(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179718
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20241219BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241219BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20241219BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241219BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20241219BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C11/00 D
B60C11/13 B
B60C11/00 H
C08K3/013
C08L9/06
C08L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098773
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 直也
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA04
3D131BA05
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB06
3D131BB09
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC19
3D131CA03
3D131DA33
3D131DA34
3D131EA02U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB18V
3D131EB18X
3D131EB22V
3D131EB22X
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB27V
3D131EB72X
4J002AC012
4J002AC02W
4J002AC033
4J002AC062
4J002AC06W
4J002AC081
4J002BA01Z
4J002BC04Z
4J002BC09Z
4J002CE00Z
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD34Z
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】摩耗後のウェットグリップ性能が改善されたタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部、および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、前記トレッド部はタイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、前記第一ゴム層はスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第一ゴム組成物から構成され、前記第二ゴム層はスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第二ゴム組成物から構成され、前記トレッド部はタイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝は溝底の最深部がその周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、前記第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、前記第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの前記タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが以下の関係を満たすタイヤ。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部、および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、
前記第一ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第一ゴム組成物から構成され、
前記第二ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第二ゴム組成物から構成され、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、
前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝は、溝底の最深部がその周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、
前記第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、前記第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの、前記タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが以下の関係を満たすタイヤ。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
【請求項2】
前記第二ゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg2とするとき、Tg2が-30℃超である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一ゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδ1とするとき、30℃tanδ1が0.30未満である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt1とし、前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt2とするとき、St1とSt2の少なくとも一つが25.0未満である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分がブタジエンゴムとイソプレン系ゴムの少なくとも一つを含む、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の少なくとも一つがブタジエンゴムを含む、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分がいずれもブタジエンゴムを含む、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項8】
式(1)の右辺が1.10である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項9】
式(2)の右辺が1.25である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項10】
前記トレッド部が、溝幅がタイヤ半径方向内側で広がっている拡幅周方向溝を有する、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項11】
前記拡幅周方向溝が、タイヤ中心線上に位置する陸部、または、タイヤ中心線上に周方向主溝が存在する場合にはタイヤ中心線に最も近い陸部に存在する、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部が、開口面積が0.1超15未満mm2の小穴を1個以上有する、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項13】
前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部が、少なくとも1以上の周方向細溝を有する、請求項1または2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
グリップ性能と低燃費性能はトレードオフの関係にあるため、例えば、特許文献1には、タイヤのトレッド部を、タイヤ径方向内側に位置するベースゴムと、そのタイヤ径方向外側に位置するキャップゴムの2層構造(いわゆるキャップ/ベース構造)とし、前記ベースゴムに損失正接(tanδ)の小さなゴム組成物を適用して、タイヤの操縦安定性能および低燃費性能の向上を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のようなタイヤの場合、キャップゴム層の損失正接tanδが高いため、新品時のウェットグリップ性能は高い。しかしながら、走行を重ねるごとにキャップゴム層は自己発熱の影響により熱劣化を生じ硬くなるため、トレッド接地面の剛性が高くなり、路面に対する追従性が失われ、ウェットグリップ性能が低下することが懸念される。
【0005】
本発明は、摩耗後のウェットグリップ性能が改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のタイヤに関する。
トレッド部、および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、
前記第一ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第一ゴム組成物から構成され、
前記第二ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第二ゴム組成物から構成され、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、
前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝は、溝底の最深部がその周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、
