(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179548
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ノイズ判定装置、ハイブリッドモデル、ノイズ判定方法、プログラム、及び、端末装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/377 20210101AFI20241219BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20241219BHJP
【FI】
A61B5/377
A61B5/374
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098479
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110135
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 裕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(72)【発明者】
【氏名】野田 賀大
(72)【発明者】
【氏名】阪上 絢人
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127CC01
4C127CC02
4C127DD00
4C127GG03
4C127GG13
(57)【要約】
【課題】脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援する。
【解決手段】独立成分抽出部103は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する。特徴量抽出部104は、独立成分抽出部103により抽出された複数の独立成分のそれぞれから、独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する。ハイブリッドモデル121は、特徴量に基づいて眼関連成分に関して判定する眼関連モデルと、特徴量に基づいて非眼関連成分に関して判定する非眼関連モデルとを備える。ノイズ判定部105は、ハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する独立成分抽出部と、
前記独立成分抽出部により抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルと、
前記ハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するノイズ判定部と、を備える、
ノイズ判定装置。
【請求項2】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形における前記磁気刺激の直後の振幅の大きさを示す値を含む、
請求項1に記載のノイズ判定装置。
【請求項3】
前記脳波は、前記被験者の複数の測定箇所における脳波であり、前記特徴量は、前記独立成分に対して算出される前記複数の測定箇所のそれぞれのZスコアを示す値を含む、
請求項1に記載のノイズ判定装置。
【請求項4】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを示す値を含む、
請求項1に記載のノイズ判定装置。
【請求項5】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおける特定の周波数帯域における傾きを示す値を含む、
請求項1に記載のノイズ判定装置。
【請求項6】
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出された複数の独立成分のそれぞれから抽出された特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、
前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルと、を備える、
ハイブリッドモデル。
【請求項7】
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出し、
抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出し、
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する、
ノイズ判定方法。
【請求項8】
コンピュータを、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する独立成分抽出部、
前記独立成分抽出部により抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する特徴量抽出部、
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するノイズ判定部、として機能させる、
プログラム。
【請求項9】
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データを取得する脳波取得部と、
前記脳波取得部が取得した前記脳波データをサーバに送信する送信部と、
前記サーバが、前記脳波データから独立成分分析により抽出された複数の独立成分のそれぞれの特徴を表す特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて判定した、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かの判定結果を表示部に表示させる表示制御部と、を備える、
端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズ判定装置、ハイブリッドモデル、ノイズ判定方法、プログラム、及び、端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、精神疾患の有無は、被験者への問診の結果、被験者に現れる臨床症状等に基づく指標を用いて判定されることが多い。しかしながら、このような指標は、客観性が高い指標とは言えず、精神疾患診断の判定精度を高めることが困難である。このため、客観性が高い指標を用いて、精神疾患の有無を判定する技術が研究されている。
【0003】
このような指標として、経頭蓋磁気刺激時の脳波に基づく指標が知られている。例えば、特許文献1には、経頭蓋磁気刺激時における脳波の測定により取得された脳波データに基づいて、精神疾患の有無を判定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脳波の測定により取得される脳波データには、脳波に由来する脳波成分だけではなく、ノイズ成分も含まれる。脳波データにノイズ成分が含まれていると精神疾患の有無を適切に判定できない可能性があるため、脳波データからノイズ成分が適切に除去されることが望ましい。しかしながら、特許文献1には、脳波データからノイズ成分を適切に除去する方法について記載されていない。このため、脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援可能な技術が望まれている。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援可能なノイズ判定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の観点に係るノイズ判定装置は、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する独立成分抽出部と、
前記独立成分抽出部により抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する特徴量抽出部と
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルと、
前記ハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するノイズ判定部と、を備える。
【0008】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形における前記磁気刺激の直後の振幅の大きさを示す値を含んでいてもよい。
【0009】
前記脳波は、前記被験者の複数の測定箇所における脳波であり、前記特徴量は、前記独立成分に対して算出される前記複数の測定箇所のそれぞれのZスコアを示す値を含んでいてもよい。
【0010】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを示す値を含んでいてもよい。
【0011】
前記特徴量は、前記独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおける特定の周波数帯域における傾きを示す値を含んでいてもよい。
【0012】
上記目的を達成するために、本開示の第2の観点に係るハイブリッドモデルは、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出された複数の独立成分のそれぞれから抽出された特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、
