(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179731
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】摩擦接合構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241219BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20241219BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F7/00 A
E04H9/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098793
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二宮 僚
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】石山 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】山崎 信宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国太郎
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA20
3J048AA06
3J048AC01
3J048BA24
3J048BE12
3J048EA38
3J066AA30
3J066BA01
3J066BB04
3J066BC03
3J066CA06
(57)【要約】
【課題】滑り前の摩擦抵抗力の上昇を抑制しつつ、滑り後の摩擦抵抗力を増加させることにより振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる摩擦接合構造を提供する。
【解決手段】摩擦接合構造は、主動板と、従動板と、中間部材と、第1貫通孔及び第2貫通孔に挿入されたボルトと、ボルトに螺合したナットと、ボルトが挿通された一対の座金とを有し、主動板、従動板及び中間部材により構成された積層体に一対の座金を介して締結力を導入する結合部材とを備える。中間部材には、ボルトが移動可能な案内部が形成され、主動板を中間部材から離間させる面方向の力が作用した場合、案内部に沿ったボルトの移動に伴い主動板が中間部材と面接触した状態で作用方向に案内され、第1貫通孔及び第2貫通孔はいずれもボルトの軸部よりも大きな径を有し、主動板の作用方向への移動に伴い、従動板の作用方向への移動が開始する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された部材同士が面接触することにより発生する摩擦抵抗力により部材間の相対的な移動が抑制される摩擦接合構造であって、
板厚方向に第1貫通孔が形成された平板状の主動板と、
板厚方向に第2貫通孔が形成された平板状の従動板と、
前記主動板と前記従動板とに挟まれて配置された平板状の中間部材と、
前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔に挿入されたボルトと、前記ボルトに螺合したナットと、前記ボルトが挿通された一対の座金とを有し、前記主動板、前記従動板及び前記中間部材により構成された積層体に前記一対の座金を介して締結力を導入する結合部材とを備え、
前記中間部材には、前記ボルトが移動可能な案内部が形成され、前記主動板を前記中間部材から離間させる面方向の力が作用した場合、前記案内部に沿った前記ボルトの移動に伴い前記主動板が前記中間部材と面接触した状態で作用方向に案内され、
前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔はいずれも前記ボルトの軸部よりも大きな径を有し、
前記主動板の前記作用方向への移動に伴い、前記従動板の前記作用方向への移動が開始することを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦接合構造であって、
前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔の内側に配置される緩衝材を更に備え、
前記緩衝材により前記ボルトの軸部の外周が覆われていることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦接合構造であって、