前記第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、前記第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの、前記タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが以下の関係を満たすタイヤ。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、摩耗後のウェットグリップ性能が改善されたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タイヤ回転軸を通る平面によるタイヤの断面における、タイヤ断面幅Wt、タイヤ外径Dtおよび最も広い幅のベルト層の幅Wbを表した図面である。
【
図3】タイヤのトレッドの一部のタイヤ回転軸を通る平面による断面を表した図面である。
【
図4】タイヤ中心線に最も近い陸部に拡幅周方向細溝を有するタイヤのトレッドの一部の展開図である。
【
図5】
図4の拡幅周方向細溝のタイヤ回転軸を通る平面による断面を表した図面である。
【
図6】ショルダー領域に小穴を有するタイヤのトレッドの一部の展開図である。
【
図7】ショルダー領域に周方向細溝を有するタイヤのトレッドの一部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態であるタイヤは、トレッド部、および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、前記トレッド部はタイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、前記第一ゴム層はスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第一ゴム組成物から構成され、前記第二ゴム層はスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第二ゴム組成物から構成され、前記トレッド部はタイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝は溝底の最深部がその周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、前記第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、前記第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの前記タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが以下の関係を満たすタイヤである。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
【0010】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明において、摩耗後のウェットグリップ性能が改善されるメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0011】
すなわち、(1)少なくとも二層の異なるトレッドゴムを用い、所定の周方向主溝を有する本発明のタイヤは、一層目の表層のゴムが摩耗すると二層目のトレッドゴムが表面に露出し、かつ、一層目のトレッドゴムが陸部のエッジ部分に残る形となる。この時、二層目のゴムにシリカ量の多いゴムを用いることで、摩耗後のウェットグリップ性能を高める効果が得られる。また、(2)一層目のゴムトレッドは二層目よりもシリカ量が少ないためその分柔らかい。このため、陸部のエッジ部分に残った一層目のゴムは路面追従性を発揮し、二層目のゴムによるウェットグリップ効果を強化することができる。さらに、(3)摩耗する事で摩耗前よりも地面との接触面積が大きくなることにより摩耗後のウェットグリップ性能を高める効果が得られる。そして、(1)~(3)が協働することで、摩耗後におけるウェットグリップ性能が向上するものと考えられる。
【0012】
前記第二ゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg2とするとき、Tg2は、-30℃超であることが好ましい。
【0013】
第二ゴム層のガラス転移温度を高めることで、第二ゴム層の発熱性を高め、摩耗後の陸部の中央での摩擦を生じさせ易くすることができると考えられる。
【0014】
前記第一ゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδ1とするとき、30℃tanδ1は、0.30未満であるであることが好ましい。
【0015】
第一ゴム層の30°Ctanδを抑えることで、第一ゴム層の入力/応答の位相差を小さくし、反力を生じやすくすることができると考えられる。
【0016】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt1とし、前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt2とするとき、St1とSt2の少なくとも一つは、25.0未満であることが好ましい。
【0017】
第一ゴム層や第二ゴム層を構成するゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量を少なくすることで、第一ゴム層ではスチレン部によるドメイン(スチレン部ドメイン)がゴム組成物内に形成されることを抑制し、スチレン部ドメインによる周囲のゴム分子鎖との間の発熱を抑制し、応答性を向上させやすくすることができると考えられる。また、第二ゴム層では、路面の微細な応答に対して追従しやすくすることができると考えられる。
【0018】
前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分は、ブタジエンゴムとイソプレン系ゴムの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0019】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の少なくとも一つは、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0020】
前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分は、いずれも、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0021】
前記トレッド部は、溝幅がタイヤ半径方向内側で広がっている拡幅周方向溝を有することが好ましい。
【0022】
摩耗後、拡幅周方向溝は溝幅が拡大するので、排水性が向上し、ウェットグリップ性能が向上するものと考えられる。
【0023】
前記拡幅周方向溝は、タイヤ中心線上に位置する陸部、または、タイヤ中心線上に周方向主溝が存在する場合にはタイヤ中心線に最も近い陸部に存在することが好ましい。
【0024】
摩耗後、拡幅周方向溝は溝幅が拡大するので、タイヤ幅方向中央部での排水性が向上し、ウェットグリップ性能が向上するものと考えられる。
【0025】
前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部は、開口面積が0.1超15未満mm2の小穴を1個以上有することが好ましい。
【0026】
小穴は排水性の向上に寄与するので、ショルダー陸部での排水性が向上し、ウェットグリップ性能が向上するものと考えられる。
【0027】
前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部は、少なくとも1以上の周方向細溝を有することが好ましい。
【0028】
周方向細溝は排水性の向上に寄与するので、ショルダー陸部での排水性が向上し、ウェットグリップ性能が向上するものと考えられる。
【0029】
[定義]
「正規状態」とは、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。「タイヤの各部の寸法等」は、特に断りがない限り、正規状態で特定される値とする。
【0030】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば“JATMA YEAR BOOK“に記載されている適用サイズにおける標準リム、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば“STANDARDS MANUAL”に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association, Inc.)であれば“YEAR BOOK”に記載されている“Design Rim”を指し、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合には、リム組み可能であって、内圧が保持できるリム、即ちリム/タイヤ間からエア漏れを生じさせないリムの内、最もリム径が小さく、次いでリム幅が最も狭いものを指す。
【0031】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば「最高空気圧」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とし、正規リムと同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合、前記正規リムを標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(規格に定められているもの)の正規内圧(但し、250KPa以上)を指す。なお、250KPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指す。
【0032】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、ETRTO規格における“LOAD CAPACITY”、およびTRA規格における“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に掲載された「最大値」、「正規荷重」であり、正規リムおよび正規内圧と同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合は、以下の計算により、正規荷重WL(kg)を求める。
