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特開2024-179748鋼管杭用杭頭免震構造およびその施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179748
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】鋼管杭用杭頭免震構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20241219BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E02D27/34 B
E02D27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098861
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000133881
【氏名又は名称】株式会社テノックス
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515094729
【氏名又は名称】デロイト トーマツPRS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀司
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 久巳
(72)【発明者】
【氏名】中村 博志
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 友之
(72)【発明者】
【氏名】武田 啓志
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA05
2D046CA08
2D046DA12
2D046DA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】施工性に優れたコンパクトな構造であり、上部構造物からの鉛直荷重を鋼管杭にスムーズに伝達可能な鋼管杭用杭頭免震構造を提供する。
【解決手段】本発明では鋼管杭11の杭頭部と上部構造物41との間に球面すべり支承21などの免震デバイスを設置する。地盤中に打設された鋼管杭1の上端部に非固定または仮固定の状態にベースプレート1を架設する。ベースプレート1の下面側には補強部材2を介して支圧板3を取り付ける。支圧板3は鋼管杭11の上部に打設された中詰コンクリート5中に埋没した状態で、上部構造物41から球面すべり支承21を介してベースプレート1に伝達される鉛直荷重を、さらに中詰コンクリート5を介して鋼管杭11の鋼管断面に伝達する。鋼管杭11の内面には支圧板3からの支圧応力を鋼管断面にスムーズに伝達するためのずれ止め部材4を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の杭頭部と上部構造物との間に免震デバイスを設置してなる杭頭免震構造であって、地盤中に打設された鋼管杭の上端部に架設されたベースプレートと、前記鋼管杭の上部内側に前記ベースプレートと所定間隔をおいて納まる支圧板と、前記ベースプレートと前記支圧板を連結する連結部材と、前記鋼管杭の上部内面の前記支圧板より下方の位置にリング状に設けられたずれ止め部材と、前記鋼管杭の上部に前記支圧板および前記ずれ止め部材が埋没するように充填された中詰コンクリートと、前記ベースプレートの上面に設置された免震デバイスとを備え、前記鋼管杭の上端部と前記ベースプレートとは固定されていないかまたは仮止め状態となっており、前記連結部材は前記上部構造物から前記免震デバイスを介して前記ベースプレートに作用する鉛直荷重を前記支圧板に伝達可能な水平断面を有し、前記支圧板は前記鉛直荷重を前記中詰コンクリートに支圧力として伝達可能な支圧面積を有し、前記支圧板の下面から前記中詰コンクリートに作用する支圧力を前記中詰コンクリートおよび前記ずれ止め部材を介して前記鋼管杭に伝達するように構成されていることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項2】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記鋼管杭の上端部は杭高止まりにおける余長部分が切断された状態であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項3】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記鋼管杭の上端部は杭低止まり状態おいて前記鋼管杭の上端部と前記ベースプレートが離間していることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項4】
