(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179577
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241219BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20241219BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B24/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098537
(22)【出願日】2023-06-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発/CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MC11
4G112PB05
4G112PB26
(57)【要約】
【課題】流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上する補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体を提供する。
【解決手段】顕微鏡観察により測定される平均粒子径が5~100μmであり、かつ、(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比が1.3以上であるダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材、セメント、セメント混和用ポリマー、及び細骨材を含む補修材料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡観察により測定される平均粒子径が5~100μmであり、かつ、(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比が1.3以上であるダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材、セメント、セメント混和用ポリマー、及び細骨材を含む補修材料。
【請求項2】
前記ダイカルシウムシリケート化合物の(4×円周率π×面積/(周長の2乗))で表される真円度の平均値が0.8以下である請求項1に記載の補修材料。
【請求項3】
前記補修用混和材の化学組成がCaO、SiO2、Al2O3、MgO、及びSO3の合計100質量部に対して、CaOが44~75質量部、SiO2が18~55質量部、Al2O3が1~3質量部、MgOが0~5質量部、SO3が0~2質量部であり、前記ダイカルシウムシリケート化合物のブレーン比表面積値が2,000~6,000cm2/gである請求項1に記載の補修材料。
【請求項4】
前記細骨材の含有割合は、前記セメント100質量部に対して、30質量部以上300質量部以下である請求項1に記載の補修材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の補修材料と水とを含有する補修モルタル組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の補修モルタル組成物を用いてなる硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化、凍結融解、及び化学的腐食等の作用により劣化が進行し、表面にひび割れや浮き等が発生する恐れがある。その対策として、劣化した部分を打音検査等で確認し、電動ピック、エアピック、ウォータージェット等により取り除き、新たに補修部材で充填し補修する工事が行われている。
修復断面が小さい小規模な補修工事では、ポリマーセメントモルタルを練り混ぜてコテ塗りで断面修復を行う場合が多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
コテ塗り等で補修する場合には、使用するモルタルの急硬性、練り混ぜ易さ、厚付け性といった作業性がよい材料が求められる。そのため、モルタルに適度な粘りや抗ダレ性を付与することを目的に特許文献1、2に記載されているようにフライアッシュ、シリカフューム等の無機微粉末を配合した材料や、非特許文献1、特許文献3~6に記載されているようにセルロースエーテル類を配合した材料が使用されている。セルロースエーテル類は、粘性が大きくなり保水性も良好になるが、補修後もひび割れが発生し、再補修しなければならない課題がある。
【0004】
また、特許文献7に記載されているように、セメント硬化体にひび割れが生じても自己治癒効果でセメント硬化体のひび割れの自己治癒を促進する繊維などが提案されている。
【0005】
また、従来の補修材料で補修を行った構造物は、火災などで温度上昇が急速に進行する場合、補修箇所が爆裂し、内部に取り残された人を安全に外部へ誘導する際に支障が生じる可能性がある。そのため、特許文献8に記載されているような乳剤を配合し80N/mm2以上の圧縮強度を有する耐火性セメント組成物や、特許文献9に記載されているようなセメントと水を混合した後、セルロース繊維を投入し均一に分散させてから、細骨材を混合する耐爆裂性セメントモルタルの製造方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-322858号公報
【特許文献2】特開2003-89565号公報
【特許文献3】特開平11-349364号公報
【特許文献4】特開2000-103662号公報
【特許文献5】特開2000-128617号公報
【特許文献6】特開平06-219807号公報
【特許文献7】特開2017-222555号公報
【特許文献8】特開2014-076917号公報
【特許文献9】特許第4878086号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長友新治編集:新・水溶性ポリマーの応用と市場、株式会社シーエムシー発行、pp.173-192、1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、特許文献7には、セメント硬化体にひび割れが生じても自己治癒効果でセメント硬化体のひび割れの自己治癒を促進する繊維が提案されているが、繊維を混和すると補修用モルタルとしての流動性が低下し、作業性が劣るという問題がある。さらに自己治癒効果に時間がかかるという問題もある。
また、特許文献8には、上述のように、乳剤を配合し80N/mm2以上の圧縮強度を有する耐火性セメント組成物が提案されているが、補修用モルタルとするには作業性に難があり、補修用材料としての用途に適用するのは困難である。また、特許文献9に記載される製造方法は、セメントと水を混合した後、セルロース繊維を投入し均一に分散させてから、細骨材を混合する方法であり、施工現場での作業に手間がかかる方法であって、補修用材料としての用途に適用するには課題があった。
