(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179777
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】細胞培養基材及びその製造方法、細胞挙動制御方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098911
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000132932
【氏名又は名称】株式会社タカギセイコー
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和也
(72)【発明者】
【氏名】中路 正
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG10
4B029GB04
4B029HA02
(57)【要約】
【課題】微細形状の均質性等の課題を解決し、種々の細胞に応じた細胞培養が可能な細胞培養基材及びその製造方法の提供を目的とする。また、当該細胞培養基材上で細胞の分化を抑制又は促進する細胞挙動制御方法を提供する。
【解決手段】培養表面に微細形状を有する細胞培養基材であって、前記微細形状は側部及び/又は底部が平坦面で構成された凹部を複数有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養表面に微細形状を有する細胞培養基材であって、
前記微細形状は側部及び/又は底部が平坦面で構成された凹部を複数有する、細胞培養基材。
【請求項2】
微細形状はストライプ状、メッシュ状、及びクレーター状から選択される1種である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
培養表面に微細形状を有する細胞培養基材の製造方法であって、
金型母材に加工層を積層し、前記加工層に微細形状の転写面となる微細加工を施した金型を昇温する工程と、前記金型を用いて細胞培養基材となる樹脂を射出成形する工程とを備える、細胞培養基材の製造方法。
【請求項4】
細胞の分化を抑制又は促進する方法であって、請求項1又は2に記載の細胞培養基材上で細胞を培養する、細胞挙動制御方法。
【請求項5】
前記細胞は骨髄間葉系幹細胞であり、骨分化を抑制する、又は、前記細胞は筋芽細胞であり、筋繊維分化を促進する、請求項4に記載の細胞挙動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養表面に微細形状を有する細胞培養基材及びその製造方法に関する。また、当該細胞培養基材上で細胞の分化を抑制又は促進する細胞挙動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養表面に微細形状を有する細胞培養基材が知られている。
例えば、特許文献1、2には、培養基材に加熱転写にて凹凸加工する、いわゆる熱ナノプリント法を用いた培養基材の製造方法が開示されているが、加熱転写用型と培養基材の接着を防止するためにフッ素系等の離型剤の使用が避けられず、頻繁に離型処理を施す必要があり、量産性や離型欠陥に対する課題があった。
特許文献3は、レーザー加工法を用いて培養表面に凹凸部を形成しているが、これは培養表面の一部に凹部を形成することで除去された部分が盛り上がって凸部が形成されるため、培養表面の表面粗さが粗く、凹凸部が不均質になりやすい。
【0003】
このように、従来の細胞培養基材は、微細形状の均質性等に課題があり、微細形状の種類が限られて、培養したい細胞に適さない場合が多かった。
また、微細形状が細胞の足場となり、培養速度や細胞と培地の接着強度等を変化させて、細胞の分化の抑制又は促進が可能な細胞培養基材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4507845号公報
【特許文献2】特許第7006634号公報
【特許文献3】特開2021-129501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微細形状の均質性等の課題を解決し、種々の細胞に応じた細胞培養が可能な細胞培養基材及びその製造方法の提供を目的とする。また、当該細胞培養基材上で細胞の分化を抑制又は促進する細胞挙動制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る細胞培養基材は、培養表面に微細形状を有する細胞培養基材であって、前記微細形状は側部及び/又は底部が平坦面で構成された凹部を複数有する。
