(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179598
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】粉末状擬似毛髪材
(51)【国際特許分類】
A61K 8/25 20060101AFI20241219BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20241219BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K8/25
A61Q5/00
A61K8/36
A61K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098575
(22)【出願日】2023-06-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.iPhone
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(72)【発明者】
【氏名】篭谷 琴美
(72)【発明者】
【氏名】中村 将行
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸次
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083AB172
4C083AC241
4C083AC242
4C083DD17
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE21
(57)【要約】
【課題】従来の粉末状擬似毛髪材は、薄毛や白髪のカバー力や撥水性が必ずしも十分とはいえない場合があった。そのため、薄毛や白髪のカバー力や撥水性がさらに優れた粉末状擬似毛髪材の開発を求められている。本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、薄毛や白髪のカバー力、撥水性に優れた粉末状擬似毛髪材を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明の粉末状擬似毛髪材はシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有する、粉末状擬似毛髪材。
【請求項2】
前記シランカップリング剤がトリエトキシカプリリルシラン及びパーフルオロオクチルトリエトキシシランの中から選ばれる1以上であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末状擬似毛髪材。
【請求項3】
前記金属石鹸がステアリン酸塩であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末状擬似毛髪材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状擬似毛髪材に関する。特に、人間の頭部における薄毛部分や白髪部分に適用することで頭部の見た目を向上させる粉末状擬似毛髪材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、頭部における薄毛部分や白髪部分を一時的に目立たなくすることを目的として擬似毛髪材が広く使用されている。擬似毛髪材には、顔料等と付着性樹脂が混合された組成物をスプレーして毛髪に付着させて使用するエアゾール状のタイプと、粉末状の擬似毛髪材を毛髪や頭皮に振りかけて使用する粉末状のタイプがある。
【0003】
エアゾール状タイプは、付着性樹脂が混合されているため毛髪に付着しやすいという利点がある。例えば特許文献1、2では、固体微粉末、カーボンブラック、付着性樹脂、揮発性有機溶剤、分散剤、噴射剤を含有する擬似増毛用スプレー組成物が提案されている。
しかし、スプレーとして塗布するため、各部に振りかける擬似毛髪材の量を自分の思い通りに調整することが困難であるという欠点がある。
【0004】
一方、粉末状タイプは、パフ等で粉末状の擬似毛髪材を振りかけることができるため、振りかける擬似毛髪材の量を調整しやすく、適用したい部分に重点的に振りかけることができるという利点がある。このような利点から粉末状の擬似毛髪材に関して多くの提案がなされている。
【0005】
しかしながら、粉末状タイプには、薄毛や白髪のカバー力が弱いという欠点がある。また、撥水性が弱いため、日常生活において雨や汗などにより頭部が濡れることで擬似毛髪材が流れ落ちやすいという欠点もある。
【0006】
この問題を解決するために、酸化亜鉛と、シリコーンにより表面処理された無機顔料とを含有する粉末状擬似毛髪材が開発されている(特許文献3)。特許文献3では、酸化亜鉛を配合することで薄毛や白髪のカバー力や撥水性を向上させ、さらに、無機顔料の表面をシリコーン処理することで撥水性をより向上させている。このように、特許文献3の粉末状擬似毛髪材は、薄毛や白髪のカバー力や撥水性に優れたものであるが、人(薄毛がかなり進行している人や白髪の多い人など)や環境(高い気温で汗をかきやすい環境など)によっては、薄毛や白髪のカバー力や撥水性が必ずしも十分とはいえない場合があった。そのため、薄毛や白髪のカバー力や撥水性がさらに優れた粉末状擬似毛髪材の開発を求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-87145号公報
【特許文献2】特開平9-87146号公報
【特許文献3】特許第7026924号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、薄毛や白髪のカバー力、撥水性に優れた粉末状擬似毛髪材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の粉末状擬似毛髪材はシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の概要は、以下のとおりである。