前記第2貫通孔は、前記第1貫通孔よりも大きい径を有していることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の摩擦接合構造であって、
前記案内部は、前記作用方向に沿って互いに平行に延びる一対のスリットを有して構成されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦接合構造であって、
前記第1貫通孔は、前記作用方向に沿って複数形成されて第1貫通孔群を構成し、
前記第2貫通孔は、前記作用方向に沿って複数形成されて第2貫通孔群を構成し、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群は、前記一対のスリットのいずれにも平面視で一致した状態で、前記作用方向に直交する方向に2列配置されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦接合構造に関し、特に地震等により発生した振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる摩擦接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁やトンネル、高層ビル等において、地震等の振動エネルギーを吸収するための制振構造が用いられている。制振構造としては、例えば摩擦力を生じさせる2つの部材を上下に積層し、このうち一方の部材が他方の部材に対して水平方向にずれる(すべる)際に発生する摩擦抵抗力を利用して振動エネルギーを吸収するというものである。振動エネルギーを吸収するためには、摩擦抵抗力を上昇させる他、ボルト接合により上下方向から軸力を増加させることも有効な手法である。(特許文献1-2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、建物架構の振動を効果的に制振するようにしたボルト接合部の制振構造が開示されている。この制振構造は、鉄骨部材に組み込まれた2つの圧接板を互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動を可能にしてボルト軸力を付加し、2つの圧接板間に発生する摩擦抵抗力によって、2つの鉄骨部材間を制振するようにされている。第1圧接板と第2圧接板との間には、摩擦板と滑動板とが対になって挟み込まれており、ボルト接合部が7層構造となっている。このような構成により、常にほぼ一定した摩擦抵抗力を発生させて、安定した制振効果を得ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、制振構造として少ないボルト数でも強力に接合できる高力ボルト摩擦接合構造が開示されている。この高力ボルト摩擦接合構造は、一対の鋼材が接合されてなるものであり、一対の鋼材の接合側の端部には、少なくとも2つの板状端部が重なる配置に設けられ、一方の鋼材の端部の板状端部と他方の鋼材の端部の板状端部とが積層された状態で、高力ボルトにより圧接されている。このような摩擦面を増やすことができる構成により、少ないボルト数でも強力に接合できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-352113号公報
【特許文献2】特開2019-60409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献では、いずれも2つの部材間において発生する摩擦抵抗力を利用して振動エネルギーを吸収しようとするものであった。2つの部材間においてすべり後の摩擦抵抗力を上昇させる場合、すべり前の摩擦抵抗力も上昇してしまう。具体的には、すべり前の最大静止摩擦力をFfmax、すべり後の動摩擦力をFfkin、静止摩擦係数をμ、動摩擦係数をμ’、摩擦面数をm(当該構造ではm=1)、ボルト本数をn、すべり直前のボルト軸力をN、すべり後のボルト軸力をN’とすると、
Ffmax=μ・m・n・N・・・(1)
Ffkin=μ’・m・n・N’・・・(2)
と表せる。
【0007】
