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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179761
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】マツモの直立体を発芽させる方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20241219BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A01G33/00
A01G7/00 601C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098888
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】591124385
【氏名又は名称】理研食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】猪股 英里
(72)【発明者】
【氏名】難波 信由
【テーマコード(参考)】
2B022
2B026
【Fターム(参考)】
2B022AB20
2B022DA08
2B026AA05
2B026AB08
2B026AC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、マツモの種苗(付着器)から直立体を発芽させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】マツモの付着器に、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの直立体を発芽させる方法。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツモの付着器に、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの直立体を発芽させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マツモの直立体を発芽させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マツモは、日本の北西及び北東太平洋沿岸を中心に生息し、地元では高級食材として珍重されてきた海藻である。マツモは、そのままでも食べられる他、湯通しマツモや乾燥マツモとして、様々な食品に利用されており、栄養成分を豊富に含むこと、風味や食感が良好なことから需要が拡大している。そのため、マツモの安定した供給を確保するために、マツモの養殖に関する技術の確立が望まれている。
【0003】
マツモの養殖に関する技術としては、天然採苗による遊走子、接合子を撚糸に着生させ養殖する技術(非特許文献1~3)等が開示されている。しかし、天然採苗では、遊走子、接合子等の種苗を採取できる時期が限定されており、安定した品質、数量の種苗が得られるとは限らない。また、マツモを成長させるためには、まず種苗から直立体を発芽させる必要があるが、採取した遊走子、接合子等の種苗から直立体を発芽させるまでの好ましい条件がいまだ明確には解明されておらず、マツモの養殖について実用化レベルまでには至っていないのが現状である。マツモの養殖のために、種苗である付着器から直立体を効率的に発芽させる技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験」水産増殖30巻2号 126-130貢(1982年)
【非特許文献2】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験-II」水産増殖31巻4号 196-199貢(1984年)
【非特許文献3】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験-III」水産増殖33巻2号 72-75貢(1985年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マツモの付着器から直立体を発芽させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、マツモの付着器に、特定の波長域の光を照射することで、マツモの直立体を効率的に発芽させることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、マツモの付着器に、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの直立体を発芽させる方法、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマツモの直立体を発芽させる方法により、付着器からマツモの直立体を効率的に発芽させることができる。
本発明により、種苗である付着器からの直立体の発芽を適時に、また効率的に行うことができるため、安定的な種苗の確保とマツモの養殖への活用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、マツモの生活環を示す図である。
図2図2は、マツモの生活環サブサイクルを示す図である。
図3図3は、マツモの直立体の発芽試験1における、マツモの直立体の発芽率(%)の推移を示すグラフである。