[1]シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有する、粉末状擬似毛髪材。
[2]前記シランカップリング剤がトリエトキシカプリリルシラン及びパーフルオロオクチルトリエトキシシランの中から選ばれる1以上であることを特徴とする[1]に記載の粉末状擬似毛髪材。
[3]前記金属石鹸がステアリン酸塩であることを特徴とする、[1]に記載の粉末状擬似毛髪材。
[4]前記ステアリン酸塩がステアリン酸マグネシウムであることを特徴とする、[3]に記載の粉末状擬似毛髪材。
[5]前記無機顔料が酸化鉄であることを特徴とする、[1]に記載の粉末状擬似毛髪材。
[6]前記酸化鉄が黒酸化鉄であることを特徴とする、[5]に記載の粉末状擬似毛髪材。
[7]無機顔料の含有量が30質量%以上であることを特徴とする、[1]に記載の粉末状擬似毛髪材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薄毛や白髪のカバー力、撥水性に優れた粉末状擬似毛髪材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の粉末状擬似毛髪材について詳細を説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0013】
1.粉末状擬似毛髪材
本発明の粉末状擬似毛髪材とは、パフ等を用いて、粉末状態で頭髪や頭皮にふりかけて使用する粉末状の擬似毛髪材を意味する。付着性樹脂や溶媒等と固体微粉末を混合した組成物をエアゾールとして頭髪や頭皮に付着させる擬似毛髪材は本発明の粉末状擬似毛髪材に含まれない。
本発明の粉末状擬似毛髪材は、パフ等を用いて頭髪や頭皮にふりかけてそのまま使用することもできるが、頭皮や頭髪にふりかけた後、固着用スプレーを塗布することによって、頭髪や頭皮への付着性をより向上させることができる。
【0014】
本発明の粉末状擬似毛髪材は、必須成分としてシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有する。後述するように、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を含有することで、優れた薄毛や白髪のカバー力や撥水性が発揮される。なお、優れた撥水性が発揮されることにより、日常生活において雨や汗などにより頭部が濡れた場合であっても擬似毛髪材が流れ落ちにくくなるという利点がある。
【0015】
本発明の粉末状擬似毛髪材の平均粒径としては、特に制限されるものではないが、例えば、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。また、20μm未満が好ましく、15μm未満がより好ましく、10μm未満がさらに好ましく、5μm未満が特に好ましい。
【0016】
本発明の粉末状擬似毛髪材には、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料の他に、必要に応じてその他の成分を配合することができる。例えば、防腐剤、ヘアコンディショニング剤、植物由来エキス、動物由来エキス、保湿剤等を含有させてもよい。
【0017】
2.無機顔料
本発明の粉末状擬似毛髪材は、無機顔料を含有する。本発明における無機顔料とは、毛髪を着色させるための着色顔料の他、体質顔料が含まれる。着色顔料としては、例えば、黒酸化鉄、黄酸化鉄、赤酸化鉄(ベンガラ)などの酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。体質顔料としては、例えば、マイカ、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ等が挙げられる。本発明に用いる無機顔料としては特に制限されないが、毛髪に似た外観にしやすい観点から、酸化鉄が特に好ましい。なお、化粧品によく用いられる顔料として有機顔料もあるが、汗や皮脂などに溶解してしまうおそれや、皮膚に吸着してしまい取れなくなるおそれがあるため、粉末状擬似毛髪材に用いる顔料としては適さない。
【0018】
酸化鉄を用いる場合には、黒酸化鉄、黄酸化鉄、赤酸化鉄(ベンガラ)などの中から選ばれるいずれか1つの酸化鉄を用いてもよいし、複数の酸化鉄を混合してもよい。複数の酸化鉄を混合することによって、粉末状擬似毛髪材の色を様々に調整することができる。複数の酸化鉄を混合する場合には調整したい色となるように配合する酸化鉄の種類や配合量を適宜調整すれば良いが、日本人の黒髪に似た外観にしやすい観点から、黒酸化鉄を用いることが好ましい。また、日本人の黒髪に似た外観にしやすい観点から、配合する無機顔料の中で酸化鉄の含有量が最も多いことが好ましく、黒酸化鉄の含有量が最も多いことが特に好ましい。
【0019】
無機顔料の含有量としては適宜変更することが可能であるが、毛髪に似た外観にしやすい観点から、粉末状擬似毛髪材中、無機顔料の含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、粉末状擬似毛髪材には無機顔料以外に少なくともシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上が含まれるため、粉末状擬似毛髪材中、無機顔料の含有量は、99.99質量%未満が好ましく、99.9質量%未満がより好ましく、99.8質量%未満がさらに好ましく、99.5質量%未満が特に好ましい。なお、本願において無機顔料の含有量とは、無機顔料そのものの含有量を意味し、無機顔料の表面処理に用いる成分については含まれない。なお、無機顔料中、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上にて表面処理された無機顔料の割合は特に制限されないが、例えば、10質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。
【0020】