WL=0.000011×V+175
V={(Dt/2)2-(Dt/2-Ht)2}×π×Wt
V:タイヤの仮想体積(mm3)
Dt:タイヤ外径Dt(mm)
Ht:タイヤの断面高さ(mm)
Wt:タイヤの断面幅(mm)
【0033】
前記のタイヤ断面幅Wtは、正規状態において、タイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いたものとしてのサイドウォール外面間の最大幅である。前記のタイヤ断面高さHtは、ビード部底面からトレッド最表面までの距離であり、タイヤの外径Dtとリム径の呼びとの差の1/2である。
【0034】
「ベルト層」とは、主にラジアルタイヤにおいて、トレッドのタイヤ半径方向内側に、トレッドに隣接して配置される層であって、カーカスを強く締め付け、トレッドの剛性を高める役割をはたす。ベルト層は、その骨格をなすコードと、当該コードを被覆するゴムとを含んでなるものである。本発明において、ベルト層は、タイヤ工業で通常使用されるベルト層が用いられる。
【0035】
「周方向主溝」とは、タイヤ周方向に連続して延びる溝であって、トレッド面におけるタイヤ幅方向の溝幅が4mm以上のものをいう。周方向主溝は、周方向に沿って直線状に延びていてもよく、周方向に沿って波状や、正弦状や、ジグザグ状に延びていてもよい。但し、後記の拡幅周方向溝は含まない。
【0036】
「周方向細溝」とは、タイヤ周方向に連続して延びる溝であって、トレッド面におけるタイヤ幅方向の溝幅が4mm未満のものをいう。周方向細溝は、周方向に沿って直線状に延びていてもよく、周方向に沿って波状や、正弦状や、ジグザグ状に延びていてもよい。但し、後記の拡幅周方向溝は含まない。
【0037】
「拡幅周方向溝」とは、タイヤ周方向に連続して延びる溝であって、タイヤ幅方向の溝幅が、トレッド面において最小であり、タイヤ径方向内側で拡大するように構成されている溝である。拡幅周方向溝は、周方向に沿って直線状に延びていてもよく、周方向に沿って波状や、正弦状や、ジグザグ状に延びていてもよい。
【0038】
「ゴム成分の総スチレン量(質量%)」とは、ゴム成分全体(100質量%)を構成する各ゴムについて、そのスチレン含量とゴム成分全体に占める含有率とを掛け合わせた値を算出し、それらすべてを合算したものである。
【0039】
「小穴」とは、トレッド面上に存在する小さな穴であり、トレッド内部から延在しトレッド面へ開口している。小穴はそれぞれ独立に存在し、周方向溝、横溝などとは連通していない。
【0040】
[測定方法]
「30℃tanδ」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、初期歪5%、動歪1%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定する損失正接である。損失正接測定用サンプルは、タイヤのトレッド部から切り出して作製する場合には、対象となるゴム層の内部から、タイヤ周方向が長辺かつタイヤ半径方向が厚みとなるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの大きさに切り出して作製する。
【0041】
「ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)(℃)」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用いて、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%、および昇温速度2℃/minの条件下で-60~40℃の範囲における損失正接tanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線における極大値に対応する温度(tanδピーク温度)とする。なお、-60~40℃の範囲における測定において、tanδ値が温度上昇に伴い、漸増もしくは漸減し続ける場合は、ゴム組成物のガラス転移温度は、それぞれ40℃もしくは、-60℃とする。また、-60~40℃の範囲において、tanδ値が極大となる温度が2点以上存在する場合には、これらの内、最も温度が低い点に対応する温度をゴム組成物のガラス転移温度とする。測定用サンプルは、0℃tanδの場合と同様にして作製する。
【0042】
「スチレン含量(質量%)」は、1H-NMR測定により算出される。
【0043】
「ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)(モル%)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される。
【0044】
「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)(モル%)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される。
【0045】
「ガラス転移温度(Tg)(℃)」は、JIS K 7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分で昇温しながら測定することにより、計測される。本発明では、特に、スチレンブタジエンゴムのTgが計測される。
【0046】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0047】
「カーボンブラックのN2SA」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。
【0048】
「シリカのN2SA」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0049】
「平均一次粒子径」は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察された一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。なお、粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、球形以外の場合には透過型電子顕微鏡画像から円相当径({4×(粒子の面積)÷π}の正の平方根)を算出して粒子径とする。カーボンブラックや、シリカ等に適用される。
【0050】
「軟化点」は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義される。
【0051】
「可塑剤の含有量」は、可塑剤によって伸展されたゴム成分中の可塑剤量も含む。同様に、「オイルの含有量」は、オイル伸展ゴムに含まれるオイル量も含む。
【0052】
[タイヤ]
以下本発明のタイヤについて、適宜、図面を参照しながら説明する。但し、図面はあくまで例示であって、本発明は、図面をもとに限定して解釈されるものではない。
【0053】
本発明のタイヤは、トレッド部および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、前記トレッド部はタイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、前記トレッド部はタイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝の溝底の最深部は、その周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤのタイヤ回転軸をとおる平面による断面図である。
図1のタイヤにおいて、タイヤ断面幅はWtで示されている。当該タイヤのトレッド部はタイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層を備え、かつ、タイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有するものであるが、
図1において、この点は示していない。
図1では、トレッド部のタイヤ半径方向内側に、ベルト層11とベルト層12とが備えられている。このうち、ベルト層11は最も幅の広いベルト層として、その幅がWbで示されている。タイヤ断面幅はWtで示されている。Dtはタイヤ外径である。
【0055】
図2は、本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッド面の展開図である。Wの矢印の方向がトレッド幅方向、Cの矢印の方向がタイヤ周方向である。CLはタイヤ中心線を示し、Teはトレッド端を示している。
図2において、トレッド面は、3本の周方向主溝2によって、4つの陸部3に分画されている。
【0056】
図3は、本発明の一実施形態に係るタイヤの、タイヤ回転軸を通る平面による断面の一部を表している。
図3において、トレッド部はタイヤ半径方向最外側の第一ゴム層4と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層5とを備えている。ここで、周方向主溝2の溝底の最深部(
図3において、深さDにおける下端)が周方向主溝2に隣接する陸部3の第二ゴム層5の最外部(
図3において、第二ゴム層の厚さH2における上端)よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている。なお、トレッド部は、少なくとも第一ゴム層と、これに隣接する第二ゴム層とを備えていればよく、さらに、その他のゴム層をベルト層との間に備えるものであってもよい。
【0057】
本発明のタイヤにおいては、陸部のうち、タイヤ中心線上に位置する陸部の、または、タイヤ中心線上に周方向主溝が存在する場合にはタイヤ中心線に最も近い陸部のタイヤ幅方向長さは、タイヤ半径方向外側から内側に向けて増加していることが好ましい。摩耗後、第一ゴム層は陸部の端部を支える役割を果たすところ、上記の構成をとることにより、第一ゴム層が陸部の端部をより支え易くなるものと考えられる。
【0058】
<式(1)、式(2)>
本発明のタイヤは、第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの、タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが前記式(1)および式(2)に示す所定の関係を満たしている。
【0059】
(式(1)、A2SIL/A1SIL)
式(1)は以下のとおりである。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
【0060】
