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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179763
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】沸騰冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/04 20060101AFI20241219BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20241219BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F28D15/04 B
F28D15/02 M
F28D15/02 E
H01L23/46 A
H05K7/20 Q
F28D15/02 101L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098890
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝典
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA05
5E322AA11
5E322DB02
5E322DB06
5E322DB12
5E322FA01
5F136CC35
(57)【要約】
【課題】伝熱性能の向上を図ることができる沸騰冷却装置を提供する。
【解決手段】沸騰冷却装置は、熱輸送媒体を収容し、発熱体からの熱を受ける伝熱面を有する受熱部と、前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、前記受熱部で前記熱輸送媒体が気化されることにより生成された気相熱輸送媒体を前記放熱部に輸送し、前記放熱部で前記気相熱輸送媒体が凝縮されることにより生成された液相熱輸送媒体を前記受熱部に輸送する熱輸送管部と、を備え、前記伝熱面は、外縁から内側に向かって延び、互いに離間する複数の溝を有し、前記複数の溝の各幅は、前記外縁から前記内側に向かって単調減少する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輸送媒体を収容し、発熱体からの熱を受ける伝熱面を有する受熱部と、
前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、
前記受熱部で前記熱輸送媒体が気化されることにより生成された気相熱輸送媒体を前記放熱部に輸送し、前記放熱部で前記気相熱輸送媒体が凝縮されることにより生成された液相熱輸送媒体を前記受熱部に輸送する熱輸送管部と、を備え、
前記伝熱面は、外縁から内側に向かって延び、互いに離間する複数の溝を有し、
前記複数の溝の各幅は、前記外縁から前記内側に向かって単調減少する、
ことを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項2】
前記複数の溝は、前記内側から前記外縁に向かって放射状に設けられる、
請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【請求項3】
前記複数の溝のそれぞれは、開口縁と最深部とを有し、
前記複数の溝の各幅は、前記開口縁から前記最深部に向かって単調減少する、
請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【請求項4】
前記複数の溝の各深さは、前記開口縁の最も内側の端における幅よりも大きい、
請求項3に記載の沸騰冷却装置。
【請求項5】
前記複数の溝のそれぞれの前記開口縁の幅は、平面での前記熱輸送媒体の沸騰により生じる気泡の離脱気泡径よりも小さい、
請求項3に記載の沸騰冷却装置。
【請求項6】
前記複数の溝の各深さは、平面での前記熱輸送媒体の沸騰により生じる気泡の離脱気泡径よりも小さい、
請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【請求項7】
前記伝熱面は、鉛直方向に沿って設置され、
前記伝熱面のうちの前記鉛直方向の上半分には、互いに離間し、前記鉛直方向に交差する複数の第2溝が設けられる、
請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【請求項8】
前記受熱部は、前記伝熱面を含む板状の伝熱部材を有し、
前記伝熱部材の厚みは、前記外縁から前記内側に向かって単調増加する、
請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、沸騰冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱輸送媒体の沸騰に伴う潜熱による熱輸送を利用して発熱体を冷却する沸騰冷却装置が知られている。当該沸騰冷却装置として、特許文献1に記載の冷却装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の沸騰冷却装置は、外部からの熱を受ける受熱部と、外部に熱を放出する放熱部と、受熱部と放熱部とを接続する流通部と、を有する。また、受熱部には、冷媒に浸漬される伝熱面を有する伝熱部材が設けられる。この沸騰冷却装置は、発熱体からの熱を伝熱面で受熱部内の冷媒に伝えることにより、当該熱輸送媒体を沸騰させる。
