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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179549
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】レーザ干渉計
(51)【国際特許分類】
   G01B 9/02015 20220101AFI20241219BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01B9/02015
G01B11/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098481
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
(72)【発明者】
【氏名】出口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼
(72)【発明者】
【氏名】石井 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】林 寧生
【テーマコード(参考)】
2F064
2F065
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064CC10
2F064EE01
2F064FF01
2F064FF05
2F064GG02
2F064GG15
2F064GG24
2F064GG52
2F064HH01
2F064HH05
2F064JJ04
2F065AA06
2F065FF52
2F065GG04
2F065JJ01
2F065JJ15
2F065LL02
2F065LL16
(57)【要約】
【課題】 サンプリング周波数を大きくする手法とは異なる手法にて、計測可能な計測距離を拡大可能なレーザ干渉計の一例を開示する。
【解決手段】 参照光を複数に分割し、それら複数の参照光と測定光との干渉を利用して演算距離を演算して計測距離を決定する。これにより、当該レーザ干渉計(計測装置)20では、サンプリング周波数を大きくすることなく、計測可能な計測距離を拡大可能となり得る。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャープされたパルス光を、参照ミラーに向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割し、当該参照光と当該測定光とを利用して予め設定された基準位置と計測対象物との距離を計測するレーザ干渉計において、
前記参照ミラーで反射した参照光及び計測対象物で反射した測定光が入射する合波部であって、当該入射した光を合波させて干渉光を生成する合波部と、
前記干渉光を検出するとともに、当該検出結果に基づいて前記距離を算出する演算検出部とを備え、
前記合波部に入射する参照光の光路として、少なくとも第1分割光路、第2分割光路及び第3分割光路が設けられており、
さらに、前記第1分割光路の光路長と前記第2分割光路の光路長との差と、前記第2分割光路の光路長と前記第3分割光路の光路長との差が異なっている
レーザ干渉計。
【請求項2】
前記合波部は、
前記複数の分割光路から出射する複数の光を合波させて合波参照光を生成する第1合波部、及び
前記合波参照光と計測対象物で反射した前記測定光とを合波させて前記干渉光を生成する第2合波部を有して構成されている請求項1に記載のレーザ干渉計。
【請求項3】
チャープされたパルス光を、前記参照ミラーに向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割する第1分割部と、
前記参照ミラーで反射された参照光を、前記第1分割光路に入射させる光、前記第2分割光路に入射させる光、及び第3分割光路に入射させる光に分割する第2分割部と
を備える請求項1又は2に記載のレーザ干渉計。
【請求項4】
計測対象物に向かう測定光を当該計測対象物上の所望の位置に走査する走査機構を備える請求項3に記載のレーザ干渉計。
【請求項5】
前記複数の分割光路にて発生する温度ドリフトを補正する温度補正部を備える請求項3に記載のレーザ干渉計。
【請求項6】
前記合波部、前記第1分割部及び前記第2分割部のうち少なくとも1つは、光ファイバーカプラ又は光ファイバースプリッタで構成する請求項3に記載のレーザ干渉計。
【請求項7】
