(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179545
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】2種類の流体を噴射する流体噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 61/18 20060101AFI20241219BHJP
F02M 61/04 20060101ALI20241219BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20241219BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241219BHJP
F02D 19/10 20060101ALI20241219BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F02M61/18 350C
F02M61/04 G
F02M61/10 G
F02M61/10 Q
F02M61/18 350D
F02D19/08 C
F02D19/10
F02M37/00 341C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098476
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】松本 修一
【テーマコード(参考)】
3G066
3G092
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066AB04
3G066AB06
3G066BA11
3G066CA23T
3G066CA25
3G066CC01
3G066CC10
3G066CC12
3G066CC20
3G066CC23
3G066DA08
3G066DC18
3G092AA02
3G092AB03
3G092AB05
3G092AB12
3G092FA15
3G092HB03Z
(57)【要約】
【課題】2種類の流体を噴射する流体噴射装置において、意図せず燃料が噴射孔から流出することを抑制する。
【解決手段】流体噴射装置10は、先端に噴射孔29が設けられた逆円錐面25が形成された略筒状の弁ボディ20と、第1流体の導入流路W12を内部に備え先端部に円錐面35が形成された弁体30と、を備える。弁体は、弁ボディとの間に第2流体の供給流路W22が形成され、逆円錐面と円錐面とが対向するように弁ボディに収容される。円錐面は、下流円錐面35bと、上流円錐面35uと、下流円錐面と上流円錐面との間に設けられた第1流体の導入流路の出口38と、を備える。弁体の円錐面の頂角は弁ボディの逆円錐面の頂角よりも小さく、下流円錐面が逆円錐面に対して離座及び着座することにより第1流体及び第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われ、下流円錐面が逆円錐面に着座している場合に上流円錐面と上流逆円錐面とは離間する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流体と、第2流体との2種類の流体を噴射する流体噴射装置(10)であって、
先端に噴射孔が設けられ、先端部の内周面に逆円錐面(25)が形成された略筒状の弁ボディ(20)と、
前記第1流体の導入流路(W12)を内部に備え、先端部の外周面に円錐面(35)が形成された弁体(30)と、を備え、
前記弁体は、前記弁ボディとの間に前記第2流体の導入流路(W22)が形成され、前記逆円錐面と前記円錐面とが対向するように、前記弁ボディに収容され、
前記円錐面は、
前記噴射孔に近い下流側に設けられた下流円錐面(35b)と、
前記下流円錐面に対して噴射孔から遠い上流側に設けられた上流円錐面(35u)と、
前記下流円錐面と前記上流円錐面との間に設けられた前記第1流体の導入流路の出口(38)と、を備え、
前記弁体の円錐面の頂角は、前記弁ボディの逆円錐面の頂角よりも小さく、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して離座及び着座することにより、前記第1流体及び前記第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われ、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座している場合に、前記上流円錐面と前記逆円錐面とは離間している流体噴射装置。
【請求項2】
前記下流円錐面の稜線方向の長さは、前記上流円錐面の稜線方向の長さよりも短い請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記上流円錐面と前記逆円錐面との間に上流噴射流路(W31)が形成され、
前記下流円錐面と前記逆円錐面との間に下流噴射流路(W33)が形成され、
前記弁体の先端部には、前記弁体の内部から前記第1流体の導入流路の出口まで貫通する1又は複数の貫通導入流路(W13)が設けられており、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座している場合に、前記貫通導入流路の流れ方向に垂直な流路面積の総和である第1流路面積は、前記上流噴射流路の最も前記下流噴射流路側における流れ方向に垂直な流路面積である第2流路面積より大きく、
前記弁体がフルリフト状態である場合に、前記第1流路面積は、前記第2流路面積より小さい請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記弁体のリフト量に応じて前記第2流体の導入流路の流路面積を小さくする絞り(220,230)を備え、
