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特開2024-179581直動アクチュエータおよび電磁サスペンション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179581
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】直動アクチュエータおよび電磁サスペンション
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20241219BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20241219BHJP
   B60G 17/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16H25/24 G
F16H25/20 E
B60G17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098543
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 利昌
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和則
(72)【発明者】
【氏名】田口 尚輝
【テーマコード(参考)】
3D301
3J062
【Fターム(参考)】
3D301AA01
3D301AA48
3D301AA76
3D301DA09
3D301DA10
3D301DA22
3D301DA23
3D301DA29
3D301DA30
3D301DA35
3D301DA38
3D301DA86
3J062AA01
3J062AB21
3J062AC07
3J062BA16
3J062CD02
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD57
(57)【要約】
【課題】制御のための追加の装置が必要なく、直動アクチュエータに設けられる要素によって衝撃および高周波の振動を緩和する。
【解決手段】直動アクチュエータは、回転させられる送りねじと、2つの端面を有しており、送りねじの回転に伴って、送りねじの軸線方向に沿って直進させられるナット部材と、ナット部材の周囲に配置され、軸線方向に沿った長さがナット部材の長さより大きく、ナット部材とともに直進させられる直動円筒部材と、剛性材料から形成され、ナット部材の端面に対向するようにそれぞれ配置され、直動円筒部材に係合し、ナット部材の直進運動を直動円筒部材に伝達する2つの円環部材と、エラストマー材料から形成され、円環部材とナット部材の端面との間に配置されて、円環部材とナット部材の端面との間で圧縮される円環状の2つの第1の緩衝部材とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転させられる送りねじと、
2つの端面を有しており、前記送りねじの回転に伴って、前記送りねじの軸線方向に沿って直進させられるナット部材と、
前記ナット部材の周囲に配置され、前記軸線方向に沿った長さが前記ナット部材の長さより大きく、前記ナット部材とともに直進させられる直動円筒部材と、
剛性材料から形成され、前記ナット部材の前記端面に対向するようにそれぞれ配置され、前記直動円筒部材に係合し、前記ナット部材の直進運動を前記直動円筒部材に伝達する2つの円環部材と、
エラストマー材料から形成され、前記円環部材と前記ナット部材の前記端面との間に配置されて、前記円環部材と前記ナット部材の前記端面との間で圧縮される円環状の2つの第1の緩衝部材とを備える
ことを特徴とする直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1の緩衝部材は、前記円環部材と前記ナット部材の前記端面との間で圧縮された状態で、前記送りねじの最大径よりも大きい内径を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記ナット部材の外周面と、前記直動円筒部材の内周面との間に設けられた円環状の隙間と、
前記ナット部材に固定されて、前記直動円筒部材に嵌め込まれるキーをさらに備え、
前記キーは、前記送りねじの軸線を中心とする径方向において、前記直動円筒部材に接触しない
ことを特徴とする請求項2に記載の直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記直動円筒部材は、前記キーが嵌め込まれるキー溝を有し、前記キー溝は前記直動円筒部材の壁を前記径方向に貫通する
