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特開2024-179586流体デバイス、送液システム、及び金属ナノ粒子を含む流体の処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179586
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】流体デバイス、送液システム、及び金属ナノ粒子を含む流体の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20241219BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20241219BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N35/08 A
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098550
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 沙彩
(72)【発明者】
【氏名】坂井 友幸
(72)【発明者】
【氏名】柳川 善光
【テーマコード(参考)】
2G058
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G058BB02
2G058BB09
2G058CC02
2G058CC05
2G058CC08
2G058CC17
2G058CC19
2G058DA07
2G058DA09
2G058GA06
2G058GA14
2G058GB03
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS25
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】金属ナノ粒子の分離と金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子の検出とを異なる空間で行う。
【解決手段】流体デバイス101は、金属ナノ粒子を含む流体を収容し、金属ナノ粒子の光熱効果により流体を加熱し、流体内の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部104と、流体から金属ナノ粒子を分離する金属ナノ粒子分離部105と、金属ナノ粒子分離部105と異なる空間であって、金属ナノ粒子分離部105において金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子を検出する遺伝子検出部106と、を備える。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子を含む流体を収容し、前記金属ナノ粒子の光熱効果により前記流体を加熱し、前記流体内の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部と、
前記流体から前記金属ナノ粒子を分離する金属ナノ粒子分離部と、
前記金属ナノ粒子分離部と異なる空間であって、前記金属ナノ粒子分離部において前記金属ナノ粒子が分離された前記流体内の遺伝子を検出する遺伝子検出部と、を備える
ことを特徴とする流体デバイス。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子分離部と前記遺伝子検出部とは、流路により接続される
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記遺伝子増幅部および前記金属ナノ粒子分離部は、同一の空間である
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子分離部は、前記増幅された遺伝子と前記金属ナノ粒子とを分離するフィルタを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子分離部は、前記流体の塩濃度を変化させて、前記流体内の前記金属ナノ粒子を凝集させるバッファーを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子分離部は、光の照射によって前記流体に対流を発生させて前記金属ナノ粒子を濃縮する金薄膜を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項7】
前記遺伝子検出部は、位置情報に基づいて前記増幅された遺伝子を多項目に検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項8】
前記遺伝子検出部は、位置情報が割り振られ、リアルタイムPCRが実施される複数のウェルを有する
ことを特徴とする請求項7に記載の流体デバイス。
【請求項9】
前記遺伝子検出部は、位置情報が割り振られ、検出目的の遺伝子に対応するプローブを含む複数のプローブスポットを有する
ことを特徴とする請求項7に記載の流体デバイス。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子は、金を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項11】
金属ナノ粒子を含む流体を収容し、前記金属ナノ粒子の光熱効果により前記流体を加熱し、前記流体内の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部、前記流体から前記金属ナノ粒子を分離する金属ナノ粒子分離部、および前記金属ナノ粒子分離部と異なる空間であって、前記金属ナノ粒子分離部において前記金属ナノ粒子が分離された前記流体内の遺伝子を検出する遺伝子検出部と、を備える流体デバイスと、
前記流体デバイスを設置することが可能であって、前記金属ナノ粒子分離部において前記金属ナノ粒子が分離された前記流体を、前記金属ナノ粒子分離部から前記遺伝子検出部に送液する送液装置と、を備える
ことを特徴とする送液システム。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子は、磁性体を含み、
磁石および前記金属ナノ粒子分離部に前記磁石を近接させる移動機構、または
前記金属ナノ粒子分離部の近傍に設けられる電磁石および前記電磁石の通電を制御する通電制御部、をさらに備える
ことを特徴とする請求項11に記載の送液システム。
【請求項13】
流体に含まれる金属ナノ粒子の光熱効果により前記流体を加熱し、前記流体内の遺伝子の増幅を行うこと、
前記流体から前記金属ナノ粒子を分離すること、
前記金属ナノ粒子を分離する第1の空間から前記第1の空間とは別の第2の空間に前記金属ナノ粒子が分離された前記流体を送液すること、および
前記第2の空間において前記流体内の遺伝子を検出すること、を有する
ことを特徴とする金属ナノ粒子を含む流体の処理方法。
【請求項14】
前記金属ナノ粒子を分離することは、
磁石を前記第1の空間に近接させて、磁性体を含む前記金属ナノ粒子を前記流体から分離すること、または
前記第1の空間の近傍に設けられる電磁石を通電することにより、磁性体を含む前記金属ナノ粒子を前記流体から分離すること、を含む
ことを特徴とする請求項13に記載の金属ナノ粒子を含む流体の処理方法。
【請求項15】
前記金属ナノ粒子が分離された前記流体を前記第2の空間に送液することは、
前記磁石を前記第1の空間に近接させた状態、または前記電磁石を通電した状態で、前記金属ナノ粒子が分離された前記流体を前記第2の空間に送液すること、を含む
ことを特徴とする請求項14に記載の金属ナノ粒子を含む流体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体デバイス、送液システム、及び金属ナノ粒子を含む流体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器感染症や血流感染症などの感染症に対する検査では、適切な治療開始を早め、二次感染を防ぐため迅速な病原体検出が求められる。また、感染症の原因となる病原体は多岐に渡るため、複数の病原体を同時に検査することが重要である。PCR(Polymerase Chain Reaction)法に基づく遺伝子検査は、従来の微生物培養に基づく検査と比べ迅速性に優れ、近年盛んに研究がなされている。