式(1)の右辺は、1.06が好ましく、より好ましくは1.07、さらに好ましくは1.10、さらに好ましくは1.20、さらに好ましくは1.30、さらに好ましくは1.40、さらに好ましくは1.50である。一方、式(1)の左辺の値について、特に上限はないが、例えば、3.00、あるいは、2.50、あるいは、2.00、あるいは、1.70であり得る。
【0061】
式(1)の左辺の値は、第一ゴム層を構成する第一ゴム組成物に配合するシリカの量および第二ゴム層を構成する第二ゴム組成物に配合するシリカの量を加減することにより、調節することができる。
【0062】
(式(2)、A2SIL/(Wt-Wb))
式(2)は以下のとおりである。
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
【0063】
式(2)の右辺は、1.08が好ましく、より好ましくは1.10、さらに好ましくは1.20、さらに好ましくは1.25、さらに好ましくは1.30、さらに好ましくは1.40、さらに好ましくは1.50である。一方、式(2)の左辺の値について、特に上限はないが、例えば、3.00、あるいは、2.50、あるいは、2.00、あるいは、1.70であり得る。
【0064】
式(2)の左辺の値は、第二ゴム層を構成する第二ゴム組成物に配合するシリカの量並びにタイヤ断面幅および最も広いベルト層の幅を加減することにより、調節することができる。
【0065】
<Tg>
(Tg2)
本発明のタイヤにおいて、第二ゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg2とするとき、Tg2は-30℃超であることが好ましい。
【0066】
Tg2は、ウェットグリップ性能の観点から、-25℃超が好ましく、-20℃超がより好ましい。一方、Tg2の上限値は特に制限されないが、例えば、15℃未満であってよく、あるいは、5℃未満、あるいは、0℃未満である。
【0067】
(Tg1)
本発明のタイヤにおいて、第一ゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg1とするとき、Tg1は-50℃超であることが好ましく、-10℃未満であることが好ましい。
【0068】
さらに、Tg1は、-47℃超がより好ましく、-45℃超がさらに好ましく、一方、-13℃未満がより好ましく、-15℃未満がさらに好ましい。
【0069】
Tg2およびTg1は、ゴム組成物を構成するゴム成分の種類や配合量、および、ゴム成分以外の添加剤の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0070】
<30℃tanδ>
(30℃tanδ1)
本発明のタイヤにおいて、第一ゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδ1とするとき、30℃tanδ1は0.30未満であることが好ましい。
【0071】
30℃tanδ1は、ウェットグリップ性能の観点から、0.26未満が好ましく、0.24未満がさらに好ましく、0.20未満がさらに好ましい。一方、30℃tanδ1の下限について特に制限はないが、例えば、0.10超であってよく、あるいは、0.12超である。
【0072】
(30℃tanδ2)
本発明のタイヤにおいて、第二ゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδ2とするとき、30℃tanδ2は0.50未満であることが好ましく、0.10超であることが好ましい。
【0073】
さらに、30℃tanδ2は、0.48未満がより好ましく、0.46以下がさらに好ましく、一方、0.12超がより好ましく、0.15超がさらに好ましい。
【0074】
30℃tanδ1および30℃tanδ2は、ゴム組成物を構成するゴム成分の種類や配合量、および、ゴム成分以外の添加剤の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0075】
<St1、St2>
本発明のタイヤにおいて、第一ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt1とし、第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt2とするとき、St1とSt2の少なくとも一つは25.0未満であることが好ましく、St1とSt2の両方が25.0未満であることがさらに好ましい。
【0076】
St1は、好ましくは20.0未満、より好ましくは19.0未満、さらに好ましくは18.0未満、さらに好ましくは17.0未満である。St2は、好ましくは20.0未満、より好ましくは19.0未満、さらに好ましくは18.0未満、さらに好ましくは17.0未満である。
【0077】
St1の値は、第一ゴム組成物に配合するゴム成分のそれぞれのスチレン含量を加減することにより調節できる。St2の値についても同様に第二ゴム組成物に配合するゴム成分のそれぞれのスチレン含量を加減することにより調節できる。
【0078】
<拡幅周方向溝>
本発明のタイヤにおいて、前記トレッド部が、溝幅がタイヤ半径方向内側で広がっている拡幅周方向溝を有することが好ましい。摩耗後、拡幅周方向溝は溝幅が拡大するので、排水性が向上し、ウェットグリップ性能が向上するからである。
【0079】
図4では、タイヤ中心線上を通る周方向主溝2に隣接する二つの陸部3の上に、それぞれ、直線状の拡幅周方向溝6が形成されている。拡幅周方向溝は、例えば、周方向に沿って波状や、正弦状や、ジグザグ状に延びていてもよい。また、拡幅周方向溝が形成される陸部について特に制限はないが、タイヤ中心線上に位置する陸部に形成されていることが好ましく、または、タイヤ中心線上に周方向主溝が存在する場合には、
図4の拡幅周方向溝6のように、タイヤ中心線に最も近い陸部に形成されていることが好ましい。
【0080】
図5は、拡幅周方向溝6の断面を表したものである。
図5において、拡幅周方向溝の溝幅は、タイヤ半径方向内側に向かって一様に増加しているが、溝幅の増加はこのような態様に限定されるものではなく、例えば、曲線状または階段状に細かな増減を繰り返しながら増加していてもよい。溝底のタイヤ幅方向長さに対する開口部のタイヤ幅方向長さの比も同様であって、
図5は一例であってこれに限定されるものではなく、当該比は1未満の範囲で適宜増減されるものである。なお、
図5において、トレッド部を構成する各層の表示は省略している。
【0081】
<小穴>
本発明のタイヤにおいて、タイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部は、開口面積が0.1超15未満mm
2の小穴を1個以上有することが好ましい。
図6では、トレッド面の一対のショルダー陸部3の上に、小穴7が形成されている。当該小穴は排水性の向上に寄与するので、ショルダー陸部での排水性が向上し、ウェットグリップ性能の向上に寄与する。例えば、実使用において、片側のショルダー陸部もしくはセンター陸部が優先的に摩耗し、残りのショルダー陸部が経時に伴い、硬化した場合においても、当該小穴により、排水性を確保し、摩耗後のウェットグリップ性能を向上させやすくすることができると考えられる。小穴のトレッド面への開口面積は、0.1mm
2超が好ましく、0.5mm
2超がより好ましく、1.0mm
2超がさらに好ましく、1.5mm
2超が特に好ましい。また、小穴のトレッド面への開口面積は、15mm
2未満が好ましく、10mm
2未満がより好ましく、7.0mm
2未満がさらに好ましく、5.0mm
2未満が特に好ましい。小穴の最深部の深さは、周方向主溝の最深部の深さの3%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。また、小穴の最深部の深さは、周方向主溝の最深部の深さの80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。
【0082】
<周方向細溝>
本発明のタイヤにおいて、タイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部は、少なくとも1以上の周方向細溝を有することが好ましい。
図7では、トレッド面の一対のショルダー陸部3の上に、周方向細溝8が形成されている。周方向細溝は排水性の向上に寄与するので、ショルダー領域での排水性が向上し、ウェットグリップ性能の向上に寄与する。
【0083】
[ゴム組成物]
以下、本発明のタイヤに係るゴム組成物、すなわち、トレッド部の第一ゴム層を構成する第一ゴム組成物および第二ゴム層を構成する第二ゴム組成物について説明する。以下の説明は、特に断りのない限り、第一ゴム組成物にも、第二ゴム組成物にも適用することができる。したがって、単に、ゴム組成物という場合は、第一ゴム組成物と第二ゴム組成物の双方を含む意味である。
【0084】
本発明に係るゴム組成物、すなわち、第一ゴム組成物と第二ゴム組成物は、それぞれ、ゴム成分とシリカを含む。
【0085】
<ゴム成分>
本発明に係るゴム組成物、すなわち、第一ゴム組成物と第二ゴム組成物は、それぞれ、ゴム成分として、スチレンブタジエンゴムを含む。
【0086】
第二ゴム組成物に含まれるゴム成分は、ブタジエンゴムとイソプレン系ゴムの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0087】
第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の少なくとも一つのゴム成分は、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および第二ゴム組成物に含まれるゴム成分はいずれもブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0088】
これらのゴム成分は後述のその他のゴム成分と併用することも可能であり、フィラーと相互作用を得ることを目的とした変性や、劣化抑制の観点から二重結合部の一部を水素添加処理することの他、後述の可塑剤で伸展した伸展ゴムとすることなども可能である。
【0089】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
本発明で使用できるS-SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)等によって製造販売されるS-SBRが挙げられる。
【0091】
