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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017954
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】モータ制御方法及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20240201BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20240201BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20240201BHJP
   H02P 6/185 20160101ALI20240201BHJP
【FI】
H02P6/10
H02P21/05
H02P21/18
H02P6/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120943
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 憲一
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505GG04
5H505GG06
5H505GG07
5H505HB01
5H505JJ09
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL39
5H505LL41
5H560AA08
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA12
5H560DB20
5H560DC01
5H560DC12
5H560DC13
5H560EB01
5H560RR01
5H560SS02
5H560TT08
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA06
5H560XA08
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】力行作動と回生作動の遷移に起因するトルク変動の抑制されたセンサレス制御を実現する。
【解決手段】
所定のトルク指令値Tに基づいてモータ200に供給すべき電力を規定する電力指令値Vd1 ,Vq1 ,Vd2 ,Vq2 を設定し、電力指令値に高周波電圧Vdh ,Vqh を重畳し、高周波電圧の入力に対する応答電力値idh,iqhに基づいてモータの磁極位置θ′を推定し、高周波電圧を重畳した電力指令値と推定した磁極位置に基づいてモータに供給する電力を制御するモータ制御方法を提供する。特に、このモータ制御方法では、モータの駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定し、力行作動時には、高周波電圧のd軸成分に対するq軸成分の位相差φdqとして力行時用位相差φdq1を設定し、回生作動時には、位相差φdqとして力行時用位相差φdq1とは異なる回生時用位相差φdq2を設定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のトルク指令値に基づいてモータに供給すべき電力を規定する電力指令値を設定し、前記電力指令値に高周波電圧を重畳し、前記高周波電圧の入力に対する応答電力値に基づいて前記モータの磁極位置を推定し、前記高周波電圧を重畳した前記電力指令値と推定した前記磁極位置に基づいて前記モータに供給する電力を制御するモータ制御方法であって、
前記モータの駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定し、
力行作動時には、前記高周波電圧のd軸成分に対するq軸成分の位相差として力行時用位相差を設定し、
回生作動時には、前記位相差として前記力行時用位相差とは異なる回生時用位相差を設定する、
モータ制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御方法であって、
前記力行時用位相差と前記回生時用位相差の差を180°に設定する、
モータ制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御方法であって、
前記q軸成分の振幅を規定する係数を設定し、
前記係数を前記モータのトルクに応じた可変値とし、
前記力行作動時と前記回生作動時とで前記係数の符号を反転させて、前記力行時用位相差と前記回生時用位相差の差を生成する、
モータ制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御方法であって、
前記モータのトルク絶対値が所定の基準値以下となる遷移領域を設定し、
前記係数を、
前記遷移領域において、前記トルク絶対値の変化に応じて連続的に変化しつつ符号が反転するように定める、
モータ制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ制御方法であって、
前記係数を、
前記遷移領域において、前記トルク絶対値が0に近づくにつれて漸次0に近づくように定める、
モータ制御方法。
【請求項6】
請求項3に記載のモータ制御方法であって、
前記モータのトルク絶対値が所定の基準値以下となる遷移領域を設定し、
前記係数の絶対値を、前記遷移領域において所定の最小係数値以上となるように定め、
前記係数の符号を、前記トルクが0となる遷移点において反転するように定める、
モータ制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ制御方法であって、
前記最小係数値を、前記モータの突極比が大きいほど小さくする、
モータ制御方法。
【請求項8】
