(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179745
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】内燃機関のパージガス濃度推定方法及び内燃機関のパージガス濃度推定装置
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
F02M25/08 F
F02M25/08 301M
F02M25/08 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098850
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】沼田 稔
【テーマコード(参考)】
3G144
【Fターム(参考)】
3G144BA08
3G144CA06
3G144CA12
3G144DA02
3G144DA07
3G144DA08
3G144EA13
3G144FA10
3G144FA27
(57)【要約】
【課題】パージガス濃度を精度良く推定する
【解決手段】内燃機関1は、空燃比フィードバック補正係数αを用いて空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御しているアイドル運転時に、吸気通路4に接続されたパージ通路33を開閉するパージ制御弁34を所定開度以上開弁するとともに、パージポンプ35を駆動して発生させたパージ通路33と吸気通路4との差圧を利用して燃料タンク28からの蒸発燃料を含むパージガスをパージ通路33から吸気通路4に導入し、このパージガスの導入中にパージガスの濃度推定を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空燃比フィードバック補正係数を用いて空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御している内燃機関のアイドル運転時に、
吸気通路に接続されたパージ通路を開閉するパージ制御弁を所定開度以上開弁するとともに、パージポンプを駆動して発生させた上記パージ通路と上記吸気通路との差圧を利用して燃料タンクからの蒸発燃料を含むパージガスを上記パージ通路から上記吸気通路に導入し、
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記パージガスの濃度推定を実施することを特徴とする内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項2】
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記空燃比フィードバック補正係数が所定の基準値に対して所定量以上ずれた際に、上記パージガスの濃度推定を実施することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項3】
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記空燃比フィードバック補正係数が上記基準値よりも小さい所定の第1閾値以下になった際に、上記パージガスの濃度推定を実施することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項4】
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記空燃比フィードバック補正係数が上記基準値よりも大きい所定の第2閾値以上になった際に、上記パージガスの濃度推定を実施することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項5】
上記パージポンプは、使用可能な最高回転数よりも低い所定回転数で運転することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項6】
上記所定回転数は、上記パージガスを安定して上記吸気通路に導入することが可能となる差圧が得られる最低限の回転数であることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項7】
上記パージガスの上記吸気通路へ導入する際の上記パージ制御弁の開度は、50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項8】