SBRのスチレン含量は、ウェットグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、10質量%超が好ましく、15質量%超がより好ましく、20質量%超がさらに好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐ブロー性能の観点からは、60質量%未満が好ましく、55質量%未満がより好ましく、50質量%未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、前記方法により算出される。
【0092】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ウェットグリップ性能、ゴム強度、および耐摩耗性能の観点から、10モル%超が好ましく、13モル%超がより好ましく、15モル%超がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%未満が好ましく、65モル%未満がより好ましく、60モル%未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、前記方法によって測定される。
【0093】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、ウェットグリップ性能の観点から、20万超が好ましく、25万超がより好ましく、30万超がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点から、重量平均分子量は200万未満が好ましく、180万未満がより好ましく、150万未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRの重量平均分子量は、前記方法により求めることができる。
【0094】
SBRのゴム成分中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、45質量%超が好ましく、50質量%超がより好ましく、55質量%超がさらに好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、SBRのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。
【0095】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%超のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBR等が挙げられる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは95モル%超、より好ましくは96モル%超、さらに好ましくは97モル%以上である。なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)は、前記方法により算出される値である。
【0097】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量が、好ましくは1.8モル%未満、より好ましくは1.6モル%未満、さらに好ましくは1.5%モル以下であり、シス含量が、好ましくは95モル%超、より好ましくは96モル%超、さらに好ましくは97モル%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0098】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0099】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0100】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0101】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万超が好ましく、35万超がより好ましく、40万超がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万未満が好ましく、100万未満がより好ましく、50万未満がさらに好ましい。なお、Mwは、前記方法により求めることができる。
【0102】
BRを含む場合のゴム成分中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%未満が好ましく、45質量%未満がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。一方、BRのゴム成分中の含有量の下限値は特に制限されず0質量%としてもよいが、例えば、1質量%超、5質量%超、10質量%超、15質量%以上とすることもできる。
【0103】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0105】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%未満が好ましく、40質量%未満がより好ましく、30質量%未満がさらに好ましい。一方、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量の下限値は特に制限されず0質量%としてもよいが、例えば、1質量%超、5質量%超、10質量%超、20質量%超、25質量%以上とすることもできる。
【0106】
(その他のゴム成分)
本発明に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
<フィラー>
本発明に係るゴム組成物、すなわち、第一ゴム組成物および第二ゴム組成物は、いずれも、シリカを含む。本発明に係るゴム組成物は、さらに、カーボンブラックを含むことが好ましい。本発明に係るゴム組成物は、フィラーとして、さらに、シリカとカーボンブラック以外のその他のフィラーを含むことができる。本発明に係るゴム組成物は、当該その他のフィラーを含まなくともよい。
【0108】
その他のフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー、バイオ炭(BIO CHAR)等、タイヤ工業において従来から一般的に用いられているフィラーをいずれも用いることができる。これらのフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。また、環境負荷の観点から、バイオマス材料を原料としたシリカ(例えば、籾殻より精製される非晶質シリカ)を用いてもよい。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
バイオマス材料を原料としたシリカは、例えば、籾殻を燃焼して得られる籾殻灰から水酸化ナトリウム溶液を用いてケイ酸塩を抽出し、そのケイ酸塩を用いて従来の湿式シリカと同様に、硫酸と反応させて生じた二酸化ケイ素の沈殿をろ過、水洗い、乾燥、粉砕して得ることができる。シリカが結晶化すると水に溶けず、その成分であるケイ酸を利用できない。燃焼温度と燃焼時間を管理することで、籾殻灰中のシリカの結晶化を抑制することができる(特開2009-2594号公報、秋田県立大学ウェブジャーナルB/2019,vol.6,p.216-222等参照)。籾殻より抽出される非晶質シリカは、Wilmar社等より市販されているものを使用することができる。
【0111】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g超が好ましく、150m2/g超がより好ましく、160m2/g超がさらに好ましく、175m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g未満が好ましく、300m2/g未満がより好ましく、250m2/g未満がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、前記方法で測定される値である。
【0112】
シリカの平均一次粒子径は、10nm超が好ましく、12nm超がより好ましく、14nm超がさらに好ましい。また、該平均一次粒子径は、26nm未満が好ましく、24nm未満がより好ましく、22nm以下がさらに好ましい。なお、シリカの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0113】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、20質量部超が好ましく、30質量部超がより好ましく、40質量部超がさらに好ましく、45質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、130質量部未満が好ましく、110質量部未満がより好ましく、100質量部未満がさらに好ましく、90質量部未満がさらに好ましい。
【0114】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、タイヤ工業において一般的なものを適宜利用することができ、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられ、より具体的には、N110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、上記のカーボンブラックの他、リグニンを原料としたカーボンブラックや、タイヤ等のカーボンブラックを含む製品から熱分解等により得られたリサイクルカーボンブラックを用いても良い。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、10m2/g超が好ましく、30m2/g超がより好ましく、50m2/g超がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g未満が好ましく、175m2/g未満がより好ましく、150m2/g未満がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記方法により測定される。
【0116】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、10nm超が好ましく、12nm超がより好ましく、14nm超がさらに好ましい。また、該平均一次粒子径は、26nm未満が好ましく、24nm未満がより好ましく、22nm以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0117】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能およびウェットグリップ性能の観点から、1質量部超が好ましく、3質量部超がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能の観点からは、50質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。
