(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179587
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および電子部品
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20241219BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20241219BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20241219BHJP
H03H 9/02 20060101ALI20241219BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H03H9/25 A
H03H9/145 D
H03H9/17 F
H03H9/02 A
H01L23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098551
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】菊地 努
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA24
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD24
5J097EE08
5J097JJ02
5J097KK09
5J097KK10
5J108BB01
5J108CC04
5J108CC11
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE13
5J108FF10
5J108FF11
5J108GG03
5J108JJ01
(57)【要約】
【課題】クラックの発生を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイス100は、上面11と下面12とを有する基板10と、基板10を上面11から下面12に貫通するビア配線32と、上面11上に設けられ、平面視にてビア配線32に重なりかつ輪郭がビア配線32の上面11における輪郭より内側に位置する孔24を有する圧電層20と、圧電層20上に設けられ、ビア配線32に接続された弾性波素子50とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面と反対の第2面とを有する基板と、
前記基板を前記第1面から前記第2面に貫通するビア配線と、
前記第1面上に設けられ、平面視にて前記ビア配線に重なりかつ輪郭が前記ビア配線の前記第1面における輪郭より内側に位置する孔を有する絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられ、前記ビア配線に接続された弾性波素子と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記基板はシリコンまたはサファイアにより形成される、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記ビア配線は銅、金、または銀により形成される、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記絶縁層は圧電層を含み、
前記弾性波素子は前記圧電層上に設けられた櫛型電極を含む、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記絶縁層は、前記基板と前記圧電層の間に設けられた中間層を含む、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記中間層は、酸化アルミニウム層、酸化シリコン層、窒化シリコン層、窒化アルミニウム層、酸窒化アルミニウム層、シリコン層、酸化チタン層、およびポリシリコン層のうちの少なくとも1層を含む、請求項5に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1面上に前記絶縁層を囲んで設けられた枠体と、前記枠体上に設けられたリッドと、を含み、前記絶縁層と前記リッドとの間に前記弾性波素子を封止する封止部と、
前記第2面上に設けられ、前記ビア配線に接続する端子と、を備える、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記封止部は、前記絶縁層と前記リッドとの間の空隙に前記弾性波素子を封止する、請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記孔の直径は、前記ビア配線の前記第1面における直径の0.9倍以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
請求項1または2に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【請求項12】
第1面と前記第1面と反対の第2面とを有する基板と、
前記基板を前記第1面から前記第2面に貫通するビア配線と、
前記第1面上に設けられ、平面視にて前記ビア配線に重なりかつ輪郭が前記ビア配線の前記第1面における輪郭より内側に位置する孔を有する絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられ、前記ビア配線に接続された素子と、