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記空燃比フィードバック補正係数が上記基準値に対して上記所定量以上ずれた状態が予め設定された所定時間継続した際に、上記パージガスの濃度推定を実施することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関のパージガス濃度推定方法。
【請求項9】
空燃比フィードバック補正係数を用いて空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御している内燃機関のアイドル運転時に、吸気通路に接続されたパージ通路を開閉するパージ制御弁を所定開度以上開弁するとともに、パージポンプを駆動して発生させた上記パージ通路と上記吸気通路との差圧を利用して燃料タンクからの蒸発燃料を含むパージガスを上記パージ通路から上記吸気通路に導入する制御部と、
上記パージガスの上記吸気通路への導入中に、上記パージガスの濃度推定を実施するパージガス濃度推定部と、を有することを特徴とする内燃機関のパージガス濃度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のパージガス濃度推定方法及び内燃機関のパージガス濃度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、アイドル運転時のパージガスの導入時に排気通路に設けられた酸素濃度センサで検出される酸素濃度と、アイドル運転時のパージガスの非導入時に上記酸素センサで検出される酸素濃度との乖離の大きさに基づいてパージガスの燃料濃度を推定する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1においては、パージ調整バルブが開弁されたときに吸気通路の負圧によってスロットル弁よりも下流側の位置でパージ通路からパージガスが吸気通路に導入されている。
【0004】
このような特許文献1においては、内燃機関のアイドル運転中、吸入空気量が少なく、また吸気通路内の負圧が発達することなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1において、パージガスの燃料濃度を推定する場合、アイドル運転中で吸入空気量が少なく、かつ吸気通路内の負圧が発達していることから、パージ調整バルブの開度が小さくなり、吸気通路に導入されるパージガスの導入量のばらつきが大きくなって、パージガスの濃度推定の精度が悪化する虞がある。つまり、パージガス内の空気/燃料の比であるパージガス濃度を推定するにあたっては、更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内燃機関は、空燃比フィードバック補正係数を用いて空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御している内燃機関のアイドル運転時に、吸気通路に接続されたパージ通路を開閉するパージ制御弁を所定開度以上開弁するとともに、パージポンプを駆動して発生させた上記パージ通路と上記吸気通路との差圧を利用して燃料タンクからの蒸発燃料を含むパージガスを上記パージ通路から吸気通路に導入し、このパージガスの導入中に上記パージガスの濃度推定を実施する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記パージガスの上記吸気通路への導入中であっても、上記吸気通路に導入されるパージガス量が安定しているため、上記パージガスの上記吸気通路への導入中の空燃比フィードバック補正係数の変化から上記パージガス内の空気/燃料の比であるパージガス濃度を精度良く推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明が適用される内燃機関のシステム構成の概略を模式的に示した説明図。
【
図2】吸気通路にパージガスを導入している際の各種パラメータの挙動の一例を示すタイミングチャート。
【
図3】本発明が適用された内燃機関の制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明が適用される内燃機関1のシステム構成を模式的に示した説明図である。
【0012】
内燃機関1は、ピストン2の往復直線運動をクランクシャフト3の回転運動に変換して動力として取り出すいわゆるレシプロ式の内燃機関である。
【0013】
内燃機関1は、吸気通路4と排気通路5とを有している。吸気通路4は、吸気弁6を介して燃焼室7に接続されている。排気通路5は、排気弁8を介して燃焼室7に接続されている。
【0014】