請求項3記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記鋼管杭の上端部と前記ベースプレートが離間部分に、該離間部分を閉塞する部材または材料を介在させてあることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項5】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記鋼管杭の上端部と前記ベースプレートとは位置決めのための点溶接またはすみ肉溶接により仮止めされていることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項6】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記支圧板は円形、四角形、六角形、または八角形であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項7】
請求項6記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記支圧板の対角の最大幅は前記鋼管杭の内径の0.5倍~0.95倍であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項8】
請求項7記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記支圧板と前記鋼管杭の内面との隙間は10mm~200mmであることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項9】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記ずれ止め部材は、リング状に形成された幅12mm~50mm、厚さ6mm~25mmのフラットバーを前記鋼管杭の内面に取り付けられたものであることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項10】
請求項9記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記ずれ止め部材は、前記鋼管杭の内面の前記支圧板より50~500mm下方位置に、上部からのすみ肉溶接により取り付けられていることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項11】
請求項10記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記支圧板の外周部下端と前記ずれ止め部材の前記すみ肉溶接部分とを結ぶ鉛直面内の線の角度は30°~60°であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項12】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記鋼管杭の上部には前記中詰コンクリートを充填するためのコンクリート打設孔が設けられていることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項13】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記中詰コンクリートはFc24~Fc45の強度のコンクリートであることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項14】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記免震デバイスは厚鋼板を球面加工したコンケイブプレートを備える上側スライダ受け部と下側スライダ受け部との間に球面スライダが滑り接触可能に配置された球面すべり支承であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項15】
請求項1記載の鋼管杭用杭頭免震構造において、前記免震デバイスは積層ゴム支承であることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造。
【請求項16】
請求項1~15の何れかに記載の鋼管杭用杭頭免震構造の施工方法であって、以下の(1)~(4)の工程を備えることを特徴とする鋼管杭用杭頭免震構造の施工方法。
(1) 鋼管杭を地盤中へ打設する工程。
(2) 下面側に前記連結部材および前記支圧板を一体化した前記ベースプレートを前記鋼管杭の上端に架設する工程。
(3) 前記鋼管杭の上部に前記中詰コンクリートを打設する工程。