前記絞りは、前記弁体のリフト量が所定のリフト量閾値未満である場合に、前記弁体のリフト量が前記リフト量閾値以上である場合よりも、前記第2流体の流路面積を小さくする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(160)をさらに備え、
前記第1流体の粘性は、前記第2流体の粘性よりも高く、
前記制御装置は、前記第1流体の圧力を前記第2流体の圧力よりも高くする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(130)をさらに備え、
前記第1流体は、着火用燃料であり、
前記第2流体は、主燃料であり、
前記制御装置は、前記第2流体の圧力の検出値に基づいて前記第2流体の圧力を制御し、前記第1流体の圧力と前記第2流体の圧力との差圧の検出値に基づいて前記第1流体の圧力を制御する請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(130)をさらに備え、
前記制御装置は、前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座させた状態で前記第1流体及び前記第2流体の圧力を上昇させる場合に、前記第2流体の圧力が前記第1流体の圧力よりも高くならないように前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
2種類の流体を噴射する流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、2種類の流体を噴射する流体噴射装置が記載されている。この流体噴射装置では、ディーゼルエンジンに対し、主燃料としてCNG(圧縮天然ガス)を噴射し、着火用燃料として軽油を噴射する。CNGは、軽油と比較すると着火性が悪いため、着火用に少量の軽油をディーゼルエンジンの気筒内に噴射する。
【0003】
特許文献1に記載の流体噴射装置は、弁ボディと、弁体と、を備える。弁ボディは、第1弁座及び第2弁座を含む逆円錐面状の弁座面を有する。弁体は、第1弁部及び第2弁部を含む円錐面状の弁部面を有する。第1弁部は、第1弁座に対向するように配置され、第1弁座に対して離座及び着座する。第2弁部は、第2弁座に対向するように配置され、第2弁座に対して離座及び着座する。第1弁部及び第1弁座は、燃料の噴射孔に近い下流側に配置され、第2弁部及び第2弁座は、燃料の噴射孔から遠い上流側に配置されている。第1弁部と第2弁部との間に環状溝が設けられている。軽油の流路は、弁体の内部に形成され、環状溝に開口している。主燃料の流路は、弁体と弁ボディとの間に形成され、第1弁部と第1弁座との間に形成される流路に連通している。第1弁部が第1弁座に対して離座及び着座することにより、第1流体及び第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の流体噴射装置では、円錐面状の弁部面と、逆円錐面状の弁座面とが同じ頂角となるように設計されている。このように設計すると、製造上のばらつきによっては、上流側に位置する第2弁部と第2弁座との距離が、下流側に位置する第1弁部と第1弁座との距離よりも近くなることがある。この場合、第1弁部と第1弁座とが着座しない状態で、上流側に位置する第2弁部と第2弁座とが着座してしまうため、着火用燃料である軽油が意図せず噴射孔から流出するという事態が起こり得る。
【0006】
上記を鑑み、本発明は、2種類の流体を噴射する流体噴射装置において、意図せず燃料が噴射孔から流出することを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る流体噴射装置は、第1流体と、第2流体との2種類の流体を噴射する流体噴射装置であって、先端に噴射孔が設けられ、先端部の内周面に逆円錐面が形成された略筒状の弁ボディと、前記第1流体の導入流路を内部に備え、先端部の外周面に円錐面が形成された弁体と、を備える。前記弁体は、前記弁ボディとの間に前記第2流体の導入流路が形成され、前記逆円錐面と前記円錐面とが対向するように、前記弁ボディに収容される。前記円錐面は、前記噴射孔に近い下流側に設けられた下流円錐面と、前記下流円錐面に対して噴射孔から遠い上流側に設けられた上流円錐面と、前記下流円錐面と前記上流円錐面との間に設けられた前記第1流体の導入流路の出口と、を備える。前記弁体の円錐面の頂角は、前記弁ボディの逆円錐面の頂角よりも小さく、前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して離座及び着座することにより、前記第1流体及び前記第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われ、前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座している場合に、前記上流円錐面と前記逆円錐面とは離間している。
【0008】
上記の流体噴射装置によれば、弁ボディの先端部の内周面には、逆円錐面が形成されている。弁体の先端部の外周面には、円錐面が形成されている。円錐面は、噴射孔に近い下流側に設けられた下流円錐面と、下流円錐面に対して噴射孔から遠い上流側に設けられた上流円錐面と、下流円錐面と上流円錐面との間に設けられた第1流体の導入流路の出口と、を備える。第1流体の導入流路を流れる第1流体は、下流円錐面と上流円錐面との間に設けられた第1流体の導入流路の出口から、下流円錐面が逆円錐面に対して離座している場合に下流円錐面と逆円錐面との間に形成される流路(下流噴射流路と称する)に導入される。第2導入流路を流れる第2流体は、上流円錐面と逆円錐面との間に形成される流路(上流噴射流路と称する)を通じて、下流噴射流路に導入される。一方で、下流噴射流路は、下流円錐面が逆円錐面に対して着座することにより閉じられる。このため、下流円錐面が逆円錐面に対して離座及び着座することにより、第1流体及び第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われる。さらに、流体噴射装置によれば、弁体の円錐面の頂角は、弁ボディの逆円錐面の頂角よりも小さいため、下流円錐面が逆円錐面に対して着座している場合に、上流円錐面と前記逆円錐面とは離間している。弁ボディや弁体における加工上のばらつきに関わらず、下流円錐面と逆円錐面とが着座しない状態で、上流円錐面と逆円錐面とが着座してしまうことを抑制できる。その結果、2種類の流体を噴射する流体噴射装置において、意図せず燃料が噴射孔から流出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る流体噴射装置を含む流体噴射システムの概略を示すブロック図。