所定のトルク指令値に基づいてモータに供給すべき電力を規定する電力指令値を設定し、前記電力指令値に高周波電圧を重畳し、前記高周波電圧の入力に対する応答電力値に基づいて前記モータの磁極位置を推定し、前記高周波電圧を重畳した前記電力指令値と推定した前記磁極位置に基づいて前記モータに供給する電力を制御するモータ制御装置であって、
前記モータの駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定する判定部と、
力行作動時には、前記高周波電圧のd軸成分に対するq軸成分の位相差として力行時用位相差を設定する力行時用位相差設定部と、
回生作動時には、前記位相差として前記力行時用位相差とは異なる回生時用位相差を設定する回生時用位相差設定部と、を有する、
モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御方法及びモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを駆動するために印加する駆動用電力(電力指令値)に、駆動用電力の周波数よりも高い周波数の高周波電圧を重畳させてモータに供給し、その応答である高周波電流を抽出・処理してモータの回転子位相(磁極位置)を推定する制御方法(センサレス制御)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-185080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御方法では、モータの動作状態(力行作動か回生作動)を考慮せずに高周波電圧を設定する。このため、力行作動時と回生作動時のそれぞれにおいて高周波電圧を重畳させた駆動用電力に対するモータの出力トルクの応答がばらつき、トルク変動を生じる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、力行作動時と回生作動時の双方においてトルク変動の発生が抑制されたセンサレス制御を実現するモータ制御方法及びモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、所定のトルク指令値に基づいてモータに供給すべき電力を規定する電力指令値を設定し、電力指令値に高周波電圧を重畳し、高周波電圧の入力に対する応答電力値に基づいてモータの磁極位置を推定し、高周波電圧を重畳した電力指令値と推定した磁極位置に基づいてモータに供給する電力を制御するモータ制御方法が提供される。このモータ制御方法では、モータの駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定し、力行作動時には、高周波電圧のd軸成分に対するq軸成分の位相差を力行時用位相差に設定し、回生作動時には、位相差を力行時用位相差とは異なる回生時用位相差に設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、力行作動時と回生作動時の双方においてトルク変動の発生が抑制されたセンサレス制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の各実施形態によるモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、トルク、楕円係数、及び扁平度の関係の一例を示す図である。
図3図3は、第1トルク-楕円係数テーブルを示す図である。
図4図4は、第2トルク-楕円係数テーブルを示す図である。
図5図5は、突極比-係数最小値テーブルを示す図である。
図6図6は、高周波電圧指令生成部における処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、本実施形態のモータ制御方法による制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、モータ制御装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、モータ制御装置100としては、モータ200の磁極位置(回転子位置)や回転数(以下、「モータ回転数N」と称する)をレゾルバやエンコーダ等のセンサ類で計測する構成に代えて、後述する推定アルゴリズムに基づいて演算し、演算した推定値を用いてインバータ18を操作しモータ200に供給する電力を制御する装置を想定する。すなわち、本実施形態のモータ制御装置100、インバータ18、及びモータ200を要素とするモータ制御システムは、位置センサレスのシステムとして構成することができる。特に、制御対象であるモータ200としては、車載の走行駆動用モータ又は発電用モータを想定する。また、モータ200は、例えば、三相交流IPM(Interior Permanent Magnet)モータであり、q軸インダクタンスLとd軸インダクタンスLが相互に異なる値を示す突極性モータとして構成される。
【0011】
モータ制御装置100は、電流指令生成部11、第1電圧指令生成部12、第2電圧指令生成部13、最終電圧指令生成部14、制御モード信号生成部15、座標変換部16、PWM変換部17、位相/回転数推定部19、高周波電圧指令生成部20、及び座標変換部23を備える。そして、モータ制御装置100は、各部の機能を実現するようにプログラムを備えたコンピュータ(コントローラ)によって構成される。また、当該コンピュータを構成するハードウェアは、一台又は複数台で構成されていても良い。
【0012】
電流指令生成部11は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′に基づいて、d軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i を生成(算出)して出力する。
【0013】
