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特開2024-179740難燃性絶縁シート及び電気・電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179740
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】難燃性絶縁シート及び電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241219BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20241219BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20241219BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241219BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
C08L69/00
C08K5/521
C08K3/013
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098820
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克彰
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA50
4F071AA81
4F071AB03
4F071AC15
4F071AE07
4F071AE09
4F071AF27Y
4F071AF32Y
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002CG011
4J002CG021
4J002DA027
4J002DA037
4J002DE117
4J002DE137
4J002EW046
4J002FD097
4J002FD136
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】重ねられて保管されたときの貼り付きを抑制できる難燃性絶縁シートと、前記難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器と、を提供する。
【解決手段】難燃性絶縁シートであって、前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山頂点の算術平均曲率(Spc)が200(1/mm)以上であるか、山の頂点密度(Spd)が8000(1/mm)以上であるか、又は60°光沢度が25以下である、難燃性絶縁シート。前記難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性絶縁シートであって、
前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、
前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、
前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山頂点の算術平均曲率(Spc)が、200(1/mm)以上である、難燃性絶縁シート。
【請求項2】
難燃性絶縁シートであって、
前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、
前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、
前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山の頂点密度(Spd)が、8000(1/mm)以上である、難燃性絶縁シート。
【請求項3】
難燃性絶縁シートであって、
前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、
前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、
前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、60°光沢度が、25以下である、難燃性絶縁シート。
【請求項4】
前記面の60°光沢度が25以下である、請求項1又は2に記載の難燃性絶縁シート。
【請求項5】
前記難燃性絶縁シートが、さらに、色材を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
【請求項6】
前記色材がカーボンブラックである、請求項5に記載の難燃性絶縁シート。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量が15000~35000である、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
【請求項8】
前記難燃性絶縁シートにおいて、前記ポリカーボネート樹脂の含有量に対する、前記難燃剤の含有量の割合が、5~20質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性絶縁シート及び電気・電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂に難燃剤を配合し、樹脂成形体に難燃性が付与されている。例えば、ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上させるために、臭素化ビスフェノールAのカーボネート誘導体のオリゴマー又はポリマーを多量に配合する方法が用いられていた。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上させるために、臭素化ビスフェノールAのカーボネート誘導体のオリゴマー又はポリマーを多量に配合する必要があり、成形品の耐衝撃性が低下し、割れが発生し易いという問題点があった。また、臭素を含む多量のハロゲン系化合物を配合することから、燃焼時にハロゲンを含むガスが発生し、人体に有害なハロゲン化ガスが発生するなど、多くの問題点があった。そのため、ハロゲンを含むガスが発生しない難燃剤を用いた難燃性樹脂組成物が求められている。