また、一般に物質の静止摩擦係数μと動摩擦係数μ’の関係はμ>μ’となり、加えて高力ボルト摩擦接合継手に用いる高力ボルトの軸力Nは、すべりが生じると大きく低下する(N>N’となる)傾向がある。つまり、Ffmax>Ffkinとなるが、Ffkinが小さくなればなるほどエネルギー吸収性能も低下することとなる。一方で、所定のエネルギー吸収性能を確保するためにボルト本数を増やした場合には、エネルギー吸収性能に寄与するFfkinのみならず、Ffmaxも増加する。Ffmaxが増加すると、例えば特許文献1に示されている装置を設置する場合において、Ffmaxに耐えうる固定治具(一般にアンカーボルト等)を橋脚に配置する必要があるため、設置スペースの不足や、橋脚への負荷が増加するという不都合が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、滑り前の摩擦抵抗力の上昇を抑制しつつ、滑り後の摩擦抵抗力を増加させることにより振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる摩擦接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対して、本発明は、積層された部材同士が面接触することにより発生する摩擦抵抗力により部材間の相対的な移動が抑制される摩擦接合構造であって、板厚方向に第1貫通孔が形成された平板状の主動板と、板厚方向に第2貫通孔が形成された平板状の従動板と、前記主動板と前記従動板とに挟まれて配置された平板状の中間部材と、前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔に挿入されたボルトと、前記ボルトに螺合したナットと、前記ボルトが挿通された一対の座金とを有し、前記主動板、前記従動板及び前記中間部材により構成された積層体に前記一対の座金を介して締結力を導入する結合部材とを備え、前記中間部材には、前記ボルトが移動可能な案内部が形成され、前記主動板を前記中間部材から離間させる面方向の力が作用した場合、前記案内部に沿った前記ボルトの移動に伴い前記主動板が前記中間部材と面接触した状態で作用方向に案内され、前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔はいずれも前記ボルトの軸部よりも大きな径を有し、前記主動板の前記作用方向への移動に伴い、前記従動板の前記作用方向への移動が開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成によって、滑り前の摩擦抵抗力の上昇を抑制しつつ、滑り後の摩擦抵抗力を増加させることにより振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は本実施の形態に係る摩擦接合構造を説明するための斜視図、(b)は摩擦接合構造側面図である。
【
図2】(a)は、主動板の平面図、(b)は主動板の側面図である。
【
図3】(a)は、従動板の平面図、(b)は従動板の側面図である。
【
図4】(a)は、中間部材の平面図、(b)は中間部材の側面図である。
【
図5】(a)は、
図1におけるA-A矢視方向で見た断面図、(b)は、第1貫通孔と軸部との関係を示す図、(c)は、第2貫通孔と軸部との関係を示す図である。
【
図6】第1貫通孔及び第2貫通孔の内側に緩衝材が設けられた例を示す図である。
【
図7】(a)は、初期状態における摩擦接合構造の図、(b)はそのB-B断面図である。
【
図9】(a)は、初期滑り時における摩擦接合構造の図、(b)はそのC-C断面図である。
【
図11】(a)は、従動板の移動初期における摩擦接合構造の図、(b)はそのD-D断面図である。
【
図13】(a)は、最終滑り時における摩擦接合構造の図、(b)はそのE-E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1(a)は、本実施の形態に係る摩擦接合構造1を説明するための斜視図であり、
図1(b)はその側面図である。摩擦接合構造1は、外力が生じた場合に、面接触した状態で積層された部材間に発生する摩擦抵抗力により部材間の相対的な移動が抑制される構造を有し、摩擦接合構造1に振動が生じた場合には、部材同士の摩擦抵抗力により振動エネルギーを吸収するものである。
【0014】
摩擦接合構造1は、主動板10と、従動板20と、中間部材30と、結合部材40とを有して構成されている。主動板10、中間部材30、従動板20はこの順に積層され、中間部材30の上方側には主動板10が面接触した状態で配置され、中間部材30の下方側には従動板20が面接触した状態で配置されている。なお、以下の説明では、主動板10が従動板20よりも上方側にある場合を例に説明するが、これは説明の便宜のためであり、従動板20が主動板10よりも上方側にあってもよい。主動板10、従動板20及び中間部材30により、積層体Lが構成されている。
【0015】
