(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179750
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】生体電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/262 20210101AFI20241219BHJP
A61B 5/263 20210101ALI20241219BHJP
A61B 5/291 20210101ALI20241219BHJP
【FI】
A61B5/262
A61B5/263
A61B5/291
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098865
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高沢 剛史
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】種村 友貴
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127LL07
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】生体電極において、生体電位の測定の作業負荷を低減する技術を提供する。
【解決手段】生体電位を測定するマイクロニードル型の生体電極11,21,31,41は、皮膚の角質層を穿刺するため突起部111,411から構成された突起群110,410と、突出方向の荷重を突起群10に伝える支持部20と、を備える。突起部は、底部111c1から突出方向Am10に向かって先細るように突出し、突起部の側面111sにおいて、任意の位置の突出方向に沿った第1接線111tの第1傾きRtは、底部111c1から突起部の先端111c2に近づくにつれて、大きくなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体電位を測定するマイクロニードル型の生体電極(11、21、31、41)であって、
前記生体電極は、
皮膚(Sk)の角質層(L1)を穿刺するための複数の突起部(111,411)から構成された突起群(110,410)と、
前記突起群を支持し、かつ、前記角質層を穿刺するための突出方向(Am10)の荷重(P)を前記突起群に伝える支持部(120、420)と、を備え、
前記突起部は、
前記突起部の底部(111c1,411c1)から前記突出方向に向かって先細るように突出し、
前記突起部の側面(111s)において、任意の位置の前記突出方向に沿った第1接線(111t)の第1傾き(Rt)は、前記底部から前記突起部の先端(111c2)に近づくにつれて、大きくなる、生体電極。
【請求項2】
請求項1記載の生体電極であって、さらに、
前記生体電極は、単一の金属材料から構成されている、生体電極。
【請求項3】
請求項2記載の生体電極であって、さらに、
前記支持部の周囲に設けられた周辺部(130)を備え、
前記周辺部において、前記突出方向に向いている前記周辺部の表面(130c1)が、前記支持部における前記突起群を支持する前部(120c1)に接続しており、前記支持部から前記突出方向に垂直な方向に伸びている、生体電極。
【請求項4】
請求項3記載の生体電極であって、
前記突起群は、円状に分布した前記複数の突起部により構成されており、
前記周辺部の表面は、前記突起群の中心軸(CL)に垂直な方向に沿って遠ざかるにつれて、前記突出方向の後方に配されている、生体電極。
【請求項5】
請求項4記載の生体電極であって、
前記周辺部の表面は、前記突出方向に向かって凸の曲面である、生体電極。
【請求項6】
請求項5記載の生体電極であって、
前記前部は、前記突出方向に向かう凸形状である、生体電極。
【請求項7】
請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の生体電極であって、
前記単一の金属材料は、チタン材料または医療用のステンレスである、生体電極。
【請求項8】
請求項2記載の生体電極であって、
