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特開2024-179790サーマルプリントヘッドおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179790
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
B41J2/335 101A
B41J2/335 101F
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098926
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城臺 憲人
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065HA05
2C065JA02
2C065JA15
2C065JF03
2C065JF11
2C065JF12
2C065JF16
2C065JF21
2C065JH02
2C065JH06
2C065JH08
2C065JH11
2C065JH19
(57)【要約】
【課題】高抵抗かつ耐久性に優れたサーマルプリントヘッドと、サーマルプリントヘッドの製造方法とを提供する。
【解決手段】サーマルプリントヘッド1は、第1基板部3aと第2基板部3bとによって構成されている。第1基板部3aでは、第1基板5と、発熱部13を含む発熱体11と、配線層21とを備えている。第1基板5には、凸条体7が形成されている。発熱部13を含む発熱体11は、凸条体7に絶縁膜9を介在させて、チタンとシリコンとの合金膜19によって形成されている。配線層21は、発熱部13を露出する態様で発熱体11に接触するように形成され、発熱体11への通電経路となる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸条体が形成された基板と、
前記凸条体に絶縁膜を介在させて、金属とシリコンとの合金によって形成された、発熱部を含む発熱体と、
前記発熱部を露出する態様で前記発熱体に接触するように形成され、前記発熱体への通電経路となる配線層と
を備えた、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記金属と前記シリコンとの前記合金は、チタンと前記シリコンとの前記合金、タングステンと前記シリコンとの前記合金、モリブデンと前記シリコンとの前記合金、コバルトと前記シリコンとの前記合金、ニッケルと前記シリコンとの前記合金およびタンタルと前記シリコンとの前記合金からなる群から選ばれるいずれかを含む、請求項1記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
露出した前記発熱部に接触する態様で、前記凸条体を覆うように形成された第1保護膜を備えた、請求項1記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記第1保護膜は、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜の少なくともいずれかを含む、請求項3記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記第1保護膜に接触する態様で形成され、前記第1保護膜の硬度よりも高い硬度を有する第2保護膜を備えた、請求項3記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記第2保護膜は、ビッカース硬度の値が少なくとも1000以上の硬度を有する、請求項5記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記第2保護膜は、炭化ケイ素およびチタンアルミナイトライドのいずれかを含む、請求項6記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記基板は、シリコン基板を含む、請求項1記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記配線層は、銅膜およびチタン膜を含む、請求項1記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
凸条体を有する基板を形成する工程と、
前記凸条体を覆うように絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に、シリコン膜と金属膜とを順次形成することによって積層膜を形成する工程と、