前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルと、を備える。
【0013】
上記目的を達成するために、本開示の第3の観点に係るノイズ判定方法は、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出し、
抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出し、
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する。
【0014】
上記目的を達成するために、本開示の第4の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する独立成分抽出部、
前記独立成分抽出部により抽出された前記複数の独立成分のそれぞれから、前記独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する特徴量抽出部、
前記特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するノイズ判定部、として機能させる。
【0015】
上記目的を達成するために、本開示の第5の観点に係る端末装置は、
被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データを取得する脳波取得部と、
前記脳波取得部が取得した前記脳波データをサーバに送信する送信部と、
前記サーバが、前記脳波データから独立成分分析により抽出された複数の独立成分のそれぞれの特徴を表す特徴量に基づいて、前記独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデルと、前記眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、前記特徴量に基づいて、前記独立成分が前記眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと前記独立成分が前記脳波成分であるか否かとを判定する非眼関連モデルとを備えるハイブリッドモデルの判定結果に基づいて判定した、前記複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かの判定結果を表示部に表示させる表示制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1に係るノイズ判定システムの構成図
【
図4】実施の形態1に係るノイズ判定装置の機能構成図
【
図10】実施の形態1に係るノイズ判定装置が実行するノイズ判定処理を示すフローチャート
【
図12】実施の形態2に係るノイズ判定システムの構成図
【
図13】実施の形態2に係るノイズ判定装置の構成図
【
図15】実施の形態2に係るノイズ判定装置及び端末装置の機能構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図中において、同一又は対応する部分には、同一の符号を付す。
【0019】
(実施の形態1)
まず、
図1を参照して、本実施の形態に係るノイズ判定システム1000の構成について説明する。ノイズ判定システム1000は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出される複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するシステムである。脳波は、人の脳から発生する電気活動を電位変化として時系列信号として計測し表示したものである。独立成分は、脳波データに対して独立成分分析を実行することにより取得される。独立成分分析は、多変量の信号を複数の加法的な独立成分に分離するための計算方法である。
【0020】
なお、ノイズ成分が除去された脳波データは、例えば、被験者が所定の精神疾患を有するか否かの判定に用いられる。精神疾患としては、大うつ病性障害(治療抵抗性うつ病も含む)、双極性障害、統合失調症、認知症(軽度認知障害も含む)、不安障害、てんかん等がある。治療抵抗性うつ病は、抗うつ薬治療で軽快・寛解しないタイプのうつ病であり、最低1種類以上の抗うつ薬を十分量、十分期間服用しても、奏功しないうつ病である。大うつ病性障害は、いわゆる一般的なうつ病であり、抑うつ気分、意欲低下等の精神症状と、食欲不振、不眠、疲労等の身体症状とが2週間以上継続する精神障害である。
【0021】
双極性障害は、躁状態とうつ状態とを繰り返す脳の病気である。認知症は、様々な原因で、記憶能力をはじめとした様々な認知機能が低下し、日常生活、社会生活等に支障をきたす病気である。不安障害は、日常生活に支障が出るほど強い不安、恐怖等を感じる病気である。てんかんは、脳が一時的に過剰に興奮することによって、脳波上、てんかん発作が出現し、意識を失ったりけいれんが生じたりする病気である。ノイズ判定システム1000は、ノイズ判定装置100と、磁気刺激装置200と、脳波計300とを備える。
【0022】
ノイズ判定装置100は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出される複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する装置である。また、ノイズ判定装置100は、脳波データからノイズ成分であると判定された独立成分を除去する機能を有する。脳波データには、脳波に由来する脳波成分の他、被験者の脳以外の眼球運動や体動などをはじめとした主に筋収縮に由来する生体ノイズ成分、各装置の動作に由来する機械ノイズ成分等が含まれる。このため、前処理前の生の脳波データが、例えば、所定の精神疾患の判定に用いられる前に、生の脳波データからこれらの脳以外からのノイズ成分を除去する必要がある。
【0023】
本実施の形態では、前処理前の生の脳波データに含まれるノイズ成分として、TMS(Transcranial Magnetic Stimulation)由来ノイズと、電磁ノイズと、筋電ノイズと、瞬目ノイズと、眼球運動ノイズとを想定している。TMS由来ノイズは、磁気刺激装置200による磁気刺激に由来するノイズである。例えば、TMS由来ノイズは、磁気刺激装置200が磁気刺激のためにコイル210に流す電流によって誘起されるノイズである。電磁ノイズは、機器から発生する電磁波のうち、機器の動作に不要な成分である。例えば、電磁ノイズは、磁気刺激装置200が発生する電磁波のうち磁気刺激のために発生する電磁波以外の電磁波、脳波計300が発生する電磁波等である。筋電ノイズは、筋肉が収縮活動をするときに発生する電気信号である。本実施の形態では、眼の動きに由来するノイズは筋電ノイズから除外される。
【0024】
瞬目ノイズは、瞬きによって発生するノイズである。眼球運動ノイズは、眼球の運動によって発生するノイズである。以下、適宜、脳波データに含まれる独立成分のうち眼の動きに由来する独立成分を眼関連成分といい、脳波データに含まれる独立成分のうち眼の動きに由来しない独立成分を非眼関連成分という。つまり、瞬目ノイズと眼球運動ノイズとを、適宜、眼関連成分という。また、脳波成分とTMS由来ノイズと筋電ノイズと電磁ノイズとを、適宜、非眼関連成分という。
【0025】
ノイズ判定装置100は、磁気刺激装置200を制御して、被験者の脳に磁気刺激を与える。また、ノイズ判定装置100は、脳波計300から、被験者の脳波を示す脳波データを取得する。ノイズ判定装置100は、磁気刺激装置200及び脳波計300と通信可能である。
図2に示すように、ノイズ判定装置100は、制御部11と、記憶部12と、表示部13と、操作受付部14と、第1通信部15とを備える。
【0026】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、RTC(Real Time Clock)等を備える。CPUは、中央処理装置、中央演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等とも呼び、ノイズ判定装置100の制御に係る処理及び演算を実行する中央演算処理部として機能する。制御部11において、CPUは、ROMに格納されているプログラム及びデータを読み出し、RAMをワークエリアとして用いて、ノイズ判定装置100を統括制御する。RTCは、例えば、計時機能を有する集積回路である。なお、CPUは、RTCから読み出される時刻情報から現在日時を特定可能である。
【0027】
記憶部12は、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の不揮発性の半導体メモリを備えており、いわゆる補助記憶装置としての役割を担う。記憶部12は、制御部11が各種処理を実行するために使用するプログラム及びデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部11が各種処理を実行することにより生成又は取得するデータを記憶する。
【0028】
表示部13は、制御部11による制御に従って、各種の画像を表示する。例えば、表示部13は、ユーザから各種の操作を受け付けるための画面を表示する。表示部13は、タッチスクリーン、液晶ディスプレイ等を備える。操作受付部14は、ユーザから各種の操作を受け付け、受け付けた操作の内容を示す情報を制御部11に供給する。操作受付部14は、タッチスクリーン、ボタン、レバー等を備える。
