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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179675
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】石積擁壁の補強構造及び補強工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20241219BHJP
   E02D 17/18 20060101ALI20241219BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E02D29/02 301
E02D29/02 309
E02D17/18 Z
E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098699
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(71)【出願人】
【識別番号】000112886
【氏名又は名称】フリー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】堀 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】岩津 雅也
(72)【発明者】
【氏名】前田 和徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘栄
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044CA06
2D044DB53
2D048AA00
2D048AA34
2D048AA81
(57)【要約】
【課題】歴史的・文化的な景観や価値を損なわずに、注入圧力で擁壁が崩壊するおそれを払拭しつつ積石層の背面に形成された隙間を的確に充填して安価に補強することができる石積擁壁の補強構造及び補強工法を提供する。
【解決手段】地山層2と、地山層2に沿って割栗石が裏込めされた栗石層3と、栗石層3の表面側に積石40が積層された積石層4を備える既設の石積擁壁10を補強する石積擁壁の補強構造1において、積石層4の背面に形成された隙間Sに挿入された袋体5と、袋体5に充填された固化材6と、を備え、袋体5を固化材6の一部の液体成分が染み出す素材から構成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山層と、前記地山層に沿って割栗石が裏込めされた栗石層と、前記栗石層の表面側に積石が積層された積石層を備える既設の石積擁壁を補強する石積擁壁の補強構造であって、
前記積石層の背面に形成された隙間に挿入された袋体と、前記袋体に充填された固化材と、を備え、
前記袋体は、前記固化材の一部の液体成分が染み出す素材からなること
を特徴とする石積擁壁の補強構造。
【請求項2】
前記袋体に充填された前記固化材から一部の液体成分が前記袋体を透過して抜け出すことで、前記固化材が前記隙間の形状に応じて硬化することにより前記石積擁壁が補強されていること
を特徴とする請求項1に記載の石積擁壁の補強構造。
【請求項3】
前記袋体に充填された前記固化材が硬化することで一体化された複数の積石うちの中央付近の積石が削孔されており、削孔された孔に前記地山層に達する補強材が挿通されて前記地山層に前記補強材の先端が定着され、後端が前記中央付近の積石に固定され、
一体化された前記複数の積石全体が受圧体となり前記補強材の支圧板の機能を発揮していること
を特徴とする請求項2に記載の石積擁壁の補強構造。
【請求項4】
前記補強材の後端は、前記中央付近の積石からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片で塞がれていること
を特徴とする請求項3に記載の石積擁壁の補強構造。
【請求項5】
前記補強材は、中空の鋼棒からなるロックボルトと、前記ロックボルトを通じて充填される充填材で膨張するパッカーとを有するパッカー付きロックボルトであり、
前記補強材は、前記パッカーが膨張することで前記地山層に定着されていること
を特徴とする請求項3又は4に記載の石積擁壁の補強構造。
【請求項6】
前記補強材は、先端が拡張する拡張式金属補強材であり、
前記補強材は、先端が拡張することで前記地山層に定着されていること
を特徴とする請求項3又は4に記載の石積擁壁の補強構造。
【請求項7】
地山層と、前記地山層に沿って割栗石が裏込めされた栗石層と、前記栗石層の表面側に積石が積層された積石層を備える既設の石積擁壁を補強する石積擁壁の補強工法であって、
前記積石層の背面に形成された隙間に袋体を挿入する袋体挿入工程と、
