(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179712
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ケミカルリサイクルルート作成システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/30 20230101AFI20241219BHJP
C08J 11/00 20060101ALI20241219BHJP
G06Q 50/00 20240101ALI20241219BHJP
【FI】
G06Q10/30
C08J11/00 ZAB
G06Q50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098764
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 朋史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】堀 嘉成
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓弥
【テーマコード(参考)】
4F401
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
4F401BA02
4F401BA03
4F401BA06
4F401CA22
4F401CA67
4F401DB01
4F401FA20X
4F401FA20Y
5L049CC60
5L050CC60
(57)【要約】
【課題】廃棄物から再生原料までのプロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を提案できるケミカルリサイクルルート作成システムを提供する。
【解決手段】ケミカルリサイクルルート作成システム1は、既存の処理工程を表す処理工程データを記憶する既存処理工程データベース110と、既存の処理ルートを表す処理ルートデータを記憶する既存処理ルートデータベース120と、反応データを記憶する反応データベース130と、物性データを記憶する物性データベース140と、新規の処理工程を生成する処理工程生成部20と、既存の処理ルートに新規の処理工程を付加して新規の処理ルートの候補を生成する処理工程付加部30と、候補のうちで新規の処理ルートを特定する新規処理ルート特定部40と、既存の処理ルートおよび新規の処理ルートを対象とした数理モデルの計算を行う問題計算部60と、出力部80とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物をケミカルリサイクルするための複数の処理工程で構成される処理ルートを作成するケミカルリサイクルルート作成システムであって、
ケミカルリサイクルに関わる既存の処理工程を表す処理工程データを記憶する既存処理工程データベースと、
ケミカルリサイクルに関わる既存の処理ルートを表す処理ルートデータを記憶する既存処理ルートデータベースと、
ケミカルリサイクルに関わる反応を表す反応データを記憶する反応データベースと、
ケミカルリサイクルに関わる物質の物性を表す物性データを記憶する物性データベースと、
前記反応データおよび前記物性データに基づいて、ケミカルリサイクルに関わる新規の処理工程を生成する処理工程生成部と、
前記既存の処理ルートに前記新規の処理工程を付加して新規の処理ルートの候補を生成する処理工程付加部と、
生成された前記新規の処理ルートの候補のうちで新規の処理ルートを特定する新規処理ルート特定部と、
前記既存の処理ルートおよび前記新規の処理ルートを対象とした数理モデルの計算によって処理ルートを選抜する問題計算部と、
計算によって選抜された処理ルートを表す作成結果データを出力する出力部と、を備えるケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項2】
請求項1に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記反応データベースは、反応物質と生成物質が特定された既知の反応を表す反応データを含み、
前記物性データベースは、前記反応に関与する前記反応物質および前記生成物質の生成熱を表す物性データを含むケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項3】
請求項2に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記処理工程生成部は、前記既存の処理工程とは異なり、且つ、前記反応物質、前記生成物質および前記生成熱が特定された前記新規の処理工程を生成するケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項4】
請求項1に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記処理工程付加部は、前記既存の処理ルートを構成する既存の処理工程、および、生成された前記新規の処理工程について、前記処理工程に関わる物質同士の照合を行い、前記新規の処理工程に関わる物質が前記既存の処理ルートを構成する処理工程に関わる物質、前記廃棄物を構成する物質、または、前記廃棄物が最終的に変換される再生原料を構成する物質と一致しているとき、前記既存の処理ルートに前記新規の処理工程を付加して前記新規の処理ルートの候補を生成するケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項5】
請求項1に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記新規処理ルート特定部は、生成された前記新規の処理ルートの候補のうちで、前記既存の処理ルートとは異なり、且つ、前記廃棄物から前記廃棄物が最終的に変換される再生原料までの経路が繋がっている前記新規の処理ルートを特定するケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項6】
請求項1に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記問題計算部は、前記既存の処理ルートおよび前記新規の処理ルートを構成する処理工程の種類および処理工程同士の接続を変数として、最適化問題として定式化された前記数理モデルの計算を行うケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項7】
請求項6に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記最適化問題の目的関数は、ケミカルリサイクルに関わる処理の実行のために入力する必要がある入力エネルギの量、前記処理の実行によって出力される出力エネルギの量、前記入力エネルギに対する使用エネルギの利用効率、前記入力エネルギに対する出力エネルギの回収効率、前記処理によって生じる反応熱の総量、前記処理の実行に必要な装置の運転コスト、前記処理の実行に必要な装置の建設コスト、前記処理によって排出されるCO2排出量、前記処理に投入される入力物質の処理能力、前記処理に投入される入力物質の原料コスト、または、前記処理によって回収される出力物質の製造コストであるケミカルリサイクルルート作成システム。
【請求項8】
請求項1に記載のケミカルリサイクルルート作成システムであって、
前記処理工程は、物質を化学反応によって化学的に変換する処理、物質同士を分離する処理、または、物質同士を混合する処理であるケミカルリサイクルルート作成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物をケミカルリサイクルするための処理ルートを作成するケミカルリサイクルルート作成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、気候変動問題は、国際社会が一体となって直ちに取り組むべき重要な課題となっている。国際社会では、実効的な温室効果ガス排出量の削減を実現するために精力的な議論が行われている。日本を含む先進各国の多くは、2050年のカーボンニュートラルを宣言しており、国家戦略として脱炭素化を推進している。
【0003】
日本における温室効果ガス排出量は、エネルギ転換部門からの排出が最も大きく、次いで産業部門、運輸部門の順となっている。特に、高温高圧のプロセスを必要とし、原燃料として化石資源を使用する鉄鋼、石油化学、窯業等の素材産業、いわゆるプロセス産業からのCO2排出量が大きく、これらの産業の脱炭素化が課題となっている。
【0004】
また、脱炭素化と共にサーキュラエコノミ(循環型経済)の考え方が世界的に拡大している。従来の製造、運用、廃棄を一方向的に行うリニア型から、製造、運用、再利用を循環的に行うサーキュラ型にサプライチェーンを変革する動きが活発化している。背景として、廃棄プラスチックによる海洋汚染や、それによる生態系破壊等の進行がある。
【0005】