ことを特徴とする請求項3に記載の直動アクチュエータ。
【請求項5】
直動円筒部材の内周面とナット部材の外周面との間には円環状の隙間が設けられ、
エラストマー材料から形成され、前記ナット部材の径方向外側、かつ前記直動円筒部材の径方向内側に配置され、前記ナット部材と前記直動円筒部材に接触して、前記隙間を閉塞する円環状の少なくとも1つの第2の緩衝部材をさらに備える
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記直動円筒部材の外側に配置されて、前記軸線方向に沿って延びており、前記直動円筒部材の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブと、
前記案内スリーブによって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第1の空間と、
前記直動円筒部材によって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第2の空間とをさらに備え、
前記第1の空間と前記第2の空間の各々は、前記ナット部材の直進運動に伴って、変動する容積を有し、
前記送りねじは、前記軸線方向に沿って延びる内部孔を有し、前記内部孔は前記第1の空間と前記第2の空間に連通する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記直動円筒部材の外側に配置されて、前記軸線方向に沿って延びており、前記直動円筒部材の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブと、
前記案内スリーブによって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第1の空間と、
前記直動円筒部材によって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第2の空間とをさらに備え、
前記第1の空間と前記第2の空間の各々は、前記ナット部材の直進運動に伴って、変動する容積を有し、
前記送りねじは、前記軸線方向に沿って延びる内部孔を有する中空構造であり、前記内部孔は前記第1の空間と前記第2の空間に連通する
ことを特徴とする請求項5に記載の直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記直動円筒部材の外側に配置されて、前記軸線方向に沿って延びており、前記直動円筒部材の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブをさらに有する請求項1から4のいずれか1項に記載の直動アクチュエータと、
前記直動円筒部材に連結され、構造物の一方の部材に取り付けられる第1の取り付け部と、
前記案内スリーブに連結され、前記構造物の他方の部材に取り付けられる第2の取り付け部と、
前記直動円筒部材に係合する第1の荷重支持板と、
前記案内スリーブに係合する第2の荷重支持板と、
前記第1の荷重支持板と前記第2の荷重支持板との間に配置されて、前記第1の荷重支持板と前記第2の荷重支持板との間で圧縮されるコイルばねとを備える
ことを特徴とする電磁サスペンション。
【請求項9】
前記直動アクチュエータは、
前記案内スリーブによって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第1の空間と、
前記直動円筒部材によって包囲され、前記送りねじが中央に配置され、前記ナット部材が配置されていない第2の空間とをさらに備え、
前記第1の空間と前記第2の空間の各々は、前記ナット部材の直進運動に伴って、変動する容積を有し、
前記送りねじは、前記軸線方向に沿って延びる内部孔を有する中空構造であり、前記内部孔は前記第1の空間と前記第2の空間に連通する
ことを特徴とする請求項8に記載の電磁サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動アクチュエータおよび電磁サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直動アクチュエータとバネを有する電磁サスペンションが開発されている(特許文献1,2)。サスペンションにおいては、できるだけ衝撃を緩和することができることが好ましい。特に、この種の電磁サスペンションにおいては、大きな衝撃が加わると、直動アクチュエータおよびこれを駆動するモータに過大な負担がかかる。また、サスペンションは、衝撃だけでなく高周波の振動を緩和することができることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-132298号公報