前記支持部における前記突起群を支持する部位の角部は、面取りされている、生体電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心電図や脳波などの生体電位の測定には、例えば、特許文献1に記載されているように、マイクロニードル型の生体電極が用いられる場合がある。マイクロニードル型の生体電極は、微小な突起部を備える。マイクロニードル型の生体電極は、微小な突起部を人体の皮膚に突き刺すことにより、皮膚と電極間のインピーダンスを低下させることで、生体電位の測定を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロニードル型の生体電極は、固体金属により構成されるため、ゲル状の電極パッドとは異なり、単独では皮膚に固定できない。このため、特許文献1のように、マイクロニードル型の生体電極は、生体電位の測定の際に、粘着フィルムにより皮膚に固定する必要がある。しかし、粘着フィルムを使用する場合、測定のたびに、粘着フィルムの付け外しが必要となる。
【0005】
さらに、マイクロニードル型の生体電極の突起部は、皮膚に突き刺すために細く形成されている。よって、マイクロニードル型の生体電極において、突起部が、生体電位の測定の際に、折れる可能性がある。
【0006】
したがって、マイクロニードル型の生体電極を、容易に皮膚に固定することで、生体電位の測定の作業負荷を低減する技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
本開示の一形態によれば、生体電位を測定するマイクロニードル型の生体電極(11、21、31、41)が提供される。前記生体電極は、皮膚(Sk)の角質層(L1)を穿刺するための複数の突起部(111,411)から構成された突起群(110,410)と、前記突起群(110)を支持し、かつ、前記角質層を穿刺するための突出方向(Am10)の荷重(P)を前記突起群に伝える支持部(120、420)と、を備える。前記突起部は、前記突起部の底部(111c1,411c1)から前記突出方向に向かって先細るように突出し、前記突起部の側面(111s)において、任意の位置の前記突出方向に沿った第1接線(111t)の第1傾き(Rt)は、前記底部から前記突起部の先端(111c2)に近づくにつれて、大きくなる。
【0009】
このような態様とすることで、突起群は、複数の突起部により皮膚との接触面積を増やすことで、皮膚と生体電極との間のインピーダンスを低減する。より具体的には、突起群は、皮膚のうち高いインピーダンスを有する角質層を、突起部を用いて穿刺することにより、低いインピーダンスを有する組織と接触する。その際に、突起群は、複数の突起部を接触させることにより、接触面積を増やす。すなわち、突起群は、1つの突起部を接触させる場合よりも、安定して皮膚と生体電極との間のインピーダンスを低減する。よって、突起群は、生体電位の測定を容易にする。さらに、突起部が突出方向に向かって突出するため、本開示の生体電極は、突出方向の荷重により、突起群を皮膚に接触させることができる。このうえ、突起部の側面において、任意の位置の突出方向に沿った第1接線の第1傾きは、底部から先端に近づくにつれて大きくなる。すなわち、突起部の先端部分は、突起部の根本部分に比べて、底部に向かって急激に断面積が増大する形状を有する。よって、突起部は、第1傾きが一定の場合に比べて、先端部分の強度が下がりにくいため、折れにくくなる。したがって、本開示の生体電極は、複数の突起部としての突起群を備えた場合でも、突起部が折損する可能性を低減する。このような態様とすることで、本開示の生体電極は、折損を防ぐために粘着フィルムやジェルなどで生体電極の位置を皮膚に対して固定する必要がある態様に比べて、生体電極の取り付け作業負荷を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】突起群による皮膚の穿刺を示す説明図である。
【
図6】生体電位の測定時の生体電極を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施形態:
A1.生体電極の構成:
第1実施形態の生体電極11を示す
図1では、相互に直交する3つの軸であるx軸、y軸およびz軸が表されている。他の図面に記載のx軸、y軸およびz軸は、いずれも
図1のx軸、y軸およびz軸に対応する。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
【0012】
生体電極11は、生体電位を測定する。より具体的には、生体電極11は、生体電位の測定装置に接続された状態で用いられる。生体電極11は、例えば、脳波の測定のために、頭部に取り付けられることで、頭部の皮膚Skと測定装置とを電気的に接続する。生体電極11を、マイクロニードル型の生体電極ともよぶ。よって、生体電極11は、測定装置により、脳波としての生体電位の測定を可能にする。なお、本実施形態の図面では、技術の理解を容易にするため、保持部140に繋がるリード線や生体電位の測定装置の図示が省略されている。
【0013】