【0118】
(フィラーの含有量)
フィラーのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部超が好ましく、50質量部超がより好ましく、60質量部超がさらに好ましい。また、低燃費性能および破断時伸びの観点からは、200質量部未満が好ましく、150質量部未満がより好ましく、120質量部未満がさらに好ましい。
【0119】
フィラーがシリカとカーボンブラックの両方を含有する場合において、シリカの含有量は、低燃費性能、ウェットグリップ性能、および耐摩耗性能のバランスの観点から、カーボンブラックの含有量よりも多いことが好ましい。シリカとカーボンブラックの合計含有量に対するシリカの割合は、60質量%超が好ましく、70質量%超がより好ましく、80質量%超がさらに好ましく、90質量%超がさらに好ましい。
【0120】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来シリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;下記化学式で示されるもの等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、チオエステル系シランカップリング剤および/またはスルフィド系シランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
メルカプト系シランカップリング剤は、下記化学式(1)で表される化合物、および/または下記化学式(2)で表される結合単位Aと下記化学式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【0122】
【0123】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【0124】
【0125】
【0126】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0127】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記化学式(4)で表される化合物(エボニックデグサ社製のSi363)等が挙げられ、下記化学式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
【0129】
化学式(2)で示される結合単位Aと化学式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等より製造販売されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0130】
シランカップリング剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数のシランカップリング剤を併用する場合は全ての合計量)は、シリカの分散性を高める観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、2.0質量部超がさらに好ましく、4.0質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、20質量部未満が好ましく、12質量部未満がより好ましく、10質量部未満がさらに好ましく、9.0質量部未満がさらに好ましい。
【0131】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部超が好ましく、3.0質量部超がより好ましく、5.0質量部超がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、20質量部未満が好ましく、15質量部未満がより好ましく、12質量部未満がさらに好ましい。
【0132】
<可塑剤>
本発明に係るゴム組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、例えば、樹脂、オイル、液状ゴム、エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0133】
(樹脂)
樹脂としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、石油樹脂が好ましい。
【0134】
≪石油樹脂≫
石油樹脂としては、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0135】
C5系石油樹脂とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0136】
芳香族系石油樹脂とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。
【0137】
芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0138】
C5C9系石油樹脂とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0139】
≪テルペン系樹脂≫
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0140】
≪ロジン系樹脂≫
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0141】
≪フェノール系樹脂≫
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0142】
≪軟化点≫
樹脂の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃超が好ましく、70℃超がより好ましく、80℃超がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃未満が好ましく、140℃未満がより好ましく、130℃未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、軟化点は、前記方法により得らえる。
【0143】
≪含有量≫
樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、1質量部超が好ましく、3質量部超がより好ましく、5質量部超がさらに好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、60質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、30質量部未満がさらに好ましく、20質量部未満がさらに好ましい。
【0144】
(オイル)
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0145】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、7質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、120質量部未満が好ましく、80質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、オイル伸展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0146】
(液状ゴム)
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0147】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部超が好ましく、2質量部超がより好ましく、3質量部超がさらに好ましく、5質量部超がさらに好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、20質量部未満がさらに好ましい。
【0148】
(エステル系可塑剤)
エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等が挙げられる。これらのエステル系可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0149】
可塑剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、5質量部超が好ましく、10質量部超がより好ましく、15質量部超がさらに好ましい。また、加工性の観点からは、120質量部未満が好ましく、80質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。
【0150】
<その他の配合剤>
本発明に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0151】
(ワックス)
ワックスとしては、タイヤ工業で通常使用されるものをいずれも使用することができる。ワックスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部未満が好ましく、7.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0152】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0153】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部未満が好ましく、8.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0154】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0155】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、7質量部未満がより好ましく、5質量部未満がさらに好ましい。
