(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179565
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
F16H25/22 M
F16H25/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098511
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】福田 基雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 靖巳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛太
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA14
3J062BA31
3J062CD07
3J062CD47
(57)【要約】
【課題】循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に詰まりが生じるのを抑制することができるボールねじを提供する。
【解決手段】
ボールねじは、ねじ溝23及び開口部24を有するねじ軸2と、開口部24内に配置されており、循環溝33を有する循環コマ3と、ねじ溝を有するナットと、ねじ軸2のねじ溝23及びナットのねじ溝によって構成された転動路、並びに、循環溝33において転動する複数のボールと、を備える。ねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれにおいて、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間の角部のうち、ねじ溝23の幅方向において向かい合っている一対の第1部分のそれぞれは、面取り面28を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ねじ溝、及び前記第1ねじ溝の一端部と前記第1ねじ溝の他端部との間において少なくとも径方向における外側に開口している開口部を有するねじ軸と、
前記開口部内に配置されており、前記第1ねじ溝の前記一端部及び前記他端部のそれぞれに接続された循環溝を有する循環コマと、
第2ねじ溝を有するナットと、
前記第1ねじ溝及び前記第2ねじ溝によって構成された転動路、並びに、前記循環溝において転動する複数のボールと、を備え、
前記第1ねじ溝の前記一端部及び前記他端部のそれぞれにおいて、前記第1ねじ溝の内面と前記開口部の内面との間の角部のうち、前記第1ねじ溝の幅方向において向かい合っている一対の第1部分のそれぞれは、面取り面を含む、ボールねじ。
【請求項2】
前記一対の第1部分のそれぞれにおいて、前記面取り面の幅は、前記第1ねじ溝の溝底から離れるほど大きくなっている、請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記面取り面は、前記一対の第1部分のそれぞれに形成されており、前記角部のうち前記第1ねじ溝の溝底に対応する第2部分に形成されていない、請求項1に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記面取り面は、前記一対の第1部分のそれぞれ、及び前記角部のうち前記第1ねじ溝の溝底に対応する第2部分に形成されている、請求項1に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記第1ねじ溝の螺旋方向から見た場合に、前記第1ねじ溝の前記一端部の内面は、前記循環溝の前記一端部の内面の内側に位置しており、
前記螺旋方向から見た場合に、前記第1ねじ溝の前記他端部の内面は、前記循環溝の前記他端部の内面の内側に位置している、請求項1に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじでは、ねじ軸とナットとの間の転動路において複数のボールを循環させるために、循環コマが用いられる場合がある。循環コマは、ナットに設けられることが一般的であるが、大きい推力を得たい場合や、ねじ軸を回転させてナットを直動させる場合等には、ねじ軸に設けられる場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなボールねじでは、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に、ボールがねじ軸の溝肩付近の部分とナットの溝肩付近の部分とで挟まれて詰まりが生じ、その結果、音振が発生したり、ボールのスムーズな循環が阻害されたりする場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に詰まりが生じるのを抑制することができるボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のボールねじは、[1]「第1ねじ溝、及び前記第1ねじ溝の一端部と前記第1ねじ溝の他端部との間において少なくとも径方向における外側に開口している開口部を有するねじ軸と、前記開口部内に配置されており、前記第1ねじ溝の前記一端部及び前記他端部のそれぞれに接続された循環溝を有する循環コマと、第2ねじ溝を有するナットと、前記第1ねじ溝及び前記第2ねじ溝によって構成された転動路、並びに、前記循環溝において転動する複数のボールと、を備え、前記第1ねじ溝の前記一端部及び前記他端部のそれぞれにおいて、前記第1ねじ溝の内面と前記開口部の内面との間の角部のうち、前記第1ねじ溝の幅方向において向かい合っている一対の第1部分のそれぞれは、面取り面を含む、ボールねじ」である。
