(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179596
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】鉄道車両の台車用塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20241219BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098573
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修太
(72)【発明者】
【氏名】久能 功
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA10
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】塗膜除去作業が容易な鉄道車両の台車用塗料を提供すること。
【解決手段】本発明の鉄道車両の台車用塗料は、少なくとも樹脂及び溶剤を含み、形成された塗膜が、2.5×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示し、かつ、水への浸漬による耐水性試験で耐水性を有し、形成された塗膜によるダンベル状1号型の試験片を用い、JIS K6251に準拠した切断時伸びの結果が5%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂及び溶剤を含み、
形成された塗膜が、2.5×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示し、かつ、水への浸漬による耐水性試験で耐水性を有し、
形成された塗膜によるダンベル状1号型の試験片を用い、JIS K6251に準拠した切断時伸びの結果が5%以上である、鉄道車両の台車用塗料。
【請求項2】
前記樹脂が、アルカリ溶解性を示す第1の樹脂と、アルカリ非溶解性を示し、かつ、柔軟性を有する第2の樹脂との混合物である、請求項1に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項3】
前記第1の樹脂単独の乾燥固形物が、1.0×10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示す、請求項2に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項4】
前記第2の樹脂単独の乾燥固形物が、1.0×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液では溶解しないアルカリ非溶解性を示す、請求項2に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項5】
JIS K6251によるダンベル状1号型の試験片を、前記第2の樹脂単独の乾燥固形物によって得た際の切断時伸びが、300%以上である、請求項4に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項6】
前記樹脂における、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との質量比が、3:1~1:3の範囲内である、請求項2に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項7】
前記溶剤が水であり、前記樹脂と前記溶剤とでエマルションを構成している、請求項1に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項8】
前記第1の樹脂が、アクリル系樹脂である、請求項2に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項9】
前記第2の樹脂が、アクリル系樹脂である、請求項8に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【請求項10】
さらに顔料を含む、請求項1に記載の鉄道車両の台車用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の台車用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車(以下、単に「台車」と称する場合がある。)とは、鉄道車両において、車体に直結されていない自由度を有する走り装置のことをいう。台車は、車輪を介して車体の重量をレールに伝えることで車体を保持し、車体をレールに沿って安定的に高速に走行させるとともに、車輪の回転による推進力(動力台車の場合)及び制動時のブレーキ力を車体に伝える等の機能を有し、鉄道車両にとって極めて重要な構成装置である。
【0003】
安全、安心かつ安定的な鉄道の運行を確保するため、近年、鉄道車両の探傷検査が重要になっている。特に台車は車体の全重量を支え、かつ走行によって振動・応力を受けるため、定期的な探傷検査が必須になっている。
【0004】
鉄道車両の探傷検査方法としては、目視検査や打音検査の他に、超音波探傷法、磁粉探傷法、浸透探傷法、放射線探傷法、過流探傷法などがある。かかる探傷検査の際には、塗装された台車について十分な検査を行うため、探傷検査をしたい部位については、できるだけ塗膜を剥がすことが望まれる。
【0005】
一方、雨露や日射に晒される台車の塗装は、使用時には容易に剥離しない耐久性が求められる。したがって、鉄道車両の台車には、使用時の耐久性を備える耐水性、防錆性並びに柔軟性に優れた塗膜が塗装されている。そのため、台車における探傷検査をしたい部位の塗膜を除去するに際して、各鉄道会社は、例えば道具を用いたり、固体粉末でブラスト処理する等の方法で、物理的に削ぎ落している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このように、各鉄道会社は、塗膜除去作業には多大な労力を要しており、より容易に除去できる塗膜を形成し得る塗料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、塗膜除去作業が容易な鉄道車両の台車用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様である鉄道車両の台車用塗料は、少なくとも樹脂及び溶剤を含み、