ここで、凹部を形成する側部や底部が平坦面で構成されるとは、転写成形された面であることをいい、レーザー加工等による溶融による成形面でないことの趣旨である。
【0007】
本発明において、例えば、微細形状はストライプ状、メッシュ状、及びクレーター状から選択される1種であってもよい。
凹部深さは、細胞の直径以上であることが好ましい。
例えば、凹部深さは平均10μm以上で、凹部幅が平均10μm以上であってもよい。
【0008】
本発明の一態様として、培養表面に微細形状を有する細胞培養基材の製造方法であって、金型母材に加工層を積層し、前記加工層に微細形状の転写面となる微細加工を施した金型を昇温する工程と、前記金型を用いて細胞培養基材となる樹脂を射出成形する工程とを備える、細胞培養基材の製造方法であってもよい。
ここで、加工層は、金型母材よりも硬く、切削加工等により微細加工を容易にするために形成したものであり、射出成形により、同品質の細胞培養基材を安定的に、大量に得やすい。
例えば、金型温度約40~100℃、射出速度約20~300mm/s、保持圧力10~70Mpaであってもよい。
【0009】
本発明の一態様として、細胞の分化を抑制又は促進する方法であって、上記細胞培養基材上で細胞を培養する、細胞挙動制御方法であってもよい。
例えば、前記細胞は骨髄間葉系幹細胞であり、骨分化を抑制する、又は、前記細胞は筋芽細胞であり、筋繊維分化を促進するものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞培養基材の培養表面が微細形状の均質性等に優れ、種々の細胞に応じた細胞培養が可能である。また、細胞の分化を抑制又は促進した培養ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る微細形状の例を、模式図で示す。
【
図2】微細形状の例S1~S6を、部分断面拡大図で示す。
【
図3】微細形状の例M2~M6、及びCr3を、部分断面拡大図で示す。
【
図5】骨髄間葉系幹細胞MSCの配向性確認試験結果(S1~S6)を示す。
【
図6】骨髄間葉系幹細胞MSCの配向性確認試験結果(M2~M6)を示す。
【
図7】骨髄間葉系幹細胞MSCの細胞挙動制御試験(蛍光染色)結果(S1~S6)を示す。
【
図8】骨髄間葉系幹細胞MSCの細胞挙動制御試験(蛍光染色)結果(M2~M6)を示す。
【
図9】骨髄間葉系幹細胞MSCの細胞挙動制御試験(遺伝子発現量)結果(S1~S4)を示す。
【
図10】マウス筋芽細胞株C2C12細胞の配向性確認試験結果(S1~S6)を示す。
【
図11】マウス筋芽細胞株C2C12細胞の配向性確認試験結果(M2~M6)を示す。
【
図12】マウス筋芽細胞株C2C12細胞の細胞挙動制御試験(蛍光染色)結果(S1~S6)を示す。
【
図13】マウス筋芽細胞株C2C12細胞の細胞挙動制御試験(遺伝子発現量)結果(S1~S4)を示す。
【
図14】ヒト間葉系幹細胞MSCの脂肪細胞への分化挙動試験結果(Cr3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<細胞培養基材>
細胞培養基材は、細胞を培養可能な表面を有する基材をいい、本発明に係る細胞培養基材は、培養表面に微細形状を有する。
細胞培養基材の材質としては、所望の細胞を培養可能な材質であれば特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、環状オレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー等の樹脂が挙げられ、射出成形の容易性の観点からは、ポリスチレンが好ましい。
細胞培養基材の形態としては、例えば、プレート、シャーレ、フラスコ、チューブ、ボトル等が挙げられる。
【0013】
本発明に係る細胞培養基材は、微細形状として、培養表面に側部や底部が平坦面で構成された凹部を複数備える。
平坦面で構成された凹部とは、転写成形された面、例えば、射出成形で形成された面で構成された凹部をいう。
なお、成形後に親水性処理、疎水性処理、細胞培養に必要な処理等が施されてもよい。
【0014】
微細形状の例として、
図1にストライプ状、メッシュ状、クレーター状を示す。
複数の凹部は、一定の大きさで、一定の配置間隔で規則的に配置されていることが好ましい。
例えば、