前記無機顔料の平均粒径としては、特に制限されるものではないが、例えば、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。また、20μm未満が好ましく、15μm未満がより好ましく、10μm未満がさらに好ましく、5μm未満が特に好ましい。
【0021】
無機顔料の表面処理
本発明の無機顔料は、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理されていることを特徴とする。特許文献3に記載されるように、粉末状擬似毛髪材に配合する無機顔料を表面処理する場合には、均一性、光沢、ツヤ感、手触りのなめらかさ、撥水性を向上させる観点から、シリコーン処理することがこれまでは一般的であった。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理した無機顔料を用いた場合には、シリコーンで表面処理した無機顔料に比べて薄毛や白髪のカバー力が優れており、撥水性にも優れた粉末状擬似毛髪材を得られることが明らかになった。なお、本願においては無機顔料の表面処理に用いる成分(シランカップリング剤など)のことを表面処理剤ともいう。
【0022】
本発明の表面処理された無機顔料としては、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上を用いて表面処理されていればいかなるものであってもよく、例えば、市販される原料を用いることができる。本発明においては、シランカップリング剤及び/又は金属石鹸のみではなく、それらを他の表面処理剤と混合して表面処理した無機顔料を用いてもよい。
【0023】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤とは、その分子中に無機材料と化学結合する無機反応性基と、有機材料と化学結合する有機反応性基の2種以上の異なった反応性基を有する有機ケイ素化合物を意味する。具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシカプリリルシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン等のアルキルシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン等のフルオロアルコキシシラン、フルオロアルキルシラン;が挙げられる。本発明において無機顔料の表面処理に用いるシランカップリング剤としては特に制限はないが、特に優れた薄毛や白髪のカバー力と撥水性を発揮する観点から、アルキルシラン及びフルオロアルキルシランの中から選ばれる1以上であることが好ましく、トリエトキシカプリリルシラン及びパーフルオロオクチルトリエトキシシランの中から選ばれる1以上であることが特に好ましい。
【0024】
(金属石鹸)
金属石鹸とは、飽和又は不飽和高級脂肪酸と、ナトリウム及びカリウム以外の金属塩を意味する。金属塩を構成する高級脂肪酸としては、例えば、炭素数8~24の飽和又は不飽和高級脂肪酸であってもよく、具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。金属塩を構成する高級脂肪酸としては、特に制限されるものではないが、とりわけ優れた薄毛や白髪のカバー力と撥水性を発揮する観点から、ステアリン酸が特に好ましい。金属石鹸を構成する金属としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛等が挙げられる。金属塩を構成する金属としては、特に制限されるものではないが、とりわけ優れた薄毛や白髪のカバー力と撥水性を発揮する観点から、マグネシウムが特に好ましい。
【0025】
金属石鹸の具体例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸アルミニウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸亜鉛、ジステアリン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、ジミリスチン酸アルミニウム等が挙げられる。本発明に用いる金属石鹸としては、特に制限されるものではないが、とりわけ優れた薄毛や白髪のカバー力と撥水性を発揮する観点から、ステアリン酸塩が特に好ましく、ステアリン酸マグネシウムが最も好ましい。
【0026】
(無機顔料を表面処理する方法)
無機顔料を表面処理する方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることにより表面処理をすることができる。表面処理方法としては、大きく分けて湿式法と乾式法があるが、いずれの方法により表面処理しても、表面処理剤としてシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上を用いることで、本発明の効果を奏する表面処理された無機顔料を得ることができる。
【0027】
湿式法による表面処理としては、溶剤又は水/溶剤用液に無機顔料を分散して、攪拌しながら表面処理剤を添加した後、ろ過及び乾燥を行うことにより表面処理された無機顔料を製造する方法等を挙げられる。より具体的には、例えば、混練機に無機顔料を投入し、混練しながら、シランカップリング剤及び/又は金属石鹸を溶媒に溶かした溶液を添加して混合した後、減圧した状態を、50~80℃にて2~4時間維持することによって溶媒を留去し、その後、混練機から中身を取り出して乾燥機に投入し、80~120℃にて5~10時間乾燥させた後、粉砕機を用いて粉砕することにより、表面処理された無機顔料を製造することができる。
【0028】