【
図3】
図2に示す流体噴射装置の動作例を示す断面図。
【
図4】
図2に示す流体噴射装置の動作例を示す断面図。
【
図5】
図2に示す流体噴射装置における円錐面及び逆円錐面の頂角を示す図。
【
図6】
図1に示す流体噴射システムにおけるリフト量と流路面積との関係を示す図。
【
図7】
図1に示す流体噴射装置におけるリフト量と噴射量との関係を示す図。
【
図8】
図1に示す流体噴射装置の流路断面積について説明する図。
【
図10】
図9に示す流体噴射装置の動作例を示す断面図。
【
図11】下流逆円錐面に対する下流円錐面の着座について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示すように、実施形態に係る流体噴射システム110は、車両のディーゼルエンジンの気筒1内に2種類の流体としてディーゼルエンジンの主燃料及び着火用燃料を噴射するシステムである。より具体的には、主燃料は、エタノールであり、着火用燃料は、軽油である。本実施形態では、軽油が第1流体に相当し、エタノールが第2流体に相当する。
【0011】
流体噴射システム110は、流体噴射装置10と、主燃料タンク111と、主燃料ポンプ112と、主燃料レール113と、着火用燃料タンク114と、着火用燃料ポンプ115と、着火用燃料レール116と、駆動部117と、差圧センサ120と、圧力センサ121と、コントローラ130とを備えている。本実施形態では、コントローラ130が制御装置に相当する。
【0012】
主燃料タンク111には、エタノールが貯留されている。主燃料ポンプ112は、主燃料タンク111に貯留されているエタノールを流体噴射装置10に圧送する。または、主燃料ポンプ112は、主燃料タンク111に貯留されているエタノールを、噴射に必要な圧力に昇圧されたエタノールとして流体噴射装置10に圧送する。着火用燃料タンク114には、軽油が貯留されている。着火用燃料ポンプ115は、着火用燃料タンク114に貯留されている軽油を流体噴射装置10に圧送する。
【0013】
流体噴射装置10は、軸線m1を中心に略円筒状に形成される弁ボディ20と、弁ボディ20の内部に収容される弁体30とを備えている。弁体30は、駆動部117から付与される駆動力に基づいて軸線m1に沿った方向に変位する。駆動部117としては、例えばソレノイド等を用いて弁体30に電磁力を付与することにより弁体30を変位させるアクチュエータを用いることができる。駆動部117によって弁体30が変位することで、弁体30が開閉動作する。流体噴射装置10では、弁体30が開弁状態になることにより、エタノール及び軽油がディーゼルエンジンの気筒1内に噴射される。
【0014】
コントローラ130は、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。コントローラ130は、主燃料及び着火用燃料の圧力を調整する圧力制御と、弁体30の駆動を制御する駆動制御とを実行する。より具体的には、コントローラ130は、圧力センサ121が検出するエタノールの圧力の検出値に基づいて、主燃料ポンプ112を制御することにより、流体噴射装置10に供給されるエタノールの圧力を調整する。なお、圧力センサ121は、主燃料レール113内のエタノールの圧力を検出する。また、コントローラ130は、差圧センサ120が検出する差圧(エタノールの圧力と、軽油の圧力との差圧)に基づいて、着火用燃料ポンプ115を制御することにより、流体噴射装置10に供給される軽油の圧力を調整する。なお、差圧センサ120は、主燃料レール113内のエタノールの圧力と、着火用燃料レール116内の軽油の圧力との差圧を検出する。コントローラ130は、差圧センサ120及び圧力センサ121の検出値を取得し、これら検出値に基づいて、主燃料ポンプ112及び着火用燃料ポンプ115を制御する。主燃料であるエタノールは、ディーゼルエンジンの駆動に影響するため、エタノールの圧力の検出値に基づいて精度よく圧力制御を実行することが好ましい。このため、コントローラ130は、圧力センサ121の検出値に基づいてエタノールの圧力を制御する。一方で、流体噴射装置10では、弁体のリフト量を制御する上でエタノールの圧力と軽油の圧力との差圧を精度よく制御することが好ましい。このため、コントローラ130は、差圧センサ120の検出値に基づいて軽油の圧力を制御する。
【0015】
さらに、コントローラ130は、駆動部117を制御することにより、弁体30の開閉動作を制御する。コントローラ130は、主燃料ポンプ112、着火用燃料ポンプ115、及び駆動部117の制御を通じて、気筒1内に噴射されるエタノール及び軽油の噴射量や噴射時期を制御する燃料噴射制御を実行する。
【0016】
次に、流体噴射装置10の構造について具体的に説明する。
【0017】
図2に示されるように、弁ボディ20は、軸線m1を中心に円筒状に形成されている。なお、以下では、便宜上、
図2に示される軸線m1に平行なZ軸の正方向を上方と称し、Z軸の負方向を下方と称することがある。
【0018】