【0007】
上記[1]に記載のボールねじでは、循環コマがねじ軸の開口部内に配置されており、ねじ軸の第1ねじ溝の一端部及び他端部のそれぞれにおいて、第1ねじ溝の内面と開口部の内面との間の角部のうち、第1ねじ溝の幅方向において向かい合っている一対の第1部分のそれぞれが、面取り面を含んでいる。これにより、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に、最初にねじ軸の第1ねじ溝の溝底付近の部分にボールが接触しやすくなるため、ボールがねじ軸の溝肩付近の部分とナットの溝肩付近の部分とで挟まれにくくなる。よって、上記[1]に記載のボールねじによれば、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に詰まりが生じるのを抑制することができる。
【0008】
本発明のボールねじは、[2]「前記一対の第1部分のそれぞれにおいて、前記面取り面の幅は、前記第1ねじ溝の溝底から離れるほど大きくなっている、上記[1]に記載のボールねじ」であってもよい。当該[2]に記載のボールねじによれば、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際において、最初にねじ軸の第1ねじ溝の溝底付近の部分にボールが接触するという動きを確実に実現することができる。
【0009】
本発明のボールねじは、[3]「前記面取り面は、前記一対の第1部分のそれぞれに形成されており、前記角部のうち前記第1ねじ溝の溝底に対応する第2部分に形成されていない、上記[1]又は[2]に記載のボールねじ」であってもよい。或いは、本発明のボールねじは、[4]「前記面取り面は、前記一対の第1部分のそれぞれ、及び前記角部のうち前記第1ねじ溝の溝底に対応する第2部分に形成されている、上記[1]又は[2]に記載のボールねじ」であってもよい。
【0010】
本発明のボールねじは、[5]「前記第1ねじ溝の螺旋方向から見た場合に、前記第1ねじ溝の前記一端部の内面は、前記循環溝の前記一端部の内面の内側に位置しており、前記螺旋方向から見た場合に、前記第1ねじ溝の前記他端部の内面は、前記循環溝の前記他端部の内面の内側に位置している、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のボールねじ」であってもよい。当該[5]に記載のボールねじによれば、循環コマとねじ軸との間の熱膨張係数差に起因して循環溝の一端部及び他端部が第1ねじ溝の一端部及び他端部よりも狭くなるようなことを防止することができるため、循環溝と転動路との間でボールの詰まりが生じるのを抑制することができる。特に従来のボールねじにおいて当該[5]に記載の構成が採用されると、第1ねじ溝の内面と開口部の内面との間のエッジ状の角部が循環溝の一端部及び他端部のそれぞれに対して露出することになるため、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際にボールがねじ軸の溝肩付近の部分とナットの溝肩付近の部分とで挟まれやすくなる。したがって、上記[1]に記載の構成は、ボールの詰まりを抑制する上で極めて有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、循環コマの循環溝からねじ軸とナットとの間の転動路にボールが移動する際に詰まりが生じるのを抑制することができるボールねじを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1に示されるねじ軸及び循環コマの一部分の斜視図、及び
図1に示されるねじ軸の一部分の斜視図である。
【
図3】
図2の(a)に示されるa-a線に沿ってのねじ軸及び循環コマの一部分の断面図、及び
図2の(a)に示されるb-b線に沿ってのねじ軸及び循環コマの一部分の断面図である。
【
図4】
図1に示されるねじ軸の一部分の斜視図である。
【
図5】比較例のボールねじのねじ軸の一部分の斜視図である。
【
図6】比較例のボールねじをねじ軸のねじ溝の溝底に沿って切った場合の一部分の断面の模式図、及び(a)に示されるc-c線に沿っての比較例のボールねじの一部分の断面図である。
【
図7】
図1に示される実施例のボールねじをねじ軸のねじ溝の溝底に沿って切った場合の一部分の断面の模式図、及び(a)に示されるd-d線に沿っての実施例のボールねじの一部分の断面図である。
【
図8】変形例のボールねじのねじ軸の一部分の斜視図である。
【
