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特開2024-17966センサーを用いた工作機械監視装置及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017966
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】センサーを用いた工作機械監視装置及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20240201BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20240201BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240201BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/09 G
B23Q17/24 A
B23Q17/12
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120958
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】391021684
【氏名又は名称】菱洋エレクトロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村上 公介
(72)【発明者】
【氏名】安部 仁也
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 瑶
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩
(72)【発明者】
【氏名】原 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 潔
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 龍矢
【テーマコード(参考)】
3C029
3C100
【Fターム(参考)】
3C029CC02
3C029CC10
3C029DD14
3C029DD16
3C029DD20
3C100AA27
3C100AA56
3C100AA57
3C100AA62
3C100BB13
3C100BB19
3C100BB34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】工具の状態を推測できる検出装置の運用をすぐに開始できるような技術を提供する。
【解決手段】交換可能な消耗品である工具を装着し工程を行う工作機械設備において前記工具の状態を推測するための検出装置であって、前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて前記工具の使用期間を設定する初期条件設定手段と、前記初期条件設定手段からの出力に基づいて前記工具に対応する機械学習モデルを選択する選択手段と、選択された機械学習モデルをデプロイする手段と、前記工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサーと、前記センサーから得られる時系列データを複数種のパラメータの組み合わせとして解析して前記工具の使用期間ごとに分割し分割された時系列データを、前記工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成されるデータ解析・入力手段とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交換可能な消耗品である工具を装着し、工程を行う工作機械設備において、前記工具の状態を推測するための検出装置であって、
前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、前記工具の使用期間を設定する初期条件設定手段と、
前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、前記工具に対応する機械学習モデルを選択する選択手段と、
選択された機械学習モデルをデプロイする手段と、
前記工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサーと、
前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して前記工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、前記工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成されるデータ解析・入力手段と
を含む
ことを特徴とする、検出装置。
【請求項2】
前記工具が複数あり、前記工作機械設備が複数種の工程を連続的に行うように構成され、
前記初期条件設定手段が、前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、各工具を使用する順序と使用期間を設定するように構成され、
前記選択手段が、前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、複数の前記工具のそれぞれに対応する機械学習モデルを選択するように構成され、
前記データ解析・入力手段が、前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して各工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、各工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成される
ことを特徴とする、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記センサーが、
前記工作機械設備で行う工程から発生する弾性波を検出するように構成されたアコースティックエミッションセンサー、
前記工作機械設備が装着する工具の状態を視覚的に検出するように構成された画像センサー、
前記工作機械設備で行う工程から発生する振動を検出するように構成された振動センサー、および
前記工作機械設備で行う工程から発生する温度を検出するように構成された温度センサー
からなる群から選択される一種以上を含む
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記センサーが二種以上の組み合わせである、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出装置はさらに、
ネットワークに接続するためのインターフェイス
を含み、
前記選択手段が、前記インターフェイスを介して、外部のサーバに格納されている機械学習モデルを選択するように構成され、
前記データ解析・入力手段が、前記インターフェイスを介して、前記選択手段により選択された機械学習モデルをデプロイするように構成される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項6】