プロセス産業の脱炭素化や循環型経済化を進める方策として、廃棄物のケミカルリサイクルが注目されている。プラスチックの多くは化石資源から製造されるため、廃プラスチックを焼却処分すると多量のCO2が放出される。その一方で、原料に戻して再利用すると、CO2排出量と共に化石資源の消費量も抑制される。そのため、廃プラスチック等のケミカルリサイクルは、脱炭素化や循環型経済化の推進への貢献が期待されている。
【0006】
ケミカルリサクルの方法としては、油化、モノマ化、ガス化等がある。いずれの方法も、廃棄物に含まれる炭素化合物を熱分解して、炭素数が小さい原料レベルに戻す方法である。油化は、廃棄物に温度や圧力をかけて石油のような油状態まで戻す方法である。モノマ化は、ポリマを最小構成単位のモノマまで戻す方法である。ガス化は、高温高圧の条件下で廃棄物を一酸化炭素や水素等のガスまで戻す方法である。
【0007】
ケミカルリサイクルのプロセスは、反応物質を生成物質に化学的に変換する一つまたは複数の処理工程で構成される。廃棄物をケミカルリサクルする際には、廃棄物の種類、廃棄物の混合組成、廃棄物の化学組成、再生原料として要求される原料レベル等に応じて、油化、モノマ化、ガス化等のケミカルリサクルの方法や、個々の処理工程の種類や条件を、適切に選択する必要がある。
【0008】
反応物質を生成物質に化学的に変換する処理工程は、多種多様であり、処理に利用する反応、処理の条件、処理に関わる反応物質や生成物質等が互いに異なる。個々の処理工程については、様々な企業、大学、研究機関等において、研究開発が広く進められている。しかし、研究開発されている処理工程の活用は進んでなく、実用化されたケミカルリサイクルのプロセスは限られている現状がある。
【0009】
従来、リサイクルプロセスの構築に関する種々の技術が開発されている。特許文献1には、リサイクルプロセスや当該プロセスにおける環境負荷データが登録されるリサイクルネットワークシステムが記載されている。このリサイクルネットワークシステムでは、実ビジネスとしての物理的なプロセスが生成されて、廃棄物を排出する機関、廃棄物を加工/処理する機関、廃棄物を運搬する機関、廃棄物を再生化する機関、再生化された物質を利用する機関同士の取引処理が電子的に実行されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、廃棄物をケミカルリサイクルするプロセスは、反応物質を生成物質に化学的に変換する複数の処理工程で構成される。最初反応物質である廃棄物を最終生成物質である再生原料に変換するまでには、中間生成物質を経由することが多いため、複数の処理工程を組み合わせた多段式の処理が必要になる。中間生成物質は、混合物として生成されることもある。そのため、化学的に変換する処理に加え、分離処理を必要とする場合もある。
【0012】
プロセスが複数の処理工程で構成される場合、廃棄物を再生原料に変換するまでの経路としては、潜在的に多数の経路が存在し得る。最初反応物質と最終生成物質が定まると、化学的な反応の経路は、或る程度まで限定される。しかし、処理工程は、多種多様であり、エネルギ効率、処理能力、コスト性等が互いに異なる。そのため、化学的に採用可能な種々の処理工程の組み合わせの中から、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を求める技術が求められている。
【0013】
また、プロセスを構成する個々の処理工程については、研究開発が広く進められているが、プロセスに組み込む実用化は進んでいない現状がある。また、化学的に採用可能な種々の処理工程の中には、エネルギ効率、処理能力、コスト性等の詳細が不明である処理工程が存在し得る。また、廃棄物から再生原料までの化学的な反応の経路において、一部の区間に対する処理工程が未開発である場合がある。プロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、より効率的な処理の経路を提案できる技術が望まれている。
【0014】
特許文献1に記載された技術では、リサイクルプロセスの構築にあたって、機関同士の取引処理や契約処理がサポートされている。しかし、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路の導出や、潜在的な処理の経路を含めた複数の経路の中から適切な経路を選定する適切化の点で、改良の余地がある。
【0015】
そこで、本発明は、廃棄物から再生原料までのプロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を提案できるケミカルリサイクルルート作成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明に係るケミカルリサイクルルート作成システムは、廃棄物をケミカルリサイクルするための複数の処理工程で構成される処理ルートを作成するケミカルリサイクルルート作成システムであって、ケミカルリサイクルに関わる既存の処理工程を表す処理工程データを記憶する既存処理工程データベースと、ケミカルリサイクルに関わる既存の処理ルートを表す処理ルートデータを記憶する既存処理ルートデータベースと、ケミカルリサイクルに関わる反応を表す反応データを記憶する反応データベースと、ケミカルリサイクルに関わる物質の物性を表す物性データを記憶する物性データベースと、前記反応データおよび前記物性データに基づいて、ケミカルリサイクルに関わる新規の処理工程を生成する処理工程生成部と、前記既存の処理ルートに前記新規の処理工程を付加して新規の処理ルートの候補を生成する処理工程付加部と、生成された前記新規の処理ルートの候補のうちで新規の処理ルートを特定する新規処理ルート特定部と、前記既存の処理ルートおよび前記新規の処理ルートを対象とした数理モデルの計算によって処理ルートを選抜する問題計算部と、計算によって選抜された処理ルートを表す作成結果データを出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、廃棄物から再生原料までのプロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を提案できるケミカルリサイクルルート作成システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システムの構成を示す図である。
【
図2】既存処理工程データベースの内容の一例を示す図である。
【
図4】既存処理ルートデータベースの内容の一例を示す図である。
【
図5】反応データベースの内容の一例を示す図である。
【
図6】物性データベースの内容の一例を示す図である。
【
図7】新規処理工程データベースの内容の一例を示す図である。
【
図8】既存の処理ルートに新規の処理工程を付加した新規の処理ルートの一例を示す図である。
【
図9】処理ルートデータベースの内容の一例を示す図である。
【
図10】処理ルートを作成する処理を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システムについて、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システムの構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システム1は、モデル構築部10と、処理工程生成部20と、処理工程付加部30と、新規処理ルート特定部40と、問題生成部50と、問題計算部60と、入力部70と、出力部80と、既存処理工程データベース110と、既存処理ルートデータベース120と、反応データベース130と、物性データベース140と、新規処理工程データベース150と、処理ルートデータベース160と、問題データベース170と、を備えている。
【0021】
本実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システム1は、廃棄物をケミカルリサイクルするための処理ルートを作成するシステムである。ケミカルリサイクルルート作成システム1は、システムの使用者による要求に応じて、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化または最小化された効率的な処理ルートを作成する。
【0022】
効率的な処理ルートは、仮定的に生成された処理ルートを含む複数の処理ルートの中から最適化計算によって選抜される。最適化計算は、スーパーストラクチャを対象として行われる。スーパーストラクチャは、想定される範囲内で実現の可能性がある処理ルートのバリエーションを網羅している。スーパーストラクチャは、潜在的に実現の可能性がある複数の処理ルートによって構成される仮想上の構造である。
【0023】
本明細書において、処理ルートとは、所定の廃棄物を所定の再生原料に変換するために実行する必要がある処理の経路を意味する。処理ルートは、単一または複数の処理工程で構成される。一つの処理ルートの実行によって、最初入力物質である廃棄物が最終出力物質である再生原料に最終的に変換される。処理ルート情報によって、所定の廃棄物を所定の再生原料に変換するために実行する必要がある処理工程同士の接続、すなわち、処理工程の種類および処理工程の順序が特定される。
【0024】