図4図4は、マツモの直立体の発芽試験2における、マツモの直立体の発芽率(%)の推移を示すグラフである。
図5図5は、マツモの直立体の発芽試験3における、マツモの直立体の発芽率(%)の推移を示すグラフである。
図6図6は、マツモの直立体の発芽試験4における、マツモの直立体の発芽率(%)の推移を示すグラフである。
図7図7は、マツモの直立体の発芽試験5における、マツモの直立体の発芽率(%)の推移を示すグラフである。
図8図8は、マツモの直立体の発芽試験5における、培養21日後の付着器からの直立体の発芽状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「マツモ」とは、褐藻綱イソガワラ目イソガワラ科(Ralfsiaceae)マツモ属に属するマツモ(Analipus japonicus)をいう。
【0011】
本発明において「付着器」とは、マツモの雌性配偶子や雄性配偶子が盤状に成長したもの、これらの配偶子が接合して発生した接合子が盤状に成長したもの、あるいはマツモの遊走子が盤状に成長したものをいい、付着器は、岩場等に付着してマツモの直立体を支える支持体としての役割も有する(図1のマツモの生活環を参照)。
【0012】
本発明において「直立体の発芽」とは、マツモの付着器から同化糸、すなわち直立体が形成された状態をいう。マツモの付着器から発芽した直立体は、マツモの付着器から複数箇所形成される場合があり、それぞれ柱状に成長しながら多数の小枝を形成し、マツモの本体となる。マツモの本体は直立枝ともいい、夏に消失する一年生であるのに対し、付着器は多年生である。また、マツモは、糸状体という付着器を有さない形態で存在することもでき、糸状体を培養することで付着器を有する直立体を形成させることもできる(図2のマツモの生活環サブサイクルを参照)。本発明では、岩場等に付着しているマツモの直立体の付着器の他、糸状体を培養して得られるマツモの直立体の付着器を用いることもできる。
【0013】
本発明に用いられるマツモの付着器は、切断面からの組織の再生が促進され、マツモの直立体が発芽しやすくなる点で、切断された付着器であることが好ましい。
マツモの付着器の切断には、ナイフ、カッター、包丁、メス等の刃物又はレーザーを用いて人工的に切断することが出来る他、海上又は海中の漂流物、例えば、流木や石、貝類など又は周辺の海洋生物の行動などにより、切断される場合も含まれる。
切断された付着器は、付着器の一部又は複数部を切断した際にできる切断面を有する付着器をいい、切断面の形状に特に制限はなく、滑らかな平面であっても不定形な面であってもよい。マツモの付着器の大きさに特に制限はないが、例えば、最長部が0.5~20mmが好ましく、1~10mmがより好ましく、1~5mmがさらに好ましい。マツモの付着器の形状に特に制限はなく、直方体状、円柱状、球状、板状、不定形等を挙げることができる。1個あたりのマツモの付着器の重さに特に制限はないが、例えば、0.2~300mgが好ましく、0.3~40mgがより好ましく、0.3~20mgがさらに好ましい。なお、これらは乾燥せずに測定する場合である。マツモの付着器の大きさ、重さが前記範囲であると、培養時に浮遊しやすくなり、マツモの直立体の発芽が促進される点で好ましい。
【0014】
本発明では、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程を有する。400nm以上500nm未満の波長域の光の光源としては特に制限はなく、例えば、太陽光、蛍光灯、白熱灯、ナトリウム灯、LED(LIGHT EMITTING DIODE:発光ダイオード)由来の光等を挙げることができるが、光の波長域をコントロールしやすく、発熱を伴わず、ランニングコストが低いことを考慮した場合、LED由来の光が好ましい。なお、400nm以上500nm未満以外の波長域の光も含む光源を使用する場合は、例えば、400nm以上500nm未満の波長域の光を選択的に透過するネット状、シート状、フィルム状等の形状を有する資材を用いて、400nm以上500nm未満以外の波長域の光を低減又は遮断して使用することが好ましい。
【0015】
400nm以上500nm未満の波長域の光としては、例えば、青色の光、ピーク波長453nmの青色の光、青色LED(ピーク波長:453nm+/-10nm、波長域:約430~500nm)の光等が挙げられるが、青色LEDの光が好ましい。
【0016】
400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する際の光量は、下限として、15μmol/m/s以上が好ましく、25μmol/m/s以上がより好ましく、50μmol/m/s以上がさらに好ましく、上限として、200μmol/m/s以下が好ましく、150μmol/m/s以下がより好ましく、100μmol/m/s以下がさらに好ましい。また、15~200μmol/m/sが好ましく、25~150μmol/m/sがより好ましく、25~100μmol/m/sがさらに好ましく、50~100μmol/m/sが最も好ましいが、これらに限定されない。
【0017】