(4) 前記ベースプレートの上面に前記免震デバイスを設置する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭の杭頭部と上部構造物との間に免震デバイスを設置してなる杭頭免震構造およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、杭頭免震構造を構成する杭基礎には、場所打ち杭が採用されることが多かったが、耐震性能に優れた鋼管杭の適用が増えてきている。しかし、従来の杭頭免震構造技術では免震デバイスと杭頭の接続部分の構造が複雑であり、施工も手間がかかるという課題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、杭頭部に設置した免震装置により上部構造体を免震支持する杭頭免震構造であって、免震装置を設置するための台座としての偏平な杭頭キャピタルを杭頭部に一体に設けるとともに、杭頭回転の発生に伴う杭頭曲げモーメントを杭頭部から杭頭キャピタルに伝達可能とし、かつ隣接設置した杭頭キャピタルの間には、それら杭頭キャピタルどうしを相互に連結することによって、各杭頭部から各杭頭キャピタルに伝達された杭頭曲げモーメントを曲げ戻すことによって各杭の杭頭回転を制御するための偏平つなぎ梁を設けてなる杭頭免震構造が開示されている。杭として中空鋼管杭を用いた場合には、その杭頭部内に杭頭キャピタルと一体となる充填コンクリートを充填し、杭頭部の内外にはシアキーを設ける構造としている。
【0004】
特許文献2には、積層ゴム免震装置と、鋼管杭相互を連結する扁平基礎梁と、扁平基礎梁と接続し積層ゴム免震装置を支持する免震装置支持ブロックと、免震装置支持ブロックを一組の定着筋により鋼管杭の杭頭部に定着する支持ブロック定着部とから構成されるパイルキャップとを備え、パイルキャップが接合される鋼管杭との調節された固定度により地震動により発生する杭頭曲げモーメントを低減し、低減された杭頭曲げモーメントに対して回転バネとして抵抗し、地震時の積層ゴム免震装置の回転量を許容回転量以内に制御するようにした回転制御バネ機構付き免震装置が開示されている。
【0005】
特許文献3には、建物躯体を載せる免震ゴムの下部に、杭と基礎梁とをフーチングを介して剛結する杭頭免震構造において、基礎梁及びフーチングの鉄筋との干渉をなくし、配筋作業を容易にして、せん断力と曲げモーメントを有効に伝達する目的で、杭頭部に杭頭補強部材としてのネジ節鉄筋を通す孔が設けられるプレートを設置し、プレートを介してフーチングを設置する構造が開示され、鋼管杭を用いた杭頭免震構造にも適用可能であることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-120232号公報
【特許文献2】特許第4934769号公報
【特許文献3】特開2016-166446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の鋼管杭用の杭頭免震構造は、場所打ち杭やコンクリートパイルの場合と同様、杭頭部にフーチングや基礎梁を設けるなどして、杭頭部に剛な構造体を介在させてその上に積層ゴムなどの免震デバイスを設置するか、あるいは特許文献2に記載の発明のように杭頭部を半剛接の構造としつつ、杭頭部の回転角を制御することで杭頭部の設計が過大なものとならないようにしている。
【0008】
このように、従来の鋼管杭用の杭頭免震構造では、鋼管杭の杭頭部への免震デバイスの設置構造が複雑で、施工に手間と大きなコストがかかっている。
【0009】
一方、地震時に免震デバイスが水平方向の変位を繰り返す間においても上部構造物の鉛直荷重を鋼管杭にスムーズに伝達する必要があるが、免震デバイスとして積層ゴム支承を用いた場合で、許容される杭頭部の回転角の限度(限界回転角)は1/100程度とされている。
【0010】
さらに、鋼管杭を用いた杭頭免震構造の場合、免震デバイスを介した鉛直荷重を、杭頭部での急激な断面変化に対し、いかに効率よく伝達できるかが重要な課題となっている。
【0011】
本発明は、鋼管杭を用いた杭頭免震構造の合理化を図ったものであり、施工性に優れたコンパクトで経済的な構造であり、かつ上部構造物からの鉛直荷重を鋼管杭に安全スムーズに伝達可能な鋼管杭用杭頭免震構造およびその施工方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、鋼管杭の杭頭部と上部構造物との間に免震デバイスを設置してなる鋼管杭用杭頭免震構造であって、地盤中に打設された鋼管杭の上端部に架設されたベースプレートと、前記鋼管杭の上部内側に前記ベースプレートと所定間隔をおいて納まる支圧板と、前記ベースプレートと前記支圧板を連結する連結部材と、前記鋼管杭の上部内面の前記支圧板より下方の位置にリング