チャープされたパルス光を、参照ミラーに向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割し、当該参照光と当該測定光とを利用して予め設定された基準位置と計測対象物との距離を計測するレーザ干渉計において、
前記参照ミラーで反射した参照光及び計測対象物で反射した測定光が入射する合波部であって、当該入射した光を合波させて干渉光を生成する合波部と、
前記干渉光を検出するとともに、当該検出結果に基づいて前記距離を算出する演算検出部とを備え、
前記合波部に入射する参照光の光路として、少なくとも第1分割光路及び第2分割光路が設けられており、
さらに、前記第1分割光路の光路長と前記第2分割光路の光路長とが異なっている
レーザ干渉計。
【請求項8】
レーザ光を計測対象物に照射するレーザ加工装置と、
チャープされたパルス光を、参照ミラーに向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割し、当該参照光と当該測定光とを利用して予め設定された基準位置と計測対象物との距離を計測するレーザ干渉計と、
前記レーザ干渉計の計測結果に基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御装置とを具備し、
前記レーザ干渉計は、
前記参照ミラーで反射した参照光及び計測対象物で反射した測定光が入射する合波部であって、当該入射した光を合波させて干渉光を生成する合波部と、
前記干渉光を検出するとともに、当該検出結果に基づいて前記距離を算出する演算検出部とを備え、
前記合波部に入射する参照光の光路として、少なくとも第1分割光路、第2分割光路及び第3分割光路が設けられており、
さらに、前記第1分割光路の光路長と前記第2分割光路の光路長との差と、前記第2分割光路の光路長と前記第3分割光路の光路長との差が異なっている
レーザ加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基準位置と計測対象物との距離を計測するレーザ干渉計に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ干渉計は、同一の光源から出射された参照光と測定光とを重ね合わせる(以下、「合波する」ともいう。)際に発生する光の干渉を利用して距離を計測する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、参照光は、参照ミラーで反射した光である。測定光は、計測対象物で反射した光である。このため、参照光の光路長と測定光の光路長とで光路長に差が生じるため、参照光と測定光とが合波したときに2つの光に位相差が生じ、光の干渉が発生する。
【0004】
つまり、参照光と測定光とが合波した光は、干渉縞に相当する波形を有する光(以下、干渉光という。)となる。そして、レーザ干渉計は、当該干渉光の波形(以下、干渉波形という。)を計測することにより、基準位置と計測対象物との距離を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-28072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るレーザ干渉計では、干渉波形を計測して距離を算出するので、計測可能な距離を拡大するには、干渉波形を取得する際のサンプリング周波数を大きくする必要がある。しかし、サンプリング周波数を大きくすることは、レーザ干渉計の製造原価上昇、及び新たな技術的な課題を招くおそれが高い。
【0007】
本開示は、上記点に鑑み、サンプリング周波数を大きくする手法とは異なる手法にて、計測可能な計測距離を拡大可能なレーザ干渉計の一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
チャープされたパルス光を、参照ミラー(23A)に向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割し、予め設定された基準位置と計測対象物との距離を計測するレーザ干渉計は、例えば、以下の構成要件のうち少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0009】
すなわち、当該構成要件は、参照ミラー(23A)で反射した参照光及び計測対象物で反射した測定光が入射する合波部(23F、25)であって、当該入射した光を合波させて干渉光を生成する合波部(23F、25)と、干渉光を検出するとともに、当該検出結果に基づいて距離を算出する演算検出部(26)とである。