【0004】
難燃剤としては、臭素を含むもの以外にも、ポリリン酸アンモニウムが知られている。しかし、ポリリン酸アンモニウムを用いた場合には、成形体の耐熱性及び難燃性が不十分になるという問題点があった。
【0005】
このような問題点を解決できるものとして、環状リン化合物とセルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物と、これを成形してなるフィルム状成形体が開示されている。前記環状リン化合物は、難燃剤として作用するだけでなく、フィルム状成形体の成形性、耐熱性、曲げ強度等の向上にも寄与するとされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-052006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
難燃性絶縁シートには、種々の用途がある。例えば、電気・電子機器においては、回路基板同士のショートを防止するために、回路基板間に難燃性絶縁シートが挟み込まれる。このような難燃性絶縁シートは、長尺の場合には、その使用前にロール状に巻かれ、長尺でない場合には、その使用前にその厚さ方向において積層されるなど、重ねられて保管されることが多い。樹脂シートの場合、このように重ねられて保管されると、貼り付きが生じ易く、取り扱い性が悪化してしまうという問題点があったが、難燃性絶縁シートにも同様の問題点が存在する。これに対して、特許文献1で開示されているフィルム状成形体を始めとして、従来の難燃性絶縁シートは、このような問題点の解決を目的としていない。
【0008】
本発明は、重ねられて保管されたときの貼り付きを抑制できる難燃性絶縁シートと、前記難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器と、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を採用する。
[1].難燃性絶縁シートであって、前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山頂点の算術平均曲率(Spc)が、200(1/mm)以上である、難燃性絶縁シート。
[2].難燃性絶縁シートであって、前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山の頂点密度(Spd)が、8000(1/mm)以上である、難燃性絶縁シート。
[3].難燃性絶縁シートであって、前記難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、60°光沢度が、25以下である、難燃性絶縁シート。
[4].前記面の60°光沢度が25以下である、[1]又は[2]に記載の難燃性絶縁シート。
【0010】
[5].前記難燃性絶縁シートが、さらに、色材を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
[6].前記色材がカーボンブラックである、[5]に記載の難燃性絶縁シート。
[7].前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量が15000~35000である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
[8].前記難燃性絶縁シートにおいて、前記ポリカーボネート樹脂の含有量に対する、前記難燃剤の含有量の割合が、5~20質量%である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シート。
[9].[1]~[8]のいずれか一項に記載の難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重ねられて保管されたときの貼り付きを抑制できる難燃性絶縁シートと、前記難燃性絶縁シートを用いた電気・電子機器と、が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<難燃性絶縁シート>>
<難燃性絶縁シート(1)>
本発明の一実施形態に係る難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山頂点の算術平均曲率(Spc)が、200(1/mm)以上である(本明細書においては、この難燃性絶縁シートを「難燃性絶縁シート(1)」と称することがある)。
「山頂点の算術平均曲率(Spc)」とは、表面の山頂点の主曲率の平均を意味する。Spcが小さいと、他の物体と接触する点が丸みを帯びていることを示し、Spcが大きいと、他の物体と接触する点が尖っていることを示す。
本実施形態の難燃性絶縁シート(難燃性絶縁シート(1))は、難燃性及び絶縁性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(1)は、その少なくとも一方の面のSpcが、200(1/mm)以上であることで、他の物体と接触する点が尖ったものとなるため、重ねられて保管されたときの貼り付きが抑制される。例えば、長尺の難燃性絶縁シート(1)がロール状に巻かれて保管された場合と、長尺ではない難燃性絶縁シート(1)がその厚さ方向において積層されて保管された場合と、のいずれにおいても、難燃性絶縁シート(1)の貼り付きが抑制される。
【0013】
難燃性絶縁シート(1)は、前記ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含む難燃性樹脂組成物(本明細書においては、「難燃性樹脂組成物(1)」と称することがある)を用いて製造できる。
【0014】
[ポリカーボネート樹脂]
難燃性絶縁シート(1)は、前記ポリカーボネート樹脂を含むことにより、優れた折り曲げ加工性、打ち抜き加工性、耐熱性及び絶縁性を有する。
【0015】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含むポリカーボネート樹脂は、例えば、ジヒドロキシジアリール化合物と、ホスゲンと、を反応させるホスゲン法、又は、ジヒドロキシジアリール化合物と、ジフェニルカーボネート等の炭酸エステルと、を反応させるエステル交換法によって得られる。