熱処理を施すことにより、前記積層膜における前記シリコン膜と前記金属膜とを反応させて前記金属膜を合金化し、発熱部を含む発熱体を形成する工程と、
前記発熱部を露出させる態様で前記発熱体に接触するように、前記発熱体への通電経路となる配線層を形成する工程と
を備えた、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記積層膜を形成する工程では、前記金属膜として、チタン、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルおよびタンタルからな群から選ばれるいずれかの前記金属膜が形成される、請求項10記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記熱処理の温度は、500℃~700℃である、請求項10記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項13】
露出した前記発熱部に接触する態様で、前記凸条体を覆うように第1保護膜を形成する工程を備えた、請求項10記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記第1保護膜に接触する態様で、前記第1保護膜の硬度よりも高い硬度を有する第2保護膜を形成する工程を備えた、請求項13記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドの一例が特許文献1に開示されている。サーマルプリントヘッドでは、抵抗体層が通電により発熱し、その熱が印刷用紙に伝達されることで印刷される。抵抗体層として、タンタルナイトライド(TaN)等の金属窒化膜等が適用されている。タンタルナイトライド等の金属窒化膜は、スパッタ法によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-166824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーマルプリントヘッドには、印刷用紙への印字の品質を向上させるために、高抵抗と耐久性とが求められている。
【0005】
本開示は、そのような開発のもとでなされたものであり、一つの目的は、高抵抗かつ耐久性に優れたサーマルプリントヘッドを提供することであり、他の目的は、そのようなサーマルプリントヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るサーマルプリントヘッドは、基板と、発熱部を含む発熱体と、配線層とを備えている。基板には、凸条体が形成されている。発熱部を含む発熱体は、凸条体に絶縁膜を介在させて、金属とシリコンとの合金によって形成されている。配線層は、発熱部を露出する態様で発熱体に接触するように形成され、発熱体への通電経路となる。
【0007】
本開示に係るサーマルプリントヘッドの製造方法は、以下の工程を備えている。凸条体を有する基板を形成する。凸条体を覆うように絶縁膜を形成する。絶縁膜上に、シリコン膜と金属膜とを順次形成することによって積層膜を形成する。熱処理を施すことにより、積層膜におけるシリコン膜と金属膜とを反応させて金属膜を合金化し、発熱部を含む発熱体を形成する。発熱部を露出させる態様で発熱体に接触するように、発熱体への通電経路となる配線層を形成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るサーマルプリントヘッドによれば、発熱部を含む発熱体は、凸条体に絶縁膜を介在させて、金属とシリコンとの合金によって形成されている。これにより、高抵抗かつ耐久性に優れたサーマルプリントヘッドが得られる。
【0009】
本開示に係るサーマルプリントヘッドの製造方法によれば、発熱部を含む発熱体を形成する工程では、シリコン膜と金属膜とを順次形成することによって形成された積層膜に、熱処理を施すことによって、シリコン膜と金属膜とを反応させて金属膜を合金化する。これにより、高抵抗かつ耐久性に優れたサーマルプリントヘッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係るサーマルプリントヘッドの一例を示す平面図である。
図2図2は、同実施の形態において、図1に示される点線枠DL1内の構造の一例を示す部分拡大平面図である。
図3図3は、同実施の形態において、図2に示される断面線III-IIIにおける断面構造を含む断面図である。
図4図4は、同実施の形態において、図1に示される点線枠DL2内の構造の一例を示す部分拡大斜視図である。
図5図5は、同実施の形態において、サーマルプリントヘッドの製造方法の一工程を示す部分断面図である。