【0029】
第1通信部15は、制御部11による制御に従って、各種の装置と通信する。本実施の形態では、第1通信部15は、制御部11による制御に従って、磁気刺激装置200及び脳波計300と通信する。第1通信部15は、周知の有線通信規格又は周知の無線通信規格に則って、各種の装置と通信する。周知の有線通信規格としては、USB(Universal Serial Bus、登録商標)、Thunderbolt(登録商標)等がある。周知の無線通信規格としては、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、Zigbee(登録商標)等がある。第1通信部15は、各種の通信規格に準拠した通信インターフェースを備える。
【0030】
磁気刺激装置200は、TMS、つまり、経頭蓋磁気刺激を、被験者に与える装置である。磁気刺激装置200は、例えば、ノイズ判定装置100による制御に従って動作する。従って、磁気刺激装置200は、ノイズ判定装置100と通信するための通信インターフェース(図示せず)を備える。磁気刺激装置200は、ケーブル220を介してコイル210に接続される。磁気刺激装置200は、コイル210に流す電流を急激に変化させて、コイル210の周囲の磁場を急激に変化させる。磁気刺激装置200は、この磁場の急激な変化により脳内に渦電流を誘起させ、その結果、一定の電位閾値を超えた脳内のニューロンを発火させる。
【0031】
コイル210は、コイル210に流れる電流の急激な変化に応じて、コイル210の周囲の磁場を急激に変化させる。この磁場は、頭皮、頭蓋骨等に妨げられることなく通過し、この磁場の変化を打ち消す電流を脳内で誘起する。脳内に生じた誘導電流は、渦電流が生じた付近の神経細胞を活性化させる。コイル210の形状は、例えば、8の字型の平面形状である。コイル210は、コイル210の平面と頭蓋骨に対する接線方向とが直交するように、被験者の頭部に取り付けられる。コイル210は、例えば、被験者の頭皮上の左背外側前頭前野に対応する部分に取り付けられる。
【0032】
脳波計300は、被験者のEEG(Electroencephalogram)、つまり、被験者の脳波を測定する装置である。脳波計300は、例えば、ノイズ判定装置100による制御に従って動作する。従って、脳波計300は、ノイズ判定装置100と通信するための通信インターフェース(図示せず)を備える。脳波計300は、ケーブル320を介して脳波測定キャップ310に接続される。
【0033】
脳波測定キャップ310は、被験者の脳波を測定するために、被験者の頭部に装着されるキャップである。脳波測定キャップ310は、被験者の脳波を検出するための複数の電極311を備える。複数の電極311は、それぞれ、脳波測定キャップ310における、被験者の頭部の複数の測定箇所に対応する位置に設置される。本実施の形態では、脳波測定キャップ310の全体に亘って複数の電極311が配置され、被験者の頭部の全体に亘って脳波が測定される。
【0034】
各電極311は、ケーブル320内にまとめられた電線312により脳波計300と接続される。脳波計300は、各電極311の電位を測定することにより、各測定箇所における脳波を測定する。なお、
図1では、一部の電極311についてのみ、符号と電線312とを図示している。脳波の測定部位は任意であり、測定電極数も何箇所でもよい。本実施の形態では、脳波の測定部位は全脳を対象としており、測定箇所は62箇所である。本実施の形態では、電極311、測定箇所等を指定するときに、適宜、チャネルという文言を使用する。
【0035】
図3を参照して、脳波計300が取得する脳波データについて説明する。脳波データは、被験者の頭皮上に配置された電極311の電位の時間変化を表す時系列のデータである。脳波計300は、電極311の電位を予め定められたサンプリング周期で測定することにより脳波データを取得する。本実施の形態では、サンプリング周期は3kHzであり、脳波データは3kHzのサンプリング周波数で測定された時系列の電圧データである。
【0036】
図3に、脳波計300が取得する各チャネルの脳波データが示す電圧信号を重ねて示す。
図3において、被験者の脳に磁気刺激が与えられたタイミングを0msecとして時間軸を示している。ここで、脳波データには、脳波成分だけではなく、ノイズ成分が含まれる。ノイズ成分の大きさは、脳波成分の大きさに対して、無視できない程度に大きい。例えば、脳波成分の大きさが数μVから数十μV程度であるのに対して、ノイズ成分の大きさは数百μVを超える場合がある。そこで、本実施の形態では、脳波データを用いた精神疾患の判定処理の前処理として、脳波データに含まれるノイズ成分を検出し、脳波データから検出したノイズ成分を除去する処理について説明する。
【0037】
次に、
図4を参照して、ノイズ判定装置100の機能について説明する。ノイズ判定装置100は、機能的には、刺激制御部101と、脳波取得部102と、独立成分抽出部103と、特徴量抽出部104と、ノイズ判定部105と、ノイズ除去部106と、表示制御部107とを備える。これらの各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、ROM又は記憶部12に格納される。そして、CPUが、ROM又は記憶部12に記憶されたプログラムを実行することによって、これらの各機能を実現する。
【0038】
刺激制御部101は、被験者の脳に対する磁気刺激を制御する。例えば、刺激制御部101は、予め定められた時間間隔で、被験者の脳に磁気刺激を与えるように磁気刺激装置200を制御する。なお、刺激制御部101と脳波取得部102とは、適宜、トリガー信号等で同期させる必要がある。例えば、刺激制御部101は、被験者の脳に磁気刺激を与えるタイミングを脳波取得部102に通知してもよい。
【0039】
脳波取得部102は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データを取得する。例えば、脳波取得部102は、被験者の頭部における全ての測定箇所について、被験者の脳波を測定するように脳波計300を制御する。そして、脳波取得部102は、全ての測定箇所について、被験者の脳に磁気刺激が与えられた前後の期間に測定された脳波を表す脳波データを脳波計300から取得する。
【0040】
独立成分抽出部103は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する。本実施の形態では、独立成分抽出部103は、周知の独立成分分析により、脳波取得部102により取得された全てのチャネル分の脳波データから、複数の独立成分を抽出する。なお、全てのチャネル分の脳波データから複数の独立成分を抽出することは、全てのチャネル分の脳波データを、複数の独立成分に変換することを意味する。
【0041】
例えば、全てのチャネル分の脳波データをX、複数の独立成分をUとすると、Uは、U=WXの計算式により算出可能である。ここで、Xは、n行×p列の行列であり、Uは、k行×p列の行列である。nは、チャネル数であり、pは、1チャネル当たりのサンプリング数であり、kは、独立成分の個数である。また、Wは、独立成分分析により脳波データを複数の独立成分に分離するための変換行列である。Wは、k行×n列の行列である。独立成分分析では、チャネル数以下の個数の独立成分が抽出される。本実施の形態では、独立成分の個数は、61個である。
【0042】
特徴量抽出部104は、独立成分抽出部103により抽出された複数の独立成分のそれぞれから、独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する。特徴量として、どのようなものを採用するのかは、適宜、調整することができる。特徴量としては、脳波成分とノイズ成分とで差違が生じやすい特徴量を採用することが好適である。本実施の形態では、特徴量として、第1の特徴量と第2の特徴量と第3の特徴量と第4の特徴量とが採用される。
【0043】
第1の特徴量は、独立成分を表す独立成分波形における磁気刺激の直後の振幅の大きさを示す値である。第1の特徴量は、主に、独立成分が、磁気刺激の直後に発生するTMS由来ノイズに対応するか否かを判定するための特徴量である。
図5に、TMS由来ノイズに対応する独立成分を表す独立成分波形を示す。第1の特徴量は、この独立成分波形の磁気刺激の直後の予め定められた期間における振幅の平均値である。
【0044】
本実施の形態では、第1の特徴量は、例えば、10msecから210msecまでの200msecの区間を20msecの時間窓50で区切った場合における各時間窓50内の振幅の平均値である。つまり、第1の特徴量は、例えば、10msecから30msecまでの区間の振幅の平均値と、30msecから50msecまでの区間の振幅の平均値と、50msecから70msecまでの区間の振幅の平均値と、・・・、190msecから210msecまでの区間の振幅の平均値との10個の平均値である。
【0045】
第2の特徴量は、独立成分に対して算出される複数の測定箇所のそれぞれのZスコアを示す値である。第2の特徴量は、1つの独立成分が、各チャネルにどの程度の強度で観測されているのかを示す特徴量である。本実施の形態では、まず、1つの独立成分について、各チャネルの強度と、各チャネルの強度の平均値と、各チャネルの強度の標準偏差とが算出される。そして、1つのチャネルの強度と平均値との差を標準偏差で除算した値がこのチャネルのZスコアとなる。