前記袋体挿入工程で挿入した前記袋体に固化材を充填する固化材充填工程と、を備えること
を特徴とする石積擁壁の補強工法。
【請求項8】
前記固化材充填工程では、充填された固化材から一部の液体成分が前記袋体を透過して抜け出すことで前記固化材を前記隙間の形状に応じて硬化させること
を特徴とする請求項7に記載の石積擁壁の補強工法。
【請求項9】
前記袋体に充填された前記固化材が硬化することで一体化された複数の積石うちの中央付近の積石に所定径の孔を削孔する削孔工程と、
前記削孔工程で削孔した前記孔に前記地山層に達する補強材を挿通して前記地山層に前記補強材の先端を定着させる補強材定着工程と、を備えること
を特徴とする請求項8に記載の石積擁壁の補強工法。
【請求項10】
前記中央付近の積石からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片で前記補強材の後端を塞ぐ目隠し工程をさらに備えること
を特徴とする請求項9に記載の石積擁壁の補強工法。
【請求項11】
前記補強材は、中空の鋼棒からなるロックボルトと、前記ロックボルトを通じて充填される充填材で膨張するパッカーとを有するパッカー付きロックボルトであり、
前記補強材定着工程では、前記パッカーに前記ロックボルトを通じて充填材を充填して膨張させることで、前記地山層に前記補強材を定着させること
を特徴とする請求項9又は10に記載の石積擁壁の補強工法。
【請求項12】
前記補強材は、先端が拡張する拡張式金属補強材であり、
前記補強材定着工程では、前記補強材の先端を拡張することで前記地山層に前記補強材を定着させること
を特徴とする請求項9又は10に記載の石積擁壁の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石積擁壁の補強構造及び補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本には、お城の石垣など歴史的・文化的に貴重な石積擁壁が多く現存しており、従来、そのような歴史的・文化的に貴重な石積擁壁を歴史的・文化的財産として後世に残すべく、補修したり、補強したりする様々な取り組みが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、石積擁壁1の積石2の目地6から空洞5最奥部に突き当たるまで排水部材7を挿入する工程と、積石2の目地6からノズル8を挿入し、ノズル8を通して空洞5奥壁に発泡固化剤を噴射発泡させ奥壁表面全体を被覆する遮壁9を形成する工程と、遮壁9の発泡固化剤が固化した後に積石2の目地6から空洞5内部に充填材10を注入し空洞5を充填する工程とを有し、石積擁壁背後に侵食形成された空洞に充填材を充填することで石積擁壁を補強する石積擁壁の補強工法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0031]~[0039]、図面の図1等参照)。
【0004】
また、特許文献2には、石積み工の各積石の間の目地が会合する会合部に、該会合部に接する各積石の合端を貫通する注入孔を穿孔する。そして、注入孔に対し、会合目地をシールせず注入孔から会合目地に沿って可撓性のノズルチューブを挿入し、ノズルチューブ先端から目地裏にグラウトを注入し目地裏空間にグラウトを充填して石積擁壁を補強する石積み補強工法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0034]~[0048]、図面の図1図3図5等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の石積擁壁の補強工法や特許文献2に記載の石積み補強工法は、図12に示すように、石積擁壁の積石と積石との隙間に発泡固化剤やセメント系固化材を充填して補強すると、積石間の隙間から発泡固化剤やセメント系固化材が露出してしまい、歴史的・文化的な景観や価値が損なわれてしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の石積擁壁の補強工法や特許文献2に記載の石積み補強工法は、雨水や地下水の通り道となる目地部が固化材で充填されて塞がれてしまうため、雨水や地下水が排水できず、積石が背面から水圧を受けて擁壁が崩壊してしまう恐れがあるという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の石積み補強工法は、明細書中には、グラウト材と記載されているものの、空隙の大きい割栗石層からセメント系固化材が逸走しないように、実際の施工では、固練りのモルタルを使用しており、土木工事ではあまり使用しない特殊材料であるため汎用性に乏しく、用途が極めて限定されているという問題がある。
【0008】