【特許文献2】特開2005-096587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術おいては、モータに過大な回転力が加わろうとすると、モータを固定する力を弱めて、モータ自体の回転を許容することにより、モータおよびその他の部品の破損を防止しようとする。しかし、この技術では、車体の変位および加速度を測定し、変位の速度および加速度に基づいて、モータを固定する力を制御する。したがって、測定のためのセンサと電子制御装置が必要とされる。
【0005】
特許文献2に開示された技術においては、衝撃吸収手段の剛性が可変であり、車体の加速度を測定し、加速度に基づいて、衝撃吸収手段の剛性を制御する。したがって、測定のためのセンサと電子制御装置が必要とされる。また、特許文献2に開示された技術では、直動アクチュエータの内部に加わる衝撃を緩和することができない。
【0006】
そこで、本発明は、制御のための追加の装置が必要なく、直動アクチュエータに設けられる要素によって衝撃および高周波の振動を緩和する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は直動アクチュエータを提供する。直動アクチュエータは、回転させられる送りねじと、2つの端面を有しており、前記送りねじの回転に伴って、前記送りねじの軸線方向に沿って直進させられるナット部材と、前記ナット部材の周囲に配置され、前記軸線方向に沿った長さが前記ナット部材の長さより大きく、前記ナット部材とともに直進させられる直動円筒部材と、剛性材料から形成され、前記ナット部材の前記端面に対向するようにそれぞれ配置され、前記直動円筒部材に係合し、前記ナット部材の直進運動を前記直動円筒部材に伝達する2つの円環部材と、エラストマー材料から形成され、前記円環部材と前記ナット部材の前記端面との間に配置されて、前記円環部材と前記ナット部材の前記端面との間で圧縮される円環状の2つの第1の緩衝部材とを備える。
【0008】
本発明の他の態様は電磁サスペンションを提供する。電磁サスペンションは、前記直動円筒部材の外側に配置されて、前記軸線方向に沿って延びており、前記直動円筒部材の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブをさらに有する前記の直動アクチュエータと、前記直動円筒部材に連結され、構造物の一方の部材に取り付けられる第1の取り付け部と、前記案内スリーブに連結され、前記構造物の他方の部材に取り付けられる第2の取り付け部と、前記直動円筒部材に係合する第1の荷重支持板と、前記案内スリーブに係合する第2の荷重支持板と、前記第1の荷重支持板と前記第2の荷重支持板との間に配置されて、前記第1の荷重支持板と前記第2の荷重支持板との間で圧縮されるコイルばねとを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様においては、ナット部材とともに直進運動させられる直動円筒部材に2つの円環部材が係合し、各円環部材とナット部材の端面の間には、エラストマー材料製の円環状の第1の緩衝部材が介在させられる。したがって、ナット部材に相対して直動円筒部材は、第1の緩衝部材を伸縮させながら、わずかに軸線方向に沿って移動可能であり、第1の緩衝部材は、主に軸線方向に沿って直動円筒部材に加わる衝撃および高周波の振動を吸収する。したがって、直動円筒部材に加わる衝撃および高周波の振動は、ナット部材ひいては送りねじおよびその回転のための回転駆動装置に伝達されにくい。このようにして、制御のための追加の装置が必要なく、直動アクチュエータに設けられる2つの第1の緩衝部材によって衝撃および高周波の振動が吸収されて、ナット部材、送りねじおよび回転駆動装置が衝撃および高周波の振動から保護される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る直動アクチュエータを有する電磁サスペンションを示す正面断面図である。
図2図2は、図1の電磁サスペンションの側面断面図である。
図3図3は、退縮状態にある図1の電磁サスペンションを示す正面断面図である。
図4図4は、図2の一部を拡大して示す断面図である。
図5図5は、変形例に係る図4と同じ部分を拡大して示す断面図である。
図6図6は、他の変形例に係る図4と同じ部分を拡大して示す断面図である。
図7図7は、直動アクチュエータの送りねじの下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
図1から図3に示すように、本発明の実施形態に係る電磁サスペンション1は直動アクチュエータ2を有する。
【0013】