【0156】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0157】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、7質量部未満がより好ましく、5質量部未満がさらに好ましい。
【0158】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。加硫剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0159】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部超が好ましく、0.3質量部超がより好ましく、0.5質量部超がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部未満が好ましく、4.0質量部未満がより好ましく、3.0質量部未満がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0160】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0161】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0162】
なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤を含む場合が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤とグアニジン系加硫促進剤とからなる場合がより好ましい。
【0163】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0164】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0165】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0166】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部超が好ましく、1.5質量部超がより好ましく、2質量部超がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部未満が好ましく、7質量部未満がより好ましく、6質量部未満がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0167】
[ベルト層]
本発明のタイヤにおいて、ベルト層はタイヤ工業で通常使用されるベルト層を用いることができる。当該ベルト層は、その骨格をなすコードと、当該コードを被覆するゴムとを含んでなるものである。当該コードとしては、スチールコードの他、有機繊維コードなどその他のコードを用いることができる。
【0168】
本発明のタイヤにおいて、ベルト層は、一層である他、二層以上の多層であってよく、二層以上の多層であることが好ましい。また、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、タイヤの断面幅(mm)Wtおよび第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)A2SILとの間で、前記式(2)の関係を満たしている。ここで、Wbの値は、金型の幅を増減することで、適宜調整することができる。
【0169】
[製造]
(ゴム組成物の製造)
本発明に係るゴム組成物、すなわち、第一ゴム層を構成する第一ゴム組成物および第二ゴム層を構成する第二ゴム組成物は、いずれも、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0170】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0171】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0172】
(タイヤの製造)
本発明のタイヤは、前記第一ゴム組成物、第二ゴム組成物、および最も幅の広いベルト層が所定の幅であるベルト層を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、本発明のタイヤは、未加硫の第一ゴム組成物および第二ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機で、第一ゴム層および第二ゴム層の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で、上記本発明に係るベルト層および他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型して未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0173】
[用途]
本発明のタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わず、いずれの用途にも使用することができる。また、競技用タイヤ、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、モーターサイクル用タイヤとして使用することができる。このうち、乗用車用タイヤが好ましい。ここで、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、JATMA規格における最大負荷能力が1000kg以下のものを指す。
【0174】
また、本発明のタイヤは、上記それぞれのタイヤのサマータイヤ、ウインタータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用することができる。
【実施例0175】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0176】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR1:下記製造例1で合成したスチレンブタジエンゴム(変性S-SBR、スチレン含量:25質量%、ビニル含量:25モル%、Tg:-55℃、非油展品)
SBR2:JSR(株)製のHPR850(スチレン含量:27.5質量%、ビニル含量:59モル%、Tg:-24℃)
SBR3:下記製造例2で合成したスチレンブタジエンゴム(変性S-SBR、スチレン含量:33質量%、ビニル含量:46モル%、Tg:-22℃、非油展品)
SBR4:JSR(株)製のJSR0122(E-SBR、スチレン量:38質量%、ビニル含量:16モル%、Tg:-37℃、ゴム固形分100質量部をオイル34質量部で伸展したもの)
SBR5:JSR(株)製のSBR1502(E-SBR、スチレン含量:23.5質量%、ビニル含量:18モル%、Tg:-51℃)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル含量:1.5モル%、シス含量:97モル%、Mw:44万)
NR:TSR20
CB(カーボンブラック)1:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN134(N2SA:148m2/g、平均一次粒子径:18nm)
CB(カーボンブラック)2:Birla Carbon Brasil Ltda社製のN220(N2SA:115m2/g、平均一次粒子径:22nm)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:18nm)
カップリング剤(シランカップリング剤)1:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
カップリング剤(シランカップリング剤)2:モメンティブ社製のNXT(3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン)
オイル:H&R社製のVivaTec500(TDAEオイル)
樹脂1:クレイトン社製のSylvares SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
樹脂2:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C90(クマロンインデン樹脂、軟化点:90℃)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤1:住友化学(株)製のアンチゲン6C(6PPD、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(TMQ、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(CBS、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(DPG、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0177】
製造例1:SBR1の合成
スチレンおよび1,3-ブタジエンの比率は、目的物において、スチレン含量が25質量%となるように調整する。窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込む。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始する。断熱条件で重合し、重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、更に重合させた後、メチルトリエトキシシランを変性剤として加えて、変性反応を行う。反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加する。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥し、SBR1を得る。
【0178】
製造例2:SBR3の合成
スチレンおよび1,3-ブタジエンの比率は、目的物において、スチレン含量が33質量%となるように調整する。窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込む。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始する。断熱条件で重合し、重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、更に重合させた後、3-[ビス-(トリメチルシリル)アミノ]プロピルトリエトキシシランを変性剤として加えて、変性反応を行う。反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加する。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥し、SBR3を得る。