【0010】
そして、合波部(23F、25)に入射する参照光の光路として、少なくとも第1分割光路(RL1)、第2分割光路(RL2)及び第3分割光路(RL3)が設けられており、さらに、第1分割光路(RL1)の光路長と第2分割光路(RL2)の光路長との差と、第2分割光路(RL2)の光路長と第3分割光路(RL3)の光路長との差が異なっていることが望ましい。
【0011】
これにより、当該レーザ干渉計では、サンプリング周波数を大きくすることなく、計測可能な計測距離を拡大可能となり得る。
すなわち、演算検出部(26)が検出する干渉波は、第1参照光と測定光とが合波した光、第2参照光と測定光とが合波した光、及び第3参照光と測定光とが合波した光のうちいずれかの干渉波である。したがって、いずれの干渉波であるかを特定することができれば、基準位置と計測対象物との距離を計測できる。
【0012】
なお、第1参照光とは、第1分割光路(RL1)を経由した参照光をいう。第2参照光とは、第2分割光路(RL2)を経由した参照光をいう。第3参照光とは、第3分割光路(RL3)を経由した参照光をいう。
【0013】
第1参照光~第3参照光と測定光との干渉を利用した計測距離の範囲は、例えば、第1参照光のみと測定光との干渉を利用した計測距離の範囲より大きくなる。したがって、サンプリング周波数を大きくする手法とは異なる手法にて、計測可能な計測距離を拡大でき得る。
【0014】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るレーザ加工システムのブロック図である。
図2】第1実施形態に係るレーザ干渉計(計測装置)の概念図である。
図3】距離と演算距離との関係を示す図である。
図4】干渉波のスペクトル強度を示す図である。
図5】干渉波のスペクトル強度を示す図である。
図6】干渉波のスペクトル強度を示す図である。
図7】干渉波のスペクトル強度を示す図である。
図8】距離と計測距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の「発明の実施形態」は、本開示の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されない。
【0017】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。本開示に示されたレーザ干渉計は、少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位等の構成要素、並びに図示された構造部位のうち少なくとも1つを備える。
【0018】
(第1実施形態)
<1.レーザ加工システムの概要>
本実施形態は、レーザ加工システムに本開示に係るレーザ干渉計が組み込まれた例である。図1に示されるように、当該レーザ加工システム1は、レーザ加工装置10、制御装置50及びレーザ干渉計20等を少なくとも備える。
【0019】
レーザ加工装置10は、加工対象物であるワークにレーザ光を照射することにより、当該加工対象物を加工する装置である。なお、当該加工とは、例えば、溶接や溶断等のレーザ光の熱エネルギを利用した加工である。
【0020】
当該レーザ加工装置10は、レーザ発振器11及び加工ヘッド13等を少なくとも有する。レーザ発振器11は、所定の波長及び出力を有するレーザ光を発生させ、加工ヘッド13に出力する。加工ヘッド13は、当該レーザ光をワークに向けて照射する。
【0021】
レーザ干渉計20(以下、計測装置20ともいう。)は、予め設定された基準位置と計測対象物(本実施形態では、加工対象物であるワーク)との距離を計測する計測装置である。制御装置50は、計測装置20の計測結果に基づいてレーザ加工装置10を制御するコントローラである。
【0022】
<2.計測装置>
<2.1 計測装置の構成>
計測装置20は、チャープされたパルス光を、参照ミラーに向かう参照光と計測対象物に向かう測定光とに分割し、当該参照光と当該測定光とを利用して予め設定された基準位置と計測対象物(以下、ワークともいう。)との距離を計測する。
【0023】
計測装置20は、図2に示されるように、発光装置21、第1分割部22、参照光路部(参照アームともいう。)23、測定光路部(測定アームともいう。)24、第2合波部25、及び演算検出部26等を少なくとも備える。
【0024】
<発光装置>