弁ボディ20の内部には、軸線m1に沿って延びるように第1弁体収容孔21及び第2弁体収容孔22が形成されている。第1弁体収容孔21は、弁ボディ20の先端部から上方に延びるように形成されている。第2弁体収容孔22は、第1弁体収容孔21の上端部に連通されるように形成されている。軸線m1に直交する第1弁体収容孔21及び第2弁体収容孔22のそれぞれの断面形状は円形状に形成されている。第2弁体収容孔22の内径は、第1弁体収容孔21の内径よりも大きい。第1弁体収容孔21及び第2弁体収容孔22には、弁体30が収容されている。第2弁体収容孔22の内周面と弁体30の外周面との間に形成される隙間は第1供給流路W11を構成している。第1供給流路W11には軽油が供給されている。第1弁体収容孔21の内周面と弁体30の外周面との間に形成される隙間は第2導入流路W22を構成している。第2導入流路W22には、弁ボディ20に形成される第2供給流路W21を通じてエタノールが供給されている。
【0019】
第1弁体収容孔21の上端部の内周面と弁体30の外周面との間には、摺動シール部40が設けられている。摺動シール部40は、軸線m1を中心に円環状に形成されている。摺動シール部40は、第1弁体収容孔21の内周面と弁体30の外周面との間に形成される隙間をシールしている。これにより、第1供給流路W11と第2導入流路W22とが互いに独立した流路として構成されている。摺動シール部40は、軸線m1に沿った方向に摺動可能に弁体30を支持している。
【0020】
弁ボディ20の先端には、円筒状の空間からなるサック部27が形成されている。弁ボディ20には、サック部27の内周面から弁ボディ20の先端面に貫通するように複数の噴射孔29が形成されている。この流体噴射装置10では、弁体30が開弁した際に、下流噴射流路W33を通過したエタノール及び軽油がサック部27に一時的に溜められた後、複数の噴射孔29から噴射される。第1弁体収容孔21から弁ボディ20の外部に貫通するように噴射孔29が形成されている。噴射孔29は、エタノール及び軽油を気筒1内に噴射する部分である。第1弁体収容孔21の内周面のうち、弁ボディ20の先端部に位置する部分には、逆円錐面25が形成されている。逆円錐面25は、軸線m1を中心に形成されるとともに、軸線m1に直交する内部空間の断面積が噴射孔29に近づくほど小さくなるように形成されている。
【0021】
弁体30は、軸線m1を中心に略円筒状に形成されている円筒状部と、軸線m1を中心に略円錐状に形成されている先端部とを備えている。弁体30の先端部の外周面には、円錐面35及び先端円錐面39が形成されている。先端円錐面39は、弁体30の先端に形成されており、円錐面35は、先端円錐面39と弁体30の円筒状部との間に形成されている。円錐面35の頂角は先端円錐面39の頂角よりも小さく、円錐面35と先端円錐面39との間には、軸線m1を中心に円環状のエッジ37が形成されている。円錐面35は、弁ボディ20の逆円錐面25に対向するように配置されている。円錐面35には、軸線m1を中心に円環状に形成される環状溝34が設けられている。弁体30の円錐面35は、環状溝34を境界として2つの面35b,35uに区分されている。以下では、噴射孔29に近い下流側の面35bを「下流円錐面35b」と称し、噴射孔29から遠い上流側の面35uを「上流円錐面35u」と称する。
【0022】
弁体30の内部には、軸線m1に沿って延びる弁体内孔31が形成されている。弁体30には、第1供給流路W11に面する外周面から弁体内孔31の内周面に貫通するように弁体上部貫通孔32が形成されている。弁体30の先端部には、弁体内孔31の内周面から環状溝34に延びるように貫通する複数の弁体先端部貫通孔33が形成されている。環状溝34には、第1流体出口38が形成されている。環状溝34は、下流円錐面35bと上流円錐面35uとの間に設けられているため、第1流体出口38も、下流円錐面35bと上流円錐面35uとの間に設けられている。弁体内孔31は第1導入流路W12を構成しており、弁体先端部貫通孔33は、第1貫通導入流路W13を構成している。第1導入流路W12には、第1供給流路W11を通じて軽油が供給されている。第1導入流路W12に供給された軽油は、第1貫通導入流路W13を通過して第1流体出口38から下流噴射流路W33に導入される。第1貫通導入流路W13は、第1導入流路W12から下流噴射流路W33に導入される軽油の流量を調整する絞り部として機能する。このような構成によれば、軽油の噴射量を容易に調整することが可能である。
【0023】
図3、4は、
図2に示す流体噴射装置10の噴射孔29近傍を示す。
図3は、弁体30が開弁状態である場合を示し、
図4は、弁体30が閉弁状態である場合を示す。下流円錐面35bの内径はφ10であり、外径はφ11である。上流円錐面35uの内径はφ12であり、外径はφ13である。なお、φと添え字の参照番号で示す内径および外径は、直径を示している。
【0024】
弁ボディ20の逆円錐面25のうち、弁体30の下流円錐面35bとz方向に対向する面を下流逆円錐面25bと称し、上流円錐面35uとz方向に対向する面を上流逆円錐面25uと称する。下流逆円錐面25bは、噴射孔29に近い下流側の面であり、上流逆円錐面25uは、噴射孔29から遠い上流側の面である。逆円錐面25の内径はφ10よりも小さく、逆円錐面25の外径はφ13よりも大きい。
【0025】
図5(a)(b)に示すように、円錐面35は、頂角θ1の円錐面状に構成されており、逆円錐面25は、頂角θ2の逆円錐面状に構成されている。円錐面35の頂角θ1は、逆円錐面25の頂角θ2よりも小さい。このため、
図4に示されるように、弁体30が閉弁状態であるとき、下流円錐面35bは下流逆円錐面25bに着座するが、上流円錐面35uは上流逆円錐面25uに着座せず、上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとは離間する。弁体30が閉弁状態であるとき、弁体30の下流円錐面35bと弁ボディ20の下流逆円錐面25bとの間に形成される隙間が閉塞されているため、軽油及びエタノールは噴射孔29から噴射されない。