【0016】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)において、前記ジヒドロキシジアリール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0017】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)において、前記ジヒドロキシジアリール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0018】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)において、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。前記重量平均分子量は、例えば、15000~35000であることが好ましく、20000~35000であることがより好ましく、20000~30000であることがさらに好ましい。前記重量平均分子量がこのような範囲であることで、難燃性絶縁シート(1)の厚さのばらつきがより小さくなる。
【0019】
本明細書において、ポリカーボネート樹脂の場合に限らず、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0020】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)におけるポリカーボネート樹脂の製造時には、必要に応じて、分子量調節剤、触媒等を用いてもよい。
【0021】
[難燃剤]
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなる。難燃性絶縁シート(1)は、芳香族リン酸エステルからなる難燃剤を含んでいることで、十分な難燃性を有する。本明細書において、芳香族リン酸エステルは、(i)オキシ塩化二リンとフェノール類との反応生成物、または(ii)オキシ塩化二リンと、フェノール類及びアルコール類の混合物との反応生成物、を意味する。芳香族リン酸エステルは、オキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物、及びフェノール(またはアルキルフェノール)との反応生成物である芳香族縮合リン酸エステルを含む。
【0022】
このような芳香族リン酸エステルは、下記式(A)で表される化合物である。
【0023】
【化1】
【0024】
式(A)中、Rはフェニル基、トリル基又は2,6-キシリル基を表す。複数のRは同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0025】
式(A)中、Rは、下記式(A1)又は(A2)を表す。複数のRが存在する場合、複数のRは同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0026】
【化2】
(式(A2)中、Xは、-CH-、-C(CH-又は-SO-を表す。)
【0027】
式(A)中、nは0~10の整数であり、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0028】
芳香族リン酸エステルとしては、本発明の属する技術分野において、難燃剤として用いられる公知の芳香族リン酸エステルを採用することができる。
【0029】
芳香族リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)(下記式(1))、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)(下記式(2))、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BDP)(下記式(3))が好ましい。これらの芳香族リン酸エステルは、市販品を用いることできる。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
なかでも、芳香族リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)(上記式(1))が好ましい。
【0034】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記難燃剤(芳香族リン酸エステル)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0035】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)において、前記ポリカーボネート樹脂の含有量に対する、前記難燃剤(芳香族リン酸エステル)の含有量の割合は、5~20質量%であることが好ましく、例えば、5~15質量%、及び10~20質量%のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、難燃性絶縁シート(1)の難燃性がより高くなる。前記割合が前記上限値以下であることで、難燃剤の過剰使用が抑制される。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0036】
[色材]
難燃性絶縁シート(1)は、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含んでいてもよい。難燃性絶縁シート(1)は、前記色材を含んでいることで着色されており、隠蔽性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(1)が、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含む場合、難燃性絶縁シート(1)は、前記ポリカーボネート樹脂、難燃剤及び色材を含む難燃性樹脂組成物(1)を用いて製造できる。
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む色材は、例えば、熱可塑性樹脂と併用される公知の色材であってよい。
前記色材としては、例えば、これを含む難燃性絶縁シート(1)に隠蔽性を付与するための色材が挙げられる。
「隠蔽性」とは、下地を透けさせない度合いを意味する。隠蔽性が高い色材は、下地の色を隠す能力が高い。