【0004】
また、特許文献1では、伝熱面に、内周面が粗面である複数の穴を設けることにより、発熱体の冷却効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-15269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、伝熱性能の更なる向上のために伝熱面の形状を複雑で微細にすると、長期使用時に異物による閉塞が生じるおそれがある。また、複雑で微細な形状の伝熱面を加工することは難しく、コストがかかる。それゆえ、異物に閉塞され難く、伝熱性能の向上を図ることができる簡素な構造の伝熱面が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、本開示の好適な態様に係る沸騰冷却装置は、熱輸送媒体を収容し、発熱体からの熱を受ける伝熱面を有する受熱部と、前記受熱部からの熱を放熱する放熱部と、前記受熱部で前記熱輸送媒体が気化されることにより生成された気相熱輸送媒体を前記放熱部に輸送し、前記放熱部で前記気相熱輸送媒体が凝縮されることにより生成された液相熱輸送媒体を前記受熱部に輸送する熱輸送管部と、を備え、前記伝熱面は、外縁から内側に向かって延び、互いに離間する複数の溝を有し、前記複数の溝の各幅は、前記外縁から前記内側に向かって単調減少する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る沸騰冷却装置の概略図である。
図2】伝熱面の平面図である。
図3】伝熱面の一部の断面図である。
図4】比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。
図5】比較例の気泡挙動を説明するための平面図である。
図6】比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。
図7】比較例の気泡挙動を説明するための平面図である。
図8】伝熱面の一部を拡大した平面図である。
図9】第1実施形態の気泡挙動を説明するための平面図である。
図10】第1実施形態の気泡挙動を説明するための断面図である。
図11】乾き領域の拡大を説明するための図である。
図12】乾き領域の拡大を説明するための図である。
図13】乾き領域の拡大を説明するための図である。
図14】乾き領域の拡大の抑制を説明するための図である。
図15】乾き領域の拡大の抑制を説明するための図である。
図16】乾き領域の拡大の抑制を説明するための図である。
図17】開口縁の幅と気泡の離脱気泡径との関係を説明するための図である。
図18】溝の深さと気泡の離脱気泡径との関係を説明するための図である。
図19】溝の気泡を押し込む力を説明するための図である。
図20】溝の毛細管力を説明するための縦断面図である。
図21】第2実施形態に係る沸騰冷却装置の概略図である。
図22】伝熱面の平面図である。
図23】比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。
図24】比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。
図25】第2実施形態の気泡挙動を説明するための平面図である。
図26】第2実施形態の気泡挙動を説明するための断面図である。
図27】変形例の伝熱面の平面図である。
図28】第3実施形態の伝熱部材の斜視図である。
図29】変形例の伝熱部材の斜視図である。
図30】変形例の溝の断面図である。
図31】変形例の溝の断面図である。
図32】変形例の溝の断面図である。
図33】変形例の伝熱部材の断面図である。
図34】変形例の伝熱部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0010】
1.第1実施形態
1-1.沸騰冷却装置100の概要
図1は、第1実施形態に係る沸騰冷却装置100の概略図である。以下の説明は、便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、以下では、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向とは反対の方向がX2方向である。Y軸に沿う一方向がY1方向であり、Y1方向とは反対の方向がY2方向である。Z軸に沿う一方向がZ1方向であり、Z1方向とは反対の方向がZ2方向である。
【0011】
典型的には、Z軸が鉛直線であり、Z1方向が鉛直上方に相当し、Z2方向が鉛直下方に相当する。なお、実空間でのZ軸の向きは、沸騰冷却装置100の設置姿勢に応じて決められる。Z軸は、鉛直線に対して45°以下の範囲内で傾斜してもよい。また、以下では、単に「上方」とは、鉛直線に沿う方向での位置を示しており、鉛直上方および鉛直斜め上方の双方を概念として含む。同様に、単に「下方」とは、鉛直線に沿う方向での位置を示しており、鉛直下方および鉛直斜め下方の双方を概念として含む。
【0012】