発光装置21は、チャープされたパルス光を生成し、当該パルス光を第1分割部22に入力させる。具体的には、当該発光装置21は、光源21A及び分散性媒質21B等を少なくとも有する。
【0025】
光源21Aは、レーザ加工装置10が加工に用いるレーザ光とは異なる波長域のパルス光(パルスレーザ光ともいう。)を出射する。分散性媒質21Bは、光源21Aから出射されたパルス光をチャープさせ、パルス幅の広いパルス光を生成する。
【0026】
つまり、分散性媒質21Bは、演算検出部26においてビート信号(干渉波ともいう。)を検出できる程度にパルス光のパルス幅を伸長させる。なお、本実施形態に係る分散性媒質21Bは、長さ数kmから数十kmの光ファイバー、又は分散補償ファイバーにて構成されている。
【0027】
<第1分割部>
第1分割部22は、チャープされたパルス光を、参照ミラー23Aに向かう参照光とワークに向かう測定光とに分割する。なお、本実施形態に係る第1分割部22は、光ファイバーカプラ又は光ファイバースプリッタ(本実施形態では、光ファイバーカプラ)で構成されている。
【0028】
<参照光路部>
参照光路部23は、第1分割部22から出射された参照光の光路を構成する部分である。具体的には、当該参照光路部23は、参照光を参照ミラー23Aに導く光路R1、及び当該参照ミラー23Aで反射した参照光を第2合波部25に導く光路R2を構成する。
【0029】
本実施形態に係る参照光路部23は、参照ミラー23A、第1光サーキュレータ23B、光ファイバー23C、ディレイライン23D、第2分割部23E、及び第1合波部23F等を少なくとも有して構成されている。
【0030】
参照ミラー23Aは、第1分割部22で分割された参照光を反射させる。なお、本実施形態に係る参照ミラー23Aは、反射コーティング付パッチケーブル(ファイバーレトロリフレクタ)である。
【0031】
第1光サーキュレータ23Bは、入射した光の循環経路を予め決められた光路に切り替える。具体的には、第1光サーキュレータ23Bは、第1分割部22から出射して入射した参照光を参照ミラー23A側に出射させ、参照ミラー23Aで反射して入射した光を第2合波部25側に向けて出射させる。
【0032】
光ファイバー23Cは、光路長を調節するためのものである。ディレイライン23Dは、参照光の伝搬を遅延させる。第2分割部23Eは、参照ミラー23Aにて反射してきた参照光を複数に分割する。
【0033】
すなわち、第2分割部23Eと第1合波部23Fとの間の光路は、少なくとも3つ(本実施形態では、4つ)の分割光路RL1~RL4に分割されている。そして、各分割光路RL1~RL4の光路長は、L1<L2<L3<L4となっている。
【0034】
なお、L1は第1分割光路RL1の光路長である。L2は第2分割光路RL2の光路長である。L3は第3分割光路RL3の光路長である。L4は第4分割光路RL4の光路長である。
【0035】
さらに、光路長L1光路長L2との差ΔL12、光路長L2と光路長L3との差ΔL23、及び光路長L3と光路長L4との差ΔL34それぞれが異なっている。具体的には、本実施形態では、ΔL12<ΔL23<ΔL34となっている。
【0036】
第1合波部23Fは、複数の分割光路RL1~RL4から出射する複数の参照光を合波させて合波参照光を生成する。第1合波部23Fにて生成された合波参照光は、第2合波部25に入射する。
【0037】
<測定光路部>
測定光路部24は、第1分割部22から出射された測定光の光路を構成する部分である。具体的には、当該測定光路部24は、測定光をワークに導く光路R3、及び当該ワークで反射した測定光を第2合波部25に導く光路R4を構成する。
【0038】
本実施形態に係る測定光路部24は、第2光サーキュレータ24A、光ファイバー24B、走査機構24C及び測定ヘッド24D等を少なくとも有して構成されている。第2光サーキュレータ24Aは、入射した光の循環経路を予め決められた光路に切り替える。
【0039】
具体的には、第2光サーキュレータ24Aは、第1分割部22から出射して入射した測定光をワーク側に出射させ、ワークで反射して入射した光を第2合波部25側に向けて出射させる。
【0040】
光ファイバー24Bは光路長を調節するためのものであって、光ファイバー23Cと同じ長さである。測定ヘッド24Dは、測定光をワークに向けて出射する。走査機構24Cは、測定ヘッド24Dを走査してワークに向かう測定光を当該計ワーク上の所望の位置に走査する。なお、本実施形態に係る走査機構24Cは、ガルバノスキャナである。
