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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179762
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】マツモの付着器の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/04 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C12N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098889
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】591124385
【氏名又は名称】理研食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】猪股 英里
(72)【発明者】
【氏名】難波 信由
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA88X
4B065BC50
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】本発明は、直立体の発芽に適した生育状態の良好なマツモの付着器を培養する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】マツモの付着器に、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの付着器の培養方法。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツモの付着器に、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの付着器の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マツモの付着器の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マツモは、日本の北西及び北東太平洋沿岸を中心に生息し、地元では高級食材として珍重されてきた海藻である。マツモは、そのままでも食べられる他、湯通しマツモや乾燥マツモとして、様々な食品に利用されており、栄養成分を豊富に含むこと、風味や食感が良好なことから需要が拡大している。そのため、マツモの安定した供給を確保するために、マツモの養殖に関する技術の確立が望まれている。
【0003】
マツモの養殖に関する技術としては、天然採苗による遊走子、接合子を撚糸に着生させ養殖する技術(非特許文献1~3)等が開示されている。しかし、天然採苗では、遊走子、接合子等の種苗を採取できる時期が限定されており、安定した品質、数量の種苗が得られるとは限らない。また、マツモの成長過程において、種苗から直立体が発芽する段階を経ることになるが、直立体が発芽するには、生育状態の良好な種苗でなければ直立体が発芽し難く、仮に直立体が発芽したとしても養殖段階で死滅する恐れがある。さらに、発芽のタイミングも重要であり、種苗の生育中に、直立体の発芽があまり進行した場合、ただちに養殖に用いればよいが、しばらくこれを養殖に用いず、直立体の発芽が進行した状態のままで種苗の培養を続けると、種苗が死滅するといった課題も存在する。マツモの養殖用に、適時に用いることができる生育状態の良好な種苗を得るための、マツモの付着器の培養方法に関する技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験」水産増殖30巻2号 126-130貢(1982年)
【非特許文献2】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験-II」水産増殖31巻4号 196-199貢(1984年)
【非特許文献3】堤 眞治「撚糸を用いたマツモの養殖試験-III」水産増殖33巻2号 72-75貢(1985年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、直立体の発芽に適した生育状態の良好なマツモの付着器を培養する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、マツモの付着器に、特定の波長域の光を照射することで、適時に直立体を発芽させることの可能な生育状態の良好なマツモの付着器を培養できること、さらに、これを養殖用の種苗としても利用できることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、マツモの付着器に、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程を有する、マツモの付着器の培養方法、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマツモの付着器の培養方法により、マツモの付着器の質量が増加し、適時に直立体を発芽させることの可能な生育状態の良好なマツモの付着器を得ることができる。すなわち、本発明によれば、生育中は、直立体の発芽が抑制されるので、良好な生育状態を維持したマツモの付着器が得られる。得られた付着器は、しばらくの間保存することも可能であるし、適時に付着器から直立体を発芽させることも出来るため、養殖用の種苗として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、マツモの生活環を示す図である。