そこで、本発明は、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上する補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々の努力を重ねた結果、顕微鏡観察により測定される特定の平均粒子径、および、特定の平均アスペクト比を有するダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材を含有することで、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上することを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]顕微鏡観察により測定される平均粒子径が5~100μmであり、かつ、(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比が1.3以上であるダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材、セメント、セメント混和用ポリマー、及び細骨材を含む補修材料。
[2]前記ダイカルシウムシリケート化合物の(4×円周率π×面積/(周長の2乗))で表される真円度の平均値が0.8以下である上記[1]に記載の補修材料。
[3]前記補修用混和材の化学組成がCaO、SiO2、Al2O3、MgO、およびSO3の合計100質量部に対して、CaOが44~75質量部、SiO2が18~55質量部、Al2O3が1~3質量部、MgOが0~5質量部、SO3が0~2質量部であり、前記ダイカルシウムシリケート化合物のブレーン比表面積値が2,000~6,000cm2/gである上記[1]又は[2]に記載の補修材料。
[4]前記細骨材の含有割合は、前記セメント100質量部に対して、40質量部以上300質量部以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の補修材料。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の補修材料と水とを含有する補修モルタル組成物。
[6]上記[5]に記載の補修モルタル組成物を用いてなる硬化体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上する補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書における部や%は特に規定しない限り質量基準である。
また、本明細書でいう補修モルタルとは、粗骨材のないペースト、細骨材を含有するモルタルを総称するものである。
【0012】
本発明の補修材料は、顕微鏡観察により測定される平均粒子径が5~100μmであり、かつ、(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比が1.3以上であるダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材、セメント、セメント混和用ポリマー、及び細骨材を含有する補修材料である。
【0013】
[補修用混和材]
本実施形態に係る補修用混和材は、ダイカルシウムシリケート化合物を含有してなる。
【0014】
<ダイカルシウムシリケート化合物>
本発明に係るダイカルシウムシリケート化合物は、平均粒子径が5~100μmであり、かつ、(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比が1.3以上であることを特徴とする。
また、該ダイカルシウムシリケート化合物は、(4×円周率π×面積/(周長の2乗))で表される真円度の平均値(以下「平均真円度」と記載することがある。)が0.8以下であることが好ましい。
前記ダイカルシウムシリケート(以下「DCS」と記載することがある。)化合物の平均粒子径は、上述のように、5~100μmの範囲であることを必須とする。平均粒子径が5~100μmから外れた場合、流動性が損なわれ、自己治癒効果が低下し、加熱温度に対して圧縮強度残存比が大きく低下する傾向がある。以上の観点から、DCS化合物の平均粒子径は、10~90μmの範囲であることがより好ましく、15~80μmの範囲であることがさらに好ましい。
上述のDCSの平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度を本発明の範囲内とする方法としては、種々の方法があり、例えば、DCSの粉砕時間をコントロールすることにより、所望の平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度を有するDCSを得ることができる。
【0015】
前記ダイカルシウムシリケート化合物の(長軸径/短軸径)で表される平均アスペクト比は、上述のように、1.3以上であることを必須とする。平均アスペクト比が1.3より小さい場合、加温後の中性化深さが大きくなる傾向がある。以上の観点から、平均アスペクト比は、1.5以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましい。
【0016】
また、前記ダイカルシウムシリケート化合物の平均真円度は、上述のように、0.8以下であることが好ましい。平均真円度が0.8以下であると、流動性向上、耐火性向上の点で有利である。以上の観点から、平均真円度は0.75以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。平均真円度の下限値としては、特に制限はないが、通常0.5程度である。
なお、平均真円度は、上述の通り、4×円周率π×面積/(周長の2乗)で表される真円度の平均値を示すものである。
【0017】
(平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度の測定方法)
ダイカルシウムシリケート化合物の平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度は、以下のようにして測定できる。
【0018】
(1)複数のダイカルシウムシリケート化合物について、当該ダイカルシウムシリケート化合物を平面に投影した像を得る。このような像は、例えば、複数のダイカルシウムシリケート化合物を一方向から撮影することによっても得られるし、ダイカルシウムシリケート化合物を含む多孔質層の断面を撮影することによっても得られる。
【0019】
(2)得られた像から、ダイカルシウムシリケート化合物の一粒ずつについて、粒子径、アスペクト比、真円度(面積、周長)を測定する。粒子径、アスペクト比、真円度(面積、周長)は、適当な画像解析ソフト(IMAGEJなど)を使用すれば測定できる。測定する粒子点は3,000点~5,000点の範囲であることが好ましい。3,000点以上であると測定誤差が小さくなり、5,000点以下であると計測者の身体的負担が小さくなるため好ましい。
【0020】
(3)測定した粒子径、アスペクト比、真円度から、それぞれの平均値を算出して、平均粒子径、平均アスペクト比、および平均真円度とすることができる。
なお、アスペクト比とは、(長軸径)/(短軸径)で表される値である。この値が1に近づくほど、真円に近づくことを意味する。
【0021】
本発明におけるダイカルシウムシリケート化合物は、総量で10質量%以下であれば、MgOやR2O(Rはアルカリ金属)等を含有していても特に問題ない。また、本発明におけるDCS化合物は総量で10質量%以下であれば、急冷によって生成するガラス相を含んでも特に問題ない。
【0022】
(DCS化合物の粉末度)
