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  • 特開-電池システム 図1
  • 特開-電池システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179594
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20241219BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241219BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20241219BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H01M10/48 Z
H02J7/00 Y
H02H7/18
H02J7/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098570
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 宏一郎
【テーマコード(参考)】
5G053
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G053AA14
5G053AA16
5G053BA05
5G053CA04
5G053DA03
5G053FA04
5G053FA05
5G503AA01
5G503AA07
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA08
5G503FA06
5G503FA18
5G503FA19
5G503GB06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF32
(57)【要約】
【課題】電池の膨張量を精度高く推定し、膨張量の増加を抑制する。
【解決手段】ECUは、目的地までのルートが設定されると(S100にてYES)、走行パターンと電池情報とを取得するステップ(S102)と、膨張量の予測値を算出するステップ(S104)と、膨張量がしきい値以上であると(S106にてNO)、ルートを再設定するステップ(S108)と、走行が完了すると(S110にてYES)、走行後の膨張量を取得するステップ(S112)と、走行データと膨張量を学習するステップ(S114)と、次回利用時の膨張量を推定するステップ(S116)と、膨張量がしきい値以上であると(S118にてNO)、電池負荷を推定するステップ(S120)と、膨張量を最小とするSOCおよび温度で待機するように充電および冷却を予約するステップ(S122)とを含む、処理を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行パターンと前記車両に搭載される電池の状態とに対応づけられる前記電池の膨張量を記憶する記憶装置と、
前記車両が目的地に到着するまでの走行ルートにおいて予測される前記走行パターンおよび前記電池の状態を用いて前記膨張量を推定する制御装置とを備え、
前記制御装置は、推定された膨張量がしきい値を超える場合に、電池の膨張を抑制するための電池制御を実行する、電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池の劣化に起因する電池の膨張量を推定する技術が公知である。たとえば、特開2018-085781号公報(特許文献1)には、放電開始時の電池の状態と、放電開始から終了までの電池の状態の変化とから膨張量を算出する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-085781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電池の使用初期と寿命末期とで膨張量の変化速度が異なるため、膨張量を精度高く推定できない可能性がある。そのため、膨張量の増加を抑制するための制御を適切に実施できない場合がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、電池の膨張量を精度高く推定し、膨張量の増加を抑制する電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に係る電池システム、車両の走行パターンと車両に搭載される電池の状態とに対応づけられる電池の膨張量を記憶する記憶装置と、車両が目的地に到着するまでの走行ルートにおいて予測される走行パターンおよび電池の状態を用いて膨張量を推定する制御装置とを備える。制御装置は、推定された膨張量がしきい値を超える場合に、電池の膨張を抑制するための電池制御を実行する。
【0007】
このようにすると、車両の走行パターンおよび電池の状態に応じた膨張量を、たとえば、機械学習を利用するなどして精度高く推定することができる。そのため、膨張量がしきい値を超える場合に電池制御を実行することにより、適切なタイミングで電池の膨張量の増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、電池の膨張量を精度高く推定し、膨張量の増加を抑制する電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両の構成の一例を示す図である。
図2】ECUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