図2図2は、マツモの生活環サブサイクルを示す図である。
図3図3は、マツモの付着器の培養試験1における、マツモの付着器の質量(g)の推移を示すグラフである。
図4図4は、マツモの付着器の培養試験1における、マツモの付着器の相対成長率(RGR)を示すグラフである。
図5図5は、マツモの付着器の培養試験2における、マツモの付着器の質量(g)の推移を示すグラフである。
図6図6は、マツモの付着器の培養試験2における、マツモの付着器の相対成長率(RGR)を示すグラフである。
図7図7は、マツモの付着器の培養試験3における、マツモの付着器の質量(g)の推移を示すグラフである。
図8図8は、マツモの付着器の培養試験3における、マツモの付着器の相対成長率(RGR)を示すグラフである。
図9図9は、マツモの付着器の培養試験4における、マツモの付着器の質量(g)の推移を示すグラフである。
図10図10は、マツモの付着器の培養試験4における、マツモの付着器の相対成長率(RGR)を示すグラフである。
図11図11は、マツモの付着器の培養試験4における、培養21日後の付着器の生育状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「マツモ」とは、褐藻綱イソガワラ目イソガワラ科(Ralfsiaceae)マツモ属に属するマツモ(Analipus japonicus)をいう。
【0011】
本発明において「付着器」とは、マツモの雌性配偶子や雄性配偶子が盤状に成長したもの、これらの配偶子が接合して発生した接合子が盤状に成長したもの、あるいはマツモの遊走子が盤状に成長したものをいい、付着器は、岩場等に付着してマツモの直立体を支える支持体としての役割も有する(図1のマツモの生活環を参照)。
【0012】
本発明において「直立体の発芽」とは、マツモの付着器から同化糸、すなわち直立体が形成された状態をいう。マツモの付着器から発芽した直立体は、マツモの付着器から複数箇所形成される場合があり、それぞれ柱状に成長しながら多数の小枝を形成し、マツモの本体となる。マツモの本体は直立枝ともいい、夏に消失する一年生であるのに対し、付着器は多年生である。また、マツモは、糸状体という付着器を有さない形態で存在することもでき、糸状体を培養することで付着器を有する直立体を形成させることもできる(図2のマツモの生活環サブサイクルを参照)。本発明では、岩場等に付着しているマツモの直立体の付着器の他、糸状体を培養して得られるマツモの直立体の付着器を用いることもできる。
【0013】
本発明に用いられるマツモの付着器は、切断面からの組織の再生が促進され、マツモの付着器が成長しやすくなる点で、切断された付着器であることが好ましい。
マツモの付着器の切断には、ナイフ、カッター、包丁、メス等の刃物又はレーザーを用いて人工的に切断することが出来る他、海上又は海中の漂流物、例えば、流木や石、貝類など又は周辺の海洋生物の行動などにより、切断される場合も含まれる。
切断された付着器は、付着器の一部又は複数部を切断した際にできる切断面を有する付着器をいい、切断面の形状に特に制限はなく、滑らかな平面であっても不定形な面であってもよい。マツモの付着器の大きさに特に制限はないが、例えば、最長部が0.5~20mmが好ましく、1~10mmがより好ましく、1~5mmがさらに好ましい。マツモの付着器の形状に特に制限はなく、直方体状、円柱状、球状、板状、不定形等を挙げることができる。1個あたりのマツモの付着器の重さに特に制限はないが、例えば、0.2~300mgが好ましく、0.3~40mgがより好ましく、0.3~20mgがさらに好ましい。なお、これらは乾燥せずに測定する場合である。マツモの付着器の大きさ、重さが前記範囲であると、培養時に浮遊しやすくなり、マツモの付着器の生育が促進される点で好ましい。
【0014】
本発明では、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程を有する。500nm以上600nm未満の波長域の光の光源としては特に制限はなく、例えば、太陽光、蛍光灯、白熱灯、ナトリウム灯、LED(LIGHT EMITTING DIODE:発光ダイオード)由来の光等を挙げることができるが、光の波長域をコントロールしやすく、発熱を伴わず、ランニングコストが低いことを考慮した場合、LED由来の光が好ましい。なお、500nm以上600nm未満以外の波長域の光も含む光源を使用する場合は、例えば、500nm以上600nm未満の波長域の光を選択的に透過するネット状、シート状、フィルム状等の形状を有する資材を用いて、500nm以上600nm未満以外の波長域の光を低減又は遮断して使用することが好ましい。