本明細書において、処理工程とは、ケミカルリサイクルに関わる処理を行う工程を意味する。処理工程では、廃棄物自体や廃棄物に由来する中間生成物等を対象として、物質を化学反応によって化学的に変換する処理や、物質同士を分離する処理や、物質同士を混合する処理が行われる。一つの処理工程の実行によって、廃棄物自体や廃棄物に由来する中間生成物等の入力物質が、再生原料自体や再生原料に変換され得る中間生成物等の出力物質に変換される。処理工程情報によって、処理の内容や、処理に供される入力物質や、処理によって得られる出力物質等が特定される。
【0025】
処理工程は、所定の化学反応で表される処理を行う工程に限定されるものではなく、入力物質の混合組成や化学組成、出力物質の混合組成や化学組成、処理の条件等によって互いに区別される。例えば、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等を含む廃プラスチックの混合物の油化と、ポリオレフィンの油化とは、互いに異なる処理工程となる。また、熱分解の温度が互いに大きく異なり、処理後の残渣の組成に明確な相違を生じる場合等は、互いに異なる処理工程となる。
【0026】
処理工程は、一種の入力物質や一種の出力物質が関わる工程であってもよいし、混合物等の複数種の入力物質や複数種の出力物質が関わる工程であってもよい。一つの処理工程は、一種の素反応や多段階反応によって行われてもよいし、複数種の素反応や多段階反応の組み合わせによって行われてもよいし、一種の分離操作によって行われてもよいし、複数種の分離操作の組み合わせによって行われてもよい。
【0027】
ケミカルリサイクルルート作成システム1において、処理ルートは、処理ルートを構成する処理工程に関わる入力物質や出力物質が、最初入力物質である廃棄物から最終出力物質である再生原料まで、質量保存の法則に基づく物質収支を充足するように定義される。このような処理ルートを定義すると、新規の処理ルートの仮定的な生成や、効率的な処理ルートを選抜する最適化計算が可能になる。
【0028】
ケミカルリサイクルの対象とする廃棄物としては、事業活動に伴って生じる産業廃棄物や、家庭等で生じる一般廃棄物等が挙げられる。廃棄物を構成する成分としては、廃プラスチック、廃ゴム、廃油、食品廃棄物、紙くず等の古紙廃棄物、木くず等の木材廃棄物等が挙げられる。
【0029】
ケミカルリサイクルの対象とする廃棄物としては、再生原料に変換して再利用する観点からは、廃プラスチックを最大組成比の主成分として含む廃棄物が好ましい。廃プラスチックの成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等が挙げられる。廃プラスチックの成分は、再生可能なプラスチックであることが好ましい。
【0030】
ケミカルリサイクルによって回収する再生原料としては、API比重が34以上である軽質油、API比重が30以上34未満である中質油、API比重が30未満である重質油や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、ポリカプロラクタム等のポリアミドや、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素や、メタノール、エタノール等のアルコールや、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アンモニア、酢酸等が挙げられる。
【0031】
ケミカルリサイクルルート作成システム1は、コンピュータ等の計算機をハードウェアとして形成される。モデル構築部10、処理工程生成部20、処理工程付加部30、新規処理ルート特定部40、問題生成部50および問題計算部60は、計算機が所定のプログラムを実行することによって具現化される。
【0032】
計算機は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置や、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶装置や、入力装置、出力装置、制御装置等で構成される。記憶装置には、処理ルートを作成する処理を実行するためのプログラムやデータが格納される。入力装置や出力装置としては、インターフェイスを介して、入力部70や出力部80を接続できる。
【0033】
入力部70は、システムの使用者による入力を受け付ける装置である。入力部70は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイク等によって構成される。
【0034】
出力部80は、ケミカルリサイクルルート作成システム1の操作情報、各種のデータの内容、処理ルートの作成状況、処理ルートの作成結果等を出力する装置である。出力部80は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管、スピーカ等によって構成される。
【0035】
ケミカルリサイクルルート作成システム1には、システムの使用者によって、処理ルートを作成する処理を実行する指示や、最初入力物質である廃棄物を指定する情報や、最終出力物質である再生原料を指定する情報や、処理ルートの選抜の指標となるケミカルリサイクルに関わるパラメータを特定する情報等が入力される。これらの指示や情報は、入力部70や不図示の通信機能を介して入力できる。
【0036】
ケミカルリサイクルルート作成システム1では、システムの使用者による要求に応じて、処理ルートを作成する処理が行われる。処理ルートを作成する処理では、指定された廃棄物を再生原料に変換する処理ルートによって形成されるスーパーストラクチャが作成される。また、作成されたスーパーストラクチャを対象として、効率的な処理ルートを選抜するための数理最適化が実行される。
【0037】
ケミカルリサイクルルート作成システム1からは、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化または最小化された効率的な処理ルートを表す作成結果データが出力される。作成結果データとしては、例えば、ケミカルリサイクルに関わるパラメータを出力しても良い。作成結果データは、画像や音声に変換して、出力部80や不図示の通信機能を介して出力できる。
【0038】
ケミカルリサイクルに関わるパラメータとしては、例えば、処理の実行のために入力する必要がある入力エネルギの量、処理の実行によって出力される出力エネルギの量、入力エネルギに対する使用エネルギの利用効率、入力エネルギに対する出力エネルギの回収効率、処理によって生じる反応熱の総量、処理の実行に必要な装置の運転コスト、処理の実行に必要な装置の建設コスト、処理によって排出されるCO2排出量、入力物質の処理能力、処理に投入される入力物質の原料コスト、処理によって回収される出力物質の製造コスト等が挙げられる。
【0039】
ケミカルリサイクルルート作成システム1において、既存処理工程データベース110、反応データベース130、および、物性データベース140には、処理ルートを作成する処理に用いるデータが予め用意される。既存処理ルートデータベース120、新規処理工程データベース150、処理ルートデータベース160、および、問題データベース170には、処理ルートを作成する処理で生成されたデータが格納される。
【0040】
既存処理工程データベース110は、ケミカルリサイクルに関わる既存の処理工程を表す処理工程データの集合を記憶する。既存の処理工程とは、処理に供される入力物質と処理によって得られる出力物質との物質収支や、処理毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータが既知である処理の工程を意味する。処理工程は、企業、学術機関、研究機関等によって開発される。既存の処理工程を表す処理工程データは、システムの運用者等によって、処理ルートを作成する処理の事前に登録される。
【0041】
処理工程データは、処理工程データ同士を識別する処理工程の名称等の情報や、処理に供される入力物質の種類、処理に供される入力物質の量、処理によって得られる出力物質の種類、処理によって得られる出力物質の量、処理に伴う反応の反応熱、処理毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータ等の情報を含む。また、処理工程データは、処理に用いられる入力エネルギの種類、処理によって得られる出力エネルギの種類等の情報を含むことができる。
【0042】
図2は、既存処理工程データベースの内容の一例を示す図である。
図2には、既存処理工程データベース110に保存される処理工程データが表す処理工程情報の一例を示す。
図2に示すように、既存処理工程データベース110には、既存の処理工程毎の処理工程データが保存される。
【0043】
図2には、ケミカルリサイクルの方法として油化を用いる処理工程を示す。この処理工程では、入力物質として1tonの混合廃プラスチックが投入されて、出力物質として1tonの混合生成油が生成される。混合生成油は、軽質油、中質油および重質油が、それぞれ、0.4ton、0.3ton、0.3tonである混合組成として得られる。
【0044】
入力エネルギとしては、入力物質1ton当たりで100kWのエネルギが電力として投入される。出力エネルギとしては、入力物質1ton当たりで50kWのエネルギが排熱として生成される。反応熱の総量は、xJ/molとなる。処理に用いる装置の運転コストとしては、入力物質1ton当たりで1M¥がかかる。CO2排出量は、入力物質1ton当たりで1tonである。処理に用いる装置の建設コストとしては、10M¥がかかる。入力物質を処理する処理能力は、1ton/hである。