【0037】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む色材として、より具体的には、例えば、有機系顔料、無機系顔料、染料等が挙げられる。
【0038】
難燃性絶縁シート(1)により高い隠蔽性を付与できる点では、難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む色材は、黒色色材であることが好ましい。
前記黒色色材としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、酸化鉄、黒鉛等が挙げられる。
【0039】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む色材は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0040】
難燃性絶縁シート(1)がより高い難燃性とより高い隠蔽性を有する点では、難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む色材は、カーボンブラックであることが好ましい。
【0041】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含む場合、前記ポリカーボネート樹脂の含有量に対する、前記色材の含有量の割合は、0.01~0.25質量%であることが好ましく、例えば、0.01質量%以上0.15質量%未満であってもよいし、0.15~0.25質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、難燃性絶縁シート(1)がより高い難燃性とより高い隠蔽性を有する。前記割合が前記上限値以下であることで、色材の過剰使用が抑制される。ただし、これらは前記割合の一例である。
【0042】
[他の成分]
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)は、ケイ酸塩化合物を含んでいてもよい。
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)において、前記ポリカーボネート樹脂の含有量に対する、前記ケイ酸塩化合物の含有量の割合は、2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、0.5質量%未満であることがさらに好ましく、0.1質量%未満であることがさらにより好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、前記ポリカーボネート樹脂と、前記難燃剤と、前記色材と、のいずれにも該当しない他の成分を含んでいてもよい。
前記他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
【0043】
前記他の成分としては、例えば、前記ポリカーボネート樹脂に該当しない他の樹脂と、ケイ酸塩化合物に該当しない当該分野で公知の各種添加剤等が挙げられる。
【0044】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0045】
(他の樹脂)
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記他の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、スチレン系共重合体(スチレンから誘導された構成単位を有する共重合体)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリメタクリル酸メチル、セルロースエステル樹脂等が挙げられる。
【0046】
前記ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等が挙げられる。
【0047】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念である。
【0048】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記他の樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0049】
(添加剤)
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記添加剤としては、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、分散剤、増粘剤等が挙げられる。
【0050】
難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む前記添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0051】
難燃性絶縁シート(1)において、難燃性絶縁シート(1)の総質量に対する、前記ポリカーボネート樹脂と、前記難燃剤と、の合計含有量の割合(([難燃性絶縁シート(1)のポリカーボネート樹脂の含有量(質量部)]+[難燃性絶縁シート(1)の難燃剤の含有量(質量部)])/[難燃性絶縁シート(1)の総質量(質量部)]×100)は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、例えば、95質量%以上、97質量%以上、及び99質量%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、難燃性絶縁シート(1)の難燃性、絶縁性、隠蔽性、折り曲げ加工性、打ち抜き加工性及び耐熱性が、より高くなる。
前記割合は、通常、難燃性樹脂組成物(1)における、常温で気化しない成分の総含有量(質量部)に対する、前記ポリカーボネート樹脂と、前記難燃剤と、の合計含有量の割合(([難燃性樹脂組成物(1)のポリカーボネート樹脂の含有量(質量部)]+[難燃性樹脂組成物(1)の難燃剤の含有量(質量部)])/[難燃性樹脂組成物(1)の常温で気化しない成分の総含有量(質量部)]×100)と同じである。
【0052】