【0046】
ここで、独立成分分析で用いたU=WXという計算式は、X=W-1Uという計算式に変換可能である。なお、W-1は、Wの逆行列であり、n行×k列の行列である。ここで、W-1における1つの列は、1つの独立成分における各チャネルの強度に対応する。例えば、この1つの列の値が[1,2,5,・・・,3]である場合、この独立成分については、第1チャネルの強度が1、第2チャネルの強度が2、第3チャネルの強度が5、・・・、第nチャネルの強度が3である。ここで、各チャネルの強度と、各チャネルの強度の平均値と、各チャネルの強度の標準偏差とから、各チャネルのZスコアが算出される。つまり、各チャネルの強度は、各チャネルのZスコアに変換される。
【0047】
例えば、各チャネルの強度を表す[1,2,5,・・・,3]は、各チャネルのZスコアを表す[0.2,0.4,1.0,・・・,0.6]に変換される。この場合、上記独立成分については、第1チャネルのZスコアが0.2、第2チャネルのZスコアが0.4、第3チャネルのZスコアが1.0、・・・、第nチャネルのZスコアが0.6である。これらの各チャネルのZスコアが、この独立成分について算出される第2の特徴量である。全ての独立成分に対して、上述した方法により、各チャネルのZスコアが算出される。このZスコアの分布は、
図6に示す頭部電位マップに対応する。つまり、W
-1における1つの列を正規化したものが、この列に対応する独立成分の頭部電位マップに対応する。
図6に示すように、頭部電位マップは、等電位線60により被験者の頭部の電位の分布を示すマップである。
【0048】
1つの独立成分に対して算出されたZスコアの分布から、この独立成分が脳波成分であるか否か、この独立成分がどのようなノイズ成分であるか等が判定可能である。例えば、脳波成分は、後頭部のチャネルにおいて強い強度で観測されると考えられる。また、例えば、瞬目ノイズ、眼球運動ノイズ等は、前頭部のチャネルにおいて強い強度で観測されると考えられる。このため、Zスコアの分布から、独立成分が脳波成分であるか否か、独立成分が瞬目ノイズであるか否か、独立成分が眼球運動ノイズであるか否か等が判定可能である。例えば、ある独立成分において、電極311A、311B、311C、311D等のZスコアが高い場合、この独立成分が脳波成分であると判定されてもよい。また、例えば、ある独立成分において、電極311E、311F、311G、311H等のZスコアが高い場合、この独立成分が瞬目ノイズ又は眼球運動ノイズであると判定されてもよい。
【0049】
第3の特徴量は、独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを示す値である。第3の特徴量は、主に、独立成分が、磁気刺激の直後に発生する脳波成分に対応するか否かを判定するための特徴量である。
図7に、独立成分波形のパワースペクトルの一部を示す。独立成分波形のパワースペクトルは、例えば、独立成分波形を、FFT(Fast Fourier Transform)分析することにより取得される。なお、
図7及び後述する
図8における縦軸のPower log(μV
2/Hz)は、パワースペクトル密度の対数を示す。
【0050】
本実施の形態では、第3の特徴量は、パワースペクトルにおいて、例えば、6Hzにおける周波数パワーと14Hzにおける周波数パワーとの平均値と10Hzにおける周波数パワーとの差である。
図7において、6Hzにおける周波数パワーを示す点を点P6、10Hzにおける周波数パワーを示す点を点P10、14Hzにおける周波数パワーを示す点を点P14、点P6と点P14とを結ぶ直線を線L1、横軸と直交し、点P10を通過する直線を線L2、線L1と線L2との交点を点Pcとする。この場合、点P10から点Pcまでの距離に対応する周波数パワーが第3の特徴量である。つまり、点P6が示す周波数パワーがp6、点P10が示す周波数パワーがp10、点P14が示す周波数パワーがp14、点Pcが示す周波数パワーがpcとすると、第3の特徴量は、p10-pc=p10-(p6+p14)/2である。
【0051】
ここで、磁気刺激の直後には、被験者の脳波としてα波が発生する傾向がある。また、α波が発生する周波数帯域は、基本的に、10Hzを中心とした周波数帯域であり、6Hzから14Hzの周波数帯域である。従って、上述したp10-pcは、α波由来の山の大きさを示す値と見做すことが可能である。また、ある独立成分において、α波由来の山の大きさが大きい場合、この独立成分は、α波に対応する成分、つまり、脳波成分であると判定可能である。
【0052】
第4の特徴量は、独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおける特定の周波数帯域における傾きを示す値である。特定の周波数帯域は、例えば、7Hzから70Hzまでの周波数帯域である。第4の特徴量は、主に、独立成分が、筋電ノイズ又は電磁ノイズに対応するか否かを判定するための特徴量である。
図8に、独立成分波形のパワースペクトルを示す。線L3は、7Hzから70Hzまでの周波数パワーを線形回帰することにより得られる直線である。第4の特徴量は、線L3の傾きである。
【0053】
なお、交流電源の周波数である50Hz又は60Hz付近には、強い周波数パワーが観測される可能性がある。このため、線形回帰により線L3を求める際は、50Hz又は60Hz付近の周波数パワーを除外する必要がある。ところで、筋電ノイズ、電磁ノイズ等の高周波成分のパワースペクトルを求めると、7Hzから70Hzまでの周波数帯域における傾きが特定の傾きになると考えられる。従って、例えば、ある独立成分において、線L3の傾きが特定の傾きである場合、この独立成分が筋電ノイズ又は電磁ノイズであると判定可能である。特徴量抽出部104は、特徴量抽出部の一例である。
【0054】
ノイズ判定部105は、ハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する。以下、
図9を参照して、ハイブリッドモデル121について詳細に説明する。
図9に示すように、ハイブリッドモデル121は、眼関連モデル122と、非眼関連モデル123とを備える。
【0055】
眼関連モデル122は、特徴量抽出部104が抽出した特徴量に基づいて、独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定するモデルである。眼関連モデル122は、眼関連成分の判定に特化したモデルであり、独立成分が眼関連成分であるか否かを精度良く判定することが可能なモデルである。眼関連モデル122は、特徴量抽出部104が抽出した特徴量を入力し、瞬目ノイズと眼球運動ノイズとの2つのラベルについて判定結果を出力する。つまり、眼関連モデル122は、独立成分が瞬目ノイズであるか否かの判定結果と、独立成分が眼球運動ノイズであるか否かの判定結果とを出力する。
【0056】
眼関連モデル122は、確率又はYES/NOを示す判定結果を出力する。本実施の形態では、眼関連モデル122は、YES/NOを示す判定結果を出力する。つまり、眼関連モデル122は、独立成分が瞬目ノイズであるか否かをYES/NOで示す判定結果と、独立成分が眼球運動ノイズであるか否かをYES/NOで示す判定結果とを出力する。また、本実施の形態では、眼関連モデル122は、予め定められたアルゴリズムに従って特定の特徴量とこの特徴量に対応する閾値とを比較することにより判定結果を求める。特定の特徴量は、例えば、上述した第2の特徴量である。
【0057】
非眼関連モデル123は、眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習した学習済みモデルである。非眼関連モデル123は、特徴量抽出部104が抽出した特徴量に基づいて、独立成分が眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと、独立成分が脳波成分であるか否かを判定する。非眼関連モデル123は、非眼関連成分の判定に特化したモデルであり、独立成分が非眼関連成分であるか否か、独立成分がどのような非眼関連成分であるか等を、精度良く判定することが可能なモデルである。
【0058】
非眼関連モデル123は、特徴量抽出部104が抽出した特徴量を入力し、脳波成分とTMS由来ノイズと電磁ノイズと筋電ノイズとの4つのラベルについて判定結果を出力する。つまり、非眼関連モデル123は、独立成分が脳波成分であるか否かの判定結果と、独立成分がTMS由来ノイズであるか否かの判定結果と、独立成分が電磁ノイズであるか否かの判定結果と、独立成分が筋電ノイズであるか否かの判定結果とを出力する。
【0059】
非眼関連モデル123は、確率又はYES/NOを示す判定結果を出力する。本実施の形態では、非眼関連モデル123は、確率を示す判定結果を出力する。つまり、非眼関連モデル123は、独立成分が脳波成分である確率を示す判定結果と、独立成分がTMS由来ノイズである確率を示す判定結果と、独立成分が電磁ノイズである確率を示す判定結果と、独立成分が筋電ノイズである確率を示す判定結果とを出力する。
【0060】