直動アクチュエータ2は、モータ3、モータドライバ4、歯車伝達機構5、送りねじ6、ナット部材7、直動円筒部材8およびハウジング9を有する。
【0014】
モータ3は、例えばサーボモータまたはステッピングモータである。モータ3は回転シャフト3aを有する。モータドライバ4は、回転シャフト3aの回転を制御する。モータドライバ4には、電磁サスペンション1に与えられる加速度を測定する加速度センサ(図示せず)からの信号が供給され、モータドライバ4は加速度センサからの信号に基づいて、回転シャフト3aの回転を制御し、直動アクチュエータ2が制振機能を発揮するようにする。
【0015】
モータ3はハウジング9に固定されており、回転シャフト3aはハウジング9のフランジ9aに形成された孔を通過する。ハウジング9は金属または樹脂のような剛性材料から形成されている。
【0016】
歯車伝達機構5は、モータ3の回転シャフト3aによって駆動される。歯車伝達機構5は、2つの歯車10,11を有する。歯車10,11は、例えば平歯車であるが、はすば歯車であってもよい。
【0017】
歯車10は、駆動歯車であって、回転シャフト3aに固定されて、回転シャフト3aとともに回転する。例えば、歯車10は回転シャフト3aにキー3bおよびナット3cによって固定されている。
【0018】
歯車11は、従動歯車であって、歯車10に噛み合っており、歯車10によって駆動されて回転する。歯車11は、回転シャフト11aに固定されて、回転シャフト11aとともに回転する。例えば、歯車11は回転シャフト11aにキー11bおよびナット11cによって固定されている。
【0019】
回転シャフト11aは、転がり軸受12,13によって回転可能に支持されている。転がり軸受12,13は、軸受ハウジング14に支持されており、軸受ハウジング14は、ハウジング9のフランジ9aに固定されている。
【0020】
ハウジング9のフランジ9aにはカバー15が固定されている。カバー15は、金属または樹脂のような剛性材料から形成され、ハウジング9とともに歯車伝達機構5を収容する空間を画定し、歯車伝達機構5を保護する。ハウジング9は、フランジ9aのほか、直動円筒部材8の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブ9bを有する。案内スリーブ9bは、フランジ9aに一体に連結されている。
【0021】
この実施形態では、歯車11の回転シャフト11aは、歯車伝達機構5の出力シャフトであり、回転シャフト11aの延長部分に直動アクチュエータ2の送りねじ6が形成されている。したがって、送りねじ6は、モータ3の回転シャフト3aの回転に伴って、送りねじ6の軸線方向を中心にして回転させられる。
【0022】
送りねじ6は、案内スリーブ9bと同軸に配置されている。送りねじ6は、台形ねじでもよいし、ボールねじ(例えば、循環型ボールねじ)でもよいし、各種のローラねじでもよい。ローラねじは、例えば、遊星ローラねじ、循環型ローラねじ、またはその他のローラねじであってもよい。
【0023】
ナット部材7は送りねじ6に係合しており、送りねじ6の回転に伴って、送りねじ6の軸線方向に沿って直進させられる。ナット部材7は金属または樹脂のような剛性材料から形成されている。ナット部材7は、円柱状の輪郭を有し、外周面7a、端面7b,7cを有する。
【0024】
直動円筒部材8はナット部材7の周囲に配置され、ナット部材7に係合しており、送りねじ6の回転に伴って、ナット部材7とともに送りねじ6の軸線方向に沿って直進させられる。但し、後述するように、ナット部材7に相対して直動円筒部材8は、わずかに送りねじ6の軸線方向に沿って移動可能である。直動円筒部材8は直進ロッドとも呼ぶことができる。
【0025】
直動円筒部材8は、金属または樹脂のような剛性材料から形成された円筒状のパイプであり、送りねじ6の軸線方向に沿った直動円筒部材8の長さは、送りねじ6のそれよりも大きい。直動円筒部材8は送りねじ6および案内スリーブ9bと同軸に配置されている。直動円筒部材8は、案内スリーブ9bの内部空間内に軸線方向に沿って往復移動可能に配置されている。直動円筒部材8の内部空間の中央には、送りねじ6が延びている。
【0026】
ナット部材7にはキー16が固定され、直動円筒部材8には、キー16が嵌め込まれるキー溝17が形成されている(図1および図3ではキー溝17は仮想線で示されている)。ナット部材7に固定されたキー16は、送りねじ6の軸線を中心とする周方向において、直動円筒部材8に接触するので、送りねじ6の周りのナット部材7の回転を防止する。
【0027】