【0003】
通常のPCRは、反応溶液を入れたマイクロチューブをヒートブロックにセットし、ヒートブロックの温度を変化させてDNAの変性、アニーリング、伸長のステップ(サーマルサイクル)を繰り返すことで目的のDNAを増幅する。この時、溶液の加熱冷却ではなくヒートブロックの加熱冷却時間が律速となり、反応には通常1時間程度要する。
【0004】
より迅速なPCRとして、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴を利用した技術(プラズモニックPCR)が発展している。PCR溶液中に分散した金属ナノ粒子に特定の波長の光を照射すると、金属ナノ粒子のそれぞれが表面プラズモン共鳴を示し、光エネルギーが熱エネルギーへと変換されて金属ナノ粒子周辺の溶液が加熱される。熱源である金属ナノ粒子が溶液中に分散していることから、溶液の外部からヒーターによって加熱する従来の方式と比べて、より均一かつ迅速に溶液を加熱できる。金属ナノ粒子による加熱速度は、従来法の数十倍から数百倍であり、プラズモニックPCRではわずか数分で遺伝子増幅が完了する。
【0005】
多項目遺伝子検出の手法として、遺伝子の種類を位置情報により識別する手法がある。例えば、マイクロアレイは、小型の基板上の特定の位置にプローブが固定化されており、プローブとサンプル中の遺伝子とのハイブリダイゼーション反応を利用して遺伝子を検出する。プローブの位置情報により、数十万を超える遺伝子を識別することができる。
【0006】
位置情報を利用した多項目遺伝子検出の他の例として、リアルタイムPCRがある。リアルタイムPCRでは、特定の遺伝子に結合するプローブに対し異なる蛍光色素を修飾し、検出される蛍光シグナルの波長から遺伝子の種類を特定することが一般的である。蛍光による識別数は、検出器の分離能により制限され、現状4項目程度に留まる。
【0007】
そこで、より多くの遺伝子を同時検査するため、複数のウェルにサンプルを分割し、ウェルの位置情報によって遺伝子を識別する。この場合、同時検査項目数は、色素の種類とウェルの数との積となり、より多くの遺伝子を同時に検査することが可能となる。
【0008】
また近年、核酸増幅や遺伝子検出といった化学反応を小さな基板(流体デバイス)に形成された流路中で行う技術が発展している。化学反応が微小な空間で行われることから、使用する試薬の液量を低減できる。その他、閉鎖的な流路中での反応であるためコンタミネーションのリスク低減できる点、及び流体デバイスは多くの場合大量生産可能であるため安価な検査が実現できる点が利点である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nicole R., et al., Nat. Nanotechnol., 17, 984-992, 2022
【非特許文献2】Jiyong C., et al., Nat. Biomed. Eng., 4, 1159-1167, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
流体デバイス中で金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRおよび遺伝子検出を行う場合、金属ナノ粒子による遺伝子検出の阻害が問題となる。例えば、蛍光シグナルに基づいた遺伝子検出の場合、シグナル検出のために遺伝子検出部に照射される励起光を金属ナノ粒子が吸収し、得られる蛍光シグナルが減少することが知られている(非特許文献1)。蛍光シグナルの減少は、遺伝子検査の感度低下を引き起こし、偽陰性を招き得る。また、流体デバイス中の微細流路が金属ナノ粒子により目詰まりし、送液速度が遅くなり検査時間の延伸を引き起こすことが考えられる。
【0011】
プラズモニックPCRに用いた金属ナノ粒子を除去する方法として、非特許文献2には、磁性体を核とした金属ナノ粒子を利用する方法が開示されている。磁性体を金で覆ったナノ粒子を用いてミクロチューブ中でプラズモニックPCRを行い、磁石によってナノ粒子をミクロチューブ底面に凝集させる。ミクロチューブに励起光を照射すると、ミクロチューブ底面以外から遺伝子由来の蛍光シグナルが得られる。該文献では、プラズモニックPCR、ナノ粒子の除去、及び遺伝子検出を同一箇所で行っている。この手法では、位置情報に基づいた遺伝子の識別情報は得られず、同時検査数は蛍光による識別可能数の4項目程度に制限される。一方血流感染症の遺伝子検査では約30項目、呼吸器感染症の検査では約5項目以上の遺伝子を同時に検査する必要がある。
【0012】
そこで、本開示は、金属ナノ粒子の分離と金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子の検出とを異なる空間で行うことによって、多項目の遺伝子検出を可能にする流体デバイス、送液システム、および金属ナノ粒子を含む流体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の流体デバイスは、金属ナノ粒子を含む流体を収容し、金属ナノ粒子の光熱効果により流体を加熱し、流体内の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部と、流体から金属ナノ粒子を分離する金属ナノ粒子分離部と、金属ナノ粒子分離部と異なる空間であって、金属ナノ粒子分離部において金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子を検出する遺伝子検出部と、を備える。
【0014】
また、本開示の送液システムは、金属ナノ粒子を含む流体を収容し、金属ナノ粒子の光熱効果により流体を加熱し、流体内の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部、流体から金属ナノ粒子を分離する金属ナノ粒子分離部、および金属ナノ粒子分離部と異なる空間であって、金属ナノ粒子分離部において金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子を検出する遺伝子検出部と、を備える流体デバイスと、流体デバイスを設置することが可能であって、金属ナノ粒子分離部において金属ナノ粒子が分離された流体を、金属ナノ粒子分離部から遺伝子検出部に送液する送液装置と、を備える。
【0015】
また、本開示の金属ナノ粒子を含む流体の処理方法は、流体に含まれる金属ナノ粒子の光熱効果により流体を加熱し、流体内の遺伝子の増幅を行うこと、流体から金属ナノ粒子を分離すること、金属ナノ粒子を分離する第1の空間から第1の空間とは別の第2の空間に金属ナノ粒子が分離された流体を送液すること、および第2の空間において流体内の遺伝子を検出すること、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、金属ナノ粒子の分離と金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子の検出とを異なる空間で行うことによって、多項目の遺伝子検出が可能となる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の流体デバイスの構成図
図2】実施例1の流体デバイスの断面図
図3A】実施例1の送液システムの装置構成図
図3B】実施例1の制御部のハードウェアブロック図
図4】実施例1の動作フロー
図5図4のステップ(c)における流体デバイスの模式図
図6図4のステップ(e)における流体デバイスの模式図
図7図4のステップ(f)における流体デバイスの模式図
図8】実施例1の変形例1の流体デバイスの構成図
図9】実施例1の変形例1の流体デバイスの断面図
図10】実施例1の変形例1の送液システムの装置構成図
図11】実施例1の変形例2の流体デバイスの構成図
図12】実施例1の変形例2の流体デバイスの断面図