形成された塗膜が、2.5×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示し、かつ、水への浸漬による耐水性試験で耐水性を有し、
形成された塗膜によるダンベル状1号型の試験片を用い、JIS K6251に準拠した切断時伸びの結果が5%以上である。
【0010】
前記樹脂としては、アルカリ溶解性を示す第1の樹脂と、アルカリ非溶解性を示し、かつ、柔軟性を有する第2の樹脂との混合物であってもよい。
【0011】
前記第1の樹脂単独の乾燥固形物は、1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示すことが好ましい。
また、前記第2の樹脂単独の乾燥固形物は、1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液では溶解しないアルカリ非溶解性を示すことが好ましい。
【0012】
また、JIS K6251に準拠した引張試験により測定した、前記第2の樹脂単独の乾燥固形物によって得たダンベル状1号型の試験片の切断時伸びが、300%以上であることが好ましい。
また、前記樹脂における、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との質量比が、3:1~1:3の範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記溶剤が水であり、前記溶剤と前記樹脂とでエマルションを構成していてもよい。
また、前記第1の樹脂としては、アクリル系樹脂であってもよい。このとき、前記第2の樹脂としては、アクリル系樹脂であってもよい。
さらに、本発明の一態様である鉄道車両の台車用塗料としては、顔料を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄道車両の台車用塗料によれば、塗膜除去作業が容易な塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態にかかる鉄道車両の台車用塗料(以下、「鉄道車両の」を省略して、単に「台車用塗料」と称する場合がある。)について説明する。
本実施形態にかかる台車用塗料は、少なくとも樹脂及び溶剤を含み、必要に応じて、その他の成分が含まれる。
【0016】
また、本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜は、(1)アルカリ溶解性、(2)耐水性及び(3)切断時伸び(柔軟性)の各物性について、所定の特性を有している。本実施形態にかかる台車用塗料によれば、形成される塗膜がアルカリ洗浄液に対する溶解性が良好であるため、アルカリ洗浄液で洗浄するだけで塗膜が除去でき、塗膜除去作業が容易な塗膜を形成することができる。
【0017】
以下、まず本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜の特性について説明し、次いで、本実施形態にかかる台車用塗料の構成成分について説明する。
【0018】
[塗膜の特性]
(1)アルカリ溶解性
本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜は、2.5×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性を示す。
【0019】
塗膜のアルカリ溶解性は、具体的には、本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜に対して、2.5×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(1.0質量%溶液)を滴下し、所定時間後に拭き取って、塗膜の状態を確認すればよい(以下、当該試験を「アルカリ溶解性試験(塗膜)」と称する。)。
【0020】
試験対象の塗料を塗布する基材としては、実際の塗布対象と同様の材料を用いてもよいし、いわゆるテストピースを用いても構わない。テストピースとしては、一般的な冷間圧延鋼板のSPCC板を用いればよい。特にブライト表面のSPCC-SB板を用いる場合には、♯100~♯300程度のサンドペーパーで塗布対象面を研磨し、トルエン等の溶剤で清浄にしてから塗料を塗布することが好ましい。
【0021】
基材への塗料の塗布方法としては、特に制限はなく、刷毛塗り、ローラ塗り、スプレー塗布、浸漬塗布、その他公知の塗布方法で塗布すればよい。塗膜の厚みについても制限はないが、なるべく同程度の厚み(例えば、0.1~0.5kg/m2)にすることが好ましい。また、膜厚を確保するために、例えば2度塗り等の複数回塗りすることができる。試験に供する塗膜は、十分に乾いていることが望ましい(後述する他の各種試験においても同様)。
【0022】
アルカリ溶解性試験(塗膜)において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度以外、厳密な条件はないが、試験環境は23℃前後(例えば、23±2℃)とすることが好ましい。湿度は、特に制限はないが、高低あまり極端ではないことが望ましく、例えば、50±30%Rh程度の範囲内にすることが好ましい。
【0023】
塗膜への水酸化ナトリウム水溶液の滴下後の静置時間としては、実際に鉄道車両の台車をアルカリ洗浄する時間を考慮した時間にすればよく、具体的には例えば15分であり、10分が好ましく、5分がより好ましい。即ち、例えば静置時間15分であれば、15分静置後の塗膜が溶解していれば、それは当該塗膜がアルカリ溶解性を示していることを意味する。
【0024】
水酸化ナトリウム水溶液を滴下した箇所がどのような状態になっていれば「溶解した」と判定できるかについては、目標とする溶解状態にもよるが、塗膜への接液だけで判断していることから、塗膜の表層が剥がれる程度でも十分なアルカリ溶解性と云える。さらに基材が部分的に露出する程度に剥がれればより好ましく、滴下した箇所の全域が露出する程度に剥がれればさらに好ましい。
【0025】
(2)耐水性
本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜は、水への浸漬による耐水性試験で耐水性を有する。
【0026】
塗膜の耐水性試験は、具体的には、本実施形態にかかる台車用塗料により塗膜が形成された供試材を水(水道水、地下水、脱イオン水、純水の何れでも構わない。)に浸漬させ、所定時間後に引き上げ、水滴が無くなるまで自然乾燥させてから、塗膜の状態を確認すればよい(以下、当該試験を「耐水性試験(塗膜)」と称する。)。
【0027】