生体電極11は、中心軸CLを中心として形成されている。中心軸CLは、生体電位の測定の際に受ける荷重Pの方向であり、突出方向Am10に平行な軸でもある。荷重Pは、例えば、生体電極11を皮膚Skに押圧する機能を有する医療用の工具から受ける荷重である。なお、突出方向Am10とは逆の方向を、非突出方向Am20とよぶ。突出方向Am10は、-y方向である。非突出方向Am20は、+y方向である。さらに、中心軸CLに平行な方向であり、突出方向Am10と非突出方向Am20を含む方向を、中心軸CL方向Am30とよぶ。なお、突出方向Am10や中心軸CLに垂直な方向を、半径方向Am40とよぶ。すなわち、半径方向Am40は、本実施形態の図面では、xz平面に平行な方向でもある。
【0014】
生体電極11は、生体電気の測定の際に、皮膚Skを穿刺させるための荷重Pにより変形しない剛性を有する。さらに、生体電極11は、合金を含む単一の金属材料によって構成されている。例えば、生体電極11は、CP(commercially pure titanium)チタンともよばれるJIS T 7401-1に規定されているチタン材料によって構成されている。
【0015】
このような態様とすることで、生体電極11は、単一の金属材料から構成されるため、異種金属の接合部分に生じるノイズを発生させない。したがって、生体電極11は、より高い精度で生体電位の測定ができる。さらに、生体電極11は、チタン材料によって構成されることで、生体電位の測定の際に、アレルギー反応が出る可能性を低減する。
【0016】
生体電極11は、突起群110と、支持部120と、周辺部130と、保持部140と、を備える。
【0017】
保持部140は、生体電極11と生体電位の測定装置との接続状態を保持する。より具体的には、保持部140は、生体電位の測定装置に繋がるリード線の係合部と係合することで、生体電極11との接続状態を保持する。例えば、保持部140は、スナップ式の生体電極とよばれる生体電極11の係合部である。保持部140は、後に説明する支持部120において、非突出方向Am20の部位から突出している。
図2に示すように、この部位を、支持部120の後部120c4とよぶ。保持部140の中心軸は、生体電極11の中心軸CLに一致した円柱状の形状である。すなわち、保持部140は、中心軸CLに沿った方向において、支持部120の前部120c1とは逆側の面に配されている。保持部140は、先端部において、半径方向Am40に向かって隆起した凸部141を備える。保持部140は、凸部141を、係合のための凹部を備えたリード線の係合部と係合させることで、生体電極11とリード線との接続状態を保持する。
【0018】
さらに、保持部140は、支持部120と生体電位の測定装置に繋がるリード線とを電気的に接続している。保持部140は、支持部120と突起群110と一体の単一の金属材料より構成されていることで、突起群110で検出した電位を支持部120とリード線を介して生体電位の測定装置へ伝える。
【0019】
図2では、生体電極11の断面として、中心軸CL上のxy平面に平行な断面が図示されている。支持部120は、突起群110を支持する。支持部120は、角質層L1を穿刺するための突出方向Am10に向かう荷重Pを突起群110に伝える。支持部120は、その外側の部位として、前部120c1と、側部120c3と、後部120c4と、を備える。
【0020】
後部120c4は、生体電位の測定の際に、突起群110により皮膚Skを穿刺するための荷重Pを受ける。後部120c4は、支持部120の外側において、突出方向Am10における後方の部位である。後部120c4は、保持部140に繋がっている。
【0021】
前部120c1は、突起群110と繋がる。前部120c1は、支持部120の外側において、突出方向Am10の側の部位である。前部120c1は、半径方向Am40に沿って、中心軸CLから同心円状に広がっている。すなわち、前部120c1の中心軸は、中心軸CLに一致している。前部120c1において、中心軸CL上の部位は、最も突出方向Am10の側に位置している。後に説明する突起群110は、前部120c1から突出することで、前部120c1に支持されている。
【0022】
側部120c3は、周辺部130を支持する。側部120c3は、前部120c1と後部120c4の間において、半径方向Am40における端部に位置している部位である。後に説明する周辺部130は、側部120c3から半径方向Am40に向かって形成されている。すなわち、側部120c3は、周辺部130を支持している。
【0023】