400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程では、400nm以上500nm未満の波長域の光のみを照射することが好ましいが、400nm以上500nm未満以外の波長域の光を含んでもよい。400nm以上500nm未満以外の波長域の光を含む場合、400nm以上500nm未満以外の波長域の光を低減して照射することが好ましい。400nm以上500nm未満以外の波長域の光としては、500nm以上600nm未満の波長域の光、600nm以上700nm未満の波長域の光等を挙げることができる。500nm以上600nm未満の波長域の光としては、例えば、光源としてLEDを用いた場合、緑色のLED(ピーク波長:525nm+/-10nm、波長域:約490~550nm)の光等を挙げることができるが、これらに限定されない。600nm以上700nm未満の波長域の光としては、例えば、光源としてLEDを用いた場合、赤色のLED(ピーク波長:641nm+/-10nm、波長域:約630~680nm)の光等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0018】
また、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程では、白色光を照射してもよいが、400nm以上500nm未満以外の波長域の光を低減して照射することが好ましい。
【0019】
400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する培養環境としては、マツモの直立体の発芽が可能な条件であれば特に制限はないが、海水中、あるいは海水培地(例えば、PESI培地)中において、後述するような条件を例示することができる。なお、海水に特に制限はないが、海中から直接採取した海水、海岸近くの地下又は海底(例えば、大陸棚)の地下から採取した地下海水、深海から採取した海洋深層水等であってもよい。また、蒸留水、水道水等に必要なミネラル成分(例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩類)等を添加して海水と同様の組成としたものも使用することもできる。
【0020】
400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程では、培養中、連続して照射しても、連続して照射しなくてもよく、後述する光照射のサイクルのように1日の明暗の時間サイクルに従って繰り返して照射してもよいが、1日の明暗の時間サイクルに従って繰り返して照射することが好ましい。
【0021】
光照射時間のサイクルとしては、例えば、1日の明暗の時間サイクルが、24時間中に明期7~18時間、暗期17~6時間(明期と暗期の合計が24時間であること。以下同じ。)が挙げられ、好ましくは明期8~16時間、暗期16~8時間、より好ましくは明期12~16時間、暗期12~8時間、さらに好ましくは明期14~16時間、暗期10~8時間が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
光照射日数としては、例えば、前記光照射時間のサイクルを7日間以上行うことが挙げられ、14日間以上行うことが好ましく、21日間以上行うことがより好ましいが、これらに限定されない。
また、光照射時間の合計は、例えば、70時間以上が好ましく、140時間以上がより好ましく、210時間以上がさらに好ましいが、これらに限定されない。
【0023】
光照射する際に使用する海水あるいは海水培地の温度としては、例えば、好ましくは10~30℃、より好ましくは15~25℃、さらに好ましくは20~22℃が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
海水あるいは海水培地の栄養条件としては特に制限はないが、マツモにとって主要な栄養塩成分である硝酸態窒素濃度が、例えば、好ましくは0.1~50μmol/L、より好ましくは0.2~10μmol/L、さらに好ましくは0.5~10μmol/L含まれることが挙げられる。リン酸態リン濃度が、例えば、好ましくは0.01~5μmol/L、より好ましくは0.02~1μmol/L、さらに好ましくは0.05~1μmol/L含まれることが挙げられる。なお、海水を使用する場合、一般的な海水の硝酸態窒素濃度は通常30μmol/L以下、リン酸態リン濃度は、3μmol/L以下であることが多いので、例えば、海藻培養用の栄養塩溶液等を海水に添加することも可能である。海水あるいは海水培地の塩分濃度としては特に制限はないが、例えば、好ましくは1.5~4.5質量%、より好ましくは2~3.5質量%、さらに好ましくは2.8~3.3質量%等が挙げられる。なお、海水あるいは海水培地は、7日間に1回以上新しいものに交換することが好ましい。
【0025】
400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する方法としては、マツモの付着器に光が照射されれば、特に制限はないが、例えば、海水あるいは海水培地を満たした容器開口部の上部から、海水面あるいは海水培地面に直接光を照射し、付着器に光を照射する方法、海水あるいは海水培地を満たした光を遮断しない容器越しに光を照射し、付着器に光を照射する方法等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明では、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程の前に、マツモの直立体を発芽しやすくする目的や切断された付着器を用いる場合に切断面の組織を回復させる目的等で、マツモの付着器を予備培養することもできる。予備培養は、例えば、前記海水あるいは海水培地を満たした容器に、マツモの付着器を投入し、好ましくは10~30℃、より好ましくは15~25℃、さらに好ましくは20~22℃の温度条件で、好ましくは10日間以上培養する。