前記素子を前記絶縁層上の空隙に封止する封止部と、を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に設けられた弾性波素子が基板を貫通するビア配線に電気的に接続された構成が知られている(例えば特許文献1、2)。また、弾性波素子を空隙内に封止する構成が知られている(例えば特許文献1-5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-205500号広報
【特許文献2】特開2022-44323号広報
【特許文献3】特開2016-152612号広報
【特許文献4】特開2014-143640号公報
【特許文献5】特開2013-115664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板上に絶縁層が設けられ、絶縁層上に弾性波素子が設けられた構成では、弾性波素子と基板を貫通するビア配線との電気的な接続を可能とするために、ビア配線上の絶縁層を除去することが行われる。この場合、弾性波素子等の形成領域を大きく確保するために、絶縁層を除去する領域は小さいことが好ましい。しかしながら、絶縁層の除去領域を小さくした場合に、基板とビア配線の線膨張係数の差によって絶縁層にクラックが発生することがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、クラックの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1面と前記第1面と反対の第2面とを有する基板と、前記基板を前記第1面から前記第2面に貫通するビア配線と、前記第1面上に設けられ、平面視にて前記ビア配線に重なりかつ輪郭が前記ビア配線の前記第1面における輪郭より内側に位置する孔を有する絶縁層と、前記絶縁層上に設けられ、前記ビア配線に接続された弾性波素子と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記基板はシリコンまたはサファイアにより形成される構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記ビア配線は銅、金、または銀により形成される構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記絶縁層は圧電層を含み、前記弾性波素子は前記圧電層上に設けられた櫛型電極を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記絶縁層は、前記基板と前記圧電層の間に設けられた中間層を含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記中間層は、酸化アルミニウム層、酸化シリコン層、窒化シリコン層、窒化アルミニウム層、酸窒化アルミニウム層、シリコン層、酸化チタン層、およびポリシリコン層のうちの少なくとも1層を含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1面上に前記絶縁層を囲んで設けられた枠体と、前記枠体上に設けられたリッドと、を含み、前記絶縁層と前記リッドとの間に前記弾性波素子を封止する封止部と、前記第2面上に設けられ、前記ビア配線に接続する端子と、を備える構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記封止部は、前記絶縁層と前記リッドとの間の空隙に前記弾性波素子を封止する構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記孔の直径は、前記ビア配線の前記第1面における直径の0.9倍以下である構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記に記載のフィルタを備えるマルチプレクサである。
【0017】
本発明は、第1面と前記第1面と反対の第2面とを有する基板と、前記基板を前記第1面から前記第2面に貫通するビア配線と、前記第1面上に設けられ、平面視にて前記ビア配線に重なりかつ輪郭が前記ビア配線の前記第1面における輪郭より内側に位置する孔を有する絶縁層と、前記絶縁層上に設けられ、前記ビア配線に接続された素子と、前記素子を前記絶縁層上の空隙に封止する封止部と、を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図3】
図3(a)は、実施例1における弾性波素子の平面図、
図3(b)は、弾性波素子の別の例の断面図である。
【
図4】
図4(a)は、実施例1におけるフィルタの回路図、
図4(b)は、デュプレクサの回路図である。
【
図5】
図5(a)は、実施例1におけるビア配線と圧電層の孔との位置関係を示す平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A断面図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図8】
図8(a)は、比較例1に係る弾性波デバイスの断面図、
図8(b)は、比較例1におけるビア配線と圧電層との位置関係を示す平面図、
図8(c)は、
図8(b)の領域Aの拡大図である。
【
図9】
図9(a)は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図、