図1に示す沸騰冷却装置100は、発熱体9を冷却する。発熱体9は、例えば、ダイオードまたはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。パワー半導体素子は、例えば、鉄道車両、自動車または家庭用電気機械等に搭載されるインバーターまたは整流器等のパワーエレクトロニクス製品に搭載される。なお、発熱体9は、パワー半導体素子に限定されず、冷却を必要とするのであれば、駆動または通電等により発熱する他の電気部品または電子部品でもよい。また、図1の例では、発熱体9は直方体であるが、発熱体9の形状は任意である。
【0013】
沸騰冷却装置100は、熱輸送媒体M1の沸騰で生じる潜熱を利用する冷却器である。当該潜熱を利用した冷却は、沸騰冷却と称される。沸騰冷却装置100は、受熱部1と、放熱部2と、熱輸送管部6と、熱輸送媒体M1とを有する。熱輸送管部6は、第1管部3と第2管部4とを有する。熱輸送媒体M1は、発熱体9を冷却させるための熱輸送に用いる液状の媒体である。
【0014】
受熱部1は、液状の熱輸送媒体M1を収容する空間である受熱室S1を有する構造体であり、発熱体9からの熱を受ける。受熱部1では、発熱体9の熱によって熱輸送媒体M1が気化されることにより気相熱輸送媒体が生成される。
【0015】
受熱部1は、容器10と伝熱部材5とを有する。容器10は、熱輸送媒体M1を収容する。例えば、容器10の底部には、板状の伝熱部材5が設けられる。伝熱部材5は、発熱体9で生じる熱を熱輸送媒体M1に伝える。伝熱部材5は、取付面59と伝熱面50とを有する。取付面59は、発熱体9を取り付け可能に構成される。伝熱面50は、容器10の内部に露出しており、熱輸送媒体M1と接触している。伝熱面50には、発熱体9から伝熱部材5を介して熱輸送媒体M1に熱が伝わり、伝熱面50の近傍の熱輸送媒体M1の温度が沸点以上に過熱される。このため、伝熱面50では、当該熱により、複数の気泡Bが発生する。なお、容器10と伝熱部材5とは一体で形成されてもよいし、別体で形成されてもよい。容器10および伝熱部材5の各材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。
【0016】
熱輸送媒体M1としては、特に限定されないが、例えば、水等の水系冷媒、メタノール等のアルコール系冷媒、アセトン等のケトン系冷媒、エチレングリコール等のグリコール系冷媒、フロリナート等のフッ化炭素系冷媒、HFC134a等のフロン系冷媒、およびブタン等の炭化水素系冷媒等が挙げられる。なお、熱輸送媒体M1には、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤または炭化水素系界面活性剤等の界面活性剤等を含んでもよい。また、熱輸送媒体M1は、前述の2種以上冷媒を含んでもよい。
【0017】
放熱部2は、内部空間である凝縮室S2を有する構造体であり、受熱部1からの熱を放熱する。凝縮室S2は、熱輸送媒体M1を気化した状態から凝縮液化させる空間である。放熱部2では、受熱部1で生成された気相熱輸送媒体が凝縮されることにより液相熱輸送媒体が生成される。放熱部2は、凝縮室S2の気相熱輸送媒体を外部の流体との熱交換により放熱することにより凝縮液化させる。当該外部の流体は、凝縮室S2の外部を流動する流体であればよく、特に限定されず、液体でも気体でもよいが、典型的には、例えば空気である。
【0018】
放熱部2は、冷却部材21とケース20とを有する。冷却部材21は、気化した熱輸送媒体M1を冷却する構造体である。冷却部材21は、例えば、冷却された流体が流れる冷却管である。なお、冷却部材21の代わりに、冷却用のフィンがケース20に取り付けられてもよい。また、ケース20は、凝縮室S2を有する。ケース20の材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。
【0019】
第1管部3は、受熱部1および放熱部2のそれぞれに接続される蒸気管である。同様に、第2管部4は、受熱部1および放熱部2のそれぞれに接続される液管である。第1管部3よび第2管部4のそれぞれは、受熱部1内の空間と放熱部2内の空間とを連通させる。第1管部3は、気相熱輸送媒体を受熱部1から放熱部2に流す。一方、第2管部4は、液相熱輸送媒体を放熱部2から受熱部1に流す。第1管部3および第2管部4の各材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。
【0020】
以上の沸騰冷却装置100では、受熱部1において、熱輸送媒体M1が発熱体9からの熱により加熱され、熱輸送媒体M1が気化されることにより、気相熱輸送媒体が生成される。当該気相熱輸送媒体は、密度の減少により第1管部3を通じて上昇し、放熱部2に輸送される。放熱部2では、当該気相熱輸送媒体が放熱により冷却され、当該気相熱輸送媒体が凝縮されることにより、液相熱輸送媒体が生成される。当該液相熱輸送媒体は、密度の増大により第2管部4を通じて下降することにより受熱部1に輸送される。このように、受熱部1の熱輸送媒体M1が、第1管部3、放熱部2、第2管部4および受熱部1の順に循環することで、発熱体9は冷却される。
【0021】
1-2.伝熱面50