ここで、トルク指令値Tは、上位制御装置により規定されるモータ200の出力トルクの目標値である。特に、モータ200を車両の走行駆動源として用いる際には、要求駆動力(アクセルペダルに対する操作量など)に応じて適切な値に定められる。また、直流電圧Vdcは、モータ200の駆動電力を供給するためのバッテリ21の出力電圧である。直流電圧Vdcは、電圧センサ22によって検出される。なお、直流電圧Vdcを、電圧センサ22による検出値に代えて、バッテリコントローラ(図示しない)等で得られる推定値として取得しても良い。さらに、回転数推定値N′は、モータ200の制御状態に応じて演算されるモータ200の回転数(以下、「モータ回転数N」とも称する)の推定値である。回転数推定値N′は、位相/回転数推定部19により、後述する推定アルゴリズム(高周波電圧印加法)にしたがって演算(推定)される。
【0014】
d軸電流指令値i は、モータ200のd軸電流iについての指令値である。q軸電流指令値i は、モータ200のq軸電流iについての指令値である。なお、以下では、表記の簡略化のため、適宜、d軸電流i及びq軸電流iを包括してdq軸電流i,iと称し、d軸電流指令値i 及びq軸電流指令値i を包括してdq軸電流指令値i ,i と称する。
【0015】
第1電圧指令生成部12は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、回転数推定値N′、dq軸電流指令値i ,i 、及びdq軸電流i,iの検出値に基づいて、第1のd軸電圧指令値Vd1 及び第1のq軸電圧指令値Vq1 (以下、「第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 」とも称する)を生成(算出)して出力する。
【0016】
第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 は、いわゆる電流ベクトル制御によってモータ200を制御するための電圧指令値である。すなわち、第1電圧指令生成部12は、例えば下記の式(1)にしたがって、dq軸電流i,iとdq軸電流指令値i ,i の偏差(i-i ,i-i )に基づくPI制御と、dq軸の非干渉化により、第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 を演算する。
【0017】
【数1】
【0018】
なお、式(1)における「s」は微分演算子である。また、「Kp1」は比例ゲインであり、「Ki1」は積分ゲインである。さらに、「Vd-dcpl 」はd軸干渉電圧であり、「Vq-dcpl 」はq軸干渉電圧である。本実施形態では、第1電圧指令生成部12は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′と、d軸干渉電圧Vd-dcpl 及びq軸干渉電圧Vq-dcpl と、を対応付ける干渉電圧テーブル(図示せず)を有する。このため、第1電圧指令生成部12は、この干渉電圧テーブルを参照することにより、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′に対応するd軸干渉電圧Vd-dcpl 及びq軸干渉電圧Vq-dcpl を演算する。干渉電圧テーブルは、実験またはシミュレーション等によって予め設定される。
【0019】
なお、第1電圧指令生成部12が第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 の演算に用いるdq軸電流i,iは、モータ200に流れる電流の検出値であって、座標変換部23から取得される。座標変換部23は、例えば位相/回転数推定部19が出力する位相推定値θ′を用いた座標変換により、電流センサ24が検出するモータ200の各相の電流i,i,iからdq軸電流i,iを演算する。具体的には、座標変換部23は、下記の式(2)にしたがって、dq軸電流i,iを演算する。
【0020】
【数2】
【0021】
また、本実施形態では、電流センサ24は、モータ200のU相電流iとV相電流iを検出し、座標変換部23は、W相電流iを下記の式(3)にしたがって演算により求める。
【0022】
【数3】
【0023】
なお、以下では、上記式(2)及び式(3)に基づいて演算されるdq軸電流i,iの値をdq軸電流i,iの検出値とみなし、特に検出値であることを明示する場合には「dq軸電流検出値iddet,iqdet」、「d軸電流検出値iddet」、或いは「q軸電流検出値iqdet」と表記する。
【0024】
第2電圧指令生成部13は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、回転数推定値N′、及びdq軸電流i,iに基づいて、第2d軸電圧指令値Vd2 及び第2q軸電圧指令値Vq2 を生成(演算)する。なお、以下では、第2d軸電圧指令値Vd2 及び第2q軸電圧指令値Vq2 を、適宜、「第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 」とも称する。
【0025】
第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 は、いわゆる電圧位相制御によってモータ200を制御するための電圧指令値である。すなわち、第2電圧指令生成部13は、電圧ノルムVに対する指令値である電圧ノルム指令値V と、電圧位相αに対する指令値である電圧位相指令値αと、を演算し、これらを用いて第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 を演算する。
【0026】
具体的には、第2電圧指令生成部13は、例えば下記の式(4)にしたがって、直流電圧Vdcと、変調率についての指令値である変調率指令値MFと、に基づき、電圧ノルム指令値V を演算する。
【0027】
【数4】
【0028】