図9(b)は、比較例2におけるビア配線と圧電層との位置関係を示す平面図、
図9(c)は、
図9(b)の領域Aの拡大図である。
【
図11】
図11は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図2は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
図2では、リッド44を透視して図示している。図の明瞭化のために、
図1では実施例1に係る弾性波デバイスの断面を模式的に図示し(以下の同様な図においても同じ)、
図2では枠体42および配線34にハッチングを付している。
【0022】
図1および
図2に示すように、実施例1に係る弾性波デバイス100は、基板10の上面11に圧電層20が接合されている。基板10は、例えばサファイア基板であり、その厚さは50μm~300μmである。圧電層20は、例えば単結晶タンタル酸リチウム層または単結晶ニオブ酸リチウム層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。圧電層20の厚さは例えば0.5μm~30μmである。圧電層20は、例えば30°~50°YカットX伝搬タンタル酸リチウム層であってもよい。圧電層20の上面に、1または複数の弾性波素子50が設けられている。
【0023】
図3(a)は、実施例1における弾性波素子の平面図、
図3(b)は、弾性波素子の別の例の断面図である。
図3(a)に示すように、弾性波素子50は弾性表面波共振子である。圧電層20の上面にIDT(Interdigital Transducer)51と反射器52が設けられている。IDT51は、対向する一対の櫛型電極53を有する。櫛型電極53は、複数の電極指54と、複数の電極指54が接続するバスバー55と、を有する。反射器52は、IDT51の両側に設けられている。複数の電極指54が圧電層20に弾性表面波を励振する。一対の櫛型電極53のうち一方の櫛型電極53の電極指54のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指54のピッチDの2倍がほぼ弾性波の波長λとなる。IDT51および反射器52は、例えばアルミニウム、銅、またはモリブデン等の金属膜により形成される。圧電層20の上面にIDT51および反射器52を覆う保護膜または温度補償膜が設けられていてもよい。櫛型電極53はダミー電極指を有していてもよい。
【0024】
図3(b)に示すように、弾性波素子50は圧電薄膜共振子でもよい。基板10上に圧電層57(絶縁膜)が設けられ、圧電層57を挟むように下部電極56と上部電極58が設けられている。下部電極56と基板10との間に空隙59が形成されている。圧電層57の少なくとも一部を挟み下部電極56と上部電極58とが対向する領域が共振領域61である。共振領域61において、下部電極56と上部電極58は圧電層57に弾性波を励振する。下部電極56および上部電極58は例えばルテニウム膜等を含む金属膜である。圧電層57は例えば窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、単結晶タンタル酸リチウム層、または単結晶ニオブ酸リチウム層である。空隙59の代わりに弾性波を反射する音響反射膜が設けられていてもよい。
【0025】
図1および
図2に示すように、基板10の下面12に端子30が設けられている。端子30は、弾性波素子50を外部と電気的に接続するためのフットパッドである。端子30は、例えば銅、アルミニウム、または金等を含む金属層であり、厚さが数μm程度である。例えば、端子30は基板10側から厚さが2μm程度の銅層と厚さが5μm程度のニッケル層と厚さが0.5μm程度の金層とが積層された積層膜である。
【0026】
基板10を上面11から下面12にかけて貫通するビア配線32が設けられている。圧電層20はビア配線32上に圧電層20を貫通する孔24を有する。孔24は、ビア配線32に重なって設けられ、周囲が圧電層20で囲まれている。圧電層20は、平面視においてほぼ矩形の形状をしている。したがって、ほぼ矩形の形状をした圧電層20において、ビア配線32と重なる領域に孔24が設けられていると言える。配線34が孔24内に入り込んでビア配線32に接触している。これにより、弾性波素子50は配線34およびビア配線32を介して端子30に電気的に接続される。ビア配線32は、例えば銅により形成されている。配線34は例えば銅、アルミニウム、または金等を含む金属層であり、厚さが数μm程度である。例えば、配線34は、厚さが1μm程度のチタン層と厚さが3μm程度の金層とが積層された積層膜である。
【0027】
基板10の周縁領域には圧電層20は設けられていない。平面視において、圧電層20を囲むように基板10上に枠体42が設けられている。枠体42は圧電層20から離れて基板10上に設けられている。枠体42は、例えば銅、コバール、金、アルミニウム、またはタングステン等を含む金属層である。枠体42の高さは例えば10μm~40μm程度であり、幅は例えば10μm~40μm程度である。例えば、枠体42は、厚さが1μm程度のチタン層と厚さが3μm程度の金層と厚さが20μm程度の銅層と厚さが5μm程度のニッケル層と厚さが1μm程度の金層との積層膜である。
【0028】