ダイカルシウムシリケート化合物の粉末度は、ブレーン比表面積値(以下、「ブレーン値」という場合がある。)で2,000~6,000cm2/gであることが好ましく、2,500~5,000cm2/gがより好ましい。2,000cm2/g以上であると十分な圧縮強度発現性、耐火性能が得られる。一方、6,000cm2/g以下であれば受熱後の中性化抵抗性が得られる。
【0023】
(DCS化合物の製造方法)
DCS化合物は、CaOを含む原料、SiO2を含む原料、Al2O3を含む原料等を混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融等の熱処理をして得られる。熱処理温度は原料の配合にもよるが1,400℃以上、1,800℃以下が好ましく、1,450℃以上、1600℃以下がより好ましく、1,450℃以上、1,550℃以下がさらに好ましい。1,400℃以上であると効率良く反応が進み、未反応のAl2O3が残ることがなく、ダイカルシウムシリケートが効率的に得られる。一方、熱処理温度が1,800℃以下であると、熱処理の際にコーチングがつき難くなり、操業が困難になることがなく、エネルギー効率が良好となる。
【0024】
(DCS化合物の含有率)
本補修用混和材におけるダイカルシウムシリケート化合物の含有率は、35%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。また、ダイカルシウムシリケート化合物の含有率の上限値は特に限定されない。
【0025】
本補修用混和材中のダイカルシウムシリケート化合物を定量する方法として、粉末X線回折によるリートベルト法等が挙げられる。
【0026】
<補修用混和材の化学組成>
本実施形態に係る補修用混和材は、その化学組成がCaO、SiO2、Al2O3、MgO、およびSO3の合計100部に対して、CaOが44~75部、SiO2が18~55部、Al2O3が1~3部、MgOが0~5部、SO3が0~2部の範囲にあることが好ましく、CaOが49~70部、SiO2が23~50部、Al2O3が1~2部、MgOが0~3部、SO3が0~1部の範囲にあることがより好ましい。この範囲内であると脱型可能な強度への到達時間の延長がなく、圧縮強度が維持され、耐火性能の付与に要する時間の延長がなく、受熱後の中性化深さを小さくすることができるなどの利点があり好ましい。
【0027】
また、本実施形態に係る補修用混和材は、補修用混和材100部に対して、さらに炭酸カルシウムを5部以下の範囲で含有していてもよい。炭酸カルシウムを含有することで補修用混和材の貯蔵安定性が増したり、製造したコンクリートの強度発現性が向上するなどの利点がある。以上の観点から炭酸カルシウムの含有量は0.5~3部の範囲であることがさらに好ましい。
【0028】
<原料>
本発明で使用する補修用混和材の製造に使用する原料について説明する。
【0029】
<<CaOを含む原料>>
CaOを含む原料は特に限定されない。工業原料として市販されている、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3)などが挙げられる。加えて、アセチレン副生消石灰などの副生消石灰、廃コンクリート塊から発生する微粉末、などの産業廃棄物も、本発明の効果を阻害しない範囲で適用できる。熱処理時の非エネルギー由来のCO2排出量の削減の点からも、副生消石灰、廃コンクリート塊から発生する微粉末、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰など、CaOを含む産業副産物から選ばれる1種又は2種以上を利用できる点で好ましい。中でも他の産業副産物に比べて不純物量が少ない副生消石灰の使用がさらに好ましい。
【0030】
副生消石灰としては、カルシウムカーバイド法によるアセチレンガスの製造工程で副生される副生消石灰(アセチレンガス製造方法の違いで、湿式品と乾式品がある)、カルシウムカーバイド電気炉の湿式集塵工程で捕獲されるダスト中に含まれる副生消石灰といったアセチレン副生消石灰等が挙げられる。副生消石灰は、例えば、水酸化カルシウムが65~95%(好ましくは、70~90%)で、その他に、炭酸カルシウムを1~10%、酸化鉄を0.1~6.0%(好ましくは、0.1~3.0%)含む。これらの割合は蛍光X線測定、及び示差熱重量分析(TG-DTA)で求まる質量減量分(Ca(OH)2:405℃~515℃付近、CaCO3:650℃~765℃付近)にて確認することができる。なお、レーザー回折・散乱法で測定する体積平均粒子径は、50~100μm程度である。
さらに、JIS K 0068「化学製品の水分測定方法」中、乾燥減量法で測定される水分率は、10%以下であることが好ましい。また、CaS、A12S3、及びCaC2・CaSなどイオウ化合物を含んでもよいが、2%以下であることが好ましい。
【0031】
<<SiO2を含む原料>>
SiO2を含む原料は特に限定されない。工業原料として市販されている、例えば、ケイ石、ケイ砂、石英、珪藻土などが挙げられる。さらには、シリカフュームやフライアッシュに代表されるような産業副産物として発生する様々なシリカ質ダストなども、本発明の効果を阻害しない範囲で適用できる。
【0032】
<<Al2O3を含む原料>>
Al2O3を含む原料は特に限定されない。工業原料として市販されている、例えば、Al2O3や水酸化アルミニウム、ボーキサイトなどが挙げられる。なお、ボーキサイトはAl2O3とともにFe2O3、さらにSiO2やTiO2を含んでいるため望ましい。一方、CaOやSiO2を含む原料中にAl2O3が必要量含まれていれば、Al2O3を含む原料は使用しなくてもよい。
【0033】
<<MgO原料>>
本発明で使用するMgO原料は特に限定されないが、例えば溶融マグネシア、焼結マグネシア、天然マグネシア、および軽焼マグネシアなどのマグネシアが使用可能である。ここでいうMgO原料とは、海水法により海水から抽出された水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、天然MgOであるマグネサイト、または、天然炭酸マグネシウムをロータリーキルンなどで焼成して得られる焼結マグネシアクリンカー、その焼結マグネシアクリンカーを電気炉などで溶融して得られる電融マグネシアクリンカーを所定のサイズに粉砕し、篩い分けしたものである。
【0034】
<<SO3を含む原料>>
SO3を含む原料は特に限定されないが、例えば生石膏、硬石膏(無水石膏)、焼石膏(半水石膏)、脱硫石膏(二水石膏)などが挙げられる。
【0035】
<<不純物>>
CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料、MgO原料、SO3原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物の具体例としては、例えば、Fe2O3、TiO2、MnO、Na2O、K2O、P2O5、F、B2O3、塩素などが挙げられる。また、共存する化合物としては、遊離酸化カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、カルシウムフェライトやカルシウムアルミノフェライト、カルシウムフォスフェート、カルシウムボレート、マグネシウムシリケート、リューサイト(K2O、Na2O)・Al2O3・SiO2、スピネルMgO・Al2O3、マグネタイトFe3O4、前述のCaS、A12S3、及びCaC2・CaSなどのイオウ化合物等が挙げられる。