【0045】
このような処理工程データは、開発された既存の処理工程の情報を参照して、既存処理工程データベース110に予め用意しておくことができる。既存の処理工程の情報としては、企業、学術機関、研究機関等によって開発された処理工程の情報や、文献、学会等で報告された処理工程の情報等を利用できる。
【0046】
ケミカルリサイクルの方法としては、油化、モノマ化、ガス化等が挙げられる。処理工程データをケミカルリサイクルの方法毎に分類すると、既存の処理工程によって構成される処理ルートを、方法毎に限定された処理工程データの範囲内で短時間に構築できる。入力エネルギの種類や出力エネルギの種類としては、電気エネルギ(電力)、熱エネルギ(入熱、排熱)等や、これらの組み合わせ等が挙げられる。エネルギの種類を設定すると、コストやCO2排出量を解析によって推定する際に、エネルギの種類毎に高精度な推定を行うことができる。
【0047】
モデル構築部10は、新規の処理ルートを仮定的に生成するために用いられる基礎モデルを構築する。基礎モデルとしては、既存の処理工程によって構成される既存の処理ルートが構築される。基礎モデルは、最適化計算の対象として用いられるスーパーストラクチャの基礎となる。基礎モデルの構築には、既存処理工程データベース110に保存された既存の処理工程を表す処理工程データが用いられる。
【0048】
基礎モデルである既存の処理ルートは、システムの使用者によって指定された最初入力物質である廃棄物から、システムの使用者によって指定された最終出力物質である再生原料まで、物質収支を充足する少なくとも一つの経路が繋がるように構築される。基礎モデルとしては、一つの処理ルートが構築されてもよいし、複数の処理ルートが構築されてもよい。
【0049】
図3は、処理ルートの一例を示す図である。
図3には、モデル構築部10によって構築される基礎モデルである既存の処理ルートの一例を示す。
図3に示すように、処理ルートは、処理工程をノードとする所定のストラクチャとして表現できる。最初入力物質である廃棄物から最終出力物質である再生原料までの経路が繋がっている既存の処理ルートを基礎モデルとすることができる。
【0050】
図3には、油化1の処理工程と精製1の処理工程を順に行う処理ルートを示す。
図3において、最初入力物質である混合廃プラスチック201は、油化1の処理工程によって中間生成物質である混合生成油202に変換される。混合生成油202は、精製1の処理工程によって最終出力物質である軽質油203、中質油204および重質油205に分離される。
【0051】
なお、
図3において、基礎モデルである既存の処理ルートは、一つの経路が繋がった閉じた構造に設けられているが、基礎モデルは、経路が分岐していてもよいし、経路が合流していてもよい。基礎モデルは、廃棄物から再生原料まで、物質収支を充足する少なくとも一つの経路が繋がっている限り、他の処理工程に対して接続されていない開いた経路を有していてもよい。
【0052】
すなわち、基礎モデルを構成する処理工程は、入力側および出力側のうちの一方が分岐や合流を形成している場合、他方が接続されていない自由端であってもよい。このような既存の処理ルートの自由端に、新規の処理工程を付加することによって、数理最適化の対象となる新規の処理ルートのバリエーションを生成できる。詳細が不明である処理工程が存在する場合や、未開発である処理工程が存在する場合であっても、仮定的に生成された処理ルートを数理最適化の対象に加えることができる。
【0053】
既存処理ルートデータベース120は、ケミカルリサイクルに関わる既存の処理ルートを表す処理ルートデータの集合を記憶する。既存の処理ルートとは、新規の処理ルートを仮定的に生成するために用いられる基礎モデルであり、既存の処理工程のみで構成されており、処理ルートを構成する処理工程の種類および処理工程同士の接続が特定されている処理ルートを意味する。既存の処理ルートを表す処理ルートデータは、モデル構築部10によって登録される。
【0054】
処理ルートデータは、処理ルートデータ同士を識別する処理ルートの名称等の情報や、処理ルートを構成する処理工程の種類、処理ルートを構成する処理工程同士の接続を示す情報等を含む。また、処理ルートデータは、最初入力物質である廃棄物の種類、最初入力物質である廃棄物の量、最終出力物質である再生原料の種類、最終出力物質である再生原料の量等の情報を含むことができる。
【0055】
図4は、既存処理ルートデータベースの内容の一例を示す図である。
図4には、既存処理ルートデータベース120に保存される処理ルートデータの内容の一例を示す。
図4に示すように、既存処理ルートデータベース120には、基礎モデルである既存の処理ルートを表す処理ルートデータが保存される。
【0056】
図4には、
図3に示す処理ルートの処理ルートデータの内容を示す。処理ルートデータとしては、処理ルートを構成する処理工程の種類および処理工程の順序を特定するデータが保存される。また、処理ルートを構成する処理工程同士の接続を表す内部データが保存される。処理工程同士の接続は、例えば、入力側の処理工程に関わる物質と出力側の処理工程に関わる物質との組み合わせ毎に物質同士の対応関係の有無をバイナリ形式で特定することによって表すことができる。
【0057】
反応データベース130は、ケミカルリサイクルに関わる反応を表す反応データの集合を記憶する。ケミカルリサイクルに関わる反応としては、所定の反応物質を所定の生成物質に変換する化学的な反応であって、熱分解反応、酸化反応、部分酸化反応、ガス化反応、モノマ化反応等が挙げられる。反応データとしては、反応物質と生成物質とが特定された既知の反応を表すデータが保存される。反応データは、システムの運用者等によって、処理ルートを作成する処理の事前に登録される。
【0058】
反応データは、反応データ同士を識別する反応の名称等の情報や、反応物質の種類、生成物質の種類等の情報を含む。反応データは、反応物質と生成物質とが特定されており、反応に伴う反応熱の計算が可能である限り、素反応のデータであってもよいし、多段階反応のデータであってもよい。反応データは、処理工程生成部20による新規の処理工程の生成に用いられる。
【0059】
図5は、反応データベースの内容の一例を示す図である。
図5には、反応データベース130に保存される反応データの内容の一例を示す。
図5に示すように、反応データベース130には、ケミカルリサイクルに関わる物質に関する反応データが保存される。
【0060】
図5には、油化の処理工程で利用可能なポリエチレン(PE)の段階的な分解反応を示す。
図5において、反応物質であるPEは、熱分解反応によって生成物質であるC
n1H
m1とC
n2H
m2に分解される。C
n1H
m1は、熱分解反応によってC
n3H
m3とC
n4H
m4に分解される。C
n2H
m2は、熱分解反応によってC
n5H
m5とC
n6H
m6に分解される。
【0061】
このような反応データは、ケミカルリサイクルに関わる種々の物質について登録される。反応データは、既存の反応の情報を参照して、反応データベース130に予め用意しておくことができる。既存の反応の情報としては、企業、学術機関、研究機関等によって開発された反応の情報や、文献、学会等で報告された反応の情報等を利用できる。
【0062】
物性データベース140は、ケミカルリサイクルに関わる物質の物性を表す物性データの集合を記憶する。ケミカルリサイクルに関わる物質としては、最初入力物質である廃棄物自体を構成する物質や、廃棄物に由来する中間生成物等を構成する物質や、最終出力物質である再生原料を構成する物質が挙げられる。物性データとしては、ケミカルリサイクルに関わる反応に関与する反応物質や生成物質等の既知の物質の物性を表すデータが保存される。物性データは、システムの運用者等によって、処理ルートを作成する処理の事前に登録される。
【0063】
物性データは、物性データ同士を識別する物質の名称等の情報や、物質の融点、物質の沸点、物質の生成熱(生成エンタルピ)等の情報を含む。物質の生成熱の情報としては、反応データに対応する物質のデータであって、ケミカルリサイクルに関わる反応に関与する反応物質や生成物質等の既知の物質のデータを含むことが好ましい。物性データは、理想状態についてのデータであってもよいし、実在状態についてのデータであってもよい。物性データは、処理工程生成部20による新規の処理工程の生成に用いられる。
【0064】
図6は、物性データベースの内容の一例を示す図である。
図6には、物性データベース140に保存される物性データの内容の一例を示す。
図6に示すように、物性データベース140には、ケミカルリサイクルに関わる物質毎の物性データが保存される。
【0065】
図6には、ポリエチレン(PE)やその分解生成物(C
nH
m)の物性を示す。PEは、融点がX1℃、沸点がY1℃、生成熱がZ1J/molである。C
n1H
m1は、融点がX2℃、沸点がY2℃、生成熱がZ2J/molである。C
n2H
m2は、融点がX3℃、沸点がY3℃、生成熱がZ3J/molである。
【0066】