図6図6は、同実施の形態において、図5に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図7図7は、同実施の形態において、図6に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図8図8は、同実施の形態において、図7に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図9図9は、同実施の形態において、図8に示される点線枠DL3内の構造を示す部分拡大断面図である。
図10図10は、同実施の形態において、図8または図9に示す工程の後に行われる工程を示す部分拡大断面図である。
図11図11は、同実施の形態において、図10に示す工程における部分断面図である。
図12図12は、同実施の形態において、図10または図11に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図13図13は、同実施の形態において、図12に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図14図14は、同実施の形態において、図13に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図15図15は、同実施の形態において、図14に示す工程の後に行われる工程を示す部分断面図である。
図16図16は、同実施の形態において、サーマルプリントヘッドの動作の一例を説明するための断面図である。
図17図17は、同実施の形態において、各種の金属とシリコンとの合金膜の比抵抗を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態に係るサーマルプリントヘッドの一例について説明する。サーマルプリントヘッドは、サーマルプリントヘッドとプラテンローラとの間に挟み込まれて搬送される印刷媒体に印刷を施すプリンタ装置に組み込まれている。印刷媒体としては、たとえば、バーコードシートまたはレシート等を作成するための感熱紙がある。
【0012】
図1図2および図3に示すように、サーマルプリントヘッド1は、発熱体11等が形成された第1基板部3aと、ドライバIC39が搭載された第2基板部3bとによって構成されている。ここでは、主として、第1基板部3aの構造について具体的に説明する。なお、説明の便宜上、図3では、第1基板部3aの断面構造に加えて、第2基板部3bの断面構造も併せて示されている。
【0013】
図1および図2に示すように、サーマルプリントヘッド1における第1基板部3aでは、発熱部13をそれぞれ含む複数の発熱体11と、複数の発熱体11のそれぞれに電気的に接続された複数の配線層21とが形成されている。複数の配線層21のそれぞれの一端側は、個別電極29に電気的に接続されている。個別電極29は、複数の発熱体11のそれぞれに対応するように配置されている。複数の配線層21のそれぞれの他端側は、共通電極31に電気的に接続されている。なお、図2では、図面の煩雑さを避けるために、個々の配線層21のパターンは示されていない。また、個別電極29が形成されている領域には、接地電極も併せて形成されている。
【0014】
第1基板部3aの構造について、より詳細に説明する。図3および図4に示すように、複数の発熱体11および複数の配線層21は、第1基板5の表面に形成されている。第1基板5として、ここでは、シリコン基板が適用されている。その第1基板5の表面には、突出した凸条体7が形成されている。凸条体7は、サーマルプリントヘッド1の長手方向(図1参照)に沿って延在するように形成されている。長手方向は、感熱紙等の印刷媒体の幅方向に対応する。凸条体7を含む第1基板5の表面を覆うように、たとえば、シリコン酸化膜等の絶縁膜9が形成されている。
【0015】
複数の発熱体11と複数の配線層21とは、凸条体7の表面に絶縁膜9を介在させて形成されている。複数の配線層21のそれぞれは、対応する発熱体11に接触する態様で発熱体11上に積層されている。複数の配線層21のそれぞれは、凸条体7の頂部を含む位置において、発熱体11を露出するように形成されている。発熱体11が露出した部分が発熱部13となる。発熱部13から発せられる熱によって、感熱紙(図示せず)に印刷が施されることになる。
【0016】
発熱体11は、金属とシリコンとの合金膜から形成されている。ここでは、発熱体11は、その一例として、チタンとシリコンとの合金膜から形成されている。後述するように、チタンとシリコンとの合金膜は、積層したチタン膜とシリコン膜とに熱処理を施し、チタン膜を合金化することで形成される。
【0017】
