(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179792
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ガス吸収分光装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20241219BHJP
G01N 21/39 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098928
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 悠太
(72)【発明者】
【氏名】真野 和音
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隼規
(72)【発明者】
【氏名】東條 公資
(72)【発明者】
【氏名】古宮 哲夫
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059GG02
2G059GG07
2G059GG09
2G059HH01
2G059JJ13
2G059JJ14
2G059JJ26
2G059JJ30
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】キャビティリングダウン分光法を用いてガス成分を計測するガス吸収分光装置において、フリンジノイズを低減する。
【解決手段】ガス吸収分光装置(1)は、ミラー(41,42)を含む共振器(40)と、共振器(40)に照射するためのレーザ光を発するレーザ光源(10)と、共振器(40)から取り出される光を検出する光検出器(60)と、共振器(40)と光検出器(60)との間の光路に配置される透過型の光拡散板(80)と、光検出器(60)の出力信号を用いて共振器(40)に存在するガス中の目的成分を計測するコントローラ(70)とを備える。光拡散板(80)は、光路において共振器(40)と対向する第1面と、光路において光検出器(60)と対向する第2面とを有する。第1面は平坦面であり、第2面は光を散乱する凹凸形状を有する非平坦面である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分を計測するガス吸収分光装置であって、
少なくとも2つのミラーを含む共振器と、
前記共振器に照射するためのレーザ光を発する光源と、
前記共振器から取り出される光を検出する光検出器と、
前記共振器と前記光検出器との間の光路に配置される少なくとも1つの板状の光透過部材と、
前記光検出器の出力信号を用いて前記共振器に存在するガス中の目的成分を計測する制御装置とを備え、
前記光透過部材は、
前記光路において前記共振器と対向する第1面と、
前記光路において前記光検出器と対向する第2面とを有し、
前記第1面および前記第2面の少なくとも一方は、光を散乱する凹凸形状を有する非平坦面である、ガス吸収分光装置。
【請求項2】
前記第2面は、前記非平坦面である、請求項1に記載のガス吸収分光装置。
【請求項3】
前記第1面は、前記光路に対して傾斜する平坦面である、請求項2に記載のガス吸収分光装置。
【請求項4】
前記第1面は、前記非平坦面である、請求項2に記載のガス吸収分光装置。
【請求項5】
前記制御装置は、キャビティリングダウン分光法を用いて前記ガス中の目的成分を計測する、請求項1~4のいずれかに記載のガス吸収分光装置。
【請求項6】
前記光源と前記共振器との間に配置され、前記光源からのレーザ光を前記共振器へ出力するオン状態と、前記光源からのレーザ光を前記共振器へ出力しないオフ状態とに切り替えられる切替器をさらに備え、
前記制御装置は、前記切替器が前記オン状態から前記オフ状態に切り替えられた後の前記光検出器の出力信号を用いて前記目的成分を計測する、請求項5に記載のガス吸収分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス吸収分光法の一種であるキャビティリングダウン分光法(CRDS:Cavity Ring-Down absorption Spectroscopy)を用いてガス中の目的成分の濃度を求めるためのガス吸収分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス吸収分光法の1つとして、キャビティリングダウン分光法(CRDS)が知られている。CRDSとは、高反射率ミラーを含んで構成された共振器(キャビティ)を用いてガスによる光吸収のための実効光路長を長くすることにより、当該ガスに含まれる目的成分の濃度を高感度に求める分光手法である。CRDSを用いたガス吸収分光装置について、例えば非特許文献1~3に開示されている。
【0003】
CRDSでは、共振器内に光(レーザ光)が蓄積された後に共振器に入力される光が遮断され、光を遮断した後に光共振器から漏れ出る光の減衰が光検出器によって測定される。測定されたデータから,光の減衰の時定数(リングダウン時間)を求めることで、共振器内のガス中に含まれる目的成分の濃度が計測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】技術資料「ガス中微量水分の高効率な計測技術に関する調査研究」、橋口幸治、産総研計量標準報告 Vol. 9,No. 2、2015年10月
【非特許文献2】"Development of a low-temperature cavity Ring-Down Spectrometer for the detection of CarBon-14", McCartt, Stanford University, July 2014
【非特許文献3】"Adjacent-resonance etalon cancellation in ring-down spectroscopy", Bradley M. Gibson, Optics Letters Vol. 43, Issue 14, pp. 3257-3260 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CRDSのように高反射率ミラーを用いたガス吸収分光測定では、共振器を構成する高反射率ミラーの反射面以外の面で反射した光が共振器内に戻ってくる戻り光により、いわゆるフリンジノイズが発生する場合がある。フリンジノイズの要因となる戻り光は、複数箇所で発生する可能性があり、感度を制限する要因の1つとなっている。