【0179】
[実施例および比較例]
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、トレッドの第一層(4mm)および第二層(6mm)の形状に合わせて成形し、ベルト層および他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して各試験用タイヤ(タイヤ1:225/45R17、タイヤ2:205/55R16、タイヤ3:195/45R16)を得る。
【0180】
ベルト層は、トレッドのタイヤ半径方向内側に、トレッドに隣接して二層を配置する。当該二層のベルト層のうち、タイヤ半径方向内側に配置されたベルト層が最も幅の広いベルト層である。
【0181】
各試験用タイヤのトレッド面において、周方向主溝は直線状の主溝3本とし、そのうち1本はタイヤ中心線上を通り、残りの2本は当該タイヤ中心線上を通る主溝からタイヤ幅方向外側の等間隔の位置に、それぞれ設置する。これら周方向主溝の溝深さ(最深部)は、いずれも6.5mmとする。
【0182】
<ゴム層の物性>
タイヤを構成する各ゴム層について、以下の方法により、各物性を測定する。結果は、各ゴム層を構成するゴム組成物についての、表1の対応する欄に記載する。
【0183】
(30℃tanδ)
各試験用タイヤのトレッド部の所定のゴム層(第一ゴム層)の内部から、タイヤ周方向が長辺かつタイヤ半径方向が厚みとなるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの粘弾性測定サンプルを採取し、損失正接tanδを、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、初期歪5%、動歪1%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定する。
【0184】
(ゴム組成物のガラス転移温度(Tg))
各試験用タイヤのトレッド部の所定のゴム層(第二ゴム層)の内部から、タイヤ周方向が長辺かつタイヤ半径方向が厚みとなるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%、および昇温速度2℃/minの条件下で-60~40℃の範囲における損失正接tanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線における極大値に対応する温度(tanδピーク温度)をガラス転移温度(Tg)とする。なお、-60~40℃の範囲における測定において、tanδ値が温度上昇に伴い、漸増もしくは漸減し続ける場合は、ゴム組成物のガラス転移温度は、それぞれ40℃もしくは、-60℃とする。また、-60~40℃の範囲において、tanδ値が極大となる温度が2点以上存在する場合には、これらの内、最も温度が低い点に対応する温度をゴム組成物のガラス転移温度とする。
【0185】
<摩耗後のウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを80℃で7日間熱劣化させ、さらに、タイヤ赤道上で4.5mm摩耗するように新品時のタイヤラジアスに沿って均一に摩耗させた後、車両の全輪に装着する。当該車両を、湿潤アスファルト路面において速度100km/hで走行させ、ブレーキをかけた地点からの制動距離を測定する。基準比較例の試験用タイヤの制動距離が100となるよう、下記計算式により、摩耗後の各タイヤのウェットグリップ性能を指数表示する。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。
(摩耗後のウェットグリップ性能指数)=
(基準比較例のタイヤの摩耗後の制動距離)/(各試験用タイヤの摩耗後の制動距離)×100
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
上記表2~4において、「○」は所与の条件に適合していることを意味し、「×」は適合していないことを意味する。
【0191】
<実施形態>
以下に、好ましい実施形態を示す。
【0192】
[1]トレッド部、および少なくとも一つのベルト層を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ半径方向最外側の第一ゴム層と、前記第一ゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接する第二ゴム層とを少なくとも備え、
前記第一ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第一ゴム組成物から構成され、
前記第二ゴム層は、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分、およびシリカを含む第二ゴム組成物から構成され、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる2以上の周方向主溝と、前記周方向主溝によって画された陸部とを有し、
前記周方向主溝のうち、少なくとも一つの周方向主溝は、溝底の最深部がその周方向主溝に隣接する陸部内の前記第二ゴム層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、
前記第一ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA1SIL、前記第二ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)をA2SILとし、正規状態で正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの、前記タイヤの断面幅(mm)をWt、ベルト層のうち最も広い幅のベルト層の幅(mm)をWbとするとき、A1SIL、A2SIL、WtおよびWbが以下の関係を満たし、好ましくは式(1)の右辺が1.06、より好ましくは1.07であり、好ましくは式(2)の右辺が1.08、より好ましくは1.10、さらに好ましくは1.20であるタイヤ。
(1) A2SIL/A1SIL>1.05
(2) A2SIL/(Wt-Wb)>1.00
[2]前記第二ゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg2とするとき、Tg2が-30℃超、好ましくは-25℃超、より好ましくは-20℃超である、上記[1]記載のタイヤ。
[3]前記第一ゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδ1とするとき、30℃tanδ1が0.30未満、好ましくは0.26未満、より好ましくは0.24未満、さらに好ましくは0.20未満である、上記[1]または上記[2]記載のタイヤ。
[4]前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt1とし、前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の総スチレン量(質量%)をSt2とするとき、St1とSt2の少なくとも一つが25.0未満、好ましくは20.0未満、より好ましくは19.0未満、さらに好ましくは18.0未満、さらに好ましくは17.0未満である、上記[1]~上記[3]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[5]前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分がブタジエンゴムとイソプレン系ゴムの少なくとも一つを含む、上記[1]~上記[4]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[6]前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分の少なくとも一つがブタジエンゴムを含む、上記[1]~上記[5]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[7]前記第一ゴム組成物に含まれるゴム成分および前記第二ゴム組成物に含まれるゴム成分がいずれもブタジエンゴムを含む、上記[1]~上記[5]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[8]式(1)の右辺が1.10、好ましくは1.20、より好ましくは1.30、さらに好ましくは1.40、さらに好ましくは1.50である、上記[1]~上記[7]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[9]式(2)の右辺が1.25、好ましくは1.30、より好ましくは1.40、さらに好ましくは1.50である、上記[1]~上記[8]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[10]前記トレッド部が、溝幅がタイヤ半径方向内側で広がっている拡幅周方向溝を有する、上記[1]~上記[9]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[11]前記拡幅周方向溝が、タイヤ中心線上に位置する陸部、または、タイヤ中心線上に周方向主溝が存在する場合にはタイヤ中心線に最も近い陸部に存在する、上記[10]記載のタイヤ。
[12]前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部が、開口面積が0.1超15未満mm2、好ましくは0.5超10未満mm2、より好ましくは1.0超7.0未満mm2、さらに好ましくは1.5超7.0未満mm2の小穴を1個以上有する、上記[1]~上記[11]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[13]前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する一対の陸部をショルダー陸部とするとき、前記ショルダー陸部が、少なくとも1以上の周方向細溝を有する、上記[1]~上記[11]のいずれか1項に記載のタイヤ。