様に、補強孔の他方は、第1バランスシャフト31の太径部31aの他方と、第2バランスシャフト35の太径部35aの他方と、を回転可能に支持する第2軸受部24に沿って形成されている。
【0035】
換言すれば、補強孔は、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35を支持する第1軸受部23及び第2軸受部24の近傍に、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35を超えて形成されている。従って、補強孔に挿通されたボルト43~44のそれぞれは、第1軸受部23及び第2軸受部24の下方であって、第1軸受部23及び第2軸受部24の近傍に位置している。
【0036】
より具体的に述べると、ボルト43~44は、図6に示されるように下方から見て第1軸受部23及び第2軸受部24と重なり且つ第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35と直交している。加えて、ボルト43~44は、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35を超えて延設されている。即ち、図6において、ボルト43~44の頭部は第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35よりも下方にある一方、ナット45は第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35よりも上方にある。
【0037】
ここで、下部ハウジング22に対してボルト43~44及びナット45(便宜上、「補強部材」とも称呼される)が設けられている理由について説明する。上述したように、第1歯車32及び第2歯車36が鋼材により構成されている一方、上部ハウジング21及び下部ハウジング22はアルミニウム合金により構成されている。上部ハウジング21及び下部ハウジング22のアルミニウム合金は、第1歯車32及び第2歯車36の鋼材と比較して熱膨張率が大きく且つ弾性係数が小さい。
【0038】
内燃機関1の作動に伴う温度上昇によって上部ハウジング21及び下部ハウジング22が熱膨張すると、第1バランスシャフト31と第2バランスシャフト35との軸間距離D(図2、6を参照)が増加する。これと同時に、第1歯車32及び第2歯車36にも熱膨張が生じるが、熱膨張率の相違に起因して第1歯車32及び第2歯車36の熱膨張量は軸間距離Dの増加量と比較して小さい。そのため、第1歯車32と第2歯車36との距離が増加してバックラッシが増加する。
【0039】
そこで、温度上昇に伴う軸間距離Dの増加量を減少させるため、下部ハウジング22に対して補強部材が設けられている。より具体的に述べると、ボルト43~44は、第1歯車32及び第2歯車36と同じ鋼材によって構成されているので、熱膨張率がアルミニウム合金によって構成された下部ハウジング22と比較して小さい。
【0040】
そのため、下部ハウジング22及び(下部ハウジング22と結合された)上部ハウジング21の横幅W(図2、6を参照)の熱膨張による増加が、補強部材によって規制される。具体的には、温度上昇時にはボルト43~44の頭部及びナット45が協働して下部ハウジング22を押圧し、下部ハウジング22及び上部ハウジング21におけるボルト43~44の延在方向の膨張が抑えられる。
【0041】
換言すれば、補強部材が設けられることにより、温度上昇に伴うバランサ装置2の横幅Wの増加量は、補強部材が設けられていない場合と比較して小さくなる。従って、補強部材が設けられたバランサ装置2によれば、内燃機関1の温度が上昇した場合であっても軸間距離Dの増加量が抑えられ、その結果として第1歯車32及び第2歯車36のバックラッシの増加量が抑えられる。即ち、内燃機関1の温度上昇時であっても、補強部材によって歯打ち音の増加量が減少する。
【0042】
加えて、ボルト43~44のそれぞれは、第1軸受部23及び第2軸受部24に沿って延設されている。具体的には、ボルト43~44は、第1軸受部23及び第2軸受部24のそれぞれの下方にて第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の延設方向に延在している。そのため、内燃機関1の温度上昇によって軸間距離Dが増加した場合であっても第1バランスシャフト31と第2バランスシャフト35とが互いに平行である状態が維持される。
【0043】
仮に、第1バランスシャフト31と第2バランスシャフト35とが互いに平行でなくなると、第1歯車32と第2歯車36との噛合が不完全となり、その結果、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の回転に伴って異音が発生する可能性が高くなる。一方、2本のボルト(即ち、ボルト43~44)が設けられたバランサ装置2によれば、内燃機関1の温度上昇時であっても第1バランスシャフト31と第2バランスシャフト35とが互いに平行に保たれるので、異音の発生が抑止される。