乾式法による表面処理としては、表面処理剤をイソパラフィン、イソプロピルアルコールなどの揮発性溶媒に溶解し、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ジェットミル等の攪拌機や粉砕機を用いて無機顔料と混合した後、揮発性溶媒を揮散させることによって表面処理された無機顔料を製造する方法等が挙げられる。必要に応じて、水洗、濾過による夾雑物の除去や、乾燥、粉砕等を行ってもよい。より具体的には、例えば、ヘンシェルミキサーに無機顔料を投入し、シランカップリング剤及び/又は金属石鹸を溶かした溶媒を添加してヘンシェルミキサー内で撹拌混合した後、撹拌をしながら加温し、さらにヘンシェルミキサー内を減圧して溶媒を除去し、ヘンシェルミキサーから中身を取り出して乾燥機に投入し、80~120℃で5~10時間乾燥させた後、粉砕機を用いて粉砕することにより、表面処理された無機顔料を製造することができる。
【0029】
表面処理する際にシランカップリング剤及び/又は金属石鹸を溶かす溶媒としては、特に制限されるものではなく、例えば、石油エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、t-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレンなどの有機溶媒が挙げられ、これらの溶媒の1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
表面処理された無機顔料において、無機顔料と前記表面処理剤の重量比としては、特に制限されるものではないが、例えば、無機顔料100質量部に対して、表面処理剤を0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。また、顔料100質量部に対して、表面処理剤は20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0031】
4.粉末状擬似毛髪材の製造方法
本発明の粉末状擬似毛髪材の製造方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることにより粉末状擬似毛髪材を得ることができる。例えば、上述した方法によって得られたシランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料をそのまま粉末状擬似毛髪材として用いる方法や、当該無機顔料と他の原料をビニール袋等の容器に入れて容器の口を閉じ、上下に振って混合することにより得られた混合物を粉末状擬似毛髪材として用いる方法、当該無機顔料と他の原料とを混合機を用いて混合し、得られた混合物を粉砕機により粉砕した後、篩過することにより得られた粉末を粉末状擬似毛髪材として用いる方法等を挙げられる。量産する場合には、市販の混合機等を用いて製造すること好ましい。
【0032】
5.粉末状擬似毛髪材の使用方法
本発明の粉末状擬似毛髪材は、パフ等を用いて、直接毛髪や頭皮に塗布して使用することができる。塗布する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、パフやブラシに粉末をとり、毛髪や頭皮に粉末状擬似毛髪材を塗布する方法、粉末状擬似毛髪材を充填し、充填部にパフを取り付けた容器のパフ部分を毛髪や頭皮に接触させることにより粉末状擬似毛髪材を塗布する方法が挙げられる。パフが付属した容器を使用すると、塗布したい箇所にポンポンと軽くたたきつけることにより、粉末状擬似毛髪材が少しずつパフ内を通過して出てくることため、所望の量の擬似毛髪材を付与することができ、さらに、適用したい部分に対してより局所的に付与することができる。
【0033】
本発明の粉末状擬似毛髪材を毛髪や頭皮に塗布した後、手で毛髪や頭皮になじませてもよいし、櫛等を用いてなじませてもよい。また、この他にも固着用スプレーを塗布して粉末状擬似毛髪材を落ちにくくしてもよい。
【0034】
上記の中でも、粉末状擬似毛髪材を塗布した後に固着用スプレーを塗布することが好ましい。これにより、付着性をより向上させることができる。本発明の粉末状擬似毛髪材は、白髪などの毛髪にまんべんなく均等に付着するため、固着用スプレーによって固定しやすいという特徴を有する。
【0035】
固着用スプレーにおける固着剤としては、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能であるが、例えば、皮膜形成剤を含む固着用スプレーを用いることができる。皮膜形成剤としては、例えば、(アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマーAMP等が挙げられる。
【実施例0036】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0037】
1.実施例及び比較例の製造
(実施例1)
乾式法により、黒酸化鉄をパーフルオロオクチルトリエトキシシランで表面処理(黒酸化鉄100重量部に対してパーフルオロオクチルトリエトキシシラン2重量部の混合割合にて表面処理)することにより、実施例1の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0038】
(実施例2)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをトリエトキシカプリリルシランに置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、実施例2の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0039】
(実施例3)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをステアリン酸マグネシウムに置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、実施例3の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0040】