図1のストライプ状のように、隣り合う凹部の底部と底部を隔てる凸部は、その上部が鋭角であることで、射出成形後に金型から細胞培養基材を取り出しやすい。
【0015】
図2に、ストライプ状の具体例を、部分断面拡大図で示す。
例えばS1は、底部Bが頂点、側部が平坦面である断面略三角形状の凹部であり、底部Bと凸部の上部Tがおよそ等間隔で順に配置されている。
「凹部深さ」とは、「底部Bから上部Tまでの深さ」をいい、
図2、3における「縦方向の矢印が示す値」を指す。
「凹部幅」とは、「隣り合う上部Tと上部Tの幅」又は「凹部の最大開口幅」をいい、底部Bと上部Tが等間隔で配置された場合には、「隣り合う底部Bと底部Bの幅」に等しい。
S1は、凹部深さが平均44μm、凹部幅が平均100μm、底部角度が平均90°の例である。
S2~S5は、S1のように底部Bと上部Tがおよそ等間隔で配置された例である。
S6は、底部Bが所定の幅を有して直線的な平坦面であり、底部Bと上部Tがおよそ一定の間隔で配置され、凹部深さが平均11μm、凹部幅が平均75μm(直線部Bは平均50μm)の例である。
【0016】
図3に、メッシュ状及びクレーター状の具体例を示す。
メッシュ状の例であるM2~M6は、凹部が平面視略正方形状で、底部(直線部)Bと上部Tがおよそ一定の間隔で配置されている。
例えばM2は、凹部深さが平均12μm、凹部幅が平均75μm(直線部Bは平均50μm)である。
クレーター状であるCr3は、底部Bを頂点とする転写成形で形成された円錐形状の凹部であり、凹部深さが平均121μm、凹部幅が平均240μmの例である。
【0017】
後述する細胞培養基材の製造方法により、凹部深さが約5μm以上の細胞培養基材を製造できる。
一態様として、細胞の分化を抑制又は促進しやすい細胞培養基材としては、凹部深さが細胞の直径以上であることが好ましい。
例えば、ストライプ状又はメッシュ状の微細形状上で、骨髄間葉系幹細胞の骨分化を抑制したい場合、骨髄間葉系幹細胞の直径が約20μm以上であるため、凹部深さは平均20μm以上が好ましい。
例えば、ストライプ状又はメッシュ状の微細形状上で、筋芽細胞の筋繊維分化を促進したい場合、筋芽細胞の直径が約10μm以上、分化成熟して筋繊維(多核細胞)になると約100μmであるため、凹部深さは平均10μm以上が好ましく、例えば、平均10~200μmであってもよい。
例えば、微細形状がストライプ状又はメッシュ状である細胞挙動を制御しやすい細胞培養基材は、凹部深さが平均10μm以上、平均10μm~200μmが好ましく、平均20μm~200μmがより好ましく、平均25μm~200μmがさらに好ましい。
例えば、クレーター状の微細形状上でスフェロイド培養したい場合には、凹部深さが平均50~400μm、好ましくは平均120~300μmであってもよい。
凹部幅は、凹部深さと同様に培養したい目的の細胞の直径以上であることが好ましく、例えば、平均10μm以上、平均10μ~400μmが好ましい。
例えば、ストライプ状の微細形状上で細胞挙動を制御したい場合には、凹部の底部は鋭角であることが好ましく、凸部の上部は鋭角、鈍角、半円状、台形状であってもよいが、鋭角であることが好ましい。
【0018】
微細形状の均質性の観点からは、凹部のばらつきは、凹部深さ平均値±10%以下であることが好ましく、±5%以下がより好ましく、±2.5%以下がさらに好ましい。
例えば、凹部深さが平均44μm、標準偏差(σ)1.0μmであれば、凹部のばらつきは、凹部深さ平均値±約2.3%である。
本発明者らは、同じ形状(例えば、S1の微細形状)を有する細胞培養基材を複数サンプルとして製造し、以下に詳細する試験(例えば、骨髄間葉系幹細胞MSCの細胞挙動制御試験、マウス筋芽細胞株C2C12細胞の細胞挙動制御試験等)において、複数サンプルで試験したところ、凹部深さ平均値±10%以下で、同じ形状の細胞培養基材間の細胞挙動がほほ同じであることを確認している。
【0019】
<細胞培養基材の製造方法>
一態様において、本発明は、金型母材に加工層を積層して微細加工を施した金型を昇温する工程と、前記金型を用いて細胞培養基材となる樹脂を射出成形する工程とを備える、細胞培養基材の製造方法に関する。
金型は、金型母材に加工層を積層し、この加工層を微細加工することで、細胞培養基材の培養表面に付与すべき微細形状の転写面を形成してあってもよい。
金型母材は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、ケイ素鋼、クロム鋼等のプラスチック金型用として使用されるものが好ましく、高強度で高硬度、耐久性に優れるステンレス鋼がより好ましく、溶製材又は焼結材のいずれであってもよい。