図13】実施例1の変形例2の流体システムの装置構成図
図14】実施例2の流体デバイスの構成図
図15】実施例2の流体デバイスの断面図
図16】実施例2の送液システムの装置構成図
図17】実施例2の動作フロー
図18図17のステップ(d)における流体デバイスの模式図
図19図17のステップ(e)における流体デバイスの模式図
図20】実施例3の流体デバイスの構成図
図21】実施例3の流体デバイスの断面図
図22】実施例3の送液システムの装置構成図
図23】実施例3の動作フロー
図24図23のステップ(d)における流体デバイスの模式図
図25図23のステップ(e)における流体デバイスの模式図
図26】実施例4の流体デバイスの構成図
図27】実施例4の流体デバイスの断面図
図28】実施例4の送液システムの装置構成図
図29】実施例4の動作フロー
図30図29のステップ(d)における流体デバイスの模式図
図31図29のステップ(e)における流体デバイスの模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0019】
(実施例1)
以下、実施例1について説明する。本実施例は、金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、磁力を用いた金属ナノ粒子除去、およびクロマトグラフィー法に基づく多項目遺伝子検出を実施するための流体デバイスおよび送液装置に関する。
【0020】
図1に流体デバイス101の平面図を示し、図2図1のA―A線に沿った断面図を示す。流体デバイス101は、基板102と、シール材109と、固相担体部110と、を備える。
【0021】
基板102は、温度変化および圧力変化に安定で、化学反応に用いられる溶液に対して侵されにくく、成型性が良い材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、例えば、シクロオレフィンポリマ(COP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(PMMA)が好適である。
【0022】
基板102は、溶液導入部103、遺伝子増幅部104、金属ナノ粒子分離部105、遺伝子検出部106、バルブ接続部107、および流路108を備える。遺伝子増幅部104は、金属ナノ粒子を含む流体(溶液)を収容することが可能である。遺伝子増幅部104は、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴を用いた光熱効果により流体を加熱し、流体内の遺伝子の増幅を行う。金属ナノ粒子分離部105は、流体から金属ナノ粒子を分離する。遺伝子検出部106は、金属ナノ粒子分離部105とは異なる空間であって、金属ナノ粒子分離部105において金属ナノ粒子が分離された流体内の遺伝子を検出する。
【0023】
金属ナノ粒子分離部105と遺伝子検出部106とは、流路108により接続されている。
【0024】
溶液導入部103およびバルブ接続部107は、基板102上では貫通穴として加工され、シール材109を圧着した面の反対側の表面で開口している。遺伝子増幅部104、金属ナノ粒子分離部105、遺伝子検出部106、および流路108は、基板102を切削加工し、シール材109により封止することで形成されている。
【0025】
本実施例では、図1および図2に示す通り、遺伝子増幅部104と金属ナノ粒子分離部105とは、基板102上の同一の空間に位置する。しかし、遺伝子増幅部104と金属ナノ粒子分離部105とは、基板102上の別の空間に配置してもよい。この場合、遺伝子増幅部104と金属ナノ粒子分離部105とは、流路によって接続される必要がある。
【0026】
遺伝子増幅部104および金属ナノ粒子分離部105は、サンプル溶液の液残りを最小限にするため、角のない形状が望ましい。遺伝子増幅部104および金属ナノ粒子分離部105の望ましい形状の一例は、図1および図2に示す楕円型であるが、形状はこれに限らず、たとえば円型であってもよい。また、遺伝子増幅部104および金属ナノ粒子分離部105は、図1および図2に示す流路108のような流路状であってもよい。
【0027】
遺伝子検出部106は、図1および図2に示すような直方体型でなくてもよく、たとえば円柱型であってもよい。また、遺伝子検出部106は、図1および図2の流路108のような流路状であってもよい。
【0028】
流路108は、図1および図2に示す直線形に限らず、たとえば蛇行状であってもよい。図1の例では、流路108は、分岐のない1本の流路であるが、複数に分岐した流路であってもよい。流路108の断面形状は、任意に設計することができ、たとえば正方形、長方形、または円形であってもよい。
【0029】
シール材109は、基板102に密着する機能を備える。シール材109の基板102に密着する面は、粘着性を備えていてもよいし、感圧性であってもよい。シール材109は、ポリオレフィン(PO)製やポリプロピレン(PP)製が好適である。また、シール材109は、樹脂製の厚み0.1mm程度のフィルムが好適である。
【0030】
固相担体部110は、クロマトグラフィー法に基づき多項目遺伝子検出を行うために流体デバイス101に固定される。固相担体部110には、検査対象の遺伝子と化学反応する複数種の特定分子が、位置情報に基づき固定されている。特定分子には、たとえば核酸や抗原、抗体、ペプチドが挙げられる。
【0031】
固相担体部110は、毛細管現象により溶液を拡散可能な形態であれば、形状および材質は、特に限定されないで公知のものを採用できる。例えば、固相担体部110は、シート状または棒状のろ紙、シリカゲル、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0032】
次に、図1および図2またはそれらの変形例のいずれかの流体デバイスを設置可能な送液装置について説明する。一例として、図1および図2に記載の流体デバイスを設置した送液装置201(送液システム300)を図3Aに示す。送液システム300は、流体デバイス101と、送液装置201と、を備える。送液装置201は、流体デバイス101内で溶液を送液するために用いることができる。また、送液装置201は、流体デバイス101内で金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、磁力を用いた金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するために必要な光や空気圧、センサ等を流体デバイス101に供給することができる。
【0033】
送液装置201は、デバイス保持部202、カバー203、加減圧装置204、バルブ205、温度センサ206、光源207、制御部208、センサ209、信号検出部210、および外部磁力源211を備える。
【0034】
デバイス保持部202は、耐熱性を有し、熱伝導性の低い材質を用いることが望ましい。たとえば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPC(ポリカーボネート)が好適である。
【0035】
カバー203は、デバイス保持部202に設置した流体デバイス101を所定の位置に固定する役割を持つ。カバー203の材質は、耐熱性を有し、熱伝導性の低い材質を用いることが望ましい。たとえば、PC(ポリカーボネート)を用いることができる。
【0036】
加減圧装置204は、送液手段の例であり、溶液導入部103に接続される。加減圧装置204は、溶液導入部103を介して流体デバイス101の内部を加圧する、または減圧することによって溶液を送液する。
【0037】
バルブ205は、たとえば開閉バルブである。バルブ205は、方向切り替えバルブであってもよく、バルブ接続部107にチューブを接続し、該チューブに対して方向切り替えバルブを設置してもよい。また、バルブ205は、流体デバイス101内に設置可能なマイクロバルブとすることもできる。
【0038】
温度センサ206は、遺伝子増幅部104内の溶液の温度を計測するために用いられる。温度センサ206は、たとえば非接触型の赤外線センサである。温度センサ206は、遺伝子増幅部104内の溶液に接触する熱電対であってもよい。