発熱体11の比抵抗値は、たとえば、数百μΩ・cm~2000μΩ・cm程度であり、1000μΩ・cm~2000μΩ・cm程度がより好ましい。配線層21は、発熱体11への通電経路として形成されている。配線層21は、チタン膜23と銅膜25との積層膜として形成されている。配線層21は、チタン膜23が発熱体11に接触するように形成されている。
【0018】
露出した発熱部13に接触する態様で、第1基板5を覆うように第1保護膜33が形成されている。第1保護膜33は、たとえば、シリコン窒化膜またはシリコン酸化膜等から形成されている。さらに、その第1保護膜33に接触する態様で、第1基板5を覆うように第2保護膜35が形成されている。なお、図4では、図面の煩雑さを避けるために、第1保護膜33と第2保護膜35とは、二点鎖線によって部分的に示されている。
【0019】
第2保護膜35は、たとえば、炭化ケイ素膜(SiC)またはタンタルアルミナイトライド膜(TaAlN)等から形成されている。第2保護膜35は、特に、凸条体7を覆うように形成されている。第2保護膜35は、第1保護膜33よりも高い硬度を有する高硬度の膜である。第2保護膜35は、ビッカース硬度の値が1000以上の硬度を有する。発熱体11と配線層21とが形成された第1基板5は、放熱板49に接触するように配置されている。放熱板49は、たとえば、アルミニウム等から形成されている。
【0020】
次に、サーマルプリントヘッド1における第2基板部3bについて簡単に説明する。第2基板部3bでは、第2基板37に、ドライバIC39(Integrated Circuit)が実装されている。ドライバIC39は、ワイヤ41を介して個別電極29と電気的に接続されている。第2基板37として、ここでは、PCB基板(Printed Circuit Board)が配置されている。第2基板37は、放熱板49に接触するように配置されている。
【0021】
さらに、ドライバIC39は、ワイヤ43とフレキシブルケーブル45とを介してコネクタ47に電気的に接続されている。コネクタ47は、プリンタ装置(図示せず)に電気的に接続されている。ドライバIC39、ワイヤ41およびワイヤ43は、樹脂材44によって覆われている。
【0022】
上述したサーマルプリントヘッド1では、特定の発熱部13(発熱体11)に電気的に接続されている配線層21に電流を流すことによって、その発熱部13が発熱し、その熱によって、感熱紙に印刷が施されることになる。
【0023】
次に、上述したサーマルプリントヘッド1の製造方法の一例について説明する。図5に示すように、まず、第1基板5を用意する、ここでは、第1基板5として、シリコン基板が適用される。
【0024】
次に、図6に示すように、第1基板5の表面に凸条体7を形成する。第1基板5の表面に、凸条体7が形成される領域を覆い、他の領域を露出するマスク層(図示せず)が形成される。次に、そのマスク層をエッチングマスクとして、たとえば、水酸化カリウム溶液(KOH)に浸漬することによって、露出した第1基板5の表面にエッチング処理が施されて、第1基板5の表面が後退する。その後、マスク層を除去することで、第1基板5の表面に凸条体7が形成される。
【0025】
次に、図7に示すように、第1基板5の表面に絶縁膜9を形成する。絶縁膜9として、ここでは、シリコン酸化膜が形成される。シリコン酸化膜は、たとえば、CVD法(Chemical Vapor Deposition)によって形成される。また、シリコン酸化膜を、第1基板5に熱処理を施すことによる熱酸化法によって形成してもよい。
【0026】
次に、図8に示すように、シリコン膜とチタン膜との積層膜18を形成する。図9に示すように、第1基板5の表面を覆うように、たとえば、スパッタ法によってシリコン膜15が形成される。次に、そのシリコン膜15を覆うように、スパッタ法によってチタン膜17が形成される。その後、必要に応じて、シリコン膜15とチタン膜17とを交互に形成することによって、積層膜18が形成される。シリコン膜15とチタン膜17とは、スパッタ装置(図示せず)内において交互に形成される。
【0027】
次に、図10に示すように、積層膜18に熱処理を施し、シリコンとチタンとを反応させることによって、チタンとシリコンとの合金膜19を形成する。熱処理の温度は、たとえば、500℃~700℃程度とされる。また、熱処理は、窒素雰囲気のもとで行われる。後述するように、熱処理の温度等を調整することによって、膜厚等の物理的な構造を変更することなく、発熱体11となるチタンとシリコンとの合金膜19の比抵抗を調整することができる。こうして、図11に示すように、絶縁膜9の表面に接触するように、発熱体11となるチタンとシリコンとの合金膜19が形成される。
【0028】
