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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179758
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】衝突防止制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20241219BHJP
【FI】
H02P25/064
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098880
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】浅田 昌義
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】林 茂樹
【テーマコード(参考)】
5H540
【Fターム(参考)】
5H540AA01
5H540BA03
5H540BB03
5H540BB05
5H540EE05
5H540FA12
(57)【要約】
【課題】集中コントローラの計算負荷を低減できる衝突防止制御システムを提供する。
【解決手段】衝突防止制御システムは、コントローラ9と、複数のモジュールのドライブ回路22を制御する複数のモジュールコントローラ24と、を備える。スライダが存在するモジュールのモジュールコントローラ24がスライダの少なくとも識別IDと現在位置を含むスライダ情報をコントローラ9に送信する。コントローラ9がスライダ情報を複数のモジュールコントローラ24に送信する。制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラ24が、隣接するスライダとの衝突を防止するように制御対象のスライダを制御する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモジュールを有する搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置に用いられる衝突防止制御システムであって、
コントローラと、
複数のモジュールのドライブ回路を制御する複数のモジュールコントローラと、を備え、
前記スライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが前記スライダの少なくとも識別IDと現在位置を含むスライダ情報を前記コントローラに送信し、
前記コントローラが前記スライダ情報を前記複数のモジュールコントローラに送信し、
制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが、隣接するスライダとの衝突を防止するように制御対象のスライダを制御する衝突防止制御システム。
【請求項2】
前記スライダ情報は、前記スライダの識別ID、現在位置及び干渉領域を含むことを特徴とする請求項1に記載の衝突防止制御システム。
【請求項3】
前記モジュールコントローラは、目標位置まで移動したと仮定した制御対象のスライダが隣り合うスライダの干渉領域と干渉するとき、干渉を回避するように制御対象のスライダの目標位置を暫定目標位置に変化させることを特徴とする請求項2に記載の衝突防止制御システム。
【請求項4】
前記モジュールコントローラは、制御対象のスライダと隣接するスライダが互いに向かい合う方向に移動するとき、これらが同一方向に移動するときの減速度よりも大きい緊急停止減速度で制御対象のスライダを減速停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の衝突防止制御システム。
【請求項5】
前記干渉領域は、前記スライダが減速して停止するまでの減速停止距離を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の衝突防止制御システム。
【請求項6】
前記干渉領域は、前記コントローラの位置更新周期の間に前記スライダが移動するスキャンタイム移動距離を含むことを特徴とする請求項5に記載の衝突防止制御システム。
【請求項7】
前記コントローラが、集中コントローラから受信したスライダの目標位置指令を前記モジュールコントローラに送信することを特徴とする請求項1又は2に記載の衝突防止制御システム。
【請求項8】
複数のモジュールを有する搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置に用いられる衝突防止制御方法であって、
前記搬送装置が、コントローラと、複数のモジュールのドライブ回路を制御する複数のモジュールコントローラと、を備え、
前記スライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが前記スライダの少なくとも識別情報と位置情報を含むスライダ情報を前記コントローラに送信し、
前記コントローラが前記スライダ情報を前記複数のモジュールコントローラに送信し、