(比較例1)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをメチルハイドロゲンポリシロキサン(ハイドロゲンメチコン)に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例1の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0041】
(比較例2)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランを(アクリル酸アルキル/ジメチコン)コポリマーに置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例2の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0042】
(比較例3)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをテトライソステアリン酸ポリグリセリル-2に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例3の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0043】
(比較例4)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランを糖脂質(セラミド様糖脂質)に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例4の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0044】
(比較例5)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをラウロイルグルタミン酸ナトリウム及びリシンの混合物(重量比は7:3)置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例5の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0045】
(比較例6)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをラウロイルリジンに置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例6の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0046】
(比較例7)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをトリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム及び塩化亜鉛の混合物(重量比は100:28:5)に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例7の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0047】
(比較例8)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをメチルポリシロキサン(ジメチコン)に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例8の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0048】
(比較例9)
パーフルオロオクチルトリエトキシシランをメチルポリシロキサン(ジメチコン)及びメチルハイドロゲンポリシロキサン(ハイドロゲンメチコン)の混合物に置き換えた以外は実施例1と同様の方法により、比較例9の粉末状擬似毛髪材を得た。
【0049】
(比較例10)
表面処理を行っていない黒酸化鉄を比較例10の粉末状擬似毛髪材とした。
【0050】
2.白髪カバー力の評価
ア)目視による白髪カバー力の評価試験
以下に記載の方法により、実施例1-3及び比較例1-7の粉末状擬似毛髪材を製造し、白髪カバー力を評価した。
[試験方法]
実施例1~3及び比較例1~7の粉末状擬似毛髪材について、以下の方法により目視による白髪カバー力の評価試験を行った。
まず、実施例又は比較例の粉末状擬似毛髪材を開口部にパフを取り付けた塗布用の容器にそれぞれ5g充填し、パフ部分を白髪の毛束(約10cm、約1g)に接触させることにより、白髪の毛束に対して粉末状擬似毛髪材を100回塗布した(パフ部分が毛束に1回接触したら塗布1回とした)。白髪の毛束全体に擬似毛髪材がまんべんなく付着するように塗布し、比較例及び実施例で塗布した量が統一になるようにした。塗布した量は約30mgであった。塗布後、毛束の根元を人差し指と親指で摘み、左右に10回(左右の振れ幅10cm、一往復で1回とする、速度1回/秒)振ることによって、毛髪にしっかりと付着していない粉末状擬似毛髪材を振り落とした。なお、いずれの実施例及び比較例についても同じ者が作業を行い、全ての実施例と比較例について作業が同じとなるように細心の注意を払った。
【0051】
その後、毛束を白色の紙の上に並べ、振り落とされずに付着している擬似毛髪材が白髪の毛束をまんべんなくカバーできているか(白髪のカバー力)を目視によって評価した。評価については、下記評価基準に基づき、擬似毛髪材の開発に従事する専門のパネラー3名が行った。
【0052】
(目視による白髪カバー力の評価基準)
◎:擬似毛髪材が白髪全体にまんべんなく均等に付着しており、黒髪のように見える
〇:わずかに白髪に見える部分はあるが、擬似毛髪材がおおむね白髪全体にまんべんなく均等に付着しており、白髪が目立たない(許容範囲)
×:白髪に見える部分がかなりあり、白髪が目立つ
【0053】
[試験結果]
以下に評価結果を示す。なお、いずれの実施例及び比較例についても、パネラー3名の評価は同じであった。この結果から、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を用いることにより、優れた白髪カバー力を発揮する粉末状擬似毛髪材を得られることが分かった。