図2は、伝熱面50の平面図である。図3は、伝熱面50の一部の断面図である。図2に示す例では、伝熱面50の平面形状は、四角形である。なお、伝熱面50の平面形状は、四角形以外の多角形または円形等であってもよい。
【0022】
図2に示すように、伝熱面50には複数の溝51が設けられる。各溝51は、直線状の凹部であって、伝熱面50に形成された凹みである。複数の溝51は、互いに離間し、放射状に配置される。各溝51は、伝熱面50の外縁501から伝熱面50の内側に向かって延びる。図2の例では、各溝51は、外縁501から伝熱面50の平面視での中心O1に向かって延びる。また、各溝51の幅Wは、外縁501から伝熱面50の内側に向かって単調減少する。図2の例では、各溝51の幅Wは、外縁501から中心O1に向かって徐々に減少する。なお、各溝51の幅Wは、段階的に減少してもよい。また、複数の溝51は、互いに分離しているが、中心O1で繋がっていてもよい。
【0023】
図3に示すように、各溝51の断面形状は、V字形である。各溝51は、開口縁511と最深部512とを有する。開口縁511は、各溝51のうち最もZ1方向に位置する部分である。最深部512は、各溝51のうち最もZ2方向に位置する部分である。各溝51の幅Wは、開口縁511から最深部512に向かって減少する。よって、開口縁511の幅Wは、最深部512の幅Wよりも大きい。なお、図3の例では、最深部512の幅Wは、零(0)である。また、図3の例では、複数の溝51の各深さDは、開口縁511の幅Wよりも大きい。
【0024】
1-3.沸騰伝熱特性
図4および図6のそれぞれは、比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。図5および図7のそれぞれは比較例の気泡挙動を説明するための平面図である。図4図7に示す比較例の伝熱面50xは、平坦面であって、複数の溝51が設けられていない。
【0025】
熱輸送媒体M1が発熱体9からの熱により加熱され、熱輸送媒体M1が気化される。この結果、図4および図5に示すように、伝熱面50x上には多数の気泡Bが発生し、その後、伝熱面50xから離脱する。気泡Bの数が増加すると、図6および図7に示すように、気泡B同士が接触して合体することにより、大型な合体気泡B0が形成される。
【0026】
発熱体9は平面視で伝熱面50xの全領域に重なるように配置される場合を想定する。この場合、伝熱面50xの中央付近は特に温度が高くなり易い。加えて、気泡Bは受熱部1の受熱室S1内の対流によって内側に集まり易い。このため、大型な合体気泡B0は、伝熱面50xの中央付近に形成され易い。
【0027】
大型な合体気泡B0の底部には大型な乾き領域Sxが発生する。乾き領域Sxは、伝熱面50のうち熱輸送媒体M1が接触せずに伝熱に寄与しない領域である。乾き領域Sxは伝熱に寄与しないため、乾き領域Sxが大型化するほど沸騰熱伝達性能が低下してしまう。加えて、伝熱面50xに多数の気泡Bが密集すると、伝熱面50xの周囲から大型な合体気泡B0までの熱輸送媒体M1の移動が妨げられてしまう。このため、乾き領域Sxが再び濡れることが阻害されてしまう。
【0028】
この乾き領域Sxの拡大および乾き領域Sxの濡れの阻害を抑制するためには、熱輸送媒体M1に界面活性剤が添加されていることが好ましい。界面活性剤が添加されていることで、添加されていない場合に比べ、気泡B同士の合体を抑制することができるとともに、伝熱面50からの気泡Bの離脱を促進することができる。
【0029】
しかし、前述の大型な乾き領域Sxは、界面活性剤が添加された熱輸送媒体M1を用いた場合であっても発生し得る。このため、界面活性剤が添加された熱輸送媒体M1を用いただけでは、沸騰熱伝達製造の低下を充分に抑制することが難しい。そこで、本実施形態では、複数の溝51を有する伝熱面50が用いられる。
【0030】
1-4.伝熱面の構成および効果
図8は、伝熱面50の一部を拡大した平面図である。図8に示すように、伝熱面50は、外縁501から内側に向かって延び、互いに離間する複数の溝51を有する。そして、複数の溝51の各幅Wは、外縁501から内側に向かって単調減少する。したがって、外縁501付近の幅Wは、中心O1付近の幅Wよりも大きい。
【0031】
かかる複数の溝51が設けられることで、毛管現象により、外縁501から伝熱面50の内側に向けて熱輸送媒体M1を輸送することができる。このため、伝熱面50の中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。加えて、伝熱面50に多数の気泡Bが存在していても、溝51を介して熱輸送媒体M1を中心O1付近へと導くことができる。このため、伝熱面50の周囲から合体気泡B0までの熱輸送媒体M1の移動が妨げられることが抑制される。このようなことから、沸騰冷却装置100の沸騰伝熱性能の低下を抑制することができる。
【0032】
図9は、第1実施形態の気泡挙動を説明するための平面図である。図10は、第1実施形態の気泡挙動を説明するための断面図である。図9中の中心O1を含む領域A1は、気泡Bが多く、大型な乾き領域Sxが形成され易い領域である。また、外縁501付近の領域A2は、領域A1に比べて気泡Bが少なく、大型な乾き領域Sxが形成され難い領域である。
【0033】