制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが、隣接するスライダとの衝突を防止するように制御対象のスライダを制御する衝突防止制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のモジュールを有する搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置に用いられる衝突防止制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置が開発されている。搬送経路は、複数のモジュールを組み合わせて構成される。モジュールには、リニアモータの固定子となる複数のコイル、複数のコイルに供給する電力を制御するドライブ回路が設けられる。スライダには、リニアモータの可動子となる永久磁石が設けられる。複数のコイルに供給する電力をドライブ回路によって制御し、複数のコイルに移動磁場を発生させると、スライダが搬送経路に沿って移動する。
【0003】
この種の搬送装置には、従来のベルトコンベヤに比べて、優れた柔軟性があるという特徴がある。例えば、従来のベルトコンベヤのように複数のスライダを一斉に移動させる必要がなく、複数のスライダを個別に移動させ、位置決めできる。また、モジュールを適宜組み替えれば、用途に応じた適切な搬送経路にすることができる。このため、この種の搬送装置は、様々な用途(製造、加工、パッケージング等)で利用されている。
【0004】
典型的な搬送経路は閉じていて、スライダが閉じた搬送経路を繰り返し移動する。搬送経路の近傍には、スライダと協働して仕事を行う複数のアクチュエータが配置される。例えば、スライダが製品供給アクチュエータの前で停止すると、アクチュエータがスライダに製品を供給する。次に、スライダが他のアクチュエータの前で停止すると、他のアクチュエータがスライダ上の製品を加工、組立て等する。次に、スライダが製品取出しアクチュエータの前で停止すると、アクチュエータがスライダから製品を取り出す。以降は上記のサイクルを繰り返す。
【0005】
複数のスライダが搬送経路を移動する搬送装置においては、スライダ同士の衝突を防止することが重要である。例えば、進行方向前方のスライダが停止したとき、衝突を防止するために後方のスライダも停止する必要がある。
【0006】
従来の衝突防止制御方法として、前方のスライダと後方のスライダのスライダ間距離が予め設定された閾値以下のとき、後方のスライダを停止させることが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-184755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の衝突防止制御方法においては、スライダの衝突防止のための計算や制御を集中コントローラが行っている。このため、スライダの数が増えるにしたがって、集中コントローラの計算負荷が増大するという課題がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、集中コントローラの計算負荷を低減できる衝突防止制御システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、複数のモジュールを有する搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置に用いられる衝突防止制御システムであって、コントローラと、複数のモジュールのドライブ回路を制御する複数のモジュールコントローラと、を備え、前記スライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが前記スライダの少なくとも識別IDと現在位置を含むスライダ情報を前記コントローラに送信し、前記コントローラが前記スライダ情報を前記複数のモジュールコントローラに送信し、制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが、隣接するスライダとの衝突を防止するように制御対象のスライダを制御する衝突防止制御システムである。
【0011】
本発明の他の態様は、複数のモジュールを有する搬送経路を複数のスライダが移動する搬送装置に用いられる衝突防止制御方法であって、前記搬送装置が、コントローラと、複数のモジュールのドライブ回路を制御する複数のモジュールコントローラと、を備え、前記スライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが前記スライダの少なくとも識別情報と位置情報を含むスライダ情報を前記コントローラに送信し、前記コントローラが前記スライダ情報を前記複数のモジュールコントローラに送信し、制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが、隣接するスライダとの衝突を防止するように制御対象のスライダを制御する衝突防止制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衝突防止のための制御を制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラに分散させるので、コントローラや集中コントローラの計算負荷を低減できる。