【0039】
光源207は、特定の波長の光を遺伝子増幅部104内の溶液に照射し、溶液内の金属ナノ粒子のプラズモン共鳴を誘発するために用いられる。光源207は、たとえばLEDまたはレーザーである。特定の波長は、使用される金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴に係る吸収極大(反射極小)の波長に近い波長が選択される。金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴に係る吸収極大(反射極小)の波長は、たとえば500nmから1400nmの間に存在し、金属ナノ粒子の組成、形状または大きさによって変化する。図3Aでは、光源207による照射効率を向上させるため、光源207と遺伝子増幅部104との間に位置する領域のカバー203を開口している。しかし、カバー203の形状はこの限りでなく、たとえば開口していなくてもよい。
【0040】
制御部208は、温度センサ206および光源207の制御に用いられる。制御部208が温度センサ206および光源207を制御することで、遺伝子増幅部104内の溶液を所望の温度に制御することができる。制御部208による遺伝子増幅部104内の溶液温度の制御の一例は次の通りである。
【0041】
制御部208の制御下で光源207が遺伝子増幅部104内の溶液に光を照射すると、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴により光エネルギーが熱エネルギーへと変換され、溶液が加熱される。制御部208は、温度センサ206により計測された溶液の温度を取得し、溶液が目的の温度まで上昇したと判断すると、光源207による光の照射を停止する。制御部208は、溶液の温度が次の目的温度まで下降したと判断すると、光源207による光の照射を再開し、再度溶液が加熱される。以上の工程を所定の回数繰り返すことで、PCR(Polymerase Chain Reaction)のサーマルサイクルが実現される。
【0042】
ここで、図3Bを参照して、制御部208のハードウェア構成を説明する。制御部208は、プロセッサ281と、主記憶部282と、補助記憶部283と、インターフェース284と、を有する。プロセッサ281は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASICなどである。主記憶部282は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などであって、プロセッサ281の作業領域として使用される。補助記憶部283は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はそれらの組み合わせ等であって、各種プログラム及び各種データを記憶する。インターフェース284は、制御部208に接続される周辺機器(加減圧装置204、移動機構212、温度センサ206、および光源207)の動作を制御するデバイスコントローラなどである
【0043】
たとえば、補助記憶部283は、上記したPCRのサーマルサイクルを実現するための温度制御プログラムを記憶する。プロセッサ281は、当該温度制御プログラムを実行し、温度センサ206から出力される温度情報をモニタしながら、光源207による光の照射と光の照射の停止とを制御する。
【0044】
また、補助記憶部283は、流体デバイス101内の流体を処理するための処理制御プログラムを記憶する。プロセッサ281は、当該処理制御プログラムを実行し、加減圧装置204の動作を制御して、金属ナノ粒子を含む流体を、金属ナノ粒子分離部105から流路108を介して遺伝子検出部106へ送液する。また、プロセッサ281は、後述する移動機構212の動作を制御して、金属ナノ粒子の分離時に、外部磁力源211を金属ナノ粒子分離部105に近接させる。また、プロセッサ281は、後述する移動機構212の動作を制御して、流体の送液時に、外部磁力源211を金属ナノ粒子分離部105に近接させたままとする。
【0045】
外部磁力源211が電磁石の場合、プロセッサ281(通電制御部)は、外部磁力源211(電磁石)の通電を制御する。
【0046】
センサ209は、遺伝子検出部106での遺伝子検出反応を観察するために情報を取得する。センサ209で得られた信号は、信号検出部210へ送られる。センサ209としては、液面検知センサ、蛍光検出センサ、または画像認識センサのうち少なくとも1つを用いることができる。たとえば、液面検知センサを用いると、固相担体部110内の溶液の位置をより適切に制御することができる。また、画像認識センサを用いると、固相担体部110で検出された遺伝子の位置情報を取得し、遺伝子の種類を特定することができる。センサ209による観察効率を向上させるため、センサ209と遺伝子検出部106との間に位置する領域のカバー203を開口してもよい。
【0047】
外部磁力源211は、金属ナノ粒子分離部105内の溶液に含まれる磁性体を含有する金属ナノ粒子を磁力によって除去するために用いられる。外部磁力源211は、たとえばネオジム磁石やフェライト磁石といった磁石である。外部磁力源211に磁石を用いる場合、図3Aに示すように、遺伝子増幅部104または金属ナノ粒子分離部105と外部磁力源211との距離を変化させる移動機構212を設けることが望ましい。これにより、プラズモニックPCR中には、外部磁力源211を遺伝子増幅部104から遠ざけることができる。外部磁力源211を遺伝子増幅部104から遠ざけることで金属ナノ粒子がPCR溶液中に分散し、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴によって溶液を均一に加熱することができる。
【0048】
外部磁力源211は、たとえば電磁石とすることもできる。外部磁力源211に電磁石を利用する場合、プラズモニックPCRの終了後に電磁石への通電を開始することで、プラズモニックPCR中は金属ナノ粒子を分散させておくことができる。これにより磁石の駆動機構を不要にし、より送液装置201を単純化および小型化することができる。
【0049】
また、外部磁力源211の表面、もしくは遺伝子増幅部104と電磁石との間に、照射波長帯の光を反射する鏡面加工を施してもよい。これにより、ナノ粒子に吸収されずに透過した光を再度溶液へと戻し、金属ナノ粒子に照射することができる。その結果、照射光のエネルギーをより効率的に溶液の加熱に利用することが可能となる。
【0050】
送液装置201は、図3Aに示す形態に限らず、流体デバイス101の形状や遺伝子検出部106での遺伝子検出手法、その他の事情に応じて変化するものである。たとえば図3Aでは、温度センサ206、光源207、およびセンサ209は、流体デバイス101のシール材109側に配置されているが、シール材109の反対側にあってもよい。この場合、温度センサ206、光源207、およびセンサ209の動作を妨げないよう、デバイス保持部202の任意の領域を切削することが望ましい。
【0051】
また、たとえば加減圧装置204とバルブ205との配置は、図3Aの配置から相互に入れ替わってもよい。さらに、加減圧装置204またはバルブ205と流体デバイス101との間に、遺伝子のコンタミネーションを防ぐためのフィルタを備えてもよい。フィルタは流体デバイス101の内部であってもよい。
【0052】
さらに、送液装置201は、遺伝子増幅部104を冷却する冷却機構を備えてもよい。遺伝子増幅部104の冷却機構によって、遺伝子増幅における溶液の冷却が迅速化され、プラズモニックPCRを迅速化することができる。冷却機構は、たとえばファンを用いた空冷であってもよい。また、冷却機構は、遺伝子増幅部104に外部熱源を近接させる方法であってもよい。
【0053】
図4に、送液装置201を用いた遺伝子検査の動作フローの一例を示す。この動作フローは、金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCR、金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するためのものである。以下、図4に沿って各動作ステップについて説明する。