内燃機関1は、燃焼室7内に燃料(ガソリン)を直接噴射する燃料噴射弁9を有している。燃料噴射弁9から噴射された燃料は、燃焼室7内で点火プラグ10により点火される。なお、内燃機関1は、各気筒の吸気ポートに燃料を噴射するものであってもよい。
【0015】
吸気通路4には、吸気中の異物を捕集するエアクリーナ11と、吸入空気量を検出するエアフローメータ12と、後述するコントロールユニット41からの制御信号によって開度が制御される電動のスロットル弁13と、が設けられている。
【0016】
エアフローメータ12は、スロットル弁13の上流側に配置されている。エアフローメータ12は、温度センサを内蔵したものであって、吸気導入口の吸気温度を検出可能となっている。エアクリーナ11は、エアフローメータ12の上流側に配置されている。
【0017】
排気通路5には、上流側触媒14と下流側触媒15が設けられている。上流側触媒14及び下流側触媒15は、例えば三元触媒等からなる排気浄化用の触媒である。また、排気通路5は、上流側触媒14の上流側(入口側)に、A/Fセンサ16が配置されている。A/Fセンサ16は、例えば空燃比に応じたほぼリニアな出力特性を有するいわゆる広域型空燃比センサである。
【0018】
また、この内燃機関1は、吸気通路4に設けられたコンプレッサ18と排気通路5に設けられた排気タービン19とを同軸上に備えた排気タービン式の過給機(ターボ過給機)17を有している。コンプレッサ18は、スロットル弁13の上流側で、かつエアフローメータ12よりも下流側に配置されている。排気タービン19は、上流側触媒14の上流側に配置されている。
【0019】
吸気通路4には、リサーキュレーション通路20が接続されている。リサーキュレーション通路20には、コンプレッサ18の下流側からコンプレッサ18の上流側へ過給圧を解放可能な電動のリサーキュレーション弁21が配置されている。
【0020】
また、吸気通路4には、コンプレッサ18の下流側に、コンプレッサ18により圧縮(加圧)された吸気を冷却して充填効率を良くするインタクーラ22が設けられている。
【0021】
排気通路5には、排気タービン19を迂回して排気タービン19の上流側と下流側とを接続する排気バイパス通路23が接続されている。排気バイパス通路23には、排気バイパス通路23内の排気流量を制御する電動のウェストゲート弁24が配置されている。ウェストゲート弁24は、排気タービン19に導かれる排気ガスの一部を排気タービン19の下流側にバイパスさせることが可能であり、内燃機関1の過給圧を制御可能なものである。
【0022】
内燃機関1は、排気通路5から排気の一部をEGRガスとして吸気通路4へ導入(還流)する排気還流(EGR)が実施可能なものであって、排気通路5から分岐して吸気通路4に接続されたEGR通路25を有している。EGR通路25は、その一端が上流側触媒14と下流側触媒15との間の位置で排気通路5に接続され、その他端がエアフローメータ12の下流側となりコンプレッサ18の上流側となる位置で吸気通路4に接続されている。このEGR通路25には、EGR通路25内のEGRガスの流量を制御する電動のEGR弁26と、EGRガスを冷却可能なEGRクーラ27と、が設けられている。
【0023】
また、吸気通路4には、燃料タンク28内で発生した蒸発燃料を処理する蒸発燃料処理システム31が接続されている。
【0024】
蒸発燃料処理システム31は、車両の燃料タンク28内で発生した蒸発燃料を内燃機関1のアイドル運転時に吸気通路4に導入して処理するものである。蒸発燃料処理システム31は、燃料タンク28内で発生した蒸発燃料の吸着脱離が可能なキャニスタ32と、蒸発燃料を含むパージガスを吸気通路4に導入可能なパージ通路33と、パージ通路33に設けられた電動のパージ制御弁34及び電動のパージポンプ35と、燃料タンク28とキャニスタ32を接続するチャージ通路36と、キャニスタ32に接続されたドレン通路37と、を有している。
【0025】
キャニスタ32は、蒸発燃料を一時的に蓄えるために活性炭等の吸着材が内部に充填されたものである。
【0026】
パージ通路33は、一端がキャニスタ32に接続され、他端がエアフローメータ12の下流側、かつコンプレッサ18の上流側となる位置で吸気通路4に接続されている。
【0027】
パージ制御弁34は、弁開度を制御することで吸気通路4に導入されるパージガスの流量を制御するものである。
【0028】
パージポンプ35は、パージ通路33と吸気通路4との間に差圧を生じさせることが可能であって、パージガスを吸気通路4に圧送する。パージポンプ35は、パージ制御弁34よりもキャニスタ32側に位置している。