枠体42上に、基板10との間に空隙22が形成されるようにリッド44が設けられている。リッド44は、はんだ46によって枠体42に接合されている。弾性波素子50は、枠体42とリッド44を含む封止部40により空隙22に封止されている。リッド44は、例えばコバール層または銅層等の金属層を含んで形成され、厚さが10μm~20μm程度である。リッド44は、弾性波素子50から発生した熱を放熱させる観点から空隙22に露出する金属層を含んで形成される場合が好ましい。リッド44は、絶縁層または半導体層を含んで形成されてもよく、例えばサファイア層、アルミナ層、シリコン層、ガラス層等を含んで形成されてもよい。
【0029】
なお、枠体42は、グランド用の端子30にビア配線32を介して電気的に接続されてもよい。これにより、枠体42にグランド電位が供給され、封止部40にシールド効果を付与することができる。また、弾性波素子50から発生した熱を封止部40からビア配線32を介して端子30に伝達させることができ、放熱効果を向上させることができる。なお、枠体42およびリッド44は基板10上では弾性波素子50に電気的に接続されていない。
【0030】
圧電層20の上面に形成された複数の弾性波素子50によってフィルタ60が形成されている。すなわち、入力用の端子30と出力用の端子30との間に直列に接続された直列共振器S1~S4と、並列に接続された並列共振器P1~P3とが、弾性波素子50によって形成されている。
図4(a)は、実施例1におけるフィルタの回路図である。
図4(a)に示すように、フィルタ60は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に1または複数の直列共振器S1~S4が直列に接続され、1または複数の並列共振器P1~P3が並列に接続されている。直列共振器S1~S4および並列共振器P1~P3が全て弾性波素子50であってもよく、少なくとも1つが弾性波素子50であってもよい。直列共振器および並列共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタとしてラダー型フィルタを例に説明したが、フィルタは多重モード型フィルタであってもよい
【0031】
また、弾性波素子50を含むフィルタによりデュプレクサが形成されてもよい。
図4(b)は、デュプレクサの回路図である。
図4(b)に示すように、デュプレクサ70は、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ72が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ74が接続されている。送信フィルタ72は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ74は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ72および受信フィルタ74の少なくとも一方をフィルタ60とすることができる。なお、マルチプレクサとしてデュプレクサを例に示したがトリプレクサまたはクワッドプレクサであってもよい。
【0032】
図5(a)は、実施例1におけるビア配線と圧電層の孔との位置関係を示す平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A断面図である。
図5(a)および
図5(b)に示すように、圧電層20に設けられた孔24は、平面視において、ビア配線32に重なって設けられかつ輪郭25がビア配線32の基板10の上面11における輪郭33より内側に位置している。したがって、孔24の輪郭25はビア配線32上にのみ位置している。基板10の上面11におけるビア配線32の直径D1は例えば30μm~60μm程度である。孔24の直径D2は例えば20μm~50μmである。ビア配線32の輪郭33と孔24の輪郭25との間の距離Lは例えば3μm~10μmである。
【0033】
[製造方法]
図6(a)から
図7(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図6(a)に示すように、基板10の上面11に例えばレーザ光を照射してビアホールを形成し、ビアホール内に銅等の金属層を例えば電解めっき法を用い形成する。その後、基板10の上面11が露出するように金属層を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。これにより、基板10にビア配線32が形成される。例えばビア配線32を銅層とする場合、電解めっき法のシード層として基板10側からチタン層と銅層が積層された積層膜を用いる。ここでは、ビア配線32は、基板10を上面11から下面12に貫通していない。
【0034】
図6(b)に示すように、基板10の上面11に圧電基板を例えば表面活性化法を用い常温接合する。基板10と圧電基板は数nmのアモルファス層を介し直接接合されてもよいし、絶縁層を介し間接的に接合されてもよい。その後、圧電基板の上面を例えばCMP法を用い研磨して所望の厚さの圧電層20とする。圧電層20上に弾性波素子50を形成する。弾性波素子50の形成方法は一般的に知られている方法を用いる。なお、ビア配線32を基板10のみに形成して圧電層20に形成しないのは、圧電層20も貫通するビア配線32を形成しようとした場合、圧電層20にクラックが発生することがあるためである。
【0035】