石積擁壁を補強する他の方法としては、図13に示すように、コンリートブロックの擁壁を金属製の受圧板を用いてアースアンカーで支持して補強することが行われている。しかし、このような補強方法を石積擁壁に採用した場合、受圧板やボルトが目立ち、歴史的・文化的な景観や価値が損なわれてしまうという問題が深刻となる。
【0009】
また、特許文献3には、石積壁の表面で4個の積石材がほぼ会合する積石会合部P1付近の積石材2B等をコア抜きカッター11で除去し外部から胴込石領域に到達する挿入開
口12を形成し、前端が尖端部13bで開口後端が流入口13cとなる打込注入管13を、挿入開口12から挿入し衝打を加えて押し込み、打込注入管13の吐出孔13d1等が略上方に向くようにしてグラウト材16を注入した後に打込注入管13を引き抜いて硬化させ略球根状の固化領域を4個の積石材の背後と地盤Gとの間に形成して補強する石積壁の耐震補強方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0026]~[0052]、図面の図1図5等参照)。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の石積壁の耐震補強方法は、結局、空隙の有無が分からない状態で空隙の大きい栗石層に流動体状グラウト材19を注入するものであり、空隙にグラウト材がとどまらず、所望の補強ができないという問題がある。また、逆に、空隙の小さいところに高圧力でグラウト材を注入しようとすると注入圧力で擁壁が崩壊するおそれがあるという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献4には、穿孔ロックボルトを止め付けるナット部分を間知石4からコアドリルでくり抜いて薄くスライスした間知石薄板48で塞いで、間知石の外観を見栄え良くして歴史的・文化的な景観や価値が損なわれないようにする石積擁壁の補強工法が記載されている(特許文献4の明細書の段落[0048]、図面の図8等参照)。
【0012】
しかし、特許文献4に記載の石積擁壁の補強工法では、石積擁壁の正面から見える間知石の全てに対して、削孔してロックボルトを設置・定着した上、前記間知石薄板の加工等の作業を行う必要があり、手間と費用が膨大になって補強費用が高騰するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2015-40463号公報
【特許文献2】特開2022-101245号公報
【特許文献3】特開2006-283309号公報
【特許文献4】特開2022-69791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、歴史的・文化的な景観や価値を損なわずに、注入圧力で擁壁が崩壊するおそれを払拭しつつ積石層の背面に形成された隙間を的確に充填して安価に補強することができる石積擁壁の補強構造及び補強工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明に係る石積擁壁の補強構造は、地山層と、前記地山層に沿って割栗石が裏込めされた栗石層と、前記栗石層の表面側に積石が積層された積石層を備える既設の石積擁壁を補強する石積擁壁の補強構造であって、前記積石層の背面に形成された隙間に挿入された袋体と、前記袋体に充填された固化材と、を備え、前記袋体は、前記固化材の液体成分が染み出す素材からなることを特徴とする。
【0016】
第2発明に係る石積擁壁の補強構造は、第1発明において、前記袋体に充填された前記固化材から一部の液体成分が前記袋体を透過して抜け出すことで、前記固化材が前記隙間の形状に応じて硬化することにより前記石積擁壁が補強されていることを特徴とする。
【0017】
第3発明に係る石積擁壁の補強構造は、第2発明において、前記袋体に充填された前記固化材が硬化することで一体化された複数の積石うちの中央付近の積石が削孔されており、削孔された孔に前記地山層に達する補強材が挿通されて前記地山層に前記補強材の先端が定着され、後端が前記中央付近の積石に固定され、一体化された前記複数の積石全体が受圧体となり前記補強材の支圧板の機能を発揮していることを特徴とする。
【0018】
第4発明に係る石積擁壁の補強構造は、第3発明において、前記補強材の後端は、前記中央付近の積石からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片で塞がれていることを特徴とする。
【0019】
第5発明に係る石積擁壁の補強構造は、第3発明又は第4発明において、前記補強材は、中空の鋼棒からなるロックボルトと、前記ロックボルトを通じて充填される充填材で膨張するパッカーとを有するパッカー付きロックボルトであり、前記補強材は、前記パッカーが膨張することで前記地山層に定着されていることを特徴とする。
【0020】