【0029】
チャージ通路36は、一端が燃料タンク28に接続され、他端がキャニスタ32に接続されている。
【0030】
ドレン通路37は、一端が大気開放され、他端がキャニスタ32に接続されている。なお、ドレン通路37には、蒸発燃料の外部への放出を制御するドレンカット弁を設けてもよい。
【0031】
キャニスタ32内に吸着された蒸発燃料は、パージ制御弁34を開くとドレン通路37から導入された空気を利用してパージされ、最終的には内燃機関1の燃焼室7において燃料噴射弁9からの燃料とともに燃焼する。
【0032】
なお、
図1中の符号29は、吸気通路4のコレクタ部である。吸気通路4は、内燃機関1が多気筒内燃機関であれば、コレクタ部29よりも下流側が吸気マニホールドとして気筒毎に分岐する。
【0033】
制御部としてのコントロールユニット41は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。
【0034】
コントロールユニット41には、エアフローメータ12、A/Fセンサ16、クランク角センサ42、アクセル開度センサ43等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0035】
クランク角センサ42は、クランクシャフト3のクランク角を検出するものであり、内燃機関1の機関回転数を検出可能なものである。
【0036】
アクセル開度センサ43は、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出する。
【0037】
コントロールユニット41は、各種センサ類の検出信号に基づいて、スロットル弁13、リサーキュレーション弁21、ウェストゲート弁24、EGR弁26及びパージ制御弁34を開閉制御しているとともに、パージポンプ35の駆動を制御している。
【0038】
また、コントロールユニット41は、A/Fセンサ16の検出信号に基づく公知の空燃比フィードバック制御によって空燃比が理論空燃比となるように内燃機関1を制御することが可能となっている。コントロールユニット41は、A/Fセンサ16の検出信号に基づいて空燃比フィードバック補正係数α(ALPHA)を演算し、この空燃比フィードバック補正係数αを基本燃料噴射量に乗じることによって、空燃比が理論空燃比となるように内燃機関1を制御可能である。基本燃料噴射量は、吸入空気量と内燃機関1の機関回転数を用いて算出される。上記基本燃料噴射量は、吸気通路4にパージガスが導入されていれば、パージガス濃度推定値に基づいて補正されることになる。
【0039】
パージ制御弁34を介したパージガスの導入は、基本的に内燃機関1がアイドル運転中で、A/Fセンサ16を利用した内燃機関1の空燃比フィードバック制御条件が成立する条件のときに実行される。
【0040】
すなわち、コントロールユニット41は、空燃比フィードバック補正係数αを用いて空燃比が理論空燃比となるようにフィードバック制御しているアイドル運転時に、パージ制御弁34を所定開度以上開弁する。これにより、パージガスは、パージポンプ35を駆動して発生させたパージ通路33と吸気通路4との差圧(パージ圧)を利用して吸気通路4に導入(圧送)される。
【0041】
パージ制御弁34は、吸気通路4にパージガスを導入中、例えば開度50%以上となるような所定の目標開度(所定開度)まで開弁する。
【0042】
パージポンプ35は、車両の運転中は、例えば常に所定の一定回転数となるように回転数制御される。この所定の一定回転数は、例えば、パージポンプ35の使用可能な最高回転数よりも低い所定回転数である。換言すると、所定の一定回転数は、例えば、パージガスを安定して吸気通路4に導入することが可能となる差圧が得られる最低限の回転数である。
【0043】
また、コントロールユニット41は、パージガス濃度推定部に相当するものであり、吸気通路4にパージガスを導入中に、パージガスの濃度を推定している。バージガスの濃度は、例えば、導入されたパージガス量に対する空燃比フィードバック補正係数αの変動量から推定している。本明細書におけるパージガスの濃度推定値とは、パージガス内の空気/燃料の比の推定値である。
【0044】
図2は、空燃比フィードバック制御中の内燃機関1において、吸気通路4にパージガスを導入している際の各種パラメータの挙動の一例を示すタイミングチャートである。
【0045】
空燃比フィードバック補正係数αは、
図2に示す例では、パージガスが導入されていない時刻t1以前、空燃比を理論空燃比する際の値が所定の基準値(例えば「1」)よりも大きい値となっている。これは、内燃機関1の製品ばらつきに起因するものである。