状に設けられたずれ止め部材と、前記鋼管杭の上部に前記支圧板および前記ずれ止め部材が埋没するように充填された中詰コンクリートと、前記ベースプレートの上面に設置された免震デバイスとを備え、前記鋼管杭の上端部と前記ベースプレートとは固定されていないかまたは仮止め状態となっており、前記連結部材は前記上部構造物から前記免震デバイスを介して前記ベースプレートに作用する鉛直荷重を前記支圧板に伝達可能な水平断面を有し、前記支圧板は前記鉛直荷重を前記中詰コンクリートに支圧力として伝達可能な支圧面積を有し、前記支圧板の下面から前記中詰コンクリートに作用する支圧力を前記中詰コンクリートおよび前記ずれ止め部材を介して前記鋼管杭に伝達するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
ベースプレートは鋼管杭の上端部に架設して、杭頭に免震デバイスを設置するための部材であるが、連結部材を介して鋼管内の所定高さに支圧板を位置させる機能も兼ねている。
【0014】
支圧板は、免震デバイスを介してベースプレートに作用する上部構造物からの鉛直荷重を鋼管杭の上部に充填された中詰コンクリートに伝達するための部材であり、中詰コンクリートに伝達された鉛直応力は鋼管杭の内面およびずれ止め部材を介して鋼管杭に生ずる軸力として伝達される。
【0015】
連結部材はベースプレートと支圧板をつなぐ部材であり、支圧板を鋼管内の所定高さに位置させる機能を有している。中詰コンクリートに埋没する部材であるため、中詰コンクリートの充填に支障が生じにくい形状とする必要があり、例えば鋼板を断面十字状に形成したものなどを用いることができる。
【0016】
ベースプレートと連結部材と支圧板はあらかじめ工場で溶接するなどして一体化しておけば、打設した鋼管杭の上端部に連結部材および支圧板が鋼管内入り込む形でベースプレートを鋼管杭の上端部に載置することで簡単に設置することができる。
【0017】
鋼管杭の上端部と免震デバイスを設置されるベースプレートとは、従来、これらを溶接などで固定することが考えられていた。しかしながら、鋼管杭の上端部とベースプレートを溶接などで完全に固定しようとすると、開先を設けて現場溶接する作業に手間がかかるだけでなく、これらが固定されることでずれが許容されず、免震デバイスや上部構造との取り合いにおいても調整が困難となり、また局所的に応力が集中する恐れがある。
【0018】
これに対し、ベースプレートには上部構造物の鉛直荷重が作用することから、本発明では鋼管杭の上端部とベースプレートとはあえて固定しないか、または位置決めのために仮止めする程度とした。そのため、現場での溶接作業を省きつつ、支圧板や連結板が取り付けられたベースプレートの設置や調整が容易となり、鋼管杭の上端部とベースプレートが実質的に固定されていないことで、鉛直荷重以外のせん断力や曲げに対する局所的な応力集中を回避することができる。
【0019】
また、鋼管杭の上端部とベースプレートとはあえて固定しないか、または位置決めのために仮止めする程度とし、実質的に固定しないことを前提としているため、例えば鋼管杭の施工において、鋼管杭の上端部が高止まりとなった状況や鋼管杭が傾斜した状況においては、その余長部分を切断し、そのまま所定高さにベースプレートを設置すればよく、現場作業が簡略化できる。
【0020】
逆に、鋼管杭の施工において、鋼管杭の上端部が低止まりとなった状況や鋼管杭が傾斜した状況においては、鋼管杭の上端部とベースプレートが離間してしまってもよい。その場合、必要に応じて離間部分に、離間部分を閉塞するための部材または材料、通常は鋼材を介在させてもよい。その状態で、所定高さにベースプレートを設置することができる。
【0021】
位置決めのために仮止めする程度における仮止めの手段は特に限定されないが、簡単な方法としては点溶接または開先を設けない状態での粗いすみ肉溶接などが利用可能である。この場合も実質的な固定ではないため、せん断力や曲げが作用して溶接部分が切れても問題はなく、むしろ応力集中による鋼管杭上端などの変形を回避することができる。
【0022】
本発明で鋼管杭の上部に充填される中詰コンクリート内に位置する支圧板の平面形状は、例えば円形、四角形、六角形、八角形など特に限定されず、支圧面積や形状によって若干異なるが、支圧板の対角の最大幅は鋼管杭の内径の0.5倍~0.95倍程度とすればよい。0.5倍より小さいと十分な支圧面積が得らない場合があり、0.95倍より大きいと鋼管杭の内面との間隔が小さすぎてその部分の中詰めコンクリートに亀裂あるいはひび割れが生じる恐れが考えられるので、ひび割れが生じない範囲に収める必要がある。
【0023】
同様の観点から支圧板と鋼管杭の内面との隙間は10mm~200mm程度であることが望ましい。
【0024】