【0026】
図4に示される状態から駆動部117が弁体30をリフト動作させると、
図2に示されるように、下流円錐面35bが下流逆円錐面25bから離座する。すなわち、弁体30の変位に伴って下流円錐面35b及び上流円錐面35uが一体的に変位することにより、弁体30が開弁する。これにより、弁体30の下流円錐面35bと弁ボディ20の下流逆円錐面25bとの間に下流噴射流路W33が形成されるとともに、サック部27と先端円錐面39との間にサック部流路W34が形成される。また、弁体30の上流円錐面35uと弁ボディ20の上流逆円錐面25uとの間に形成された上流噴射流路W31の流路面積が拡大する。従って、第1導入流路W12に供給されている軽油は、第1貫通導入流路W13を通じて環状溝34から下流噴射流路W33に導入され、さらに下流噴射流路W33及びサック部流路W34を通じてサック部27に流入し、噴射孔29から噴射される。また、第2導入流路W22に供給されているエタノールは、上流噴射流路W31を通じて下流噴射流路W33に導入され、さらに下流噴射流路W33及びサック部流路W34を通じてサック部27に流入し、噴射孔29から噴射される。よって、軽油及びエタノールが気筒1内に噴射される。なお、複数の弁体先端部貫通孔33によって構成される第1貫通導入流路W13を流れた軽油が環状溝34に流入することにより、弁体30の円錐面35の周方向において軽油の流量分布にばらつきを軽減することができる。このため、流体噴射装置10から噴射される軽油の噴射状態にむらが生じることを抑制できる。
【0027】
このように、本実施形態の流体噴射装置10では、弁体30の下流円錐面35bが弁ボディ20の下流逆円錐面25bに対して離座及び着座することにより、軽油及びエタノールの両方の噴射及び噴射の停止が行われる。
【0028】
弁体30及び弁ボディ20の加工上のばらつきにより、弁体30の円錐面35の頂角θ1及び弁ボディ20の逆円錐面25の頂角θ2には、実際には、ある程度のばらつきが生じる可能性がある。流体噴射装置10によれば、
図4,5に示すように、円錐面35の頂角θ1は、逆円錐面25の頂角θ2よりも小さくなるように設計されており、弁体30が閉弁状態であるときに、上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとは離間するため、下流逆円錐面25bが下流円錐面35bに着座することを妨げることが無い。このため、加工上のばらつきに関わらず、弁体30が閉弁状態であるときに、下流逆円錐面25bを下流円錐面35bに確実に着座させることができ、下流円錐面35bと下流逆円錐面25bとの間に形成される隙間を確実に閉塞できる。その結果、弁体30が閉弁状態であるときに、意図せず軽油及びエタノールが噴射孔29から噴射されることを確実に防止することができる。
【0029】
また、
図4に示すように、弁体30が閉弁状態であるときに、下流逆円錐面25bは、エッジ37において下流円錐面35bに着座する。
図4に示す流体噴射装置10によれば、駆動部117等から弁体30に付与される軸方向の駆動力により弁ボディ20の逆円錐面25に弁体30の円錐面35を接触させた際に、楔効果により、弁体30に付与される軸方向の力よりも大きい力を下流逆円錐面25bと下流円錐面35bとの接触部分であるエッジ37に付与することが可能である。
【0030】
図11に示される流体噴射装置では、
図11(a)(b)に示すように、弁ボディ320における逆円錐面325の頂角と、弁体330における円錐面335の頂角とが同じ頂角θ3に設計されている。弁体330の上流円錐面335uは、下流円錐面335bに対して弁体330の肉厚方向に低くなっており、
図11(a)の破線に示す下流円錐面335bの延長面に対して平行に離間している。このため、
図11(c)に示すように、弁体330が閉弁状態であるとき、上流円錐面335uと上流逆円錐面325uとが離間した状態で、下流円錐面335bは、その全体が下流逆円錐面325bに接するように着座する。
【0031】
図11に示すように、下流円錐面335b全体が下流逆円錐面325bに接するように着座するように設計されている場合でも、上流円錐面335uと上流逆円錐面325uとが離間した状態で、下流円錐面335bが下流逆円錐面325bに接するように着座させることは可能である。
図11に示す流体噴射装置によっても、下流円錐面335bが下流逆円錐面325bに接するように着座した際に、楔効果により、弁体330に付与される軸方向の力よりも大きい力を下流逆円錐面325bと下流円錐面335bとの接触部分に付与することが可能である。
【0032】
しかしながら、
図11に示すように下流逆円錐面325bと下流円錐面335bとの接触部分が面である場合には、下流逆円錐面325b及び下流円錐面335bの面粗さによっては、高いシール性を得ることが困難となる。これに対して、
図4に示すように下流逆円錐面25bと下流円錐面35bとの接触部分がエッジ37である場合には、接触部分が面である場合よりも、接触面積が小さいため、接触面圧が高くなる。このため、下流逆円錐面25b及び下流円錐面35bに粗さがあっても比較的容易に高いシール性を得ることができる。
図4に示す流体噴射装置10によれば、下流逆円錐面及び下流円錐面が粗い場合に、
図11に示す流体噴射装置と比較して、より確実に、下流円錐面35bと下流逆円錐面25bとの間に形成される隙間を閉塞させ、弁体30を閉弁状態にすることが可能である。
【0033】