次に、図12に示すように、配線層となる導電膜27を形成する。まず、チタンとシリコンとの合金膜19に接触するように、たとえば、スパッタ法等によってチタン膜23が形成される。次に、チタン膜23に接触するように、たとえば、スパッタ法等によって銅膜25が形成される。こうして、チタン膜23と銅膜25との積層膜からなる導電膜27が形成される。
【0029】
次に、図13に示すように、導電膜27およびチタンとシリコンとの合金膜19にエッチング処理を施すことによって、配線層13と発熱体11とを形成する。導電膜27の表面に、配線層21となる領域を覆い、他の領域を露出するマスク層(図示せず)が形成される。次に、そのマスク層をエッチングマスクとして、導電膜27と、チタンとシリコンとの合金膜19とにエッチング処理を順次施すことにより、発熱体11と配線層21とが形成される。
【0030】
次に、発熱部13となる領域に位置する配線層21の部分を露出し、他の配線層21の部分を覆うマスク層(図示せず)が形成される。次に、そのマスク層をエッチングマスクとして、露出した配線層21の部分にエッチング処理を施すことにより発熱体11を露出させる。露出した発熱体11の部分が発熱部13となる。その後、個別電極29および共通電極31が形成される(図14参照)。
【0031】
次に、図14に示すように、露出した発熱部13に接触する態様で、第1基板5を覆うように第1保護膜33を形成する。第1保護膜33として、たとえば、CVD法によって、シリコン窒化膜が形成される。また、第1保護膜33として、シリコン酸化膜を形成するようにしてもよい。
【0032】
次に、図15に示すように、第1保護膜33に接触する態様で、第2保護膜35を形成する。まず、凸条体7を覆う第1保護膜33の部分を露出し、他の領域に位置する第1保護膜33の部分を覆うマスク層(図示せず)が形成される。次に、スパッタ法により、露出した第1保護膜33の部分とマスク層とを覆うように、たとえば、炭化ケイ素膜(SiC)が形成される。
【0033】
次に、露出した第1保護膜33の部分に形成された炭化ケイ素膜の部分を残して、マスク層等が除去される。こうして、感熱紙が接触することになる、凸条体7を覆う第2保護膜35が形成される。なお、第2保護膜35としては、炭化ケイ素膜の他に、たとえば、タンタルアルミナイトライド膜(TaAlN)を形成するようにしてもよい。
【0034】
その後、放熱板49に第1基板5と第2基板37とが取り付けられる。第2基板37に、ドライバIC39が実装される。ドライバIC39と、対応する個別電極29とがワイヤ41によって電気的に接続される。ドライバIC39とフレキシブルケーブル45とが、ワイヤ43によって電気的に接続される。ドライバIC39、ワイヤ41およびワイヤ43を封止するように、樹脂材44が形成される。こうして、図3に示すように、サーマルプリントヘッド1の主要部が完成する。
【0035】
次に、上述したサーマルプリントヘッド1の動作について説明する。図16に示すように、サーマルプリントヘッド1では、凸条体7(第2保護膜35)とプラテンローラ51との間に挟み込まれた感熱紙53が送り出されながら感熱紙53へ印刷が行われる。このとき、印刷に関する指令信号がドライバIC39に入力される。
【0036】
ドライバIC39は、入力された指令信号に基づき、対応する個別電極29と共通電極31とを介して、特定の発熱部13(発熱体11)に電気的に接続されている配線層21に電流を流す。配線層21に電流が流れることによって、その特定の発熱部13が発熱する。凸条体7(第2保護膜35)とプラテンローラ51との間に挟み込まれた感熱紙53が、その熱に反応することによって、感熱紙53に印刷が行われることになる。
【0037】
上述したサーマルプリントヘッド1では、発熱部13を含む発熱体11は、金属とシリコンとの合金膜から形成されており、ここでは、その一例として、チタンとシリコンとの合金膜19から形成されている。
【0038】
チタンとシリコンとの合金膜19は、シリコン膜15とチタン膜17との積層膜18を形成し、その積層膜18に熱処理を施し、チタン膜17を合金化することによって形成される。これにより、スパッタ法によりタンタルナイトライド膜等によって形成される、従来のサーマルプリントヘッドにおける抵抗層と比べると、発熱体11は、積層されたシリコン膜15とチタン膜17とに熱処理を施すことによって形成されることで、高抵抗かつ耐久性に優れたサーマルプリントヘッド1を得ることができる。
【0039】
また、積層膜18としては、スパッタ装置における同一の真空領域において、シリコン膜15とチタン膜17とを、それぞれ所望の複数回にわたって形成することができる。これにより、発熱体11としての耐久性をさらに向上させることができる。
