(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179775
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ボイド型枠材及びこれを備える床構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20241219BHJP
E04B 5/38 20060101ALI20241219BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20241219BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20241219BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E04B5/43 A
E04B5/38 A
E04B5/43 H
E04B1/82 R
E04B1/98 E
E04B1/64 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098909
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】市川 友己
(72)【発明者】
【氏名】山岸 邦彰
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DA02
2E001EA02
2E001FA13
2E001GA01
2E001HA06
(57)【要約】
【課題】型枠内中空部を有するボイド型枠材において、型枠内中空部に浸入した水を排出できるようにする。
【解決手段】ボイド型枠材5は、下型枠材12と上型枠材とを備える。下型枠材12は、下面と型枠内中空部の底面を画定する上面とを有する底壁15を含む。底壁15の上面は傾斜面33を含み、底壁15は、傾斜面33の下端部から下面に至る貫通孔35と、下面に形成され、貫通孔に連通して下型枠材の側面に至る排水溝36とを含む。排水溝36は、互いに千鳥状に配置された複数の第1排水溝36a及び複数の第2排水溝36bを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体にボイドを形成するためのボイド型枠材であって、
底壁及び側面を含む下型枠材と、
前記下型枠材の上方に配置されて、前記下型枠材と協働して型枠内中空部を画成する上型枠材とを備え、
前記底壁が、下面と、前記型枠内中空部の底面を画定する上面とを有し、
前記上面が、第1水平方向に対して上下に傾斜した傾斜面を有し、
前記底壁が、前記傾斜面の下端部から前記下面に至る貫通孔と、前記下面に形成されて前記貫通孔から前記側面に至る排水溝とを有する1又は複数の排水路を含む、ボイド型枠材。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記第1水平方向に交差する第2水平方向に延在する長孔によって構成され、
前記排水溝が、
前記貫通孔に対して前記第1水平方向にずれ、前記第2水平方向に互いに離間し、前記貫通孔に連通する複数の第1排水溝と、
前記貫通孔及び前記第1排水溝に対して前記第1水平方向にずれ、前記第1排水溝に対して部分的に前記第2水平方向にずれ、前記第2水平方向に互いに離間し、前記第1排水溝に連通して前記側面に至る複数の第2排水溝と
を含む、請求項1に記載のボイド型枠材。
【請求項3】
前記排水路は、複数設けられており、複数の前記排水路の少なくとも2つは、前記第2水平方向に互いに整合しかつ離間するように配置され、
前記底壁は、前記第2水平方向に互いに整合しかつ離間する少なくとも2つの前記排水路の間に、前記下型枠材を形成する素材で充実された充実部を含む、請求項2に記載のボイド型枠材。
【請求項4】
前記第1水平方向と前記第2水平方向とは互いに直交し、
前記型枠内中空部は、平面視で、前記第1水平方向に短辺を有し、かつ前記第2水平方向に長辺を有する矩形を呈し、
前記傾斜面は、前記第1水平方向の中間部から前記第1水平方向の両側に向かって下方に傾斜しており、