【0054】
まず、金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRに使用する溶液を溶液導入部103から導入し、溶液を遺伝子増幅部104に配置する(図4(a))。流体デバイス101への溶液の導入方法はこの限りでなく、たとえば送液装置201がシリンジポンプである場合に、溶液をシリンジに導入し、シリンジから流体デバイスへと溶液を送液することで導入してもよい。
【0055】
本実施例で用いる溶液は、たとえば検査対象であるサンプル液と、1対もしくは2対以上のプライマー、耐熱性酵素、4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、および金属ナノ粒子を混合したものから構成される。
【0056】
本実施例で用いる金属ナノ粒子は、プラズモニックPCRの後に磁力により除去するため、磁性体を含有する。磁性体を含有する金属ナノ粒子は、たとえば磁性体の核の周りを金属の層で覆うことで得てもよい。また、金属と磁性体とを混合した材料をナノ粒子とすることで得てもよい。
【0057】
金属ナノ粒子の大きさおよび形状は、任意に決定することができるが、長辺または直径が1nmから1000nm、望ましくは2nmから500nmである。
【0058】
本実施例で用いる金属ナノ粒子は、金を含有することが望ましい。また、金属ナノ粒子は、銀、銅などの第11族元素を含有してもよい。表面プラズモン共鳴を示す金属ナノ粒子の材質として、さらにマグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ルテニウムまたはニッケルなどが挙げられる。プラズモニックPCRに用いる際には、これらの金属による遺伝子増幅の阻害、金属の薬品耐性などに注意して選択する必要がある。
【0059】
また、本実施例で用いる金属ナノ粒子は、溶液中で分散し溶液を均一に加熱するため、粒子同士の凝集を防ぐ表面修飾を施すことが望ましい。表面修飾は、たとえばシリカコーティングやホスフィンスルホン酸修飾など、金属ナノ粒子の表面に電荷を持たせ、粒子同士が静電的に反発するようにする方法がある。
【0060】
本実施例で用いる溶液のうち、検査対象であるサンプル液以外の一部またはすべての構成物が液体または固体の状態であらかじめ流体デバイスに保持されていてもよい。たとえば、サンプル液以外のすべての構成物をあらかじめ遺伝子増幅部104に凍結乾燥試薬として保持しておき、サンプル液によって凍結乾燥試薬を溶解してもよい。
【0061】
次に、流体デバイス101を送液装置201に固定する(図4(b))。図4では、流体デバイス101にPCR溶液を導入(図4(a))した後、PCR溶液が導入された流体デバイス101を送液装置201に固定(図4(b))する。しかし、流体デバイス101を固定(図4(b))した後、固定された流体デバイス101にPCR溶液を導入(図4(a))してもよい。
【0062】
続いて、遺伝子増幅部104にて金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを実施する(図4(c))。図5に、この時点での溶液301(金属ナノ粒子以外のPCRに使用する溶液)の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。図4(c)の時点では、外部磁力源211による磁力が金属ナノ粒子302に働いておらず、金属ナノ粒子302は、溶液301内に分散している。
【0063】
プラズモニックPCRは、たとえば変性とアニーリングおよび伸長とを2つの温度領域で繰り返してPCRを行う2ステップPCRと呼ばれる方式を採用することができる。制御部208により、溶液の温度を変性温度(例えば95℃)と、アニーリングおよび伸長温度(例えば60℃)とに交互に変化させることで、所望のサーマルサイクルを達成することができる。
【0064】
次に、外部磁力源211(ここでは磁石)を流体デバイスに近接させる(図4(d))。これにより、外部磁力源211から金属ナノ粒子302に磁力がかかり、金属ナノ粒子302が、金属ナノ粒子分離部105の外部磁力源211側の底面に凝集する(図4(e))。図6に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。
【0065】
次に、加減圧装置204により溶液301を遺伝子検出部106へ移動させる(図4(f))。図7に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。図4(f)の際、外部磁力源211は、流体デバイス101に近接させたままにしておく。これにより、金属ナノ粒子302が金属ナノ粒子分離部105に捕捉された状態で、溶液301を遺伝子検出部106へ送液することができる。
【0066】
最後に、遺伝子検出部106にて多項目遺伝子検出(ここでは核酸クロマトグラフィー)を実施する(図4(g))。
【0067】
なお、本実施例においてPCRで増幅した二本鎖DNAは、一本鎖DNAに分解されてから遺伝子検出に供されてもよい。たとえば遺伝子検出部106で実施されるクロマトグラフィーが、DNA間のハイブリダイゼーション反応に基づくものである場合、二本鎖DNAを一本鎖DNAに分解することでハイブリダイゼーション反応の効率向上が見込まれる。二本鎖DNAの一本鎖DNAへの分解方法は、たとえば熱変性がある。また尿素やホルムアミドといった核酸変性剤による方法や、水酸化ナトリウム溶液による解離が挙げられる。またPCRで片側の鎖の末端にビオチンが修飾された二本鎖DNAを得て、表面にアビジン修飾を有するビーズやカラムに二本鎖DNA溶液を接触させ、一本鎖DNAを得ることもできる。
【0068】
さらに、ラムダエキソヌクレアーゼなどのヌクレアーゼによる酵素分解を利用することもできる。この場合、PCRで使用するプライマーにヌクレアーゼの認識部位を修飾することで、一本鎖DNAが得られる。
【0069】
ハイブリダイゼーション反応に基づく遺伝子検出の効率を向上させる他の方法として、PCR時にストッププライマーを用いる手法がある。遺伝子検出に用いるプローブと相補的な配列(タグ配列)およびDNA伸長が停止する修飾を有するプライマーを用いてPCRを行い、末端に一本鎖のタグ配列を有する二本鎖DNAを得る。ハイブリダイゼーション反応は、プローブと一本鎖のタグ配列との間で起こるため、遺伝子検出の効率を向上させることができる。
【0070】
ここまで、多項目遺伝子検出手法の一例としてクロマトグラフィー法を採用した流体デバイスの構成、送液装置および動作フローを示した。
【0071】
(実施例1の変形例1)
次に、実施例1の変形例として、クロマトグラフィー法以外の方法で多項目遺伝子検出を実施する流体デバイスの構成および送液装置を示す。なお動作フローについては、図4(g)の内容が異なるのみであるので、図示しない。また、図1図3Bと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0072】
多項目遺伝子検出の手法の他の例として、例えば位置情報を有する複数のウェルでリアルタイムPCRを実施する方法がある。遺伝子検出部106がリアルタイムPCRを実施するための構成である流体デバイス101の平面図を図8に示し、図8のA―A線に沿った断面図を図9に示す。
【0073】
図8および図9に示す流体デバイス101は、遺伝子検出部106に位置情報が割り振られた複数のウェル401を備える。それぞれのウェル401は、位置情報に対応する特定の遺伝子を増幅するためのPCRプライマーを、固体または液体の状態であらかじめ保持する。また、それぞれのウェル401は、PCRに用いられるプライマー以外の試薬に関しても、固体または液体の状態であらかじめ保持することができる。
【0074】