主動板10、従動板20及び中間部材30は、いずれも平面視略長方形状に形成された平板状の部材であり、主動板10及び中間部材30はほぼ同じ形状、寸法に形成されている。従動板20は、主動板10及び中間部材30よりも幅方向の寸法が短く形成されている。なお、主動板10、従動板20及び中間部材30の寸法は、互いに異なっていてもよく、全てが同じ寸法に形成されていてもよい。以下の説明では、主動板10、従動板20及び中間部材30の長手方向をX方向とし、短手方向をY方向とし、積層方向をZ方向とする。
【0016】
図1(a)に示すように、結合部材40は3行×2列に配置されている。具体的には、長手方向(X方向)に沿った3個1組の結合部材40の列が、短手方向(Y方向)に2列配置されている。長手方向に沿って配置されている3個の結合部材40は、等間隔に配置されている。なお、結合部材40の設けられる位置、個数は特に限定されるものではない。
【0017】
図1(b)に示すように、それぞれの結合部材40は、積層体Lを貫通するボルト41と、ボルト41に螺合したナット42と、ボルト41が挿通される一対の座金43とを有する。結合部材40は、積層体Lを上下から結合し、ボルト41の軸方向において積層体Lに締結力(軸力)が導入される。
【0018】
図2(a)は、主動板10の平面図であり、
図2(b)はその側面図である。主動板10は、平面視略長方形状に形成された板状部材である。主動板10の長手方向における一方側の端部は第1端部10aとされ、他方側の端部は第2端部10bとされている。
【0019】
主動板10には、板厚方向に貫通する複数の第1貫通孔11が形成されている。それぞれの第1貫通孔11は、同じ寸法及び形状を有し、平面視で円形状に形成されている。第1貫通孔11は、ボルト41が貫通することができるのであれば、いかなる寸法及び形状であってもよい。複数の第1貫通孔11のうち、一部の第1貫通孔11には、ボルト41が貫通しなくてもよい。それぞれの第1貫通孔11の内側の面は、第1内周面11aとされている。
【0020】
図2(a)に示すように、長手方向に沿って3個の第1貫通孔11が形成され、短手方向に2個の第1貫通孔11が形成され、6個の第1貫通孔11が3行×2列に配置されている。具体的には、長手方向(X方向)に沿って一列に並んで形成された複数(3個)の第1貫通孔11が第1貫通孔群を構成し、この第1貫通孔群が長手方向に沿って2列に並んで配置されている。長手方向に沿って一列に並んで形成された複数の第1貫通孔11は、それぞれ等間隔に配置されている。複数の第1貫通孔11(第1貫通孔群)は、長手方向に沿って互いに平行に延びており、いずれも長手方向における中央部分よりも第2端部10b寄りに配置されている。
【0021】
なお、主動板10に形成される第1貫通孔11は、複数ではなく1個のみであってもよい。また、第1貫通孔群を構成する第1貫通孔11の個数は3個以外であってもよく、設けられる第1貫通孔群は2列以外であってもよい。形成される第1貫通孔11の個数は特に限定されるものではないが、主動板10に形成される第1貫通孔11の個数が多ければ多いほど、それだけ貫通させることができる結合部材40の個数を増加させることができ、結合部材40により付与される締結力を増加させることができる。また、長手方向に沿って2列に並んで第1貫通孔11が形成されていることにより、結合部材40の移動する方向を長手方向のみに規定(案内)させることができる。
【0022】
主動板10の上方側(中間部材30と反対側)の面は第1非接触面12とされ、下方側(中間部材30側)の面は第1接触面13とされている。第1接触面13は、中間部材30と面接触する面であり、主動板10が中間部材30から離間するように移動した場合には、中間部材30との間に摩擦抵抗力を発生させる摩擦力付与面として機能する。
【0023】
主動板10は、例えば鋼板などの金属、強化プラスチックなどの摩擦係数が高い素材により構成されていればよい。なお、主動板10は、中間部材30との間で摩擦抵抗力が生じるような部材であれば、いかなる素材により構成されていてもよい。
【0024】
図3(a)は、従動板20の平面図であり、
図3(b)はその側面図である。従動板20は、主動板10と同様に平面視略長方形状に形成された板状部材であり、幅方向(短手方向)における寸法は、主動板10よりも狭く形成されている。従動板20は、主動板10とほぼ同様に形成されているため、詳細な説明は適宜省略する。従動板20の長手方向における一方側の端部は第3端部20aとされ、他方側の端部は第4端部20bとされている。
【0025】