前記インターフェイスを介して、前記データ解析・入力手段により学習させた学習結果データセットを、外部のサーバへアップロードするように構成される、請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記工作機械設備が、マシニングセンタ、射出成形機、プレス機、NC旋盤、又は研磨機である、請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項8】
ネットワークに接続するように構成されるサーバであって、
複数種の機械学習モデルを格納する記憶手段と、
ネットワークを介して、外部の検出装置と接続する通信手段と
を含み、
前記通信手段を介して、
外部の工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、使用期間が設定された工具について、前記工具に対応するように機械学習モデルを選択する信号を受信することと、
選択された機械学習モデルをネットワークを介して送信することと
を行うように構成される
ことを特徴とする、サーバ。
【請求項9】
前記通信手段を介してさらに、
工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサーから得られる時系列データを前記工具の使用期間ごとに分割し、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して、工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることで得られた学習結果データセットを受信すること
を行い、
受信した学習結果データセットを前記記憶手段に格納するように構成される
ことを特徴とする、請求項8に記載のサーバ。
【請求項10】
請求項1に記載の検出装置と、
請求項8に記載のサーバと、
前記検出装置と前記サーバを接続するように構成されるネットワークと
を含む、システム。
【請求項11】
交換可能な消耗品である工具を装着し工程を行う工作機械設備に接続する、プロセッサを有するコンピュータにより実行可能な命令を含んだプログラムであって、
前記命令が前記プロセッサに実行されることにより、
前記プロセッサを用いて、前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、前記工具の使用期間を設定することと、
前記プロセッサを用いて、前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、前記工具に対応する機械学習モデルを選択することと、
前記プロセッサを用いて、選択された機械学習モデルをデプロイすることと、
センサーを用いて、前記工具が行う工程から発生する信号を検出することと、
前記プロセッサを用いて、前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して前記工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、前記工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることと
を行うように構成される
ことを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーを利用した工作機械監視装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械(工作機械設備)には、マシニングセンタやNC旋盤など、消耗品である工具を装着して稼動するタイプのものが多々ある。消耗品の交換タイミングは重要であり、交換が遅れると処理対象製品の精度に悪影響が出てしまう。しかし交換が早すぎても、高価な工具のコストが無為に嵩んでしまう。人間の勘に頼った交換時期の見極めにも限界があり、人手不足が深刻化する現在、属人的では無い技術的な解決手法が求められてきている。
【0003】
例えば特許文献1では、被塑性加工物から所定距離離間した位置に配置され、前記被塑性加工物を塑性加工装置により加工する際に発生し、大気中を伝播したアコースティックエミッションを検出する非接触型アコースティックエミッションセンサと、前記非接触型アコースティックエミッションセンサの検出信号の時間-周波数分析を行う分析部と、前記分析部の分析結果に基づいて、所定の周波数帯域に所定閾値以上の周波数成分が存在する場合に、加工異常が発生したことを検出する診断部とを備える塑性加工異常検出装置が開示されており、センサから取得した信号を時間-周波数マップとして分析することが記載されている。
【0004】
上述したような従来技術ではしかし、下記の問題がある。一般に工作機械は、その設置される場所の環境(気候、気圧・海抜、立地の地盤の性質など)からの影響を受けている。これは微細加工のような精密作業を行う工作機械では特に顕著になる。このため、たとえ同じ型番の工作機械であっても、実際には個々の工作機械ごとに異なる癖を持っていることは、現場では知られている。特許文献1の技術では、着目する周波数帯は検知したい現象に応じて適宜使い分けることが望ましいと記載されているが、これはすなわち個別の工作機械ごとに分析をやり直さなければならないことの言い換えに過ぎない。つまりは現場の人間が個別具体的に分析を最適化して対処しなければならないということであり、結局は属人的な手法であることが否めない。
【0005】
また機械学習を用いて、工作機械の異常検知を行う手法も提案されている。例えば特許文献2では、工作機械の工具に加わる負荷の変動を推定し、前記推定した前記負荷の情報を利用する、センサと情報処理装置とを用いた推定負荷利用方法が開示されており、前記情報処理装置が、前記工具を駆動する装置に取り付けられた前記工具に加わる前記負荷の前記変動を計測する前記センサから得られたデータを特徴量に変換するステップと、前記工具による加工ごとに得られる前記特徴量に対して、前記負荷の前記変動による成分と外乱による変動による成分とを機械学習により推定し、前記加工ごとの前記特徴量のばらつきが従う確率分布または確率密度関数の推移を推定するステップと、前記推定した前記確率分布または前記確率密度関数の推移の結果に基づいて、前記特徴量がとり得る値の確率を算出するステップと、前記確率の値と、予め設定した前記特徴量が正常値とみなせる確率とを比較することにより、前記特徴量の異常検知を行うステップとを含むことを特徴としている。
【0006】
しかし特許文献2では、機械学習モデルをどのように用意し学習させるのかについての示唆は無い。これはすなわち、特許文献2では同じ機械学習モデルがいつも機能するようにしか想定されていない証左である。現場では、上述したように工作機械ごとに個性があるため、そのような都合の良い想定はおよそ現実的とは言えない。つまり結局のところ特許文献2の技術においても、現場で機械学習モデルの整備をするために属人的な作業が必要になってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-052946号公報
【特許文献2】特許第6952318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術の課題に鑑みて、交換可能な消耗品を備える種々の工作機械を使用する実際の現場において、現場に過度の属人的な負担を掛けることなく、その工具の状態を推測できる検出装置の運用をすぐに開始できるような新たな技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明では下記の態様を提供できる。
【0010】
態様1.