円筒状のパイプである直動円筒部材8は、その端部に端壁8aを有する。直動円筒部材8は、端壁8a、直動円筒部材8の周壁、およびナット部材7で包囲された閉塞空間(第2の空間)8bを有する。閉塞空間8bは、直動円筒部材8の内部空間のうち、ナット部材7が配置されていない端壁8a側の空間である。閉塞空間8bの容積は、ナット部材7の直進運動に伴って変動する。
【0028】
直動円筒部材8の直進運動を案内する円筒状の案内スリーブ9bは、直動円筒部材8の外側に配置されて、送りねじ6の軸線方向に沿って延びている。案内スリーブ9bは、転がり軸受13、軸受ハウジング14、案内スリーブ9bの周壁、およびナット部材7で包囲された閉塞空間(第1の空間)9cを有する。閉塞空間9cは、案内スリーブ9bの内部空間のうち、ナット部材7が配置されていない転がり軸受13側の空間である。閉塞空間9cの中央には、送りねじ6が延びている。閉塞空間9cの容積は、ナット部材7の直進運動に伴って変動する。
【0029】
電磁サスペンション1に利用される直動アクチュエータ2の直動円筒部材8の端壁8aには、端部取り付け部(第1の取り付け部)20が一体に連結されている。
【0030】
一方、案内スリーブ9bに連結されたカバー15には、端部取り付け部(第2の取り付け部)21が一体に連結されている。
【0031】
直動アクチュエータ2は、輸送機器または建築物の垂直方向の制振のための電磁サスペンション1に使用されうる。この場合、直動アクチュエータ2は、図1から図3に示すように、端部取り付け部21が上方に位置し、端部取り付け部20が下方に位置する姿勢で、配置される。そして、端部取り付け部20は、輸送機器または建築物の部分22に、例えばボルト23およびナット24で取り付けられる。また、端部取り付け部21は、輸送機器または建築物の他の部分25に、例えばボルト26およびナット27で取り付けられる。輸送機器にこのように直動アクチュエータ2が使用される場合、部分25は車体側であり、部分22は車体の下方の車輪側である。
【0032】
直動アクチュエータ2は、輸送機器(例えば鉄道車両)または建築物の横方向の制振のための電磁サスペンション1に使用されうる。この場合、送りねじ6、ナット部材7、直動円筒部材8、案内スリーブ9bは、それらの長手方向が横方向になる姿勢で配置される。そして、端部取り付け部20が機器または建築物の一方の側部である部分22に取り付けられ、端部取り付け部21が機器または建築物の他方の側部である部分25に取り付けられる。
【0033】
図3は、直動アクチュエータ2の退縮状態(より正確には直動円筒部材8の退縮状態)を示す。このように、回転シャフト11aの延長部分である送りねじ6は、歯車伝達機構5で回転させられ、ナット部材7と直動円筒部材8は送りねじ6の回転に伴って直進させられる。
【0034】
歯車伝達機構5を逆転させれば、図3とは逆に、直動円筒部材8は伸長させられる。このようにして直動円筒部材8は往復運動させられる。
【0035】
直動円筒部材8の直動可能な範囲(ストローク)は有限であり、したがってモータ3は有限な角度範囲で回動するように、モータドライバ4で制御される。したがって、歯車伝達機構5の歯車10,11も限定された角度範囲内を回転する。
【0036】
絶対必要というわけではないが、直動円筒部材8の直進運動を容易にするため、直動円筒部材8の外周面と案内スリーブ9bの内周面との間には、すべり軸受28,29が介在させられている。すべり軸受28,29は、例えば円筒形のブッシュである。但し、すべり軸受28,29の各々は、複数の円弧状のピースを持つ分割型すべり軸受であってもよい。
【0037】
この実施形態では、すべり軸受28は直動円筒部材8の外周面に形成された周溝内に配置されている。すべり軸受28の外周面は、案内スリーブ9bの内周面に摺動可能に接触する。すべり軸受29は案内スリーブ9bの内周面に形成された周溝内に配置されている。すべり軸受29の内周面は、直動円筒部材8の外周面に摺動可能に接触する。
【0038】
ナット部材7の直進運動を直動円筒部材8に伝達するため、ナット部材7と直動円筒部材8に係合する2つの円環部材30,31が設けられている。円環部材30,31は、金属または樹脂のような剛性材料から形成されている。円環部材30は、ナット部材7の端部取り付け部20側のカバー15側の端面7bに対向し、円環部材31は、ナット部材7の端部取り付け部21側の端面7cに対向する。
【0039】
図4の拡大断面図に示すように、円環部材30,31は、直動円筒部材8の内周面に形成された周溝に嵌め込まれて、直動円筒部材8に固定されている。円環部材30,31は、例えばC型止め輪である。
【0040】
円環部材30が直動円筒部材8に固定されてナット部材7の端面7bに対向し、円環部材31が直動円筒部材8に固定されてナット部材7の端面7cに対向するので、送りねじ6の回転に伴って、ナット部材7とともに直動円筒部材8が送りねじ6の軸線方向に沿って直進することができる。すなわち、円環部材30,31はナット部材7の直進運動を直動円筒部材8に伝達する。