【0015】
500nm以上600nm未満の波長域の光としては、例えば、緑色の光、ピーク波長525nmの緑色の光、緑色LED(ピーク波長:525nm+/-10nm、波長域:約490~550nm)の光等を挙げることができるが、緑色LEDの光が好ましい。
【0016】
500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する際の光量は、下限として、15μmol/m/s以上が好ましく、25μmol/m/s以上がより好ましく、50μmol/m/s以上がさらに好ましく、100μmol/m/s以上が最も好ましく、上限として、250μmol/m/s以下が好ましく、200μmol/m/s以下がより好ましく、150μmol/m/s以下がさらに好ましい。また、25~200μmol/m/sが好ましく、25~150μmol/m/sがより好ましく、50~150μmol/m/sがさらに好ましく、100~150μmol/m/sが最も好ましいが、これらに限定されない。
【0017】
500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程では、500nm以上600nm未満以外の波長域の光を含んでもよいが、400nm以上500nm未満の波長域の光[例えば、青色の光、ピーク波長453nmの青色の光、青色LED(ピーク波長:453nm+/-10nm、波長域:約430~500nm)の光等]を含まない光を照射することが好ましく、600nm以上700nm未満の波長域の光[例えば、赤色の光、ピーク波長641nmの赤色の光、赤色LED(ピーク波長:641nm+/-10nm、波長域:約630~680nm)の光等]及び400nm以上500nm未満の波長域の光を含まない光を照射することがより好ましく、500nm以上600nm未満の波長域の光のみを照射することがさらに好ましいが、これらに限定されない。500nm以上600nm未満以外の波長域の光を含む場合、500nm以上600nm未満以外の波長域の光を低減して照射することが好ましい。
【0018】
500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する培養環境としては、マツモの付着器が生育可能な条件であれば特に制限はないが、海水中、あるいは海水培地(例えば、PESI培地)中において、後述するような条件を例示することができる。なお、海水に特に制限はないが、海中から直接採取した海水、海岸近くの地下又は海底(例えば、大陸棚)の地下から採取した地下海水、深海から採取した海洋深層水等であってもよい。また、蒸留水、水道水等に必要なミネラル成分(例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩類)等を添加して海水と同様の組成としたものも使用することもできる。
【0019】
500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程では、培養中、連続して照射しても、連続して照射しなくてもよく、後述する光照射のサイクルのように1日の明暗の時間サイクルに従って繰り返して照射してもよいが、1日の明暗の時間サイクルに従って繰り返して照射することが好ましい。
【0020】
光照射時間のサイクルとしては、例えば、1日の明暗の時間サイクルが、24時間中に明期7~18時間、暗期17~6時間(明期と暗期の合計が24時間であること。以下同じ。)が挙げられ、好ましくは明期8~16時間、暗期16~8時間、より好ましくは明期12~16時間、暗期12~8時間、さらに好ましくは明期14~16時間、暗期10~8時間が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
光照射日数としては、例えば、前記光照射時間のサイクルを7日間以上行うことが挙げられ、14日間以上行うことが好ましく、21日間以上行うことがより好ましいが、これらに限定されない。
また、光照射時間の合計は、例えば、70時間以上が好ましく、140時間以上がより好ましく、210時間以上がさらに好ましいが、これらに限定されない。
【0022】
光照射する際に使用する海水あるいは海水培地の温度としては、例えば、好ましくは10~30℃、より好ましくは15~25℃、さらに好ましくは20~22℃が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