耐水性試験(塗膜)において、試験対象の塗料を塗布する基材、及び、当該基材への塗料の塗布方法は、アルカリ溶解性試験(塗膜)で説明したものと同様である。また、耐水性試験(塗膜)において、試験環境についても、温度、湿度ともにアルカリ溶解性試験(塗膜)で説明した内容と同様である。
【0028】
供試材を水に浸漬する際に、供試材の下半分を浸漬し、上半分は水面から露出した状態にすることが促進試験になるため好ましい。供試材を水に浸漬させてからの静置時間としては、ある程度十分な時間を取ることが好ましく、例えば24時間、好ましくは4日間とすればよい。
【0029】
耐水性試験(塗膜)後の塗膜がどのような状態になっていれば「耐水性を有する」と判定できるか(耐水性の指標)は、塗膜にフクレ、割れ、剥がれがほとんど見られない程度以上であればよく、これらが全く見られない状態であることが好ましい。
【0030】
(3)切断時伸び
本実施形態にかかる台車用塗料により形成された塗膜は、当該塗膜によるダンベル状1号型の試験片を用い、JIS K6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に規定される方法に準拠した切断時伸びの結果が5%以上であり、8%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0031】
より具体的には、JIS K6251に準拠(試験室の温度:23±2℃環境下)して、本実施形態にかかる台車用塗料により適当な機材の表面に塗膜を形成し、形成された塗膜を基材から剥がし取ってダンベル状1号型の試験片を作製した上で、当該試験片の切断時伸び(以下、単に「切断時伸び(塗膜)」と称する。)を測定すればよい。
【0032】
試験対象の塗料を塗布する基材としては、後に剥離して試験片を得ることから、どのような材料の板を用いても構わない。ただし、塗膜の剥離性を向上させるために、塗布対象面に剥離剤を塗布しておくことが好ましい。
【0033】
基材への塗料の塗布方法としては、特に制限はなく、なるべく均一な塗膜が形成される方法を採用することが好ましい。そのため、例えば、基材の表面に塗料を流し込んで、ヘラなどを用いて均し、なるべく泡が入らないように気を付けて均一に塗布することが好ましい。
【0034】
切断時伸び(塗膜)において、形成する塗膜の厚みとしては、0.4~0.7mm(目標値0.6mm)にすることが好ましい。また、膜厚を確保するために、例えば2度塗り等の複数回塗りをしても構わない。塗布後の塗膜は、ある程度乾燥させた後に剥がし取り、JIS K6251に準拠したダンベル状1号型の試験片の形状に切り出す(ダンベルカットする)。
【0035】
切断時伸び(塗膜)の試験に供する試験片は、塗膜が十分に乾いていることが望ましいため、剥離前の乾燥に加えて、剥離後に裏返して基材に張り付いていた面を上にして追加の乾燥を行うことが好ましい。剥離前後の乾燥は、室温環境に長時間静置しておいても構わないが、乾燥を促進するために、ある程度高温状態にしておくことが好ましい。このときの乾燥温度としては、30℃~50℃程度の範囲内であることが好ましい。ただし、塗布直後の塗膜の状態を安定させるために、塗布後一定時間(例えば1日間)は常温で静置しておいてから高温状態にすることが好ましい。
【0036】
ダンベルカットした供試体について、日本産業規格JIS K6251に規定された試験方法、条件等に準拠して引張試験を行い、切断時伸びの測定を行えばよい。
【0037】
[台車用塗料の構成成分]
<樹脂>
本実施形態にかかる台車用塗料に含まれる樹脂は、形成された塗膜が、既述の特性((1)アルカリ溶解性、(2)耐水性及び(3)切断時伸び(柔軟性))を満たすように分子構造が設計されたものを用いる。例えば、樹脂の分子構造を適切に制御して、所定のアルカリ溶解性を確保させつつ必要な耐水性を維持し、かつ、柔軟性を付与するように分子設計すればよい。
【0038】
樹脂にアルカリ溶解性を持たせるためには、何らかの変性処理を施せばよい。具体的には、例えば、アルカリ中の水酸化物イオンによってイオン化が促進される官能基を樹脂の主鎖及び/または側鎖に結合させる変性処理が挙げられる。このとき、水酸化物イオンによる反応前の樹脂が疎水性を示していて、反応後に官能基のイオン化が促進されることによって親水性となり、アルカリ水溶液中の水分に溶解するようになる。
【0039】
水酸化物イオンによってイオン化が促進される官能基としては、例えば、無水マレイン酸基、カルボン酸(カルボキシ)基、リン酸基、硫酸(スルホン酸)基、硝酸基、ヒドロキシ基等を挙げることができる。なお、アルカリに対する反応機構としては、上記例に限定されるものではなく、既述の如きアルカリ溶解性を示す樹脂であれば、本実施形態において樹脂として用いることができる。
【0040】
本実施形態における樹脂としては、アルカリに対する溶解性は望まれるものの、既述の如く、水に対しては溶解しない耐水性を有することが要求される。そのため、耐水性を損なうことによって樹脂にアルカリ溶解性を持たせる手法は、本実施形態において適切ではない。
【0041】
樹脂に柔軟性を持たせるためには、架橋密度が低く、柔軟性の高い分子構造を導入すればよい。例えば鎖長の大きいアルキル鎖やエーテル鎖を分子構造に含むことで柔軟性を持たせることができる。また、アクリル樹脂であれば、側鎖に一定の鎖長を持つアルキル鎖を導入することで樹脂に柔軟性を持たせることができ、ウレタン樹脂であれば、主鎖に鎖長の長いポリエステルやポリエーテル鎖を使用することで樹脂に柔軟性を持たせることができる。
【0042】
本実施形態において、好ましい樹脂としては、特に制限は無いが、例えば、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができるが、塗膜の耐久性や耐候性、製造にかかるコスト、設計の自由度等を考慮すると、アクリル系樹脂が好ましい。
【0043】
本実施形態において使用可能なアクリル系樹脂とは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル等のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂であり、アルカリ溶解性を付与する等の目的で、各種変性処理が施されていても構わない。
【0044】
本実施形態にかかる台車用塗料に含まれる樹脂としては、以上の如く1種の樹脂で既述の特性((1)アルカリ溶解性、(2)耐水性及び(3)切断時伸び(柔軟性))を満たすように構造を設計しても構わないが、特性の異なる2種の樹脂を混合することで所望とする特性を達成するようにしても構わない。2種の樹脂に機能分離させてこれを混合することで所望とする特性を達成できれば、複雑な分子設計及び反応制御を必要としない点で好ましい。