図9】変形例のボールねじのねじ軸の一部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1に示されるように、ボールねじ1は、ねじ軸2と、複数の循環コマ3と、ナット4と、複数のボール5と、を備えている。以下の説明において、軸方向とは、ねじ軸2の中心線CLに平行な方向であり、径方向とは、中心線CLに垂直な方向であり、周方向とは、中心線CLに平行な方向から見た場合に中心線CLを中心とする円周に沿った方向である。なお、
図1では、ナット4のみが断面として図示されている。
【0015】
ねじ軸2は、軸部21と、拡径部22と、を有している。軸部21における拡径部22とは反対側の端部には、例えば、スプライン又はセレーションが形成されている。拡径部22の外周面には、複数のねじ溝(第1ねじ溝)23が形成されている。複数のねじ溝23は、後述するナット4のねじ溝(第2ねじ溝)41と同一のピッチで螺旋状に延在している。各ねじ溝23は、例えば、略1リード分の長さを有している。各ねじ溝23の長さは、厳密には、後述する開口部24の分だけ、1リード分の長さよりも短い。ナット4の内周面には、ねじ溝41が形成されている。ねじ溝41は、螺旋状に延在している。ねじ軸2の複数のねじ溝23及びナット4のねじ溝41は、複数の転動路10を構成している。
【0016】
拡径部22の外周面には、複数の開口部24が更に形成されている。複数の開口部24は、複数のねじ溝23に対応してる。複数の開口部24は、軸方向から見た場合に、周方向において互いに異なる位置に(例えば、等角度間隔で)配置されている。各開口部24内には、各循環コマ3が配置されている。したがって、複数の循環コマ3は、軸方向から見た場合に、周方向において互いに異なる位置に(例えば、等角度間隔で)配置されている。本実施形態では、ねじ軸2は、中実軸であり、各開口部24は、径方向における外側に開口している凹部である。
【0017】
図2の(a)及び(b)に示されるように、互いに対応するねじ溝23及び開口部24に着目すると、開口部24は、ねじ溝23の一端部23aとねじ溝23の他端部23bとの間において径方向における外側に開口している。
図2の(a)に示されるように、開口部24内に配置された循環コマ3の外周面には、循環溝33が形成されている。循環溝33は、ねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれに接続されている。より具体的には、ねじ溝23の一端部23aに循環溝33の一端部33aが接続されており、ねじ溝23の他端部23bに循環溝33の他端部33bが接続されている。循環コマ3のうち開口部24内に配置された部分の形状は、開口部24内の空間の形状と相補的な関係を有している。なお、循環コマ3の外周面には、循環溝33を挟むように一対の凸部34が設けられている。一対の凸部34は、ナット4のねじ溝41内においてねじ溝41に沿って相対的に移動する。一例として、循環コマ3は、樹脂又は金属による一体成型品である。
【0018】
図3の(a)に示されるように、螺旋方向Aから見た場合に、ねじ溝23の一端部23aの内面は、循環溝33の一端部33aの内面の内側に位置している。つまり、ねじ溝23の一端部23aの幅は、循環溝33の一端部33aの幅よりも小さく、ねじ溝23の一端部23aの深さは、循環溝33の一端部33aの深さよりも小さい。
図3の(b)に示されるように、螺旋方向Aから見た場合に、ねじ溝23の他端部23bの内面は、循環溝33の他端部33bの内面の内側に位置している。つまり、ねじ溝23の他端部23bの幅は、循環溝33の他端部33bの幅よりも小さく、ねじ溝23の他端部23bの深さは、循環溝33の他端部33bの深さよりも小さい。なお、螺旋方向Aは、ねじ溝23の螺旋方向であって、ねじ溝23が延在している方向である。
図3の(a)及び(b)では、螺旋方向Aは、紙面に垂直な方向である。
【0019】
図1に示されるように、複数のボール5は、互いに対応する転動路10及び循環溝33において転動する。複数のボール5は、循環溝33を通る際にナット4の内周面のねじ山(ランド部)を超えることで、各転動路10において無限循環する。なお、
図1では、一部のボール5のみが図示されているが、実際には、二点鎖線で示される転動路10及び循環溝33に沿って複数のボール5が並んでいる。
【0020】
図2の(b)に示されるように、開口部24は、側面(内面)25及び底面26を有している。本実施形態では、底面26は、「開口部24の中心を通り且つ中心線CLと直交する直線」(図示省略)に垂直な平面である。側面25は、一対の領域25a及び一対の領域25bを含んでいる。一対の領域25aは、周方向において向かい合っている。一対の領域25bは、軸方向において向かい合っている。本実施形態では、一対の領域25aのそれぞれは、径方向における外側から見た場合に開口部24中央の螺旋の接線方向に垂直な平面であり、一対の領域25bのそれぞれは、径方向における外側から見た場合に開口部24中央の螺旋の接線方向に平行な平面である。一対の領域25bのそれぞれが螺旋方向Aに平行な平面であると、開口部24を挟んで向かい合っているねじ軸2のねじ山20のうち開口部24によって切り欠かれることで形成された肉薄部20aの厚さTが、一対の領域25bのそれぞれに沿って略一定となる。これにより、肉薄部20aにおいて強度が相対的に弱い領域がなくなるため、肉薄部20aの変形を抑制することができる。