【0041】
但し、直動アクチュエータ2に与えられる衝撃および高周波の振動を緩和するため、ナット部材7の両端面7b,7cには、エラストマー材料から形成された円環状の2つの軸線方向緩衝部材(第1の緩衝部材)32,33が接触させられている。
【0042】
軸線方向緩衝部材32は、円環部材30とナット部材7の端面7bとの間に介在させられ、円環部材30とナット部材7の端面7bとの間で圧縮されている。軸線方向緩衝部材33は、円環部材31とナット部材7の端面7cとの間に介在させられ、円環部材31とナット部材7の端面7cとの間で圧縮されている。
【0043】
軸線方向緩衝部材32,33は、例えばOリングである。但し、軸線方向緩衝部材32,33は、断面がX形状のXリングであってもよいし、断面がD形状のDリングであってもよいし、断面が矩形のリングであってもよい。
【0044】
このように、直動円筒部材8に2つの円環部材30,31が係合し、各円環部材30,31とナット部材7の端面7b,7cの間には、エラストマー材料製の円環状の軸線方向緩衝部材32,33が介在させられる。したがって、ナット部材7に相対して直動円筒部材8は、軸線方向緩衝部材32,33を伸縮させながら、わずかに(軸線方向緩衝部材32,33の伸縮量の分)、送りねじ6の軸線方向に沿って移動可能である。
【0045】
また、図4の拡大断面図に示すように、送りねじ6の軸線方向に沿って、上記のキー16は、キー溝17の長さより小さい長さを有する。したがって、キー16とキー溝17は、ナット部材7に相対する直動円筒部材8の軸線方向に沿った移動を許容する。
【0046】
軸線方向緩衝部材32,33は、主に送りねじ6の軸線方向に沿って直動円筒部材8に加わる衝撃および高周波の振動を吸収する。したがって、輸送機器または建築物の部分22から端部取り付け部20を通じて直動円筒部材8に加わる衝撃および高周波の振動は、ナット部材7ひいては送りねじ6、その回転のための歯車伝達機構5およびモータ3に伝達されにくい。このようにして、制御のための追加の装置が必要なく、直動アクチュエータ2に設けられる2つの軸線方向緩衝部材32,33によって衝撃および高周波の振動が吸収されて、ナット部材7、送りねじ6、その回転のための歯車伝達機構5およびモータ3が衝撃および高周波の振動から保護される。
【0047】
例えば、端部取り付け部21が輸送機器の車体側の部分25に取り付けられ、端部取り付け部20が車輪側の部分22に取り付けられる場合、輸送機器が走行する路面から端部取り付け部20を通じて直動円筒部材8に加わる衝撃および高周波の振動は、ナット部材7ひいては送りねじ6、その回転のための歯車伝達機構5およびモータ3に伝達されにくい。したがって、輸送機器の乗員の乗り心地が向上する。
【0048】
軸線方向緩衝部材32,33は、円環部材30,31とナット部材7の端面7b,7cとの間で圧縮された状態で、送りねじ6の最大径dよりも大きい内径Dを有する。このため、直動円筒部材8が送りねじ6に対して偏心していても、軸線方向緩衝部材32,33が送りねじ6に接触することを抑制することができる。また、直動円筒部材8が曲がったとしても、軸線方向緩衝部材32,33が送りねじ6に接触することを抑制することができる。したがって、送りねじ6のねじれまたは曲げを抑制することができるとともに、軸線方向緩衝部材32,33の摩耗を抑制することができる。
【0049】
また、図4の拡大断面図に示すように、ナット部材7の外周面7aと直動円筒部材8の内周面との間には、円環状のわずかな隙間35が設けられている。上記のキー16は、ナット部材7の外周面7aに形成された溝に嵌め込まれることによって直動円筒部材8に固定されて、直動円筒部材8に嵌め込まれている。しかし、キー16は、送りねじ6の軸線を中心とする径方向において、直動円筒部材8に接触しない。より具体的には、直動円筒部材8に形成されて、キー16が嵌め込まれるキー溝17は直動円筒部材8の壁を径方向に貫通する。
【0050】
ナット部材7の外周面7aと直動円筒部材8の内周面との間には、円環状のわずかな隙間35が設けられ、径方向においてキー16は直動円筒部材8に接触しないので、直動円筒部材8が送りねじ6に対して偏心していても、直動円筒部材8の偏心はキー16からナット部材7に伝達されない。また、直動円筒部材8が曲がったとしても、直動円筒部材8の径方向の変位はキー16からナット部材7に伝達されない。このため、ナット部材7に密に接触している軸線方向緩衝部材32,33が送りねじ6に接触することが抑制される。したがって、送りねじ6のねじれまたは曲げを抑制することができるとともに、軸線方向緩衝部材32,33の摩耗を抑制することができる。