さらに、第2電圧指令生成部13は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′に基づいて、電圧位相目標値αff を演算する。電圧位相目標値αff は、フィードフォワード制御による電圧位相αの目標値である。本実施形態では、第2電圧指令生成部13は、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′と、電圧位相目標値αff と、を対応付ける電圧位相目標値テーブル(図示しない)を有する。したがって、第2電圧指令生成部13は、この電圧位相目標値テーブルを参照することにより、トルク指令値T、直流電圧Vdc、及び回転数推定値N′に対応する電圧位相目標値αff を演算する。電圧位相目標値テーブルは、実験またはシミュレーション等によって予め設定される。
【0029】
また、第2電圧指令生成部13は、dq軸電流検出値iddet,iqdetと回転数推定値N′に基づいて、モータ200が出力するトルク(以下、単に「トルクT」とも称する)の推定値であるトルク推定値Testを演算する。本実施形態では、第2電圧指令生成部13は、dq軸電流i,i及び回転数推定値N′と、トルク推定値Testと、を対応付けるトルク推定値テーブル(図示しない)を有する。したがって、第2電圧指令生成部13は、このトルク推定値テーブルを参照することにより、dq軸電流検出値iddet,iqdet及び回転数推定値N′に対応するトルク推定値Testを演算する。トルク推定値テーブルは、実験またはシミュレーション等によって予め設定される。
【0030】
さらに、第2電圧指令生成部13は、トルク指令値T及びトルク推定値Testに基づいて、電圧位相補正値αfb を演算する。電圧位相補正値αfb は、電圧位相目標値αff に対する補正値であり、フィードバック制御によって演算される。例えば、第2電圧指令生成部13は、下記の式(5)にしたがって、トルク指令値Tとトルク推定値Testとの偏差(Tfin -Test)に基づくPI制御により、電圧位相補正値αfb を演算する。
【0031】
【数5】
【0032】
式(5)における「Kp2」は比例ゲインであり、「Ki2」は積分ゲインである。
【0033】
そして、第2電圧指令生成部13は、上記のように演算する電圧位相目標値αff に電圧位相補正値αfb を加算することで、電圧位相指令値αを演算する。
【0034】
さらに、第2電圧指令生成部13は、下記の式(6)に示すように、電圧ノルム指令値V と電圧位相指令値αに基づくベクトル変換により、第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 を演算する。
【0035】
【数6】
【0036】
最終電圧指令生成部14は、制御モード信号生成部15から入力される制御モード信号Mswに基づき、第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 及び第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 の一方を選択し、最終的な電圧指令値である最終電圧指令値V ,V として出力する。すなわち、最終電圧指令生成部14は、制御モード信号Mswにしたがって、制御モードを、第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 を用いる電流ベクトル制御モードと、第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 を用いる電圧位相制御モードと、の間で選択的に切り替える。
【0037】
そして、本実施形態では、最終電圧指令生成部14は、制御モード信号Mswに基づいて選択した第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 又は第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 に、高周波電圧指令生成部20から入力される後述の高周波電圧Vdh ,Vqh を重畳させて(加算して)出力する。なお、これは、位相/回転数推定部19により、高周波電圧Vdh ,Vqh を重畳させた最終電圧指令値V ,V に対する応答電力値(応答高周波電流idh,iqh)から回転数推定値N′及び位相推定値θ′を演算するためである。
【0038】
制御モード信号生成部15は、直流電圧Vdc及び最終電圧指令値V ,V に基づいて、制御モード信号Mswを生成する。
【0039】
具体的には、制御モード信号生成部15は、下記の式(7)にしたがって、直流電圧Vdc及び最終電圧指令値V ,V に基づき、変調率MFを演算する。
【0040】
【数7】
【0041】
また、制御モード信号生成部15は、演算した変調率MFを、予め定められた所定の閾値(変調率閾値THMF)と比較する。そして、制御モード信号生成部15は、例えば変調率MFが変調率閾値THMF未満であるときに、第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 (電流ベクトル制御モード)を選択させる制御モード信号Mswを生成して出力する。一方、制御モード信号生成部15は、例えば変調率MFが変調率閾値THMF以上であるときに、第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 (電圧位相制御モード)を選択させる制御モード信号Mswを生成して出力する。
【0042】
なお、電流ベクトル制御モードから電圧位相制御モードへの切り替え判定に用いる変調率閾値THMFと、電圧位相制御モードから電流ベクトル制御モードへの切り替え判定に用いる変調率閾値THMFと、を異なる値に設定しても良い。この場合、電流ベクトル制御モードと電圧位相制御モードの切り替えにヒステリシスを持たせることができるので、各モード間の頻繁な切り替わり(いわゆるチャタリング)が抑制される。