交換可能な消耗品である工具を装着し、工程を行う工作機械設備において、前記工具の状態を推測するための検出装置であって、
前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、前記工具の使用期間を設定する初期条件設定手段と、
前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、前記工具に対応する機械学習モデルを選択する選択手段と、
選択された機械学習モデルをデプロイする手段と、
前記工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサーと、
前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して前記工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、前記工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成されるデータ解析・入力手段と
を含む
ことを特徴とする、検出装置。
【0011】
態様2.
前記工具が複数あり、前記工作機械設備が複数種の工程を連続的に行うように構成され、
前記初期条件設定手段が、前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、各工具を使用する順序と使用期間を設定するように構成され、
前記選択手段が、前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、複数の前記工具のそれぞれに対応する機械学習モデルを選択するように構成され、
前記データ解析・入力手段が、前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して各工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、各工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成される
ことを特徴とする、態様1に記載の検出装置。
【0012】
態様3.
前記センサーが、
前記工作機械設備で行う工程から発生する弾性波を検出するように構成されたアコースティックエミッションセンサー、
前記工作機械設備が装着する工具の状態を視覚的に検出するように構成された画像センサー、
前記工作機械設備で行う工程から発生する振動を検出するように構成された振動センサー、および
前記工作機械設備で行う工程から発生する温度を検出するように構成された温度センサー
からなる群から選択される一種以上を含む
ことを特徴とする、態様1又は2に記載の検出装置。
【0013】
態様4.
前記センサーが二種以上の組み合わせである、態様3に記載の検出装置。
【0014】
態様5.
前記検出装置はさらに、
ネットワークに接続するためのインターフェイス
を含み、
前記選択手段が、前記インターフェイスを介して、外部のサーバに格納されている機械学習モデルを選択するように構成され、
前記データ解析・入力手段が、前記インターフェイスを介して、前記選択手段により選択された機械学習モデルをデプロイするように構成される
ことを特徴とする、態様1~4に記載の検出装置。
【0015】
態様6.
前記インターフェイスを介して、前記データ解析・入力手段により学習させた学習結果データセットを、外部のサーバへアップロードするように構成される、態様5に記載の検出装置。
【0016】
態様7.
前記工作機械設備が、マシニングセンタ、射出成形機、プレス機、NC旋盤、又は研磨機である、態様1~6に記載の検出装置。
【0017】
態様8.
ネットワークに接続するように構成されるサーバであって、
複数種の機械学習モデルを格納する記憶手段と、
ネットワークを介して、外部の検出装置と接続する通信手段と
を含み、
前記通信手段を介して、
外部の工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、使用期間が設定された工具について、前記工具に対応するように機械学習モデルを選択する信号を受信することと、
選択された機械学習モデルをネットワークを介して送信することと
を行うように構成される
ことを特徴とする、サーバ。
【0018】
態様9.
前記通信手段を介してさらに、
工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサーから得られる時系列データを前記工具の使用期間ごとに分割し、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して、工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることで得られた学習結果データセットを受信すること
を行い、
受信した学習結果データセットを前記記憶手段に格納するように構成される
ことを特徴とする、態様8に記載のサーバ。
【0019】
態様10.
態様1~7に記載の検出装置と、
態様8~9に記載のサーバと、
前記検出装置と前記サーバを接続するように構成されるネットワークと
を含む、システム。
【0020】
態様11.