加工層は、金型母材よりも硬くすることで、微細加工を容易にするためのものであり、例えば、電解メッキ、無電解メッキ等のメッキ層であってもよく、微細加工は、例えば、ダイヤモンドバイトを用いた切削加工等であってもよい。
例えば、加工層の厚さが約150~300μmで、微細加工の深さは約15~200μmであってもよい。
なお、射出成形後に金型から細胞培養基材を取り出しやすくするために、表面処理を施してもよい。
【0020】
射出成形によるは微細加工の転写は、金型温度、射出速度、保持圧力の影響を大きく受ける。
例えば、ポリスチレン等の脆性な樹脂は、圧力をかけすぎると離型抵抗が大きくなり、離型欠陥を生じる可能性が高く、熱ナノプリント法のように離型剤の使用が一般的であるが、離型剤の使用は細胞培養において好ましくない。
一方で、圧力をかけないと転写性が低下してしまう。
成形品である細胞培養基材が微細形状の均質性に優れるためには、微細加工の転写性に優れることが重要である。
このような事情から、培養表面の微細形状の均質性に優れた細胞培養基材を射出成形により製造することが難しかった。
そこで、本発明者らは、最適な金型温度、射出速度、保持圧力を検討した。
なお、保持圧力は2次圧ともいう。
【0021】
例えば、金型を昇温する工程と、樹脂を射出成形する工程とを備える細胞培養基材の製造方法において、金型温度約40~100℃、射出速度約20~300mm/s、保持圧力10~70Mpa、好ましくは金型温度約80~100℃、射出速度約100~300mm/s、保持圧力30~70Mpa、より好ましくは金型温度約85~95℃、射出速度約180~220mm/s、保持圧力30~50Mpaであり、通常よりも金型温度を高温、射出速度を高速にすることが好ましい。
例えば、上記保持圧力の保持時間は約3~10秒であってもよい。
金型を昇温する工程は、例えば、金型サイクル加熱冷却法、金型表面加熱法のほか、金型温度調節器を用いて金型を一定の温度に保ってもよい。
樹脂を射出成形する工程は、高速射出により金型への過充填や破損などを招かないように、例えば、金型分割面やキャビティ、コア部分からのガス抜きにより、金型内を真空ポンプによる減圧状態にすることが好ましい。
【0022】
<細胞挙動制御方法>
一態様において、本発明は、細胞の分化を抑制又は促進する方法であって、上記細胞培養基材上で、細胞を培養する細胞挙動制御方法に関する。
細胞としては、間葉系幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、神経細胞等が挙げられ、上記細胞培養基材を用いることを除いては、公知の培養条件により培養することができる。
例えば、培地として10%ウシ胎児血清(FBS)、100units/mL Penicillin及び100μg/mL Streptomycinを含むDMEMを用いてもよく、例えば、培養温度が室温~40℃、好ましくは35~40℃であり、例えば、所定濃度の二酸化炭素下での培養であってもよく、例えば、骨髄間葉系幹細胞の骨分化を抑制した約30日間の培養、筋芽細胞の筋繊維分化を促進した約19日間の培養、ヒト間葉系幹細胞MSCの脂肪細胞への分化を促進した約12日間の培養などであってもよい。
例えば、骨分化の評価は公知の手法により行うことができ、例えば、アルカリフォスファターゼ(ALP)は骨芽細胞分化中期の指標、オステオプロテゲリン(OPG)は破骨細胞分化抑制因子、オステオカルシン(OC)は骨芽細胞分化終期の指標として知られており、これらの発現量が低いことで、骨髄間葉系幹細胞の分化が抑制されたと判断できる。
例えば、筋繊維分化の評価は公知の手法により行うことができ、例えば、筋繊維分化が進むことでMyoD、Myogenin(筋菅細胞で発現)、Dystrophin(筋繊維への最終成熟で発現)の発現量が順に上昇することが知られており、これらの発現量が高いことで、筋芽細胞の分化が促進されたと判断できる。
【実施例0023】
以下、本発明に係る細胞培養基材について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
〔細胞培養基材〕
金型は、ステンレス鋼(STAVAX、ウッデホルム)からなる金型母材に無電解Ni-Pメッキ処理後、メッキ層に切削加工機(芝浦機械UVM-450C、芝浦機械株式会社)を用いて所望の微細加工を施した。