図10に、図8および図9に記載の流体デバイスを設置した送液装置201を示す。図10に記載の送液装置201は、図3Aに記載の送液装置201に加え、外部熱源402および温度制御部403を備える。外部熱源402は、熱電対およびヒーターが内蔵されており、温度制御部403によって所望の温度に保たれる。遺伝子検出部106は、外部熱源402により加熱される。温度制御部403の制御によって遺伝子検出部106のウェル401内でサーマルサイクルが達成され、リアルタイムPCRに基づく多項目遺伝子検出が実施される。なお、温度制御部403のハードウェア構成は、図3Bに示した制御部208と同様であるので、その説明を省略する。
【0075】
なお、送液装置201は、図10に示す形態に限らない。たとえば、温度センサ206、光源207、およびセンサ209は、図10では流体デバイス101のシール材109側に配置されているが、シール材109の反対側にあってもよい。また、外部熱源402は、図10では流体デバイス101のシール材109の反対側に配置されているが、シール材109側にあってもよい。
【0076】
また、たとえば加減圧装置204とバルブ205とは、図10の配置から相互に入れ替わってもよい。さらに、加減圧装置204およびバルブ205と流体デバイス101との間に、遺伝子のコンタミネーションを防ぐためのフィルタを備えてもよい。さらに、送液装置201は、遺伝子増幅部104の冷却機構を備えてもよい。
【0077】
(実施例1の変形例2)
多項目遺伝子検出手法のさらに他の例として、マイクロアレイ法に基づく手法がある。遺伝子検出部106がマイクロアレイ法に基づく遺伝子検出を実施するための構成である流体デバイス101の平面図を図11に示し、図11のA―A線に沿った断面図を図12に示す。
【0078】
図11および図12に示す流体デバイス101は、遺伝子検出部106内に位置情報が割り振られた複数のプローブスポット404を備える。プローブスポット404には、検出目的の遺伝子に対応するプローブが固定される。遺伝子検出部106は、図11および図12に示す分岐のない1本の直線形の流路に限らず、たとえば蛇行状であっても、複数に分岐していてもよい。また、遺伝子検出部106は、図11および図12に示す流路状でなくても、たとえば図1および図2に示すような直方体型であってもよく、このような形状の遺伝子検出部106にプローブスポット404が二次元的に配置されてもよい。
【0079】
図13図11および図12に記載の流体デバイス101を設置した送液装置201を示す。図13に記載の送液装置201は、図1に記載の送液装置201に加え、外部熱源402、温度制御部403、洗浄液保管庫405、および方向切替バルブ406を備える。
【0080】
外部熱源402は、熱電対とヒーターとが内蔵されており、温度制御部403によって所定の温度に保たれる。遺伝子検出部106は、外部熱源402により加熱される。温度制御部403の制御によって、遺伝子検出部106がハイブリダイゼーション反応に適する温度(たとえば45℃、50℃、55℃または60℃)に加熱され、マイクロアレイ法に基づく多項目遺伝子検出が実施される。
【0081】
洗浄液保管庫405および方向切替バルブ406は、多項目遺伝子検出の際の背景光を抑制するための洗浄工程に用いるために備えられる。マイクロアレイ法のように、蛍光シグナルを基にした遺伝子検出手法の場合、遺伝子検出反応の後に洗浄工程を行うことで、背景光を低減することができる。本実施例の場合、洗浄工程は、次の操作で達成される。
【0082】
ハイブリダイゼーション反応の後、ハイブリダイゼーション反応に使用された溶液を遺伝子検出部106から排出する。排出の方法は、バルブ205を通じて送液装置201の外に溶液を排出する方法がある。また、加減圧装置204を通じて送液装置201の外に溶液を排出してもよい。その他、流体デバイス101内に廃液用チャンバを設け、この中に溶液を排出してもよい。この際、廃液用チャンバは、遺伝子増幅部104や金属ナノ粒子分離部105が兼ねてもよい。
【0083】
次に、方向切替バルブ406を切り替え、加減圧装置204と洗浄液保管庫405とを接続する。加減圧装置204を動作させ、洗浄液保管庫405内の洗浄液を遺伝子検出部106に送液し、洗浄工程が実施される。洗浄液保管庫405は図13に示す位置に限らず、たとえば流体デバイス101の内部にあってもよい。
【0084】
なお、送液装置201は、図13に示す形態に限らない。たとえば、温度センサ206、光源207、およびセンサ209は、図13では流体デバイス101のシール材109側に配置されているが、シール材109の反対側にあってもよい。また、外部熱源402は、図13では流体デバイス101のシール材109の反対側に配置されているが、シール材109の側にあってもよい。
【0085】
また、たとえば加減圧装置204とバルブ205とは、図13の配置から相互に入れ替わってもよい。さらに、加減圧装置204およびバルブ205と流体デバイス101との間に、遺伝子のコンタミネーションを防ぐためのフィルタを備えてもよい。さらに、送液装置201は、遺伝子増幅部104の冷却機構を備えてもよい。
【0086】
なお、PCRで増幅した二本鎖DNAは、一本鎖DNAに分解されてからハイブリダイゼーション反応に供されてもよい。一本鎖DNAへの分解は、金属ナノ粒子の除去の前であっても、後であってもよい。
【0087】
(実施例1の変形例3)
多項目遺伝子検出の手法のさらに他の例として、ビーズアレイ法に基づく手法がある。この場合、遺伝子検出部106に、表面にプローブが固定された複数種のビーズが備えられる。ビーズは、直方体型または円柱型の遺伝子検出部106の基板102上に二次元的に配置されてもよい。また、ビーズは、1本または複数本の流路状の遺伝子検出部106上に直線的に配置されてもよい。ビーズアレイ法に基づく多項目遺伝子検出では、ビーズの並び順によって遺伝子を識別してもよい。また、ビーズをそれぞれ異なる蛍光等で標識することで遺伝子を識別してもよい。
【0088】
(実施例1の変形例4)
多項目遺伝子検出の手法のさらに他の例として、電気泳動法に基づく手法がある。この場合、遺伝子検出部106に、電気泳動担体および電解液が備えられる。電気泳動担体は、内壁にシリカ等のイオン性官能基を有するキャピラリーであってもよく、またポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルのような分子ふるい効果を持つ物質であってもよい。電解液は、電気伝導性を有するイオン溶液であれば特に限定されないで公知のものを採用できる。電気泳動法に基づく多項目遺伝子検出では、電気泳動の泳動距離によって遺伝子を識別してもよい。また、泳動時間によって遺伝子を識別してもよい。
【0089】
(金属ナノ粒子を含む流体の処理方法)
ここで、溶液(金属ナノ粒子を含む流体)の処理方法を説明する。溶液の処理方法は、
溶液に含まれる金属ナノ粒子の光熱効果により溶液を加熱し(溶液のサーマルサイクルを実施し)、溶液内の遺伝子の増幅を行うこと、
磁力(磁石211や電磁石)、フィルタ501、バッファー601、金薄膜701などを用いて、溶液から金属ナノ粒子を分離すること、
金属ナノ粒子を分離する第1の空間(金属ナノ粒子分離部105)から第1の空間とは別の第2の空間(遺伝子検出部106)に金属ナノ粒子が分離された溶液を送液すること、および
第2の空間において流体内の遺伝子を検出すること、を有する。
たとえば、上記した遺伝子の増幅を行うこと、金属ナノ粒子を分離すること、および溶液を送液することは、制御部208の制御によって実行される。また、遺伝子を検出することは、信号検出部210によって実行される。
【0090】
上記した金属ナノ粒子を分離することは、
磁石(外部磁力源211)を第1の空間(金属ナノ粒子分離部105)に近接させて、磁性体を含む金属ナノ粒子を溶液から分離すること、または
第1の空間の近傍に設けられる電磁石(外部磁力源211)を通電することにより、磁性体を含む金属ナノ粒子を溶液から分離すること、を含む。
【0091】
金属ナノ粒子が分離された溶液を第2の空間に送液することは、
磁石(外部磁力源211)を第1の空間(金属ナノ粒子分離部105)に近接させた状態、または電磁石(外部磁力源211)を通電した状態で、金属ナノ粒子が分離された溶液を第2の空間(遺伝子検出部106)に送液すること、を含む。
【0092】
(実施例1の効果)