以下では、本実施の形態に係る電池システムを搭載した車両1が電気自動車である場合を一例として説明する。なお、車両1としては、プラグインハイブリッド自動車であってもよい。図1は、車両1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、車両1は、三相交流回転電機等のMG(Motor Generator)10と、動力伝達ギア20と、駆動輪30と、インバータを含むPCU(Power Control Unit)40と、PCU40とバッテリ100との間を電気的に導通または遮断するSMR(System Main Relay)50と、通信網70を経由して車外のサーバ60と通信可能な通信装置80と、ナビゲーションシステム90と、リチウムイオン電池等の非水系二次電池のセル110が複数個積層されて構成されるバッテリ100と、ECU(Electronic Control Unit)300とを備える。バッテリ100とECU300とによって電池システムが構成される。
【0012】
ナビゲーションシステム90は、ユーザから受け付けた目的地までの走行ルートを設定する。ナビゲーションシステム90は、設定した走行ルートについての情報をECU300に送信する。ナビゲーションシステム90は、GPS(Global Positioning System)等の位置検出装置を用いて車両1の位置を取得して、設定された走行ルートに従って経路案内についての情報を報知装置(表示装置やスピーカ等)を用いて報知する。
【0013】
ECU300には、バッテリ100の電圧、電流および温度を取得するためのセンサ210,220,230が接続される。ECU300は、CPU(Central Processing Unit)301とメモリ302とを含む。ECU300は、各センサからの信号ならびにメモリ302に記憶されたマップやプログラム等に基づいて車両1の各機器を制御する。
【0014】
ECU300は、各センサ210,220,230の検出値に基づいて、バッテリ100のSOC(State Of Charge)を逐次算出する。SOCは、電流値積算による手法、または、開放電圧の推定による手法など、種々の公知の手法により算出される。
【0015】
上述のような車両1に搭載されるバッテリ100においては、充電や劣化に起因してセル110の積層方向に対して膨張が発生し得る。複数のセル110は拘束されているため電極の膨張により電極間の電解液が電極外に流出し電極間の電解液が減少する。その結果電池抵抗が上昇したり、複数のセル110を拘束する部材が変形する可能性がある。そのため、セル110の膨張量を精度高く推定し膨張量を抑制する制御の実行が求められる。
【0016】
しかしながら、セル110の使用初期と寿命末期とで膨張量の変化速度が異なるため、膨張量を精度高く推定できない可能性がある。そのため、膨張量の増加を抑制するための制御を適切に実施できない場合がある。
【0017】
そこで、本実施の形態においては、ECU300が、たとえば、車両1が目的地に到着するまでの走行ルートにおいて予測される走行パターンおよびバッテリ100の状態を用いてセル110の膨張量を推定し、推定された膨張量がしきい値を超える場合に、セル110の膨張を抑制するための電池制御を実行するものとする。
【0018】
このようにすると、走行パターンおよびセル110の状態に応じた膨張量を精度高く推定することができる。そのため、膨張量がしきい値を超える場合に電池制御を実行することにより、適切なタイミングでセル110の膨張量の増加を抑制することができる。
【0019】
以下、ECU300において実行される処理の一例について図2を参照しつつ説明する。図2は、ECU300で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0020】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU300は、目的地までのルートが設定されたか否かを判定する。ナビゲーションシステム90から走行ルートについての情報が取得されることにより、目的地までのルートが設定されたと判定される場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。目的地までのルートが設定されていないと判定される場合(S100にてNO)、この処理は終了される。
【0021】
S102にて、ECU300は、取得した走行ルートにおける走行パターン(たとえば、走行距離、走行頻度(1日当たりの走行回数)、勾配、温度、渋滞状況、天候、路面状況、走行ルートの位置情報、車速、および、アクセル開度等)およびバッテリ100の電池情報(たとえば、電流値、電池温度、SOC、および、電圧等)を取得する。
【0022】
S104にて、ECU300は、膨張量の予測値を算出する。ECU300は、たとえば、走行パターンおよび電池情報を用いてバッテリ100を構成する各々のセル110の膨張量を推定する。セル110単体の膨張量が推定されてもよい。
【0023】
ECU300は、目的地に到着した時の膨張量の予測値を上述の走行パターンと電池情報とを用いて算出する。ECU300は、走行ルートを複数の区間に細分化し、複数の区間の各々において生じる膨張量の和を膨張量の予測値として算出する。複数の区間は、速度(制限速度)、路面の勾配、路面の種類、渋滞状況等によって区分されてもよい。
【0024】
ECU300は、走行パターンおよび電池情報と学習結果を用いて走行パターンおよび電池情報に対応する膨張量を予測値として算出する。学習結果は、ECU300のメモリ302に記憶されている。ECU300は、走行パターンおよび電池情報の履歴データ(走行データ)とセル110の実際の膨張量とを用いて走行パターンおよび電池情報と、膨張量の予測値との対応関係を学習し、学習結果をメモリ302に記憶してもよい。あるいは、ECU300は、走行データと、セル110の実際の膨張量をサーバ60に送信し、サーバ60において、同一車種の他の車両から取得される情報を含めて走行パターンおよび電池情報と、膨張量の予測値との対応関係を学習し、サーバ60から送信される学習結果をメモリ302に記憶してもよい。走行パターンおよび電池情報と膨張量の予測値との対応関係の学習は、機械学習(たとえば、深層学習)によって行なわれてもよい。
【0025】
S106にて、ECU300は、膨張量がしきい値よりも小さいか否かを判定する。S104の処理において予測された膨張量がしきい値よりも小さいと判定される場合(S106にてYES)、処理はS110に移される。なお、膨張量がしきい値以上であると判定される場合(S106にてNO)、処理はS108に移される。