換言すると、上記と同様の理由で、難燃性絶縁シート(1)において、難燃性絶縁シート(1)の総質量に対する、前記他の成分の含有量の割合([難燃性絶縁シート(1)の他の成分の含有量(質量部)]/[難燃性絶縁シート(1)の総質量]×100)は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、例えば、5質量%以下、3質量%以下、及び1質量%以下のいずれかであってもよい。
前記割合は、通常、難燃性樹脂組成物(1)における、常温で気化しない成分の総含有量(質量部)に対する、前記他の成分の含有量の割合([難燃性樹脂組成物(1)の他の成分の含有量(質量部)]/[難燃性樹脂組成物(1)の常温で気化しない成分の総含有量(質量部)]×100)と同じである。
【0053】
[難燃性絶縁シート(1)の特性]
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面のSpcは、200(1/mm)以上であり、例えば、400(1/mm)以上、600(1/mm)以上、及び700(1/mm)以上のいずれかであってもよい。前記Spcが前記下限値以上であることで、他の物体と接触する点が尖ったものとなるため、難燃性絶縁シート(1)の、重ねられて保管されたときの貼り付きが抑制される。
【0054】
本明細書において、難燃性絶縁シート(1)の場合に限らず、シートの面のSpcは、ISO 25178に準拠して測定された値である。
【0055】
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面のSpcの上限値は、特に限定されない。前記Spcの大きさが過剰とならず、難燃性絶縁シート(1)をより容易に製造できる点では、前記Spcは2100(1/mm)以下であることが好ましい。
【0056】
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面のSpcは、例えば、200~2100(1/mm)、400~2100(1/mm)、600~2100(1/mm)、及び700~2100(1/mm)のいずれかであってもよい。
【0057】
難燃性絶縁シート(1)の両方の面のSpcは、それぞれ200(1/mm)以上であるか否かによらず、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
難燃性絶縁シート(1)の少なくとも一方の面(Spcが200(1/mm)以上である面)の、60°光沢度は、25以下であることが好ましく、例えば、20以下、15以下、及び10以下のいずれかであってもよい。難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面の60°光沢度が、前記上限値以下であることで、表面の滑らかさがより抑制され、難燃性絶縁シート(1)の、重ねられて保管されたときの貼り付きが、より抑制される。また、難燃性絶縁シート(1)の面が傷を有していても、その存在が目立たない。
【0059】
本明細書において、難燃性絶縁シート(1)の場合に限らず、シートの面の60°光沢度は、JIS Z 8741に準拠して測定された値である。
【0060】
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面(Spcが200(1/mm)以上である面)の60°光沢度の下限値は、特に限定されない。前記60°光沢度の小ささが過剰とならず、難燃性絶縁シート(1)をより容易に製造できる点では、前記60°光沢度は、5以上であることが好ましい。
【0061】
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面(Spcが200(1/mm)以上である面)の60°光沢度は、例えば、5~25、5~20、5~15、及び5~10のいずれかであってもよい。
【0062】
難燃性絶縁シート(1)の両方の面の60°光沢度は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
難燃性絶縁シート(1)の厚さは、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、難燃性絶縁シート(1)の厚さは、30~900μmであることが好ましく、300~600μm、600~900μm、及び400~500μmのいずれかであってもよい。
【0064】
難燃性絶縁シート(1)は、難燃性を有し、UL94垂直燃焼性試験V-0規格を満たすことが可能である。
【0065】
[難燃性絶縁シート(1)の製造方法]
難燃性絶縁シート(1)は、例えば、難燃性樹脂組成物(1)を用いて、カレンダリング法、押し出し法、プレス法又はキャスト法等の公知の成形方法を適用して、樹脂シートを形成することで、製造できる。
このとき、上記で得られた樹脂シートを、そのまま難燃性絶縁シート(1)としてもよい。あるいは、上記で得られた樹脂シートの片面又は両面に、例えば、表面状態が調節され、加熱されたプレス板を接触させ、前記プレス板によって樹脂シートを加熱加圧し、前記プレス板の表面状態を樹脂シートの片面又は両面に転写することで、一方の面又は両方の面のSpcが上述の条件を満たす(Spcが調節された)難燃性絶縁シート(1)を製造できる。
【0066】
難燃性絶縁シート(1)一方の面又は両方の面の60°光沢度も、上記のSpcの調節の場合と同じ方法で、これらの面に前記プレス板の表面状態を転写することで、調節できる。
【0067】
<難燃性絶縁シート(2)>
本発明の一実施形態に係る難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、山の頂点密度(Spd)が、8000(1/mm)以上である(本明細書においては、この難燃性絶縁シートを「難燃性絶縁シート(2)」と称することがある)。
「山の頂点密度(Spd)」とは、単位面積当たりの山頂点の数を意味する。Spdが大きいと、他の物体との接触点の数が多いことを示す。
本実施形態の難燃性絶縁シート(難燃性絶縁シート(2))は、難燃性及び絶縁性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(2)は、その少なくとも一方の面のSpdが、8000(1/mm)以上であることで、他の物体との接触点の数が多くなり接触面積が減るため、重ねられて保管されたときの貼り付きが抑制される。例えば、長尺の難燃性絶縁シート(2)がロール状に巻かれて保管された場合と、長尺ではない難燃性絶縁シート(2)がその厚さ方向において積層されて保管された場合と、のいずれにおいても、難燃性絶縁シート(2)の貼り付きが抑制される。