【0045】
既述の特性を満たす2種の樹脂としては、アルカリ溶解性を示す第1の樹脂と、アルカリ非溶解性を示し、かつ、柔軟性を有する第2の樹脂であり、これらを混合することで、本実施形態にかかる台車用塗料中の樹脂として用いることができる。以下、これら第1の樹脂及び第2の樹脂の詳細について説明する。
【0046】
(第1の樹脂)
本実施形態にかかる台車用塗料に用いられる第1の樹脂は、アルカリ溶液に対する溶解性を示すものである。樹脂として第1の樹脂を含むことで、当該樹脂成分のアルカリ溶解性に基づいて、形成される塗膜にアルカリ洗浄液に対する溶解性が付与される。
【0047】
本実施形態において、第1の樹脂のアルカリ溶解性の程度としては、例えば、第1の樹脂単独の乾燥固形物が、どの程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液によって溶解するかを実際に試験(以下、当該試験を「アルカリ溶解性試験(樹脂単独)」と称する。)することで、当該試験結果を指標とすることができる。ここで、「樹脂単独の乾燥固形物」とは、樹脂として配合する単独の樹脂成分のみで乾燥硬化させて固形物を得た際の当該固形物を指し、連続膜であるか否かを問わない(以下、同表現において同様。)。
【0048】
即ち、アルカリ溶解性試験(樹脂単独)の供試体としての「樹脂単独の乾燥固形物」は、樹脂成分を乾燥させた固形物であれば、例えば、粒子状、塊状、ブロック状等塗膜状以外の形状であっても構わない。塗膜状に乾燥硬化させた固形物は、そのまま供試体として取り扱うことも、剥がした膜片を供試体として取り扱うこともできる点で、取り扱い性が良好である。
【0049】
なお、樹脂のアルカリ溶解性に影響を与えない程度の造膜助剤(成膜剤、可塑剤等ともいう)や増粘剤を添加した上で成膜させた乾燥固形物をアルカリ溶解性試験の供試体とすることができる(以上の供試体に関する取り扱いは、後述する第2の樹脂においても同様である)。
【0050】
アルカリ溶解性試験(樹脂単独)に使用する水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、例えば、1.0×10-4mol/L、1.0×10-3mol/L、1.0×10-2mol/Lといった濃度を例示することができる。これら濃度から選択した水酸化ナトリウム水溶液に供試体を所定時間浸漬し、供試体の溶解状況を確認することでアルカリ溶解性を確認することができる。
【0051】
本実施形態における第1の樹脂のアルカリ溶解性としては、濃度が1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解性を示す程度であることが、アルカリ溶解性を示す基準条件として望まれるが、1.0×10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解性を示すことが好ましく、1.0×10-4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解性を示すことがより好ましい。
【0052】
アルカリ溶解性試験(樹脂単独)において、供試体を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して放置しておく時間としては、少なくとも3時間程度以上が望まれるが、1日(24時間)浸漬放置後に確認することが好ましく、5日間浸漬放置後に確認することがより好ましい。
なお、アルカリ溶解性試験の試験環境としては、温度が一定であることが望ましく、例えば、常温(23±2℃)に設定して試験を行えばよい。
【0053】
樹脂にアルカリ溶解性を持たせる方法としては、1種の樹脂でアルカリ溶解性を持たせる方法として挙げた手法(樹脂の変性)をそのまま適用することができる。なお、アルカリに対する反応機構としては、1種の樹脂で既述の特性を満たす上記例に限定されるものではなく、既述の如きアルカリ溶解性を示す樹脂であれば、本実施形態において第1の樹脂として用いることができる。
【0054】
本実施形態における第1の樹脂としては、アルカリに対する溶解性は望まれるものの、水に対しては溶解しない耐水性を有することが望まれる。具体的には、例えば、アルカリ溶解性試験(樹脂単独)の供試体として用いた「樹脂単独の乾燥固形物」と同じ供試体を用い、既述の耐水性試験(塗膜)と同様の試験方法によって同様の指標で耐水性を備えることが望ましい(以下、当該試験を「耐水性試験(樹脂単独)」と称する。)。
【0055】
本実施形態において、第1の樹脂に好ましい樹脂としては、特に制限は無く、1種の樹脂で既述の特性を満たす樹脂の例として挙げた物を用いることができ、好ましい物として挙げた物が同様に好ましい。
【0056】
(第2の樹脂)
本実施形態にかかる台車用塗料に用いられる第2の樹脂は、アルカリ非溶解性を示し、かつ、柔軟性を有するものである。樹脂として第2の樹脂を含むことで、当該樹脂成分が有する柔軟性に基づいて、形成される塗膜に柔軟性が付与され、塗膜全体としての成膜性と耐久性が向上する。
【0057】
本実施形態において、第2の樹脂のアルカリ溶解性の程度としては、例えば、第2の樹脂単独の乾燥固形物が、どの程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液によっても溶解しないかを実際に試験(即ち、第1の樹脂における「アルカリ溶解性試験(樹脂単独)」と同様であって、評価指標が異なるもの。以下、「アルカリ非溶解性試験」と称する。)することで、当該試験結果を指標とすることができる。
【0058】
アルカリ非溶解性試験に使用する水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、例えば、1.0×10-2mol/L、1.0×10-1mol/Lといった濃度を例示することができる。これら濃度から選択した水酸化ナトリウム水溶液に供試体を所定時間浸漬し、供試体の溶解状況を確認することでアルカリ非溶解性を確認することができる。
【0059】
濃度が1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対しても溶解しない性質を示す程度であることが、アルカリ非溶解性を示す基準条件として望まれるが、1.0×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解しない性質を示すことが好ましい。
【0060】