【0026】
S108にて、ECU300は、膨張量の予測値がしきい値を超えないルートを再設定する。ECU300は、たとえば、勾配がしきい値よりも大きい区間や制限速度が高い区間を回避した新たな走行ルートを再設定してもよい。ECU300は、新たに再設定された走行ルートにおける膨張量がしきい値以上である場合には、さらに膨張量の増加を促進する区間を回避して走行ルートを再設定してもよい。その後処理はS110に移される。
【0027】
S110にて、ECU300は、走行が完了したか否かを判定する。ECU300は、たとえば、車両1の位置が目的地に到達したときに走行が完了したと判定する。走行が完了したと判定されると(S110にてYES)、処理はS112に移される。走行が完了していないと判定される場合、処理はS110に戻される。
【0028】
S112にて、ECU300は、走行後の膨張量を取得する。具体的には、ECU300は、セル110の拘束荷重の走行前後での変化量とセル110における走行前後での内部抵抗の変化量とを入力値として走行後の膨張量を取得する。セル110間の拘束荷重の変化量は、たとえば、複数のセル110間の各々あるいは膨張量の検出対象となるセル110と隣接するセル110との間に設けられる面圧センサ(図示せず)によって検出される面圧の変化によって算出される。拘束荷重の変化量と内部抵抗の変化量と膨張量との対応関係は、機械学習によって学習され、メモリ302に記憶されてもよい。
【0029】
S114にて、ECU300は、走行データと膨張量との関係を学習する。ECU300は、たとえば、走行前の膨張量の予測値と走行後の膨張量との差分の大きさがしきい値よりも大きい場合には、今回の走行ルートを走行する際に取得された走行データと走行後の膨張量とを含めて走行データと膨張量の予測値との対応関係の学習を実施する。
【0030】
S116にて、ECU300は、次回利用時の膨張量を推定する。ECU300は、直近の予め定められた期間における利用履歴を用いて次回利用時に対応した走行データを予測し、車両1の走行完了後のセル110の膨張量を推定する。ECU300は、たとえば、同じ走行ルートが繰り返し設定されている場合には、当該走行ルートにおける膨張量の予測値を次回の利用時の膨張量として算出する。
【0031】
S118にて、ECU300は、算出された膨張量がしきい値よりも小さいか否かを判定する。ECU300は、S116の処理において算出された膨張量の予測値がしきい値よりも小さいか否かを判定する。しきい値は、S106におけるしきい値と同じ値であってもよい。膨張量がしきい値よりも小さいと判定される場合(S118にてYES)、この処理は終了される。一方、算出された膨張量がしきい値以上であると判定される場合(S118にてNO)、処理はS120に移される。
【0032】
S120にて、ECU300は、ユーザ利用履歴の学習値から次回利用時の電池負荷を推定する。ECU300は、たとえば、次回利用時に対応した走行距離、勾配、温度、渋滞状況および利用時間帯等の走行データを入力値として放電量、電池温度、通電パターン等の膨張量に関連する電池負荷を算出する。走行データと電池負荷との対応関係は、機械学習によって学習され、メモリ302に記憶されてもよい。
【0033】
S122にて、ECU300は、次回利用時に膨張量が最小となるようなSOCおよび温度で待機されるように充電動作および冷却動作を予約する。膨張量が最小となるようなSOCおよび温度は、たとえば、予め実験等により適合されてもよいし、実測値のデータを用いて設定されてもよい。ECU300は、外部充電が行なわれる場合に、設定されたSOCを目標SOCとして充電制御を実施するとともに、設定された温度を目標温度としてバッテリ100の冷却装置(図示せず)を動作させる。
【0034】
以上のような構造およびフローチャートに基づくECU300の動作の一例について説明する。目的地までの走行ルートが設定されると(S100にてYES)、設定された走行ルートにおける走行パターンと電池情報とが取得され(S102)、取得された走行パターンおよび電池情報を用いてセル110の膨張量の予測値が算出される(S104)。
【0035】
算出された膨張量の予測値がしきい値以上になる場合には(S106にてNO)、膨張量の予測値がしきい値を超えないルートに再設定される(S108)。設定された走行ルートを車両1が走行した後においては(S110にてYES)、走行後のセル110の膨張量が取得されるとともに(S112)、走行データと膨張量とが学習され(S114)、次回利用時の膨張量が推定される(S116)。
【0036】
推定された膨張量がしきい値以上である場合(S118にてNO)、次回利用時の電池負荷が推定されるとともに(S120)、次回利用時の膨張量が最小となる目標SOCと冷却時における目標温度とが設定され、充電動作および冷却動作が予約される。
【0037】
以上のようにして、本実施の形態に係る電池システムによると、車両1の走行パターンおよび電池の状態に応じた膨張量を精度高く推定することができる。膨張量がしきい値を超える場合に充電動作や冷却動作を含む電池制御が実行されることにより、適切なタイミングで電池の膨張量の増加を抑制することができる。したがって、電池の膨張量を精度高く推定し、膨張量の増加を抑制する電池システムを提供することができる。
【0038】
なお、膨張量がしきい値を超える場合には、ユーザに再設定を促すようにしてもよいし、再設定された走行ルートを修正案としてユーザに提示してもよい。
【0039】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1 車両、10 MG、20 動力伝達ギア、30 駆動輪、40 PCU、60 サーバ、70 通信網、80 通信装置、90 ナビゲーションシステム、100 バッテリ、110 セル、300 ECU、301 CPU、302 メモリ。
図1
図2