実施例1の流体デバイス101によれば、流体デバイス101中で金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを行うことができる。そして、金属ナノ粒子分離部105において、増幅した遺伝子と金属ナノ粒子とを分離することができ、且つ、金属ナノ粒子が分離した溶液を遺伝子検出部106に送液することができる。実施例1では、金属ナノ粒子が分離された別空間の遺伝子検出部106において、位置情報に基づいた多項目の遺伝子検出を行うことが可能となる。このため、金属ナノ粒子による遺伝子検出の阻害を受けることなく、迅速かつ多項目な遺伝子検査を実施することができる。
【0093】
また、金属ナノ粒子分離部105と遺伝子検出部106とを流路により接続することによって、同一デバイス内で金属ナノ粒子の分離と遺伝子検出とを別空間で行うことができる。
【0094】
遺伝子増幅部104および金属ナノ粒子分離部105を同一の空間とすることによって、流体デバイス101の小型化を図ることができる。
【0095】
(実施例2)
以下、実施例2について説明する。本実施例は、金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、フィルタを用いた金属ナノ粒子除去、クロマトグラフィー法に基づく多項目遺伝子検出を実施するための流体デバイスおよび送液装置に関する。なお、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0096】
図14に流体デバイス101の平面図を示し、図15図14のA―A線に沿った断面図を示す。本実施例は、図1に示した構成に対して、遺伝子増幅部104と金属ナノ粒子分離部105とが流体デバイス101上の別の空間に設けられている点、及び金属ナノ粒子分離部105にフィルタ501を備える点において実施例1と異なる。
【0097】
金属ナノ粒子分離部105内のフィルタ501は、遺伝子増幅部104にて金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを実施した後の溶液から、金属ナノ粒子を除去するために用いられる。フィルタ501は、たとえば限外ろ過膜である。フィルタ501の孔径は、金属ナノ粒子の短辺もしくは直径より小さく、かつDNAが通過可能なサイズであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。フィルタ501を通過し金属ナノ粒子が除去された溶液は、遺伝子検出部106に送液され、多項目遺伝子検出が実施される。
【0098】
遺伝子増幅部104、金属ナノ粒子分離部105、および遺伝子検出部106は、流体デバイス101上にいかなる順序、位置で配置されてもよい。図14および図15に示すように、遺伝子増幅部104、金属ナノ粒子分離部105、および遺伝子検出部106の順に配置されていなくてもよく、たとえば遺伝子増幅部104が金属ナノ粒子分離部105と遺伝子検出部106との間に位置してもよい。
【0099】
次に、図14および図15またはそれらの変形例のいずれかの流体デバイスを設置可能な送液装置について説明する。一例として、図14および図15に記載の流体デバイスを設置した送液装置201を図16に示す。図16に示した構成は、外部磁力源211を備えない点で実施例1と異なる。
【0100】
実施例2の送液装置201は、流体デバイス101内で溶液を送液するために用いることができる。また、送液装置201は、流体デバイス101内で金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、フィルタ501を用いた金属ナノ粒子除去、および多項目遺伝子検出を実施するために必要な光や空気圧、センサ等を流体デバイス101に供給することができる。
【0101】
図17に、送液装置201を用いた遺伝子検査の動作フローの一例を示す。この動作フローは、金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCR、金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するためのものである。流体デバイス101への溶液導入から金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを実施するまで(図17(a)~(c))は、実施例1(図4(a)~(c))と同様である。
【0102】
プラズモニックPCR終了後、加減圧装置204により溶液301を金属ナノ粒子分離部105に向けて送液する(図17(d))。図18に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。図17(d)の時点では、金属ナノ粒子302は、溶液301に分散している。
【0103】
さらに送液を続けることで、フィルタ501による金属ナノ粒子302の除去を行う(図17(e))。図19に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。金属ナノ粒子302は、フィルタ501を通過できず、フィルタ501の表面もしくは内部に捕捉される。一方、DNAを含む溶液301は、フィルタ501を通過する。
【0104】
加減圧装置204による送液を続けることで、金属ナノ粒子302が取り除かれた溶液301が遺伝子検出部106へ移動する(図17(f))。最後に、遺伝子検出部106にて、多項目遺伝子検出(ここではクロマトグラフィー)を実施する(図17(g))。
【0105】
なお、実施例1でも記載の通り、PCRで増幅した二本鎖DNAは、一本鎖DNAに分解されてから遺伝子検出に供されてもよい。一本鎖DNAへの分解は、金属ナノ粒子の除去の前であっても、後であってもよい。
【0106】
(実施例3)
以下、実施例3について説明する。本実施例は、金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、バッファーを用いた金属ナノ粒子除去、およびクロマトグラフィー法に基づく多項目遺伝子検出を実施するための流体デバイスおよび送液装置に関する。なお、実施例1または実施例2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0107】
図20に流体デバイス101の平面図を示し、図21図20のA―A線に沿った断面図を示す。本実施例は、図14および図15に示した構成に対して、金属ナノ粒子分離部105内にフィルタ501ではなくバッファー601が備えられている点で実施例2と異なる。
【0108】
金属ナノ粒子分離部105内のバッファー601は、遺伝子増幅部104にて金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを実施した後の溶液から、金属ナノ粒子を除去するために用いられる。プラズモニックPCRに用いられる金属ナノ粒子は、溶液を均一に加熱するため、PCR溶液中に分散していることが望ましい。そこで金属ナノ粒子の凝集を防ぐため、粒子同士が静電的に反発するよう金属ナノ粒子表面に電荷を有する表面修飾を施すことが一般的である。
【0109】
本実施例では、溶液の塩濃度を変化させて、金属ナノ粒子表面の電荷を塩で打ち消し、金属ナノ粒子を凝集させ、溶液から除去するバッファー601を用いる。バッファー601は、たとえば塩化ナトリウムを含有する溶液である。バッファー601は、金属ナノ粒子表面の電荷を打ち消す作用を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0110】
バッファー601は、金属ナノ粒子分離部105内に液体の状態であらかじめ保持されていてもよい。また、バッファー601は、金属ナノ粒子分離部105内に固体の状態であらかじめ保持されていてもよく、この場合PCR後の溶液によって固体状のバッファー601を溶解すればよい。
【0111】
さらに、バッファー601は、金属ナノ粒子分離部105内にあらかじめ保持されていなくてもよい。たとえば、流体デバイス101の内部または外部に液体状態のバッファー601を保管するチャンバを設け、チャンバから金属ナノ粒子分離部105へバッファー601を送液してもよい。