【0036】
これらの不純物のうち、ダイカルシウムシリケート化合物中のS(硫黄)の含有率は酸化物(SO3)換算で1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、さらに0.5%以下であることが好ましい。1.0%以下であることで、十分な炭酸(塩)化促進効果が得られ、また、凝結や硬化性状を適切な範囲にすることができる。酸化物(SO3)換算でのSの含有率は、蛍光X線測定により測定することができる。なお、DCS化合物中のS(硫黄)は、酸化物換算で2%程度であれば存在していてもよい。
【0037】
<スラグおよび/またはポゾラン物質>
本発明の補修用混和材には、スラグおよび/またはポゾラン物質を含んでいてもよい。スラグおよび/またはポゾラン物質は潜在水硬性物質であり、特に限定されるものではないが、例えば、高炉スラグ(高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ)、製鋼スラグ(転炉スラグ、電気炉スラグ)、フライアッシュ、シリカフューム、メタカオリン、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、火山ガラス微粉末、廃ガラス粉末等があげられる。これらは、一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、充分な受熱後の圧縮強度残存比とヤング係数残存比、また、受熱後の中性化抵抗性の効果を維持させる点から、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、メタカオリンが好ましい。
【0038】
また、DCS化合物とスラグおよび/またはポゾラン物質との配合割合は特に限定されるものではないが、質量比で10/1~1/10が好ましく、5/1~1/5がより好ましい。
DCS化合物とスラグおよび/またはポゾラン物質(潜在水硬性物質)の配合割合を上記の範囲とすることにより、DCS化合物単独の場合と比べて充分な防錆効果、塩化物イオンの浸透抵抗性、Caイオンの溶脱抑制効果、自己治癒能力の向上が得られる。
【0039】
また、本発明では、充分な受熱後の圧縮強度残存比とヤング係数残存比、また、受熱後の中性化抵抗性の効果を維持させるため、CaO/SiO2モル比が0.15~0.7でSO3含有量が0~3%のセメント混和材とスラグおよび/またはポゾラン物質を併用することもできる。
なお、本実施形態は、γ-DCS等の非水硬性化合物を含む産業副産物を用いることもできる。この際には不純物が共存する。このような産業副産物として、製鋼スラグ等が挙げられる。
【0040】
<補修用混和材の製造方法>
補修用混和材は、上記原料を配合して、1,000℃以上の高温での熱処理によって製造することができる。熱処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ロータリーキルンや電気炉などによって行うことができる。また、その熱処理温度は、一義的に定められるものではないが、通常、1,000~1,800℃程度の範囲で行われ、1,200~1,600℃程度の範囲で行われることが多い。
【0041】
<補修用混和材のブレーン比表面積>
本補修用混和材のブレーン比表面積は特に限定されるものではないが、1,500cm2/g以上が好ましく、また上限は8,000cm2/g以下が好ましい。なかでも、2,000~6,000cm2/gがより好ましく、4,000~6,000cm2/gが最も好ましい。ブレーン比表面積が1,500cm2/g以上であることで、良好な材料分離抵抗性が得られ、炭酸(塩)化促進効果が十分になる。また、8,000cm2/g以下であることで粉砕する際の粉砕動力が大きくならず経済的であり、また、風化が抑制され品質の経時的な劣化を抑えることができる。
【0042】
<補修用混和材の使用量>
補修用混和材の使用量は特に限定されるものではないが、セメントと補修用混和材の合計量を100部としたときに、1~30部が好ましく、2~25部がより好ましい。補修用混和材の使用量が少ないと充分な受熱後の圧縮強度残存比とヤング係数残存比、また、受熱後の中性化抵抗性が得られない場合があり、過剰に使用すると強度発現性の低下が現れるようになる場合がある。
【0043】
[セメント]
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種セメント、これらのセメントに、高炉スラグやフライアッシュやシリカフュームなどを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメントなどが挙げられ、各種セメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えばセッコウ等)量を増減して調整されたものも使用可能である。
本発明では、高い流動性、自己治癒効果向上、耐火性向上の観点から、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを選定することが好ましい。
【0044】
本発明で使用するセメントは、製造コストや強度発現性の観点から、セメントのブレーン比表面積値は、2,500cm2/g以上7,000cm2/g以下であることが好ましく、2,750cm2/g以上6,000cm2/g以下であることがより好ましく、3,000cm2/g以上4,500cm2/g以下であることがさらに好ましい。
ブレーン比表面積値は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0045】
[セメント混和用ポリマー]
本発明で使用するセメント混和用ポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニル/ビニルバーサテート系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがあり、下地部分との付着性改善、さらに、モルタルの耐久性向上のために使用される。
【0046】
セメント混和用ポリマーの含有割合は、セメント100質量部に対して、固形分量で1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、2質量部以上12質量部以下であることがより好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがさらに好ましい。セメント混和用ポリマーの含有割合が上記範囲内であることで、流動性を高め、自己治癒効果を向上させることができる。
【0047】
[細骨材]
本発明で使用する細骨材としては、通常のセメントモルタルやコンクリートに使用するものと同様の細骨材が使用可能である。即ち、川砂、砕石、砕砂、石灰砂、けい砂、色砂、及び人工軽量骨材等が使用可能であり、これらを組み合わせることも可能である。特に、流動性を高め、自己治癒効果を目的とした用途では、シリカ質のけい砂や石灰砂の使用が好ましく、細骨材の粒度は、JIS6~8号が好ましい。
【0048】