アルカリ非溶解性試験において、供試体を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して放置しておく時間や試験環境については、第1の樹脂における「アルカリ溶解性試験(樹脂単独)」と同様である。したがって、アルカリ溶解性試験(樹脂単独)とアルカリ非溶解性試験とは、同一の水酸化ナトリウム水溶液を用いて同時に実施することができる。
【0061】
ただし、浸漬する水酸化ナトリウム水溶液の濃度が同じであっても、試験ごとに容器を分けて行うことが望ましい。なお、第1の樹脂の項で説明した耐水性試験(樹脂単独)も、これらと同時に実施することができる。以下、同時に実施する場合のアルカリ溶解性試験(樹脂単独)、アルカリ非溶解性試験及び耐水性試験(樹脂単独)について、まとめて「樹脂の耐水・耐アルカリ試験」と称する。
【0062】
樹脂にアルカリ非溶解性を持たせるためには、樹脂骨格自体が元々耐アルカリ性を備えた樹脂をそのまま用いればよく、例えば、第1の樹脂において、アルカリ溶解性を持たせるために変性処理した樹脂と同種の樹脂を変性処理せずに用いることが挙げられる。
【0063】
第1の樹脂は、アルカリ溶解性を持たせるための変性処理等の樹脂の加工の影響で、樹脂の柔軟性が不十分となりやすく、また、柔軟性を持たせる加工を施すことが困難となる場合がある。柔軟性が不十分な第1の樹脂のみで塗膜を形成しようとすると、成膜性が不十分となりやすく、仮に塗膜が形成できたとしても脆い塗膜になりやすい。脆い塗膜は、被塗装面に追随しづらく、塗膜の耐久性に劣ったものとなる。
【0064】
本実施形態においては、アルカリ非溶解性を示すとともに、柔軟性を有する第2の樹脂を第1の樹脂と併用している。そのため、形成される塗膜に柔軟性が与えられ、塗料の成膜性と、塗膜の耐久性とが向上する。
【0065】
本実施形態における第2の樹脂の柔軟性の程度としては、例えば、第2の樹脂単独の乾燥固形物の柔軟性をJIS K6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に規定される方法に準拠して試験することで、当該試験結果を指標とすることができる。
【0066】
より具体的には、例えば、JIS K6251に準拠(試験室の温度:23±2℃環境下)して、第2の樹脂単独の乾燥固形物によって得たダンベル状1号型の試験片の切断時伸びを測定すればよい。当該試験方法は、供試体が第2の樹脂単独の乾燥固形物であることを除き、塗膜の特性の項で説明した「切断時伸び(塗膜)」と同様である(以下、単に「切断時伸び(第2の樹脂単独)」と称する。)。
【0067】
なお、樹脂の柔軟性に影響を与えない程度の量(例えば、0.5質量%以下程度)の成膜剤や増粘剤を添加した上で成膜させた乾燥固形物を切断時伸び試験の供試体とすることができる。また、供試体(ダンベル状1号型の試験片)の厚みは、例えば、0.4~0.7mm(目標値0.6mm)とすればよい。
【0068】
本実施形態において、切断時伸び(第2の樹脂単独)としては、200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましい。
【0069】
本実施形態における第2の樹脂の柔軟性の程度としては、その他、例えば、第2の樹脂のガラス転移点(Tg)を指標とすることもできる。本実施形態において、第2の樹脂のガラス転移点(Tg)としては、10℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。
【0070】
樹脂に柔軟性を持たせる方法としては、1種の樹脂で柔軟性を持たせる方法として挙げた手法をそのまま適用することができる。また、本実施形態において、第2の樹脂に好ましい樹脂としては、特に制限は無いが、1種の樹脂で既述の特性を満たす樹脂の例として挙げた物と同様のものを例示することができる。第1の樹脂との相溶性や成膜性等を考慮すると、第1の樹脂と同様乃至近似した構造の樹脂が好ましく、第1の樹脂と第2の樹脂が何れもアクリル系樹脂であることが特に好ましい。
【0071】
本実施形態において、第1の樹脂と第2の樹脂との質量比としては、一概には定めることはできず、各樹脂のアルカリ溶解性やアルカリ非溶解性の程度、成膜性、柔軟性等を考慮しつつ、求める特性や成膜性等に応じて適宜定めればよい。具体的には、第1の樹脂と前記第2の樹脂と合計に対する前記第1の樹脂の割合が、20~70質量%の範囲内であることが好ましく、30~60質量%の範囲内であることがより好ましい。第1の樹脂と第2の樹脂との質量比を好ましい範囲内にすることで、各種特性のバランスが採れた塗料乃至塗膜を得ることができる。
【0072】
本実施形態にかかる台車用塗料における樹脂としては、上記の1種の樹脂で既述の特性を満たす樹脂、第1の樹脂及び第2の樹脂のそれぞれの例として挙げた樹脂の他、何れにも該当しないその他の樹脂を含んでいても構わない。ただし、その他の樹脂としては、本実施形態に特有の性質への影響ができるだけ及ばない含有量であることが好ましく、例えば、樹脂全体に対して10質量%以下にすることが望まれ、5質量%以下にすることが好ましい。
【0073】
本実施形態にかかる台車用塗料において、当該塗料の固形分(樹脂の他、後述する顔料や充填材等、膜形成時に固体として残る成分。加熱残分(NV)。以下同様。)中における全樹脂の割合としては、20質量%~100質量%程度の範囲から選択され、30質量%~70質量%の範囲内であることが好ましく、40質量%~60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0074】
[溶剤]
本実施形態にかかる台車用塗料は、水系塗料であってもよいし、(有機)溶剤系塗料であってもよい。塗料成分として含まれる樹脂成分の性質に基づいて、所望の塗膜特性(アルカリ溶解性及び耐久性)が得られることから、本実施形態にかかる目的の観点からは、塗料としての水系乃至溶剤系の別は問われない。水系乃至溶剤系は、低VOC化、速乾性、塗料安定性等の要求に鑑みて、適宜選択すればよい。
【0075】
本実施形態にかかる台車用塗料が水系塗料である場合には、溶剤として水が用いられ、本実施形態にかかる台車用塗料が溶剤系塗料である場合には、溶剤として有機溶剤が用いられる。
【0076】
(水系塗料である場合)
本実施形態にかかる台車用塗料が水系塗料である場合には、溶剤としての水と樹脂とでエマルションを構成している。水中に樹脂を分散させてエマルションとするために、界面活性剤等の分散剤を適宜添加することが好ましい。
【0077】