交換可能な消耗品である工具を装着し工程を行う工作機械設備に接続する、プロセッサを有するコンピュータにより実行可能な命令を含んだプログラムであって、
前記命令が前記プロセッサに実行されることにより、
前記プロセッサを用いて、前記工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、前記工具の使用期間を設定することと、
前記プロセッサを用いて、前記初期条件設定手段からの出力に基づいて、前記工具に対応する機械学習モデルを選択することと、
前記プロセッサを用いて、選択された機械学習モデルをデプロイすることと、
センサーを用いて、前記工具が行う工程から発生する信号を検出することと、
前記プロセッサを用いて、前記センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して前記工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、前記工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることと
を行うように構成される
ことを特徴とする、プログラム。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、交換可能な消耗品を備える種々の工作機械を使用する実際の現場において、現場に過度の属人的な負担を掛けることなく、その工具の状態を推測できる検出装置の運用をすぐに開始できるという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の或る実施形態に係るシステムの構成例を示す。
図2】本発明の別の実施形態に係るシステムの構成例を示す。
図3】本発明の或る実施形態に係るシステムで得られる時系列データの例を示す。
図4】本発明の或る実施形態に係るシステムで得られる時系列データの別の例を示す。
図5図4の時系列データを用いて得られる相関曲線の例を示す。
図6図4の時系列データを用いて得られる相関曲線の別の例を示す。
図7】複数種の工具を使用する工作機械から得られる時系列データの例を示す。
図8】AEセンサーから得られる時系列データの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の或る実施形態では、交換可能な消耗品である工具を装着して工程を行う工作機械設備において使用できる、工具の状態を推測するための検出装置が提供される。工作機械設備の種類は、工具を装着するタイプであれば特に問わないが、例えばマシニングセンタ、射出成形機、プレス機、NC旋盤、研磨機といったものが挙げられる。
【0024】
図1は、検出装置の例としての検出装置 100 の構成を示すブロック図である。図1の検出装置 100 は主に、工具の使用期間を設定する初期条件設定手段 110 と、工具に対応する機械学習モデルを選択する選択手段 120 と、選択された機械学習モデルをデプロイするデプロイ手段 130 と、工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサー 140 と、工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させるように構成されるデータ解析・入力手段 150 とを含んでいる。検出装置 100 は外部の工作機械 97 と外部のサーバ 99 にもそれぞれネットワークインターフェイス 160 を介して(無線または有線のネットワークを介して)接続可能な構成となっている。検出装置 100 は演算機能を有する演算手段(プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラーなど)を有する端末であってよく、単独の端末であってもよいし、あるいは複数台の端末から構成されるシステムであってもよい。好ましい実施形態においては検出装置 100 はクラウドサーバに接続可能な(一台または複数台の)エッジ端末であってよい。そうしたエッジ端末は例えば、IoT用途に使用できるシングルボードコンピュータ、スティック型PC、スマートフォン、タブレットPCなどであってもよい。
【0025】
初期条件設定手段 110 は、工作機械 97 において工作対象となる材料と工具の用途に関するデータを受信し、受信したデータに基づいて工具の使用期間(すなわち、或る工程においてその工具が使われる時間間隔、時間サイクル)を定めることができる。
【0026】
例えば工作機械が単発プレス機の場合には、工具であるプレス部位が圧を掛ける時間の長さとして設定できる。また工作機械がマシニングセンタの場合には、複数種の工具(ドリル、タップ、フライス、エンドミル、リーマー、サイドカッターなど)のそれぞれを用いる順番と期間とをシーケンスとして定めることができる。また工作機械が射出成形機の場合には、複数種の工具としてダイプレート、タイバー、エジェクターピン、金型などを想定して上記と同様に初期条件を設定できる。
【0027】
工作対象となる材料と工具の用途に関するデータの取得にあたっては、例えば撮像手段により工作機械 97 内を撮影した画像データから認識するようにしてもよいし、あるいは工作機械の稼動条件設定データから取得するようにしてもよい。
【0028】
そのようにして定めた初期条件は、工作機械 97 が有するPLC(制御部) 98 へとフィードバックされ、工作機械 97 の稼動制御を行える。
【0029】