このような物性データは、反応データの内容に対応するように、ケミカルリサイクルに関わる種々の物質について登録される。物性データは、既存の物質の物性の情報を参照して、物性データベース140に予め用意しておくことができる。既存の物質の物性の情報としては、企業、学術機関、研究機関等によって開発された物質の物性の情報や、文献、学会等で報告された物質の物性の情報等を利用できる。
【0067】
処理工程生成部20は、ケミカルリサイクルに関わる新規の処理工程を生成する。新規の処理工程とは、ケミカルリサイクルルート作成システム1に登録されていない処理工程であって、処理に供される入力物質と処理によって得られる出力物質との物質収支や、処理毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータが未知である処理の工程を意味する。新規の処理工程の生成には、反応データベース130に保存された反応データ、および、物性データベース140に保存された物性データが用いられる。
【0068】
処理工程生成部20は、反応データベース130に保存された反応データ、および、物性データベース140に保存された物性データに基づいて、反応を伴う処理工程として、反応物質等の入力物質、生成物質等の出力物質、および、処理に伴う反応の反応熱が特定された新規の処理工程を生成する。また、分離操作を伴う処理工程として、入力物質、出力物質、および、これらの比率が特定された新規の処理工程を生成する。
【0069】
新規の処理工程は、基礎モデルである既存の処理ルートについて、バリエーションの作成や自由端を持つ経路の補完を行うために、既存の反応情報や既存の物性情報に基づいて仮定的に生成される。新規の処理工程は、基礎モデルである既存の処理ルートに対して経路を追加するように付加できる。また、基礎モデルである既存の処理ルートが自由端を持つ場合、経路が延長または閉じるように付加できる。
【0070】
新規の処理工程としては、一つの処理工程を生成してもよいし、複数の処理工程を生成してもよい。但し、数理最適化の対象となる新規の処理ルートのバリエーションを生成する観点からは、既存の反応データや既存の物性データが登録されている範囲内で、複数の処理工程を生成することが好ましい。また、基礎モデルである既存の処理ルートが自由端を持つ場合、少なくとも自由端に接続されるように生成することが好ましい。
【0071】
新規の処理工程は、基礎モデルである既存の処理ルートを構成する既存の処理工程に対して、処理工程に関わる入力物質および出力物質のうちの少なくとも一方が相互に一致するように生成できる。新規の処理工程は、自由端に対して接続されることが好ましいが、接続後に自由端を形成するように生成されてよいし、接続後に自由端を形成しないように生成されてもよい。
【0072】
新規の処理工程は、基礎モデルである既存の処理ルートを構成する既存の処理工程に対して、直接的に接続されてもよいし、間接的に接続されてもよい。新規の処理工程は、既存の処理工程に対して直接的に接続された新規の処理工程に対して、処理工程に関わる入力物質および出力物質のうちの少なくとも一方が相互に一致するように間接的に接続することもできる。
【0073】
新規の処理工程は、処理工程データ同士を識別する処理工程の名称等の情報が設定される。また、処理に供される入力物質の種類、処理に供される入力物質の量、処理によって得られる出力物質の種類、処理によって得られる出力物質の量、処理に伴う反応の反応熱の情報が仮定的に設定される。また、ケミカルリサイクルの方法の種類、入力エネルギの種類、出力エネルギの種類、処理毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータの情報を仮定的に設定できる。
【0074】
例えば、処理工程生成部20は、新規の処理工程についての入力物質の種類や、新規の処理工程についての出力物質の種類を、反応データベース130に反応データが保存されており、且つ、物性データベース140に物性データが保存されている物質のうちで、基礎モデルを構成する既存の処理工程に関わる物質と一致するように設定する。
【0075】
また、処理工程生成部20は、新規の処理工程についての入力物質の量や、新規の処理工程についての出力物質の量を、既存の処理ルートを構成する既存の処理工程に対して物質収支を充足するように設定する。例えば、処理工程同士が一対一で接続される場合には、既存の処理工程への入力物質の量と新規の処理工程からの出力物質の量とを、互いに一致させることができる。また、既存の処理工程からの出力物質の量と新規の処理工程への入力物質の量とを、互いに一致させることができる。
【0076】
また、処理工程生成部20は、処理に伴う反応の反応熱を、物性データベース140に保存されている物性データに基づいて、熱化学的な計算によって設定する。例えば、熱分解反応を生じる油化等、潜熱を無視できる反応が処理に関わる場合、反応熱Qは、入力物質の生成熱の総和をEin、出力物質の生成熱の総和をEoutとしたとき、次の式(1)によって計算できる。
Q=Ein-Eout・・・(1)
【0077】
入力エネルギの量、出力エネルギの量、処理毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータについては、類似した処理工程のデータから推定される推定値や、実測によって測定された測定値等を設定できる。これらのパラメータについては、システムの使用者によって入力してもよいし、システム上で解析によって推定して入力してもよい。
【0078】
新規処理工程データベース150は、ケミカルリサイクルに関わる新規の処理工程を表す処理工程データの集合を記憶する。新規の処理工程を表す処理工程データは、処理ルートを作成する処理同士の間で供用することができる。新規の処理工程を表す処理工程データは、処理工程生成部20によって登録される。
【0079】
図7は、新規処理工程データベースの内容の一例を示す図である。
図7には、新規処理工程データベース150に保存される処理工程データが表す処理工程情報の一例を示す。
図7に示すように、新規処理工程データベース150には、新規の処理工程毎の処理工程データが保存される。
【0080】
図7には、新規の処理工程として生成された油化の処理工程を示す。この処理工程では、入力物質として1tonのポリエチレン(PE)が投入されて、出力物質として1tonのポリエチレンの分解生成物である生成油(C
n6H
m6)が生成される。生成油を生成する反応の反応熱の総量は、YJ/molとなる。
【0081】
このような新規の処理工程を表す処理工程データは、基礎モデルである既存の処理ルート毎に用意される。入力エネルギの量、出力エネルギの量、装置の運転コスト、装置の建設コスト、CO2排出量、処理能力等のケミカルリサイクルに関わるパラメータの情報は、処理ルートの選抜の指標として用いる場合に設定できる。
【0082】
処理工程付加部30は、基礎モデルである既存の処理ルートに新規の処理工程を付加して新規の処理ルートの候補を生成する。新規の処理ルートの候補は、新規の処理工程を付加することによって生成されるため、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっている場合、および、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっていない場合の両方を含む。新規の処理工程の付加には、新規処理工程データベース150に保存された新規の処理工程の情報が用いられる。
【0083】
処理工程付加部30は、基礎モデルである既存の処理ルートを構成する既存の処理工程、および、新たに生成された新規の処理工程について、処理工程に関わる入力物質や出力物質等の物質同士の照合を行う。そして、新規の処理工程に関わる物質と、既存の処理ルートを構成する処理工程に関わる物質、既存の処理ルートの最初入力物質である廃棄物を構成する物質、または、既存の処理ルートの最終出力物質である再生原料を構成する物質とが、互いに一致するか否かを判定する。判定の結果、物質同士が一致しているとき、既存の処理ルートに新規の処理工程を付加して新規の処理ルートの候補を生成する。
【0084】
新規の処理ルートの候補は、一種の既存の処理ルートを基礎として生成されてもよいし、複数種の既存の処理ルートを基礎として生成されてもよい。また、一つの基礎モデル当たり、一つの処理工程が付加されてもよいし、複数の処理工程が付加されてもよい。新規の処理ルートの候補は、自由端を有してもよいし、自由端を有しなくてもよい。
【0085】
新規の処理ルートの候補は、候補同士を識別する名称等の情報が設定される。また、新規の処理ルートの候補を構成する処理工程の種類および処理工程の順序の情報が設定される。また、ケミカルリサイクルの方法の種類、最初反応物質である廃棄物の種類、最初反応物質である廃棄物の量、最終生成物質である再生原料の種類、最終生成物質である再生原料の量等の情報を設定できる。
【0086】
処理ルートデータベース160は、基礎モデルとして生成されたケミカルリサイクルに関わる既存の処理ルートを表す処理ルートデータ、および、バリエーションとして生成された新規の処理ルートを表す処理ルートデータの集合を記憶する。既存の処理ルートを表す処理ルートデータ、および、新規の処理ルートを表す処理ルートデータは、処理ルートを作成する処理毎に登録される。