【0043】
座標変換部16は、例えば位相/回転数推定部19が出力する位相推定値θ′を用いた座標変換により、最終電圧指令値V ,V から、三相電圧指令値V ,V ,V を演算する。具体的には、座標変換部16は、下記の式(8)にしたがって、三相電圧指令値V ,V ,V を演算する。
【0044】
【数8】
【0045】
PWM変換部17は、直流電圧Vdc及び三相電圧指令値V ,V ,V に基づいて、インバータ18のパワー素子を駆動するPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。具体的には、PWM変換部17は、三相電圧指令値V ,V ,V に対応するパワー素子駆動信号Duu ,Dul ,Dvu ,Dvl ,Dwu ,Dwl を生成し、これをインバータ18に入力する。なお、PWM変換部17は、PWM信号を生成するときに、いわゆるデッドタイム補償処理や電圧利用率向上処理を行うことができる。
【0046】
インバータ18は、PWM信号にしたがってパワー素子をスイッチングすることにより、バッテリ21の直流電圧Vdcを擬似交流電圧V,V,Vに変換し、モータ200のUVW各相に入力する。これにより、モータ200は、トルク指令値Tに応じたトルクTを出力するように制御される。
【0047】
位相/回転数推定部19は、dq軸電流検出値iddet,iqdet及び最終電圧指令値V ,V に基づいて、回転数推定値N′及び位相推定値θ′を演算して出力する。なお、位相推定値θ′は、モータ200の回転子位置を規定する位相θの推定値である。特に、位相/回転数推定部19は、モータ200のq軸インダクタンスLとd軸インダクタンスLに違いがあることを利用した磁気位置の推定アルゴリズムである高周波電圧印加法(鏡相推定法)によって、回転数推定値N′及び位相推定値θ′を演算する。
【0048】
具体的に、先ず、位相/回転数推定部19は、位相誤差推定値θγ′を演算して出力する。ここで、位相誤差推定値θγ′は、dq軸座標系と予め定めた2軸制御座標系(γδ軸座標系)との間の位相誤差θγの推定値である。
【0049】
まず、前提として、上述のように第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 又は第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 に重畳される高周波電圧Vdh ,Vqh は、γ軸及びδ軸のそれぞれと一致する方向の長軸及び短軸を有する楕円軌道を描く。そして、高周波電圧Vdh ,Vqh に対する応答電力値である応答高周波電流idh,iqhも、γδ軸座標系上で楕円軌道を描く。ここで、応答高周波電流idh,iqhの長軸はd軸に対して所定の位相差(以下、「長軸位相θre」と称する)の分ずれを生じる。一方で、上述したdq軸座標系とγδ軸座標系の間の位相誤差θγ及び長軸位相θγeがともに微小であるときには、これらが相互に一致するものとみなすことができる。このため、長軸位相θγeを求めれば、これを位相誤差θγの推定値(以下、「位相誤差推定値θγ′」とも称する)とすることができる。
【0050】
したがって、位相/回転数推定部19は、dq軸電流検出値iddet,iqdet及び最終電圧指令値V ,V から長軸位相θγeを定める下記の演算ロジックを実行して、位相誤差推定値θγ′を演算する。
【0051】
具体的に、位相/回転数推定部19は、例えばバンドパスフィルタ等によるフィルタリング処理によって、dq軸電流検出値iddet,iqdetから応答高周波電流idh,iqhを抽出する。バンドパスフィルタは、例えば、高周波電圧Vdh ,Vqh の周波数ωに応じて、dq軸電流検出値iddet,iqdetから直流成分を除去又は低減するように構成される。次いで、位相/回転数推定部19は、下記の式(9)及び式(10)にしたがって、応答高周波電流idh,iqhの正相成分(同相成分)である[c,s]と、逆相成分(鏡相成分)である[c,s]と、を演算する。
【0052】
【数9】
【0053】
そして、位相/回転数推定部19は、さらにローパスフィルタ等を用いて、式(9)及び式(10)の正相成分[c,s]及び逆相成分[c,s]から、周波数2ω等の高調波成分を除去又は低減するフィルタリング処理を行う。当該フィルタリング処理後の正相成分[c,s]と逆相成分[c,s]は、γδ軸座標系上において長軸位相θre(位相誤差推定値θγ′)に対して対称(鏡相関係)をとる。このため、位相/回転数推定部19は、次式(11)にしたがって、正相成分[c,s]及び逆相成分[c,s]から位相誤差推定値θγ′を演算する。
【0054】
【数10】
【0055】
また、位相/回転数推定部19は、式(11)で定まる位相誤差推定値θγ′に基づいて、次式(12)のPI制御により、モータ200の電気角速度ωの推定値である電気角速度推定値ω′を演算する。
【0056】
【数11】
【0057】
さらに、位相/回転数推定部19は、次式(13)にしたがって、電気角速度推定値ω′を積分することにより、位相推定値θ′を演算する。
【0058】
【数12】
【0059】
また、位相/回転数推定部19は、電気角速度推定値ω′[rad/sec]を単位変換することで回転数推定値N′[rad]を演算する。
【0060】
高周波電圧指令生成部20は、トルク指令値Tを入力として、上述の高周波電圧Vdh ,Vqh を生成して出力する。
【0061】
より具体的に、高周波電圧指令生成部20は、例えば次式(14)で表される高周波電圧Vdh ,Vqh を生成する。
【0062】
【数13】
【0063】
式(14)における「V」は、高周波電圧Vdh ,Vqh の基本振幅であり、「ω」は周波数である。なお、基本振幅V、及び周波数ωは、適合により予め設定される。
【0064】