以下、学習済みモデルである非眼関連モデル123を機械学習により生成する方法について説明する。学習段階では、学習用の脳波データから複数の独立成分が抽出され、複数の独立成分のそれぞれから特徴量が抽出される。ここで、抽出された特徴量から、非眼関連成分から抽出された特徴量が選択される。つまり、抽出された特徴量のうち、眼関連成分から抽出された特徴量が除外される。そして、非眼関連成分から抽出された特徴量に対してラベル付けがなされて教師データが生成される。
【0061】
生成される教師データは、非眼関連成分に対応する4つのラベルのうち何れか1つのラベルを含むデータである。つまり、教師データは、脳波成分から抽出された特徴量と脳波成分であることを示すラベルとを含むデータと、TMS由来ノイズから抽出された特徴量とTMS由来ノイズであることを示すラベルとを含むデータと、電磁ノイズから抽出された特徴量と電磁ノイズであることを示すラベルとを含むデータと、筋電ノイズから抽出された特徴量と筋電ノイズであることを示すラベルとを含むデータとの何れかである。
【0062】
言い換えれば、教師データは、瞬目ノイズから抽出された特徴量と瞬目ノイズであることを示すラベルとを含むデータではなく、眼球運動ノイズから抽出された特徴量と眼球運動ノイズであることを示すラベルとを含むデータでもない。特徴量の選択とラベル付けとは、例えば、熟練した技術者により実施される。生成された教師データが非眼関連モデル123に供給されて、非眼関連モデル123の機械学習が実施される。機械学習のアルゴリズムとしては、ランダムフォレスト、LightGBM(Light Gradient Boosting Machine)等が採用可能である。
【0063】
次に、ハイブリッドモデル121を用いて推論する方法について説明する。推論段階では、判定対象の脳波データから複数の独立成分が抽出され、複数の独立成分のそれぞれから特徴量が抽出される。抽出された特徴量は、眼関連モデル122と非眼関連モデル123とのそれぞれに供給される。眼関連モデル122は、瞬目ノイズと眼球運動ノイズとの2つのラベルについて、YES/NOの判定結果を出力する。非眼関連モデル123は、脳波成分とTMS由来ノイズと電磁ノイズと筋電ノイズとの4つのラベルについて、確率を示す判定結果を出力する。
【0064】
眼関連モデル122の判定結果と非眼関連モデル123の判定結果とが統合されて、6つのラベルに対応した判定結果が求められる。なお、眼関連モデル122の判定結果と非眼関連モデル123の判定結果とでは、基本的に、眼関連モデル122の判定結果が優先される。例えば、眼関連モデル122の判定結果により独立成分が瞬目ノイズであることが示されている場合、非眼関連モデル123の判定結果に拘わらず、独立成分が瞬目ノイズであることを示す判定結果が求められる。また、例えば、眼関連モデル122の判定結果により独立成分が眼球運動ノイズであることが示されている場合、非眼関連モデル123の判定結果に拘わらず、独立成分が眼球運動ノイズであることを示す判定結果が求められる。
【0065】
一方、例えば、眼関連モデル122の判定結果により独立成分が瞬目ノイズと眼球運動ノイズとの何れでもないことが示されている場合、非眼関連モデル123の判定結果に応じて最終的な判定結果が求められる。この場合、例えば、独立成分は、非眼関連モデル123の判定結果が示す4つの確率のうち最も高い確率に対応する成分であるとの判定結果が求められる。つまり、この場合、独立成分は、独立成分が脳波成分である確率と、独立成分がTMS由来ノイズである確率と、独立成分が電磁ノイズである確率と、独立成分が筋電ノイズである確率とのうち最も高い確率に対応する成分であるとの判定結果が求められる。
【0066】
ノイズ判定部105は、ハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する。なお、眼関連モデル122の判定結果と非眼関連モデル123の判定結果とを統合する機能は、ハイブリッドモデル121ではなく、ノイズ判定部105が備えていてもよい。この場合、ノイズ判定部105は、眼関連モデル122の判定結果と非眼関連モデル123の判定結果とに基づいて、独立成分が、瞬目ノイズと眼球運動ノイズと脳波成分とTMS由来ノイズと電磁ノイズと筋電ノイズとの何れであるのかを判定することができる。
【0067】
なお、ノイズ判定部105は、独立成分が脳波成分であると判定した場合、独立成分がノイズ成分でないと判定する。一方、ノイズ判定部105は、独立成分が瞬目ノイズと眼球運動ノイズとTMS由来ノイズと電磁ノイズと筋電ノイズとの何れかであると判定した場合、独立成分がノイズ成分であると判定する。ノイズ判定部105は、ノイズ判定部の一例である。
【0068】
ノイズ除去部106は、脳波取得部102が取得した脳波データから、ノイズ判定部105によりノイズ成分であると判定された独立成分を除去する。例えば、上述したように、U=WXの計算式により、独立成分分析に用いる変換行列であるWを用いて、複数の独立成分であるUが全てのチャネル分の脳波データであるXから算出される場合を想定する。この場合、Wの逆行列であるW-1を用いた逆変換により、UからXを算出することができる。この逆変換は、X=W-1Uの計算式を用いて実行可能である。ここで、a番目の独立成分であるUaがノイズ成分であると判定された場合、Ua=0とした上で、X=W-1Uを算出することにより、ノイズ成分が除去された脳波データを求めることができる。
【0069】
表示制御部107は、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かの判定結果を表示部13に表示させる。例えば、表示制御部107は、判定結果を提示するための提示画面を表示部13に表示させる。提示画面において、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かの判定結果が提示されてもよいし、複数の独立成分のそれぞれが脳波成分と瞬目ノイズと眼球運動ノイズとTMS由来ノイズと電磁ノイズと筋電ノイズとの何れであるのかの判定結果が提示されてもよい。なお、判定結果は、YES/NOで提示されてもよいし、確率で提示されてもよい。
【0070】
また、提示画面において、判定結果以外の情報が提示されてもよい。例えば、提示画面において、脳波データに関する情報、独立成分に関する情報等が提示されてもよい。脳波データに関する情報としては、ノイズ成分が除去されていない脳波データを示す波形、ノイズ成分が除去された脳波データを示す波形等が考えられる。これらの波形は、チャネル毎に提示されてもよいし、全チャネル分まとめて提示されてもよい。独立成分に関する情報としては、上述した判定結果に加え、独立成分波形、頭部電位マップ、パワースペクトル等が考えられる。独立成分に関する情報は、独立成分毎に提示されることが好適である。
【0071】
次に、
図10を参照して、ノイズ判定装置100が実行するノイズ判定処理について説明する。本開示におけるノイズ判定方法は、ノイズ判定装置100がノイズ判定処理を実行することにより実現される。
【0072】
まず、ノイズ判定装置100が備える制御部11は、磁気刺激時の脳波データを取得する(ステップS101)。例えば、制御部11は、脳波計300を動作させた後、磁気刺激装置200を動作させて、磁気刺激装置200に周期的な磁気刺激を実行させる。制御部11は、第1通信部15を介して、脳波計300から全チャネル分の磁気刺激前後の脳波データを取得する。
【0073】
制御部11は、ステップS101の処理を完了すると、脳波データに対する前処理を実行する(ステップS102)。前処理としては、種々の処理が考えられる。例えば、前処理として、ダウンサンプリング、特定の期間におけるデータの削除及び補完、ノッチフィルタ、バンドパスフィルタ等を用いたフィルタリング処理等が考えられる。制御部11は、ステップS102の処理を完了すると、独立成分抽出処理を実行する(ステップS103)。例えば、制御部11は、上述した変換行列を用いて、全てのチャネル分の脳波データを複数の独立成分に変換する。
【0074】
制御部11は、ステップS103の処理を完了すると、独立成分を選択する(ステップS104)。つまり、制御部11は、60個の独立成分から1個の独立成分を選択する。制御部11は、ステップS104の処理を完了すると、特徴量抽出処理を実行する(ステップS105)。特徴量抽出処理については、
図11を参照して、詳細に説明する。
【0075】
まず、制御部11は、独立成分波形における磁気刺激の直後の振幅の大きさを特定する(ステップS201)。つまり、制御部11は、独立成分波形から第1の特徴量を特定する。制御部11は、ステップS201の処理を完了すると、チャネル毎にZスコアを算出する(ステップS202)。つまり、制御部11は、独立成分波形から第2の特徴量を算出する。
【0076】
制御部11は、ステップS202の処理を完了すると、独立成分波形のパワースペクトルを生成する(ステップS203)。例えば、制御部11は、独立成分波形をFFT分析することによりパワースペクトルを取得する。制御部11は、ステップS203の処理を完了すると、パワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを特定する(ステップS204)。つまり、制御部11は、パワースペクトルから第3の特徴量を特定する。
【0077】
制御部11は、ステップS204の処理を完了すると、パワースペクトルにおける特定の周波数帯域における傾きを特定する(ステップS205)。つまり、制御部11は、パワースペクトルから第4の特徴量を特定する。制御部11は、ステップS205の処理を完了すると、特徴量抽出処理を完了する。