図6(c)に示すように、圧電層20上に弾性波素子50を覆うレジスト膜(不図示)を形成した後、レジスト膜をマスクとして圧電層20をエッチングする。圧電層20のエッチングは例えばドライエッチングを用いるが、ウェットエッチングを用いてもよい。これにより、圧電層20にビア配線32上に位置する孔24が形成される。また、枠体42が形成される領域における圧電層20が除去される。
【0036】
図7(a)に示すように、弾性波素子50とビア配線32を電気的に接続する配線34を、例えば蒸着法およびリフトオフ法によって圧電層20上に形成する。配線34と同時に枠体42が形成される領域に金属層48を形成する。配線34は、圧電層20に設けられた孔24においてビア配線32に接することでビア配線32に電気的に接続される。配線34と金属層48は、例えば基板10側からチタン層と金層が積層された積層膜である。
【0037】
図7(b)に示すように、金属層48に電流を供給し、電解めっき法を用いて金属層48上に金属層(例えば基板10側から銅層、ニッケル層、及び金層)を堆積して枠体42を形成する。枠体42上にはんだ46を形成した後、はんだ46によって枠体42上にリッド44を接合する。弾性波素子50は、圧電層20とリッド44との間に形成された空隙22に、枠体42およびリッド44を含む封止部40によって封止される。
【0038】
図7(c)に示すように、基板10の下面12に対して研磨又は研削等を行う。これにより、基板10の下面12にビア配線32が露出する。ビア配線32に接するように、基板10の下面12に端子30を形成する。例えば、基板10の下面12にシード層を形成する。シード層上に開口を有するレジスト膜を形成する。シード層に電流を供給し電解めっき法を用いて開口内にめっき層を形成する。その後、めっき層以外のシード層を除去する。シード層は、例えば基板10側からチタン層と金層が積層された積層膜とすることができる。めっき層は、例えば基板10側から銅層、ニッケル層、及び金層とすることができる。以上により、実施例1の弾性波デバイスが形成される。
【0039】
[比較例]
図8(a)は、比較例1に係る弾性波デバイスの断面図、
図8(b)は、比較例1におけるビア配線と圧電層との位置関係を示す平面図、
図8(c)は、
図8(b)の領域Aの拡大図である。
図8(a)から
図8(c)に示すように、比較例1に係る弾性波デバイス500では、ビア配線32が圧電層20で覆われず、配線34がビア配線32に接触可能となるように、圧電層20に切り欠き26が設けられている。切り欠き26は圧電層20の周縁に設けられている。切り欠き26における圧電層20の端28は、ビア配線32から離れている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0040】
比較例1では、圧電層20に切り欠き26が設けられている。切り欠き26は、圧電層20の端28がビア配線32から離れて位置するような大きさで設けられている。このような場合、圧電層20の上面の面積が小さくなり、弾性波素子50等の形成領域が小さくなってしまう。
【0041】
図9(a)は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図、
図9(b)は、比較例2におけるビア配線と圧電層との位置関係を示す平面図、
図9(c)は、
図9(b)の領域Aの拡大図である。
図9(a)から
図9(c)に示すように、比較例2に係る弾性波デバイス600では、切り欠き26aにおける圧電層20の端28がビア配線32上に位置するような大きさの切り欠き26aが圧電層20に設けられている。したがって、比較例2における切り欠き26aは、比較例1における切り欠き26よりも小さい。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0042】
比較例2では、圧電層20に設けられた切り欠き26aは比較例1における切り欠き26よりも小さい。このため、比較例1に比べて、圧電層20の上面の面積が大きくなり、弾性波素子50等の形成領域を大きく確保できる。しかしながら、比較例2では以下のような課題が生じる。
【0043】
図10(a)は、比較例2における課題を示す平面図、
図10(b)は、
図10(a)のA-A断面図である。
図10(a)および
図10(b)に示すように、比較例2では、切り欠き26aにおける圧電層20の端28がビア配線32から基板10にかけて設けられている。基板10とビア配線32は、異なる材料により形成されているため、線膨張係数が異なる。例えば、基板10がサファイアにより形成され、ビア配線32が銅により形成されている場合、サファイアの線膨張係数は7×10
-6/℃程度であり、銅の線膨張係数は17×10
-6/℃程度である。
【0044】
基板10とビア配線32の線膨張係数が異なるため、例えば圧電層20のエッチング時および/または弾性波デバイスを回路基板等に搭載する時の温度上昇によって、基板10とビア配線32は矢印のように膨張の程度が異なる。このため、圧電層20の端28におけるビア配線32と基板10の境界に位置する箇所に、基板10とビア配線32の線膨張係数の差に起因する応力が加わってクラック90が発生することがある。
【0045】
一方、実施例1によれば、
図5(a)および
図5(b)のように、平面視にてビア配線32に重なりかつ輪郭25がビア配線32の基板10の上面11における輪郭33より内側に位置する孔24が圧電層20(絶縁層)に設けられている。これにより、孔24における圧電層20の端はビア配線32上にのみ位置するため、基板10とビア配線32の線膨張係数が異なる場合でも、孔24における圧電層20の端に応力が加わることを抑制できる。よって、クラックが生じることを抑制できる。また、孔24はビア配線32の内側に設けられているため、圧電層20の上面の面積が大きくなり、弾性波素子50等の形成領域を大きく確保できる。