周辺部130は、支持部120の周囲に設けられている。より具体的には、周辺部130は、支持部120の側部120c3から半径方向Am40に向かって突出している。周辺部130の突出量は、半径方向Am40の全方向において一定である。周辺部130の突出量は、例えば、半径方向Am40に平行な方向において、周辺部130の外径D30と、前部120c1の外径D20と、が、D30=D20×1.5の関係となるように規定される。
【0024】
周辺部130において、半径方向Am40に向いた端部131における表面130c1側の角部131c1は、面取りされている。すなわち、周辺部130は、半径方向Am40に向かう凸形状である。このような態様とすることで、周辺部130は、角部131c1が皮膚Skに接触することによる不快感を低減する。
【0025】
周辺部130は、突出方向Am10に向いている表面130c1が、支持部120における突起群110を支持する前部120c1に接続している。すなわち、周辺部130は、支持部120から半径方向Am40に伸びている。なお、前部120c1と表面130c1の間において、突出方向Am10における段差はないため、支持部120の側部120c3は、露出していない。周辺部130において、前部120c1と表面130c1の接続部120c2は、最も突出方向Am10の側に位置している。
【0026】
突起群110は、皮膚Skの角質層L1を穿刺する。突起群110は、支持部120の前部120c1から突出している複数の突起部111より構成されている。より具体的には、突起群110は、円状に分布した複数の突起部111により構成されている。突起群110は、生体電位の測定の際に、突起部111を皮膚Skの角質層L1に、複数の箇所に渡って穿刺させることで、生体電極11と皮膚Skとの接触面積を増やす。すなわち、突起群110は、皮膚Skと生体電極11とのインピーダンスを低減する。より具体的には、突起群110は、皮膚Skのうち高いインピーダンスを有する角質層L1を、後に説明する突起部111を用いて穿刺することにより、低いインピーダンスを有する組織と接触する。その際に、突起群110は、複数の突起部111を接触させることにより、接触面積を増やす。すなわち、突起群110は、1つの突起部111を接触させる場合よりも、安定して皮膚Skと生体電極11との間のインピーダンスを低減する。
【0027】
突起部111を示す
図3では、技術の理解を容易にするため、突出方向Am10が紙面上方に向いている。さらに、
図3では、突起群110のうち、一部の突起部111が示されている。突起群110のそれぞれの突起部111は、突起部111の底部111c1から突出方向Am10に向かって先細るように突出することで、突出方向Am10に平行な中心軸CL111を有する。底部111c1は、突起部111において、支持部120の前部120c1によって支持されている部位である。よって、底部111c1は、前部120c1に沿って形成されている。突起部111は、より具体的には、突出方向Am10に先端111c2を有する、四角錐状に突出している。突起部111の突出量H1については、後に説明する。
【0028】
突起部111は、前部120c1において、等間隔に、かつ、整列した状態で配列されている。例えば、突起部111は、
図3のように、x軸方向とz軸方向の2方向に沿って、それぞれの中心軸CL111が等間隔に整列した状態で配列されている。突起部111の中心軸CL111の間隔Lは、x軸方向とz軸方向の2方向において、例えば、0.23mmである。
図4に示す、突起部111の太さWは、底部111c1において、例えば、0.23mmである。よって、本実施形態において、太さWは、後に説明する隣り合う突起部111の隙間110c1の間隔でもある。
【0029】
図3に示すように、突起部111は、前部120c1において、1mm
2以上の範囲に渡り分布している。このうえ、突起部111は、1mm
2当たり10本以上の密度で存在している。例えば、突起部111は、前部120c1の外径D20=4mmとして約13mm
2の範囲に渡って、1mm
2当たり25本の密度で分布している。
【0030】
図4では、以下の説明のため、3つの同じ構造の突起部111に、突起部111a1~突起部111a3とした符号が付けられている。さらに、突起部111a1には、突起部111の側面111sにおける接線として、突出方向Am10に沿った第1接線111tが示されている。突起部111a1の輪郭は、第1接線111tの説明のため、一部を破線により図示されている。
【0031】
本実施形態では、突起部111a1の側面111sは、底部111c1から先端111c2に向かって順に、側面111s1と側面111s2により構成されている。側面111s1と側面111s2のそれぞれの第1接線111tは、順に第1接線111t1と第1接線111t2である。第1接線111tの傾きとして、突出方向Am10に平行な方向に対する傾きは、第1傾きRtである。