従動板20には、板厚方向に貫通する複数の第2貫通孔21が形成されている。それぞれの第2貫通孔21は、平面視において第1貫通孔11と一致する位置に形成されている。具体的には、長手方向(X方向)に沿って一列に並んで形成された複数(3個)の第2貫通孔21が第2貫通孔群を構成し、この第2貫通孔群を構成するそれぞれの第2貫通孔21が、積層体Lの積層方向(上下方向)において第1貫通孔11と貫通することができる位置に形成されている。第2貫通孔21は、平面視で円形状に形成されているが、ボルト41が貫通することができるのであれば、いかなる寸法及び形状であってもよい。なお、第2貫通孔21は、第1貫通孔11よりも直径が大きくなるように形成されている。第2貫通孔21は、第1貫通孔11と上下方向において一致した位置に形成されるため、主動板10において形成される第1貫通孔11が1ヶ所であれば、第2貫通孔21も1ヶ所にのみ形成されればよい。それぞれの第2貫通孔21の内側の面は、第2内周面21aとされている。
【0026】
従動板20の上方側(中間部材30側)の面は第2接触面22とされ、下方側(中間部材30と反対側)の面は第2非接触面23とされている。第2接触面22は、中間部材30と面接触する面であり、従動板20が中間部材30から離間するように移動した場合には、中間部材30との間に摩擦抵抗力を発生させる摩擦力付与面として機能する。第2接触面22の静止摩擦係数は、第1接触面13の静止摩擦係数と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
従動板20は、座金43と異なる素材、例えば鋼板などの金属、強化プラスチックなどの摩擦係数が高い素材により構成されていればよい。なお、従動板20は、中間部材30との間で摩擦が生じるような部材であれば、いかなる素材により構成されていてもよい。
【0028】
図4(a)は、中間部材30の平面図であり、
図4(b)はその側面図である。中間部材30は、平面視略長方形状に形成された板状部材である。中間部材30の長手方向における一方側の端部は第5端部30aとされ、他方側の端部は第6端部30bとされている。
【0029】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、中間部材30には長手方向に沿って案内部31が形成されている。即ち、案内部31は、第6端部30b側が開放された一対のスリット31aを有して構成され、一対のスリット31aは長手方向に沿って互いに平行に伸びている。なお、案内部31を構成するスリットは3個以上であってもよく、複数のスリットは分離していてもよく、繋がった状態で一体的に形成されていてもよい。また、案内部31は、長手方向に沿って直線状に伸びる部分を有しているのであればいかなる形状であってもよく、スリット以外の形状、例えば、長孔により構成されていてもよい。案内部31の長手方向に沿った長さは特に限定されるものではないが、後述するように摩擦抵抗力を長時間付与する観点からは、可能な限り長いことが望ましい。
【0030】
それぞれの案内部31は複数の第1貫通孔11(第1貫通孔群)及び複数の第2貫通孔21(第2貫通孔群)と積層方向において一致している。複数の第1貫通孔11、案内部31及び第2貫通孔21が積層方向(Z方向)において一致することで、ボルト41が積層体Lを貫通することができる。ボルト41は、案内部31が伸びる方向に沿ってのみ移動可能である。そのため、案内部31にボルト41が挿入された状態で主動板10に引張力あるいは締結力等の外力が作用すると、これらの作用する力の方向(以下単に「作用方向」と称す)に関わらずボルト41の移動方向、即ち、案内部31が伸びる方向に沿って主動板10も移動する。これにより、主動板10あるいは従動板20を、中間部材30に対して直線的に移動させ続けることができる。更に、長手方向に沿って一対のスリット31aが形成されていることにより、結合部材40の移動する方向を長手方向のみに規定させることができる。
【0031】
中間部材30の上方側(主動板10側)の面は第1摺接面32とされ、下方側(従動板20側)の面は第2摺接面33とされている。
【0032】
図5(a)は、
図1におけるA-A矢視方向で見た断面図である。
図5に示すように、主動板10、中間部材30及び従動板20がこの順に上下に積層され、これらがボルト41、ナット42及び一対の座金43により一体化されている。一対の座金43のうち、上方側の座金43は第1非接触面12と接触し、下方側の座金43は第2非接触面23と接触した状態で配置されている。
【0033】