図9の矢印a1および図10の矢印a2に示すように、熱輸送媒体M1は、外縁501から内側に向かって輸送される。なお、熱輸送媒体M1は、外縁501からのみならず、溝51の途中から溝51内に誘導される。
【0034】
伝熱面50に複数の溝51を設けることで、毛管現象により、気泡Bの少ない外縁501等から気泡Bの多い中心O1へと熱輸送媒体M1を輸送することができる。各溝51内を熱輸送媒体M1が移動することで、熱輸送媒体M1の輸送が気泡Bによって阻害されることがなく、効率的に中心O1へと熱輸送媒体M1を輸送することができる。この結果、中心O1付近に存在する大型な乾き領域Sxを効率的に濡らすことができる。それゆえ、乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。よって、伝熱面50に複数の溝51が設けられることで、伝熱面50が平坦面である場合に比べ、沸騰熱伝達性能の劣化を抑制することができる。
【0035】
図11図12および図13のそれぞれは、乾き領域Sxの拡大を説明するための図である。図11図13には、溝51が存在していない場合の比較例が示される。図11に示すように、気泡Bの底部B01と伝熱面50xとの間には、熱輸送媒体M1が存在する。伝熱面50xが過熱されると、図12に示すように、気泡Bの底部B01に存在する熱輸送媒体M1の一部M10が蒸発によって消失する。この結果、図13に示すように、乾き領域Sxが拡大する。
【0036】
図14図15、および図16のそれぞれは、乾き領域Sxの拡大の抑制を説明するための図である。図14図16には、本実施形態の溝51を有する伝熱面50が示される。図14に示すように、溝51が存在する場合であっても、図11と同様に、気泡Bの底部B01と伝熱面50との間には、熱輸送媒体M1が存在する。伝熱面50が加熱されると、図15に示すように、気泡Bの底部B01に存在する熱輸送媒体M1の一部M11が蒸発しようとする。この際、溝51において毛細管力により熱輸送媒体M1が移動する。このため、気泡Bの底部B01に熱輸送媒体M1の一部M11よりも低温な熱輸送媒体M1が供給される。それゆえ、熱輸送媒体M1の一部M11の蒸発、または蒸発による熱輸送媒体M1の消失量を低下させることができる。よって、図16に示すように、乾き領域Sxの拡大が抑制される。
【0037】
図11図16を参照して分かるように、複数の溝51が設けられることで、乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。よって、沸騰熱伝達性能の劣化を抑制することができる。
【0038】
各溝51の幅Wは、毛細管力が働く大きさである。具体的には、各溝51の幅Wは、例えば、数mm程度である。数mmの幅Wを有する複数の溝W1は、簡単に形成することができる。このため、伝熱面50に複雑で微細な構造を設けずに、沸騰熱伝達性能の劣化を抑制することができる。コストの増大を抑制できるとともに、溝51の閉塞を抑制することができる。
【0039】
また、前述のように、複数の溝51は、伝熱面50の内側から外縁501に向かって放射状に設けられる。複数の溝51が放射状に延びていることで、複数の溝51の密度は外縁501から内側に向かって高くなる。このため、複数の溝51が例えばストライプ状に配置される場合に比べ、伝熱面50の中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大をより効果的に抑制することができる。なお、各溝51は、外縁501から内側に向かって延びていればよく、複数の溝51の配置は、放射状に限定されない。
【0040】
また、前述のように、複数の溝51のそれぞれは、開口縁511と最深部512とを有する。複数の溝51の各幅Wは、開口縁511から最深部512に向かって単調減少する。溝51の幅Wが開口縁511から最深部512に向かって減少することで、溝51の幅Wが一定である場合に比べ、毛細管力が大きくなる。つまり、熱輸送媒体M1を輸送する力、すなわち熱輸送媒体M1を引っ張る力Pcapが大きくなる。このため、伝熱面50の中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を効果的に抑制することができる。
【0041】
熱輸送媒体M1を引っ張る力Pcapは、以下の式[1]で表される。
Pcap=(2・σ)/(W/2) …[1]
σは、熱輸送媒体M1の表面張力を示す。
【0042】
式[1]からも分かるように、幅Wが小さくなるほど、引っ張る力Pcapが大きくなる。溝51の幅Wは、開口縁511から最深部512に向かって減少する。このため、最深部512に近づくほど、熱輸送媒体M1を引っ張る力Pcapは大きくなる。
【0043】
また、複数の溝51の各深さDは、開口縁511の最も内側の端における幅Wよりも大きいことが好ましい。なお、開口縁511の最も内側の端とは、溝51のうちの外縁501とは反対の端部であり、本実施形態では最も中心O1に近い部分である。深さDが開口縁511の最も内側の端における幅Wよりも大きいことで、深さDの方が小さい場合に比べ熱輸送媒体M1を引っ張る力Pcapが大きくなる。このため、伝熱面50の中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を効果的に抑制することができる。
【0044】