ずれ止め部材は、鋼管杭の杭頭部内に充填される中詰コンクリートから鋼管杭の鋼管本体の断面に鉛直荷重をスムーズに伝達することを目的としたものである。そのため、鋼管杭の鋼管内面に鉄筋のように線で接触するものより、リング状に成形したフラットバーのように面で接触するものが好ましい。
【0025】
一例としては、リング状に形成された幅12mm~50mm、厚さ6mm~25mmのフラットバーを鋼管杭の鋼管内面に取り付けてずれ止め部材とすることができる。なお、中詰コンクリートには鉛直荷重による軸方向の圧縮力が作用している状態で、鋼管杭の鋼管によるコンファインド効果が生ずるため、ずれ止め部材を鋼管内面に押圧することになる。そのため、ずれ止め部材は鋼管内壁に対し、簡易な溶接で固定しておく程度でもよい。
【0026】
コンクリートの斜めせん断方向を考慮し、支圧板の端部から斜め下方30°~60°付近、例えば鋼管杭の内面の前記支圧板より50~500mm下方位置に、上部からのすみ肉溶接などにより、1条または複数条設けるのが好ましい。
【0027】
中詰コンクリートは、鋼管杭の上部に支圧板およびずれ止め部材が埋没するように充填され、主として支圧板の支圧面(支圧板の下面)から伝達される鉛直荷重を支圧面より下方の鋼管杭の鋼管断面に伝達する役目を有している。
【0028】
上述のように中詰コンクリートにはコンファインド効果が働くため、一般的な規模の杭頭免震構造においてフーチングなどに要求される高強度コンクリートから超高強度コンクリートレベルのコンクリート強度は要求されず、Fc24~Fc45といった一般的なコンクリート強度から高度コンクリートレベルまでのコンクリートを使用すればよいことをFEM解析および実験で確認している。
【0029】
実験とFEM解析の対応がよいため、杭径・板厚等のパラメータはFEM解析によって求めることができる。
【0030】
本発明の鋼管杭用杭頭免震構造に用いる免震デバイスとしては、球面すべり支承や積層ゴム支承を用いることができる。
【0031】
球面すべり支承は、厚鋼板を球面加工したコンケイブプレートを備える上側スライダ受け部と下側スライダ受け部との間に球面スライダが滑り接触可能に配置されたものであり、例えば本出願人の一人である日鉄エンジニアリング株式会社の球面すべり支承であるNS-SSBを好適に用いることができる。
【0032】
球面すべり支承の場合、支承の高さが積層ゴムに比べ低いため、よりコンパクトな杭頭免震構造とすることができる。また、設計時の限界杭頭回転角を積層ゴムの一般的な限界回転角1/100より大きく設定することが可能である。すなわち、設計における限界回転角が緩和されることで、杭頭部の補強構造をよりコンパクトで合理的な構造とすることが可能となる。
【0033】
本発明の構造で、デバイスに水平変位を与える実験を行い、NS-SSB免震デバイスが1/50程度の回転角を生じても安定した履歴性能を発揮することを確認している。
【0034】
鋼管杭の上部への中詰コンクリートの充填は、例えば鋼管杭の上部に設けたコンクリート打設孔などから行うことができる。下方へのコンクリートの流失を防ぐためには、所定の高さに仕切り板あるいは発泡樹脂などの詰め物を設けておけばよい。この場合、高流動コンクリートを用いることもできる。
【0035】
上述した本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の施工は、以下の(1)~(4)の工程を含む施工方法によって行うことができる。
(1) 鋼管杭を地盤中へ打設する工程。
(2) 下面側に前記連結部材および前記支圧板を一体化した前記ベースプレートを前記鋼管杭の上端に架設する工程。
(3) 前記鋼管杭の上部に前記中詰コンクリートを打設する工程。
(4) 前記ベースプレートの上面に前記免震デバイスを設置する工程。
【発明の効果】
【0036】
本発明の杭頭免震構造では、打設した鋼管杭の上端部に連結部材および支圧板が鋼管内入り込む形でベースプレートを鋼管杭の上端部に載置し、中詰めコンクリートを打設することで免震デバイスを簡単に設置することができる。
【0037】
ベースプレートと連結部材と支圧板はあらかじめ工場で溶接するなどして一体化したものを現場に納入するようにすれば、鋼管杭に免震デバイスを取り付けるための現場作業が大幅に簡略化され、工期の短縮が可能である。
【0038】
ずれ止め部材を配置することにより、Fc24~Fc45程度のコンクリートであっても、三軸拘束状態にあるため、コンファインド効果により、軸力を鋼管に伝達可能である。
【0039】
NS-SSBを用いた場合、設計時の限界杭頭回転角を積層ゴムの一般的な限界回転角1/100より大きく設定することが可能である。鋼管杭は曲げ剛性が場所打ち杭と比べて小さいため、杭頭回転角が生じやすく、大断面が必要なケースが多かったが、限界回転角を緩和することにより合理的な設計提案が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の一実施形態を示す鉛直断面図である。