海水あるいは海水培地の栄養条件としては特に制限はないが、マツモにとって主要な栄養塩成分である硝酸態窒素濃度が、例えば、好ましくは0.1~50μmol/L、より好ましくは0.2~10μmol/L、さらに好ましくは0.5~10μmol/L含まれることが挙げられる。リン酸態リン濃度が、例えば、好ましくは0.01~5μmol/L、より好ましくは0.02~1μmol/L、さらに好ましくは0.05~1μmol/L含まれることが挙げられる。なお、海水を使用する場合、一般的な海水の硝酸態窒素濃度は通常30μmol/L以下、リン酸態リン濃度は、3μmol/L以下であることが多いので、例えば、海藻培養用の栄養塩溶液等を海水に添加することも可能である。海水あるいは海水培地の塩分濃度としては特に制限はないが、例えば、好ましくは1.5~4.5質量%、より好ましくは2~3.5質量%、さらに好ましくは2.8~3.3質量%等が挙げられる。なお、海水あるいは海水培地は、7日間に1回以上新しいものに交換することが好ましい。
【0024】
500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する方法としては、マツモの付着器に光が照射されれば、特に制限はないが、例えば、海水あるいは海水培地を満たした容器開口部の上部から、海水面あるいは海水培地面に直接光を照射し、付着器に光を照射する方法、海水あるいは海水培地を満たした光を遮断しない容器越しに光を照射し、付着器に光を照射する方法等を挙げることができる。
【0025】
また、本発明では、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程の前に、マツモの付着器を成長しやすくする目的や切断された付着器を用いる場合に切断面の組織を回復させる目的等で、マツモの付着器を予備培養することもできる。予備培養は、例えば、前記海水あるいは海水培地を満たした容器に、マツモの付着器を投入し、好ましくは10~30℃、より好ましくは15~25℃、さらに好ましくは20~22℃の温度条件で、好ましくは10日間以上培養する。その際、白色光を照射することが好ましく、光照射時間のサイクルとして、1日の明暗の時間サイクルが、24時間中に、明期10~14時間、暗期14~10時間であることが好ましく、明期10~12時間、暗期14~12時間であることがより好ましく、明期12時間、暗期12時間であることがさらに好ましい。白色光としては、例えば、太陽光、蛍光灯、白熱灯、白色のLED等の光が挙げられ、400nm以上500nm未満の波長域の光、500nm以上600nm未満の波長域の光、及び600nm以上700nm未満の波長域の光を等光量含むものが好ましいが、等光量でなくてもよく、これらの波長域の光に含まれる各波長の可視光線が混在して白色に見えるものであればよい。白色光の光量は、15~200μmol/m/sが好ましく、25~150μmol/m/sがより好ましく、25~100μmol/m/sがさらに好ましく、50~100μmol/m/sが最も好ましいが、これらに限定されない。なお、海水あるいは海水培地は、1日間に1回以上新しいものに交換することが好ましい。
【0026】
上記のとおり、所望により予備培養を施した上で、マツモの付着器に500nm以上600nm未満の波長域の光を照射する工程を経ることで、最終的にマツモの付着器は、1個あたりの重さが好ましくは0.2~1000mg、より好ましくは1~100mg、さらに好ましくは1~50mgに成長する。なお、これらの重さは乾燥せずに測定する場合である。
また、培養開始(予備培養を行う場合は、予備培養終了後を培養開始とする。以下同じ)から培養終了後にマツモの付着器がどれだけ良好に成長したかを示す指標として、次の式で表される相対成長率(RGR)を用いることができる。相対成長率(RGR:Relative Growth Rate)は、0.015超が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、0.015超0.036以下であってもよいが、これらに限定されない。
【0027】
相対成長率(RGR)=log[培養終了後のマツモの付着器の質量(g)/培養開始時のマツモの付着器の質量(g)]/培養日数
【0028】
このようにして得られるマツモの付着器は、直立体の発芽に適した良好な生育状態を有し、適時にマツモの付着器から直立体を発芽させ、これをマツモの養殖向けの種苗として用いることができる。例えば、本発明の方法により、生育したマツモの付着器を基質に付着させ、その基質とともに海水中に設置する方法などを挙げることができるが、これに限定されない。なお、付着器からの直立体の発芽については、養殖開始の直前、例えば、海水中に設置する直前に行うことなどが好ましい。基質としては、特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ビニロンとポリプロピレンを混撚した化学繊維、シュロ糸等の素材を挙げることができる。また、基質の形状としては、特に制限はなく、網状、暖簾状、枠に糸を巻き付けた状態等の形状を挙げることができる。直立体が発芽した付着器を付着させた基質を海水中に設置する方法としては、波の穏やかな海の中に設置する方法、陸上に設置した水槽等の容器に海水を満たし、その中に設置する方法等を挙げることができる。設置の際は、水面下約0~2mの位置に設置することが好ましく、水面下約0.1~1.5mの位置に設置することがより好ましく、水面下約0.2~1.0mの位置に設置することがさらに好ましい。