【0041】
本実施形態では、参照光路部23及び測定光路部24それぞれには、計測に必要な出力を得るために、光増幅器(図示せず。)が設けられている。そして、当該光増幅器によって参照光及び測定光それぞれが増幅されている。
【0042】
<第2合波部>
第2合波部25は、第1合波部23Fで生成された合波参照光とワークで反射した測定光とを合波させて干渉光を生成する。第2合波部25、第2分割部23E及び第1合波部23Fは、光ファイバーカプラ又は光ファイバースプリッタで構成されている。なお、本実施形態では、第2合波部25は光ファイバーカプラであり、第2分割部23E及び第1合波部23Fは光ファイバースプリッタである。
【0043】
<演算検出部>
演算検出部26は、干渉光を検出するとともに、当該検出結果に基づいて距離を算出する。具体的には、演算検出26は、検出部26A及び演算部26B等を少なくとも有する。検出部26Aは、第2合波部25から出射された干渉波を検出する。なお、本実施形態に係る検出部26Aは、フォトダイオードである。
【0044】
演算部26Bは、検出器26Aの検出結果に基づいて、ワークと基準位置(例えば、参照ミラー23A)との間の距離を算出する。具体的には、例えば、演算部26Bは、干渉光の周波数が光路長差に比例することを利用して距離を演算する。
【0045】
また、演算部26Bには、複数の分割光路L1~L4にて発生する温度ドリフトを補正する温度補正機能を実現する補正部26Cが設けられている。
なお、演算部26Bは、CPU、ROM及びRAM等を有するコンピュータ又はFPGA (Field Programmable Gate Array)にて構成されている。当該補正部26C及び下記の演算処理機能は、ROM等の不揮発性記憶部に予め記憶されたソフトウェアにより実現される。
【0046】
<2.2 計測距離の決定>
検出部26Aが検出する干渉波は、第1参照光と測定光とが合波した光(以下、第1干渉光という。)、第2参照光と測定光とが合波した光(以下、第2干渉光という。)、第3参照光と測定光とが合波した光(以下、第3干渉光という。)、及び第4参照光と測定光とが合波した光(以下、第4干渉光という。)のいずれかである。
【0047】
第1参照光とは、第1分割光路RL1を経由した参照光をいう。第2参照光とは、第2分割光路RL2を経由した参照光をいう。第3参照光とは、第3分割光路RL3を経由した参照光をいう。第4参照光とは、第4分割光路RL4を経由した参照光をいう。
【0048】
したがって、演算対象となる干渉波が、第1干渉光~第4干渉波のうちいずれの干渉波であるかを特定することができれば、基準位置とワークとの距離、つまり計測距離を決定できる。
【0049】
例えば、第2干渉光を用いて距離を演算する場合には、演算部26Bは、当該第2干渉光の周波数が光路長差に比例することを利用して、予め設定された原点位置とワークとの距離(以下、演算距離という。)を演算する。
【0050】
そして、演算部26Bは、その演算距離にオフセット距離を加算するとともに、ΔL12を加算又は減算して計測距離を決定する。オフセット距離とは、計測距離の基準位置と演算距離に原点位置とのずれを示す距離である。なお、原点位置は、演算距離の基準位置と異なる位置又は同一の位置である。
【0051】
ところで、第1参照光による第1測定範囲、第2参照光による第2測定範囲、第3参照光による第3測定範囲、及び第4参照光による第4測定範囲それぞれの大きさは、同じである(図3参照)。
【0052】
第1測定範囲とは、第1参照光と測定光との干渉により測定可能な演算距離の範囲をいう。第2測定範囲とは、第2参照光と測定光との干渉により測定可能な演算距離の範囲をいう。第3測定範囲とは、第3参照光と測定光との干渉により測定可能な演算距離の範囲をいう。第4測定範囲とは、第4参照光と測定光との干渉により測定可能な演算距離の範囲をいう。
【0053】
なお、図3において、T1は第1干渉光を利用して測定された演算距離(縦軸)と計測距離(横軸)との関係を示すグラフである。T2は第2干渉光を利用して測定された演算距離と計測距離との関係を示すグラフである。
【0054】
T3は第3干渉光を利用して測定された演算距離と計測距離との関係を示すグラフである。T4は第4干渉光を利用して測定された演算距離と計測距離との関係を示すグラフである。したがって、各測定範囲は、T1~T4の縦軸で示される範囲である。
【0055】