細骨材の含有割合は、セメント100質量部に対して、40質量部以上300質量部以下であることが好ましく、45質量部以上275質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上250質量部以下であることがさらに好ましい。細骨材の含有割合が上記範囲内であることで、十分な流動性及び自己治癒効果、耐火性の向上が得られる。
【0049】
[膨張材]
本発明の補修材料はさらに膨張材を含有することが可能である。本発明で使用する膨張材は、特に限定されるものではなく、膨張性水和物を生成させ、ブリーディングを抑制するものであれば、いかなるものでも使用可能である。
膨張材としては、遊離石灰、遊離マグネシア、カルシウムフェライト、エトリンガイト系、石灰系、エトリンガイト-石灰複合系を含むものが知られ、特に限定されるものではないが、長期安定性の観点から、遊離石灰を含むものが好ましい。遊離石灰を含むものとしては、例えば、遊離石灰-無水セッコウ系、遊離石灰-水硬性化合物系、ならびに、遊離石灰-水硬性化合物-無水セッコウ系などが挙げられる。
膨張材は各社より市販されており、その代表例としては、例えば、デンカ社製「デンカCSA♯20」、「デンカパワーCSA」、太平洋マテリアル社製「エクスパン」、「ハイパーエクスパン」、「N-EX」、「ブライスター」やこれらの粉砕品などが挙げられる。
【0050】
本発明で使用する膨張材の粒度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積値で2,000cm2/g以上25,000cm2/g以下の範囲のものが好ましく、2,200cm2/g以上15,000cm2/g以下のものがより好ましく、2,400cm2/g以上10,000cm2/g以下のものがさらに好ましい。膨張材のブレーン比表面積値が上記下限値以上であることで、ブリーディングを抑制することができる。また、膨張材のブレーン比表面積値が上記上限値以下であることで、十分な膨張性を得ることができる。
【0051】
本発明で使用する膨張材の含有割合は、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下が好ましく、1.0質量部以上18質量部以下がより好ましく、2質量部以上15質量部以下がさらに好ましい。膨張材の含有割合が上記下限値以上であることで、ひび割れ抑制効果を得やすくなる。一方、膨張材の含有割合が上記上限値以下であることで、強度発現性が良好となる。膨張材の含有割合が上記範囲内であることで、本発明の効果を満たす補修材料、即ち、流動性を高め、自己治癒効果を向上させ、低収縮な補修材料とすることが容易になる。
【0052】
[急硬材]
本発明の補修材料は、凝結を促進し、短期での強度増進を図る観点から、急硬材を含有させることが可能である。
本発明に使用する急硬材としては、凝結を促進し、短期での強度増進を図るものであれば、特に限定されるものではない。急硬材は、凝結を促進するものとして、ギ酸カルシウムに代表される有機酸のカルシウム塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、チオシアン酸塩、アミン類、無水マレイン酸、水ガラスに代表される珪酸塩、硫酸アルミニウム、及び、ミョウバンに代表されるアルミニウム塩、カルシウムアルミネート(アルミン酸カルシウム)、アルミン酸塩等が挙げられる。これらの中では、強度発現性の点から、アルミン酸塩が好ましく、カルシウムアルミネート(CA)を含むことが好ましい。カルシウムアルミネートは、石膏と併用することで強度発現性が良好となる観点でより好ましい。石膏の使用量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、80質量部以上250質量部以下であることが好ましく、90質量部以上220質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上200質量部以下であることがさらに好ましい。石膏の含有割合が上記下限値以上であることで、早期硬化性を得やすくなる。また、石膏の含有割合が上記上限値以下であることで、強度発現性、自己治癒効果が良好となる。
【0053】
カルシウムアルミネートは、カルシア原料とアルミナ原料などを混合して、キルンで焼成し、あるいは、電気炉で溶融し冷却して得られるCaOとAl2O3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称であり、結晶質、又は非晶質のいずれであっても使用可能である。硬化時間が早く、初期強度発現性が高い材料である。カルシウムアルミネートの代表的なものとしてはアルミナセメントが挙げられ、通常、市販品が使用できる。例えば、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号などが使用できる。なかでも、アルミナセメントよりも短時間で硬化し、その後の初期強度発現性が高い点から、溶融後に急冷した非晶質カルシウムアルミネートが好ましい。
カルシウムアルミネートのなかでも、CaOとAl2O3とのモル比(CaO/Al2O3モル比)は、1.0以上3.0以下であることが好ましく、1.7以上2.5以下であることがより好ましい。モル比が上記範囲内であることで、硬化時間をより短縮して初期強度発現性を高めることができる。
【0054】
本発明では、カルシウムアルミネート中に含まれる不純物は15質量%以下であることが初期強度発現性の点から好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。ここで不純物とは、CaOとAl2O3以外の物質をいう。該不純物が15質量%以下であると硬化時間を短縮することができ、さらに低温時であっても十分に固めることができる。不純物の代表例としては、酸化ケイ素や酸化マグネシウムや酸化硫黄が挙げられるが、その他に、有機物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、該アルカリ土類金属硫酸塩等がCaOやAl2O3の一部に置換又は固溶したものがある。しかし、これらに限定されない。
【0055】
また、本発明で使用するカルシウムアルミネートのガラス化率は、反応活性の面で70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。ガラス化率が70質量%以上であると初期強度発現性が低下することがない。カルシウムアルミネートのガラス化率は、反応活性の点で70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。ガラス化率は、測定サンプルについて、粉末X線回折法により結晶鉱物のメインピーク面積Sを予め測定し、その後1,000℃で2時間加熱後、(1~10℃)/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折法による加熱後の結晶鉱物のメインピーク面積S0を求め、これらのS0及びSの値を用い、次の式を用いてガラス化率Xを算出する。
ガラス化率X(質量%)=100×(1-S/S0)
カルシウムアルミネートの粒度は、初期強度発現性の面で、ブレーン比表面積値3,000cm2/g以上が好ましく、5,000cm2/g以上がより好ましい。カルシウムアルミネートの粒度が上記下限値以上であることで、硬化時間が短くなる。これにより、初期強度発現性が良好となり、自己治癒性能が良好となる。
【0056】