深さDは、特に限定されないが、例えば、1mm以上である。また、中心O1付近での開口縁511の幅Wは、特に限定されないが、例えば、0.5mm程度である。また、外縁501付近での開口縁511の幅Wは、特に限定されないが、例えば、2mm以上3mm以下程度である。
【0045】
なお、溝51の幅Wは、単調減少しておらず、一定であってもよい。また、深さDは、幅W以下でもよい。
【0046】
図17は、開口縁511の幅Wと気泡Bの離脱気泡径Dbaseとの関係を説明するための図である。図17に示すように、複数の溝51のそれぞれの開口縁511の幅Wは、平面での熱輸送媒体M1の沸騰により生じる気泡Bの離脱気泡径Dbaseよりも小さいことが好ましい。
【0047】
離脱気泡径Dbaseは、伝熱面50から離脱する際における気泡Bの直径である。離脱気泡径Dbaseは、例えば、減圧場での純水に対するCole and Rohsenowの式を用いた計算により求められる。当該式は、以下の式[2]で表される。
base=0.00015×√(σ/g(ρf-ρg))×Ja5/4 …[2]
Ja=(ρf×Cp×Tsat)/(ρg×hfg
σは、熱輸送媒体M1の表面張力を示す。ρfは、液体である熱輸送媒体M1の密度を示す。ρgは、蒸気である気相熱輸送媒体の密度を示す。Cpは、熱輸送媒体M1の比熱を示す。Tsatは、熱輸送媒体M1の飽和温度を示す。hfgは、熱輸送媒体M1の蒸発潜熱を示す。gは、重力加速度を示す。
【0048】
なお、熱輸送媒体M1への界面活性剤の添加により熱輸送媒体M1の表面張力が低下する。また、離脱気泡径Dbaseは、例えば、カメラ等の撮像装置を用いて計測してもよい。この場合、離脱気泡径Dbaseは、熱輸送媒体M1に強制対流が生じていない状態で計測される。
【0049】
開口縁511の幅Wが気泡Bの離脱気泡径Dbaseよりも小さいことで、大きい場合に比べ、溝51が気泡Bで閉塞されるおそれが抑制される。よって、熱輸送媒体M1を効率よく内側へと輸送することができる。このため、開口縁511の幅Wが離脱気泡径Dbaseよりも小さいことで、大きい場合に比べて、伝熱性能の劣化を抑制することができる。なお、開口縁511の幅Wは、気泡Bの離脱気泡径Dbase以上でもよい。
【0050】
図18は、溝51の深さDと気泡Bの離脱気泡径Dbaseとの関係を説明するための図である。図18に示すように、複数の溝51の各深さDは、平面での熱輸送媒体M1の沸騰により生じる気泡Bの離脱気泡径Dbaseの半分よりも大きいことが好ましい。深さDが離脱気泡径Dbaseの半分よりも大きいことで、小さい場合に比べて、溝51が気泡Bで閉塞されるおそれが抑制される。よって、熱輸送媒体M1を効率よく内側へと輸送することができる。このため、深さDが離脱気泡径Dbaseの半分よりも大きいことで、小さい場合に比べて、伝熱性能の劣化を抑制することができる。
【0051】
特に、開口縁511の幅Wが気泡Bの離脱気泡径Dbaseよりも小さく、かつ、深さDが気泡Bの離脱気泡径Dbaseの半分よりも大きいことが好ましい。この関係を満足することで、気泡Bによって溝51が閉塞されるおそれが特に効果的に抑制される。よって、伝熱性能の劣化を抑制することができる。
【0052】
図19は、溝51の気泡Bを押し込む力P1を説明するための図である。図19は、溝51の気泡Bを押し込む力P1を説明するための図である。例えば、受熱室S1の高さが離脱気泡径Dbaseより小さい場合には、気泡Bが押しつぶされ、溝51に気泡Bを押し込む力P1が発生し得る。しかし、一般的な冷却システムでは、気泡Bの直径に対して受熱室S1の容積が充分に大きいため、溝51に気泡Bを押し込む力が発生し難い。よって、気泡Bによって閉塞されるおそれは廃除することができる。
【0053】
図20は、溝51の毛細管力を説明するための縦断面図である。図20のPは、液体である熱輸送媒体M1の圧力を示す。Pは、気泡Bの内圧を示す。この場合、気泡Bの気液界面に働く力の釣合いは以下の式[3]で表され、溝51における気液界面で働く力の釣合いは以下の式[4]で表される。
+{2σ/(Dbubble/2)}=P …[3]
+{2σ/(W/2)}=P …[4]
bubbleは、とある時刻での気泡Bの直径を示す。また、2σ/(Dbubble/2)は、気泡の表面積を最小に使用とする力を示し、2σ/(W/2)は、毛細管力を示す。
【0054】
例えば、受熱室S1の高さは、気泡Bの直径よりも充分に大きい。よって、P+{2σ/(Dbubble/2)}<Pとなった場合、式[3]を満たすまで、気泡Bは大きくなることができる。
【0055】
式[3]を満たすまで気泡Bが大きくなった場合、溝51内部の気液界面における圧力の関係は、P≒Pと考えることができる。溝51において毛細管力に相当する力Pcapを生じさせることができれば、熱輸送媒体M1が溝51の内部を移動し、かつ、この移動が気泡Bの内圧によって阻害され難い。具体的には、溝51の幅Wを気泡Bの離脱気泡径Dbaseよりも小さく、かつ、深さDを離脱気泡径Dbaseの半分よりも大きくすることで、熱輸送媒体M1が溝51の内部の移動が特に効果的に促進され、この移動が気泡Bの内圧によって特に阻害され難い。
【0056】