【0051】
キー16が、送りねじ6の軸線を中心とする径方向において、直動円筒部材8に接触しないようにするためには、必ずしもキー溝17は、直動円筒部材8の壁を貫通しなくてもよい。しかし、この実施形態のように、キー溝17が直動円筒部材8の壁を径方向に貫通することにより、直動円筒部材8の外側からキー16をキー溝17に挿入し、さらにナット部材7に固定するのが容易である。
【0052】
直動アクチュエータ2は、さらに少なくとも1つの円環状の径方向緩衝部材(第2の緩衝部材)38を備える。この実施形態では、2つの径方向緩衝部材38が設けられているが、径方向緩衝部材38の数は限定されない。
【0053】
径方向緩衝部材38は、エラストマー材料から形成され、ナット部材7の径方向外側、かつ直動円筒部材8の径方向内側に配置され、ナット部材7と直動円筒部材8に接触して、円環状の隙間35を閉塞する。
【0054】
より具体的には、図4に示すように、直動円筒部材8の内周面には、2つの周溝40が形成され、各径方向緩衝部材38は周溝40の内部に配置されている。各径方向緩衝部材38は周溝40の壁面に接触するとともに、ナット部材7の外周面7aに接触する。
【0055】
直動円筒部材8の内周面とナット部材7の外周面との間には円環状の隙間35が設けられており、円環状の隙間35は円環状の径方向緩衝部材38で閉塞されている。径方向緩衝部材38は、隙間35がなくなって、直動円筒部材8の内周面がナット部材7の外周面に接触することを防止するので、直動円筒部材8がナット部材7に相対的に移動したとしても、直動円筒部材8もナット部材7も摩耗しない。
【0056】
また、径方向緩衝部材38がナット部材7を包囲し、直動円筒部材8の径方向内側に配置されることにより、直動円筒部材8が送りねじ6に対して偏心していても、直動円筒部材8の径方向の位置がナット部材7に与える影響が減少する。また、直動円筒部材8が曲がったとしても、直動円筒部材8の径方向の変位は径方向緩衝部材38によって吸収され、ナット部材7に伝達されにくい。このため、ナット部材7に密に接触している軸線方向緩衝部材32,33が送りねじ6に接触することが抑制される。したがって、送りねじ6のねじれまたは曲げを抑制することができるとともに、軸線方向緩衝部材32,33の摩耗を抑制することができる。
【0057】
実施形態において、径方向緩衝部材38は、Oリングであるが、例えばXリング、Dリングなどの他のリングであってもよい。
【0058】
図5に示すように、実施形態の変形例において、ナット部材7の外周面7aに周溝41が形成されてもよく、各径方向緩衝部材(第2の緩衝部材)42が周溝41の内部に配置されていてもよい。各径方向緩衝部材42は周溝41の壁面に接触するとともに、直動円筒部材8の内周面に接触する。
【0059】
図5の変形例において、径方向緩衝部材42は、エラストマー材料製のDリングであるが、例えばXリング、Oリングなどの他のリングであってもよい。この変形例では、2つの径方向緩衝部材42が設けられているが、径方向緩衝部材42の数は限定されない。
【0060】
図6に示すように、実施形態の他の変形例において、ナット部材7の周溝41も直動円筒部材8の周溝40も省略し、各径方向緩衝部材(第2の緩衝部材)44がナット部材7の外周面7aと直動円筒部材8の内周面との間に配置されていてもよい。各径方向緩衝部材44はナット部材7の外周面7aに接触するとともに、直動円筒部材8の内周面に接触する。
【0061】
図6の変形例において、径方向緩衝部材44は、エラストマー材料製の円筒状のリングであるが、例えばXリング、Dリング、Oリングなどの他のリングであってもよい。この変形例では、2つの径方向緩衝部材44が設けられているが、径方向緩衝部材44の数は限定されない。
【0062】
上記の通り、図1から図3に示すように、ナット部材7の両端面7b,7cの付近には、エラストマー材料製の円環状の軸線方向緩衝部材32,33が配置されている。軸線方向緩衝部材32は、円環部材30とナット部材7の端面7bとの間で圧縮される。軸線方向緩衝部材33は、円環部材31とナット部材7の端面7cとの間で圧縮される。また、ナット部材7の外周面7aと直動円筒部材8の内周面との間には、円環状のわずかな隙間35が設けられるが、隙間35は、エラストマー材料製の円環状の径方向緩衝部材38,42または44で閉塞されている。
【0063】