【0068】
難燃性絶縁シート(2)は、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含んでいてもよい。難燃性絶縁シート(2)は、前記色材を含んでいることで着色されており、隠蔽性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(2)は、前記ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含む難燃性樹脂組成物(本明細書においては、「難燃性樹脂組成物(2)」と称することがある)を用いて製造できる。
難燃性絶縁シート(2)が、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含む場合、難燃性絶縁シート(2)は、前記ポリカーボネート樹脂、難燃剤及び色材を含む難燃性樹脂組成物(2)を用いて製造できる。
難燃性樹脂組成物(2)は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、前記ポリカーボネート樹脂と、前記難燃剤と、前記色材と、のいずれにも該当しない他の成分を含んでいてもよい。
【0069】
難燃性絶縁シート(2)及び難燃性樹脂組成物(2)が含む、前記ポリカーボネート樹脂、前記難燃剤、前記色材及び前記他の成分は、それぞれ、難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む、前記ポリカーボネート樹脂、前記難燃剤、前記色材及び前記他の成分と同じである。
【0070】
難燃性樹脂組成物(2)は、難燃性樹脂組成物(1)と同じであってよく、その詳細な説明は省略する。
【0071】
難燃性絶縁シート(2)の少なくとも一方の面の、山の頂点密度(Spd)は、8000(1/mm)以上であり、例えば、10000(1/mm)以上、12000(1/mm)以上、及び15000(1/mm)以上のいずれかであってもよい。難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面のSpdが前記下限値以上であることで、他の物体との接触点の数が多くなり接触面積が減るため、難燃性絶縁シート(2)の、重ねられて保管されたときの貼り付きが抑制される。
【0072】
本明細書において、難燃性絶縁シート(2)の場合に限らず、シートの面のSpdは、ISO 25178に準拠して測定された値である。
【0073】
難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面のSpdの上限値は、特に限定されない。前記Spdの大きさが過剰とならず、難燃性絶縁シート(2)をより容易に製造できる点では、前記Spdは22000(1/mm)以下であることが好ましい。
【0074】
難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面のSpdは、例えば、8000~22000(1/mm)、10000~22000(1/mm)、12000~22000(1/mm)、及び15000~22000(1/mm)のいずれかであってもよい。
【0075】
難燃性絶縁シート(2)の両方の面のSpdは、それぞれ8000(1/mm)以上であるか否かによらず、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
難燃性絶縁シート(2)は、その少なくとも一方の面が、先に説明したSpcの条件に代えて、上記のSpdの条件を満たす点以外は、先に説明した難燃性絶縁シート(1)と同じであってよい。
例えば、難燃性絶縁シート(2)は、難燃性を有し、UL94垂直燃焼性試験V-0規格を満たすことが可能である。
【0077】
難燃性絶縁シート(2)の少なくとも一方の面(Spdが8000(1/mm)以上である面)の、60°光沢度は、25以下であることが好ましく、例えば、20以下、15以下、及び10以下のいずれかであってもよい。難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面の60°光沢度が、前記上限値以下であることで、表面の滑らかさがより抑制され、難燃性絶縁シート(2)の、重ねられて保管されたときの貼り付きが、より抑制される。
【0078】
難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面(Spdが8000(1/mm)以上である面)の60°光沢度の下限値は、特に限定されない。前記60°光沢度の小ささが過剰とならず、難燃性絶縁シート(2)をより容易に製造できる点では、前記60°光沢度は、5以上であることが好ましい。
【0079】
難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面(Spdが8000(1/mm)以上である面)の60°光沢度は、例えば、5~25、5~20、5~15、及び5~10のいずれかであってもよい。
【0080】
難燃性絶縁シート(2)の両方の面の60°光沢度は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0081】
難燃性絶縁シート(2)の厚さは、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、難燃性絶縁シート(2)の厚さは、30~900μmであることが好ましく、300~600μm、600~900μm、及び400~500μmのいずれかであってもよい。
【0082】
[難燃性絶縁シート(2)の製造方法]
難燃性絶縁シート(2)は、例えば、難燃性樹脂組成物(2)を用いて、カレンダリング法、押し出し法、プレス法又はキャスト法等の公知の成形方法を適用して、樹脂シートを形成することで、製造できる。
このとき、上記で得られた樹脂シートを、そのまま難燃性絶縁シート(2)としてもよい。あるいは、上記で得られた樹脂シートの片面又は両面に、例えば、表面状態が調節され、加熱されたプレス板を接触させ、前記プレス板によって樹脂シートを加熱加圧し、前記プレス板の表面状態を樹脂シートの片面又は両面に転写することで、一方の面又は両方の面のSpdが上述の条件を満たす難燃性絶縁シート(2)を製造できる。