以上の沸騰冷却装置100によれば、大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。この結果、沸騰冷却装置100の沸騰伝熱性能の低下を抑制することができる。
【0057】
2.第2実施形態
第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0058】
2-1.沸騰冷却装置100の概要
図21は、第2実施形態に係る沸騰冷却装置100の概略図である。図21に示すように、本実施形態では、発熱体9が受熱部1に対して鉛直方向に沿って配置される。なお、発熱体9および伝熱部材5は、2つずつ設けられていてもよい。この場合、発熱体9および伝熱部材5は、例えば、受熱部1の両側に配置されてもよい。
【0059】
2-2.伝熱面50A
図22は、伝熱面50Aの平面図である。図22に示す伝熱面50Aは、複数の溝51に加え、複数の第2溝52を有する。複数の第2溝52は、複数の溝51に対して鉛直上方に配置される。図22の例では、複数の第2溝52は、中心O1よりも鉛直上方に配置される。各第2溝52は、鉛直方向に交差する方向の水平方向に沿って延びる。複数の第2溝52は、互いに離間し、鉛直方向に沿って並ぶ。図22の例では、第2溝52は、伝熱面50Aの左縁から右縁まで延びる。
【0060】
2-3.沸騰伝熱特性
図23および図24のそれぞれは、比較例の気泡挙動を説明するための断面図である。図23に示すように、熱輸送媒体M1が発熱体9からの熱により加熱され、熱輸送媒体M1が気化されることにより、伝熱面50x上には、多数の気泡が発生する。気泡の数が増加すると、気泡B同士が接触して合体することにより、図24に示すように、大型な合体気泡B0が形成される。本実施形態の場合、伝熱面50xから離脱した気泡Bは、浮力によってZ1方向に上昇する。このため、複数の気泡Bは、伝熱面50xの上部で合体し易い。それゆえ、伝熱面50xの上部では、大型な合体気泡B0が形成され易い。
【0061】
2-4.伝熱面の構成および効果
前述のように、伝熱面50Aは、鉛直方向に沿って設置される。伝熱面50Aのうちの鉛直方向の上半分には、互いに離間し、鉛直方向に交差する複数の第2溝52が複数設けられる。複数の第2溝52が設けられることで、設けられていない場合に比べ、伝熱面50Aに対する気泡Bの接触面積の拡大を抑制させることができる。このため、伝熱面50Aからの気泡Bの離脱を促進することができる。よって、複数の第2溝52が設けられることで、設けられていない場合に比べ、伝熱性能の向上を図ることができる。
【0062】
図25は、第2実施形態の気泡挙動を説明するための平面図である。図26は、第2実施形態の気泡挙動を説明するための断面図である。図25中の中心O1を含む伝熱面50Aのうちの鉛直方向の上半分の領域A1は、気泡Bが多く、大型な乾き領域Sxが形成され易い領域である。また、伝熱面50Aのうちの鉛直方向の下半分の外縁501付近の領域A2は、領域A1に比べて気泡Bが少なく、大型な乾き領域Sxが形成され難い領域である。
【0063】
図25の矢印a3および図26の矢印a4に示すように、第2溝52において毛細管力により熱輸送媒体M1が移動する。このため、気泡Bと伝熱面50Aとの間に熱輸送媒体M1が供給される。毛細管力によって、重力の影響を受けずに鉛直上方へと溝51に沿って熱輸送媒体M1を輸送することができる。それゆえ、形成された乾き領域Sxが再び濡れることを促進することができる。この結果、蒸発により消失し得る熱輸送媒体M1を維持、または消失量を低下させることができる。さらに、浮力方向に平行な複数の第2溝52を設けることで、伝熱面50に対する気泡Bの接触線の拡大を抑制し、気泡Bの離脱を促進することができる。
【0064】
図27は、変形例の伝熱面50Aaの平面図である。図27に示すように、複数の第2溝52aの半分は、伝熱面50Aaの左縁から内側に向かって延びる。複数の第2溝52aの残部は、伝熱面50Aaの右縁から内側に向かって延びる。また、複数の第2溝52aの幅Wは、左縁または右縁から内側に向かって単調減少する。なお、幅Wは一定であってもよい。
【0065】
図27に示す複数の第2溝52aによっても、図22に示す複数の第2溝52と同様に、伝熱面50Aaに対する気泡Bの接触面積の拡大を抑制させることができる。このため、伝熱面50Aaからの気泡Bの離脱を促進することができる。よって、複数の第2溝52aが設けられることで、設けられていない場合に比べ、伝熱性能の向上を図ることができる。
【0066】
3.第3実施形態
第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0067】
3-1.伝熱部材5B
図28は、第3実施形態の伝熱部材5Bの斜視図である。第1実施形態では、伝熱部材5の厚みD0が一定であったが、図28に示す伝熱部材5の厚みD0は一定ではない。なお、厚みD0とは、取付面59から伝熱面50Bまでの長さであり、本実施形態では鉛直方向における伝熱部材5の長さである。
【0068】
図28の例では、伝熱部材5Bの平面視での中心O1における厚みD0が最も厚い。伝熱部材5Bは、中心O1の厚みD0が最も厚い山型である。伝熱部材5Bは、外縁501から内側に向かって単調増加する。図28の例では、伝熱部材5Bは、外縁501から内側に向かって徐々に増加する。また、伝熱面50Bは、4つの傾斜面で構成される。なお、複数の溝51の構成は第1実施形態と同じである。図28では複数の溝51の図示が省略されている。