また、係数「K」(-1≦K≦1)は、dq軸座標系に対して所定の位相差(後述の位相誤差θγ)を持つ2軸制御座標系(γδ軸座標系)における高周波電圧Vdh ,Vqh の軌跡を定める係数である。特に、K=0である場合には高周波電圧Vdh ,Vqh の軌跡はγ軸に沿う直線となり、-1<K<0,0<K<1である場合の軌跡はγδ軸の原点(dq軸の原点)を中心とする楕円形状となる。さらに、K=-1又は1である場合の軌跡はγδ軸の原点を中心とする真円形状となる。また、式(14)からわかるように、「K」はd軸高周波電圧Vdh に対するq軸高周波電圧Vqh の振幅の比を規定する。なお、以下では、これを「楕円係数K」と称する。
【0065】
ここで、式(14)で示す高周波電圧Vdh ,Vqh において、d軸高周波電圧Vdh に対するq軸高周波電圧Vqh の位相差(以下、「dq軸間位相差φdq」とも称する)は、楕円係数Kの符号により変化する。
【0066】
具体的に、Kが正のときは、dq軸間位相差φdqはcos関数に対するsin関数の位相進み分に相当する90°となる。一方、Kが負のときは、dq軸間位相差φdqはcos関数に対する-sin関数の位相遅れ分に相当する-90°となる。なお、K=0のときは、q軸高周波電圧Vqh は0となる。すなわち、高周波電圧Vdh ,Vqh はd軸成分のみを持つこととなるので、dq軸間位相差φdqは0となる。
【0067】
したがって、楕円係数Kの符号を適宜変化させることで、dq軸間位相差φdqを調節することができる。特に、本実施形態の高周波電圧指令生成部20は、トルク指令値Tを参照して現在のモータ200の駆動状態が力行動作であるのか回生動作であるのかを判定し、当該判定結果に応じて楕円係数Kの符号を変化させる。
【0068】
ここで、本発明者らは、モータ200に高周波電圧Vdh ,Vqh を印加する場合、同一のトルクTに対しても、楕円係数Kの符号の正負(すなわち、dq軸間位相差φdq)が異なると応答高周波電流idh,iqhの描くγδ軸上の楕円軌跡の扁平度f(=[長半径-短半径]/長半径)が異なることを実験的に見出している。
【0069】
図2は、トルクT、楕円係数K、及び扁平度fの関係の一例を示す図である。特に、図2では、楕円係数Kの絶対値が同一であることを前提として、その符号を正としたときのトルクT及び扁平度fの関係を実線グラフで示し、その符号を負としたときのトルクT及び扁平度fの関係を破線グラフで示す。
【0070】
図示のように、楕円係数Kが正のときには、力行領域(T>0)における高トルク域で扁平度fが急激に減少する。一方、楕円係数Kが負のときには、扁平度fは高トルク域においても比較的大きい値に維持されている。ここで、応答高周波電流idh,iqhの描く楕円軌跡の扁平度fが大きいほど、高いトルク域であってもモータ200の磁極位置の推定精度を確保しやすいことが確認されている。言い換え得れば、扁平度fが大きいほど、磁極位置の推定値に基づくモータ駆動(センサレス駆動)を可能とするトルク領域を広くすることができる。したがって、力行動作時には、楕円係数Kの符号を負に設定すると、正に設定する場合に比べてセンサレス駆動可能な最大トルクを大きくすることができる(センサレス駆動可能なトルク領域を広げることができる)。
【0071】
その一方で、回生領域(T<0)における楕円係数Kの符号と扁平度fの大小関係は、力行領域におけるそれとは逆の傾向を示す。このため、回生動作時には、楕円係数Kの符号を正に設定すると、負に設定する場合に比べてセンサレス駆動可能な最大トルクを大きくすることができる(センサレス駆動可能なトルク領域を広げることができる)。
【0072】
さらに、本発明者らは、具体的な楕円係数Kの絶対値によらずに、上述した力行領域及び回生領域における、楕円係数Kの符号と扁平度fの大小関係の傾向が成り立つことを確認している。
【0073】
したがって、本実施形態では、高周波電圧指令生成部20は、モータ200の力行領域(T>0)では負及び回生領域では正にそれぞれ設定した楕円係数Kを用いて式(14)に基づく高周波電圧Vdh ,Vqh を定める。これにより、力行作動時及び回生作動時の双方において、センサレス駆動可能なトルク領域をより広くすることができる。
【0074】
以下、より具体的な処理について説明する。まず、高周波電圧指令生成部20は、トルク指令値Tに対して制御系の応答遅れを考慮して定めたフィルタを施すことで、モータ200が実際に出力するトルクTの理論値(トルク規範値)を算出し、当該トルク規範値から第1トルク-楕円係数テーブルを参照して楕円係数Kを定める。
【0075】
図3は、第1トルク-楕円係数テーブルを示す図である。図示のように、第1トルク-楕円係数テーブルでは、楕円係数Kの符号が力行領域において負に設定され、回生領域において正に設定されている。また、第1トルク-楕円係数テーブルでは、力行領域及び回生領域の双方において、同一のトルクTの絶対値に対しては同一の絶対値をとる楕円係数Kを規定している。このため、上記第1トルク-楕円係数テーブルを参照することで定まる楕円係数Kを用いることで、モータ200の力行作動時及び回生作動時において、同一のトルク絶対値|T|に対して、d軸高周波電圧Vdh 及びq軸高周波電圧Vqh の振幅の比は変わらず、それらの位相差が反転する。言い換えれば、力行作動時におけるdq軸間位相差φdq(以下、「力行時用位相差φdq1」とも称する)と、回生作動時におけるdq軸間位相差φdq(以下、「回生時用位相差φdq2」とも称する)と、の差が180°となる。
【0076】
さらに、第1トルク-楕円係数テーブルでは、力行領域及び回生領域の双方で、トルクTの絶対値が所定の基準値A以下となる領域(以下、「遷移領域」とも称する)において、楕円係数Kをトルク絶対値|T|が小さくくなるにつれて連続的に変化するように規定している。すなわち、楕円係数Kは、力行と回生の間の遷移点(T=0)の付近において、緩やかに正負が切り替わるように定められている。