【0054】
【0055】
イ)明度による白髪カバー力の評価試験
実施例1~3及び比較例1、8~10の粉末状擬似毛髪材について、L*a*b*表色系のL*値(明度)に基づき、白髪カバー力を評価する試験を行った。
【0056】
[L*a*b*表色系]
L*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)とは、物体の色を表すのに使用される指標であり、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、色差(色と色との差)を表すのに最も多く用いられている表色系である。
L*a*b*表色系では、L*値が明度を表す。L*値は0から100までの数値にて示され、数値が大きくなるほど明るく(白く)なり、小さくなるほど暗く(黒く)なる。a*値とb*値は色度(色相と彩度)を表す。a*値については、プラス方向になるほど赤みが強くなり、マイナス方向になるほど緑みが強くなる。b*値については、プラス方向になるほど黄みが強くなり、マイナスの方向になるほど青みが強くなる。
【0057】
白髪カバー力については、L*値によって評価することができる。白髪の毛束に粉末状擬似毛髪材(黒色)を塗布した結果、粉末状擬似毛髪材が白髪全体をまんべんなくカバーしているほど、L*値が小さくなるためである。
【0058】
[試験方法]
実施例又は比較例の粉末状擬似毛髪材を開口部にパフを取り付けた塗布用の容器にそれぞれ5g充填し、パフ部分を白髪の毛束(約10cm、約1g)に接触させることにより、白髪の毛束に対して粉末状擬似毛髪材を200回塗布した(パフ部分が毛束に1回接触したら塗布1回とした)。白髪の毛束全体に擬似毛髪材がまんべんなく付着するように塗布し、比較例及び実施例で塗布した量が統一になるようにした。塗布した量は約30mgであった。塗布後、毛束の根元を人差し指と親指で摘み、左右に10回(左右の振れ幅10cm、一往復で1回とする、速度1回/秒)振ることによって、毛髪にしっかりと付着していない粉末状擬似毛髪材を振り落とした。なお、いずれの実施例及び比較例についても同じ者が作業を行い、全ての実施例と比較例について作業が同じとなるように細心の注意を払った。
【0059】
その後、擬似毛髪材を塗布した白髪の毛束について、L*値を測定した。L*値の測定には、色差計(カラーリーダーCR-20、コニカミノルタ株式会社製)を用い、測定条件としては、視野角10°視野、光源D65とした。3回測定して平均値を算出し、以下の評価基準に基づき、白髪カバー力を評価した。
【0060】
(L*値による白髪カバー力の評価基準)
〇:L*値が23未満
×:L*値が23以上
【0061】
[試験結果]
以下に評価結果を示す。この結果から、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を用いることにより、優れた白髪カバー力を発揮する粉末状擬似毛髪材を得られることが、L*値(明度)による評価でも確認された。
【0062】
【0063】
3.撥水性の評価
実施例1~3及び比較例1、8~10の粉末状擬似毛髪材について、水を滴下した際の接触角に基づき、撥水性を評価する試験を行った。
【0064】
[接触角]
接触角とは、静止している液体の表面が、固体の壁面に接触している時に、液面と固体面とのなす角を意味する。表面張力によって定まり、液体が固体面を濡らす場合(ガラス管中の水など)は鋭角、濡らされない場合(ガラス管中の水銀など)は鈍角となる。液体として水を用いた場合には、接触角の大きい(鈍角である)固体ほど水に濡れにくく、撥水性に優れているといえる。
【0065】
[試験方法]
実施例又は比較例の粉末状擬似毛髪材を開口部にパフを取り付けた塗布用の容器にそれぞれ5g充填し、パフ部分をコピー用紙(普通紙、直径5cmの円を描いたもの)に接触させることにより、紙上に描いた円の内側部分に対して粉末状擬似毛髪材を200回塗布した(パフ部分が毛束に1回接触したら塗布1回とした)。円の内側部分に粉末状擬似毛髪材がまんべんなく付着するように塗布し、比較例及び実施例で塗布した量が統一になるようにした。塗布した量は約30mgであった。なお、いずれの実施例及び比較例についても同じ者が作業を行い、全ての実施例と比較例について作業が同じとなるように細心の注意を払った。
【0066】
その後、紙上に描いた円の中心に対して、スポイトを用いて0.1mLの精製水を滴下し、30秒後に側面から画像を撮影した。画像の撮影には、iPhone 8を用いた。撮影した画像データをパソコンに取り込んでPower Point 13(日本マイクロソフト株式会社製)にて開き、背景が透明の分度器画像を使用して接触角を測定した。接触角による撥水性の評価基準は下記のとおりである。
【0067】
(接触角による撥水性の評価基準)
〇:接触角が150度以上
△:接触角が100度以上、150度未満
×:接触角が100度未満
【0068】
[試験結果]
以下に評価結果を示す。この結果から、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を用いることにより、撥水性にも優れた粉末状擬似毛髪材を得られることが分かった。
【0069】
【0070】
4.総括
上述した2及び3の試験により、シランカップリング剤及び金属石鹸の中から選ばれる1以上で表面処理された無機顔料を用いることにより、白髪のカバー力と撥水性の両方に優れた粉末状擬似毛髪材を得られることが分かった。
【0071】
5.粉末状擬似毛髪材の製造
表4に示す各無機顔料を、それぞれ示す表面処理剤を用いて乾式法によって表面処理した。得られた無機顔料を混合機によって混合し、粉砕機により粉砕した後、篩過することにより、実施例4~16の粉末状擬似毛髪材を製造した。得られた粉末状擬似毛髪材はいずれも薄毛や白髪のカバー力及び撥水性に優れたものであった。
【0072】