第6発明に係る石積擁壁の補強構造は、第3発明又は第4発明において、前記補強材は、先端が拡張する拡張式金属補強材であり、前記補強材は、先端が拡張することで前記地山層に定着されていることを特徴とする。
【0021】
第7発明に係る石積擁壁の補強工法は、地山層と、前記地山層に沿って割栗石が裏込めされた栗石層と、前記栗石層の表面側に積石が積層された積石層を備える既設の石積擁壁を補強する石積擁壁の補強工法であって、前記積石層の背面に形成された隙間に袋体を挿入する袋体挿入工程と、前記袋体挿入工程で挿入した前記袋体に固化材を充填する固化材充填工程と、を備えることを特徴とする。
【0022】
第8発明に係る石積擁壁の補強構造は、第7発明において、前記固化材充填工程では、充填された固化材から一部の液体成分が前記袋体を透過して抜け出すことで前記固化材を前記隙間の形状に応じて硬化させることを特徴とする。
【0023】
第9発明に係る石積擁壁の補強構造は、第8発明において、前記袋体に充填された前記固化材が硬化することで一体化された複数の積石うちの中央付近の積石に所定径の孔を削孔する削孔工程と、前記削孔工程で削孔した前記孔に前記地山層に達する補強材を挿通して前記地山層に前記補強材の先端を定着させる補強材定着工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
第10発明に係る石積擁壁の補強構造は、第9発明において、前記中央付近の積石からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片で前記補強材の後端を塞ぐ目隠し工程をさらに備えることを特徴とする。
【0025】
第11発明に係る石積擁壁の補強構造は、第9発明又は第10発明において、前記補強材は、中空の鋼棒からなるロックボルトと、前記ロックボルトを通じて充填される充填材で膨張するパッカーとを有するパッカー付きロックボルトであり、前記補強材定着工程では、前記パッカーに前記ロックボルトを通じて充填材を充填して膨張させることで、前記地山層に前記補強材を定着させることを特徴とする。
【0026】
第12発明に係る石積擁壁の補強構造は、第9発明又は第10発明において、前記補強材は、先端が拡張する拡張式金属補強材であり、前記補強材定着工程では、前記補強材の先端を拡張することで前記地山層に前記補強材を定着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
第1発明~第12発明によれば、固化材を袋体で覆って硬化させるので、固化材が目地部からはみ出すおそれがなく、歴史的・文化的な景観や価値を損なうことがない。また、第1発明~第12発明によれば、袋体が固化材の一部の液体成分が染み出す素材からなり、固化材から一部の液体成分が袋体を透過して抜け出すことで時間をかけて隙間の形状に合わせて硬化させるので、大きな注入圧力が必要なく、擁壁が崩壊するおそれを払拭しつつ積石層の背面に形成された隙間を的確に充填して補強することができる。しかも、第1発明~第12発明によれば、注入装置などの大掛かりな装置が必要なく、人力搬送が可能で足場が悪く搬入路が無い場所であっても安価に補強工事を行うことができる。さらに、第1発明~第12発明によれば、目地部を全部塞ぐのではないので、雨水や地下水が排水できる水みちがあり、積石が背面から水圧を受けて擁壁が崩壊してしまう恐れがない。
【0028】
特に、第2発明、第3発明、第8発明、及び第9発明によれば、一体化された複数の積石うちの中央付近の積石だけ削孔して補強材で補強すればよく、擁壁正面から見える積石全数に施工する必要がなく、施工費を大幅に削減することができる。しかも、第3発明及び第9発明によれば、一体化された前記複数の積石全体が補強材の支圧板の機能を発揮しているので、工数を削減しても強固に石積擁壁を補強することができる。
【0029】
特に、第4発明及び第10発明によれば、もともとあった積石の一部であるコア片で塞がれているので、ロックボルトを止め付けるナット等が露出せずに、見栄えが良く、さらに歴史的・文化的な景観や価値を損なうことがない。
【0030】
特に、第5発明及び第11発明によれば、ロックボルトで強固に地盤に定着されるので、さらに強固に補強することができ、耐震補強の面でも有効である。
【0031】
特に、第6発明及び第12発明によれば、大掛かりな装置が必要なく、人力搬送が可能で足場が悪く搬入路が無い場所であっても安価にしかも強固に補強工事を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造を擁壁の斜面に向かって見た正面図である。
図2図2は、図1のA部拡大図である。
図3図3は、同上の石積擁壁の補強構造を示す鉛直断面図である。
図4図4は、図3の部分拡大図である。
図5図5は、同上の石積擁壁の補強構造の補強材の構成を示す断面図である。