金型温度を90℃に昇温した状態で、高速射出成形機(SE100-DU-HP、住友重機械株式会社)にて、ポリスチレン(G100C、PSジャパン株式会社)を射出速度200mm/s、保持圧力30~50Mpaに設定して、細胞培養基材を製造した。
なお、金型側の微細加工は、マイクロスコープ(VK-X250/260、キーエンス)を用いて、その形状を確認している。
【0025】
本実施例は、微細加工を変更することで、
図2、3に示す各微細形状の細胞培養基材(細胞培養基材S1~S6、M2~M6及びCr3)を製造した。
なお、各細胞培養基材は、それぞれ複数サンプル製造した。
図2、3に示す各凹部深さは、各サンプルにつき、複数箇所の凹部深さを測定し、平均値を算出したものである。
以下に、凹部深さの測定について、説明する。
上記製造方法にて、S1は18、S2~S4は各15、S5は20、S6は10以上、M2~M6は各10以上、Cr3は10サンプル製造した。
マイクロスコープ(VHX-7000、キーエンス、測定倍率2000倍)にて、凹部の底部Bと凸部の上部Tにフォーカス調整を行い、Z軸ステージの移動量を測定した。
各サンプルにつき、例えば
図4に示すように培養表面を25マスに区切り、S1~S4は13(
図4中、グレー色で示すマス)、S5~S6は25、M2~M6は25マス(各マスに対して縦横2カ所)、Cr3は10箇所の凹部深さを測定した。
例えば、S1は18サンプル×13マス=234の凹部深さを測定したことになる。
【0026】
凹部深さを測定することで、微細形状の均質性を確認した。
各細胞培養基材に対し、各サンプルの凹部深さの標準偏差(σ)を算出し、その平均値を求めた。
例えば、S1(σ)=1.0、S2(σ)=1.7、S3(σ)=2.2、S4(σ)=0.9、S5(σ)=6.4μmであった。
各細胞培養基材に対し、凹部深さの平均値及び上記標準偏差(σ)から凹部のばらつきを算出したところ、S1~S6、M2~M6及びCr3の全てにおいて、凹部深さ平均値±10%以下であった。
例えば、S1は凹部深さ平均値±約2.3%、S2は凹部深さ平均値±約4.3%、S3は凹部深さ平均値±約2.4%、S4は凹部深さ平均値±約7.5%、S5は凹部深さ平均値±約4.4%であった。
さらに、各細胞培養基材に対し、各サンプルの凹部深さの平均値を有意差検定(p<0.05)したところ、いずれの細胞培養基材でも、多くのサンプル間で有意差が認められなかった。
例えば、S1は18中13サンプル間で、S2は15サンプル間全てで、S3は15中13サンプル間で有意差がなかった。
【0027】
〔骨髄間葉系幹細胞MSCの配向性確認試験〕
各細胞培養基材(Dish、S1~S6及びM2~M6)の培養表面に、骨髄間葉系幹細胞MSC(継代数3)を播種し、10%FBSを含むDMEMで、37℃、5%CO2下で3日間培養後、0.25%Trypsin-1mM EDTA溶液(Nacali)を用いて、細胞を回収した。
以下、Dishとは、未加工培養表面を有するポリスチレン製細胞培養基材をいう。
各培養表面(10×10cm)に、骨髄間葉系幹細胞MSCを2.0×104cells/cm2で播種し、10%FBSを含むDMEMで、37℃、5%CO2下で7日間培養後、配向性を確認した。
配向性の確認は、カルセインAMを添加したDMEMを用いて蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0028】
図5にS1~S6、
図6にM2~M6の結果を示す。
ストライプ状では、原点0に近づくほど凹部に沿って細胞が配向し、メッシュ状では、Angle=45°、width/length=1に近づくほど細胞が凹部に四角形状に伸展、width/length=0.5は三角形状に伸展しているといえる。
図5から、ストライプ状では、S5が最も細胞の配向性が顕著であり、これは、凹部深さが深くなることで、細胞が隣接する凹部に移動することができないことに起因していると考えられる。
また、
図6から、メッシュ状の凹部に細胞が入り込み、側部に沿って細胞が配向する様子が認められた。
特にM4では、Angle=0°、width/length=0、又はAngle=45°、width/length=1付近にプロットが集積するような、1細胞がメッシュ状の凹部に納まっている分布がみられた。
【0029】
〔骨髄間葉系幹細胞MSCの細胞挙動制御試験〕
各細胞培養基材(Dish、S1~S6及びM2~M6)の培養表面(10×10cm)に、骨髄間葉系幹細胞MSCを2.0×10
4cells/cm
2又は4.0×10
4cells/cm
2播種し、10%FBSを含むDMEMで、37℃、5%CO