【0046】
時刻t1は、閉弁しているパージ制御弁34が開き始めるタイミングである。パージ制御弁34は、例えば車両が停止し、アイドル運転状態になってから所定時間経過したタイミングで閉弁状態から開弁する。内燃機関1は、パージ制御弁34が開弁すると、パージ制御弁34の弁開度に比例してパージ率が上昇する。パージ率は、吸入空気量に対するパージガス量の比率である。
【0047】
また、
図2に実線で示すパージガスの濃度推定値は、当初、
図2に特性線Lc(破線)で示す実際のパージガス濃度に対してリーン側に誤推定された値となっている。そのため、内燃機関1の空燃比及び空燃比フィードバック補正係数αは、パージガスのパージが開始されるとリッチ側に変化していく。
【0048】
時刻t2は、パージ制御弁34の弁開度が吸気通路4にパージガスを導入中に設定される目標開度に到達したタイミングである。パージ率は、パージ制御弁34の弁開度が一定となる時刻t2のタイミング以降一定となっている。
【0049】
時刻t3は、空燃比フィードバック補正係数αが予め設定された所定のリッチ側閾値に達したタイミングである。リッチ側閾値は、第1閾値に相当するものであって、上記基準値よりも小さい値である。リッチ側閾値は、上記基準値に対して所定量ずれた値である。そして、この時刻t3のタイミングは、パージガスの濃度推定を実施するタイミングであり、時刻t3で濃度推定値が更新されている。つまり、パージガスの濃度推定は、アイドル運転中、吸気通路4にパージガスを導入中、かつ空燃比フィードバック補正係数αが上記基準値に対して所定量以上ずれたタイミングで実施される。
【0050】
時刻t3で更新された濃度推定値は、実際のパージガス濃度よりもリッチ側に誤推定された値となっている。そのため時刻3以降の空燃比は、理論空燃比を超えてリーン側へと変化していく。また、時刻3以降の空燃比フィードバック補正係数αは、上記基準値を越えてリーン側へと変化していく。なお、時刻t3で更新された濃度推定値は、直前(時刻t3以前)の濃度推定値に比べて実際のパージガス濃度に対するずれ量は小さくなっている。
【0051】
時刻t4は、空燃比フィードバック補正係数αが予め設定された所定のリーン側閾値に達したタイミングである。リーン側閾値は、第2閾値に相当するものであって、上記基準値よりも大きい値である。リーン側閾値は、上記基準値に対して所定量ずれた値である。そして、この時刻t4のタイミングは、パージガスの濃度推定を実施するタイミングであり、時刻t4で濃度推定値が更新されている。つまり、時刻t4は、アイドル運転中、吸気通路4にパージガスを導入中、かつ空燃比フィードバック補正係数αが上記基準値に対して所定量以上ずれたタイミングである。時刻t4で更新された濃度推定値は、実際のパージガス濃度と略同じ値となっている。
【0052】
図3は、上述した実施例の内燃機関1における制御の流れを示すフローチャートである。
【0053】
ステップS1では、内燃機関1が空燃比フィードバック制御中におけるアイドル運転中であるか否かを判定する。内燃機関1は、例えば、アクセル開度が予め設定された所定開度以下の場合にアイドル運転中と判定される。ステップS1において、内燃機関1が空燃比フィードバック制御中におけるアイドル運転中であると判定された場合は、ステップS2へ進む。ステップS1において、内燃機関1が空燃比フィードバック制御中におけるアイドル運転中でないと判定された場合は、今回のルーチンを終了する。
【0054】
ステップS2では、内燃機関1の吸気通路4にパージガスを導入中であるか否かを判定する。ステップS2では、例えば、パージ率が予め設定された所定パージ率以上であり、かつパージ圧が予め設定された所定パージ圧以上の場合にパージガスが吸気通路4に導入中であると判定される。パージ圧は、例えば吸気通路4やパージ通路33の圧力をセンサで検出することで算出可能である。ステップS2において、内燃機関1の吸気通路4にパージガスを導入中であると判定された場合は、ステップS3へ進む。ステップS2において、内燃機関1の吸気通路4にパージガスを導入中でないと判定された場合は、今回のルーチンを終了する。
【0055】
なお、吸気通路4にパージガスを導入中であるか否かは、パージ圧を考慮せず、パージ率のみで判定するようにしてもよい。つまり、パージ率が予め設定された所定パージ率以上であれば、吸気通路4にパージガスを導入中であると判定してもよい。
【0056】