【0087】
新規処理ルート特定部40は、新規の処理ルートの候補のうちで新規の処理ルートを特定する。新規の処理ルートとしては、新規の処理ルートの候補の中から、既存の処理ルートとは異なり、且つ、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっているものが特定される。新規の処理工程の特定には、処理ルートデータベース160に保存された新規の処理工程の情報が用いられる。
【0088】
新規処理ルート特定部40は、処理工程付加部30によって生成された新規の処理ルートの候補について、処理工程同士の対応関係の照合を行う。そして、所定の新規の処理ルートを構成する処理工程に関わる物質と、他の処理ルートを構成する処理工程に関わる物質、既存の処理ルートの最初入力物質である廃棄物を構成する物質、または、既存の処理ルートの最終出力物質である再生原料を構成する物質とが、互いに一致するか否かを判定する。判定の結果、物質同士が一致しているとき、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっていると特定できる。
【0089】
判定の結果、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっている場合、当該処理ルートの候補を新規の処理ルートに分類できる。新規処理ルート特定部40は、例えば、新規の処理ルートに分類された処理ルートデータを、新規である旨を表す識別子と関連付けて登録する。一方、判定の結果、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっていない場合、当該処理ルートの候補を新規の処理ルートに分類せず、数理最適化の対象としない。
【0090】
図8は、既存の処理ルートに新規の処理工程を付加した新規の処理ルートの一例を示す図である。
図8には、
図3に示す既存の処理ルートに新規の処理工程A~Cを付加した結果を示す。
図8に示すように、新規の処理ルートは、既存の処理ルートと同様に、処理工程をノードとする所定のストラクチャとして表現できる。最初入力物質である廃棄物から最終出力物質である再生原料までの経路が繋がっている既存の処理ルートおよび新規の処理ルートを数値最適化の対象とすることができる。
【0091】
図8には、既存の処理ルートに油化1とは異なる新規の処理工程A~Cを付加した結果を示す。
図8において、最初入力物質である混合廃プラスチック201は、新規の処理工程Aによって生成物A206に変換される。また、混合生成油202は、新規の処理工程Bによって生成物B207に変換される。生成物B207は、新規の処理工程Cによって中質油204に変換される。
【0092】
処理工程付加部30によると、基礎モデルである既存の処理ルートに新規の処理工程が付加されて新規の処理ルートの候補が生成される。このような処理によると、登録されている反応データや物性データの範囲内で、処理工程に関わる物質同士の対応関係に基づいて、新規の処理ルートの候補を網羅的に生成できる。
【0093】
但し、処理工程に関わる物質同士の対応関係に基づくと、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっていない場合が生じ得る。
図8では、生成物A206を処理する処理工程が存在しないため、生成物A206を経由するケミカルリサイクルが不能である。このような新規の処理ルートの候補は、新規処理ルート特定部40によって排除される。
【0094】
新規処理ルート特定部40によると、新規の処理ルートの候補のうちで、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっている新規の処理ルートが特定されるため、基礎モデルである既存の処理ルートおよび新規の処理ルートによって構成されるデータ集合が得られる。このようなデータ集合は、想定される範囲内で実現の可能性がある処理ルートのバリエーションを網羅しており、数理最適化の対象となるスーパーストラクチャを構成する。
【0095】
図9は、処理ルートデータベースの内容の一例を示す図である。
図9には、処理ルートデータベース160に保存される処理ルートデータの内容の一例を示す。
図9に示すように、処理ルートデータベース160には、既存の処理ルートを表す処理ルートデータおよび新規の処理ルートを表す処理ルートデータが保存される。これらのデータ集合は、スーパーストラクチャを構成するデータとなる。
【0096】
図9には、
図8に示す処理ルートに関する処理ルート情報を示す。ケミカルリサイクル油化ルート1は、基礎モデルである既存の処理ルートに相当する。ケミカルリサイクル油化ルート3は、バリエーションとして追加された新規の処理ルートに相当する。
図9には、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっていないケミカルリサイクル油化ルート2についても表示している。ケミカルリサイクル油化ルート2は、自由端を有しており、スーパーストラクチャを構成しない経路である。
【0097】
処理ルートデータとしては、処理ルートを構成する処理工程の種類および処理工程の順序を特定するデータが保存される。また、処理ルートを構成する処理工程同士の接続を表す内部データや、新規の処理ルートとして特定されたことを示す内部データが保存される。処理工程同士の接続は、例えば、入力側の処理工程に関わる物質と出力側の処理工程に関わる物質との組み合わせ毎に物質同士の対応関係の有無をバイナリ形式で特定することによって表すことができる。
【0098】
処理ルートデータベース160に保存された処理ルートデータは、処理工程同士の接続のバリエーションを網羅しており、最大化ないし最小化されたケミカルリサイクルに関わるパラメータを与えるための変数として処理工程の種類や処理工程同士の接続を示す情報を提供する。また、処理ルートを構成する処理工程の内容は、線形関数や整数変数として表すことができる。そのため、このようなデータ集合を対象とした線形計画問題を考えることができる。
【0099】
問題生成部50は、複数の処理ルートの中からケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された処理ルートを選抜するための数理最適化の数理モデルを生成する。数理最適化の数理モデルは、基礎モデルである既存の処理ルートおよび新規の処理ルートによって構成されるスーパーストラクチャを対象として、処理ルートを選抜するために生成される。数理モデルの生成には、処理ルートデータベース160に保存された基礎モデルである既存の処理ルートを表す処理ルートデータ、および、処理ルートデータベース160に保存された新規の処理ルートを表す処理ルートデータが用いられる。
【0100】
数理最適化の数理モデルは、処理ルートを構成する処理工程同士の間における物質移動量、すなわち、処理ルートを構成する入出力関係が特定されている処理工程の種類および処理工程同士の接続を変数として、最適化問題として定式化できる。最適化問題を解析すると、所定の目的関数を最大化または最小化する解が求められる。最適化問題には、所定の制約条件が付加されてもよいし、制約条件が付加されてなくてもよい。
【0101】
目的関数としては、ケミカルリサイクルに関わるパラメータのうちの任意の一種以上を設定できる。目的関数としては、例えば、ケミカルリサイクルに関わる処理について、処理の実行のために入力する必要がある入力エネルギの量、処理の実行によって出力される出力エネルギの量、入力エネルギに対する使用エネルギの利用効率、入力エネルギに対する出力エネルギの回収効率、処理によって生じる反応熱の総量、処理の実行に必要な装置の運転コスト、処理の実行に必要な装置の建設コスト、処理によって排出されるCO2排出量、入力物質の処理能力、処理に投入される入力物質の原料コスト、処理によって回収される出力物質の製造コスト等が挙げられる。
【0102】
制約条件としては、ケミカルリサイクルに関わるパラメータのうちの任意の一種以上を制約する条件を設定できる。制約条件としては、例えば、任意のケミカルリサイクルに関わるパラメータについて、任意の上限値や、任意の下限値を設定できる。ケミカルリサイクルに関わるパラメータは、処理工程同士の間における物質移動量に対して線形性を示すと仮定できる。
【0103】
問題データベース170は、数理最適化の数理モデルを表す問題データの集合を記憶する。数理モデルは、処理ルートを構成する処理工程における入力物質と出力物質との収支を表す入出力収支式や、処理ルートを構成する処理工程同士の間における物質移動の収支を表す物質収支式や、処理ルートの選抜の指標となるケミカルリサイクルに関わるパラメータを計算するための計算式によって構成される。問題データは、問題生成部50によって登録される。
【0104】
問題データは、数理モデル同士を識別する数理モデルの名称等の情報や、数理モデルを表す数式や、数理モデルに関するテーブルや、処理ルートの選抜の指標となるケミカルリサイクルに関わるパラメータ等の情報を含む。また、問題データは、既存の処理ルートを表す処理ルートデータに関する情報や、新規の処理ルートを表す処理ルートデータに関する情報を含むことができる。