【0029】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例0030】
[マツモの付着器の作製]
岩手県大船渡市越喜来湾沿岸で採取したマツモ直立体の一部を培養してマツモ糸状体を作製し、その糸状体から直立体を再形成させた。その形成させた直立体の付着器を試験に使用した。マツモの付着器を、1個の最長部が2~4.75mmとなるよう不定形に複数個をメスでカットし、これらを、滅菌海水(硝酸態窒素濃度10μmol/L以下、リン酸態リン濃度1μmol/L以下)を充填した透明な300mLマリンフラスコに投入し、光量50μmol/m/sで白色LEDの光(400nm以上500nm未満の波長域の光、500nm以上600nm未満の波長域の光、及び600nm以上700nm未満の波長域の光を等光量含む)を1日の明暗の時間サイクルが、明期12時間、暗期12時間となるよう照射し、恒温器(型式:CN-40A;三菱電機エンジニアリング社製)にて20℃、10日間、予備培養を行い、切断されたマツモの付着器を得た。なお、予備培養の際は、滅菌海水は1日間に1回交換した。
【0031】
[マツモの付着器の培養試験1]
前記予備培養で得られた切断されたマツモの付着器10個(0.106~0.1219g)を、PESI培地を充填した透明な300mLマリンフラスコに投入し、光量50μmol/m/sで緑色LEDの光を1日の明暗の時間サイクルが、明期14時間、暗期10時間となるよう照射し、恒温器(型式:CN-40A;三菱電機エンジニアリング社製)にて20℃で培養した。培養開始から7日後、14日後、及び21日後、それぞれにおいてマツモの付着器の質量(g)を測定し、培養開始から21日後における相対成長率(RGR)を上記した式に基づき、算出した。また、培養開始から7日後、14日後、及び21日後、それぞれにおいて直立体が発芽した付着器の数を確認し、下記の式でマツモの直立体の発芽率(%)を算出した。この操作を、青色LEDの光、及び赤色LEDの光についても同様に行い、それぞれについて、マツモの付着器の質量(g)を測定し、相対成長率(RGR)を算出した。また、それぞれについて、マツモの直立体の発芽率(%)を算出した。なお、付着器から1mm以上の直立体が1箇所でも発芽しているものを「直立体が発芽した付着器」として判断した。また、PESI培地は、それぞれ7日間に1回交換した。
【0032】
発芽率(%)=(直立体が発芽した付着器数/フラスコに投入した付着器数)×100
【0033】
緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、前記培養試験1を3回実施し、それぞれマツモの付着器の質量(平均値、g)、相対成長率(平均値)、及びマツモの直立体の発芽率(平均値、%)を求めた。
【0034】
また、緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの直立体の発芽率(平均値、%)から、下記の評価基準に従ってマツモの直立体の発芽抑制を記号で評価した。
【0035】
<マツモの直立体の発芽抑制の評価基準>
○:マツモの直立体の発芽率が20%未満に抑制されている
△:マツモの直立体の発芽率が20%以上40%未満である
×:マツモの直立体の発芽率が40%以上である
【0036】
緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの付着器の質量(平均値、g)を表1及び図3に、相対成長率(平均値)を表2及び図4に、マツモの直立体の発芽抑制の評価結果を表3に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表1及び図3より、赤色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加はほとんど見られなかったが、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加が確認できた。また、表2及び図4より、赤色LEDの光ではマツモの相対成長率は低かったのに対し、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの相対成長率が高い傾向にあった。
一方、表3より、青色LEDの光では、培養14日後、及び21日後のマツモの直立体の発芽率が40%を超えた。このことから、良好な生育状態を維持しつつ、養殖用の種苗などとして、しばらく保管してから用いる場合には、青色LEDの光はマツモの付着器の成長には、あまり適していないことがわかった。
以上より、所望しない段階でのマツモの直立体の発芽を抑制しつつ、マツモの付着器を成長させるためには、緑色LEDの光が適していることがわかった。
【0041】
[マツモの付着器の培養試験2]
1日の明暗の時間サイクルを、明期10時間、暗期14時間に変更したこと以外は、前記培養試験1と同様の試験を実施した。
緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの付着器の質量(平均値、g)を表4及び図5に、相対成長率(平均値)を表5及び図6に、マツモの直立体の発芽抑制の評価結果を表6に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
表4及び図5より、赤色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加はほとんど見られなかったが、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加が確認できた。また、表5及び図6より、赤色LEDの光ではマツモの相対成長率は低かったのに対し、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの相対成長率が高い傾向にあった。
一方、表6より、青色LEDの光では、培養14日後、及び21日後のマツモの直立体の発芽率が40%を超えた。このことから、良好な生育状態を維持しつつ、養殖用の種苗などとして、しばらく保管してから用いる場合には、青色LEDの光はマツモの付着器の成長には、あまり適していないことがわかった。
以上より、所望しない段階でのマツモの直立体の発芽を抑制しつつ、マツモの付着器を成長させるためには、緑色LEDの光が適していることがわかった。
【0046】
[マツモの付着器の培養試験3]
培養温度を10℃に変更したこと以外は、前記培養試験1と同様の試験を実施した。
緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの付着器の質量(平均値、g)を表7及び図7に、相対成長率(平均値)を表8及び図8に、マツモの直立体の発芽抑制の評価結果を表9に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
【表9】
【0050】
表7及び図7より、赤色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加はほとんど見られなかったが、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加が確認できた。また、表8及び図8より、赤色LEDの光ではマツモの相対成長率は低かったのに対し、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの相対成長率が高い傾向にあった。
一方、表9より、青色LEDの光では、培養21日後のマツモの直立体の発芽率が40%を超えた。このことから、良好な生育状態を維持しつつ、養殖用の種苗などとして、しばらく保管してから用いる場合には、青色LEDの光はマツモの付着器の成長には、あまり適していないことがわかった。
以上より、所望しない段階でのマツモの直立体の発芽を抑制しつつ、マツモの付着器を成長させるためには、緑色LEDの光が適していることがわかった。
【0051】
[マツモの付着器の培養試験4]
照射する光量を100μmol/m/sに変更したこと以外は、前記培養試験1と同様の試験を実施した。
緑色LEDの光、青色LEDの光、及び赤色LEDの光について、マツモの付着器の質量(平均値、g)を表10及び図9に、相対成長率(平均値)を表11及び図10に、マツモの直立体の発芽抑制の評価結果を表12に示す。また、培養21日後における、各種光を照射した際のマツモの付着器の写真を図11に示す。
【0052】
【表10】
【0053】
【表11】
【0054】
【表12】
【0055】
表10及び図9より、赤色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加はほとんど見られなかったが、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの付着器の質量増加が確認できた。また、表11及び図10より、赤色LEDの光ではマツモの相対成長率は低かったのに対し、緑色LEDの光、及び青色LEDの光ではマツモの相対成長率が高い傾向にあった。
一方、表12より、青色LEDの光では、培養14日後、及び21日後のマツモの直立体の発芽率が40%を超えた。このことから、良好な生育状態を維持しつつ、養殖用の種苗などとして、しばらく保管してから用いる場合には、青色LEDの光はマツモの付着器の成長には、あまり適していないことがわかった。
また、図11より、赤色の光よりも、緑色の光の方が、マツモの付着器が大きく成長していることが確認できる。青色の光では、マツモの付着器の成長は見られるものの、直立体が発芽してしまっているのが確認できる。
以上より、マツモの直立体の発芽を抑制しつつ、マツモの付着器を成長させるためには、緑色LEDの光が適していることがわかった。
【0056】
以上より、マツモの付着器に、500nm以上600nm未満の波長域の光を照射することで、直立体の発芽に適した生育状態の良好なマツモの付着器を培養できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11