図6図6は、同上の補強材の変形例を示す一部を切断して示した側面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法の高圧洗浄工程を示す工程説明図である。
図8図8は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の袋体挿入工程を示す工程説明図である。
図9図9は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の固化材充填工程を示す工程説明図である。
図10図10は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の削孔工程を示す工程説明図である。
図11図11は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の補強材定着工程を示す工程説明図である。
図12図12は、特許文献1,2の石積擁壁の外観を示す写真である。
図13図13は、従来の受圧板で補強する場合を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造及び補強工法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
<石積擁壁の補強構造>
図1図6を用いて、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造1について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造1を擁壁の斜面に向かって見た正面図であり、図2は、図1のA部拡大図である。また、図3は、石積擁壁の補強構造1を示す鉛直断面図であり、図4は、図3の部分拡大図である。
【0035】
図3図4に示すように、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造1(以下、単に補強構造1ともいう)は、地山層2と、地山層2に沿って正面側に割栗石30が裏込めされた栗石層3と、栗石層3の表面側に積石40が積層された積石層4を備える既設の石積擁壁10を補強する石積擁壁の補強構造である。
【0036】
なお、積石層4の積石40は、図3図4に示すように、図示形態では、間知石などの加工された築石を例示しているが、自然石など石であればよい。
【0037】
この補強構造1は、積石層4の背面に形成された隙間Sに、積石層4の目地や会合部から挿入された袋体5と、この袋体5に充填された固化材6と、を備えており、固化材6が隙間Sの形状に応じて硬化することにより複数の積石40が一体化されることにより既設の石積擁壁10全体が補強されている。
【0038】
そして、補強構造1は、図4に示すように、袋体5に充填された固化材6が硬化することで一体化された複数の積石40うちの中央付近の積石40’が削孔されており、削孔された孔h1に地山層2に達する補強材7が挿通されて地山層2に補強材7の先端7aが定着され、後端7bが中央付近の積石40‘に固定されている。
【0039】
このため、図1の網掛け部、図2の一点鎖線の円内に示す積石40’を中心とした半径1m程度の複数(図示形態では7個)の積石40が一体化されており、複数の積石40全体が受圧体となり補強材7の支圧板の機能を発揮している。このため、工数を削減しても強固に既設の石積擁壁10を補強することができる。また、一体化された複数の積石うちの中央付近の積石40’だけ削孔して補強材7で補強すればよく、擁壁正面から見える積石全数に施工する必要がなく、施工費を大幅に削減することができる。
【0040】
なお、図4に示すように、補強材7の後端7bは、ナット7cでワッシャーを介して積石40’の孔h1に固定されている。また、図4に示すように、補強材7の後端7bは積石40’からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片41で塞がれている。このため、補強材7を止め付けるナット7c等が露出せずに、見栄えが良く、歴史的・文化的な景観や価値を損なうことがない。
【0041】
(袋体)
袋体5は、固化材6の水分などの一部の液体成分が染み出す液体透過性を有する素材からなり、具体的には、樹脂繊維を織らずに溶着したシート状の不織布、穴あきゴム、穴あき樹脂フィルムなどが好適である。
【0042】
(固化材)
固化材6は、一定時間経過後に硬化する材料であり、セメントミルク、グラウト、モルタルなどのセメントを母材に複数の有効成分を添加したセメント系固化材、石灰を母材に複数の有効成分を添加した石灰系固化材が好適である。但し、固化材6は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分を混ぜた液体が発砲硬化してなるウレタン樹脂発泡体とすることもできる。