図3の横軸は、基準位置から距離である。つまり、横軸は、真の距離(=計測距離相当)である。縦軸は、その真の距離を測定したときの演算距離、つまり干渉波から演算された演算値である。
【0056】
したがって、例えば、グラフT3により決まる演算距離に、オフセット距離を加算するとともに、ΔL12及びΔ23を加算又は減算した値が計測距離、つまり基準位置からワークまでの距離となる。
【0057】
また、第1測定範囲により演算される計測距離の範囲の最大値をMD1とし、第2測定範囲により演算される計測距離の範囲の最大値をMD2とし、第3測定範囲により演算される計測距離の範囲の最大値をMD3とし、第4測定範囲により演算される計測距離の範囲の最大値をMD3とした場合、各最大計測距離の関係は、MD1<MD2<MD3<MD4となる。
【0058】
したがって、本実施形態に係る計測装置20における計測可能な範囲の最大値は、MD4であり、計測可能な範囲の最小値は、第1測定範囲により決定される計測距離の範囲の最小値である。
【0059】
そして、演算対象となる干渉波が第1干渉光~第4干渉波のうちいずれの干渉波であるかが特定されれば、計測装置20は、当該最小値と当該最大値との間で距離を計測できるので、サンプリング周波数を大きくする手法とは異なる手法にて、計測可能な計測距離を拡大でき得る。
【0060】
ところで、第1参照光~第3参照光それぞれが測定光と干渉すると、当該干渉に応じた干渉波形(以下、測定干渉波形という。)が生成される。そして、当該計測装置20では、ΔL12、ΔL23及びΔL34それぞれの値が異なっている。
【0061】
このため、参照光毎に異なる測定干渉波形となるので、これらの測定干渉波形を解析することにより、演算部26Bは、第1干渉光~第3干渉波のうちいずれの干渉波であるかを特定することができ得る。
【0062】
具体的には、例えば、図3において、距離が5mmの場合、第1干渉光及び第2干渉光が発生する。このような場合の測定干渉波形のスペクトル強度を示す波形は、図4に示された測定干渉波形となる。距離が17mmの場合、第1干渉光、第2干渉光及び第3干渉波が発生する。このような場合の測定干渉波形のスペクトル強度を示す波形は、図5に示された測定干渉波形となる。
【0063】
距離が27mmの場合、第2干渉波、第3干渉光及び第4干渉光が発生する。このような場合の測定干渉波形のスペクトル強度を示す波形は、図6に示された測定干渉波形となる。距離が37mmの場合、第3干渉光及び第4干渉光が発生する。このような場合の測定干渉波形のスペクトル強度を示す波形は、図7に示された測定干渉波形となる。
【0064】
したがって、測定干渉波形を解析することにより、第1干渉光~第3干渉波のうちいずれの干渉波であるかを特定することができ得る。具体的には、当該演算部26Bは、スペクトル強度が最も大きい干渉波を、演算対象となる干渉波として演算距離を演算する。次に、演算部26Bは、当該演算距離に基づいて計測距離を決定する。
【0065】
例えば、図4に示された測定干渉波形が測定された場合には、スペクトル強度が最も大きくなるのは、第1干渉波であるので、演算部26Bは、第1参照波を利用して計測距離を演算する。
【0066】
また、図6に示された測定干渉波形が測定された場合には、スペクトル強度が最も大きくなるのは、第3干渉波であるので、演算部26Bは、第3参照波を利用して計測距離を演算する。
【0067】
ところで、図3に示されるように、各干渉波には、同一の距離に対して2つの演算距離が存在する。つまり、利用すべき干渉波が特定され、その特定された干渉波から演算距離が演算されても、計測距離が一義的に決定できない。
【0068】
すなわち、干渉波は「位相のずれ」を原因として発生する。このため、当該位相のずれがプラス側に発生した場合、及びマイナス側に発生した場合のいずれの場合も同じ干渉が発生する。換言すれば、グラフT1~T4それぞれは、演算距離が0となる距離に対して、プラス側とマイナス側とが対称なV字形状となる。
【0069】
しかし、各干渉波の演算距離が0となる距離は、既知である。そして、ΔL12、ΔL23及びΔL34は、干渉波にて計測可能な計測距離の範囲内において、少なくとも2つの干渉波が発生するように選定されている。
【0070】
具体的には、例えば、距離が5mmの場合、第1干渉光及び第2干渉光が発生する。距離が17mmの場合、第1干渉光、第2干渉光及び第3干渉波が発生する。距離が27mmの場合、第2干渉波、第3干渉光及び第4干渉光が発生する。
【0071】