【0078】
制御部11は、ステップS105の特徴量抽出処理を完了すると、特徴量をハイブリッドモデル121に入力する(ステップS106)。つまり、制御部11は、抽出した全ての特徴量をハイブリッドモデル121に入力する。制御部11は、ステップS106の処理を完了すると、ハイブリッドモデル121の出力を取得する(ステップS107)。
【0079】
制御部11は、ステップS107の処理を完了すると、選択した独立成分がノイズ成分であるか否かを判定する(ステップS108)。例えば、制御部11は、ハイブリッドモデル121が出力した判定結果に基づいて、選択した独立成分がノイズ成分であるか否かを判定する。制御部11は、ステップS108の処理を完了すると、未選択の独立成分があるか否かを判別する(ステップS109)。制御部11は、未選択の独立成分があると判別すると(ステップS109:YES)、ステップS104に処理を戻す。
【0080】
制御部11は、未選択の独立成分がないと判別すると(ステップS109:NO)、脳波データからノイズ成分を除去する(ステップS110)。言い換えれば、制御部11は、脳波成分である独立成分から脳波データを生成する。例えば、制御部11は、上述した逆変換行列を用いて、ノイズ成分である独立成分が除去された複数の独立成分を全てのチャネル分の脳波データに変換する。
【0081】
制御部11は、ステップS110の処理を完了すると、処理結果を表示する(ステップS111)。例えば、制御部11は、判定結果を含む独立成分に関する情報、脳波データに関する情報等を提示するための提示画面を表示部13に表示させる。制御部11は、ステップS111の処理を完了すると、ノイズ判定処理を完了する。
【0082】
次に、本実施の形態に係るハイブリッドモデル121を用いたノイズ判定処理の評価結果について説明する。ハイブリッドモデル121は、2ラベルの眼関連モデル122と4ラベルの非眼関連モデル123とを含むハイブリッドモデルである。
【0083】
本評価では、特徴量として、(1)独立成分を表す独立成分波形における磁気刺激の直後の振幅の大きさを示す値と、(2)独立成分に対して算出される複数の測定箇所のそれぞれのZスコアを示す値と、(3)独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを示す値と、(4)独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおける7Hzから70Hzまでの周波数帯域における傾きを示す値とが採用された。また、本評価では、非眼関連モデル123の機械学習のアルゴリズムとして、ランダムフォレストが採用された。
【0084】
本評価の被験対象は、うつ病患者と健常者とが混在する30人の被験者である。つまり、本評価は、この30人の脳波データから抽出された各独立成分に対するハイブリッドモデル121の判定結果の評価である。評価結果については、精度、適合率、再現率の何れについても99%以上であった。
【0085】
具体的には、まず、1人の被験者の脳波データから61個の独立成分が抽出され、抽出された61個の独立成分から明らかにノイズに起因する独立成分が除外され、除外されなかった独立成分がハイブリッドモデル121に供給された。ハイブリッドモデル121は、供給された独立成分のそれぞれに対して、脳波成分であるか否かを判定した。以上の処理が、残りの29人の被験者の脳波データに対しても実施された。
【0086】
ここで、30人の被験者の脳波データから抽出された30×61=1830個の独立成分のうち25個の独立成分が、明らかにノイズに起因する独立成分としてハイブリッドモデル121への供給前に除外された。つまり、ハイブリッドモデル121は、1830-25=1805個の独立成分に対して、脳波成分であるか否かを判定した。
【0087】
また、ノイズの判定に精通している熟練者が、1805個の独立成分に対して、ノイズ成分であるか否かを判定した。熟練者は、1805個の独立成分のうち1129個の独立成分が脳波成分であると判定し、この1805個の独立成分のうち676個の独立成分がノイズ成分であると判定した。
【0088】
一方、ハイブリッドモデル121は、熟練者が脳波成分であると判定した1129個の独立成分のうち1120個の独立成分が脳波成分であると判定し、この1129個の独立成分のうち9個の独立成分がノイズ成分であると判定した。また、ハイブリッドモデル121は、熟練者がノイズ成分であると判定した676個の独立成分のうち9個の独立成分が脳波成分であると判定し、この676個の独立成分のうち667個の独立成分がノイズ成分であると判定した。
【0089】
ここで、判定対象が陽性であるか陰性であるかを判定する場合、精度と適合率と再現率とは、以下のように定義される。前提として、実際に陽性である判定対象に対して陽性と判定された判定対象の個数を真陽性(TP)、実際に陽性である判定対象に対して陰性と判定された判定対象の個数を偽陰性(FN)、実際に陰性である判定対象に対して陽性と判定された判定対象の個数を偽陽性(FP)、実際に陰性である判定対象に対して陰性と判定された判定対象の個数を真陰性(TN)とする。
【0090】
この場合、精度は、(TP+TN)/(TP+FN+FP+TN)で定義される。つまり、精度は、全ての判定対象の個数に対する、正しく判定された判定対象の個数の割合である。また、適合率は、TP/(TP+FP)で定義される。つまり、適合率は、陽性であると判定された判定対象の個数のうち、実際に陽性である判定対象の個数の割合である。また、再現率は、TP/(TP+FN)で定義される。つまり、再現率は、実際に陽性である判定対象の個数のうち、陽性であると判定された判定対象の個数の割合である。
【0091】
本評価では、判定対象は独立成分である。また、陽性は、独立成分が脳波成分であることを意味し、陰性は、独立成分がノイズ成分であることを意味する。従って、本評価では、精度は、(1120+667)/(1120+9+9+667)≒0.990である。また、適合率は、1120/(1120+9)≒0.992である。また、再現率は、1120/(1120+9)≒0.992である。以上から、ハイブリッドモデル121は、精度だけではなく、適合率及び再現率も高い良好なモデルであることが確認できた。
【0092】
以上説明したように、本実施の形態では、眼関連モデル122と非眼関連モデル123とを備えるハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かが判定される。ここで、眼関連モデル122は、眼関連成分の判定に特化したモデルであり、独立成分が眼関連成分であるか否かを精度良く判定することが可能である。一方、非眼関連モデル123は、非眼関連成分の判定に特化したモデルであり、独立成分が非眼関連成分であるか否か、独立成分がどのような非眼関連成分であるか等を、精度良く判定することが可能である。このため、ハイブリッドモデル121によれば、眼関連成分と非眼関連成分との双方について精度良く判定することが可能である。従って、本実施の形態によれば、脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援可能である。
【0093】
なお、単一のモデルを用いて、眼関連成分と非眼関連成分との双方について精度良く判定することは容易ではないと考えられる。この理由は、特定のアルゴリズムを利用するモデルと学習済みモデルとの何れも、万能なモデルにすることが容易でないと考えられるためである。つまり、特定のアルゴリズムを利用するモデルでは、非眼関連成分について精度よく判定することは容易ではないと考えられる。一方、学習済みモデルを、眼関連成分と非眼関連成分との双方について精度よく判定可能にするためには、膨大な量の機械学習が必要になると考えられる。
【0094】
また、本実施の形態では、特徴量として、独立成分を表す独立成分波形における磁気刺激直後の振幅の大きさを示す値が採用される。磁気刺激直後に発生するTMS由来ノイズは、この特徴量として現れる可能性が高い。従って、本実施の形態によれば、ノイズ判定の精度の向上が期待できる。
【0095】
また、本実施の形態では、特徴量として、独立成分に対して算出される複数の測定箇所のそれぞれのZスコアを示す値が採用される。瞬目ノイズと眼球運動ノイズとは、この特徴量として現れる可能性が高い。従って、本実施の形態によれば、ノイズ判定の精度の向上が期待できる。
【0096】
また、本実施の形態では、特徴量として、独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおけるα波由来の山の大きさを示す値が採用される。磁気刺激直後に発生するα波の脳波は、この特徴量として現れる可能性が高い。従って、本実施の形態によれば、ノイズ判定の精度の向上が期待できる。
【0097】
また、本実施の形態では、特徴量として、独立成分を表す独立成分波形のパワースペクトルにおける特定の周波数帯域における傾きを示す値が採用される。電磁ノイズと筋電ノイズとは、この特徴量として現れる可能性が高い。従って、本実施の形態によれば、ノイズ判定の精度の向上が期待できる。
【0098】
(実施の形態2)