選択手段 120 は、工具に対応する機械学習モデルを選択する機能を担う。選択手段 120 はネットワークインターフェイス 160 を介してネットワーク(LAN、WAN、インターネットなど)に接続でき、外部のサーバ 99 にアクセスして、サーバ 99 が格納している複数種の機械学習モデルの中から選択を行う。当該選択は、上記の初期条件設定手段 110 からの出力に基づいて行うことができる。
【0030】
或る実施形態では例えば、初期条件設定手段 110 からの出力として、撮影された工具の画像が含まれていてもよく、選択手段 120 がその画像を解析して工具の種類を特定又は推定するようにしてもよいし、あるいはその画像をサーバ 99 に送り、サーバ 99 が有する画像認識機能に掛けるようにしてもよい。
【0031】
また別の実施形態では、初期条件設定手段 110 からの出力として、工作機械 97 に装着される工具の種類を示すデータ(例えば工具の型式、形状、供給元などを示すデータ)が含まれていてもよい。当該データを選択手段 120 が解釈して工具の種類を特定又は推定するようにしてもよいし、あるいは当該データをサーバ 99 に送って工具の種類を特定又は推定させてもよい。
【0032】
サーバ 99 が格納する複数種の機械学習モデルは特に限定されない。この中から選択手段 120 により、工作機械 97 の初期条件にとって適切なものとして選択された機械学習モデルを、デプロイ手段 130 がデプロイする。なお本明細書において「デプロイ」とは、検出装置 100 の外部から(例えばネットワークを介して)機械学習モデルを導入し、(不図示のストレージに格納して)検出装置 100 が有するプロセッサにより当該機械学習モデルを機能させられる状態にすることを指す。なお図ではわかりやすさのため、デプロイ手段 130 を示すブロックにデプロイされた機械学習モデルが在るように描いてある。このような構成を採るのは、検出装置 100 のストレージに多数の機械学習モデルを格納させておかなくてもよいためである。こうした効果は特に、検出装置 100 がエッジ端末である場合に、限られたストレージ容量を節約できる観点から有用である。
【0033】
そしてセンサー 140 により、工作機械 97 が装着した工具が行う工程から発生する信号を検出する。センサー 140 としては例えば、工程から発生する弾性波を検出するように構成されたアコースティックエミッションセンサー(AEセンサー)、装着する工具の状態を視覚的に検出するように構成された画像センサー(撮像素子を含んでよい)、工程から発生する振動を検出するように構成された振動センサー、工程から発生する温度を検出するように構成された温度センサー、といったものが挙げられる。図1に示す例では、センサー 140 は単独種のセンサーである(同じ種類のセンサーが複数台あってもよい)。別の実施形態では、図2に示すようにセンサー 140 が複数種のセンサーの組み合わせであってよい(詳しくは後述する)。
【0034】
センサー 140 が検出した信号は、その信号を検出した時刻(不図示の計時手段により特定可能である)と関連付けられて、時系列データ(信号強度と時間の相関をプロットするデータ)として扱うことができる。そしてデータ解析・入力手段 150 は、そうしてセンサー 140 から得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせ(例えばこの例では、信号強度と時刻をパラメータとして設定できる)として解析する。解析にあたっては、時系列データを工具の使用期間ごとに分割して、分割された時系列データを、上述のデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることができる。
【0035】
図3は、或る工具の使用サイクルの一周分の期間中(この例では0~97秒の期間)に、或るセンサーを用いて取得された信号強度(Parameter 1として示す)の経時プロットの例である。元の時系列データを分割して、このような或る時間単位ごとに切り出すように加工してから、機械学習モデルに入力して学習させることで、信号強度と時間を特徴量とした機械学習が行える。
【0036】
好ましい実施形態においては、データ解析・入力手段 150 がさらに、ネットワークインターフェイス 160 を介して、学習させた学習結果データセットを、外部のサーバへアップロードするようにしてもよい。このような構成により、検出装置 100 において学習させた結果をサーバにフィードバックし、サーバが格納する機械学習モデル群を最適化できるという効果が得られる。別の実施形態においては、検出装置 100 がそのようなアップロードは行わず、あくまで外部のサーバからのデプロイをすることだけに特化させてもよい。
【0037】
好ましい実施形態においては、複数種のセンサーの組み合わせを用いてよい。図2は、三種のセンサー 240, 242, 244 を有する別の検出装置 200 の構成を示したブロック図である。検出装置 200 は検出装置 100 とセンサーの種類数以外は同様である。検出装置 200 では、図4に示すように各センサーから三種類の出力(Parameter 1~3の経時プロット)を得られる。そしてデータ解析・入力手段 250 は、図5に示すように各パラメータ同士の相関曲線(図の例では直線として描かれている)を取ることができる。より好ましくは、図6に示すように外れ値を除去して相関曲線を取ることが望ましい。なお別の実施形態では、一種類のセンサーから複数種類のパラメータを取得し、図4のような出力を得ることも可能である。
【0038】
図5または図6のようにして得られる相関曲線に関するデータ(例えば相関曲線の傾き、微分値など)を特徴量として、デプロイした機械学習モデルに入力して学習させることにより、さらに高精度な機械学習が可能になる効果が得られる。