本実施形態にかかる台車用塗料が水系塗料である場合の当該塗料中の固形分の割合としては、20質量%~100質量%程度の範囲から選択され、30質量%~70質量%の範囲内であることが好ましく、40質量%~60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0078】
(溶剤系塗料である場合)
本実施形態にかかる台車用塗料が溶剤系塗料である場合の有機溶剤としては、特に制限はなく、従来より塗料の溶剤としても用いられてきた有機溶剤を何れも用いることができる。本実施形態においては、例えば、アルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系、芳香族炭化水素等の有機溶剤をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して、使用することができる。
【0079】
本実施形態にかかる台車用塗料が溶剤系塗料である場合の当該塗料中の固形分の割合としては、20質量%~100質量%程度の範囲から選択され、30質量%~70質量%の範囲内であることが好ましく、40質量%~60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0080】
[その他の成分]
本実施形態にかかる台車用塗料には、樹脂及び溶剤の他に、顔料や各種添加剤が適宜配合される。
【0081】
(顔料)
本実施形態にかかる台車用塗料に含まれる顔料としては、特に制限はなく、塗料に一般的に使用されている顔料を用いることができ。具体的に使用可能な顔料としては、例えば、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料や、アゾ顔料やフタロシアニン顔料等の有機顔料などの各種着色顔料、炭酸カルシウム、タルク、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料、及び、防錆顔料を挙げることができる。
【0082】
顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、塗料の固形分中における顔料の割合としては、0質量%~80質量%程度の範囲から選択され、30質量%~70質量%の範囲内であることが好ましく、40質量%~60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0083】
[各種添加剤]
本実施形態にかかる台車用塗料には、塗装作業性、着色、塗料物性及び塗膜物性等を向上させる目的で、各種添加剤を適宜選択し、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0084】
本実施形態において添加可能な添加剤としては、例えば、塗料に一般的に使用されている分散剤、湿潤剤、沈殿防止剤、消泡剤、凍結防止剤、防腐剤、防錆剤、表面調整剤、増粘剤及び造膜助剤(成膜剤、可塑剤)等を挙げることができる。
本実施形態において添加剤の含有量としては、添加剤の添加目的を達成する範囲で添加するものであり、特に限定されるものではない。
【0085】
以上説明した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の鉄道車両の台車用塗料の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例0086】
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
<樹脂の耐水・耐アルカリ試験>
(1)樹脂の用意
種類の異なる4つの樹脂(エマルション)、樹脂A、樹脂B、樹脂C及び樹脂Dを用意した。用意した樹脂は、何れもアクリル系樹脂である。材料メーカーからの情報によると、樹脂B、樹脂C及び樹脂Dはアルカリ溶解性を有し、樹脂Aはアルカリ非溶解性を有する。なお、これらの樹脂は、他の試験においても適宜用いた。
【0088】
(2)供試体の作製
用意した樹脂A~樹脂Dをそれぞれテストピース(折曲ブリキ、200mm×300mm、ユタカパネルサービス製)の表面に直径が5cm程度あるいはそれ以上になるように直接滴下し、温度23℃・湿度50%の環境で1日養生後、温度を40℃に上げてさらに1日養生して、樹脂A~樹脂Dのそれぞれの乾燥固形物が付着したテストピースを得た。それぞれのテストピースから樹脂膜片を剥がし取り(脱型し)、細かく割れた破片はそのまま、大きな破片や膜状のままの樹脂膜片は必要に応じて3mm角程度に切り分けフレーク状にして、供試体A~供試体Dとした。なお、樹脂膜片は、何れも無色透明であった。
【0089】
(3)水酸化ナトリウム水溶液の調製
以下に示す各操作を行うことで、各濃度(0.0mol/Lを含む。)の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
【0090】
(操作1)
まず、500mLの容器に水酸化ナトリウム(顆粒)を2.0g入れた後、500mLの水道水を加え、これを水酸化ナトリウムの溶け残りが無くなるまでよく振とう攪拌した。得られた水酸化ナトリウム水溶液は、濃度が1.0×10-1mol/Lのものである。
【0091】
(操作2)
操作1で得られた1.0×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液から50mLを採取して、操作1で用いた500mLの容器と同様で別の容器に移した後、水道水を加えて全量を500mLとし、これをよく振とう攪拌した。得られた水酸化ナトリウム水溶液は、濃度が1.0×10-2mol/Lのものである。
【0092】
(操作3)
操作2で得られた1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、操作2と同様の操作を繰り返して、濃度が1.0×10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0093】
(操作4)
操作3で得られた1.0×10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、操作2と同様の操作を繰り返して、濃度が1.0×10-4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0094】
(操作5)
操作1~操作4で用いた500mLの容器と同様で別の容器に500mLの水道水を入れて、耐水性試験に用いる水(水酸化ナトリウム水溶液の濃度が0.0mol/L)とした。
【0095】
(4)試験方法及び結果