【0043】
(補強材)
本実施形態に係る補強材7は、図5に示すように、機械構造用炭素鋼鋼材(JIS G 4051)(S45C)相当の中空のねじ鋼棒からなるロックボルト70と、ロックボルト70を通じて充填される充填材で膨張するパッカー71とを有するパッカー付きロックボルトであり、補強材7は、パッカー71が膨張することで地山層2に定着されている。このパッカー71は、補強材の先端部を覆う細長い袋体であり、その袋体を構成する素材は、前述の袋体5と同様に、内部に充填される充填材が若干染み出る程度の材質(例えば、不織布)であることが好ましい。図5は、石積擁壁の補強構造1の補強材7の構成を示す断面図である。
【0044】
ここで、パッカー71に充填する充填材は、安価で現地でも製造が容易な固化材6と同様のセメントミルク、グラウトなどのセメント系固化材であることが好ましい。
【0045】
(補強材の変形例)
次に、図6を用いて、補強材7の別の実施形態である変形例1に係る補強材7’について説明する。図6は、変形例1に係る補強材7’の一部を切断して示した側面図である。図6に示すように、補強材7’は、パイプ状の補強材本体70’と、この補強材本体70’に挿通された棒材71’とを備え、補強材本体70’から棒材71’を図の矢印方向に引き抜くことで、先端の拡張部72’が矢印方向に開いて拡張し、地山層2に定着される。
【0046】
また、補強材7の後端7bをナット7cでねじ止める構成を例示したが、ナット7cの代わりに、拡張部72’を設けて、拡張部72’を広げることで後端7bが中央付近の積石40‘に固定されている構成としてもよい。
【0047】
<石積擁壁の補強工法>
次に、図7図11を用いて、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法について説明する。
【0048】
(高圧洗浄工程)
本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、先ず、図7に示すように、積石層4の背面に形成された隙間Sに積石層4の目地や会合部から高圧洗浄機のノズルを挿入し、隙間S内の土砂を洗浄する高圧洗浄工程を行う。土砂等が堆積していると、固化材6を充填して補強する効果が損なわれるおそれがあるからである。図7は、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法の高圧洗浄工程を示す工程説明図である。
【0049】
(袋体挿入工程)
次に、図8に示すように、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、積石層4の背面に形成された隙間Sに袋体5を挿入する袋体挿入工程を行う。袋体5の挿入は、積石層4の目地や会合部から行う。図8は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の袋体挿入工程を示す工程説明図である。
【0050】
(固化材充填工程)
次に、図9に示すように、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、袋体挿入工程で挿入した袋体5に前述の固化材6を充填する固化材充填工程を行う。図9は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の固化材充填工程を示す工程説明図である。
【0051】
ここで、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、固化材6が袋体5で覆われており、固化材6の流動性が袋体5で拘束されていることになる。このため、固化材6の粘度等にかかわらず、隙間の大きな栗石層3から固化材6が流れ落ちて逸走してしまうおそれがない。
【0052】
しかも、袋体5は、固化材6の水分などの一部の液体成分が染み出す素材からなり、固化材6から水分が袋体5を透過して抜け出すことで時間をかけて隙間Sの形状に合わせて硬化させるので、大きな注入圧力が必要なく、既設の石積擁壁10が崩壊するおそれを払拭しつつ積石層4の背面に形成された隙間Sを的確に充填して補強することができる。
【0053】
また、固化材6の充填に注入装置などの大掛かりな装置が必要なく、固化材6を小型ポンプで圧送し充填することが可能なため、人力搬送が可能で足場が悪く搬入路が無い場所であっても安価に補強工事を行うことができる。
【0054】
(削孔工程)
次に、図10に示すように、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、中央付近の積石40’に所定径の孔h1を削孔する削孔工程を行う。図10は、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法の削孔工程を示す工程説明図である。