【0040】
さらに、発熱体11が、積層膜18に熱処理を施すことによって形成されることで、発熱体11における抵抗値のばらつきを少なくすることができる。すなわち、発熱体11における抵抗値の分布を均一にすることができる。
【0041】
また、発熱体11として、チタンとシリコンとの合金膜19(金属とシリコンとの合金膜)を適用することで、たとえば、発熱体11の厚さまたは幅等の構造を変更することなく、発熱体11の比抵抗を所望の比抵抗に設定することができる。このことについて説明する。
【0042】
図17に、チタンとシリコンとの合金膜を含む複数の金属とシリコンとの合金膜について、熱処理温度に対する比抵抗の定性的なグラフ(傾向)を示す。図17における上段左側に示されているチタンとシリコンとの合金膜の場合、熱処理温度が高くなるにしたがい、比抵抗の値は徐々に小さくなり、ある温度を越えると比抵抗の値が急激に低下する傾向を示している。
【0043】
半導体製造工程において一般的に適用されている合金膜は、金属シリサイドと表現され、たとえば、配線材料として適用されている。このような金属シリサイドは、比抵抗の値が最も低くなる熱処理温度の下で形成される。図17における下段右側に示されているように、チタンシリサイド膜では、約800℃~900℃の温度条件の下で熱処理を施すことで、チタンシリサイド膜は、およそ15μΩ・cm程度の比抵抗(最小比抵抗)の値となる。
【0044】
一方、上述したサーマルプリントヘッド1において適用されるチタンとシリコンとの合金膜19は、発熱体11として、半導体製造工程において適用されているチタンシリサイド膜の比抵抗の値よりも、一桁以上高い比抵抗の値を有するように形成される。たとえば、約500℃~700℃の温度条件の下で熱処理を施すことで、チタンとシリコンとの合金膜は、約数百μΩ・cm~2000μΩ・cm程度の比抵抗の値となる。したがって、サーマルプリントヘッド1において適用されるチタンとシリコンとの合金膜19は、半導体製造工程において適用されているチタンシリサイド膜とは、材料として性質が異なっていることがいえる。
【0045】
このように、上述したサーマルプリントヘッド1では、サーマルプリントヘッド1の仕様に応じて、発熱体11の膜厚等の物理的な構造を変更することなく、熱処理温度を調整することによって、所望の比抵抗を有する発熱体11(チタンとシリコンとの合金膜)を形成することが可能になる。
【0046】
発熱体11となる金属とシリコンとの合金膜としては、チタンとシリコンとの合金膜の他に、たとえば、タングステンとシリコンとの合金膜、モリブデンとシリコンとの合金膜、コバルトとシリコンとの合金膜、ニッケルとシリコンとの合金膜、または、タンタルとシリコンとの合金膜を適用することができる。
【0047】
そのうち、ニッケルとシリコンとの合金膜、タングステンとシリコンとの合金膜およびコバルトとシリコンとの合金膜のそれぞれについて、図17に、熱処理温度に対する比抵抗の定性的なグラフ(傾向)を示す。また、コバルトとシリコンとの合金膜については、熱処理時間に対する比抵抗の定性的なグラフ(傾向)も併せて示す。
【0048】
これらの金属とシリコンとの合金膜を使用する場合においても、図17に示されている、それぞれの金属とシリコンとの合金膜の最小比抵抗の値よりも、一桁以上高い比抵抗の値を有するように、熱処理温度(または熱処理時間)を調整することで、発熱体11として適用することができる。
【0049】
また、金属とシリコンとの合金膜の材料を変更することによっても、発熱体11としての抵抗値を所望の抵抗値に合わせることができる。なお、モリブデンとシリコンとの合金膜およびタンタルとシリコンとの合金膜のそれぞれについても、熱処理温度を調整することによって、発熱体11としての所望の比抵抗の値を得ることができると考えられる。
【0050】
なお、実施の形態において説明したサーマルプリントヘッドについては、必要に応じて種々組み合わせることが可能である。また、凸条体が形成される基板としては、シリコン基板に限られるものではなく、たとえば、セラミック基板等も適用することができる。さらに、第2保護膜35としては、炭化ケイ素膜の他に、ビッカース硬度の値が、1000以上の膜を適用することが可能である。
【0051】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本開示は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0052】
本開示は、以下の態様を含む。
【0053】
(付記1)
凸条体が形成された基板と、
前記凸条体に絶縁膜を介在させて、金属とシリコンとの合金によって形成された、発熱部を含む発熱体と、