したがって、複数の干渉波のうち、「いずれかの干渉波による演算距離と計測距離との関係」、及び「他の干渉波による演算距離と計測距離との関係」を利用することにより、干渉を発生させる位相のずれがプラス側で発生したものか又はマイナス側で発生したものかを特定できる。
【0072】
このため、演算部26Bは、スペクトル強度に基づいて利用すべき干渉波を特定し、その特定された干渉波とその他の干渉波とを利用して位相のずれがプラス側で発生したものか又はマイナス側で発生したものかを特定して計測距離を特定する。
【0073】
なお、図8は、図4図7に示される測定干渉波形に基づいて、距離と計測距離との関係を示すグラフである。例えば、距離が2mm以下の場合には、演算部26Bは、第1干渉波を利用して計測距離を演算する。例えば、距離が25mm~35mmの場合には、演算部26Bは、第3干渉波を利用して計測距離を演算する。
【0074】
<3.本実施形態に係るレーザ加工システム(特に、計測装置)の特徴>
上記のように、本実施形態に係る計測装置20では、複数の干渉波を利用して演算距離を演算して計測距離を決定する。これにより、当該計測装置20では、サンプリング周波数を大きくすることなく、計測可能な計測距離を拡大可能となり得る。
【0075】
換言すれば、図8に示されるように、複数の参照波を用いた計測装置20では、1つの参照を用いた構成に比べて計測可能な範囲が大きくなる。このとき、演算部26Bは、いずれの参照波を利用して演算距離を演算するかを決定し、その決定された演算距離に基づいて計測距離を決定する。
【0076】
したがって、当該計測装置20では、サンプリング周波数を大きくすることなく、計測可能な計測距離を拡大可能となり得る。因み、図3及び図8の横軸が当該計測装置20における計測可能な範囲となる。図3の縦軸が各参照光による測定可能な範囲となる。
【0077】
また、当該計測装置20では、複数の参照光を利用して、基準位置とワークとの距離を演算するので、演算距離がプラスの距離であるかマイナスの距離であるかを判別できる。延いては、計測可能な距離を適切に拡大できる。
【0078】
さらに、複数の分割光路L1~L4にて発生する温度ドリフトを補正する温度補正機能を実現する補正部が設けられている。これにより、室温で計測された基準間隔と比較して調整できるので、上記の大きなスペクトル強度の出現間隔が大きく変動することを抑制できる。
【0079】
ところで、本実施形態では計測可能な距離を長くすることが可能であるので、加工点から離れた点を基準位置することができる。このため、本実施形態に係るレーザ加工システム1では、参照光路部23と測定光路部24との間で大きな温度差が発生するおそれがある。
【0080】
しかし、本実施形態では、複数の分割光路L1~L4にて発生する温度ドリフトを補正する温度補正機能を実現する補正部が設けられているので、参照光路部23と測定光路部24との温度差による温度ドリフトを補正することも可能である。
【0081】
また、当該レーザ加工システム1では、測定分解能や計測間隔を維持したまま、数倍の距離を計測することが可能になる。延いては、高精度なレーザ加工システムや計測装置を構成する際のコストメリットが大きくなる。
【0082】
また、従来技術では不可能であった数十ミリの計測範囲をサブミクロン精度で高速計測可能になることから、ワーク表面までの距離がダイナミックに変動するレーザ溶接用スキャナヘッドを使用したリモート溶接の品質管理や高速フィードバック制御が可能になるため、生産性の向上が見込まれる。
【0083】
さらに、レーザ加工の現場では周囲温度の変化が大きいため、加工品質の検査やフィードバック制御に適用する上で、計測装置の温度ドリフトは重大な課題になるが、本実施形態に係るレーザ加工システムによれば、安定した加工品質を維持することが可能になる。
【0084】
(第2実施形態)
第1実施形態では、参照光を3つ以上に分割した。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、本実施形態では、参照光を2つに分割し、これらの参照光と測定光との干渉を利用して演算距離を演算する。
【0085】
すなわち、例えば、第1参照光、つまり図3のグラフT1のみを利用する構成であると、距離が約7.5mm(演算距離が0となる距離D1)より大きな距離を計測できない。これは、グラフT1は、距離D1に対して対称なV字状のグラフとなるため、当該演算距離が、距離D1に対してプラス側の値であるかマイナス側の値であるかを特定できないからである。