2下で7日間培養することで、細胞をセミコンフエントになるまで増幅させた。
その後、分化誘導培地として10%FBS、100nMのデキサメタゾン、50μMのL-アスコルビン酸-2-リン酸塩、10mMのグリセロ―ル-2-リン酸を含むDMEMに交換し、37℃、5%CO
2下で最大30日間培養した。
培養後、骨形成マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)を蛍光染色して観察した。
図7、8に、蛍光染色の結果を示す。
また、
図9に、S1~S4の逆転写DNAポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による分化マーカータンパク質の遺伝子発現量の結果を示す。
【0030】
ストライプ状では、
図7に示すようにS1、2、3、5で、Dishと比較して骨芽細胞への分化を抑制する傾向がみられた一方で、S4、6の凹部深さの浅い細胞培養基材では分化抑制効果が低かった。
これは、
図9に示すALP、OPG、OCの発現量からもわかる。
メッシュ状では、
図8に示すように特にM4で、Dishと比較して骨芽細胞への分化を抑制する傾向がみられた。
これは、凹部におよそ単個細胞で収まることで、細胞間相互作用が抑制されて分化が抑制されたと考えられる。
【0031】
〔マウス筋芽細胞株C2C12細胞の配向性確認試験〕
各細胞培養基材(Dish、S1~S6及びM2~M6)の培養表面に、マウス筋芽細胞株C2C12細胞(継代数2)を播種し、10%FBSを含むDMEM培地で、37℃、5%CO2下で3日間培養後、0.25%Trypsin-1mM EDTA溶液(Nacali)を用いて、細胞を回収した。
次に、各培養表面(10×10cm)に、マウス筋芽細胞株C2C12細胞を3.0×104cells/cm2で播種し、10%FBSを含むDMEM培地で、37℃、5%CO2下で3日間培養することによって配向性を確認した。
配向性の確認は、カルセインAMを含むDMEMを用いて蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0032】
図10にS1~S6、
図11にM2~M6の結果を示す。
骨髄間葉系幹細胞MSCでの結果のように、ストライプ状では、S5の配向性が顕著であった。
また、メッシュ形状では、M4で、およそ1細胞が収まる状態が認められた。
【0033】
〔マウス筋芽細胞株C2C12細胞の細胞挙動制御試験〕
各細胞培養基材(Dish及びS1~S6)の培養表面(10×10cm)に、マウス筋芽細胞株C2C12細胞を3.0×10
4cells/cm
2で播種し、10%FBSを含むDMEM培地で、37℃、5%CO
2下で1日間培養後、分化誘導培地として10%FBSの代わりに10%馬血清を含むDMEMに交換し、3日ごとに培地交換を行って、37℃、5%CO
2下で最長19日間培養した。
比較対象として、血清が含まれていない無血清DMEM培地での分化誘導も行った。
図12に蛍光染色の結果を、
図13にS1~S4の遺伝子発現量の結果を示す。
【0034】
図12、13から、S1、2、3でDystrophinの発現量が顕著に多かった。
S6では、凹部深さが細胞の直径に近い値であり、Dish(control)と比較してはDystrophinが発現したものの、細胞が寄り集まって培養表面上から剥離した可能性がある。
【0035】
〔ヒト間葉系幹細胞MSCの脂肪細胞への分化挙動試験〕
各細胞培養基材(Dish及びCr3)の培養表面(10×10cm)に、ヒト間葉系幹細胞MSCを2.0×10
4cells/cm
2で播種し、10%FBSを含むDMEMで、37℃、5%CO
2下で3日間培養後、分化誘導培地として10%FBS、1μMのデキサメタゾン、0.2mMのインドメタシン、0.5mMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン、10μg/mLインスリンを含むDMEMに交換し、3日ごとに培地交換を行って、37℃、5%CO
2下で最長12日間培養した。
培養後、オイルレッドOにより染色し、顕微鏡により観察することで、赤く染色された脂肪油滴の存在有無により、脂肪細胞への分化状態を評価した。
図14に、顕微鏡で観察した結果を示す。
【0036】
図14から、クレーター状の凹部内で細胞凝集塊の形成が始まり、その凝集塊において赤く染色された脂肪油滴の存在が多く観察された。
このことから、クレーター状の凹部に細胞を凝集塊させることで、脂肪細胞への分化を促進させられるといえる。