また、モジュールコントローラが離れた位置にある他のモジュールコントローラから複数のモジュールコントローラを介してスライダ情報を受け取るのでは、スライダ情報を受信するまでに時間がかかる。モジュールコントローラがコントローラを介して他のモジュールコントローラからスライダ情報を受信するようにすることで、スライダ情報を受信するまでの時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の搬送装置の概略図である。
図2】モジュールの外視図である。
図3】モジュールの内部構造を示す斜視図である。
図4】固定子の外観斜視図である。
図5】スライダのスケールを示す斜視図である。
図6】衝突防止制御システムの構成図である。
図7】コントローラの動作のフローチャートである。
図8】モジュールコントローラの動作のフローチャートである。
図9】干渉領域を説明する図である。
図10】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(1))。
図11】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(2))。
図12】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(3))。
図13】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(4))。
図14】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(5))。
図15】モジュールコントローラの動作を説明する図である(動作パターン(6))。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の衝突防止制御システム及び方法を説明する。ただし、本発明の衝突防止制御システム及び方法は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(搬送装置)
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の搬送装置1の概略図である。搬送装置1は、複数のモジュール3を有する搬送経路2を備える。各モジュール3は直線状であり、端と端が接続される。搬送経路2の近傍には、仕事を行う複数のアクチュエータ5が配置される。アクチュエータ5に対面するモジュール3の位置は、固有の位置番号A,B,C,Dで識別される。
【0016】
閉じた搬送経路2を構成するために、搬送経路2には、ベルトコンベヤ6と着脱モジュール7が設けられる。ベルトコンベヤ6は、スライダ4をモジュール3とは反対方向に移動させる。着脱モジュール7は、モジュール3とベルトコンベヤ6との間でスライダ4を受け渡す。搬送経路2を垂直面内に配置し、スライダ4を垂直循環させてもよいし、搬送経路2を水平面内に配置し、スライダ4を水平循環させてもよい。
【0017】
搬送装置1は、集中コントローラ8によって制御される。集中コントローラ8は、汎用PLC(Programmable Logic Controller)、パーソナルコンピュータ等である。集中コントローラ8は、プロセッサ、メモリ、通信インターフェースを備える。メモリは、ROMとRAMを備える。
【0018】
例えば、集中コントローラ8は、スライダ4を位置番号Aに移動させる目標位置指令を生成し、コントローラ9に送信する。スライダ4がA点に到達すると、モジュール3のモジュールコントローラがコントローラ9を介して、スライダ4が位置番号Aに到達したという信号を集中コントローラ8に送る。集中コントローラ8は、この信号を受け取ったらアクチュエータコントローラ10に仕事開始の指令を送信する。アクチュエータ5の仕事が終わったら、集中コントローラ8は、スライダ4を位置番号Bに移動させる。全てのアクチュエータ5の仕事が終わったら、集中コントローラ8は、スライダ4を着脱モジュール7、ベルトコンベヤ6に移動させる。
【0019】
アクチュエータ5は、アクチュエータコントローラ10によって制御される。アクチュエータコントローラ10は、PLC、パーソナルコンピュータ等である。アクチュエータコントローラ10は、プロセッサ、メモリ、通信インターフェースを備える。
【0020】
集中コントローラ8とコントローラ9は、DeviceNet、EtherCAT、EtherNET/IP等の通信リンク12によって接続される。集中コントローラ8とアクチュエータコントローラ10も同様であり、通信リンク13によって接続される。コントローラ9とモジュール3のモジュールコントローラは、RS485、I2C等の同期通信可能な通信回線14によって接続される。