【0021】
側面25(具体的には、一対の領域25a)には、螺旋方向Aにおいてねじ溝23の一端部23a及び他端部23bが開口している。これにより、ねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれにおいては、
図5に示されるように、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間にエッジ状の角部27が形成されることになる。
図5は、比較例のボールねじのねじ軸の一部分の斜視図である。
図5に示されるように、比較例のボールねじでは、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25とが直接的に交わることで角部27がエッジ状に形成されている。
【0022】
それに対し、ボールねじ1では、
図4に示されるように、ねじ溝23の一端部23aにおいては、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間の角部27のうち、ねじ溝23の幅方向において向かい合っている一対の第1部分27aのそれぞれに、面取り面28が形成されている。つまり、ねじ溝23の一端部23aにおいて、一対の第1部分27aのそれぞれは、面取り面28を含んでいる。本実施形態では、面取り面28は、ねじ溝23の一端部23aにおいて、一対の第1部分27aのそれぞれに形成されており、角部27のうちねじ溝23の溝底231に対応する第2部分27bに形成されていない。つまり、本実施形態では、第2部分27bのみにおいてねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25とが直接的に交わっており、第2部分27bのみにエッジ状の角部27が形成されている。
【0023】
同様に、ねじ溝23の他端部23bにおいては、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間の角部27のうち、ねじ溝23の幅方向において向かい合っている一対の第1部分27aのそれぞれに、面取り面28が形成されている。つまり、ねじ溝23の他端部23bにおいて、一対の第1部分27aのそれぞれは、面取り面28を含んでいる。本実施形態では、面取り面28は、ねじ溝23の他端部23bにおいて、一対の第1部分27aのそれぞれに形成されており、角部27のうちねじ溝23の溝底231に対応する第2部分27bに形成されていない。つまり、本実施形態では、第2部分27bのみにおいてねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25とが直接的に交わっており、第2部分27bのみにエッジ状の角部27が形成されている。
【0024】
ねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれの各第1部分27aにおいて、面取り面28の幅Wは、ねじ溝23の溝底231から離れるほど大きくなっている。本実施形態では、面取り面28は、曲率が不連続な複数の球面の一部によって構成されている。このような面取り面28は、例えば、ボールエンドミルによって形成され得る。なお、一例として、面取り面28の幅Wは、螺旋方向Aにおける面取り面28の幅である。
【0025】
ここで、比較例のボールねじ100におけるボール5の動き、及び実施例のボールねじ1におけるボール5の動きについて、
図6及び
図7を参照して詳細に説明する。以下、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際におけるボール5の動きとして、循環溝33の他端部33bからねじ溝23の他端部23bにボール5が移動する際におけるボール5の動きについて説明するが、循環溝33の一端部33aからねじ溝23の一端部23aにボール5が移動する際におけるボール5の動きもそれと同様である。なお、
図6の(a)及び
図7の(a)では、二点鎖線で一つのボール5のみが図示されているが、実際には、転動路10及び循環溝33に沿って複数のボール5が並んでいる。
【0026】
比較例のボールねじ100は、
図5に示されるように、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25とが直接的に交わることで角部27がエッジ状に形成されている点で、上述したボールねじ1である実施例のボールねじ1と相違している。
図6の(a)に示されるように、比較例のボールねじ100では、角部27に面取り面28が形成されていないため、螺旋方向Aにおいては、ねじ溝23の他端部23bの溝底231に対して、ねじ溝23の他端部23bの溝肩232が、循環溝33にボール5の全体が位置する場合における当該ボール5側に位置することになる。したがって、循環溝33の他端部33bからねじ溝23の他端部23bに移動するボール5は、ねじ溝23の他端部23bの溝底231付近の部分に接触する前に、ねじ溝23の他端部23bの溝肩232付近の部分に接触しやすくなる。
図6の(a)には、ボール5がねじ溝23の他端部23bの溝肩232付近の部分に最初に接触した状態が示されている。この状態では、ボール5がねじ溝23の他端部23bの溝底231付近の部分から離れている。