ステップS3では、空燃比フィードバック補正係数αの上記基準値に対するずれ量が所定値以上であるか否かを判定する。すなわち、ステップS3では、空燃比フィードバック補正係数αがリッチ側閾値以下になったか、あるいは空燃比フィードバック補正係数αがリーン側閾値以上になったか、を判定する。ステップS3において、空燃比フィードバック補正係数αの上記基準値に対するずれ量が所定値以上であると判定された場合は、ステップS4へ進む。ステップS3において、空燃比フィードバック補正係数αの上記基準値に対するずれ量が所定値以上でないと判定された場合は、今回のルーチンを終了する。
【0057】
ステップS4では、パージガスの濃度を推定し、パージガスの濃度推定値を更新する。つまり、パージガスの濃度推定は、空燃比フィードバック制御時のアイドル運転中、吸気通路4にパージガスを導入中、かつ空燃比フィードバック補正係数αの基準値からのずれ量が所定量以上の場合に実施されている。
【0058】
ステップS5では、更新されたパージガスの濃度度推定値を利用して燃料噴射弁9の燃料噴射量を補正する。
【0059】
上述した実施例の内燃機関1は、パージポンプ35を利用してパージガスを吸気通路4に導入するため、パージ通路33内の圧力とパージ通路33が接続される位置の吸気通路4内の圧力との圧力差が小さくても安定した量のパージガスを吸気通路4に導入することが可能となる。
【0060】
そのため、内燃機関1は、吸気通路4にパージガスを導入する際にパージ制御弁34の弁開度を大きく設定することが可能となり、吸気通路4に導入されるパージガスの流量を安定させることができる。これによりパージガスの濃度は、吸気通路4にパージガスを導入中の空燃比フィードバック補正係数αの変化から精度良く推定することが可能となる。
【0061】
パージ制御弁34は、パージポンプ35がパージガスを安定して吸気通路4に導入することが可能となる差圧が得られる最低限の回転数に制御されるため、吸気通路4にパージガスを導入中、例えば開度50%以上となるような所定の目標開度まで開弁することが可能となる。つまり、パージ制御弁34は、パージ圧が抑制されているため、吸入空気量が少ないアイドル中であってもある程度大きい弁開度に設定することが可能となり、吸気通路4に導入されるパージガスの流量を安定させることができる。
【0062】
そのため、空燃比フィードバック補正係数αを用いたパージガスの濃度推定値の推定精度を向上させることができる。
【0063】
内燃機関1は、パージガスの濃度推定を実施するにあたって、パージガス非導入時における排気中の酸素濃度を検出する必要がなく、空燃比フィードバック制御中におけるアイドル運転中の全期間にわたってパージガスを吸気通路4に導入することが可能となる。そのため、内燃機関1は、空燃比フィードバック制御時、アイドル運転中に効率良くパージガスを処理することが可能となる。
【0064】
また、パージガスの濃度推定は、アイドル運転中、吸気通路4にパージガスを導入中、かつ空燃比フィードバック補正係数αの基準値からのずれ量が所定量以上の場合に実施されている。そのため、内燃機関1は、パージガスの濃度推定の実施頻度を確保することができる。
【0065】
内燃機関1は、パージポンプ35が最高回転数よりも低い回転数で運転されるので、吸気通路4にパージガスを導入中にパージ制御弁34の開度をパージポンプ35が最高回転数のときの開度よりも大きくでき、吸気通路4にパージガスを導入中に吸気通路4に導入されるパージガス流量を安定させることができる。つまり、内燃機関1は、パージガスを吸気通路4に導入する際に、パージ制御弁34の開度を大きくすることが可能となり、吸気通路4に流入するパージガス流量を安定させることができる。
【0066】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、パージガスの濃度推定は、パージガスの吸気通路4への導入中に、空燃比フィードバック補正係数αが上記基準値に対して所定量以上ずれた状態が予め設定された所定時間継続した際に実施するようにしてもよい。
【0068】
上述した実施例は、内燃機関のパージガス濃度推定方法及び内燃機関のパージガス濃度推定装置に関するものである。
【符号の説明】
【0069】
1…内燃機関
4…吸気通路
5…排気通路
11…エアクリーナ
12…エアフローメータ
13…スロットル弁
14…上流側触媒
15…下流側触媒
16…A/Fセンサ
28…燃料タンク
31…蒸発燃料処理システム
32…キャニスタ
33…パージ通路
34…パージ制御弁
35…パージポンプ
36…チャージ通路
37…ドレン通路
41…コントロールユニット
42…クランク角センサ
43…アクセル開度センサ