【0046】
また、実施例1では、基板10はサファイアにより形成され、ビア配線32は銅により形成されている。サファイアの線膨張係数は7×10-6/℃程度、銅の線膨張係数は17×10-6/℃程度であるため、基板10とビア配線32の線膨張係数の差が大きい。この場合、比較例2のように、圧電層20の端28がビア配線32から基板10にかけて設けられていると、線膨張係数の差に起因して圧電層20に加わる応力によってクラックが発生しやすい。したがって、基板10がサファイアにより形成され、ビア配線32が銅により形成される場合、実施例1のように、圧電層20に孔24を設ける構成とすることが好ましい。
【0047】
基板10は、サファイアの他に、シリコンにより形成される場合でもよい。ビア配線32は、銅の他に、金または銀により形成される場合でもよい。シリコンの線膨張係数は4×10-6/℃程度である。金の線膨張係数は14×10-6/℃程度、銀の線膨張係数は19×10-6/℃程度である。基板10とビア配線32がこれらの材料により形成される場合でも、基板10とビア配線32の線膨張係数の差が大きくなる。よって、圧電層20に孔24を設ける構成とすることが好ましい。例えば、クラックの発生を抑制する観点から、圧電層20に孔24を設ける構成とするのは、基板10とビア配線32の線膨張係数の差が7以上の場合が好ましく、9以上の場合がより好ましく、12以上の場合が更に好ましい。また、圧電層20が薄いとクラックが発生しやすくなる。したがって、圧電層20が15μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることが好ましく、10μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることがより好ましく、5μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることが更に好ましい。
【0048】
圧電層20にクラックが発生することを抑制する観点から、ビア配線32の輪郭33と孔24の輪郭25との間の距離L(
図5(a)参照)は、例えば3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。孔24の直径D2(
図5(a)参照)は、ビア配線32の基板10の上面11における直径D1(
図5(a)参照)の0.9倍以下が好ましく、0.8倍以下がより好ましく、0.7倍以下が更に好ましい。一方、配線34とビア配線32の接触面積の観点から、距離Lは、例えば10μm以下が好ましく、9μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましい。孔24の直径D2は、ビア配線32の直径D1の0.4倍以上が好ましく、0.5倍以上がより好ましく、0.6倍以上が更に好ましい。
【0049】
また、実施例1では、基板10の上面11に圧電層20を囲んで設けられた枠体42と、枠体42上に設けられたリッド44と、を含み、圧電層20とリッド44との間の空隙22に弾性波素子50を封止する封止部40を備える。この場合、弾性波素子50の気密性を確保するために、基板10の下面12に設けられる端子30をビア配線32に接続する構成とする。このような構成の場合、クラックの発生の抑制および弾性波素子50等の形成領域の確保のために、圧電層20の孔24を設ける構成とすることが好ましい。
【0050】
また、実施例1では、圧電層20の孔24の輪郭25は曲線により形成されている。これにより、孔24における圧電層20の端の一部分への応力の集中が抑制され、クラックの発生をより抑制できる。実施例1では、孔24の輪郭25は円形であるが、楕円形等のその他の場合でもよく、外側に凸の形をしている場合が好ましい。
実施例2によれば、圧電層20と基板10との間に中間層80が設けられている。言い換えると、基板10上に設けられた絶縁層は、圧電層20と、圧電層20と基板10との間の中間層80と、を含む。この場合、比較例2と同様に、中間層80の端がビア配線32から基板10にかけて設けられていると、中間層80にクラックが発生しやすい。したがって、圧電層20および中間層80に孔24を設ける構成とすることが好ましい。
クラックの発生を抑制する観点から、圧電層20と中間層80を含む絶縁層の厚さが15μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることが好ましく、10μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることがより好ましく、5μm以下の場合に孔24を設ける構成とすることが更に好ましい。
実施例1及び実施例2では、弾性波素子50が設けられた弾性波デバイスの場合を例に示したが、この場合に限られない。絶縁層上に弾性波素子50以外の素子(例えばインダクタまたはキャパシタ等の受動素子、トランジスタを含む能動素子、もしくはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子等)が設けられた電子部品の場合でもよい。
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。