【0021】
コントローラ9は、搬送装置1の立ち上げ時にコンフィグソフト11を実行する。これにより、コントローラ9のメモリ36(図6参照)には、固有の位置番号A、B、C、Dに対応する機械座標(移動座標)が記憶される。また、コントローラ9のメモリ36には、モジュール3のモジュールコントローラがスライダ4の運動プロファイル(速度曲線)を作成するときの速度、加速度、加加速度等が記憶される。
(モジュール)
【0022】
図2に示すように、モジュール3は、複数のコイル21を有する固定子20を備える。図4に示すように、1つのモジュール3に対して、複数(この実施形態では4つ)の固定子20が設けられる。図2には1つの固定子20を示す。各固定子20は、U,V,W相のコイル21を複数組(この実施形態では2組)備える。固定子20には、ドライブ回路22によって電力が供給される。ドライブ回路22には、図示しない電力線が接続される。ドライブ回路22は、PWMインバータ等の電力変換器である。ドライブ回路22は、モジュールコントローラ24によって制御される。1つのモジュールコントローラ24に対して複数(この実施形態では4つ)のドライブ回路22が設けられる。ドライブ回路22は、図3に示すドライバ基板23に配置される。モジュールコントローラ24も、図3に示すドライバ基板23に配置される。
【0023】
図3に示すように、モジュール3は、スライダ4の直線移動を円滑に案内するリニアガイド25を備える。リニアガイド25のレール26がモジュール3のベース28に取り付けられる。リニアガイド25のキャリッジ27がスライダ4に取り付けられる。
【0024】
モジュール3には、スライダ4の識別IDと現在位置を検出するためのセンサ29が設けられる。センサ29は、ホールセンサ、磁気抵抗センサ等である。センサ29は、センサ基板30に配置される。センサ29は、各固定子20に対応して設けられる。この実施形態では、4つのセンサ29が設けられる。
【0025】
スライダ4は、リニアモータの可動子となる駆動用永久磁石31を備える。図5に示すように、スライダ4は、駆動用永久磁石31と平行にスケール32を備える。センサ29は、スケール32の磁場を検出することによって、スライダ4の識別IDと現在位置を検出する。
(衝突防止制御システム)
【0026】
図6は、衝突防止制御システムの構成図を示す。衝突防止制御システムは、コントローラ9と、複数のモジュールコントローラ24を備える。コントローラ9は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータである。コントローラ9は、プロセッサ35、メモリ36、通信インターフェース37を備える。メモリ36は、ROMとRAMを備える。プロセッサ35は、メモリ36に記憶されたプログラムを実行する。コントローラ9は、マイコンでもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の電気回路でもよい。
【0027】
集中コントローラ8とコントローラ9とは、上記の通信リンク12によって接続される。コントローラ9とモジュールコントローラ24は、RS485、I2C等の通信回線14によって接続される。隣接するモジュールコントローラ24も、RS485、I2C等の通信回線15によって接続される。
【0028】
コントローラ9は、集中コントローラ8から受信したスライダ4の目標位置指令(位置番号A,B,C,D)を目標位置指令(移動座標)に変換して、全てのモジュールコントローラ24にスライダ4の目標位置指令を送信する。
【0029】
モジュールコントローラ24は、マイコンである。モジュールコントローラ24は、プロセッサ38、メモリ39、通信インターフェース40,インターフェース回路41を備える。モジュールコントローラ24は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータでもよいし、FPGA、ASIC等の電気回路でもよい。
【0030】
モジュールコントローラ24は、コントローラ9からスライダ4の目標位置指令(移動座標)を受信する。スライダ4が存在するモジュール3のモジュールコントローラ24は、この目標位置指令に基づいて、スライダ4の運動プロファイル(速度曲線等)を作成し、移動指令(位置指令及び速度指令、又は位置指令)を生成し、ドライブ回路22を制御する。スライダ4が固定子20から他の固定子20に乗り移ったら、モジュールコントローラ24は、ドライブ回路22を切り換える。スライダ4がモジュール3から他のモジュール3に乗り移ったら、他のモジュール3のモジュールコントローラ24が運動プロファイルを引き継ぎ、他のモジュール3のドライブ回路22を制御する。
【0031】
モジュールコントローラ24は、インターフェース回路41を備える。インターフェース回路41は、スライダ4の現在位置を検出するセンサ29の出力信号をフィードバック制御できるように信号処理する。また、インターフェース回路41は、固定子20の電流を検出する電流センサ42の出力信号をフィードバック制御できるように信号処理する。