【0077】
これにより、楕円係数Kの正負を急変させることによる位相推定値θ′の急激な変化及びそれに伴うトルクTの急変を抑制することができる。
【0078】
特に、第1トルク-楕円係数テーブルでは、上記遷移領域において、トルク絶対値|T|値が0に近づく漸次0に近づくように楕円係数Kを規定している。
【0079】
ここで、本発明者らは、トルク絶対値|T|が小さいほど位相誤差推定値θγ′が小さくなること、及び楕円係数Kが大きいほど位相誤差推定値θγ′に対する安定領域(長軸位相θreと位相誤差θγが正の相関を示す位相誤差推定値θγ′の範囲)が広くなることを確認している。これに対して、第1トルク-楕円係数テーブルでは、楕円係数Kの大きさ(絶対値)を、位相誤差推定値θγ′に対する安定領域の一定程度の狭まりが許容される低トルク領域において漸次減少させて、トルクTの急変を防ぎつつ推定精度を確保することができる。より具体的には、位相誤差の出やすい領域(相対的にトルク絶対値|T|が大きい領域)では楕円係数Kの大きさをある程度維持して位相誤差推定値θγ′に対する安定領域の広さを確保しながら、位相誤差が出にくい領域(相対的にトルク絶対値|T|が小さい領域)では楕円係数Kを小さくして遷移点においてその符号が切り替わるようにしたことで、推定精度を確保しつつ楕円係数Kの正負を緩やかに切り替えてトルクTの急変を回避することができる。
【0080】
なお、上述したトルクTの急変及び推定精度の低下を抑制する観点から、第1トルク-楕円係数テーブルとは異なる第2トルク-楕円係数テーブルを用いても良い。
【0081】
図4は、第2トルク-楕円係数テーブルを示す図である。図示のように、第2トルク-楕円係数テーブルでは、楕円係数Kを、その絶対値が遷移領域(-A≦T≦A)において所定の最小係数値Bに到達するまで漸次減少するが、最小係数値Bに到達するとその値を遷移点まで維持するように規定している。そして、遷移点においては、楕円係数Kを、その絶対値が最小係数値Bに維持された状態で符号が反転するように規定している。
【0082】
ここで、最小係数値Bは、位相誤差推定値θγ′に対する安定領域の広さを一定以上とする観点から定められる楕円係数Kの値である。最小係数値Bは予め実験又はシミュレーションにより適切な値に定めることができる。また、本発明者らは、位相誤差推定値θγ′に対する安定領域の広さがモータ200の突極比L/L(d軸インダクタンスLに対するq軸インダクタンスLの比)の大きさに相関することを見出している。このため、第2トルク-楕円係数テーブルを用いる場合には、予め準備した突極比-最小係数値テーブルを参照して、モータ200の突極比L/Lから最小係数値Bを定める。
【0083】
図5は、突極比-最小係数値テーブルを示す図である。図示のように、突極比-最小係数値テーブルでは、最小係数値Bを、突極比L/Lが大きいほど小さい値をとるように規定している。これにより、突極比L/Lが大きいほど位相誤差推定値θγ′に対する安定領域が広がる傾向に合わせて、最小係数値Bを適切に定めることができる。したがって、第2トルク-楕円係数テーブル及び突極比-最小係数値テーブルを用いて、トルクT(トルク規範値)及び突極比L/Lから楕円係数Kを定めることで、位相推定値θ′の急激な変化を抑制しつつ、その推定精度を確保することができる。
【0084】
なお、第2トルク-楕円係数テーブル及び突極比-最小係数値テーブルを用いる場合、高周波電圧指令生成部20は、以下の処理を行う。
【0085】
高周波電圧指令生成部20は、先ず、予め実験又は解析により求められるdq軸インダクタンステーブルを参照して、dq軸電流検出値iddet,iqdetから突極比L/Lを定める。そして、この突極比L/L及び上述のトルク指令値Tに基づき定めたトルク規範値から、第2トルク-楕円係数テーブル及び突極比-最小係数値テーブルを参照して楕円係数Kを演算する。
【0086】
次に、高周波電圧指令生成部20における一連の処理をまとめて説明する。
【0087】
図6は、高周波電圧指令生成部20における処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下の各処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0088】
図示のように、先ずステップS10において、トルク指令値T、及びdq軸電流検出値iddet,iqdetを取得する。
【0089】
ステップS20において、モータ200の突極比L/Lを演算する。具体的に、予め実験又は解析により求められるdq軸インダクタンステーブルを参照して、dq軸電流検出値iddet,iqdetから突極比L/Lを定める。
【0090】
ステップS30において、楕円係数Kを演算する。第1の方法として、第1トルク-楕円係数テーブルを参照して、トルク指令値Tをフィルタ処理して得られたトルク規範値から楕円係数Kを演算する。また、第2の方法として、第2トルク-楕円係数テーブル及び突極比-最小係数値テーブルを参照して、トルク規範値及びステップS20で求めた突極比L/Lから楕円係数Kを演算する。
【0091】
ステップS40において、高周波電圧Vdh ,Vqh を生成する。具体的に、ステップS30で求めた楕円係数Kを式(14)に適用した高周波電圧Vdh ,Vqh を生成する。
【0092】
[制御結果の一例]
図7は、本実施形態のモータ制御方法による制御結果の一例を示すタイミングチャートである。特に、図7(a)は力行作動時に楕円係数Kの符号を正に設定した場合の制御結果(比較例)を示し、図7(b)は力行作動時に楕円係数Kの符号を負に設定した場合の制御結果(実施例)を示す。
【0093】