計20本のサンプル管(アズワン(株)製ラボランスクリュー管瓶No.8)を用意した。供試体A~供試体Dをそれぞれ5つずつ0.10±0.01g量り取り、用意した別々のサンプル管に入れて、既述の5種類の濃度(0.0mol/Lを含む。)の水酸化ナトリウム水溶液を加えた。
【0096】
その後、攪拌することなくそのまま、23℃の環境で静置し、浸漬から1日後、並びに同5日後の樹脂膜片の状態を目視にて確認した。結果を下記表1に示す。なお、評価基準は以下の通りである。
【0097】
(評価基準)
◎:完全に溶解した。
○:完全には溶解していないが、溶解自体はしていて樹脂膜片の原型が無くなっている。
△:樹脂膜片は残っているが、明らかな白化や軽度の形状変化が見られる。
×:全く溶解しておらず、樹脂膜片の形状にも変化が見られない。
【0098】
【0099】
(5)試験結果の考察
表1に示されるように、樹脂B、樹脂C及び樹脂Dは、1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により、1日及び5日の何れの浸漬日数でも樹脂膜片の原型が無くなるほどに溶解しており、アルカリ溶解性を示す樹脂であると言える。これに対して、樹脂Aは、1.0×10-2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により、1日及び5日の何れの浸漬日数でも樹脂膜片が全く溶解しておらず、形状にも変化が見られないため、アルカリ非溶解性を示す樹脂であると言える。
【0100】
一方、樹脂A及び樹脂Bは、水に1日や5日浸漬させたとしても全く溶解せず、白化もしないことから耐水性を有すると言える。また、樹脂C及び樹脂Dは、水に1日あるいは5日浸漬させたところ、樹脂膜片が明らかに白化しているため、樹脂A及び樹脂Bに比べると耐水性に劣るが、樹脂膜片は残っているため耐水性を有すると言える。
【0101】
<第2の樹脂の切断時伸び試験>
樹脂の耐水・耐アルカリ試験の項において用意した樹脂A(第2の樹脂)について、日本産業規格JIS K6251に準拠して引張試験を行い、切断時伸びを測定した。
【0102】
(1)試験用の樹脂の下準備
用意した樹脂Aに対して、0.4質量%の増粘剤を添加した(樹脂Aのみで成膜しようとしたところ、うまく造膜しなかった(乾燥時の応力でヒビが生じた)ため増粘剤を微量添加した。)。その後、2200回転/分(rpm)で3分間遠心分離を行い、脱泡させた。
【0103】
(2)供試用試験片の作製
テストピース(折曲ブリキ、200mm×300mm、ユタカパネルサービス製)の表面に、剥離剤を刷毛塗りにて塗布した。剥離剤が塗布されたテストピースの表面の中央に下準備した樹脂Aを流し込み、もみじベラを用いて均し、なるべく泡が入らないように気を付けて均一に塗布した(このとき、乾燥時の目標膜厚を0.6mmとした。)。
【0104】
塗布後のテストピースをそのまま温度23℃・湿度50%の環境で24時間養生し、温度を40℃に上げて塗膜内部が乾燥するまでさらに(1日程度)養生した。その後、テストピースから樹脂膜片を剥がし取り(脱型し)、塗膜を裏返してさらに40℃の環境で1日間養生し、供試用の塗膜を得た。得られた塗膜について、日本産業規格JIS K6251に規定されたダンベル状1号型の形状にダンベルカットして、供試用の試験片9枚を得た。
【0105】
(3)試験方法及び結果
得られた試験片(n=3)について、日本産業規格JIS K6251に準拠して引張試験を行い、切断時伸び(第2の樹脂単独)の測定を行った。結果を下記表2に示す。なお、試験条件は、以下に示す通りである。
【0106】
(試験条件)
・試験機器:(株)島津製作所製精密万能試験機「オートグラフAG25TB型」
・ロードセル:1kN
・引張速度:200mm/min
・つかみ間距離:60mm
・測定温度:-20℃、5℃、23℃
・試験片の膜厚測定:試験片の平行部分の中央部とその両端部の計3箇所の膜厚を測定し、中央値を当該試験片の膜厚とした。
【0107】
【0108】
(4)試験結果の考察
表2に示されるように、樹脂Aは、標準温度である23℃環境下で切断時伸び(第2の樹脂単独)が350%を超えており、高い柔軟性を有していることがわかる。
【0109】
<台車用塗料の調製>
(実施例1)
下記表3に示す配合で混合し、良く撹拌した後、2200回転/分(rpm)で3分間遠心分離を行って脱泡させ、実施例1の台車用塗料を調製した。
【0110】
【0111】
なお、エマルションである樹脂Bの固形分濃度は40.2質量%、同様に樹脂Aの固形分濃度は45.0質量%なので、実施例1における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は1:1(≒40.2×30.2:45.0×27.0)となっている。
【0112】
(実施例2)
実施例1において、樹脂Aの配合割合を35.8質量%、樹脂Bの配合割合を21.4質量%に変えたことを除き、実施例1と同じ配合で実施例2の台車用塗料を調製した。なお、実施例2における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は3:2(≒40.2×35.8:45.0×21.4)となっている。
【0113】
(実施例3)
実施例1において、樹脂Aの配合割合を39.5質量%、樹脂Bの配合割合を17.7質量%に変えたことを除き、実施例1と同じ配合で実施例3の台車用塗料を調製した。なお、実施例3における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は2:1(≒40.2×39.5:45.0×17.7)となっている。
【0114】
(実施例4)
実施例1において、樹脂Aの配合割合を44.1質量%、樹脂Bの配合割合を13.1質量%に変えたことを除き、実施例1と同じ配合で実施例4の台車用塗料を調製した。なお、実施例4における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は3:1(≒40.2×44.1:45.0×13.1)となっている。
【0115】
(実施例5)
実施例1において、樹脂Aの配合割合を15.5質量%、樹脂Bの配合割合を41.7質量%に変えたことを除き、実施例1と同じ配合で実施例5の台車用塗料を調製した。なお、実施例5における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は1:3(≒40.2×15.5:45.0×41.7)となっている。
【0116】
(実施例6)