【0083】
難燃性絶縁シート(2)一方の面又は両方の面の60°光沢度も、上記のSpdの調節の場合と同じ方法で、これらの面に前記プレス板の表面状態を転写することで、調節できる。
【0084】
<難燃性絶縁シート(3)>
本発明の一実施形態に係る難燃性絶縁シートは、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含み、前記難燃剤は、芳香族リン酸エステルからなり、前記難燃性絶縁シートの少なくとも一方の面の、60°光沢度が、25以下である(本明細書においては、この難燃性絶縁シートを「難燃性絶縁シート(3)」と称することがある)。
「60°光沢度」とは、物体に入射角60°で光を照射した際の入射光と正反射光(入射角と反射角の等しい反射光)の強度比を意味する。表面が滑らかな場合は正反射が優勢となるため、光沢度が高くなり、表面が荒れている場合は様々な方向へ拡散反射してしまうため、光沢度が低くなる。
本実施形態の難燃性絶縁シート(難燃性絶縁シート(3))は、難燃性及び絶縁性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(3)は、その少なくとも一方の面の60°光沢度が、25以下であることで、表面の滑らかさが抑制され、重ねられて保管されたときの貼り付きが抑制される。例えば、長尺の難燃性絶縁シート(3)がロール状に巻かれて保管された場合と、長尺ではない難燃性絶縁シート(3)がその厚さ方向において積層されて保管された場合と、のいずれにおいても、難燃性絶縁シート(3)の貼り付きが抑制される。
【0085】
難燃性絶縁シート(3)は、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含んでいてもよい。難燃性絶縁シート(3)は、前記色材を含んでいることで着色されており、隠蔽性を有するため、電気・電子機器中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして好適である。
難燃性絶縁シート(3)は、前記ポリカーボネート樹脂及び難燃剤を含む難燃性樹脂組成物(本明細書においては、「難燃性樹脂組成物(3)」と称することがある)を用いて製造できる。
難燃性絶縁シート(3)が、ポリカーボネート樹脂及び難燃剤の他に、さらに、色材を含む場合、難燃性絶縁シート(3)は、前記ポリカーボネート樹脂、難燃剤及び色材を含む難燃性樹脂組成物(3)を用いて製造できる。
難燃性樹脂組成物(3)は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、前記ポリカーボネート樹脂と、前記難燃剤と、前記色材と、のいずれにも該当しない他の成分を含んでいてもよい。
【0086】
難燃性絶縁シート(3)及び難燃性樹脂組成物(3)が含む、前記ポリカーボネート樹脂、前記難燃剤、前記色材及び前記他の成分は、それぞれ、難燃性絶縁シート(1)及び難燃性樹脂組成物(1)が含む、前記ポリカーボネート樹脂、前記難燃剤、前記色材及び前記他の成分と同じである。
【0087】
難燃性樹脂組成物(3)は、難燃性樹脂組成物(1)と同じであってよく、その詳細な説明は省略する。
【0088】
難燃性絶縁シート(3)の少なくとも一方の面の、60°光沢度は、25以下であり、例えば、20以下、15以下、及び10以下のいずれかであってもよい。難燃性絶縁シート(3)の一方の面又は両方の面の60°光沢度が、前記上限値以下であることで、表面の滑らかさがより抑制され、難燃性絶縁シート(3)の、重ねられて保管されたときの貼り付きが、より抑制される。
【0089】
難燃性絶縁シート(3)の一方の面又は両方の面の60°光沢度の下限値は、特に限定されない。前記60°光沢度の小ささが過剰とならず、難燃性絶縁シート(3)をより容易に製造できる点では、前記60°光沢度は、5以上であることが好ましい。
【0090】
難燃性絶縁シート(3)の一方の面又は両方の面の60°光沢度は、例えば、5~25、5~20、5~15、及び5~10のいずれかであってもよい。
【0091】
難燃性絶縁シート(3)の両方の面の60°光沢度は、それぞれ25以下であるか否かによらず、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
難燃性絶縁シート(3)は、その少なくとも一方の面が、先に説明したSpcの条件に代えて、上記の60°光沢度の条件を満たす点以外は、先に説明した難燃性絶縁シート(1)と同じであってよい。
例えば、難燃性絶縁シート(3)は、難燃性を有し、UL94垂直燃焼性試験V-0規格を満たすことが可能である。
【0093】
難燃性絶縁シート(3)の厚さは、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、難燃性絶縁シート(3)の厚さは、30~900μmであることが好ましく、300~600μm、600~900μm、及び400~500μmのいずれかであってもよい。
【0094】
[難燃性絶縁シート(3)の製造方法]
難燃性絶縁シート(3)は、例えば、難燃性樹脂組成物(3)を用いて、カレンダリング法、押し出し法、プレス法又はキャスト法等の公知の成形方法を適用して、樹脂シートを形成することで、製造できる。
このとき、上記で得られた樹脂シートを、そのまま難燃性絶縁シート(3)としてもよい。あるいは、上記で得られた樹脂シートの片面又は両面に、例えば、表面状態が調節され、加熱されたプレス板を接触させ、前記プレス板によって樹脂シートを加熱加圧し、前記プレス板の表面状態を樹脂シートの片面又は両面に転写することで、一方の面又は両方の面の60°光沢度が上述の条件を満たす難燃性絶縁シート(3)を製造できる。
【0095】
<好ましい難燃性絶縁シート>
本実施形態の好ましい難燃性絶縁シートの一例としては、難燃性絶縁シート(1)中のSpcが200(1/mm)以上である面の、60°光沢度が、25以下である難燃性絶縁シート(1)、及び、難燃性絶縁シート(2)中のSpdが8000(1/mm)以上である面の、60°光沢度が、25以下である難燃性絶縁シート(2)が挙げられる。
【0096】