【0112】
次に、図20および図21またはそれらの変形例のいずれかの流体デバイスを設置可能な送液装置について説明する。一例として、図20および図21に記載の流体デバイスを設置した送液装置201を図22に示す。
【0113】
実施例3の送液装置201は、流体デバイス101内で溶液を送液するために用いることができる。また、送液装置201は、流体デバイス101内で金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、バッファー601を用いた金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するために必要な光や空気圧、センサ等を流体デバイス101に供給することができる。
【0114】
図23に送液装置201を用いた遺伝子検査の動作フローの一例を示す。この動作フローは、金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCR、金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するためのものである。流体デバイス101への溶液導入から加減圧装置204による溶液301の金属ナノ粒子分離部105への送液まで(図23(a)~(d))は、実施例2(図17(a)~(d))と同様である。
【0115】
図17および図18と同様に、加減圧装置204により溶液301を金属ナノ粒子分離部105に向けて送液する時点では、金属ナノ粒子302は、溶液301に分散している。図24に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。
【0116】
さらに、送液を続けることで、金属ナノ粒子分離部105内のバッファー601と溶液301および金属ナノ粒子302とが混合される。これにより、金属ナノ粒子302表面の電荷が打ち消され、金属ナノ粒子302が凝集し沈殿する(図23(e)。図25に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。
【0117】
加減圧装置204により、金属ナノ粒子の含まれない上澄部分を金属ナノ粒子分離部105から遺伝子検出部106に移動させる(図23(f))。
【0118】
最後に、遺伝子検出部106にて多項目遺伝子検出(ここではクロマトグラフィー)を実施する(図23(g))。
【0119】
なお、実施例1でも記載の通り、PCRで増幅した二本鎖DNAは、一本鎖DNAに分解されてから遺伝子検出に供されてもよい。一本鎖DNAへの分解は、金属ナノ粒子の除去の前であっても、後であってもよい。
【0120】
(実施例4)
以下、実施例4について説明する。本実施例は、金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、光濃縮を用いた金属ナノ粒子の除去、およびクロマトグラフィー法に基づく多項目遺伝子検出を実施するための流体デバイスおよび送液装置に関する。なお、実施例1または実施例2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0121】
図26に流体デバイス101の平面図を示し、図27図26のA―A線に沿った断面図を示す。本実施例は、図14および図15または図20および図21に示した構成に対して、金属ナノ粒子分離部105内にフィルタ501またはバッファー601ではなく、金薄膜701を備える点で実施例2および実施例3と異なる。
【0122】
金属ナノ粒子分離部105内の金薄膜701は、遺伝子増幅部104にて金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCRを実施した後の溶液から、光濃縮と呼ばれる現象を用いて金属ナノ粒子を除去するために用いられる。
【0123】
金薄膜にレーザーを照射すると、金のプラズモン共鳴により光エネルギーが熱エネルギーへと変換される。この光熱効果により、金薄膜近傍にある溶液の温度が急激に上昇し、金薄膜に接するようにマイクロバブルが発生し、マイクロバブルの周辺に対流が発生する。対流によって撹拌された溶液内の微粒子は、マイクロバブルの周囲に濃縮される現象が知られており、これは光濃縮と呼ばれる。
【0124】
本実施例では、上記の現象を利用し溶液内の金ナノ粒子を濃縮および除去するため、金属ナノ粒子分離部105内に金薄膜701を設けている。
【0125】
次に、図26および図27またはそれらの変形例のいずれかの流体デバイスを設置可能な送液装置について説明する。一例として、図26および図27に記載の流体デバイスを設置した送液装置201を図28に示す。図28に示した構成は、金属ナノ粒子分離部105内にフィルタ501またはバッファー601ではなく、金薄膜701を備える点、および光源702を備える点で実施例2および実施例3と異なる。
【0126】
実施例4の送液装置201は、流体デバイス101内で溶液を送液するために用いることができる。また、送液装置201は、流体デバイス101内で金属ナノ粒子を用いた遺伝子増幅、光濃縮を用いた金属ナノ粒子除去、および多項目遺伝子検出を実施するために必要な光や空気圧、センサ等を流体デバイス101に供給することができる。
【0127】
光源702は、特定の波長の光を金属ナノ粒子分離部105に照射し、金薄膜701のプラズモン共鳴を誘発するために用いられる。光源702は、たとえばレーザーである。特定の波長は、使用される金薄膜の表面プラズモン共鳴に係る吸収極大(反射極小)の波長に近い波長が選択される。
【0128】
図28に送液装置201を用いた遺伝子検査の動作フローの一例を示す。この動作フローは、金属ナノ粒子を用いたプラズモニックPCR、金属ナノ粒子の除去、および多項目遺伝子検出を実施するためのものである。流体デバイス101への溶液導入から加減圧装置204による溶液301の金属ナノ粒子分離部105への送液まで(図29(a)~(d))は、実施例2(図17(a)~(d))および実施例3(図23(a)~(d))と同様である。
【0129】
実施例2および実施例3と同様に、加減圧装置204により溶液301を金属ナノ粒子分離部105に向けて送液する時点では、金属ナノ粒子302は溶液301に分散している。図30に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。
【0130】
さらに、送液を続けることで、溶液301を金属ナノ粒子分離部105内の金薄膜701上に配置する。光源702を用いて溶液301および金薄膜701に光を照射し、光濃縮による金属ナノ粒子302の濃縮を行う(図29(e))。図31に、この時点での溶液301の位置および金属ナノ粒子302の様子を模式的に示す。
【0131】
加減圧装置204により、金属ナノ粒子の含まれない上澄部分を金属ナノ粒子分離部105から遺伝子検出部106に移動させる(図29(f))。最後に、遺伝子検出部106にて多項目遺伝子検出(ここではクロマトグラフィー)を実施する(図29(g))。
【0132】
(変形例)
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0133】
101 流体デバイス
102 基板
103 溶液導入部
104 遺伝子増幅部
105 金属ナノ粒子分離部
106 遺伝子検出部
107 バルブ接続部
108 流路
109 シール材
110 固相担体部
201 送液装置
202 デバイス保持部
203 カバー
204 加減圧装置
205 バルブ
206 温度センサ
207 光源
208 制御部
209 センサ
210 信号検出部
211 外部磁力源
281 プロセッサ
282 主記憶部
283 補助記憶部
284 インターフェース
301 溶液
300 送液システム
302 金属ナノ粒子
401 ウェル
402 外部熱源
403 温度制御部
404 プローブスポット
405 洗浄液保管庫
406 方向切替バルブ
501 フィルタ
601 バッファー
701 金薄膜
702 光源
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31