その際、白色光を照射することが好ましく、光照射時間のサイクルとして、1日の明暗の時間サイクルが、24時間中に、明期10~14時間、暗期14~10時間であることが好ましく、明期10~12時間、暗期14~12時間であることがより好ましく、明期12時間、暗期12時間であることがさらに好ましいが、これらに限定されない。白色光としては、例えば、太陽光、蛍光灯、白熱灯、白色のLED等の光が挙げられ、400nm以上500nm未満の波長域の光、500nm以上600nm未満の波長域の光、及び600nm以上700nm未満の波長域の光を等光量含むものが好ましいが、等光量でなくてもよく、これらの波長域の光に含まれる各波長の可視光線が混在して白色に見えるものであればよい。白色光の光量は、15~200μmol/m/sが好ましく、25~150μmol/m/sがより好ましく、25~100μmol/m/sがさらに好ましく、50~100μmol/m/sが最も好ましいが、これらに限定されない。なお、海水あるいは海水培地は、1日間に1回以上新しいものに交換することが好ましい。
【0027】
上記のとおり、所望により予備培養を施した上で、マツモの付着器に400nm以上500nm未満の波長域の光を照射する工程を経て、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは5mm以上の直立体が、付着器から発芽する。付着器から発芽する直立体の数は、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、10以上が最も好ましい。また、1個あたりの直立体が発芽したマツモの付着器の重さに特に制限はないが、0.2~1000mgが好ましく、1~100mgがより好ましく、1~50mgがさらに好ましい。なお、これらの重さは乾燥せずに測定する場合である。
【0028】
このようにして得られる直立体が発芽した付着器は、そのまま成長させることも出来るが、種苗として、マツモの養殖に用いることもできる。例えば、本発明の方法により、直立体を発芽させた付着器を基質に付着させ、その基質とともに海水中に設置する方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。基質としては、特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ビニロンとポリプロピレンを混撚した化学繊維、シュロ糸等の素材を挙げることができる。また、基質の形状としては、特に制限はなく、網状、暖簾状、枠に糸を巻き付けた状態等の形状を挙げることができる。直立体が発芽した付着器を付着させた基質を海水中に設置する方法としては、波の穏やかな海の中に設置する方法、陸上に設置した水槽等の容器に海水を満たし、その中に設置する方法等を挙げることができる。設置の際は、水面下約0~2mの位置に設置することが好ましく、水面下約0.1~1.5mの位置に設置することがより好ましく、水面下約0.2~1.0mの位置に設置することがさらに好ましい。
【0029】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例0030】
[マツモの付着器の作製]
岩手県大船渡市越喜来湾沿岸で採取したマツモ直立体の一部を培養してマツモ糸状体を作製し、その糸状体から直立体を再形成させた。その形成させた直立体の付着器を試験に使用した。マツモの付着器を、1個の最長部が2~4.75mmとなるよう不定形に複数個をメスでカットし、これらを、滅菌海水(硝酸態窒素濃度10μmol/L以下、リン酸態リン濃度1μmol/L以下)を充填した透明な1Lマリンフラスコに投入し、光量50μmol/m/sで白色LEDの光(400nm以上500nm未満の波長域の光、500nm以上600nm未満の波長域の光、及び600nm以上700nm未満の波長域の光を等光量含む)を1日の明暗の時間サイクルが、明期12時間、暗期12時間となるよう照射し、恒温器(型式:CN-40A;三菱電機エンジニアリング社製)にて20℃、10日間、予備培養を行い、切断されたマツモの付着器を得た。なお、予備培養の際は、滅菌海水は1日間に1回交換した。
【0031】
[マツモの直立体の発芽試験1]
前記予備培養で得られた切断されたマツモの付着器10個(0.106~0.1219g)を、PESI培地を充填した透明な300mLマリンフラスコに投入し、光量50μmol/m/sで青色LEDの光を1日の明暗の時間サイクルが、明期14時間、暗期10時間となるよう照射し、恒温器(型式:CN-40A;三菱電機エンジニアリング社製)にて20℃で培養した。培養開始から7日後、14日後、及び21日後、それぞれにおいて直立体が発芽した付着器の数を確認し、下記の式でマツモの直立体の発芽率(%)を算出した。また、21日後における直立体が発芽した付着器1個あたりの直立体形成数(以下、単に直立体形成数ともいう)を測定した。この操作を、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光についても同様に行い、それぞれについて、マツモの直立体の発芽率(%)を算出し、直立体形成数を測定した。なお、付着器から1mm以上の直立体が1箇所でも発芽しているものを「直立体が発芽した付着器」として判断した。また、PESI培地は7日間に1回交換した。
【0032】
発芽率(%)=(直立体が発芽した付着器数/フラスコに投入した付着器数)×100
【0033】