本発明で使用する急硬材の含有割合は、セメント100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上25質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。また、急硬材としてカルシウムアルミネートを含有する場合、カルシウムアルミネートの含有割合は、セメント100質量部に対して、2質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上18質量部以下であることがより好ましく、4質量部以上15質量部以下であることがさらに好ましい。急硬材の含有割合が上記下限値以上であることで、早期硬化性、ひび割れ抑制効果を得やすくなる。また、急硬材の含有割合が上記上限値以下であることで、強度発現性が良好となる。
【0057】
[減水剤]
本発明の補修材料は、各材料の分散を助けるとともに、練り上がった補修モルタルの流動性を付与する観点から、減水剤を含有させることが可能である。
【0058】
本発明で使用する減水剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ナフタレン系減水剤、メラミン系流減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、及びポリカルボン酸系減水剤が挙げられ、本発明ではこれら減水剤のうちの一種又は二種以上が使用可能である。
減水剤の具体例としては、例えば、ナフタレン系減水剤としては、エヌエムビー社製「レオビルドSP-9シリーズ」、花王社製「マイティ2000シリーズ」、及び日本製紙社製「サンフローHS-100」などが挙げられる。メラミン系減水剤としては、日本シーカ社製「シーカメント1000シリーズ」及び日本製紙社製「サンフローHS-40」などが挙げられる。アミノスルホン酸系減水剤としては、藤沢薬品工業社製「パリックFP-200シリーズ」などが挙げられる。ポリカルボン酸系減水剤としては、エヌエムビー社製「レオビルドSP-8シリーズ」、グレースケミカルズ社製「ダーレックススーパー100PHX」、及び竹本油脂社製「チューポールHP-8シリーズ」、「チューポールHP-11シリーズ」などが挙げられる。
減水剤には粉末状のものも存在する。具体的には、ナフタレン系減水剤としては、花王社製「マイティ100」、三洋化成工業社製「三洋レベロンP」、及び第一工業製薬社製「セルフロー110P」などが挙げられる。メラミン系減水剤としては、BASFポゾリス社製「メルメントF10M」などが挙げられる。ポリカルボン酸系減水剤としては、例えば、花王社製「CAD9000P」などが挙げられる。
【0059】
減水剤の含有割合は、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部以上2質量部以下が好ましく、0.2質量部以上1.8質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。減水剤の含有割合が上記下限値以上であることで、十分な流動性を得ることができる。また、減水剤の含有割合が上記上限値以下であることで、材料分離を抑制することができる。
【0060】
[シリカ質微粉末]
本発明の補修材料は、強度発現性の改善や耐酸性の向上、可使時間の確保に加えて、寸法安定性を良好にする観点から、シリカ質微粉末を含有させることが可能である。
【0061】
シリカ質微粉末としては、高炉水砕スラグ微粉末等の潜在水硬性物質、フライアッシュや、シリカフュームなどのポゾラン物質を挙げることができ、中でも、シリカフュームが好ましい。
シリカフュームの種類は限定されるものではないが、流動性の観点から、不純物としてZrO2を10%以下含有するシリカフュームや、酸性シリカフュームの使用がより好ましい。酸性シリカフュームとは、シリカフューム1gを純水100ccに入れて攪拌したときの上澄み液のpHが5.0以下の酸性を示すものをいう。
【0062】
シリカ質微粉末の粉末度は特に限定されるものではないが、通常、高炉水砕スラグ微粉末とフライアッシュは、ブレーン値で3,000cm2/g以上9,000cm2/g以下の範囲にあることが好ましく、シリカフュームは、BET比表面積で2万cm2/g以上30万cm2/g以下の範囲にあることが好ましい。
【0063】
シリカ質微粉末の含有割合は、セメント100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、2質量部以上15質量部以下がより好ましく、3質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。シリカ質微粉末の含有割合が上記下限値以上であることで、強度発現性の改善、耐酸性の向上、可使時間の確保、及び寸法安定性を良好にすることができる。また、シリカ質微粉末の含有割合が上記上限値以下であることで、流動性を向上させ、自己治癒効果を向上させることができる。
【0064】
[繊維]
本発明の補修材料は、厚付け性、ひび割れ抵抗性を改善する観点から、繊維を含有させることが可能である。
繊維の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニロン繊維、プロピレン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の高分子繊維類や、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、及び玄武岩等の岩石を溶融紡糸した繊維等の無機繊維類が挙げられる。
【0065】
繊維の含有割合は、セメント100質量部に対して、0.02質量部以上1.5質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上1.2質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下であることがさらに好ましい。繊維の使用量が0.02質量部以上であることで、ダレ性を改善する効果を十分に発揮することができる。また、繊維の含有割合が1.5質量部以下であることで、流動性を高め、自己治癒効果を良好とすることができる。繊維の長さは、コテ仕上げ面の美観の観点から、15mm以下であることが好ましく、12mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。繊維の長さの下限は特に限定されず、例えば、1mm以上であればよい。
【0066】
[その他]
本発明では、性能に悪影響を与えない範囲で、凝結調整剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、消泡剤、増粘剤、収縮低減剤、ベントナイト、セピオライトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0067】
本発明の補修材料において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
混合装置としては、既存のいかなる装置、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【0068】
[補修モルタル組成物]
本発明の補修モルタル組成物は、本発明の補修材料と水とを含有するものであり、補修材料と水とを混錬してなる。