一体化された状態では、結合部材40が、積層体Lを上下から一対の座金43により結合する。このため、第1摺接面32と第1接触面13、第2摺接面33と第2接触面22との間に発生する摩擦抵抗力を増加させることができる。また、一体化された状態では、ボルト41の軸部41aは主動板10、従動板20、中間部材30のいずれの部材からも離間した状態で配置されている。即ち、軸部41aは第1内周面11a、第2内周面21a及び案内部31のいずれからも離間した状態で配置されている。
【0034】
図5(b)は、第1貫通孔11と軸部41aとの関係を示す図である。軸部41aは、径方向において第1貫通孔11のほぼ中心に位置し、ボルト41と第1内周面11aとの間には第1隙間G1が形成されている。これは、軸部41aの直径をD0、第1貫通孔11の直径をD1とした場合、D1はD0よりも大きくなるように形成されているためである。第1隙間G1が形成されていることにより、主動板10に引張力等の外力が作用した場合、ボルト41が作用方向に第1隙間G1の距離だけ移動することが可能となっている。
【0035】
図5(c)は、第2貫通孔21と軸部41aとの関係を示す図である。軸部41aは、径方向において第2貫通孔21のほぼ中心に位置し、ボルト41と第2内周面21aとの間には第2隙間G2が形成されている。これは、軸部41aの直径をD0、第2貫通孔21の直径をD2とした場合、D2はD0よりも大きくなるように形成されているためである。また、D2はD1よりも大きいため、第1隙間G1よりも第2隙間G2の径の方が大きい。このため、軸部41aの第1貫通孔11内の移動可能な距離よりも、軸部41aの第2貫通孔21内の移動可能な距離の方が大きい。
【0036】
図6は、第1貫通孔11及び第2貫通孔21の内側に緩衝材50が設けられた例を示す図である。
図6に示すように、第1隙間G1及び第2隙間G2には、緩衝材50が設けられている。緩衝材50と第1内周面11aあるいは第2内周面21aとの間には、隙間が設けられていてもよい。緩衝材50としては、例えばゴム、スポンジ等の弾性を有する素材が挙げられる。
【0037】
本実施の形態に係る摩擦接合構造1に振動が発生した場合の振動抑制メカニズムについて説明する。なお、実際の使用状況では主動板10、従動板20いずれについても中間部材30から離間させる力が作用することが考えられるが、以下においては説明の便宜上、主動板10に対してのみ離間させる力が作用した場合を例に説明する。また、中間部材30は、一例として図示しない構造体に固定されているものとする。更に、主動板10に対して力が作用する場合とは、主動板10に対して主動板10が水平方向に移動する場合だけでなく水平方向以外の方向に力が作用する場合等、様々なパターンが考えられるが、以下においては説明の単純化のために主動板10に対して生じる引張力を例に説明し、引張力が生じる方向(作用方向)を主動板10の面方向、特に長手方向(X方向)とする。
【0038】
図7(a)は、摩擦接合構造1に振動が生じる前又は振動が生じた直後の静止状態(初期状態)を示す図であり、
図7(b)はそのB-B断面図である。
図7(b)において、白抜き矢印は引張力が作用する方向を示し、黒塗り矢印は結合部材40による締結力(軸力)が作用する方向を示し、破線の矢印は第1摺接面32と第1接触面13との間に生じる静止摩擦力が作用する方向を示している。引張力が作用する方向は、水平方向おいて左右いずれの方向でもよいが、以下では紙面右側に引張力が作用する場合を想定して説明する。
【0039】
初期状態では、中間部材30は主動板10と従動板20とに挟まれて配置されている。また、作用方向において第2端部10b、第4端部20b、第6端部30bが一致した状態である。ボルト41が第1貫通孔11、第2貫通孔21及び案内部31に挿入され、軸部41aと第1内周面11aとの間には第1隙間G1が形成され、軸部41aと第2内周面21aとの間には第2隙間G2が形成されている。なお、
図7(b)の記載したボルト41と第1貫通孔11、案内部31及び第2貫通孔21との位置関係は、全ての結合部材40に該当するものである。
【0040】
主動板10に引張力が作用した場合、主動板10は引張力が作用する方向(作用方向)への移動が促される。一方、主動板10の第1接触面13と中間部材30の第1摺接面32との間には静止摩擦力が作用し、主動板10の作用方向への移動を阻止する力が作用する。更に、積層体Lには結合部材40により上下方向から締結力(軸力)が付与され、この軸力により主動板10、従動板20及び中間部材30の水平方向への移動が阻止される。
【0041】