【0032】
モジュールコントローラ24のプロセッサ38は、スライダ4の位置制御、速度制御、電流制御を行う。すなわち、プロセッサ38は、移動指令の位置指令とセンサ29が検出した現在位置との偏差に基づき、速度指令を生成する。そして、速度指令とセンサ29が検出した現在速度との偏差に基づき、電流指令を生成する。そして、電流指令と電流センサ42が検出した現在電流との偏差に基づき、電圧指令を生成する。ドライブ回路22は、プロセッサ38が生成する電圧指令に基づき、スイッチング素子により直流電力を交流電力に変換し、交流電力を固定子20に供給する。
(衝突防止制御方法)
【0033】
図7は、コントローラ9の動作のフローチャートを示す。コントローラ9が集中コントローラ8から目標位置指令(位置番号A,B,C,D)を受信すると(S1)、コントローラ9は、目標位置指令(位置番号A,B,C,D)を目標位置指令(移動座標)に変換し、目標位置指令(移動座標)を全てのモジュールコントローラ24に送信する(S2)。また、コントローラ9は、スライダ4の運動プロファイル(速度曲線)を作成するための速度、加速度、加加速度等の情報を全てのモジュールコントローラ24に送信する。
【0034】
次に、コントローラ9は、スライダ4が存在するモジュール3のモジュールコントローラ24からスライダ情報を受信する(S3)。スライダ情報は、スライダ4の識別ID、現在位置、現在速度、及び干渉領域を含む。
【0035】
識別IDは、スライダ4を特定するための番号である。現在位置は、センサ29が検出したスライダ4の現在位置である。現在速度は、センサ29が検出したスライダ4の現在速度である。干渉領域は、言い換えれば他のスライダ4の侵入禁止領域である。図9に示すように、干渉領域は、スライダ4が減速停止するまでの距離である。干渉領域は、スライダ4の進行方向のプラス側安全停止位置Xcwと逆方向のマイナス側安全停止位置Xccwによって画定される。
【0036】
図9に示すように、スライダ4が移動座標上をcw方向に移動するとき、プラス側安全停止位置Xcwは、式1のように決定される。
(式1)
プラス側干渉領域Xcw=スキャンタイム移動距離(mm)+減速停止距離(mm)+スライダサイズ(+)(mm)+マージン(mm)
【0037】
スキャンタイム移動距離は、コントローラ9の位置更新周期の間にスライダ4が移動する距離である。スキャンタイム移動距離は、式2のように決定される。
(式2)
スキャンタイム移動距離(mm)=スライダ台数×αμs×速度(mm/s)
ここで、αは、コントローラ9が1台のモジュールコントローラ24にスライダ情報を問い合わせて、1台のモジュールコントローラ24がコントローラ9にスライダ情報を回答するまでの時間である。
【0038】
減速停止距離は、スライダ4が直ちに減速停止したときの距離である。減速停止距離は、式3のように決定される。
(式3)
減速停止距離(mm)=(減速度(mm/s)×0.5+速度(mm/s))×速度(mm/s)/減速度(mm/s
式3の減速度には、運動プロファイル(速度曲線)を作成するときの減速度よりも大きい緊急停止減速度を使用する。
【0039】
図9に示すように、スライダサイズ(+)(mm)は、スライダ4の中心からスライダ4の進行方向の端までの長さである。スライダサイズ(+)には、スライダ4又はパレット16の長い方を使用する。マージンは設けても設けなくてもよい。
【0040】
マイナス側安全停止位置Xccwは、スライダ4がcw方向に移動するとき、又はスライダ4が停止中のときには、0に設定される。
【0041】
スライダ4が移動座標上をccw方向に移動するとき、マイナス側安全停止位置Xccwは、式1と同様に設定される。プラス側安全停止位置Xcwは、スライダ4がccw方向に移動するとき、又はスライダ4が停止中のとき、例えば0に設定される。
【0042】
再び図7に示すように、コントローラ9は、スライダ4が存在するモジュール3のモジュールコントローラ24からスライダ情報を受信する(S3)。そして、受信したスライダ情報を全てのモジュールコントローラ24に送信する(S4)。これにより、全てのモジュールコントローラ24がスライダ情報を共有する。
【0043】
コントローラ9がモジュールコントローラ24に送信するスライダ情報は、例えば表1のテーブル形式で表される。
【表1】
【0044】
図8は、モジュールコントローラ24の動作のフローチャートを示す。制御対象のスライダ4が存在するモジュール3のモジュールコントローラ24(以下、単にモジュールコントローラ24という)は、コントローラ9からスライダ情報を受信する(S11)。次に、モジュールコントローラ24は、目標位置に移動したと仮定した制御対象のスライダ4が隣り合うスライダ4(進行方向前方のスライダ4)の干渉領域に干渉するか否かを判断する(S12)。干渉しないとき、モジュールコントローラ24は、コントローラ9から受信した目標位置Aを目標位置に設定し(S13)、目標位置Aに基づいて運動プロファイル(速度曲線)を作成する(S15)。干渉するとき、モジュールコントローラ24は、干渉を回避するように目標位置を暫定目標位置A1に変化させ(S14)、暫定目標位置A1に基づいて運動プロファイルを作成する(S15)。次に、モジュールコントローラ24は、運動プロファイルに基づいて移動指令(位置指令と速度指令、又は位置指令)を生成し、ドライブ回路22を制御することによって、制御対象のスライダ4をフィードバック制御する(S16)。