前記貫通孔は、前記矩形の4つの隅部の近傍の各々の前記長辺に沿った位置に設けられた、請求項3に記載のボイド型枠材。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のボイド型枠材と、前記ボイド型枠材の前記型枠内中空部内に設けられた動吸振器と、床スラブである前記コンクリート構造体とを備える床構造であって、
前記排水路の各々は、少なくとも部分的に前記動吸振器に対して前記第2水平方向にずれて配置され、前記充実部は、少なくとも部分的に前記動吸振器に対して前記第1水平方向に整合している、床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、型枠内中空部を有するボイド型枠材と、このボイド型枠材を備える床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイド型枠材は、建物の床等のコンクリート構造体にボイド(中空部)を設ける時に使用される。ボイド型枠材は、コンクリート構造体に埋め殺しにされる型枠であり、ハーフプレキャストコンクリート板の上に載置され、その周囲にトップコンクリートが打設される。これにより、コンクリート構造体中におけるボイド型枠材が占める領域が、ボイドとなる。一般的なボイド型枠材には、中空化されたボイド型枠材と中空化されていない密実なボイド型枠材の2種類がある。通常の中空化されたボイド型枠材は、底壁を有さない箱型、すなわち、下面が開口した箱型をなし、箱型の内部に鉛直方向に延在する複数のリブが設けられている。
【0003】
ボイド型枠材をハーフプレキャストコンクリート板の上に載置後、トップコンクリートの打設前に、配筋作業等が行われる。このような作業中に、作業員がボイド型枠材に乗っかったり、資材や工具がボイド型枠材にぶつかったりすることにより、ボイド型枠材にひび割れが生じたり、孔が開いたりするおそれがある。すると、中空化されたボイド型枠材においては、これらのひび割れや孔から浸入した雨水が、ハーフプレキャストコンクリート板上におけるボイド型枠材の側壁に囲まれた領域に溜まる。そのまま、トップコンクリートを打設すると、ボイド内に水が存在する状態でコンクリート構造体が構築される。建物等の完成後、床等のコンクリート構造体にひび割れが生じると、その水が漏れ出てしまう。
【0004】
このようなことを防止するため、例えば、特許文献1に記載のボイド型枠材では、ハーフプレキャストコンクリート板に当接する側壁及びリブの下面に複数の突起を設け、トップコンクリートの打設前の状態にて、ボイド型枠材内に浸入した雨水が突起の間を通って排出されるようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボイド型枠材が占める領域を有効利用するため、ボイド型枠材内に何らかの装置を配置するための型枠内中空部を設けると、その装置を載置するための底壁が必要となる。このため、ボイド型枠材にひび割れや孔が生じると、雨水が型枠内中空部内の底壁の上面に溜まるおそれがある。特許文献1に記載の雨水の排出構造は、ハーフプレキャストコンクリート板上に溜まった雨水を排出するためのものであり、底壁の上面に溜まった雨水を排出することができない。
【0007】
このような背景に鑑み、本発明は、型枠内中空部を有するボイド型枠材であって、型枠内中空部に浸入した水を排出できるボイド型枠材を提供すること、及びこのボイド型枠材を備えて床振動音を低減できる床構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある実施形態は、コンクリート構造体(2)にボイド(11)を形成するためのボイド型枠材(5)であって、底壁(15)及び側面を含む下型枠材(12)と、前記下型枠材の上方に配置されて、前記下型枠材と協働して型枠内中空部(14)を画成する上型枠材(13)とを備え、前記底壁が、下面と、前記型枠内中空部の底面を画定する上面とを有し、前記上面が、第1水平方向に対して上下に傾斜した傾斜面(33)を有し、前記底壁が、前記傾斜面の下端部から前記下面に至る貫通孔(35)と、前記下面に形成されて前記貫通孔から前記側面に至る排水溝(36)とを有する1又は複数の排水路(34)を含む。
【0009】
この構成によれば、型枠内中空部に浸入した水は、傾斜面及び排水路を介して型枠内中空部から排出される。
【0010】