但し、円錐面35の頂角θ1と、逆円錐面25の頂角θ2の差が大きいと、弁体30の着座時に上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとの離間する距離が広くなり、弁体30の着座中に主燃料であるエタノールと着火用燃料である軽油とが混じる可能性が高くなる。これを避けるための手法としては、下記(手法1)~(手法3)が挙げられる。
【0034】
(手法1)主燃料の圧力と着火用燃料の圧力がほぼ同等となるように制御する。より具体的には、コントローラ130は、流体噴射装置10に供給されるエタノールの圧力及び軽油の圧力が略同一の圧力となるように主燃料ポンプ112及び着火用燃料ポンプ115を制御する。このように制御することにより、エタノールと軽油との圧力差による流れを抑制して互いに混じり合うことを抑制できる。
【0035】
なお、コントローラ130は、流体噴射装置10により噴射を開始する際など、弁体30が閉弁している状態で軽油及びエタノールを昇圧する制御を実行する場合には、エタノールの圧力が軽油の圧力を超えないように制御しながら、軽油及びエタノールを昇圧する。エタノールの圧力が軽油の圧力を超えると、意図せず弁体30が離座して燃料が噴射されることが懸念されるため、例えば、軽油の圧力を先に昇圧する等により、エタノールの圧力が軽油の圧力を超えないように各圧力を制御する。
【0036】
(手法2)加工上のばらつきを考慮して、頂角θ1、頂角θ2の差を可能な限り小さくする。例えば、所定の角度θp(0<θp<180°)を設定し、円錐面35の頂角θ1をθp-1≦θ1≦θp-0.5°の範囲で加工し、逆円錐面25の頂角θ2をθp≦θ2<θp+1°の範囲で加工する。このように設計することにより、加工上のばらつきを考慮して確実に頂角θ1<頂角θ2とした上で、頂角θ1、頂角θ2の差を小さくすることができる。頂角θ1、頂角θ2の差を小さくすることにより、弁体30の着座時に上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとの離間する距離が狭くなるため、仮にエタノールと軽油との圧力差があったとしても、互いに混じり合う流れの流量を抑制できる。
【0037】
(手法3)上流円錐面35uの稜線方向の長さLuを、下流円錐面35bの稜線方向の長さLbよりも長くする。以下、この稜線方向の長さLu,Lbを、上流シート長Lu,下流シート長Lbと称することがある。上流シート長Luは、少なくとも下流シート長Lbより長いことが好ましく、可能な限り長いことがより好ましい。通常、上流シート長Lu及び下流シート長Lbは、摩耗や異物攻撃による欠損等に対する耐久性を確保するために、一定の長さがあることが望ましい。このため、下流円錐面35bの耐久性を確保できる範囲で可能な限り下流シート長Lbを短くし、上流シート長Luを長くする。このように上流シート長Lu及び下流シート長Lbを設計することにより、上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとの間に形成される上流噴射流路W31の流路長さを長くできるため、仮にエタノールと軽油との圧力差があったとしても、互いに混じり合う流れの流量を抑制できる。
【0038】
図3に示すように、流体噴射装置10では、下流円錐面35bの外径と内径との差(内外径差と称する)は(φ11-φ10)により算出され、稜線方向の長さLbは、Lb=(φ11-φ10)/2sin(θ1/2)により算出される。上流円錐面35uの内外径差は(φ13-φ12)により算出され、稜線方向の長さLuは、Lu=(φ13-φ12)/2sin(θ1/2)により算出される。上流円錐面35uの内外径差(φ13-φ12)は、下流円錐面35bの内外径差(φ11-φ10)よりも大きい。このため、上流円錐面35uの稜線方向の長さLuは、下流円錐面35bの稜線方向の長さLbよりも長い。すなわち、流体噴射装置10では、上流シート長Luは、下流シート長Lbより長い。上流円錐面35uと下流円錐面35bとは頂角が等しいため、上流円錐面35uの内外径φ12,φ13と、下流円錐面35bの内外径φ10,φ11とを調整することにより、容易に上流シート長Luおよび下流シート長Lbを設計できる。すなわち、上流円錐面35uの内外径差(φ13-φ12)が、下流円錐面35bの内外径差(φ11-φ10)よりも大きくなるように設計することにより、容易に上流シート長Luが下流シート長Lbよりも長くなるようにすることができる。
【0039】
なお、弁体30が弁ボディ20に着座しており、上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとの隙間(流路幅に相当する)が小さい場合には、上流噴射流路W31を流れる流体の流量は、上流噴射流路W31の上流端と下流端との圧力差に比例し、上流噴射流路W31の流路長さ(すなわち、上流シート長Lu)に反比例し、上流噴射流路W31の流路幅(上流円錐面35uと上流逆円錐面25uとの距離)の3乗に比例する。このため、エタノールと軽油とが混じることを避けるためには、上記(手法2)が最も効果的である。
【0040】
車両のディーゼルエンジンの気筒1内にエタノール及び軽油を噴射する場合、噴射初期には軽油比率が多くなるように噴射することが好ましい。一方で、噴射中期以降は軽油を噴射する必要はないため、軽油比率をできるだけ少なくすることが好ましい。
【0041】
図6は、第1導入流路W12から環状溝34に至る軽油の流路の最小流路面積S1、及び、第2供給流路W21から環状溝34に至るエタノールの流路の最小流路面積S2と、弁体30のリフト量との関係を示す図である。なお、流路面積は、流れ方向に垂直な流路断面の面積を意味し、最小流路面積は、流路面積の最小値を意味する。
図7は、噴射孔29を流れる軽油及びエタノールの流量と、弁体30のリフト量との関係を示す図である。
図7において、参照番号F1は軽油の流量を示し、参照番号F2はエタノールの流量を示す。
【0042】