【0045】
以下に、モジュールコントローラの動作(S12)~(S15)をパターン分けして詳しく説明する。図10に示すように、制御対象のスライダ4Aの現在位置はAであり、コントローラ9から受信した隣り合うスライダ4Bの現在位置はBであるとする。スライダ4Bの干渉領域18(+)は、コントローラ9から受信したプラス側安全停止位置Xcwである。スライダ4Bの干渉領域18(-)は、コントローラ9から受信したマイナス側安全停止位置Xccwとスライダサイズ(-)によって求める。プラス側安全停止位置Xcw、マイナス側安全停止位置Xccw、スライダサイズ(+)(-)は、モジュールコントローラ24のメモリ39に記憶されている。符号19(+)(-)は、スライダ4Aのスライダサイズ(+)(-)を示す。
【0046】
図10に示すように、制御対象のスライダ4Aがコントローラ9から受信した目標位置Aまで移動したと仮定する。目標位置Aにあるスライダ4を破線で示す。目標位置Aまで移動しても、スライダ4Aがスライダ4Bの干渉領域18と干渉しないとき、モジュールコントローラ24は、目標位置をコントローラ9から受信した目標位置Aに設定する。そして、図10に示すように、運動プロファイル(台形の速度曲線17)を作成する。なお、この速度曲線17は、スライダ4Aが移動する過程で、徐々に加速し、その後一定速になり、その後徐々に減速して目標位置Aで停止することを意味する。
【0047】
図11(a)に示すように、目標位置Aまで移動したと仮定したスライダ4Aが隣り合うスライダ4Bの干渉領域18と干渉するとき、モジュールコントローラ24は、干渉を回避するように目標位置をコントローラ9から受信した目標位置Aから暫定目標位置A1に変化させる。そして、暫定目標位置A1を元に速度曲線17を図11(a)の破線で示す速度曲線17-1に変化させる。
【0048】
速度曲線17-1は、所定の更新周期(例えば1ms)毎に更新される。図11(b)に示すように、所定時間経過後、スライダ4Bが図11(b)に示す現在位置Bまで移動すると、スライダ4Aは目標位置Aまで移動してもスライダ4Bに干渉しなくなる。このとき、モジュールコントローラ24は、目標位置をコントローラ9から受信した目標位置Aに再設定し、速度曲線17-1を当初の速度曲線17に戻す。結果的には、この場合、スライダ4Aの動作はスライダ4Bに影響されないことになる。
【0049】
図12(a)(b)は、スライダ4Bが停止中の例を示す。図12(a)に示すように、目標位置Aまで移動したと仮定したスライダ4Aが停止中のスライダ4Bの干渉領域18と干渉するとき、モジュールコントローラ24は、干渉を回避するようにスライダ4Aの目標位置Aを暫定目標位置A1に変化させる。そして、暫定目標位置A1を元に速度曲線17を図12(a)の破線で示す速度曲線17-1に変化させる。
【0050】
図12(b)に示すように、所定時間経過後もスライダ4Bが停止したままである。モジュールコントローラ24は、暫定目標位置A1を保持し続け、スライダ4Aを暫定目標位置A1に停止させる。
【0051】
図13(a)(b)は、スライダ4Bが低速動作中の例を示す。図13(a)に示すように、目標位置Aまで移動したと仮定したスライダ4Aが低速動作中のスライダ4Bの干渉領域18と干渉するとき、モジュールコントローラ24は、干渉を回避するように目標位置Aを暫定目標位置A1に変化させる。そして、暫定目標位置A1を元に速度曲線17を図13(a)の破線で示す速度曲線17-1に変化させる。
【0052】
図13(b)に示すように、スライダ4Aがスライダ4Bに追いついたとき、モジュールコントローラ24は、暫定目標位置A1を新たな暫定目標位置A2に変化させ、速度曲線17-2を生成する。このとき、スライダ4Aは、加減速を繰り返しながらスライダ4Bと同速度となるまで減速する。
【0053】
図14(a)(b)は、スライダ4Bが高速動作中の例を示す。図14(a)に示すように、目標位置Aまで移動したと仮定したスライダ4Aが高速動作中のスライダ4Bの干渉領域18と干渉するとき、モジュールコントローラ24は、干渉を回避するように目標位置Aを暫定目標位置A1に変化させる。そして、暫定目標位置A1を元に速度曲線17を図14(a)の破線で示す速度曲線17-1に変化させる。
【0054】
図14(b)に示すように、所定時間後、スライダ4Bがスライダ4Aから離れたとき、モジュールコントローラ24は、スライダ4Bの動きに合わせて暫定目標位置A1を新たな暫定目標位置A2に変化させ、新たな速度曲線17-2を生成する。新たな速度曲線17-2は、当初の速度曲線17に近づいたものになる。