本発明のある態様は、上記構成において、前記貫通孔(35)が、前記第1水平方向に交差する第2水平方向に延在する長孔によって構成され、前記排水溝(36)が、前記貫通孔に対して前記第1水平方向にずれ、前記第2水平方向に互いに離間し、前記貫通孔に連通する複数の第1排水溝(36a)と、前記貫通孔及び前記第1排水溝に対して前記第1水平方向にずれ、前記第1排水溝に対して部分的に前記第2水平方向にずれ、前記第2水平方向に互いに離間し、前記第1排水溝に連通して前記側面に至る複数の第2排水溝(36b)とを含んでも良い。
【0011】
この構成によれば、第1排水溝及び第2排水溝が互いに千鳥状に配置されるため、トップコンクリートの打設時にコンクリートのノロが排水溝を逆流することが抑制される。
【0012】
本発明のある態様は、上記構成において、前記排水路(34)は、複数設けられており、複数の前記排水路の少なくとも2つは、前記第2水平方向に互いに整合しかつ離間するように配置され、前記底壁(15)は、前記第2水平方向に互いに整合しかつ離間する少なくとも2つの前記排水路の間に、前記下型枠材を形成する素材で充実された充実部(37)を含んでも良い。
【0013】
この構成によれば、トップコンクリートの打設時にコンクリートの圧力を受ける下型枠材は、貫通孔によって変形しやすいという問題を有するが、充実部によってその変形が抑制される。
【0014】
本発明のある態様は、上記構成において、前記第1水平方向と前記第2水平方向とは互いに直交し、前記型枠内中空部(14)は、平面視で、前記第1水平方向に短辺を有し、かつ前記第2水平方向に長辺を有する矩形を呈し、前記傾斜面(33)は、前記第1水平方向の中間部から前記第1水平方向の両側に向かって下方に傾斜しており、前記貫通孔(35)は、前記矩形の4つの隅部の近傍の各々の前記長辺に沿った位置に設けられても良い。ここで「隅部近傍」とは、第2水平方向に延在する長辺の中点よりも長辺の端点に近い位置を指す。
【0015】
この構成によれば、型枠内中空部に浸入した水の移動距離が短くなり、その水の排出が速やかに行われる。
【0016】
本発明のある態様は、上記構成のボイド型枠材(5)と、前記ボイド型枠材の前記型枠内中空部(14)内に設けられた動吸振器(3)と、床スラブである前記コンクリート構造体(2)とを備える床構造(1)であって、前記排水路(34)の各々は、少なくとも部分的に前記動吸振器に対して前記第2水平方向にずれて配置され、前記充実部(37)は、少なくとも部分的に前記動吸振器に対して前記第1水平方向に整合していても良い。
【0017】
この構成によれば、動吸振器によって床振動音を低減できる。また、充実部が変形し難く、排水路の周辺が貫通孔によって変形し易いところ、トップコンクリートの打設による下型枠材の変形が、動吸振器から離れた部分で生じるため、排水路を設けたことによって生じる動吸振器3への影響が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、型枠内中空部を有するボイド型枠材であって、型枠内中空部に浸入した水を排出できるボイド型枠材を提供すること、及びこのボイド型枠材を備えて床振動音を低減できる床構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施形態に係るボイド型枠材及びその内部に含まれる部材の平面図
【
図3】
図2におけるIII-III線に沿った断面図
【
図7】
図6におけるVII-VII線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る建物の床構造1について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る床構造1の平面図である。床構造1は、集合住宅やホテル等のように、床衝撃音の低減が要求される建物の床に用いられる。床構造1は、鉄筋コンクリート造の床スラブ2を備え、床スラブ2には、動吸振器3として機能する部材が配置される。床は、二重床でも直張り床でもよく、下層階の天井は、二重天井でも直天井でもよい。
【0022】
床スラブ2は、ハーフプレキャスト工法によって形成され、プレキャストコンクリート(PCa)からなるハーフPCa板4と、ハーフPCa板4上に配置されたボイド型枠材5の上方に配置されて縦方向(
図1の紙面に直交する方向)及び横方向(