【0055】
積石40’の孔h1,h2の削孔は、コアドリルで行い、地山層2の孔h3の削孔は、ボーリングで行う。積石40’の削孔は、先ず径の大きな孔h1に応じたコアドリルで削孔し、途中でやめてコアを折って引き抜く。そして、径の小さな孔h2に応じたコアドリルに変更して削孔し、頭部分が拡径した孔h1を形成する。
【0056】
(補強材定着工程)
次に、図11に示すように、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強工法では、削孔工程で削孔した孔h1~h3に地山層2に達する補強材7を挿通して地山層7に補強材7の先端7aを定着させる補強材定着工程を行う。
【0057】
具体的には、図5に示すように、中空のねじ鋼棒からなるロックボルト70を通じて図の矢印方向に充填材を送り込み、パッカー71を膨張させて充填材が硬化することで、補強材7の先端7aが地山層2に定着される。
【0058】
変形例1に係る補強材7’を定着させる場合は、図6に示すように、補強材本体70’から棒材71’を図の矢印方向に引き抜くことで、補強材7’の先端7aの拡張部72’を矢印方向に開いて拡張し、地山層2に拡張部72’を掛け止めることで機械的に補強材7’を地山層2に定着させる。
【0059】
補強材7の後端7bは、ナット7cでワッシャーを介して積石40’の孔h1に固定する。
【0060】
(目隠し工程)
最後に、図4に示すように、削孔工程で中央付近の積石40’からコアドリルでくり抜かれてスライスされたコア片41で補強材7の後端7bを塞ぐ目隠し工程を行って、本実施形態に係る石積擁壁の補強工法が完了する。
【0061】
以上説明した本実施形態に係る石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、固化材6を袋体5で覆って硬化させるので、固化材6が目地部からはみ出すおそれがなく、歴史的・文化的な景観や価値を損なうことがない。
【0062】
また、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、袋体5が固化材6の一部の液体成分が染み出す素材からなり、固化材6から一部の液体成分が袋体を透過して抜け出すことで時間をかけて隙間Sの形状に合わせて硬化させるので、大きな注入圧力が必要なく、擁壁が崩壊するおそれを払拭しつつ積石層4の背面に形成された隙間Sを的確に充填して補強することができる。
【0063】
しかも、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、注入装置などの大掛かりな装置が必要なく、人力搬送が可能で足場が悪く搬入路が無い場所であっても安価に補強工事を行うことができる。
【0064】
さらに、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、既設の石積擁壁10の目地部を全部塞ぐのではないので、雨水や地下水が排水できる水みちがあり、積石が背面から水圧を受けて擁壁が崩壊してしまう恐れがない。
【0065】
その上、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、一体化された複数の積石40うちの中央付近の積石40‘だけ削孔して補強材7,7’で補強すればよく、擁壁正面から見える積石全数に施工する必要がない。このため、施工費を大幅に削減することができる。
【0066】
しかも、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、一体化された複数の積石全体が補強材7の支圧板の機能を発揮することになるので、削孔作業や定着作業の工数を削減しても強固に既設の石積擁壁10を補強することができる。
【0067】
それに加え、石積擁壁の補強構造1及び補強工法によれば、もともとあった積石40’の一部であるコア片41で塞がれているので、ロックボルト70を止め付けるナット7c等が露出せずに、見栄えが良く、さらに歴史的・文化的な景観や価値を損なうことがない。
【0068】
以上、本発明の実施形態に係る石積擁壁の補強構造1及び補強工法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0069】
1:石積擁壁の補強構造
10:既設の石積擁壁
2:地山層
3:栗石層
30:割栗石
4:積石層
40:積石
40’:(中央付近の)積石
5:袋体
6:固化材
7,7’:補強材
7a:先端
7b:後端
7c:ナット
70:ロックボルト
71:パッカー
70’:補強材本体
71’:棒材
72’:拡張部
73’:ナット
h1,h2,h3:孔
S:隙間
図1
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