本発明の練り混ぜ水量は、使用する目的・用途や各材料の含有割合によって変化するため特に限定されるものではないが、補修材料100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下であることが好ましく、11質量部以上65質量部以下であることがより好ましく、12質量部以上60質量部以下であることがさらに好ましい。練り混ぜ水量が上記下限値以上であることで、流動性の低下を抑制し、発熱量が極めて大きくなることを抑制することができる。また、練り混ぜ水量が上記上限値以下であることで、強度発現性を確保することができる。
【0069】
本発明において、補修材料と水との練り混ぜ方法は特に限定されるものではないが、回転数が900rpm以上のハンドミキサ、通常のモルタルミキサ、又は二軸型の強制ミキサを使用することが好ましい。
【0070】
ハンドミキサやモルタルミキサでの練り混ぜは、例えば、ペール缶等の容器やミキサにあらかじめ所定の水を入れ、その後ミキサを回転させながら補修モルタル組成物を投入し、3分以上練り混ぜることが好ましい。又、強制ミキサでの練り混ぜは、例えば、あらかじめグラウトモルタル組成物をミキサに投入し、ミキサを回転させながら所定の水を投入し、少なくとも4分以上練り混ぜることが好ましい。練り混ぜ時間が所定時間未満では、練り不足のため適切な補修モルタルの流動性が得られない場合がある。
【0071】
[硬化体]
前記モルタル組成物を用いてなる硬化体も本発明に包含される。より具体的には、練り混ぜられた補修モルタルは、通常、左官コテによる塗り付け方法や、スクイズ式等のモルタルポンプにより施工箇所まで圧送し、吹付けノズルを用いて圧搾空気を使用することで吹付け施工される。このようにして本発明の補修モルタル組成物は施工され、その後硬化体となる。すなわち、本発明の補修モルタル組成物を用いてなる硬化体となる。
【実施例0072】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
<評価方法>
(1)平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度
各実施例等で作製した補修用混和材をエポキシ樹脂で包埋後、ダイヤモンドカッターで切断した。その後、#1200の炭化珪素研磨紙で研磨し、研磨剤(3μmダイヤモンドペースト)を用いて鏡面仕上げを行った。次に、塩化アンモニウムの33%水溶液を用い、2秒間エッチング後、顕微鏡観察を行った。
ダイカルシウムシリケート化合物の平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度を明細書本文中に記載の方法で測定した。なお、使用した顕微鏡はニコン社製「エクリプスE600POL」、測定したサンプル数は4,000点とした。また、画像解析ソフト(アメリカ国立衛生研究所・Wayne Rasband氏製「IMAGEJ」)を使用した。
【0074】
(2)ダイカルシウムシリケート化合物の同定
作製した補修用混和材について、試料表面に炭素を蒸着後、電子顕微鏡観察及びEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)を用いて、点分析(分析点数50点)から同定した。
【0075】
(3)化学組成
蛍光X線測定により測定した。蛍光X線測定装置としては、リガク社製「ZSX―100e」を用いた。
【0076】
(4)圧縮強度残存比
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて材齢28日の圧縮強度を測定した。ただし、試験体は材齢1日で脱型後、材齢7日まで封かん養生し、以降、温度:20℃、湿度:60%RH、CO2濃度:5%の条件で、材齢28日まで炭酸化養生を施した。その後、試験体中の水分逸散による爆裂防止のため、乾燥炉にて105℃、1週間の乾燥処理を施した後、電気炉にて500℃、3時間の加熱処理を施した試験体を得、これを用いて、常温下で圧縮強度を測定した。また、乾燥および加熱処理を施す前の試験体についても常温下で圧縮強度を測定した。乾燥および加熱処理前後の圧縮強度の比を圧縮強度残存比(乾燥および加熱処理後の圧縮強度/乾燥および加熱処理前の圧縮強度)として求めた。
【0077】
(5)中性化抵抗性
500℃、3時間の加熱処理後の4×4×16cm供試体を、30℃・相対湿度60%、炭酸ガス濃度5%の環境で促進中性化を行い、8週間後に供試体を輪切りし、試験体の割裂断面にフェノールフタレイン1%アルコール溶液を塗布して中性化深さを確認した。なお、試験体の前処理方法は圧縮強度残存比の試験方法と同一とした。すなわち、上述の材齢28日までの炭酸化養生及び105℃、1週間の乾燥処理、3時間の加熱処理を行った。中性化抵抗性は、以下の式に基づいて評価した。
中性化抵抗性=(加熱処理+促進中性化後の中性化深さ(mm)/500℃加熱前の中性化深さ(mm))×100
【0078】
(6)流動性
JIS A 1171に準拠し、20℃環境下のJISフロー値で練混ぜ直後、および練混ぜから30分後に測定した。
【0079】
(7)自己治癒効果
JIS A 6206に準拠し、鉄筋拘束条件下で10cm×10cm×40cmの形状で補修材料の供試体を作製し、材齢56日後、供試体表面に歪ゲージを取り付け曲げ試験を行い、ひび割れ幅が0.1mmのひび割れが生じた時点で、曲げ試験を終了させた。その後、相対湿度98%、35℃の条件下で28日静置後に、相対湿度60%、20℃の条件下で7日静置することを1サイクルとしたとき、これを5サイクル繰り返した後、ひび割れが閉塞している面積の割合(閉塞した面積/ひび割れが生じた面積)を測定した。
【0080】
実験例1
セメント100質量部に対して、細骨材120質量部、膨張材11.1質量部、減水剤0.5質量部、表1に示す補修用混和材を25質量部、セメント混和用ポリマーを表2に示す量を含有するように調製し、補修材料(2-1~2-12)を得た。なお、実験例2-11は、補修用混和材を配合しない補修材料、2-12はセメント混和用ポリマーを配合しない補修材料である。
得られた補修材料100質量部に対して、水15質量部で混練し補修モルタル組成物を調製した。
調製した補修モルタル組成物の流動性、自己治癒効果、圧縮強度残存比、中性化抵抗性を測定した。結果を表2に示す。なお、環境温度について特別に記載のない試験は環境温度30℃で行った。
【0081】
<使用材料>
・セメント:普通ポルトランドセメント、ブレーン値3,450cm2/g
・セメント混和用ポリマー:ポリアクリル酸エステル再乳化樹脂、市販品、水分率0.8%、密度0.5g/mL
・細骨材:石灰砂、0.6mm下を50%、0.6~1.2mmを50%混合したものを使用した。
・膨張材:デンカ社製CSA♯20(ブレーン値;3000cm2/g)
・減水剤:ナフタレン系減水剤、市販品(第一工業製薬社製「セルフロ-110P」)
・水:水道水
・補修用混和材A:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬特級の二酸化ケイ素とをモル比2:1、かつ試薬1級の酸化アルミニウムを内割で2部となるように混合し、遊星型ボールミル(FRITSCH社製)で混合粉砕した。1,400℃で2時間熱処理し、室温まで放置後、篩目150μm通過分であるブレーン比表面積が3,000cm2/gの補修用混和材Aを作製した。