図1の左右方向)に沿って水平に延在するスラブ上端筋6と、ボイド型枠材5及びスラブ上端筋6を埋め込むように打設されたトップコンクリート7とを含む。
【0023】
ハーフPCa板4は、下部コンクリート8と、下部コンクリート8内を縦方向及び横方向に沿って水平に延在するスラブ下端筋9と、トラス筋10とを含む。トラス筋10は、縦方向に沿って水平に延在して横方向に互いに離間するように下部コンクリート8内に埋め込まれた対をなすボトム筋10aと、下部コンクリート8の上方に、かつ対をなすボトム筋10aの離間方向(横方向)の中間位置に配置されてボトム筋10aに平行に延在するトップ筋10bと、2本1組のラチス筋10cとを有する。2本1組のラチス筋10cは、それぞれ、
図1の左右方向から見て波形状をなし、トップ筋10b及び対応するボトム筋10aに波形状の頂点近傍で当接し、その当接する位置は、ボトム筋10aの離間方向(横方向)において互いに整合している。図示する例では、ボトム筋10aはダブルで配筋されているが、シングル配筋であってもよい。
【0024】
ボイド型枠材5は、平面視で矩形をなす平板状の外形を有する。ボイド型枠材5は、床スラブ2内にボイド11を形成するための埋め込み型枠であるため、ボイド型枠材5の下面は、ハーフPCa板4に当接し、ボイド型枠材5の下面以外の外面は、トップコンクリート7におけるボイド11を画成する内面に当接している。ボイド型枠材5は、発泡スチロール等の発泡プラスチックからなることが好ましい。なお、ボイド型枠材5に補強材等の発泡プラスチック以外の素材が含まれていてもよい。ボイド型枠材5は、ハーフPCa板4に載置された下型枠材12と、下型枠材12の上方に配置される上型枠材13とを含み、内部に下型枠材12と上型枠材13とによって画成された型枠内中空部14を有する。なお、図示する例では、1つのボイド型枠材5に対して2つの型枠内中空部14が設けられているが、型枠内中空部14は、1つのボイド型枠材5に対して1つ設けられてもよく、3つ以上設けられてもよい。
【0025】
図2~
図5は、ボイド型枠材5と型枠内中空部14に含まれる部材との平面図、
図2におけるIII-III線に沿った断面図、IV-IV線に沿った断面図及びV-V線に沿った断面図である。
【0026】
下型枠材12は、平面視で矩形をなす概ね平板状の底壁15と、底壁15の外周縁から上方に突出した下側壁16と、底壁15の長辺方向の中央部から上方に突出して短辺方向に延在する下中央壁17と、下側壁16及び下中央壁17で囲まれた空間の中央で底壁15から上方に突出する下支柱18とを含む。上型枠材13は、平面視で下型枠材12と略一致する矩形をなす概ね平板状の蓋壁19と、蓋壁19の外周縁から下方に突出した上側壁20と、蓋壁19の長辺方向の中央部から下方に突出して短辺方向に延在する上中央壁21と、上側壁20及び上中央壁21で囲まれた空間の中央で蓋壁19から下方に突出する上支柱22とを含む。
【0027】
下側壁16の上面には下型枠材12の外縁部に沿って側部突条23が設けられており、上側壁20の下面には上型枠材13の外縁部に沿って側部突条23を嵌合する側部溝24が設けられている。下中央壁17の上面には、下中央壁17と同方向に延在する1対の中央突条25が設けられており、上中央壁21の下面には上中央壁21と同方向に延在して、1対の中央突条25を嵌合する1対の中央溝26が設けられている。側部溝24に側部突条23が嵌合するように上型枠材13を下型枠材12に取り付けることにより、下型枠材12と上型枠材13との互いの接合部が液密となり、硬化前のトップコンクリート7が型枠内中空部14に流入することが防止される。また、さらに中央突条25が中央溝26に嵌合することにより、トップコンクリート7を打設する前の状態において、上型枠材13が下型枠材12に対して安定する。下支柱18の上面と上支柱22の下面とが互いに当接しており、下支柱18及び上支柱22によって、型枠内中空部14内において、底壁15と蓋壁19とを連結する支柱部27が構成される。
【0028】
動吸振器3は、型枠内中空部14の各々に設けられる。1つの型枠内中空部14に設けられる動吸振器3は、下型枠材12に下方から支持された1対のばね部材28と、ボイド型枠材5の内面に当接しないように型枠内中空部14内に配置されて、1対のばね部材28によって上下方向に振動可能に下方から支持された1つの錘29とを備える。