実施の形態1では、ノイズ判定装置100が、磁気刺激装置200及び脳波計300の制御、判定結果の表示等の処理を実行する例について説明した。本実施の形態では、他の装置が、これらの処理を実行する例について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成及び機能については、適宜、説明を省略又は簡略化する。
【0099】
図12に示すように、本実施の形態に係るノイズ判定システム1100は、ノイズ判定装置110と、磁気刺激装置200と、脳波計300と、端末装置400とを備える。ノイズ判定装置110と端末装置400とは、通信ネットワーク700を介して相互に接続される。通信ネットワーク700は、例えば、インターネットである。
【0100】
ノイズ判定装置110は、被験者の脳波に基づいて、被験者が所定の精神疾患を有するか否かを判定する装置である。但し、ノイズ判定装置110は、ノイズ判定装置100とは異なり、磁気刺激装置200及び脳波計300を制御せず、処理結果を表示しない。その代わりに、ノイズ判定装置110は、通信ネットワーク700を介して端末装置400から脳波データを取得し、通信ネットワーク700を介して端末装置400に処理結果を送信する。
【0101】
ノイズ判定装置110は、例えば、ノイズ判定サービスを提供するクラウドサーバである。クラウドサーバは、クラウドコンピューティングにおけるリソースを提供するサーバである。ノイズ判定装置110は、サーバの一例である。
図13に示すように、ノイズ判定装置110は、制御部11と、記憶部12と、第2通信部16とを備える。
【0102】
第2通信部16は、制御部11による制御に従って、通信ネットワーク700に接続された各種の装置と通信する。本実施の形態では、第2通信部16は、制御部11による制御に従って、端末装置400と通信する。第2通信部16は、通信ネットワーク700に接続するための通信インターフェースを備える。
【0103】
磁気刺激装置200は、被験者に経頭蓋磁気刺激を与える装置である。本実施の形態では、磁気刺激装置200は、端末装置400により制御される。脳波計300は、被験者の脳波を測定する装置である。本実施の形態では、脳波計300は、端末装置400により制御される。また、本実施の形態では、脳波計300は、ケーブル320を介して脳波測定キャップ310Aに接続される。
【0104】
脳波測定キャップ310Aは、被験者の脳波を測定するために、被験者の頭部に装着されるキャップである。脳波測定キャップ310Aは、配置される電極311の個数と、電極311が配置される箇所とが、脳波測定キャップ310と異なる。つまり、脳波測定キャップ310Aにおける前頭部(例えば、前頭葉)に対応する部分に複数の電極311が配置され、被験者の前頭部(例えば、前頭葉)における脳波が測定される。本実施の形態では、電極311、測定箇所、及び、チャネルの個数は17個である。
【0105】
端末装置400は、ノイズ判定処理と関連する各種の処理を実行する装置である。例えば、端末装置400は、磁気刺激装置200を制御して、被験者の脳に磁気刺激を与える。また、端末装置400は、脳波計300から、被験者の脳波を示す脳波データを取得する。また、端末装置400は、脳波計300から取得した脳波データを、通信ネットワーク700を介して、ノイズ判定装置110に送信する。また、端末装置400は、通信ネットワーク700を介してノイズ判定装置110から取得した処理結果を提示する。
【0106】
端末装置400は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等である。端末装置400は、端末装置の一例である。
図14に示すように、端末装置400は、制御部41と、記憶部42と、表示部43と、操作受付部44と、第1通信部45と、第2通信部46とを備える。
【0107】
制御部41は、CPU、ROM、RAM、RTC等を備える。CPUは、中央処理装置、中央演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP等とも呼び、端末装置400の制御に係る処理及び演算を実行する中央演算処理部として機能する。制御部41において、CPUは、ROMに格納されているプログラム及びデータを読み出し、RAMをワークエリアとして用いて、端末装置400を統括制御する。RTCは、例えば、計時機能を有する集積回路である。なお、CPUは、RTCから読み出される時刻情報から現在日時を特定可能である。
【0108】
記憶部42は、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性の半導体メモリを備えており、いわゆる補助記憶装置としての役割を担う。記憶部42は、制御部41が各種処理を実行するために使用するプログラム及びデータを記憶する。また、記憶部42は、制御部41が各種処理を実行することにより生成又は取得するデータを記憶する。
【0109】
表示部43は、制御部41による制御に従って、各種の画像を表示する。例えば、表示部43は、ユーザから各種の操作を受け付けるための画面を表示する。表示部43は、タッチスクリーン、液晶ディスプレイ等を備える。操作受付部44は、ユーザから各種の操作を受け付け、受け付けた操作の内容を示す情報を制御部41に供給する。操作受付部44は、タッチスクリーン、ボタン、レバー等を備える。
【0110】
第1通信部45は、制御部41による制御に従って、各種の装置と通信する。本実施の形態では、第1通信部45は、制御部41による制御に従って、磁気刺激装置200及び脳波計300と通信する。第1通信部45は、周知の有線通信規格又は周知の無線通信規格に則って、各種の装置と通信する。第1通信部45は、各種の通信規格に準拠した通信インターフェースを備える。
【0111】
第2通信部46は、制御部41による制御に従って、通信ネットワーク700に接続された各種の装置と通信する。本実施の形態では、第2通信部46は、制御部41による制御に従って、ノイズ判定装置110と通信する。第2通信部46は、通信ネットワーク700に接続するための通信インターフェースを備える。
【0112】
次に、
図15を参照して、ノイズ判定装置110及び端末装置400の機能について説明する。ノイズ判定装置110は、機能的には、脳波取得部102と、独立成分抽出部103と、特徴量抽出部104と、ノイズ判定部105と、ノイズ除去部106と、結果送信部108とを備える。端末装置400は、機能的には、刺激制御部401と、脳波取得部402と、脳波送信部403と、表示制御部404とを備える。これらの各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、ROM、記憶部12又は記憶部42に格納される。そして、CPUが、ROM、記憶部12又は記憶部42に記憶されたプログラムを実行することによって、これらの各機能を実現する。
【0113】
刺激制御部401は、被験者の脳に対する磁気刺激を制御する。例えば、刺激制御部401は、予め定められた時間間隔で、被験者の脳に磁気刺激を与えるように磁気刺激装置200を制御する。刺激制御部401の動作は、基本的に、刺激制御部101の動作と同様である。
【0114】
脳波取得部402は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データを取得する。例えば、脳波取得部402は、被験者の脳波を測定するように脳波計300を制御して、脳波計300から測定された脳波を示す脳波データを取得する。脳波取得部402の動作は、基本的に、脳波取得部102の動作と同様である。脳波取得部402は、脳波取得部の一例である。
【0115】
脳波送信部403は、通信ネットワーク700を介して、脳波取得部402が取得した脳波データをノイズ判定装置110に送信する。脳波送信部403は、送信部の一例である。脳波取得部102は、被験者の脳波を示す脳波データを取得する。例えば、脳波取得部102は、通信ネットワーク700を介して、端末装置400から被験者の脳波を示す脳波データを取得する。
【0116】
独立成分抽出部103は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する。特徴量抽出部104は、独立成分抽出部103により抽出された複数の独立成分のそれぞれから、独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する。
【0117】
ノイズ判定部105は、ハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定する。ノイズ除去部106は、脳波取得部102が取得した脳波データから、ノイズ判定部105によりノイズ成分であると判定された独立成分を除去する。結果送信部108は、通信ネットワーク700を介して、ノイズ判定部105による判定結果を含む処理結果を端末装置400に送信する。処理結果には、判定結果に加え、脳波データに関する情報、独立成分に関する情報等が含まれる。
【0118】
表示制御部404は、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かの判定結果を含む処理結果を表示部43に表示させる。例えば、表示制御部404は、通信ネットワーク700を介してノイズ判定装置110から処理結果を取得し、この処理結果を提示するための提示画面を表示部43に表示させる。表示制御部404は、表示制御部の一例である。表示部43は、表示部の一例である。
【0119】