前記発熱部を露出する態様で前記発熱体に接触するように形成され、前記発熱体への通電経路となる配線層と
を備えた、サーマルプリントヘッド。
【0054】
(付記2)
前記金属と前記シリコンとの前記合金は、チタンと前記シリコンとの前記合金、タングステンと前記シリコンとの前記合金、モリブデンと前記シリコンとの前記合金、コバルトと前記シリコンとの前記合金、ニッケルと前記シリコンとの前記合金およびタンタルと前記シリコンとの前記合金からなる群から選ばれるいずれかを含む、付記1記載のサーマルプリントヘッド。
【0055】
(付記3)
露出した前記発熱部に接触する態様で、前記凸条体を覆うように形成された第1保護膜を備えた、付記1または2に記載のサーマルプリントヘッド。
【0056】
(付記4)
前記第1保護膜は、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜の少なくともいずれかを含む、付記3記載のサーマルプリントヘッド。
【0057】
(付記5)
前記第1保護膜に接触する態様で形成され、前記第1保護膜の硬度よりも高い硬度を有する第2保護膜を備えた、付記3または4に記載のサーマルプリントヘッド。
【0058】
(付記6)
前記第2保護膜は、ビッカース硬度の値が少なくとも1000以上の硬度を有する、付記5記載のサーマルプリントヘッド。
【0059】
(付記7)
前記第2保護膜は、炭化ケイ素およびチタンアルミナイトライドのいずれかを含む、付記6記載のサーマルプリントヘッド。
【0060】
(付記8)
前記基板は、シリコン基板を含む、付記1~7のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0061】
(付記9)
前記配線層は、銅膜およびチタン膜を含む、付記1~8のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0062】
(付記10)
凸条体を有する基板を形成する工程と、
前記凸条体を覆うように絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に、シリコン膜と金属膜とを順次形成することによって積層膜を形成する工程と、
熱処理を施すことにより、前記積層膜における前記シリコン膜と前記金属膜とを反応させて前記金属膜を合金化し、発熱部を含む発熱体を形成する工程と、
前記発熱部を露出させる態様で前記発熱体に接触するように、前記発熱体への通電経路となる配線層を形成する工程と
を備えた、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【0063】
(付記11)
前記積層膜を形成する工程では、前記金属膜として、チタン、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルおよびタンタルからな群から選ばれるいずれかの前記金属膜が形成される、付記10記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0064】
(付記12)
前記熱処理の温度は、500℃~700℃である、付記10または11に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0065】
(付記13)
露出した前記発熱部に接触する態様で、前記凸条体を覆うように第1保護膜を形成する工程を備えた、付記10~12のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0066】
(付記14)
前記第1保護膜に接触する態様で、前記第1保護膜の硬度よりも高い硬度を有する第2保護膜を形成する工程を備えた、付記13記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示は、サーマルプリントヘッドに有効に利用される。
【符号の説明】
【0068】
1 サーマルプリントヘッド、3a 第1基板部、3b 第2基板部、5 第1基板、7 凸条体、9 絶縁膜、11 発熱体、13 発熱部、15 シリコン膜、17 チタン膜、18 積層膜、19 チタンとシリコンとの合金膜、21 配線層、23 チタン膜、25 銅膜、27 導電膜、29 個別電極、31 共通電極、33 第1保護膜、35 第2保護膜、37 第2基板、39 ドライバIC、41、43 ワイヤ、44 樹脂材、45 フレキシブルケーブル、47 コネクタ、49 放熱板、51 プラテンローラ、53 感熱紙、DL1、DL2、DL3 点線枠。
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