【0055】
図15(a)(b)(c)は、スライダ4Aとスライダ4Bが向かい合って移動中の例を示す。スライダ4Aは、スライダ4Aが存在するモジュール3のモジュールコントローラ24が制御する。スライダ4Bは、スライダ4Bが存在するモジュール3のモジュールコントローラ24が制御する。図15(a)に示すように、動作開始時点では、スライダ4Aとスライダ4Bは離れている。スライダ4Aは、速度曲線33に基づいて移動し、スライダ4Bは、速度曲線34に基づいて移動する。図15(a)から図15(b)に示すように、スライダ4Aの干渉領域18とスライダ4Bの干渉領域18が重なるまでは、スライダ4A、スライダ4B共に減速しない。図15(b)から(c)に示すように、スライダ4Aの干渉領域18とスライダ4Bの干渉領域18が干渉するとき、スライダ4Aが存在するモジュール3のモジュールコントローラ24は、目標位置Aを干渉を回避する暫定目標位置A1に変化させ、暫定目標位置A1を元に速度曲線33を図15(c)の破線で示す速度曲線33-1に変化させる。そして、スライダ4Aとスライダ4Bが同一方向に移動するときの減速度よりも大きい緊急停止減速度でスライダ4Aを減速停止させる。同様に、スライダ4Bが存在するモジュール3のモジュールコントローラ24は、目標位置Bを暫定目標位置B1に変化させ、速度曲線34を速度曲線34-1に変化させ、スライダ4Aと同じ緊急停止減速度でスライダ4Bを減速停止させる。これにより、スライダ4Aとスライダ4Bの衝突を防止することができる。停止時には、スライダ4Aとスライダ4Bは、マージン×2だけ離れる。
(効果)
【0056】
本実施形態の衝突防止制御システム及び方法によれば、以下の効果を奏する。
【0057】
衝突防止のための制御を制御対象のスライダ4が存在するモジュール3のモジュールコントローラ24に分散させるので、コントローラ9や集中コントローラ8の計算負荷を低減できる。また、モジュールコントローラ24が離れた位置にある他のモジュールコントローラ24から複数のモジュールコントローラ24を介してスライダ情報を受け取るのでは、スライダ情報を受信するまでに時間がかかる。モジュールコントローラ24がコントローラ9を介して他のモジュールコントローラ24からスライダ情報を受信するようにすることで、スライダ情報を受信するまでの時間を短縮できる。
【0058】
スライダ情報が、スライダ4の識別ID、現在位置及び干渉領域を含むので、衝突を防止するための多様な制御が可能になる。
【0059】
モジュールコントローラ24が、目標位置まで移動したと仮定した制御対象のスライダ4が隣り合うスライダ4の干渉領域と干渉するとき、干渉を回避するように制御対象のスライダ4の目標位置を暫定目標位置に変化させるので、制御対象のスライダ4を無駄に停止させることが無くなり、搬送装置1のスループットが向上する。
【0060】
制御対象のスライダ4と隣接するスライダ4が互いに向かい合う方向に移動するとき、これらが同一方向に移動するときの減速度よりも大きい緊急停止減速度で制御対象のスライダ4を減速停止させるので、2つのスライダ4の衝突を安全に防止できる。
【0061】
干渉領域が、スライダ4が減速して停止するまでの減速停止距離を含むので、2つのスライダ4が互いに向かい合う方向に移動するときの衝突を安全に防止できる。
【0062】
干渉領域が、コントローラ9の位置更新周期の間にスライダ4が移動するスキャンタイム移動距離を含むので、2つのスライダ4が互いに向かい合う方向に移動するときの衝突を安全に防止できる。
【0063】
コントローラ9が、集中コントローラ8から受信したスライダ4の目標位置指令をモジュールコントローラ24に送信するので、集中コントローラ8の計算負荷を低減できる。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化できる。
【0065】
例えば、制御対象のスライダが存在するモジュールのモジュールコントローラが、スライダの識別IDと現在位置の情報に基づいて、制御対象のスライダと隣り合うスライダとの間の距離を計算し、この距離が予め設定された閾値以下のとき、制御対象のスライダを停止させてもよい。
【0066】
上記実施形態では、1つのモジュールコントローラに対して4つのドライブ回路を設けているが、1つのモジュールコントローラに対して1つのドライブ回路を設けてもよい。
【0067】
上記実施形態では、集中コントローラとコントローラを分離しているが、集中コントローラとコントローラを一体化し、コントローラの機能を集中コントローラに組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…搬送装置、2…搬送経路、3…モジュール、4…スライダ、8…集中コントローラ、9…コントローラ、22…ドライブ回路
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