図7(a)に示す比較例では、時刻t1付近において位相誤差推定値θγ′が発散しており、モータ200の実出力トルクがトルク指令値Tに対して大きくずれている。これに対して、図7(b)に示す実施例では、位相誤差推定値θγ′の発散が見られず、実出力トルクがトルク指令値Tに維持されている。すなわち、力行作動時に楕円係数Kの符号を負に設定することで、力行作動時におけるセンサレス駆動可能なトルク領域が拡大していることがわかる。
【0094】
以上説明した本実施形態のモータ制御方法による作用効果をまとめて説明する。
【0095】
本実施形態によれば、所定のトルク指令値Tに基づいてモータ200に供給すべき電力を規定する電力指令値(第1電圧指令値Vd1 ,Vq1 又は第2電圧指令値Vd2 ,Vq2 )を設定し、電力指令値に高周波電圧Vdh ,Vqh を重畳し、高周波電圧Vdh ,Vqh の入力に対する応答電力値(応答高周波電流idh,iqh)に基づいてモータ200の磁極位置(位相推定値θ′)を推定し、高周波電圧Vdh ,Vqh を重畳した電力指令値(最終電圧指令値V ,V )と推定した磁極位置に基づいてモータ200に供給する電力を制御するモータ制御方法が提供される。
【0096】
このモータ制御方法では、モータ200の駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定し、力行作動時には、高周波電圧Vdh ,Vqh のd軸成分(d軸高周波電圧Vdh )に対するq軸成分(q軸高周波電圧Vqh )の位相差(dq軸間位相差φdq)として力行時用位相差(力行時用位相差φdq1)を設定し、回生作動時には、dq軸間位相差φdqとして力行時用位相差φdq1とは異なる回生時用位相差(回生時用位相差φdq2)を設定する。
【0097】
これにより、モータ200の駆動状態が力行作動である回生作動であるかに応じて電力指令値に重畳させる高周波電圧Vdh ,Vqh を調節しつつ、モータ200の磁極位置を適切に推定することができる。したがって、力行作動時と回生作動時の双方においてトルク変動の発生が抑制されたセンサレス制御を実現することができる。
【0098】
特に、本実施形態では、力行時用位相差φdq1と回生時用位相差φdq2の差を180°に設定する。
【0099】
これにより、力行作動及び回生作動の双方のシーンにおいて、高周波電圧Vdh ,Vqh に対する応答高周波電流idh,iqhの楕円軌跡の扁平度fの大きさを一定以上に確保して、センサレス駆動可能なトルク領域を広げることができる。
【0100】
より詳細には、q軸高周波電圧Vqh の振幅を規定する係数(楕円係数K)を設定し、楕円係数Kをモータ200のトルクTに応じた可変値とし、力行作動時と回生作動時とで楕円係数Kの符号を反転させて、力行時用位相差φdq1と回生時用位相差φdq2の差を生成する。
【0101】
これにより、力行時用位相差φdq1と回生時用位相差φdq2の差を180°とするための具体的な演算ロジックが実現される。
【0102】
さらに、本実施形態では、モータ200のトルク絶対値|T|が所定の基準値A以下となる遷移領域を設定し、楕円係数Kを、遷移領域においてトルク絶対値の変化に応じて連続的に変化しつつ符号が反転するように定める。
【0103】
これにより、センサレス駆動可能なトルク領域を広げつつも、楕円係数Kの正負の急変による位相推定値θ′の急激な変化及びそれに伴うトルクの急変が抑制されるように、高周波電圧Vdh ,Vqh を生成することができる。
【0104】
特に、楕円係数Kを、上記遷移領域において、トルク絶対値|T|が0に近づくにつれて漸次0に近づくように定める(図3参照)。
【0105】
これにより、トルク絶対値|T|が比較的小さいシーン、すなわち位相誤差推定値θγ′が小さいことで当該位相誤差推定値θγ′の安定領域の狭まりがある程度許容される状況に合わせて楕円係数Kを小さくして推定精度を確保しつつ、緩やかな楕円係数Kの切り替えを実現してトルクの急変を抑制することができる。
【0106】
また、本実施形態では、モータ200のトルク絶対値|T|が所定の基準値A以下となる遷移領域を設定し、楕円係数Kの絶対値を、遷移領域において所定の最小係数値B以上となるように定める。そして、楕円係数Kの符号を、トルクTが0となる遷移点において反転するように定める(図4参照)。
【0107】
これにより、楕円係数Kを一定値以上に維持して位相誤差推定値θγ′に対する安定領域を確保しつつ、力行及び回生の間の遷移時における楕円係数Kの符号の切り替えを行うことができる。
【0108】
特に、本実施形態では、最小係数値Bを、モータ200の突極比L/Lが大きいほど小さくする(図5参照)。
【0109】
これにより、位相誤差推定値θγ′に対する安定領域を確保するための最小係数値B(正負を切り替える際の楕円係数Kの大きさ)を、突極比L/Lと当該安定領域との相関関係も考慮した上でより適切に定めることができる。
【0110】
さらに、本実施形態では、上記モータ制御方法の実行に適したモータ制御装置100が提供される。
【0111】
このモータ制御装置100は、モータ200の駆動状態が力行作動であるか回生作動であるかを判定する判定部と、力行作動時には、高周波電圧Vdh ,Vqh のd軸成分(d軸高周波電圧Vdh )に対するq軸成分(q軸高周波電圧Vqh )の位相差(dq軸間位相差φdq)として力行時用位相差(力行時用位相差φdq1)を設定する力行時用位相差設定部と、回生作動時には、dq軸間位相差φdqとして力行時用位相差φdq1とは異なる回生時用位相差(回生時用位相差φdq2)を設定する回生時用位相差設定部と、を有する。
【0112】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0113】
11 電流指令生成部
12 第1電圧指令生成部
13 第2電圧指令生成部
14 最終電圧指令生成部
18 インバータ
19 位相/回転数推定部
20 高周波電圧指令生成部
100 モータ制御装置
200 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7