図6に示すように、第1導入流路W12及び第1貫通導入流路W13の流路面積は、弁体30のリフト量に依存しないため、軽油の流路面積は、弁体30のリフト量に依存せず一定である。これに対し、エタノールの流路面積は、弁体30のリフト量が大きくなるに従って大きくなる。
【0043】
図8に示すように、流体噴射装置10において、第1貫通導入流路W13の流れ方向に垂直な流路面積S11の総和を第1流路面積S1とし、上流噴射流路W31の最も下流噴射流路W33側における流れ方向に垂直な流路面積を第2流路面積S2とする。なお、
図8に示す矢印は、第1貫通導入流路W13および上流噴射流路W31の流れ方向を示す。また、上流噴射流路W31の流れ方向に垂直な流路面積は、下流噴射流路W33に近いほど小さいため、第2流路面積S2は、上流噴射流路W31の流れ方向に垂直な流路面積の最小値である。流体噴射装置10は、弁体30の着座時及び離座直後には、S1>S2となり、弁体30のリフト量が所定以上となった場合には、S1<S2となるように設計かつ製造される。流体噴射装置10は、少なくとも、弁体30がフルリフト状態となった場合には、S1<S2となるように設計かつ製造される。
【0044】
上記のように第1,第2流路面積S1,S2に基づいて流体噴射装置10を設計することにより、例えば
図7に示すように、弁体30のリフト量がA1までの間は軽油を多く噴射するとともに、エタノールの流量を徐々に上昇させることができる。また、弁体30のリフト量がA1を超えた後には、軽油の流量を低減するとともに、エタノールの流量を所定の流量Rを超えた略一定の値に制御できる。
【0045】
また、噴射孔29の流路面積が、下流噴射流路W33及びサック部流路W34の流路面積のいずれよりも小さければ、エタノール及び軽油が下流噴射流路W33及びサック部流路W34を通じてサック部27に流入した際に、エタノール及び軽油をサック部27において一時的に溜めることができる。これにより、サック部27の内部の圧力を高めることができるため、より的確にエタノール及び軽油を噴射することが可能となる。
【0046】
(第1変形例)
図9,10に示すように、流体噴射装置10は、弁体30のリフト量に応じてエタノールの流路面積を小さくする絞り220,230をさらに備えていてもよい。弁ボディ20側に設けられた弁ボディ側絞り220は、第1弁体収容孔21の内周面に対して突出した突出部として構成されている。弁ボディ側絞り220は、軸線m1を中心に円環状に、第1弁体収容孔21の内周面の周方向の全体に設けられている。弁体側絞り230は、弁体30の外周面に対して窪んだ溝部として構成されている。弁体側絞り230は、軸線m1を中心に円環状に、弁体30の外周面の周方向の全体に設けられている。弁体側絞り230の上端231から下端232までの長さは、弁ボディ側絞り220の上端221から下端222までの長さより長く、弁体30がフルリフト状態である場合に、弁体側絞り230の下端232と弁ボディ側絞り220の下端222とがエタノールの噴射を阻害しない程度に離間するような長さの関係となっている。
【0047】
図9は、弁体30が開弁状態であり、弁体30のリフト量が所定のリフト量A2である場合を示している。この場合、弁ボディ側絞り220の上端221は、弁体側絞り230の上端231に対して下方に離間しており、第2導入流路W22の流路面積は確保されている。すなわち、エタノールの流路面積は絞られていない状態である。
【0048】
図10は、弁体30が閉弁状態である場合を示している。この場合、弁ボディ側絞り220の上端221は、弁体側絞り230の上端231よりも上方に位置している。これにより、弁ボディ側絞り220の内周面223の一部が、弁体30側絞りの外周面233の一部と重なった状態となる。この重なった部分において第2導入流路W22の流路面積は著しく小さくなり、エタノールの流路面積は絞られている状態となる。
【0049】
図10に示すように、弁ボディ側絞り220の内周面223と、弁体30側絞りの外周面233とが重なっている場合には、この重なり部分における長さや、互いの間隔(内周面223と、外周面233との距離)を調整することにより、エタノールの流路面積を調整でき、エタノールの噴射量を抑制できる。弁ボディ側絞り220の内周面223と、弁体30側絞りの外周面233とが重なっていない場合であっても、弁ボディ側絞り220の上端221と、弁体側絞り230の上端231との距離が狭い場合には、エタノールの流路面積が絞られる。この場合には、弁ボディ側絞り220の上端221と、弁体側絞り230の上端231との距離を調整することにより、エタノールの流路面積を調整でき、エタノールの噴射量を抑制できる。
【0050】
図9,10に係る変形例によれば、弁体30のリフト量が所定のリフト量閾値(例えば、リフト量A2)未満である場合に、弁体30のリフト量がリフト量閾値以上である場合よりも、エタノールの流路面積を小さくすることができ、エタノールの噴射量を抑制できる。このため、噴射初期にエタノールの噴射量を抑制して、軽油の燃料比率を向上させることができる。噴射初期に軽油の燃料比率を高めることにより、エタノールが着火し易くなり、着火性を向上することができる。
【0051】
(第2変形例)