図2】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の施工方法における施工手順(a)~(d)を示す鉛直断面図である。
図3図2に続く施工手順(e)~(h)を示す鉛直断面図である。
図4】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造における鋼管杭の上端部へのベースプレートの架設における位置決め方式の一例を示す鉛直断面図である。
図5】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造における鋼管杭の上端部へのベースプレートの架設における位置決め方式の他の例を示す鉛直断面図である。
図6】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造における鋼管杭の上端部へのベースプレートの架設における位置決め方式のさらに他の例を示したもので、(a)は鉛直断面図、(b)はそのA-A断面図である。
図7】本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の他の実施形態を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0042】
図1は、本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の一実施形態を示したものである。本実施形態は、免震デバイスとして、球面すべり支承21を用いたものである。
【0043】
球面すべり支承21自体は、厚鋼板を球面加工したコンケイブプレートを備える上側スライダ受け部22と下側スライダ受け部23との間に球面スライダ24が滑り接触可能に配置された前述のNS-SSB免震デバイスなど、市販の球面すべり支承を用いることができる。
【0044】
基本的な構成としては、地盤中に打設された鋼管杭11の上端部に、ベースプレート1が架設され、このベースプレート1の下面側に連結部材2と支圧板3が一体化されており、鋼管杭11の上端部に充填された中詰コンクリート5内に支圧板3が埋め込まれた形となっている。
【0045】
また、鋼管杭11の上部内面には、支圧板3より下方にずれ止め部材5が、本実施形態ではリング状に2条設けられている。このずれ止め部材5は幅12~50mm、厚さ6mm~25mm程度のフラットバーをリング状に成形したもので、鋼管杭11の杭頭部内に充填される中詰コンクリート4から鋼管杭11の鋼管本体の断面に鉛直荷重をスムーズに伝達することを目的としたものである。
【0046】
ずれ止め部材5の取り付け高さは、鋼管杭11の内径と支圧板3の内径との関係で、支圧板3の50~500mm程度下方となる。
【0047】
連結部材2は上部構造物41から免震デバイスとしての球面スライダ24を介してベースプレート1に作用する鉛直荷重を支圧板3に伝達可能な水平断面を有し、この例では中詰コンクリート5の充填に支障が生じないよう断面十字のリブ状の鋼板から形成されている。
【0048】
支圧板3は上部構造物41からの鉛直荷重を中詰コンクリート5に支圧力として伝達可能な支圧面積を有し、支圧板3の下面から中詰コンクリート5に作用する支圧力を中詰コンクリート5およびずれ止め部材4を介して鋼管杭11の鋼管断面に伝達する機能を有している。
【0049】
なお、中詰コンクリート5には鉛直荷重による軸方向の圧縮力が作用している状態で、鋼管杭11の鋼管によるコンファインド効果が生ずるため、ずれ止め部材4を鋼管内面に押圧することになる。そのため、ずれ止め部材4は鋼管内壁に対し、例えば上からのすみ肉溶接あるいは点溶接程度の簡易な溶接で固定してもよい。
【0050】
また、中詰コンクリート5自体もコンファインド効果が生じるため、例えばFc36程度以下のコンクリートの使用も可能である。
【0051】
なお、図中、符号13は杭頭部を外側から取り囲むマットスラブ、12は捨てコンクリート、14はベースプレート1の外周部を支持する立上りコンクリートである。
【0052】
図2図3は、図1に示した鋼管杭用杭頭免震構造の施工手順の一例を示したものである。この場合の施工手順は以下の通りである。
【0053】
(1) 鋼管杭打設(図2(a)参照)
鋼管杭1を地盤中に打設する。
【0054】
(2) 根切り(図2(b)参照)
原地盤面から所定深さまで根切りを行い、鋼管杭11の杭頭部を根切り面から突出させる。
【0055】
(3) 捨てコンクリート打設(図2(c)参照)
根切り面に捨てコンクリート12を打設する。
【0056】
(4) ベースプレート・支圧板セット(図2(d)参照)