【0029】
1対のばね部材28は、平面視において、支柱部27に対して互いに反対側に配置される。各々のばね部材28は、弾性を有する発泡プラスチックからなる。ばね部材28は、ボイド型枠材5とは別体であって、ボイド型枠材5とは別種の発泡プラスチックからなることが好ましく、ボイド型枠材5を構成する発泡プラスチックよりも大きな減衰定数を有する発泡プラスチックからなることが更に好ましい。例えば、ばね部材28として、減衰定数が7%程度の発泡ポリエチレンを用いてもよい。下型枠材12の上面には、下支柱18に対して互いに反対側に位置する1対の型枠凹部32が設けられており、ばね部材28の下部は型枠凹部32に嵌合している。下型枠材12における型枠凹部32の底面から底壁15の下面までの厚さは、ばね部材28のばね定数を大きく変化させないように、発泡ポリエチレンの発泡最小寸法である10mm程度以上であり、10mm程度であることが好ましい。
【0030】
錘29は、コンクリート板によって構成されることが好ましい。コンクリート板は、鉄筋コンクリート造であっても、無筋コンクリート造であってもよい。なお、錘29は、鋼材等のコンクリート以外の素材から作成してもよく、また、これらの混合材としてもよい。錘29は、平面視において、矩形をなし、中央に上下に貫通する穴30を有する。ボイド型枠材5の支柱部27が、穴30を貫通している。平面視において、穴30及び支柱部27は矩形をなし、その長辺方向が互いに一致している。錘29の下面には、1対のばね部材28の上部を緩く受容する凹部31が設けられている。凹部31は、底面視で矩形をなす。穴30は凹部31の底面(上面)から上方に向かって設けられている。
【0031】
1つのボイド11内に配置される錘29の総重量は、その錘29が収容されるボイド11の負担面積を画定する領域における床スラブ2の重量の2~10%であることが好ましい。ここでボイド11の負担面積を画定する領域とは、平面視で、他のボイド11が隣接する方向には、2つのボイド11を区切る壁の中心線まで、他のボイド11が隣接しない方向には、その方向における床スラブ2の端部までの領域をいう。
【0032】
ばね部材28は、平面視において、錘29の外周縁よりも中心に寄せて配置されることが好ましく、ばね部材28における支柱部27に対向する面が、錘29の穴30を画成する内周面に一致又は近接し、かつ、ばね部材28における支柱部27に対向する面とは反対側の面が、錘29の外周面から内側に向かって離間していることが更に好ましい。
【0033】
弾性を有する発泡プラスチックからなるばね部材28が、弾発的に錘29を支持しているため、所定のばね力をもって下方向から錘29を弾性支持する。そのため、ばね部材28及び錘29は、動吸振器3を構成し、床構造1の振動エネルギーを吸収して床衝撃音を低減する。動吸振器3の固有振動数は、錘29の質量、ばね部材28の形状、錘29とばね部材28との接触面積、発泡プラスチックの発泡倍率等により調整される。人の歩行や跳びはね等によって生じる重量床衝撃音を主として低減するように、固有振動数は、オクターブバンドにおける中心周波数が63Hzの帯域に納まるように調整することが好ましい。
【0034】
錘29の凹部31は、ばね部材28の上部を緩く受容しているため、錘29は、ばね部材28に対して水平方向に変位し得る。平面視で、ばね部材28と錘29との縦横の方向を互いに揃え、かつ、錘29の穴30の中心と支柱部27の中心とが互いに一致するように錘29が配置された位置を錘29の基準位置とする。錘29が基準位置に配置されたとき、横方向(錘29の穴30を画成する内側面と支柱部27の外面とが対向する方向)において、錘29の凹部31を画成する内側面とこの内側面に対向するばね部材28の側面とは互いに第1離間距離aだけ離間し、錘29の外側面とボイド型枠材5における型枠内中空部14を画成する内側面とは互いに第2離間距離bだけ離間し、錘29の穴30を画成する内側面と支柱部27の外面とは互いに第3離間距離cだけ離間している。第1離間距離aは、0より大きく、第2離間距離b及び第3離間距離cよりも小さい。例えば、第1離間距離aを2mm、第2離間距離bを10mm、第3離間距離cを5mmとしてもよい。このため、ばね部材28の上部は凹部31に隙間をもって受容されて、錘29とばね部材28との相対的水平位置をずらす力が働いても、ばね部材28の側面が錘29の凹部31の内側面を係止するため、錘29の側面とボイド型枠材5の内側面とが離間した状態が保たれる。