初期状態とは、主動板10に作用する引張力を徐々に大きくしつつも、主動板10の中間部材30に対する相対的な移動が生じていない状態である。これは、引張力に対して静止摩擦力と軸力の合力の方が大きいため、主動板10の中間部材30に対する滑りが生じていないためである。初期状態は、主動板10の作用方向への移動が開始する直前まで続く。
【0042】
図8は、摩擦接合構造1において引張力を作用させたときの荷重(引張力)と変位の関係を説明する模式的なグラフである。
図8中、縦軸は摩擦接合構造1に作用する荷重の値(N)であり、横軸は摩擦接合構造1において生じる変位量(mm)である。
図8中、実線部分が初期状態に対応する部分である。
図8に示すように、主動板10を中間部材30から離間させる方向(面方向)に引張力を少しずつ増加させた場合、引張力に抗しながら一定以上の荷重がかかるまで主動板10が内部ひずみにより変形し続ける。具体的には、
図8に示すように、引張力を作用させ始めてから一定期間、引張力が臨界値P0に至るまで、引張力の増加に伴い主動板10の変形量も増加する。
【0043】
図9(a)は、主動板10が作用方向に滑り始めた直後の状態(初期滑り状態)を示す図であり、
図9(b)はそのC-C断面図である。
図9(b)において、白抜き矢印は引張力が作用する方向を示し、黒塗り矢印は結合部材40による締結力(軸力)が作用する方向を示し、斜線矢印は第1摺接面32と第1接触面13との間に生じる動摩擦力が作用する方向を示している。
【0044】
初期滑り時では、主動板10のみが中間部材30に対して作用方向に移動を開始し、従動板20と中間部材30は静止した状態が維持されている。これは、主動板10に作用する引張力が増加した結果、静止摩擦力と軸力の合力を超えたためである。主動板10が作用方向に滑り始めると、第1接触面13と第1摺接面32との間に作用する力が静止摩擦力から動摩擦力に変化する。一般的に、動摩擦力は静止摩擦力よりも小さいため、主動板10が滑り始めると、荷重が一時的に大幅に減少するとともに、一旦減少した後は荷重の低い状態が維持される。なお、初期滑り時では、従動板20は静止状態が維持されるため、軸部41aと第2内周面21aとの間には第2隙間G2が確保されている。
【0045】
ここで、先の初期状態では、軸部41aと第1内周面11aとの間には第1隙間G1が形成されていた。初期滑り時では、主動板10が第1隙間G1分だけ移動し、軸部41aと第1内周面11aが接触するとともに、主動板10の移動に伴い、ボルト41が主動板10に引っ張られた状態で作用方向への移動を開始する。積層体Lに設けられた6個全てのボルト41について、主動板10の作用方向への移動に伴うボルト41の移動が生じる。ボルト41は作用方向に沿って互いに伸びる一対のスリット31aに挿通されているため(
図4参照)、主動板10の移動する方向をスリット31aの延びる方向に規定することができる。
【0046】
図10は初期滑り時の荷重(引張力)と変位の関係を説明する模式的なグラフである。
図10中、実線部分が初期滑り時に対応する部分である。初期滑り時では、主動板10に対する引張力が臨界値P0を超え、その結果主動板10の移動が開始する。主動板10の移動が開始すると、荷重が大幅に減少するとともに、荷重の低い状態が維持される。そのため、
図10に示すように、摩擦接合構造1に作用する荷重が臨界値P0よりも小さなP1の値に減少した状態で、主動板10が移動し続ける。
【0047】
なお、第1貫通孔11及び第2貫通孔21の内側に緩衝材50が配置されている場合(
図6参照)、緩衝材50が配置されていない場合と比較して主動板10の移動開始速度を減少させつつ主動板10の滑りによる荷重を低下させることができる。また、軸部41aと第1内周面11aとの間に十分な離間距離が確保できない場合でも、軸部41aと第2内周面21aとの間には、第1隙間G1よりも大きな第2隙間G2が確保される。従って、初期滑り時において主動板10の滑りによる荷重を確実に減少させることができる。
【0048】
図11(a)は、従動板20が作用方向に滑り始めた直後の状態(従動板移動状態)を示す図であり、
図11(b)はそのD-D断面図である。
図11(b)におけるそれぞれの矢印は、
図9(b)における矢印と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0049】
初期滑り時終了時では、軸部41aは作用方向において第1内周面11a及び第2内周面21aのいずれの面にも接触した状態である。この状態から更に主動板10に対して引張力が作用し続けると、軸部41aには第1内周面11a及び第2内周面21aから作用方向に抗する力(支圧力)が付与され、従動板20から作用方向と反対側への支圧力が付与される。即ち、軸部41aが主動板10及び従動板20により作用方向における両側から挟み込まれることにより、支圧接合された状態となる。