本実施の形態では、ノイズ判定装置110の代わりに端末装置400が、磁気刺激装置200及び脳波計300を制御する処理、判定結果を表示する処理等を実行する。具体的には、ノイズ判定サービスを提供するサーバとして機能するノイズ判定装置110が、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから、独立成分分析により複数の独立成分を抽出する独立成分抽出部103と、独立成分抽出部103により抽出された複数の独立成分のそれぞれから、独立成分の特徴を表す特徴量を抽出する特徴量抽出部104と、特徴量に基づいて、独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する眼関連モデル122と、眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、特徴量に基づいて、独立成分が眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと独立成分が脳波成分であるか否かを判定する非眼関連モデル123とを備えるハイブリッドモデル121と、ハイブリッドモデル121の判定結果に基づいて、複数の独立成分のそれぞれがノイズ成分であるか否かを判定するノイズ判定部105と、を備える。従って、本実施の形態によれば、ノイズ判定装置110の処理負荷を低減しつつ、脳波の測定により取得された脳波データからノイズ成分を適切に除去することを支援可能である。
【0120】
また、本実施の形態で測定される脳波は、被験者の前頭部に設けられた複数の電極311を介して測定された、被験者の前頭葉の複数の測定箇所における脳波である。脳波の測定箇所が少ない場合、独立成分の抽出、特徴量の抽出等に要する処理負荷が低減される。本実施の形態によれば、ノイズ除去処理に伴うノイズ判定装置110の処理負荷が低減される。
【0121】
(変形例)
以上、本開示の実施の形態を説明したが、種々の形態による変形及び応用が可能である。
【0122】
上記実施の形態において説明した構成、機能、動作のどの部分を採用するのかは任意である。また、上述した構成、機能、動作のほか、更なる構成、機能、動作が採用されてもよい。また、上述した実施の形態は、適宜、自由に組み合わせることができる。また、上述した実施の形態で説明した構成要素の個数は、適宜、調整することができる。また、採用可能な素材、サイズ、電気的特性などが、上記実施の形態において示したものに限定されないことは勿論である。
【0123】
実施の形態1では、独立成分から抽出される特徴量として、第1の特徴量と第2の特徴量と第3の特徴量と第4の特徴量とが採用される例について説明した。独立成分から抽出される特徴量としてどのような特徴量を採用するのかは、適宜、調整することができる。例えば、独立成分から抽出される特徴量として、第1の特徴量と第2の特徴量と第3の特徴量と第4の特徴量とのうち1つ、2つ又は3つの特徴量が採用されてもよい。また、独立成分から抽出される特徴量として、第1の特徴量と第2の特徴量と第3の特徴量と第4の特徴量とが採用されなくてもよい。
【0124】
実施の形態1では、ノイズ判定装置100と磁気刺激装置200と脳波計300とが個別の装置である例について説明した。これらの装置が統合された装置が採用されてもよい。例えば、ノイズ判定装置100に磁気刺激装置200の機能を持たせてもよいし、ノイズ判定装置100に脳波計300の機能を持たせてもよいし、ノイズ判定装置100に磁気刺激装置200の機能と脳波計300の機能とを持たせてもよい。
【0125】
上記実施の形態では、制御部11,41において、CPUがROM又は記憶部12,42に記憶されたプログラムを実行することによって、
図4,15に示した各部として機能した。しかしながら、本開示において、制御部11,41は、専用のハードウェアであってもよい。専用のハードウェアとは、例えば単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらの組み合わせ等である。制御部11,41が専用のハードウェアである場合、各部の機能それぞれを個別のハードウェアで実現してもよいし、各部の機能をまとめて単一のハードウェアで実現してもよい。また、各部の機能のうち、一部を専用のハードウェアによって実現し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実現してもよい。このように、制御部11,41は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又は、これらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0126】
本開示に係るノイズ判定装置100,110、端末装置400の動作を規定する動作プログラムを既存のパーソナルコンピュータ又は情報端末装置等のコンピュータに適用することで、当該コンピュータを、本開示に係るノイズ判定装置100,110、端末装置400として機能させることも可能である。また、このようなプログラムの配布方法は任意であり、例えば、CD-ROM(Compact Disk ROM)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical Disk)、又は、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよいし、インターネット等の通信ネットワークを介して配布してもよい。
【0127】
このように、本開示に係る技術は、種々の形態において保護される。保護形態としては、ノイズ判定装置、ハイブリッドモデル、ノイズ判定方法、プログラム、端末装置の他、サーバ、記録媒体、プログラム製品、分類器システム、ニューラルネットワークシステム等が考えられる。なお、記録媒体は、例えば、コンピュータを独立成分抽出部103、特徴量抽出部104及びノイズ判定部105として機能させるプログラムを格納した記録媒体である。上記記録媒体は、上記プログラムを格納した非一時的な記録媒体であってもよい。また、プログラム製品は、上記プログラムに関する製品である。プログラム製品は、記録媒体を伴わない製品を含む。上記プログラム及び上記プログラム製品は、記録媒体により提供される形態でもよいし、外部のコンピュータから配信される形態でもよい。
【0128】
上記分類器システムは、上記ハイブリッドモデル121に対応するシステムであり、第1分類器と第2分類器とを備えるシステムである。第1分類器は、眼関連モデル122に対応する分類器である。第1分類器は、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出された複数の独立成分のそれぞれから抽出された特徴量に基づいて、独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定する分類器である。第2分類器は、非眼関連モデル123に対応する分類器である。第2分類器は、眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、特徴量に基づいて、独立成分が眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと独立成分が脳波成分であるか否かとを判定する分類器である。
【0129】
上記ニューラルネットワークシステムは、上記ハイブリッドモデル121に対応するシステムであり、第1ニューラルネットワークと第2ニューラルネットワークとを備えるシステムである。第1ニューラルネットワークは、眼関連モデル122に対応するニューラルネットワークである。第1ニューラルネットワークは、被験者の脳に磁気刺激が与えられたときに測定された脳波を表す脳波データから抽出された複数の独立成分のそれぞれから抽出された特徴量に基づいて、独立成分が眼の動きに由来するノイズ成分である眼関連成分であるか否かを判定するニューラルネットワークである。第2ニューラルネットワークは、非眼関連モデル123に対応するニューラルネットワークである。第2ニューラルネットワークは、眼関連成分以外のノイズ成分と脳波に由来する脳波成分とを含む非眼関連成分について学習し、特徴量に基づいて、独立成分が眼関連成分以外のノイズ成分であるか否かと独立成分が脳波成分であるか否かとを判定するニューラルネットワークである。
【0130】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0131】
L1,L2,L3 直線、P6,P10,P14,Pc 点、11,41 制御部、12,42 記憶部、13,43 表示部、14,44 操作受付部、15,45 第1通信部、16,46 第2通信部、50 時間窓、60 等電位線、100,110 ノイズ判定装置、101,401 刺激制御部、102,402 脳波取得部、103 独立成分抽出部、104 特徴量抽出部、105 ノイズ判定部、106 ノイズ除去部、107,404 表示制御部、108 結果送信部、121 ハイブリッドモデル、122 眼関連モデル、123 非眼関連モデル、200 磁気刺激装置、210 コイル、220,320 ケーブル、300 脳波計、310,310A 脳波測定キャップ、311,311A,311B,311C,311D,311E,311E,311F,311G,311H 電極、312 電線、400 端末装置、403 脳波送信部、700 通信ネットワーク、1000,1100 ノイズ判定システム