【0027】
図6の(b)に示されるように、ナット4に推力が働き、ナット4のねじ溝41とねじ軸2のねじ溝23との相対位置がずれている場合(ここでは、白抜きの矢印で示されるようにずれている場合)において、循環溝33の他端部33bからねじ溝23の他端部23bに移動するボール5が、ねじ溝23の他端部23bにおいて溝底231付近の部分に接触する前に溝肩232付近の部分に接触すると、ねじ軸2の溝肩232付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分からボール5に作用する荷重の方向(ここでは、黒塗りの矢印で示される方向)が略同じになるため、ねじ溝41の内側の領域のうちボール5が接触している溝肩411付近の部分とは反対側の空間にボール5が逃げにくくなる。したがって、転動路10を挟んで対角上に位置しているねじ軸2の溝肩232付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分によってボール5が挟まれやすくなり、ボール5の移動に詰まりが生じる可能性が高くなる。このとき、ナット4のねじ溝41の溝肩411に面取り面が形成されていないと、転動路10を挟んで対角上に位置しているねじ軸2の溝肩232付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分によってボール5がより挟まれやすくなり、ボール5の移動に詰まりが生じる可能性がより高くなる。なお、ねじ軸2の溝肩232付近の部分とは、溝肩232、及び当該溝肩232寄りのねじ溝23の内面(溝軌道面)を意味し、ナット4の溝肩411付近の部分とは、溝肩411、及び当該溝肩411寄りのねじ溝41の内面(溝軌道面)を意味する。
【0028】
それに対し、実施例のボールねじ1では、
図7の(a)に示されるように、角部27のうち一対の第1部分27aのそれぞれに面取り面28が形成されているため、螺旋方向Aにおいては、ねじ溝23の他端部23bの溝肩232に対して、ねじ溝23の他端部23bの溝底231が、循環溝33にボール5の全体が位置する場合における当該ボール5側に位置することになる。したがって、循環溝33の他端部33bからねじ溝23の他端部23bに移動するボール5は、ねじ溝23の他端部23bの溝肩232付近の部分に接触する前に、ねじ溝23の他端部23bの溝底231付近の部分に接触しやすくなる。
図7の(a)には、ボール5がねじ溝23の他端部23bの溝底231付近の部分に最初に接触した状態が示されている。この状態では、ボール5がねじ溝23の他端部23bの溝肩232付近の部分から離れている。
【0029】
図7の(b)に示されるように、ナット4に推力が働き、ナット4のねじ溝41とねじ軸2のねじ溝23との相対位置がずれている場合(ここでは、白抜きの矢印で示されるようにずれている場合)において、循環溝33の他端部33bからねじ溝23の他端部23bに移動するボール5が、ねじ溝23の他端部23bにおいて溝肩232付近の部分に接触する前に溝底231付近の部分に接触すると、ねじ軸2の溝底231付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分からボール5に瞬間的に作用する荷重の方向(ここでは、黒塗りの矢印で示される方向)が異なるため、それらの荷重の合力によって、ねじ溝41の内側の領域のうちボール5が接触している溝肩411付近の部分とは反対側の空間にボール5が逃げやすくなる。したがって、転動路10を挟んで対角上に位置しているねじ軸2の溝肩232付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分によってボール5が挟まれにくくなり、ボール5の移動に詰まりが生じる可能性が低くなる。このとき、ナット4のねじ溝41の溝肩411に面取り面が形成されていなくても、転動路10を挟んで対角上に位置しているねじ軸2の溝肩232付近の部分及びナット4の溝肩411付近の部分によってボール5が挟まれにくく且つボール5の移動に詰まりが生じる可能性が低い状態が維持される。
【0030】
以上説明したように、ボールねじ1では、循環コマ3がねじ軸2の開口部24内に配置されており、ねじ軸2のねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれにおいて、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間の角部27のうち、ねじ溝23の幅方向において向かい合っている一対の第1部分27aのそれぞれが、面取り面28を含んでいる。これにより、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際に、最初にねじ軸2のねじ溝23の溝底231付近の部分にボール5が接触しやすくなるため、ボール5がねじ軸2の溝肩232付近の部分とナット4の溝肩411付近の部分とで挟まれにくくなる。よって、ボールねじ1によれば、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際に詰まりが生じるのを抑制することができる。