【0050】
支圧接合された状態では、主動板10の作用方向における引張力に対し、結合部材40による上下方向からの軸力、軸部41aに生じる支圧力、主動板10及び従動板20と中間部材30との間に生じる動摩擦力の合力が作用している。ここで、従動板20と中間部材30との間に動摩擦力が生じているのは、引張力を増加させ続けたことで従動板20が中間部材30に対して離間し始めたためである。
【0051】
図12は従動板20の移動初期の荷重(引張力)と変位の関係を説明する模式的なグラフである。
図12中、実線部分が従動板20の移動初期に対応する部分である。第1接触面13と第1摺接面32との間に動摩擦力が生じるだけでなく、第2接触面22と第2摺接面33との間にも静止摩擦力が生じ、先の初期状態及び初期滑り時よりも摩擦面数が増加している。このため、初期滑り時に作用していた荷重P1から徐々に増加させても、変位が生じ難くなっている。
【0052】
図13(a)は、主動板10と同様の状態で従動板20も移動している状態(最終滑り状態)を示す図であり、
図13(b)はそのE-E断面図である。
図13(b)におけるそれぞれの矢印は、
図9(b)における矢印と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0053】
最終滑り時では、結合部材40による上下方向からの軸力、軸部41aに生じる支圧力、主動板10及び従動板20と中間部材30との間に生じる動摩擦力の合力よりも主動板10の作用方向における引張力の方が大きい状態である。特に、上述した従動板20の移動初期と比較して、支圧力と動摩擦力の合力を引張力が大幅に上回る。主動板10の作用方向における引張力の方が大きくなると、主動板10の移動に伴い、従動板20の移動も開始する。これにより、第1接触面13と第1摺接面32との間のみならず第2接触面22と第2摺接面33との間にも動摩擦力が生じることとなり、摩擦面数が増加した状態で主動板10及び従動板20の移動が継続される。
【0054】
図14は最終滑り時の荷重(引張力)と変位の関係を説明する模式的なグラフである。
図14中、実線部分が最終滑り時に対応する部分である。主動板10の移動に伴い従動板20も移動を開始するため、先の従動板20の移動初期よりも摩擦面数が増加する。動摩擦力は静止摩擦力よりも小さいため、引張力(荷重P2)が臨界値P0未満の状態で主動板10及び従動板20が移動し続ける。一方、荷重P2は、初期滑り時に作用していた荷重P1よりも大きな値であることから、荷重が高い状態が維持され、エネルギー吸収量を増加させることができる。
【0055】
このように、本実施の形態に係る摩擦接合構造1では、初期状態、初期滑り状態、従動板移動状態、最終滑り状態を経ることで、滑り前の摩擦抵抗力の上昇を抑制しつつ、滑り後の摩擦抵抗力を増加させることにより振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる。即ち、主動板10のみに対し荷重(引張力)を臨界値P0まで増加させつつ、一旦荷重を減少させ、主動板10の作用方向への移動に伴い従動板20の作用方向への移動を開始させた状態で再び荷重を増加させる。これにより、最初は主動板10との間のみで摩擦抵抗力が生じていた状態から、大幅に摩擦抵抗力が下がった状態を経て、再び従動板20との間でも摩擦抵抗力が生じる状態へと遷移させることで、摩擦抵抗力を2段階かつ長期間に亘って発生させることができ、その結果振動エネルギーの吸収性能を向上させることができる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施の形態の
図6では、緩衝材50は、ボルト41の軸部41aの外周全体を覆うように配置される例を示したが、軸部41aには、周囲の一部に緩衝材50が配置されていない箇所があってもよい。即ち、軸部41aの軸方向あるいは周方向いずれかの方向において、軸部41aの一部には緩衝材50に覆われていない箇所があってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 摩擦接合構造
10 主動板
11 第1貫通孔
20 従動板
21 第2貫通孔
30 中間部材
31 案内部
31a スリット
40 結合部材
41 ボルト
42 ナット
43 座金
50 緩衝材
L 積層体