【0044】
更に、第1歯車32及び第2歯車36を構成する材料は、上部ハウジング21及び下部ハウジング22を構成するアルミニウム合金と熱膨張量が一致していなくても良い。具体的には、第1歯車32及び第2歯車36を樹脂材料(即ち、鋼材よりも剛性が小さい材料)によって構成する必要はない。そのため、バランサ装置2は、内燃機関1が発生させるトルクが大きいために第1バランスウェイト33及び第2バランスシャフト35の重量が大きくなる場合であっても適用可能である。加えて、バランサ装置2は、クランクシャフト11の回転速度が非常に高くなる場合であっても適用可能である。即ち、バランサ装置2が適用される内燃機関1の種別は限定されない。
【0045】
以上、本発明の実施形態を上記の構造を参照して説明したが、本発明の目的を逸脱せずに多くの交代、改良、変更が可能である。従って本発明の形態は、添付された請求項の精神と目的を逸脱しない全ての交代、改良、変更を含み得る。本発明の形態は、前記特別な構造に限定されず、例えば下記のような変更が可能である。
【0046】
ボルト43~44は、第1歯車32及び第2歯車36と同じ鋼材によって構成されていた。これに代わり、ボルト43~44は、第1歯車32及び第2歯車36よりも熱膨張率が小さい材料によって構成されても良い。例えば、第1歯車32及び第2歯車36を構成する材料は、温度上昇時における第1歯車32及び第2歯車36の熱膨張量が軸間距離Dの増加量と揃うように適合されても良い。即ち、第1歯車32及び第2歯車36の材料は、温度上昇時における横幅Wの増加を適切に規制することによって第1歯車32及び第2歯車36のバックラッシの増加量を減少させられるように選択され得る。
【0047】
ボルト43~44は、第1軸受部23及び第2軸受部24の下方に設けられていた。これに代わり、ボルト43~44の一方又は両方は、第1軸受部23及び第2軸受部24の上方に設けられても良い。
【0048】
ボルト44は割愛されても良い。即ち、ボルト43~44のうち、第1歯車32及び第2歯車36から離れているボルトは、省略されても良い。この場合であっても、少なくとも第1歯車32及び第2歯車36の近傍において、内燃機関1の温度上昇の伴う第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35の間隔の増加がボルト43によって抑えられる。
【0049】
第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35は、2つの軸受部(即ち、第1軸受部23及び第2軸受部24)によって回転可能に支持されていた。これに代わり、第1バランスシャフト31及び第2バランスシャフト35は、3つ以上の軸受部によって回転可能に支持されても良い。加えて、3つ以上の軸受部のそれぞれに沿って補強部材が設けられても良い。
【0050】
バランサ装置2に係る補強部材は、下部ハウジング22に形成された貫通孔(即ち、補強孔)に挿通されたボルト43~44、及びナット45によって構成されていた。これに代わり、補強部材は、下部ハウジング22に設けられた雌ネジが形成されたネジ穴に螺入されたボルト43~44によって構成されても良い。この場合、ナット45は割愛される。
【0051】
クランクシャフト11から第1バランスシャフト31へのトルク伝達は、駆動ギア11c及び従動ギア34を介して行われていた。これに代わり、クランクシャフト11から第1バランスシャフト31へのトルク伝達は、チェーン及びベルト等の無端可撓部材を用いて行われても良い。
【0052】
第1歯車32及び第2歯車36は、はすば歯車であった。これに代わり、第1歯車32及び第2歯車36は、平歯車であっても良い。
【0053】
第1歯車32、第2歯車36及びボルト43~44のそれぞれを構成する材料は、鋼材とは異なる鉄系材料によって構成されても良い。例えば、第1歯車32、第2歯車36及びボルト43~44は、鋼材よりも炭素含有量が少なく且つ上部ハウジング21及び下部ハウジング22を構成するアルミニウム合金よりも熱膨張率が小さい鉄材によって構成されても良い。或いは、第1歯車32、第2歯車36及びボルト43~44は、炭素以外の元素を含む特殊鋼によって構成されても良い。
【符号の説明】
【0054】
1……内燃機関
11…クランクシャフト、
11a…クランクジャーナル部、11b…クランクピン部、11c…駆動ギア
12…軸受、13…シリンダブロック、14…軸受ビーム、15…ボルト
16…スカート部、17…支持部材、18…オイルパン
2……バランサ装置
21…上部ハウジング、21a…フランジ
22…下部ハウジング
23…第1軸受部
24…第2軸受部
25…開口部
31…第1バランスシャフト
31a…太径部、32…第1歯車、33…第1バランスウェイト、34…従動ギア
35…第2バランスシャフト
35a…太径部、36…第2歯車、37…第2バランスウェイト
41~44…ボルト
45…ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6