難燃性絶縁シート(1)の一方の面又は両方の面においては、Spcと60°光沢度との間に高い負の相関が存在する。同様に、難燃性絶縁シート(2)の一方の面又は両方の面においては、Spdと60°光沢度との間に高い負の相関が存在する。
しかし、樹脂シート全般で、その一方の面又は両方の面において、Spcと60°光沢度との間には、必ずしも高い相関が存在するとは言えない。難燃性絶縁シート(1)と難燃性絶縁シート(2)の、一方の面又は両方の面においては、SpcとSpdのいずれにも該当しない他の表面粗さに関わるパラメーターと、60°光沢度と、の間には、高い相関が認められない。
すなわち、上記のSpcと60°光沢度の関係を共に満たす難燃性絶縁シート(1)と、上記のSpdと60°光沢度の関係を共に満たす難燃性絶縁シート(2)は、いずれも、極めて限定的な構成を有している。
【0097】
<<電気・電子機器>>
本発明の一実施形態に係る電気・電子機器は、上述の本発明の一実施形態に係る難燃性絶縁シート、すなわち、前記難燃性絶縁シート(1)、前記難燃性絶縁シート(2)及び前記難燃性絶縁シート(3)からなる群より選択される1種又は2種以上を用いて構成されている。
本実施形態の電気・電子機器の一例としては、回路基板間に前記難燃性絶縁シートが挟み込まれて構成された電気・電子機器が挙げられる。このような電気・電子機器においては、前記難燃性絶縁シートによって、回路基板同士のショートが防止される。
【実施例0098】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されない。
【0099】
各実施例及び比較例で用いた原料を以下に示す。
[ポリカーボネート樹脂]
PC(1):三菱エンジニアリングプラスチック社製「E-2000」、重量平均分子量27000
PC(2):三菱エンジニアリングプラスチック社製「H-3000」、重量平均分子量20000
[難燃剤]
PO(1):芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製「PX-200」)(上記式(1))
PO(2):芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製「CR-733S」)(上記式(2))
[色材]
CB(1):カーボンブラックCB40
【0100】
[実施例1]
<<難燃性絶縁シートの製造>>
2軸押出機を用いて、前記PC(1)(100質量部)、前記PO(1)(6質量部)、及び前記CB(1)(0.1質量部)を溶融混練し、前記難燃性樹脂組成物に相当するペレットを製造した。
同方向2軸押出機とT型ダイス等を用いて、得られたペレットをシート状に押出し、その厚さを調節した。
一対のプレス板を用意した。一方のこのプレス板の表面について、ISO 25178に準拠して測定したSpcは、1400(1/mm)であり、他方のこのプレス板の表面について、ISO 25178に準拠して測定したSpcは、1900(1/mm)であった。
上記で得られたシートを、上記のSpcを有する一対のプレス板で挟み、ホットプレス機を用いて、これらプレス板を約180℃に加熱し、PC(1)を溶融させながら加圧して急冷することにより、目的とする難燃性絶縁シート(厚さ400μm)を得た。
【0101】
<<難燃性絶縁シートの評価>>
<Spc、Spd及び60°光沢度の測定>
上記で得られた難燃性絶縁シートの一方の面について、レーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK-X3000」)を用いて、ISO 25178に準拠して、Spc及びSpdを測定し、日本電色工業社製「PG1」を用いて、JIS Z 8741に準拠して、60°光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
<貼り付き抑制効果の評価>
上記で得られた2枚の難燃性絶縁シートの表面同士を重ね合わせることで、これら難燃性絶縁シートを積層し、得られた積層物の上面に錘を載せることで、前記積層物に対して、その厚さ方向において、500g/cmの圧力を加えたまま、常温下で24時間静置保管した。
次いで、常温下で、前記積層物から錘を取り除き、前記積層物中の2枚の難燃性絶縁シートの貼り付きの有無を確認した。貼り付きが見られなかった場合には、「A:貼り付き抑制効果あり」と判定し、貼り付きが見られた場合には、「B:貼り付き抑制効果なし」と判定した。結果を表1に示す。
【0103】
<<難燃性絶縁シートの製造及び評価>>
[実施例2~5]
難燃性絶縁シートの含有成分の種類及び含有量が、表1に示すとおりとなるように、配合成分の種類及び配合量の少なくとも一方を変更した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、難燃性絶縁シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0104】
[比較例1]
一対のプレス板を用意した。一方のこのプレス板の表面について、ISO 25178に準拠して測定したSpcは、150(1/mm)であり、他方のこのプレス板の表面について、ISO 25178に準拠して測定したSpcは、180(1/mm)であった。
この一対のプレス板を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、難燃性絶縁シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
上記結果から明らかなように、実施例1~5においては、難燃性絶縁シートの貼り付きが抑制されていた。実施例1~5においては、Spcが250(1/mm)以上(250~900(1/mm))であり、Spdが、8500(1/mm)以上(8500~13000(1/mm))であり、60°光沢度が25以下(8~25)であった。
【0107】
これに対して、比較例1においては、難燃性絶縁シートの貼り付きが抑制されていなかった。比較例1においては、Spcが75(1/mm)であり、Spdが検出限界値未満であり、60°光沢度が37であった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、電気・電子機器(例えば、産業用電源や車載用機器などの高電圧用の機器)中の回路基板間に設けられる難燃性絶縁シートとして、利用可能である。