【0035】
図6は、下型枠材12の底面図であり、
図7は、
図6におけるVII-VII線に沿った断面図である。
【0036】
図2及び
図6に示すように、型枠内中空部14は、平面視で略矩形を呈する。型枠内中空部14の短辺方向は、ボイド型枠材5の短辺方向に一致し、型枠内中空部14の長辺方向は、ボイド型枠材5の長辺方向に一致する。以下、短辺方向を第1水平方向と記し、これに直交する長辺方向を第2水平方向と記す。
【0037】
図5及び
図7に示すように、下型枠材12の上面は、型枠凹部32が設けられた部分を除いて、水平面に対して傾斜した傾斜面33となっている。傾斜面33は、第1水平方向の中間部、好ましくは中心において最も高く、そこから第1水平方向の両側に向かって下方に傾斜している。
【0038】
図6及び
図7に示すように、底壁15には、傾斜面33の下端部から底壁15の下部側面に至る排水路34が4か所に設けられている。各々の排水路34は、傾斜面33の下端部から底壁15の下面に至る貫通孔35と、底壁15の下面に形成されて貫通孔35から下型枠材12における第1水平方向を向いた側面に至る排水溝36とを有する。各々の排水路34は、部分的に又は全体的に、動吸振器3(
図2参照)に対して第2水平方向にずれて(第1水平方向に整合しないように)配置される。
【0039】
貫通孔35は、底壁15を上下に貫通しており、下側壁16の内面に沿って第2水平方向に延在する長孔である。4つの排水路34は、それぞれ1つずつ貫通孔35を有し、4つの貫通孔35は、それぞれ、平面視で矩形をなす型枠内中空部14の隅部近傍に設けられる。ここで「隅部近傍」とは、第2水平方向に延在する長辺の中点よりも長辺の端点に近い位置を指す。各々の長辺に2つずつ貫通孔35が設けられるが、各々の長辺に設けられた2つの貫通孔35の間には、排水路34が設けられておらず、下型枠材12を形成する素材で充実された充実部37が設けられている。2つの貫通孔35の間に設けられた充実部37の第2方向の長さは、各々の貫通孔35の第2方向の長さよりも長いことが好ましい。
【0040】
各々の排水路34において、排水溝36は、貫通孔35に対して第1水平方向の外方にずれて配置されて、貫通孔35に連通する2つの第1排水溝36aと、第1排水溝36aに対して第1水平方向の外方にずれて配置されて、第1排水溝36aに連通して下型枠材12の側面に至る3つの第2排水溝36bとを含む。2つの第1排水溝36aは、第1水平方向に延在し、第2水平方向に互いに離間している。3つの第2排水溝36bは、第1水平方向に延在し、第2水平方向に互いに離間しており、第1排水溝36aに対して部分的に第2水平方向にずれて配置される。換言すると、2つの第1排水溝36aと3つの第2排水溝36bは、互いに略千鳥状に配置されるとともに、それぞれの幅方向(第2水平方向)の端部近傍の部分が協働して、貫通孔35から下型枠材12の側面に至る第1水平方向に沿った空間を形成している。各々の第2排水溝36bの下型枠材12の側面に対する開口幅及び開口高さは、トップコンクリート7の構成材料の1つである粗骨材の最大寸法よりも小さいことが好ましい。各々の排水路34において、第1排水溝36a及び第2排水溝36bを組み合わせた排水溝36における第2水平方向の両端部は、貫通孔35の第2水平方向の両端部よりも、第2水平方向の内方に位置することが好ましい。
【0041】
床構造1の施工方法について説明する。プレキャストコンクリートの製造工場において、作業員は、ハーフPCa板4を製造する。下部コンクリート8の打設直後又は硬化前に、下型枠材12をハーフPCa板4の上面に配置する。コンクリートが硬化すると下型枠材12はハーフPCa板4に固定される。下型枠材12は、下部コンクリート8がまだ固まらないうちに釘等を用いてハーフPCa板4に固定されてもよい。作業員は、下部コンクリート8を構成するコンクリートの硬化後に、ばね部材28の下部を型枠凹部32に嵌め込み、錘29の凹部31にばね部材28の上部が受容されるように、錘29をばね部材28に取り付ける。次いで、作業員は、側部突条23及び中央突条25が側部溝24及び中央溝26に嵌るように、上型枠材13を下型枠材12に取り付ける。ボイド型枠材5、ばね部材28及び錘29が取り付けられたハーフPCa板4は、床構造1の施工現場に搬送される。なお、事前にばね部材28を下型枠材12の型枠凹部32にはめ込んでおき、下部コンクリート8の打設直後又は硬化前に、ばね部材28がはめ込まれた下型枠材12をハーフPCa板4の上面に配置し、下部コンクリート8の硬化後に、錘29及び上型枠材13を設置してもよい。下部コンクリート8の硬化前に錘29を設置すると下型枠材12が沈むため、錘29及び上型枠材13の設置は、下部コンクリート8の硬化後に行われることが好ましい。