図4では、側面111sにおける底部111c1と交わる位置から、突出方向Am10に平行な方向に向かって基準線SL1が示されている。すなわち、第1傾きRtは、基準線SL1に対する傾きである。第1接線111t1と第1接線111t2のそれぞれの第1傾きRtは、順に第1傾きRt1と第1傾きRt2である。
図3に示すように、突起部111は、中心軸CL111の周方向Am50において、4つの側面111sにより構成されている。よって、4つの側面111sのそれぞれの側面111sにおいて、第1傾きRt1と第1傾きRt2の関係は同じである。なお、第1傾きRtは、例えば、非接触式の3次元測定器により測定される。第1傾きRtは、3次元計測器により、底部111c1を基準面として、底部111c1から先端111c2までの側面111s上において測定される。
【0032】
突起部111は、前述のように、底部111c1から突出方向Am10に向かって先細るように突出している。さらに、突起部111は、突起部111の側面111s1において、任意の位置の突出方向Am10に沿った第1接線111tの第1傾きRtは、底部111c1から先端111c2に近づくにつれて大きくなる。より具体的には、
図4に示すように、第1傾きRtは、底部111c1に近い側面111s1における第1接線111t1の第1傾きRt1よりも、先端111c2に近い側面111s2における第1接線111t2の第1傾きRt2の方が、大きい。
【0033】
なお、突起部111の側面111s1では、加工精度により、例えば、10μm未満の凹凸が形成される場合がある。しかし、第1傾きRtは、こうした凹凸による傾きを含まない。
【0034】
図4では、突起部111の突出量H1の説明のため、突起部111a3に基づいて、側面111s1を突出方向Am10に拡大した側面Ob1sを有する比較例Ob1が図示されている。すなわち、第1傾きRtに相当する比較例Ob1の接線Ob1tの第1傾きRtobは、底部111c1から比較例Ob1の先端Ob1c2まで一定である。よって、突起部111の底部111c1からの突出量H1は、比較例Ob1の底部111c1からの突出量H2よりも、小さくなる。なお、各突出量は、底部111c1と中心軸CL111との交点から各先端までの長さである。すなわち、突起部111は、比較例Ob1よりも突出量が小さく、かつ、比較例Ob1に包含されている。突起部111は、比較例Ob1のように、第1傾きRtが底部111c1から先端Ob1c2まで一定の場合に比べて、先端111c2から受ける荷重による突起部111の中心軸CL111方向の各位置における曲げモーメントが小さくなる。したがって、突起部111の中心軸CL111方向の各位置の断面における応力は、比較例Ob1の対応する各位置の断面における応力よりも小さい。このため、突起部111は、比較例Ob1よりも折れにくい。
【0035】
なお、先端111c2から受ける荷重による曲げモーメントは、生体電極11が荷重Pを受けている状態において、生体電極11の取り付け作業や皮膚Skの動きなどにより、半径方向Am40に荷重が加わる場合に発生する。
【0036】
このうえ、突起部111の側面111s1において、任意の位置の突出方向Am10に沿った第1接線111tの第1傾きRtは、底部111c1から先端111c2に近づくにつれて大きくなる。すなわち、突起部111の先端部分は、突起部111の根本部分に比べて、底部111c1に向かって急激に断面積が増大する形状を有する。よって、突起部111は、比較例Ob1のように、第1傾きRtobが一定の場合に比べて、先端111c2付近の強度が下がりにくいため、折れにくくなる。
【0037】
図5では、技術の理解を容易にするため、突起群110のうち一部の突起部111による皮膚Skの穿刺状態が図示されている。このうえ、
図5では、
図4と同じ断面視において、突起部111と皮膚Skの断面が示されている。さらに、
図5では、皮膚Skの構造として、角質層L1と、表皮L2と、真皮L3と、が示されている。
【0038】
突起部111の突出量H1は、皮膚Skの角質層L1を穿刺するため、角質層L1の厚さに基づいて設定される。角質層L1を含む表皮L2の厚さは、約200μmである。角質層L1は、50μm~200μmの範囲に存在する。よって、例えば、突起部111の突出量H1は、200μmである。なお、突起部111は、皮膚Skの角質層L1を穿刺するため、
図4に示すように、内角Raと頂角Rbを規定する必要がある。例えば、底部111c1と側面111s1との内角Raは、70度である。さらに、突起部111の頂角Rbとして、向かう合う2つの側面111s2の頂角Rbは、60度である。
【0039】