【0105】
問題計算部60は、既存の処理ルートおよび新規の処理ルートを対象とした数理最適化の数理モデルの計算によって、既存の処理ルートおよび新規の処理ルートによって構成される複数の処理ルートの中から、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された処理ルートを選抜する。数理モデルの計算には、問題データベース170に保存された数理モデルの情報、目的関数データ210に表されるケミカルリサイクルに関わるパラメータの情報、処理ルートデータベース160に保存された既存の処理ルートの情報、および、処理ルートデータベース160に保存された新規の処理ルートの情報が用いられる。
【0106】
数理最適化の数理モデルは、混合整数線形計画問題として解くことができる。処理工程を構成する処理工程同士の接続が処理ルートデータによって特定されているためである。また、処理ルートを構成する処理工程の内容は、線形関数や整数変数として表すことができるためである。計算のアルゴリズムとしては、分枝限定法、分枝カット法等を用いることができる。離散的な数理最適化によって、処理ルートを構成する処理工程の種類や、処理ルートを構成する処理工程同士の接続について、組み合わせ最適化の解を短時間に求めることができる。
【0107】
例えば、ケミカルリサイクルに関わるパラメータの数理最適化によって、入力エネルギの量の最小値、出力エネルギの量の最大値、入力エネルギに対する使用エネルギの利用効率の最大値、入力エネルギに対する出力エネルギの回収効率の最大値、処理によって生じる反応熱の総量の最小値、装置の運転コストの最小値、装置の建設コストの最小値、CO2排出量の最小値、処理能力の最小値、原料コストの最小値、製造コストの最小値等を求めることができる。
【0108】
問題計算部60は、数理最適化の数理モデルを計算して、システムの使用者によって指定されたケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを表す作成結果データ220を出力する。作成結果データ220は、出力部80や不図示の通信機能を介して、システムの使用者等に対して出力できる。
【0109】
処理ルートの作成結果データ220は、処理ルート同士を識別する処理ルートの名称等の情報や、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを示す情報や、数理最適化の対象とされた他の処理ルートを示す情報や、処理ルート毎のケミカルリサイクルに関わるパラメータ等の情報を含む。ケミカルリサイクルに関わるパラメータは、数理最適化の対象とされた複数の処理ルートについて処理ルート毎に計算できる。作成結果220としては、数理最適化の対象とされた複数の処理ルートをテーブル等として表示できる。複数の処理ルートは、処理ルート毎に計算されたケミカルリサイクルに関わるパラメータにしたがって昇順、降順等に配列させて表示できる。
【0110】
図10は、処理ルートを作成する処理を示すフローチャートである。
図10に示すように、ケミカルリサイクルルート作成システム1では、システムの使用者による指示の入力にしたがって、処理ルートを作成する処理および作成結果データの出力を自動的に行う。ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートは、仮想的に作成されるため、逆算によってプロセスの妥当性を確認できる。
【0111】
はじめに、ケミカルリサイクルルート作成システム1に対して、廃棄物をケミカルリサイクルするための処理ルートの作成の指示が入力される(ステップS10)。
【0112】
ステップS10において、ケミカルリサイクルルート作成システム1には、処理ルートを作成する処理毎に、最初入力物質である廃棄物の種類、最終出力物質である再生原料の種類、および、処理ルートの選抜の指標となるケミカルリサイクルに関わるパラメータを特定する情報が入力されると共に、処理ルートを作成する処理の開始が指示される。
【0113】
続いて、処理ルートを作成する指示に基づいて、新規の処理ルートを仮定的に生成するための基礎モデルとして用いられる既存の処理ルートが構築される(ステップS11)。
【0114】
ステップS11において、モデル構築部10は、既存処理工程データベース110に保存されている既存の処理工程を表す処理工程データの中から、指定された最初入力物質が関わる処理工程を表す処理工程データ、指定された最終出力物質が関わる処理工程を表す処理工程データ、これらの最初入力物質や最終出力物質と共に既存の処理ルートを構成する中間生成物等が関わる処理工程を表す処理工程データを取得する。そして、これらの処理工程データに基づいて、基礎モデルとなる既存の処理ルートを構築する。そして、基礎モデルとなる既存の処理ルートを表す処理ルートデータを既存処理ルートデータベース120に保存する。
【0115】
続いて、基礎モデルである既存の処理ルートに付加するための新規の処理工程が生成される(ステップS12)。
【0116】
ステップS12において、処理工程生成部20は、反応データベース130に保存されているケミカルリサイクルに関わる反応を表す反応データの中から、指定された最初入力物質が関わる反応を表す反応データ、指定された最終出力物質が関わる反応を表す反応データ、これらの最初入力物質や最終出力物質と共に既存の処理ルートを構成する中間生成物等が関わる反応を表す反応データを取得する。また、物性データベース140に保存されているケミカルリサイクルに関わる物質の物性を表す物性データの中から、指定された最初入力物質の物性を表す物性データ、指定された最終出力物質の物性を表す物性データ、これらの最初入力物質や最終出力物質と共に既存の処理ルートを構成する中間生成物等の物性を表す物性データを取得する。そして、これらの反応データおよび物性データに基づいて、既存の処理工程とは異なる新規の処理工程を仮定的に生成する。そして、新規の処理工程を表す処理工程データを新規処理工程データベース150に保存する。
【0117】
続いて、既存の処理ルートに基づいて構築された基礎モデルである既存の処理ルートに対し、仮定的に生成された新規の処理工程が付加される(ステップS13)。基礎モデルに新規の処理工程が付加されることによって、スーパーストラクチャを構築するための新規の処理ルートの候補が生成される。
【0118】
ステップS13において、処理工程付加部30は、既存処理ルートデータベース120に保存されている基礎モデルである既存の処理ルートを表す処理ルートデータの中から、指定された最初入力物質や最終出力物質が関わる基礎モデルである既存の処理ルートを表す処理ルートデータを取得する。また、新規処理工程データベース150に保存されている新規の処理工程を表す処理工程データの中から、基礎モデルに関わる物質と同一の物質が関わる処理工程を表す処理工程データを取得する。そして、これらの処理ルートデータおよび処理工程データに基づいて、新規の処理ルートの候補を仮定的に生成する。そして、基礎モデルである既存の処理ルートを表す処理ルートデータおよび新規の処理ルートの候補を表す処理ルートデータを処理ルートデータベース160に保存する。
【0119】
続いて、新規の処理ルートの候補の中から、新規の処理ルートが特定される(ステップS14)。最初反応物質から最終生成物質までの経路が繋がった処理ルートが特定されることによって、新規の処理ルートが生成される。
【0120】
ステップS14において、新規処理ルート特定部40は、処理ルートデータベース160に保存されている新規の処理ルートの候補を表す処理ルートデータを取得する。そして、新規の処理ルートの候補について、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっているか否かを判定する。判定の結果、廃棄物から再生原料までの経路が繋がっている場合、当該処理ルートの候補を新規の処理ルートに分類して、新規の処理ルートを表す処理ルートデータとして処理ルートデータベース160に保存する。
【0121】
続いて、複数の処理ルートの中から処理ルートを選抜するための数理最適化の数理モデルが生成される(ステップS15)。スーパーストラクチャを構成する既存の処理ルートおよび新規の処理ルートの集合を対象として、システムの使用者によって指定されたケミカルリサイクルに関わるパラメータを最大化ないし最小化するための数理モデルが定式化される。
【0122】
ステップS15において、問題生成部50は、処理ルートデータベース160に保存された既存の処理ルートを表す処理ルートデータ、および、処理ルートデータベース160に保存された新規の処理ルートを表す処理ルートデータを取得する。そして、これらの処理ルートデータに基づいて、数理最適化の数理モデルを生成する。そして、数理モデルを表す問題データを問題データベース170に保存する。
【0123】
続いて、数理最適化の数理モデルの計算によって、複数の処理ルートの中からケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートが選抜される(ステップS16)。
【0124】