図2に示す摺動シール部40の耐摩耗性を向上させるためには、エタノールよりも粘性が高く、摩耗抑制効果の高い軽油を摺動シール部40等に積極的に導入することが望ましい。本変形例のコントローラ130は、流体噴射装置10に供給されるエタノールの圧力よりも、軽油の圧力が高くなるように主燃料ポンプ112及び着火用燃料ポンプ115を制御する。すなわち、本変形例では、エタノールに印加される噴射のための圧力よりも、軽油に印加される噴射のための圧力の方が高い。このような構成によれば、第1供給流路W11を流れる軽油を摺動シール部40と弁体30との間の摺動部分に流入させることが可能である。また、第1供給流路W11を流れる軽油を、第1導入流路W12及び第1貫通導入流路W13を通じて上流逆円錐面25uと上流円錐面35uとの間の微小な隙間部分にも流入させることが可能である。それらの摺動部分又は隙間部分に軽油が流入することにより、それらの摺動部分又は隙間部分を潤滑することができるため、摺動部分又は隙間部分の摩耗を抑制することができる。なお、軽油は、下流逆円錐面25bと下流円錐面35bとの間の微小な隙間に入り込むことによって、下流逆円錐面25b及び下流円錐面35bの摩耗を抑制する効果を奏する。下流逆円錐面25b及び下流円錐面35bの摩耗が進行した場合や、弁体30が着座する際に下流逆円錐面25b及び下流円錐面35bが弾性変形した場合には、上流逆円錐面25uと上流円錐面35uとが接触することが懸念される。軽油により下流逆円錐面25b及び下流円錐面35bの摩耗が抑制されることにより、上流逆円錐面25uと上流円錐面35uとが接触することを抑制できる。
【0052】
例えば、コントローラ130は、弁体30の着座時に、圧力センサ121の検出値に基づいて、エタノールの圧力を50MPa±1MPaに制御し、差圧センサ120の検出値に基づいて、軽油とエタノールの差圧が2MPa±1MPaとなるように制御する。なお、軽油の圧力を検出して、その検出値に基づいて軽油の圧力を制御する場合には、コントローラは、軽油の圧力を53MPa±1MPaに制御することが好ましい。
【0053】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0054】
以下、上述した各実施形態から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
第1流体と、第2流体との2種類の流体を噴射する流体噴射装置(10)であって、
先端に噴射孔が設けられ、先端部の内周面に逆円錐面(25)が形成された略筒状の弁ボディ(20)と、
前記第1流体の導入流路(W12)を内部に備え、先端部の外周面に円錐面(35)が形成された弁体(30)と、を備え、
前記弁体は、前記弁ボディとの間に前記第2流体の導入流路(W22)が形成され、前記逆円錐面と前記円錐面(35)とが対向するように、前記弁ボディに収容され、
前記円錐面は、
前記噴射孔に近い下流側に設けられた下流円錐面(35b)と、
前記下流円錐面に対して噴射孔から遠い上流側に設けられた上流円錐面(35u)と、
前記下流円錐面と前記上流円錐面との間に設けられた前記第1流体の導入流路の出口(38)と、を備え、
前記弁体の円錐面の頂角は、前記弁ボディの逆円錐面の頂角よりも小さく、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して離座及び着座することにより、前記第1流体及び前記第2流体の両方の噴射及び噴射の停止が行われ、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座している場合に、前記上流円錐面と前記逆円錐面とは離間している流体噴射装置。
[構成2]
前記下流円錐面の稜線方向の長さは、前記上流円錐面の稜線方向の長さよりも短い構成1に記載の流体噴射装置。
[構成3]
前記上流円錐面と前記逆円錐面との間に上流噴射流路(W31)が形成され、
前記下流円錐面と前記逆円錐面との間に下流噴射流路(W33)が形成され、
前記弁体の先端部には、前記弁体の内部から前記第1流体の導入流路の出口まで貫通する1又は複数の貫通導入流路(W13)が設けられており、
前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座している場合に、前記貫通導入流路の流れ方向に垂直な流路面積の総和である第1流路面積は、前記上流噴射流路の最も前記下流噴射流路側における流れ方向に垂直な流路面積である第2流路面積より大きく、
前記弁体がフルリフト状態である場合に、前記第1流路面積は、前記第2流路面積より小さい構成1または2に記載の流体噴射装置。
[構成4]
前記弁体のリフト量に応じて前記第2流体の導入流路の流路面積を小さくする絞り(220,230)を備え、
前記絞りは、前記弁体のリフト量が所定のリフト量閾値未満である場合に、前記弁体のリフト量が前記リフト量閾値以上である場合よりも、前記第2流体の流路面積を小さくする構成1~3のいずれかに記載の流体噴射装置。
[構成5]
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(160)をさらに備え、
前記第1流体の粘性は、前記第2流体の粘性よりも高く、
前記制御装置は、前記第1流体の圧力を前記第2流体の圧力よりも高くする構成1~4のいずれかに記載の流体噴射装置。
[構成6]
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(130)をさらに備え、
前記第1流体は、着火用燃料であり、
前記第2流体は、主燃料であり、
前記制御装置は、前記第2流体の圧力の検出値に基づいて前記第2流体の圧力を制御し、前記第1流体の圧力と前記第2流体の圧力との差圧の検出値に基づいて前記第1流体の圧力を制御する1~5のいずれかに記載の流体噴射装置。
[構成7]
前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する制御装置(130)をさらに備え、
前記制御装置は、前記下流円錐面が前記逆円錐面に対して着座させた状態で前記第1流体及び前記第2流体の圧力を上昇させる場合に、前記第2流体の圧力が前記第1流体の圧力よりも高くならないように前記第1流体及び前記第2流体の圧力を調整する構成1~6のいずれかに記載の流体噴射装置。
【符号の説明】
【0055】
10…流体噴射装置、20…弁ボディ、25…逆円錐面、30…弁体、35…円錐面、35b…下流円錐面、35u…上流円錐面、38…出口、W12…第1流体の導入流路、W22…第2流体の導入流路