実施例1において、樹脂Aの配合割合を10.5質量%、樹脂Bの配合割合を46.7質量%に変えたことを除き、実施例1と同じ配合で実施例6の台車用塗料を調製した。なお、実施例6における第1の樹脂(樹脂B)と第2の樹脂(樹脂A)の固形分としての配合比率は1:5(≒40.2×10.5:45.0×46.7)となっている。
【0117】
(比較例1)
実施例1において、樹脂Bを配合せずに、樹脂Aのみを配合した(樹脂Aの配合割合を57.2質量%に変えた)ことを除き、実施例1と同じ配合で比較例1の台車用塗料を調製した。
【0118】
(比較例2)
実施例1において、樹脂Aを配合せずに、樹脂Bのみを配合した(樹脂Bの配合割合を57.2質量%に変えた)ことを除き、実施例1と同じ配合で比較例2の台車用塗料を調製した。
【0119】
<台車用塗料の塗装性及び塗膜性能試験>
(1)試験片の準備
0.8mm×70mm×150mmのSPCC-SB鋼板のテストピースを用意し、#180のサンドペーパーで試験面全面を研磨後、トルエンで洗浄した。
【0120】
(2)台車用塗料の塗布
洗浄液のトルエンが乾燥したのを確認した後、実施例1~6及び比較例1~2の各台車用塗料をそれぞれの試験片の試験面全面に塗布した。塗布は、1回当たりのwet膜重量が0.16kg/m2となるように、刷毛を用いて2回塗りした。
【0121】
塗布後の試験片は、温度23℃、湿度50%に調整された環境に1週間静置して養生した。なお、塗布から数時間して塗膜が乾燥した後、試験片の試験面の塗膜の状態を目視にて観察した(塗膜外観)。また、塗布から4日後に、試験片の試験面の裏面及び小口をコーティング剤でシーリングした。塗膜外観の結果は、後述する引張試験の結果とともに表4にまとめて示す。なお、塗膜外観の評価基準は以下の通りである。
【0122】
(評価基準)
○:塗面が平滑である。
△:塗面に僅かなヒビ、クラック、フクレあるいは凹凸がみられる。
×:塗面にヒビ、クラック、フクレ等が見られ、あるいは凹凸が大きく、塗膜として機能しない。
【0123】
(3)アルカリ溶解性試験(塗膜)
塗布及び養生後の各試験片の試験面(塗膜面)に対して、温度23℃下、水酸化ナトリウム1wt%(2.5×10-1mol/L)水溶液を0.2mL滴下した。水酸化ナトリウム水溶液の計量並びに滴下には、アズワン(株)製「Pipette-GuyII」を用いた。
【0124】
水酸化ナトリウム水溶液の滴下から5分後、10分後及び15分後に、キムワイプにより滴下部分を拭い取って、塗膜の剥離状況を目視で確認した。結果を後述する引張試験の結果とともに表4にまとめて示す。なお、評価基準は以下の通りである。
【0125】
(評価基準)
◎:滴下した部分の基材が全て露出した。
○:滴下した部分の基材が部分的に露出した。
△:塗膜の表層が剥がれた。
×:塗膜がほとんど剥がれなかった。
【0126】
(4)耐水性試験(塗膜)
塗布及び養生後の各試験片を1,000mLポリプロピレン(PP)製のカップに入れ、下半分が浸漬する程度に水道水を注ぎ入れ、試験片の下半分を浸漬させた。試験片の浸漬から24時間後に引き上げ、水滴が無くなるまで自然乾燥させてから、塗膜の状態を観察した。その後、再び試験片の下半分を浸漬させて、その3日後(浸漬通算で4日後)に引き上げ、水滴が無くなるまで自然乾燥させてから、塗膜の状態を観察した。結果を後述する引張試験の結果とともに表4にまとめて示す。なお、評価基準は以下の通りである。
【0127】
(評価基準)
○:塗膜にフクレ、割れ、剥がれが見られなかった。
△:塗膜にフクレ、割れ、剥がれが僅かに見られた。
×:塗膜に明らかなフクレ、割れ、剥がれが確認された。
【0128】
<塗膜の引張試験>
(1)供試用試験片の作製
テストピース(折曲ブリキ、200mm×300mm、ユタカパネルサービス製)の表面に、剥離剤を刷毛塗りにて塗布した。剥離剤が塗布されたテストピースの表面の中央に実施例1~6及び比較例1~2の各台車用塗料を流し込み、もみじベラを用いて均し、なるべく泡が入らないように気を付けて均一に塗布した(このとき、乾燥時の目標膜厚を0.5mmとした。)。
【0129】
塗布後のテストピースを温度23℃・湿度50%の環境で1日養生し、温度を40℃に上げて塗膜内部が乾燥するまでさらに1日養生した。その後、テストピースから樹脂膜片を剥がし取り(脱型し)、塗膜を裏返してさらに40℃の環境で1日間養生し、供試用の塗膜を得た。
【0130】
得られた塗膜について、日本産業規格JIS K6251に規定されたダンベル状1号型の形状にダンベルカットして、供試用の試験片(各実施例・比較例についてn=3)とした。ただし、比較例2の塗膜は造膜性が低く、乾燥時にクラックが生じてしまったため、供試用の試験片を作製することができなかった。
【0131】
(2)試験方法及び結果
得られた各実施例・比較例の試験片について、日本産業規格JIS K6251に準拠して引張試験を行い、切断時伸び(塗膜)の測定を行った。試験条件は、<第2の樹脂の切断時伸び試験>の(3)試験方法及び結果における(試験条件)と同様とした。ただし、測定温度は23℃だけにした。結果を下記表4にまとめて示す。
【0132】
【0133】
<実施例・比較例の結果の考察>
表4に示されるように、実施例1~6の塗膜は、アルカリ溶解性試験(塗膜)の結果が、何れも滴下15分後で滴下した部分の基材が全て露出しており、「2.5×10-1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液により溶解するアルカリ溶解性」を示すことが確認された。
【0134】
また、実施例1~6の塗膜は、耐水性試験(塗膜)の結果が、何れも浸漬24時間後で塗膜にフクレ、割れ、剥がれが見られず、「水への浸漬による耐水性試験で耐水性」を有することが確認された。
【0135】
また、実施例1~6の塗膜は、塗膜の引張試験における切断時伸び(塗膜)の測定結果が最低でも8.0%であり、「ダンベル状1号型の試験片を用い、JIS K6251に準拠した切断時伸びの結果が5%以上である」ことが確認された。
【0136】
実施例1~6の塗料は、塗膜外観も良好であり、アルカリ洗浄液に対する溶解性が良好な塗膜を形成することができることが確認された。したがって、実施例1~6の塗料は、アルカリ洗浄液で洗浄するだけで塗膜が除去できる、即ち塗膜除去作業が容易な鉄道車両の台車用塗料であることが確認された。
【0137】
一方、比較例1の塗膜は、耐水性試験(塗膜)及び切断時伸び(塗膜)の結果は良好であるもののアルカリ溶解性試験(塗膜)の結果が滴下15分後でも塗膜がほとんど剥がれなかったため、アルカリ洗浄液に対する溶解性が不十分であることが確認された。
【0138】
また、比較例2では、塗布後乾燥時にクラックが生じてしまい塗膜自体形成することができなかった。