青色LEDの光、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光について、前記発芽試験1を3回実施し、それぞれマツモの直立体の発芽率(%)と直立体形成数の平均値を求めた。マツモの直立体の発芽率(平均値、%)を表1及び図3に示す。また、直立体形成数(平均値)を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1、表2及び図3より、培養温度20℃、明期14時間、暗期10時間において、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光では、培養日数が経過しても直立体の発芽が確認できなかったのに対し、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、培養日数の経過とともに直立体の発芽率が100%まで上昇し、他の光より直立体形成数も多いことがわかった。
【0037】
[マツモの直立体の発芽試験2]
1日の明暗の時間サイクルを、明期10時間、暗期14時間に変更すること以外は、前記発芽試験1と同様の試験を実施した。青色LEDの光、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの直立体の発芽率(平均値、%)を表3及び図4に、直立体形成数(平均値)を表4に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
表3、表4及び図4より、培養温度20℃、明期10時間、暗期14時間において、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光では、培養日数が経過しても発芽率がほとんど上昇しなかったのに対し、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、培養日数の経過とともに発芽率が100%まで上昇し、他の緑色LEDの光、及び赤色LEDの光よりも直立体形成数も多いことがわかった。
【0041】
[マツモの直立体の発芽試験3]
培養温度を10℃に変更したこと以外は、前記発芽試験1と同様の試験を実施した。青色LEDの光、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの直立体の発芽率(平均値、%)を表5及び図5に、直立体形成数を表6に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
表5、表6及び図5より、培養温度10℃、明期14時間、暗期10時間において、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光では、培養日数が経過しても発芽率が0%、又はほとんど上昇しなかったのに対し、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、培養日数の経過とともに発芽率が100%近くまで上昇し、他の光よりも直立体形成数が多いことがわかった。
【0045】
[マツモの直立体の発芽試験4]
照射する光量を25μmol/m/sに変更したこと以外は、前記発芽試験1と同様の試験を実施した。青色LEDの光、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの直立体の発芽率(平均値、%)を表7及び図6に、直立体形成数を表8に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
表7、表8及び図6より、比較的少ない光量(25μmol/m/s)において、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光では、培養日数が経過しても発芽率が0%であったのに対し、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、培養日数の経過とともに発芽率が上昇し、他の緑色LEDの光、及び赤色LEDの光よりも直立体形成数が多いことがわかった。
【0049】
[マツモの直立体の発芽試験5]
照射する光量を100μmol/m/sに変更したこと以外は、前記発芽試験1と同様の試験を実施した。青色LEDの光、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの直立体の発芽率(平均値、%)を表9及び図7に、直立体形成数を表10に示す。また、培養21日後における、各種光を照射した際の直立体が発芽した付着器の写真を図8に示す。
【0050】
【表9】
【0051】
【表10】
【0052】
表9、表10及び図7より、比較的多い光量(100μmol/m/s)において、緑色LEDの光、及び赤色LEDの光では、培養日数が経過しても発芽率がほとんど上昇しなかったのに対し、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、培養日数の経過とともに発芽率が100%まで上昇し、他の緑色LEDの光、及び赤色LEDの光よりも直立体形成数が多いことがわかった。
また、図8より、400nm以上500nm未満の波長域の光である青色LEDの光では、付着器から多数の直立体が発芽していることが確認できる。
【0053】
以上より、マツモの付着器に、400nm以上500nm未満の波長域の光を照射することで、マツモの直立体を効率的に発芽させることができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8