その状態で、鋼管杭11の上端に、下面側に連結部材2および支圧板3が一体化されたベースプレート1を架設する。鋼管杭11とベースプレート1は熱影響を受けないように溶接しなくてもよいが、必要に応じ、鋼管杭11の上端とベースプレート1との間を点溶接するなどして施工中にずれないようにしてもよい。
【0057】
(5) 中詰コンクリート打設(図3(e)参照)
鋼管杭11の上部側面に設けたコンクリート充填孔15から鋼管杭11の上部に中詰コンクリート5を充填打設する。
【0058】
(6) マットスラブ打設(図3(f)参照)
捨てコンクリート12の上面に、鋼管杭11の杭頭部を囲む形で、マットスラブ13のコンクリートを打設する。
【0059】
(7) 立上りコンクリート打設(図3(g)参照)
マットスラブ13の上面と、ベースプレート1の外周部下面との間に立上りコンクリート14を打設する。
【0060】
(8) 免震デバイスセット(図3(h)参照)
ベースプレート1の上面に、免震デバイスとしての球面すべり支承21を設置する。
【0061】
図4図6は、本発明の鋼管杭用杭頭免震構造における鋼管杭11の上端部へのベースプレート1の架設(図2(d)の手順)におけるベースプレート1の位置決めを容易にするための手段の例を示したものである。
【0062】
(1) 内面保持方式
図4の内面保持方式は、連結部材2の側方に鋼管杭11の内径に合わせたスペーサーとしての複数本の棒状の内接部材6を突出させておき、ベースプレート1を鋼管杭11の上端部に設置するときに、ベースプレート1の中心が鋼管杭11の軸心に一致するようにしたものである。なお、内接部材6は鋼管杭11の内面との間に若干の隙間があくようにしてもよい。
【0063】
(2) 外面保持方式
図5の外面保持方式は、ベースプレート1の下面に鋼管杭11の外径に合わせたスペーサーとしての複数本の棒状の外接部材7を突出させておき、ベースプレート1を鋼管杭11の上端部に設置するときに、外接部材7が鋼管杭11の外面に外接することで、ベースプレート1の中心が鋼管杭11の軸心に一致するようにしたものである。なお、外接部材7は鋼管杭11の外面との間に若干の隙間があくようにしてもよい。
【0064】
(3) ボルト穴利用外面保持方式
図6のボルト穴利用外面保持方式は、ベースプレート1に形成されているボルト穴8を利用して、鋼管杭11の外径に合わせたスペーサーとしての複数本の外接部材9を取り付け、ベースプレート1を鋼管杭11の上端部に設置するときに、外接部材9が鋼管杭11の外面に外接することで、ベースプレート1の中心が鋼管杭11の軸心に一致するようにしたものである。
【0065】
この例では外接部材9の軸部9aにフランジ状の外接部9bが形成されており、図6(b)に示すように、軸部9aをフランジ状の外接部9bに対して若干偏心させてあることで、外接部材9を軸回りに回転させて位置の微調整ができるようになっている。
【0066】
なお、いずれの方式においても、ベースプレート1の下面は必ずしも鋼管杭11の上端に密着させなくてもよい。その理由は本発明においては、ベースプレート1に作用する鉛直荷重は、支圧板3から中詰めコンクリート5、ずれ止め部材4を経由して鋼管杭11に伝達されるためである。
【0067】
図7は、本発明の鋼管杭用杭頭免震構造の他の実施形態を示したものである。本実施形態は、免震デバイスとして、積層ゴム支承31を用いたものである。
【0068】
図1の実施形態との相違点は、免震デバイスが球面すべり支承21であるか積層ゴム支承31であるかの違いであり、他の基本的な構成は図1の実施形態の場合と同様である。
【0069】
ただし、球面すべり支承21の場合、免震デバイスの高さを低く抑えることができるのに対し、積層ゴム支承31の場合、免震デバイスの高さが高くなるという欠点がある。
【0070】
また、本発明の鋼管杭用杭頭免震構造に用いる免震デバイスは、引き抜き軸力を伝達せず、杭頭の拘束条件がピンに近いNS-SSBなどの球面すべり支承が望ましいが、本実施形態のように、一般的な積層ゴム支承31を用いた免震デバイスも適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…ベースプレート、2…連結部材、3…支圧板、4…ずれ止め部材、5…中詰コンクリート、6…内接部材、7…外接部材、8…ボルト穴、9…外接部材、9a…軸部、9b…外接部、
11…鋼管杭、12…捨てコンクリート、13…マットスラブ、14…立上りコンクリート、15…コンクリート充填孔、
21…球面すべり支承、22…上側スライダ受け部、23…下側スライダ受け部、24球面スライダ、
31…積層ゴム支承、
41…上部構造物、42…上部台座、43…大梁、44…柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7