ステップS16において、問題計算部60は、問題データベース170に保存された数理モデルを表す問題データを読み出す。また、処理ルートデータベース160に保存された既存の処理ルートを表す処理ルートデータ、および、処理ルートデータベース160に保存された新規の処理ルートを表す処理ルートデータを読み出す。そして、問題データおよび処理ルートデータに基づいて、目的関数であるケミカルリサイクルに関わるパラメータを最大化または最小化する最適化問題の解を計算する。
【0125】
続いて、数理モデルの計算結果として、選抜された処理ルートの作成結果データが出力される(ステップS17)。出力部80は、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを示す作成結果データを出力する。作成結果データの出力によって、処理ルートを作成する処理が終了する。
【0126】
このようなケミカルリサイクルルート作成システム1によると、処理ルートデータベース160に基づいて、問題計算部60によって数理最適化の数理モデルの計算が行われる。そのため、廃棄物をケミカルリサイクルするための処理ルートが、潜在的に多数のバリエーションを採り得る場合であっても、スーパーストラクチャを考慮した数理モデルの計算によって、網羅的に用意された複数の処理ルートの中から、廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を求めることができる。よって、廃棄物を再生原料にケミカルリサイクルする要求に対して、効率的な処理の経路を提案できる。
【0127】
特に、処理工程生成部20によって新規の処理工程が生成された後、処理工程付加部30によって既存の処理ルートに新規の処理工程が付加されて新規の処理ルートの候補が生成されるため、従来よりもスーパーストラクチャの範囲を拡張できる。想定される範囲内で実現の可能性がある複数の処理ルートの中に、エネルギ効率、処理能力、コスト性等の詳細が不明である処理工程や、未開発である処理工程が含まれる場合等であっても、仮定的に生成された新規の処理工程が付加されるため、経路が完結するように補完されると共に、代替的な経路や新規の経路が拡張される。よって、廃棄物から再生原料までのプロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、効率的な処理の経路を求めることができる。
【0128】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システムの構成を示す図である。
図11に示すように、本実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システム2は、ケミカルリサイクルルート作成システム1と同様に、モデル構築部10と、処理工程生成部20と、処理工程付加部30と、新規処理ルート特定部40と、問題生成部50と、問題計算部60と、入力部70と、出力部80と、既存処理工程データベース110と、既存処理ルートデータベース120と、反応データベース130と、物性データベース140と、新規処理工程データベース150と、処理ルートデータベース160と、問題データベース170と、を備えている。
【0129】
第2実施形態に係るケミカルリサイクルルート作成システム2が、前記のケミカルリサイクルルート作成システム1と異なる点は、通信部90を備えており、通信回線を介して、システムを使用する外部の使用者が用いる使用者端末310や、処理工程に関する情報を提供する提供者が用いる提供者端末320との通信を行う点である。
【0130】
通信部90は、通信インターフェイスを介して、ケミカルリサイクルルート作成システム1の計算機と接続される。通信部90は、処理ルートを作成する処理に関わるデータや、処理ルートを作成する処理の要求のデータや、処理ルートの作成結果のデータ等の送受信を行う。
【0131】
通信部90、使用者端末310および提供者端末320は、通信回線を介して接続される。通信回線は、インターネット、LAN(Local Area Network)等で構成される。通信回線は、有線通信回線、無線通信回線、これらを組み合わせた回線のいずれであってもよい。
【0132】
使用者端末310は、ケミカルリサイクルルート作成システム2を使用する外部の使用者によって操作される。使用者端末310は、コンピュータ等のハードウェアによって形成される。使用者端末310は、ケミカルリサイクルルート作成システム2との間でデータの送受信を行うための通信デバイスを搭載している。
【0133】
提供者端末320は、処理工程等に関する情報を提供する提供者によって操作される。提供者端末320は、コンピュータ等のハードウェアによって形成される。提供者端末320は、ケミカルリサイクルルート作成システム2との間でデータの送受信を行うための通信デバイスを搭載している。
【0134】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、外部の使用者による要求に応じて、処理ルートを作成する処理を実行し、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを示す作成結果データを、外部の使用者に対して提供できる。
【0135】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、使用者端末310を介して入力された処理ルートを作成する指示を受信し、外部の使用者毎の要求をデータベースに登録する。使用者毎に入力された最初入力物質である廃棄物を指定する情報や、最終出力物質である再生原料を指定する情報や、処理ルートの選抜の指標となるケミカルリサイクルに関わるパラメータを特定する情報は、使用者を識別する識別子と関連付けられてデータベースに記憶される。
【0136】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、外部の使用者による要求毎に、処理ルートを作成する処理を実行し、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを選抜する。処理ルートの作成結果は、使用者を識別する識別子と関連付けられてデータベースに記憶される。処理ルートの作成結果データは、外部の使用者による要求に応じて使用者端末310に送信される。
【0137】
また、ケミカルリサイクルルート作成システム2は、外部の提供者が提供する処理工程に関する情報や、ケミカルリサイクルに関わる反応の情報や、ケミカルリサイクルに関わる物質の物性の情報を収集できる。新規の処理工程は、企業、学術機関、研究機関等によって開発されることがある。このような処理工程に関する情報や、処理工程に関わる反応や物性の情報を、提供者端末320を介して収集し、反応データベース130や、物性データベース140や、新規処理工程データベース150に登録できる。
【0138】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、提供者端末320を介して入力された処理工程等に関するデータを受信し、反応データベース130や、物性データベース140や、新規処理工程データベース150に登録する。これらの情報は、処理ルートを作成する処理に使用できる。
【0139】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、外部の提供者が提供する処理工程に関する情報を、任意の使用者が利用可能な公開情報と、提供者のみが利用可能な非公開情報とに分類して登録できる。提供者による公開および非公開を指定する情報を受信し、提供者毎の指示をデータベースに登録する。外部の提供者が提供した処理工程に関する情報は、提供者による公開および非公開を指定する情報と関連付けられてデータベースに記憶される。
【0140】
ケミカルリサイクルルート作成システム2は、外部の使用者による指定毎に、処理工程に関する情報を利用して処理ルートを作成する処理を実行し、ケミカルリサイクルに関わるパラメータが最大化ないし最小化された効率的な処理ルートを選抜する。任意の使用者が要求した処理ルートを作成する処理では、公開が許可された処理工程に関する情報のみが用いられる。提供者が要求した処理ルートを作成する処理では、提供者が提供した非公開情報が追加的に用いられる。
【0141】
このようなケミカルリサイクルルート作成システム2によると、外部の使用者が廃棄物をケミカルリサイクルするための効率的な処理の経路を求めることができる。また、外部の提供者が新規の処理工程に関する情報を提供できる。提供された情報によってデータベースを拡張できるため、廃棄物から再生原料までのプロセスの全体が確立されていない場合や、代替的なプロセスが存在する場合であっても、効率的な処理の経路を求めることができる。
【0142】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0143】
1 ケミカルリサイクルルート作成システム
10 モデル構築部
20 処理工程生成部
30 処理工程付加部
40 新規処理ルート特定部
50 問題生成部
60 問題計算部
70 入力部
80 出力部
110 既存処理工程データベース
120 既存処理ルートデータベース
130 反応データベース
140 物性データベース
150 新規処理工程データベース
160 処理ルートデータベース
170 問題データベース