軸線方向緩衝部材32,33および径方向緩衝部材38,42または44は、案内スリーブ9bに包囲されナット部材7が配置されていない閉塞空間9cと、直動円筒部材8に包囲されナット部材7が配置されていない閉塞空間8bとの間の空気の流通を阻害する。上記の通り、ナット部材7に相対して直動円筒部材8は、軸線方向緩衝部材32,33を伸縮させながら、わずかに軸線方向に沿って移動可能であるが、閉塞空間9cと閉塞空間8bとの間の空気の流通が阻害されると、ナット部材7に対する直動円筒部材8の移動が阻害されて、軸線方向緩衝部材32,33が緩衝機能を良好に発揮できない場合がありうる。
【0064】
そこで、送りねじ6は、軸線方向に沿って延びる内部孔6aを有する中空構造であり、内部孔6aは閉塞空間9cと閉塞空間8bに連通する。内部孔6aは送りねじ6と同心であるが偏心していてもよい。
【0065】
内部孔6aは送りねじ6の下端で開口し、閉塞空間8bに連通する。また、図1から図3および図7に示すように、送りねじ6は、径方向に延びる放射孔6bを有し、放射孔6bは、内部孔6aの上端に接続されている。したがって、内部孔6aは、放射孔6bを通じて閉塞空間9cに連通する。
【0066】
送りねじ6の内部孔6aが閉塞空間9cと閉塞空間8bとの間の空気の流通を許容することにより、ナット部材7に相対する直動円筒部材8の移動が許容され、軸線方向緩衝部材32,33が緩衝機能を確実に発揮することができる。
【0067】
図1から図3に示すように、電磁サスペンション1は、さらに構造物の一方の部材から他方の部材に与えられる衝撃を緩和するコイルばね50を備える。
【0068】
図1および図3に示された部分22から衝撃が与えられる直動円筒部材8には、第1の荷重支持板51が係合し、部分25に連結された案内スリーブ9bには、第2の荷重支持板52が係合する。第2の荷重支持板52は、内部を案内スリーブ9bが通過する円環である。案内スリーブ9bにはフランジ53が形成され、フランジ53の下面に第2の荷重支持板52の上面が接触させられている。
【0069】
コイルばね50は、第1の荷重支持板51と第2の荷重支持板52との間に配置されて、第1の荷重支持板51と第2の荷重支持板52との間で圧縮される。したがって、部分22から与えられる衝撃は、コイルばね50で吸収され、部分25へ伝達されにくい。
【0070】
コイルばね50は案内スリーブ9bと同軸に配置されている。したがって、案内スリーブ9bに偏荷重がかかりにくく、案内スリーブ9bの曲げが防止されている。
【0071】
但し、コイルばね50は絶対必要というわけではない。コイルばね50がなくても、直動アクチュエータ2自体を電磁サスペンションとして使用することができる。
【0072】
他の変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0073】
例えば、上記の実施形態においては、歯車伝達機構5の歯車10,11は、平歯車またははすば歯車であるが、歯車伝達機構として、かさ歯車の組み合わせまたはウオーム歯車機構を用いてもよい。歯車伝達機構に設けられる歯車の数は任意でよい。 また、各歯車が取り付けられた回転シャフトを支持する軸受の位置を変更してもよいし、軸受を追加してもよい。
【0074】
モータの回転運動を送りねじ6に伝達する機構は、歯車伝達機構に限定されず、例えば、ベルト・プーリ機構であってもよく、ベルトはタイミングベルトでもVベルトでもよい。
【0075】
上記の実施形態においては、直動円筒部材8に対するナット部材7の回り止め機構(キー16)が設けられているが、案内スリーブ9bに対する直動円筒部材8の回り止め機構は設けられていない。しかし、案内スリーブ9bに対する直動円筒部材8の回り止め機構(例えば、キーまたはスプライン)が設けられてもよい。
【0076】
上記の通り、直動アクチュエータ2は、構造物(輸送機器または建築物)の制振のために使用される。しかし、直動アクチュエータ2の用途は構造物の制振に限定されない。衝撃または高周波の振動を抑制することが望ましい他の構造物に、本発明に係る直動アクチュエータを使用してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…電磁サスペンション。2…直動アクチュエータ。5…歯車伝達機構。6…送りねじ。6a…内部孔。6b…放射孔。7…ナット部材。7a…外周面。7b,7c…端面。8…直動円筒部材。8b…閉塞空間(第2の空間)。9…ハウジング。9b…案内スリーブ。9c…閉塞空間(第1の空間)。16…キー。17…キー溝。20…端部取り付け部(第1の取り付け部)。21…端部取り付け部(第2の取り付け部)。30,31…円環部材。32,33…軸線方向緩衝部材(第1の緩衝部材)。35…隙間。38,42,44…径方向緩衝部材(第2の緩衝部材)。50…コイルばね。51…第1の荷重支持板。52…第2の荷重支持板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7