【0039】
或る実施形態に係る検出装置は、複数種の工具を装着して複数種の工程を連続的に行うように構成されている工作機械に対して好適に使用できる。複数種の工具を使用する場合、図7に例示するようにそれぞれの工具ごとに使用されるサイクルが異なることから、単純な機械学習では各工具の状態を個別に精度よく推測することは従来困難であった。そこで検出装置 100 では、初期条件設定手段 110 が、工作機械 97 にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、各工具を使用する順序と使用期間を設定するようにする。そして選択手段 120 は初期条件設定手段 110 からの出力に基づいて、複数の工具のそれぞれに対応する機械学習モデルを選択できる。データ解析・入力手段 150 は、センサー 140 から得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して各工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、各工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力し学習させることが可能である。このような構成は、図2の検出装置 200 でも同様に行えることは明らかであろう。
【0040】
好ましい実施形態においては、本検出装置がセンサーとしてアコースティックエミッションセンサー(AEセンサー)を有することで、弾性波から複数種のパラメータを取得でき、例えば最大振幅値(amplitude)、実効値(しきい値、RMS)、エネルギー(積分値、energy)、Hit数、立ち上がり時間、カウント数、波形持続時間といったパラメータを取得できる。例えば、最大振幅値、実効値、エネルギーという三種類のパラメータの組み合わせに関する時系列データをそれぞれ取得できる。図8は、AEセンサーから得られる時系列データの例(三種のパラメータについて取得する例)を示す。本検出装置が有するデータ解析・入力手段では例えば、それら各パラメータ同士の相関を取るようにしてよい。
【0041】
好ましい実施形態においては、本検出装置がセンサーとして画像センサー(カメラなど)を有することで、特に壊れやすく形状が経時劣化しやすい工具の状態を推測しやすくできる。さらに好ましくは、画像センサーとAEセンサーを組み合わせて本検出装置が有することで、各工具の状態をより精度よく推測可能になる。例えば、AEセンサーと振動センサーの二種類を組み合わせて本検出装置が含んでいることで、工具における一次的現象(工具内部の、外部から直接観察できない破断など)の発生を推測しつつ、振動センサーにより工具の振動が発生したことを検出して工具の寿命が迫っていることを精度よく推測可能となる。
【0042】
本発明の或る実施形態では、ネットワークに接続可能なサーバも提供できる。当該サーバは、複数種の機械学習モデルを格納する記憶手段(任意のストレージであってよい)と、ネットワークを介して外部の検出装置(例えば上述した検出装置 100 または検出装置 200 であってよい)と接続する通信手段とを含む。当該サーバは通信手段を介して、外部の工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、使用期間が設定された工具について、工具に対応するように機械学習モデルを選択する信号を受信できる。そして当該サーバは通信手段を介して、選択された機械学習モデルをネットワークを介して送信することができる。
【0043】
好ましくはさらに当該サーバが通信手段を介してさらに、工具が行う工程から発生する信号を検出するように構成されたセンサー(例えば上述したセンサー 140 またはセンサー 240, 242, 244 であってよい)から得られる時系列データを工具の使用期間ごとに分割し、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して、工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させることで得られた学習結果データセットを受信することができる。そして当該サーバは、受信した学習結果データセットを記憶手段に格納してよい。
【0044】
本発明の或る実施形態では、上述した検出装置およびサーバと、当該検出装置とサーバを接続するように構成されるネットワークとを含むシステムを提供することもできる。
【0045】
本発明の或る実施形態では、交換可能な消耗品である工具を装着し工程を行う工作機械設備に接続する、プロセッサを有するコンピュータにより実行可能な命令を含んだプログラムを提供することもできる。当該命令がプロセッサに実行されることで、当該プロセッサは下記の機能のうちの一種以上を順不同で実行してよい。すなわち、工作機械設備にて工作対象とする材料と工具の用途に基づいて、工具の使用期間を設定すること。初期条件設定手段からの出力に基づいて、工具に対応する機械学習モデルを選択すること。選択された機械学習モデルをデプロイすること。センサーを用いて、工具が行う工程から発生する信号を検出すること。センサーから得られる時系列データを、複数種のパラメータの組み合わせとして解析して工具の使用期間ごとに分割し、分割された時系列データを、工具に対応するように選択されデプロイされた機械学習モデルに入力して学習させること。
【0046】
或る実施形態では、上述したプログラムを格納するコンピュータ可読媒体(SSD、HDD、光学メディアなど)を提供することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8