【0086】
しかし、第1参照光に加えて、第2参照光、つまり図3のグラフT2も利用する構成であれば、第1参照に基づく演算距離と第2参照に基づく演算距離とを比較することができるので、少なくとも、「距離0mm」から「T1とT2とが交差する距離D2」までの距離において、演算距離が、距離D1に対してプラス側の値であるかマイナス側の値であるかを特定できる。
【0087】
したがって、光路長が異なる少なくとも2種類の参照光を利用したレーザ干渉計であれば、1種類の参照光のみを利用して距離を計測するレーザ干渉計に比べて、計測距離を拡大させることが可能となる。
【0088】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、複数の分割光路L1~L4を設けることによって計測距離を拡大させた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、複数の分割光路L1~L4を設ける手法に加えて他の手法(例えば、サンプリング周波数を大きくする手法)を組み合わせてもよい。
【0089】
上述の実施形態では、2つ合波部を備えていた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、2つ合波部を1つの合波部に統合してもよい。つまり、複数の参照光と測定光とを同時に合波する構成であってもよい。
【0090】
上述の実施形態では、参照ミラーにて反射した参照光を分割する構成であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、参照ミラーにて反射する前にパルス光を分割して参照ミラーに向けて出射する構成であってもよい。
【0091】
上述の実施形態では、スペクトル強度を利用して利用すべき干渉波、つまり利用すべき参照光を特定した。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、図8に示されるように、計測対象となる計測距離の範囲に応じて利用すべき参照光を自動特定又は手動特定してもよい。
【0092】
上述の実施形態では、本開示に係るレーザ干渉計をレーザ加工システムに適用した。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、レーザ干渉計のみでの使用、又はレーザ加工システム以外の機器に組み込まれたレーザ干渉計であってもよい。
【0093】
上述の実施形態では、走査機構及び温度補正部を備えるレーザ干渉計であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、走査機構及び温度補正部のうち少なくとも一方が廃止された構成であってもよい。
【0094】
上述の実施形態では、合波部23F、25、第1分割部22及び第2分割部23Eが光ファイバーカプラ又は光ファイバースプリッタで構成されていた。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、例えば、分割部等がハーフミラー等にて構成されていてもよい。
【0095】
上述の実施形態では、光路長差がΔL12<ΔL23<ΔL34の関係であった。しかし、本開示はこれに限定されない。すなわち、当該開示は、光路長差が異なっていれば十分であり、大小関係は不問である。
【0096】
さらに、本開示は、上述の実施形態に記載された開示の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態が組み合わせられた構成、又は上述の実施形態において、図示された構成要件もしくは符号を付して説明された構成要件のうちいずれかが廃止された構成であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
20… レーザ干渉計(計測装置)
21… 発光装置
21A… 光源
21B… 分散性媒質
22… 第1分割部
23A… 参照ミラー
23… 参照光路部
23B… 第1光サーキュレータ
23C… 光ファイバー
23D… ディレイライン
23E… 第2分割部
23F… 第1合波部
24… 測定光路部
24A… 第2光サーキュレータ
24B… 光ファイバー
24C… 走査機構
24D… 測定ヘッド
25… 第2合波部
26… 演算検出
26A… 検出部
26B… 演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8