【0031】
なお、ナット4のねじ溝41の溝肩411に形成された面取り面が小さくても、或いは、ナット4のねじ溝41の溝肩411に面取り面が形成されていなくても、ボールねじ1では、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際に、ボール5がねじ軸2の溝肩232付近の部分とナット4の溝肩411付近の部分とで挟まれにくくなる。したがって、ボールねじ1によれば、ナット4のねじ溝41の溝肩411について設計の自由度を向上させることができる。
【0032】
ボールねじ1では、一対の第1部分27aのそれぞれにおいて、面取り面28の幅Wが、ねじ溝23の溝底231から離れるほど大きくなっている。これにより、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際において、最初にねじ軸2のねじ溝23の溝底231付近の部分にボール5が接触するという動きを確実に実現することができる。
【0033】
ボールねじ1では、螺旋方向Aから見た場合に、ねじ溝23の一端部23aの内面が循環溝33の一端部33aの内面の内側に位置しており、ねじ溝23の他端部23bの内面が循環溝33の他端部33bの内面の内側に位置している。これにより、循環コマ3とねじ軸2との間の熱膨張係数差に起因して循環溝33の一端部33a及び他端部33bがねじ溝23の一端部23a及び他端部23bよりも狭くなるようなことを防止することができるため、循環溝33と転動路10との間でボール5の詰まりが生じるのを抑制することができる。特に比較例のボールねじ100において当該構成が採用されると、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間のエッジ状の角部27が循環溝33の一端部33a及び他端部33bのそれぞれに対して露出することになるため、循環コマ3の循環溝33からねじ軸2とナット4との間の転動路10にボール5が移動する際にボール5がねじ軸2の溝肩232付近の部分とナット4の溝肩411付近の部分とで挟まれやすくなる。したがって、ねじ溝23の内面23cと開口部24の側面25との間の角部27に面取り面28が形成されているボールねじ1の構成は、ボール5の詰まりを抑制する上で極めて有効である。
【0034】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、面取り面28は、曲率が連続する一つの曲面によって構成されていてもよい。一例として、
図8に示されるように、面取り面28は、一つの球面の一部によって構成されていてもよい。この場合にも、面取り面28の幅Wが、ねじ溝23の溝底231から離れるほど大きくなっている。また、面取り面28は、角部27のうち一対の第1部分27aのそれぞれ及び第2部分27bに形成されていてもよい。一例として、
図9に示されるように、面取り面28は、角部27のうち一対の第1部分27aのそれぞれ及び第2部分27bに連続して形成されていてもよい。第2部分27bにおける面取り面28の幅Wは、一対の第1部分27aのそれぞれにおける面取り面28の幅Wよりも小さくてもよい。この場合にも、面取り面28の幅Wが、ねじ溝23の溝底231から離れるほど大きくなっている。
【0035】
また、一対の第1部分27aのそれぞれにおいて、面取り面28の幅は、ねじ溝23の溝底231から離れるほど大きくなっていなくてもよい。また、ねじ溝23の一端部23a及び他端部23bのそれぞれにおいて、螺旋方向Aから見た場合に、ねじ溝23の内面は、循環溝33の内面と実質的に一致していてもよい。
【0036】
また、開口部24において、一対の領域25aのそれぞれは、径方向における外側から見た場合に開口部24中央の螺旋の接線方向に垂直な平面でなくてもよい。一例として、一対の領域25aのそれぞれは、軸方向に平行な平面であってもよい。また、開口部24において、一対の領域25bのそれぞれは、径方向における外側から見た場合に開口部24中央の螺旋の接線方向に平行な平面でなくてもよい。一例として、一対の領域25bのそれぞれは、軸方向に垂直な平面であってもよい。
【0037】
また、ねじ軸2は、中空軸であってもよい。その場合、開口部24は、径方向における外側に開口している凹部であってもよいし、或いは、径方向における内側及び外側に開口している貫通部であってもよい。つまり、開口部24は、少なくとも径方向における外側に開口していればよい。また、循環コマ3には、一対の凸部34が設けられていなくてもよい。その場合,循環コマ3の外周面は、ねじ軸2のねじ山の外周面と実質的に同一の円柱面上に位置していてもよい。また、ナット4のねじ溝41の溝肩411には、面取り面が形成されていてもよいし、面取り面が形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…ボールねじ、2…ねじ軸、3…循環コマ、4…ナット、5…ボール、10…転動路、23…ねじ溝(第1ねじ溝)、23a…一端部、23b…他端部、23c…内面、24…開口部、25…側面(内面)、27…角部、27a…第1部分、27b…第2部分、28…面取り面、33…循環溝、41…ねじ溝(第2ねじ溝)、231…溝底、A…螺旋方向、W…幅。