・補修用混和材B:試薬特級の二酸化ケイ素を珪砂に替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材C:試薬1級の炭酸カルシウムを石灰石に替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材D:試薬特級の二酸化ケイ素を溶融シリカに替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材E:珪砂の篩目150μm下通過分を用いたこと以外は補修用混和材Bと同様にして作製した。
・補修用混和材F:焼成温度を1,450℃に替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材G:試薬特級の二酸化ケイ素を珪砂に替え、かつ、遊星型ボールミルでの混合粉砕を手混合に替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材H:遊星型ボールミルでの混合粉砕を手混合に替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
・補修用混和材I:珪砂の篩目150μm上残分を用いたこと以外は補修用混和材Gと同様にして作製した。
・補修用混和材J:試薬特級の二酸化ケイ素を溶融シリカに替えたこと以外は補修用混和材Aと同様にして作製した。
上記のようにして補修用混和材A~Jを作製した。それぞれの補修用混和材は、上記方法により同定した結果、DCS化合物であり、また上記方法により測定した結果、平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度、及び化学組成は表1に記載する通りであった。
【0082】
【0083】
【0084】
表2の結果より、実施例に示されるように、顕微鏡観察により測定される特定の平均粒子径、および、平均アスペクト比のダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材を含有することで、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上することを確認できた。具体的には、補修用混和材を含有しない実験No.2-11との比較から、本発明の補修用混和材を用いることで、圧縮強度残存比、中性化抵抗性が大幅に向上することがわかる。
また、平均粒子径が特定値より小さい実験No.2-8との比較において、平均粒子径が特定の範囲である本発明の補修用混和材の含有によって、流動性が向上することが明らかであり、自己治癒効果及び圧縮強度残存比が高くなることがわかる。一方、平均粒子径が特定値より大きい実験No.2-9との比較では、平均粒子径が特定の範囲である本発明の補修用混和材の含有によって、圧縮強度残存比が向上することがわかる。
また、平均アスペクト比が特定値より小さい実験No.2-10では、圧縮強度比が極めて小さく、かつ中性化抵抗性に劣ることがわかる。
さらに、セメント混和用ポリマーを含有しない実験No.2-12との比較から、セメント混和用ポリマーを含有する本発明の補修用混和材を用いることで、自己治癒効果が著しく高くなることがわかる。
【0085】
実験例2
セメント100質量部に対して、繊維0.1質量部、セメント混和用ポリマー3.0質量部(固形分換算)、細骨材120質量部、膨張材11.1質量部、減水剤0.5質量部、表3に示す補修用混和材を25部含有するように調製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
・補修用混和材B-2:前記補修用混和材Aの作製において、試薬特級の二酸化ケイ素を珪砂に替え、酸化アルミニウムを試薬特級の酸化アルミニウムに替え、化学組成が表3に記載の数値となるように、原料を配合して、補修用混和材Aと同様に作製した。
・補修用混和材B-3:上記補修用混和材B-2の作製において、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は補修用混和材B-2と同様にして作製した。
・補修用混和材B-4:上記補修用混和材B-2の作製において、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は補修用混和材B-2と同様にして作製した。
・補修用混和材B-5:上記補修用混和材B-2の作製において、さらにMgO源として、試薬1級の炭酸マグネシウム(MgCO3)を配合し、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は補修用混和材B-2と同様にして作製した。
・補修用混和材B-6:上記補修用混和材B-5の作製において、炭酸マグネシウム(MgCO3)の配合量を変更し、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は補修用混和材B-5と同様にして作製した。
・補修用混和材B-7:上記補修用混和材B-2の作製において、さらにSO3源として、試薬1級の二水セッコウ(CaSO4・2H2O)を配合し、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は補修用混和材B-2と同様にして作製した。
・補修用混和材B-8:上記補修用混和材B-7の作製において、二水セッコウ(CaSO4・2H2O)の配合量を変更したこと以外は補修用混和材B-7と同様にして作製した。
・補修用混和材B-9:上記補修用混和材B-2の作製において、さらにMgO源として、試薬1級の炭酸マグネシウム(MgCO3)と、SO3源として、試薬1級の二水セッコウ(CaSO4・2H2O)を配合し、化学組成が表3に記載の数値となるように、各原料を配合したこと以外は、補修用混和材B-2と同様にして作製した。
上記のようにして補修用混和材B-2~B-9を作製した。それぞれの補修用混和材は、上記方法により同定した結果、DCS化合物であり、また上記方法により測定した結果、平均粒子径、平均アスペクト比、平均真円度、及び化学組成は表3に記載する通りであった。
【0086】
【0087】
【0088】
実験例3
前記補修用混和材B(ブレーン比表面積;3000cm2/g)を用い、篩目を通過させて表5に示す粉末度(ブレーン比表面積)の補修用混和材としたこと以外は、実験例2と同様に試験を行った。結果を表5に示す。表5の結果から、ブレーン比表面積が3000~6000cm2/gの範囲である補修用混和材(DCS化合物)を含有することで、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上することを確認できた。
【0089】
【0090】
実験例4
セメント100質量部に対して、細骨材を表6に示す量を含有するように調製し、補修材料を得たこと以外は、実験例2と同様に試験を行った。結果を表6に示す。表6の結果から、細骨材の含有割合が30~300質量部の範囲であると、特に自己治癒効果が高いことがわかった。
【0091】
本発明の補修材料は、顕微鏡観察により測定される特定の平均粒子径、および、平均アスペクト比のダイカルシウムシリケート化合物を含む補修用混和材を含有することで、流動性が高く、自己治癒効果をより高めることができ、かつ、耐火性や受熱後の中性化抵抗性が向上する補修材料、補修モルタル組成物及び硬化体を提供し、土木・建築用途等、広範囲に利用できる。