【0042】
次に、ボイド型枠材5、ばね部材28及び錘29が取り付けられたハーフPCa板4は、施工現場の床構造1を製造すべき部分に配置される。ハーフPCa板4は、支保工(図示せず)によって下方から支持され、ハーフプレキャスト構造の梁(図示せず)間に架け渡される。作業員は、横方向に延在させるスラブ上端筋6を、複数のトップ筋10b間を直交するように配筋し、縦方向に延在させるスラブ上端筋6を、横方向に延在させた複数のスラブ上端筋6間に架け渡されるように配筋する。
【0043】
次に、作業員は、トップコンクリート7を打設するための型枠(図示せず)を設置し、梁の上部のコンクリートと一体にトップコンクリート7を打設する。トップコンクリート7の硬化後、作業員は、トップコンクリート7用の型枠及び支保工を解体する。
【0044】
ボイド型枠材5及び床構造1の作用効果について説明する。トップコンクリート7の打設前に、何らかの原因で型枠内中空部14に雨水等の水が浸入しても、その水は、傾斜面33及び排水路34を介して型枠内中空部14の外部に排出される。
【0045】
第2排水溝36bが第1排水溝36aに対して部分的に第2水平方向にずれて配置されるため、トップコンクリート7の打設時に、コンクリートのノロが排水溝36を逆流することが抑制される。
【0046】
下型枠材12が貫通孔35を有するため、トップコンクリート7の打設時にコンクリートの圧力によって、下型枠材12における第1水平方向を向いた側面が第1水平方向の内方に向かって変形しやすくなるという問題が生じるが、充実部37があることによって、その変形が抑制される。
【0047】
傾斜面33が、型枠内中空部14の短辺方向である第1水平方向に対して傾斜し、かつ第1水平方向の中間部分から第1水平方向の両側に向かって傾斜しているため、型枠内中空部14内に浸入した水の移動距離が短くなり、その水の排出が速やかに行われる。
【0048】
床構造1は、動吸振器3を備えるため、錘29が床の振動に共振することにより床衝撃音を抑制できる。排水路34の各々が、少なくとも部分的に動吸振器3に対して第2水平方向にずれて、すなわち第1水平方向に整合しないように、配置され、かつ、充実部37が、少なくとも部分的に動吸振器3に対して前記第1水平方向に整合しているため、トップコンクリート7の打設による下型枠材12の変形が、動吸振器3から離れた部分で生じる。このため、排水路34を設けたことによって生じる動吸振器3への影響を抑制することができる。
【0049】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。各々の排水路において、第1排水溝及び第2排水溝の数を増減させても良く、貫通孔と第1排水溝との間に、第1排水溝に対して第2水平方向に部分的にずれて(千鳥状に)配置されて貫通孔及び第1排水溝に連通する第3排水溝を設けても良い。型枠内中空部内に配置されるのは、動吸振器以外の装置、例えば、疲労センサー等であっても良い。ボイド型枠材は、建物の床スラブ以外のコンクリート構造体内、例えば、橋梁の歩道部のコンクリート床版内等に配置されても良い。第1水平方向と第2水平方向とは、90°以外の角度で交差していても良い。傾斜面は、貫通孔に向かうにつれて下方に向かうように傾斜していれば、第1水平方向に代えて、又は第1水平方向に加えて、第2水平方向に傾斜していても良い。
【符号の説明】
【0050】
1:床構造
2:床スラブ(コンクリート構造体)
3:動吸振器
5:ボイド型枠材
11:ボイド
12:下型枠材
13:上型枠材
14:型枠内中空部
15:底壁
33:傾斜面
34:排水路
35:貫通孔
36:排水溝
36a:第1排水溝
36b:第2排水溝
37:充実部