突起群110は、
図4に示すように、隣り合う突起部111との間に隙間110c1を有する。隙間110c1は、突起部111が突出方向Am10に先細るように形成されることで、底部111c1から先端111c2側に近づくほど拡大する空間である。
【0040】
このような態様とすることで、隙間110c1は、生体電位の測定の際に、皮脂や角質などの異物をその空間に逃がすことができる。よって、隙間110c1は、皮脂や角質などが突起部111の先端111c2に付着する可能性を低減する。すなわち、隙間110c1は、皮脂や角質などによって生体電極11と皮膚Sk間のインピーダンスの上昇のリスクを低減するため、生体電位の測定精度を向上させる。
【0041】
A2.生体電極による皮膚Skの穿刺:
以下では、生体電極11による皮膚Skの穿刺について説明する。
図6では、突出方向Am10に皮膚Skが存在している状態が図示されていている。
【0042】
生体電極11は、支持部120に突出方向Am10に向かう荷重Pを受けることで、突起群110を皮膚Skに押圧する。突起部111は、突出方向Am10としての1方向に向かって突出しているため、荷重Pにより皮膚Skを穿刺する。より具体的には、突起部111は、突出量H1が角質層L1の厚さに基づいて設計されていることで、荷重Pにより角質層L1を突き破る。
【0043】
さらに、突起部111は、第1傾きRtが底部111c1から先端111c2に近いほど、大きくなるように設計されていることで、折れにくい。よって、生体電位の測定の際に、例えば、生体電極11が振れることで、先端111c2に半径方向Am40の荷重が加わった場合も、突起部111は、折損する可能性が低い。
【0044】
よって、生体電極11は、電気抵抗となる角質層L1を介さずに、皮膚Skと電気的に接続される。すなわち、生体電極11は、皮膚Skと生体電極11との間のインピーダンスを低減する。したがって、生体電極11は、皮膚Skと生体電極11との間で生体電位の電圧降下を防止することで、生体電極11に接続される生体電位の測定装置による生体電位の測定を可能にする。
【0045】
さらに、周辺部130は、生体電極11が突出方向Am10に荷重Pを受ける際に、半径方向Am40に振れることを防止する。周辺部130の表面130c1は、皮膚Skを穿刺している状態では、突起群110の周囲において、皮膚Skに対して平行に配される。よって、生体電極11が半径方向Am40に振れるにより、皮膚Skに対して垂直な中心軸CLが傾く場合、周辺部130は、皮膚Skに接触することで、皮膚Skから反発力を受ける。よって、生体電極11が半径方向Am40に振れることを防止されることで、周辺部130は、安定した状態で、生体電極11による生体電位の測定を可能にする。
【0046】
以上より、突起群110は、複数の突起部111により皮膚Skとの接触面積を増やすことで、皮膚Skと生体電極11との間のインピーダンスを低減する。より具体的には、突起群110は、皮膚Skのうち高いインピーダンスを有する角質層L1を、突起部111を用いて穿刺することにより、低いインピーダンスを有する組織と接触する。その際に、突起群110は、複数の突起部111を接触させることにより、接触面積を増やす。すなわち、突起群110は、1つの突起部111を接触させる場合よりも、安定して皮膚Skと生体電極11との間のインピーダンスを低減する。よって、突起群110は、生体電位の測定を容易にする。さらに、突起部111が突出方向Am10に向かって突出するため、本開示の生体電極11は、突出方向Am10の荷重Pにより、突起群110を皮膚Skに接触させる。このうえ、突起部111の側面111s1において、任意の位置の突出方向Am10に沿った第1接線111tの第1傾きRtは、底部111c1から先端111c2に近づくにつれて大きくなる。すなわち、突起部111の先端111c2部分は、突起部111の根本部分に比べて、底部111c1に向かって急激に断面積が増大する形状を有する。よって、突起部111は、第1傾きRtが一定の場合に比べて、先端111c2部分の強度が下がりにくいため、折れにくくなる。したがって、本開示の生体電極11は、複数の突起部111としての突起群110を備えた場合でも、突起部111が折損する可能性を低減する。このような態様とすることで、本開示の生体電極11は、折損を防ぐために粘着フィルムやジェルなどで生体電極11の位置を皮膚Skに対して固定する必要がある態様に比べて、生体電極11の取り付け作業負荷を低減する。
【0047】
さらに、本開示の生体電極11は、単一の金属材料から構成されるため、異種金属の接合部分に生じるノイズを発生させない 。したがって、本開示の生体電極11は、より高い精度で生体電位の測定ができる。