【0069】
本実施形態では、受熱部1は、伝熱面50Bを含む板状の伝熱部材5Bを有する。伝熱部材5Bの厚みD0は、外縁501から内側に向かって単調増加する。厚みD0が中心O1で最も厚くても、重力の影響を受けずに、毛細管力により、熱輸送媒体M1は外縁501から中心O1に向かって移動する。厚みD0が外縁501から内側に向かって単調増加することで、厚みD0が一定である場合に比べ、伝熱面50Bの中心O1付近における気泡Bが伝熱面50Bから離脱し易くなる。このため、伝熱面50Bの中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。この結果、沸騰冷却装置100の沸騰伝熱性能の低下を抑制することができる。
【0070】
図29は、変形例の伝熱部材5Baの斜視図である。図29の伝熱部材5Baが有する伝熱面50Baは、2つの傾斜面を有する。図29の伝熱部材5Baによっても、図28の伝熱部材5Bと同様に、伝熱面50Bの中心O1付近における気泡Bが伝熱面50Baから離脱し易くなる。このため、伝熱面50Bの中心O1付近における大型の乾き領域Sxの形成、または乾き領域Sxの拡大を抑制することができる。なお、図29では複数の溝51の図示が省略されている。
【0071】
4.変形例
前述の各実施形態は、例えば、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0072】
図30は、変形例の溝51aの断面図である。図30に示す例では、溝51aの最深部512は、複数の凹部5120を有する。かかる構成にすることで、第1実施形態に比べてより大きな毛細管力を得ることができる。
【0073】
図31は、変形例の溝51bの断面図である。図32に示す例では、溝51bを構成する内壁面510bは、複数の凹部5100を有する。かかる構成にすることで、第1実施形態に比べてより大きな毛細管力を得ることができる。
【0074】
図32は、変形例の溝51cの断面図である。図33の溝51cの内壁面510cは、湾曲状である。このように、「溝」の断面形状は特に限定されず、任意である。
【0075】
図33は、変形例の伝熱部材5Cの断面図である。第2実施形態のよう発熱体9が鉛直方向に沿って配置される場合、伝熱部材5Cは、図33に示すように配置されてもよい。図33の領域A01は、複数の溝51が設けられる領域である。領域A02は、第2溝52が設けられる領域である。本変形例では、伝熱部材5Cのうち複数の溝51が設けられる領域A01の厚みD1は、鉛直下方に向かって単調減少する。また、伝熱部材5Cのうち複数の第2溝52が設けられる領域A02の厚みD2は、一定である。
【0076】
図34は、変形例の伝熱部材5Dの断面図である。第2実施形態のよう発熱体9が鉛直方向に沿って配置される場合、伝熱部材5Dは、図34に示すように配置されてもよい。図34の領域A01は、複数の溝51が設けられる領域である。領域A02は、第2溝52が設けられる領域である。本変形例では、伝熱部材5Dのうち複数の溝51が設けられる領域A01の厚みD1は、鉛直下方に向かって単調減少する。また、伝熱部材5Cのうち複数の第2溝52が設けられる領域A02の厚みD2は、鉛直上方に向かって単調減少する。第2溝52が設けられる領域A02の厚みD2が鉛直上方に向かって単調減少することで、厚みD2が一定である場合に比べ、気泡Bを離脱させ易い。また、気泡Bが充満する領域A02において、気泡B同士が接触しにくくなることで、大型な合体気泡B0の形成が抑制され、大型の乾き領域Sxの形成が抑制される。
【0077】
以上、本開示について図示の実施形態に基づいて説明したが、本開示は、これらに限定されるものではない。また、本開示の各部の構成は、前述した実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1…受熱部、2…放熱部、3…第1管部、4…第2管部、5…伝熱部材、5B…伝熱部材、5Ba…伝熱部材、5C…伝熱部材、5D…伝熱部材、6…熱輸送管部、9…発熱体、10…容器、20…ケース、21…冷却部材、50…伝熱面、50A…伝熱面、50Aa…伝熱面、50B…伝熱面、50Ba…伝熱面、50x…伝熱面、51…溝、51a…溝、51b…溝、51c…溝、52…第2溝、52a…第2溝、59…取付面、100…沸騰冷却装置、501…外縁、510b…内壁面、510c…内壁面、511…開口縁、512…最深部、5100…凹部、5120…凹部、A01…領域、A02…領域、A1…領域、A2…領域、B…気泡、B0…合体気泡、B01…底部、D…深さ、D0…厚み、D1…厚み、D2…厚み、Dbase…離脱気泡径、M1…熱輸送媒体、O1…中心、P1…力、S1…受熱室、S2…凝縮室、Sx…領域、W1…溝、a1…矢印、a2…矢印、a3…矢印、a4…矢印。
図1
図2
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図4
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