【0048】
このうえ、本開示の生体電極11は、チタン材料により構成されることで、生体電位の測定の際に、アレルギー反応が出る可能性を低減する。
【0049】
さらに、周辺部130は、皮膚Skに対する生体電極11の向きを安定させることで、生体電極11の取り付け作業負荷を低減する。
【0050】
B.第2実施形態:
第2実施形態の生体電極21では、第1実施形態の周辺部130に相当する周辺部230の形態が、第1実施形態と異なる。
図7では、第1実施形態の
図2に相当する断面が示されている。生体電極21の他の点は、第1実施形態の生体電極11と同じである。
【0051】
周辺部230において、表面230c1は、突起群110の半径方向Am40に沿って遠ざかるにつれて、突出方向Am10の後方に配されている。表面230c1は、
図7に示すように、突出方向Am10に面した周辺部230の表面である。表面230c1の説明のため、表面230c1の任意の位置において、突出方向Am10に沿った接線を第2接線230tとし、その傾きを第2傾きRcとおく。さらに、前部120c1の接線として、接続部120c2における半径方向Am40に沿った接線を、基準線SLとおく。第2傾きRcは、基準線SLに対する傾きである。よって、表面230c1は、より具体的には、その表面上において、第2傾きRcが常に一定の表面である。
【0052】
このような態様とすることで、周辺部230は、突出方向Am10において、突起群110の後方に配される。よって、周辺部230は、生体電位の測定の際に、周辺部230が突起群110よりも先に皮膚Skに接触することを防止するため、生体電位の測定作業を阻害する可能性を低減する。
【0053】
C.第3実施形態:
第3実施形態の生体電極31では、第2実施形態の周辺部230の表面230c1に相当する表面330c1の形態が、第2実施形態と異なる。
図8では、第2実施形態の
図7に相当する断面が示されている。生体電極31の他の点は、第2実施形態の生体電極21と同じである。
【0054】
周辺部330において、表面330c1は、突出方向Am10に向かって凸の曲面である。すなわち、表面330c1は、生体電極31の中心軸CLから、半径方向Am40に沿って遠ざかるほど、非突出方向Am20に向かって傾いている。よって、表面330c1の任意の位置における突出方向Am10に沿った第2接線330tの第2傾きRcは、生体電極31の中心軸CLから、半径方向Am40に沿って遠ざかるほど、大きくなる。なお、第2傾きRcは、第2実施形態と同様に、基準線SLに対する傾きである。
【0055】
このような態様とすることで、周辺部330は、曲面のある皮膚Skの表面に沿って接触しやすくなるため、生体電位の測定作業を容易にする。
【0056】
D.第4実施形態:
第4実施形態の生体電極41では、第3実施形態の支持部120の前部120c1に相当する前部420c1の形態が、第3実施形態と異なる。
図9では、第3実施形態の
図8に相当する断面が示されている。生体電極41の他の点において、特に説明しない点については、第3実施形態の生体電極31と同じである。
【0057】
前部420c1は、突出方向Am10に向かう凸形状である。より具体的には、前部420c1は、生体電極41の中心軸CLから、半径方向Am40に沿って遠ざかるほど、非突出方向Am20に向かって配される。なお、第4実施形態の生体電極41における周辺部430は、第3実施形態の周辺部330と同じ形状である。すなわち、表面330c1に相当する表面430c1は、接続部120c2に相当する接続部420c2と繋がっている。さらに、第3実施形態と同様に、表面430c1は、突出方向10に向かって凸曲面である。
【0058】
突起群410のそれぞれの突起部411は、第1実施形態の突起部111の突出量H1や側面111sの第1接線111tの第1傾きRtと同様に、それぞれの突起部411における突出量や側面の接線の傾きは、同一である。しかし、前部420c1が凸形状であるため、第1実施形態の突起部111の底部111c1に相当する、底部411c1は、凸形状に沿って曲がっている。このため、底部411c1は、前部420c1上の位置によって形状が異なる。よって、第4実施形態の突起部411において、第1実施形態の突起部111における内角Raは、底部411c1上の位置によって異なる。
【0059】
このような態様とすることで、本開示の生体電極41は、皮膚Skに対する生体電極41の角度の調整が容易になる。
【0060】
E.他の実施形態1:
上記実施形態において、生体電極11は、周辺部130を備えている。しかし、生体電極11は、周辺部130を備えない態様でも、生体電位の測定をすることができる。ただし、周辺部130を備えない態様では、支持部120の接続部120c2に位置する部位が露出するため、接続部120c2は、周辺部130の角部131c1と同様に面取りされている必要がある。すなわち、支持部120における突起群110を支持する部位の角部が、面取りされている。このような態様とすることで、生体電極11は、周辺部130を備えない態様でも、接続部120c2に位置する部位が、生体電極11の角として、生体電位の測定の際に、人体に不快感を与える可能性を低減する。
【0061】
F.他の実施形態2:
(1)上記実施形態において、生体電極11は、例としてチタン材料によって構成されている。しかし、生体電極11は、合金を含む単一の金属材料によって構成されていればよい。医療用Ti合金材料や医療用ステンレスなどによって構成されていてもよい。例えば、生体電極11は、ステンレスのSUS316Lにより構成されていてもよい。
(2)上記実施形態において、保持部140は、支持部120と電気的に接続されている。しかし、保持部140は、支持部120に電気的に接続されていなくてもよい。例えば、生体電極11は、生体電位の測定装置に繋がるリード線と支持部120とが直接接続される態様でもよい。例えば、保持部140は、支持部120に抑えつけるように、リード線を保持することで、保持部140とリード線が電気的に接続されていない態様においても、支持部120とリード線を電気的に接続できる。
(3)上記実施形態において、前部120c1は、中心軸CLから同心円状に広がっている。しかし、前部120c1は、中心軸CLを中心として、楕円状や四角形状に広がっていてもよい。
(4)上記実施形態において、周辺部130の突出量は、一定であり、例としてD30=D20×1.5の関係となるように規定される。しかし、周辺部130の突出量は、この関係に限られない。例えば、D30=D20×1.3の関係となるように規定されてもよい。周辺部130の突出量は、穿刺した状態を安定させるために必要な突出量として、実験的に決定されてもよい。
(5)上記実施形態において、突起部111は、四角錐状の形状をしている。しかし、突起部111は、四角錐状の形状に限られない。例えば、突起部111は、六角錐状や三角錐の多角錐や円錐状でもよい。
(6)上記実施形態において、突起部111は、x軸方向とz軸方向の2方向に向かって、等間隔に整列した状態で配列されている。しかし、突起部111は、整列した状態や等間隔に配列された状態になっていなくてもよい。突起部111は、1mm2以上の範囲に渡り分布し、かつ、1mm2当たり10本以上の密度で存在していればよい。
(7)上記実施形態において、突起部111の突出量H1は、200μmである。しかし、突起部111の突出量H1は、皮膚Skの角質層L1の厚さに応じて、例えば、50μm~200μmの範囲内で設定されてもよい。
(8)上記実施形態において、突起部111は、内角Raが70度であり、頂角Rbが60度である。しかし、内角Raと頂角Rbは、この角度に限られない。例えば、突起部111は、内角Raが80度であり、頂角Rbが50度でもよい。内角Raと頂角Rbは、突起部111が皮膚Skの角質層L1を穿刺し、かつ、第1傾きRtが底部111c1から先端111c2に近いほど、大きくなるように設定されていればよい。
(9)上記実施形態において、第1傾きRtは、底部111c1から先端111c2に近づくにつれて大きくなるとしている。この態様には、第1実施形態の第1傾きRt1と第1傾きRt2のように、第1傾きRtが2段階に変化する態様だけではなく、3段階や4段階など複数段階に連続変化する態様も含む。
(10)上記実施形態において、生体電極11は、単一の金属材料から構成されていなくてもよい。例えば、支持部120が導電性の樹脂を含む構成であってもよい。
【0062】
G.他の実施形態3:
本開示は、上記の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、開示の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上記の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上記の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
11,21,31,41…生体電極、111c2…先端、110,410…突起群、111,111a1,111a3,411…突起部、111c1,411c1…底部、111t,111t1,111t2…第1接線、120,420…支持部、Am10…突出方向、L1…角質層、P…荷重、Sk…皮膚、Rt,Rt1,Rt2…第1傾き