【0006】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、キャビティリングダウン分光法などの高反射率ミラーを用いたガス吸収分光装置において、フリンジノイズを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によるガス吸収分光装置は、ガス成分を計測するガス吸収分光装置であって、少なくとも2つのミラーを含む共振器と、共振器に照射するためのレーザ光を発する光源と、共振器から取り出される光を検出する光検出器と、共振器と光検出器との間の光路に配置される少なくとも1つの板状の光透過部材と、光検出器の出力信号を用いて共振器に存在するガス中の目的成分を計測する制御装置とを備える。光透過部材は、光路において共振器と対向する第1面と、光路において光検出器と対向する第2面とを有する。第1面および第2面の少なくとも一方は、光を散乱する凹凸形状を有する非平坦面である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、キャビティリングダウン分光法を用いてガス成分を計測するガス吸収分光装置において、フリンジノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ガス吸収分光装置の構成を模式的に示す図(その1)である。
【
図2】モード周波数を説明するための概念図である。
【
図3】比較例の構成における光路を模式的に示す図である。
【
図4】ガス吸収分光装置おける光路を模式的に示す図である。
【
図5】ベースラインの測定結果の一例を示す図(その1)である。
【
図6】ガス吸収分光装置の構成を模式的に示す図(その2)である。
【
図7】ベースラインの測定結果の一例を示す図(その2)である。
【
図8】ガス吸収分光装置の構成を模式的に示す図(その3)である。
【
図9】ガス吸収分光装置の構成を模式的に示す図(その4)である。
【
図10】ガス吸収分光装置の構成を模式的に示す図(その5)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さないものとする。
【0011】
<ガス吸収分光装置の構成>
図1は、本実施の形態によるガス吸収分光装置1の構成を模式的に示す図である。ガス吸収分光装置1は、試料ガスに含まれる目的成分による光吸収をキャビティリングダウン分光法(CRDS)により計測可能に構成される。
【0012】
ガス吸収分光装置1は、レーザ光源10と、AOM(Acousto-Optic Modulator、音響光学変調器)20と、共振器40と、光検出器60と、コントローラ70と、透過型の光拡散板80とを備える。
【0013】
レーザ光源10は、共振器40に照射するためのレーザ光を発する。レーザ光源10は、コントローラ70からの指令に従ってレーザ光の発振周波数を可変に構成されている。具体的には、レーザ光源10は、分布帰還型の量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)11と、レーザドライバ12とを含む。QCL11は、たとえば中心発振波数2200cm-1程度(波長4.5μm程度)のレーザ光を発する。レーザドライバ12は、コントローラ70からの指令に従ってQCL11に駆動電流を供給する。QCL11への駆動電流を変更することにより、QCL11の発振波数を0.2cm-1程度掃引することができる。
【0014】
AOM20は、レーザ光源10と共振器40との間の光路に設けられている。AOM20は、コントローラ70からの指令に従って、レーザ光源10から共振器40へのレーザ光の照射と遮断とを高速で切り替える光スイッチ(切替器)である。AOM20は、光を照射するためのオン指令がコントローラ70から印加されることによって、レーザ光源10からのレーザ光を共振器40に出力するオン状態となる。AOM20は、光を遮断するためのオフ指令がコントローラ70から印加されることによって、レーザ光源10からのレーザ光を共振器40に出力しないオフ状態となる。
【0015】
共振器40は、AOM20と光検出器60との間の光路に設けられている。共振器40は、試料ガスを密閉可能な容器(セル)を含んで構成され、計測開始前に試料ガスを内部に導入するための導入管44と、計測終了後に試料ガスを外部に排出するための排出管45とを有する。導入管44には導入バルブ46が設けられている。排出管45には排出バルブ47が設けられている。導入バルブ46および排出バルブ47の開閉もコントローラ70により制御可能である。
【0016】
さらに、共振器40の内部には、一対のミラー41,42が備えられる。ミラー41,42は、共振器40の内部において光が互いの間で反射するように対向して配置されている。各ミラー41,42には、共振器40の安定条件を満たし易くするため、凹面になったものが採用される。また、各ミラー41,42には、共振器40の外部に漏れ出す光が極めて微弱になるように高反射率(たとえば99.9%程度)のものが採用される。共振器40の共振器長(ミラー41,42間の光軸方向の距離)は、たとえば450mm程度である。なお、共振器40の内部に配置されるミラーの数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。つまり、光が互いの間で反射するようにミラーが配置された共振器であってもよいし、一方向に反射するようにミラーがリング状に配置された共振器であってもよい。
【0017】
ミラー42には、ピエゾ素子(圧電素子)43が配置されている。ピエゾ素子43は、コントローラ70からの指令に従って、共振器40を構成するミラー42を駆動することで、ミラー42を光軸方向に変位させる。これにより、共振器40の共振器長を変更することができる。したがって、レーザ波数に一致するように共振器長を可変させたり、また、共振器長に一致するようにレーザ波数を掃引したりすることができる。なお、ミラー42ではなくミラー41にピエゾ素子が配置されていてもよいし、ミラー41およびミラー42の両方にピエゾ素子が配置されていてもよい。
【0018】
光拡散板80は、共振器40と光検出器60との間の光路に設けられている。光拡散板80については後ほど詳しく説明する。
【0019】
光検出器60は、フォトダイオードまたはイメージセンサなどの光検出器である。光検出器60は、共振器40のミラー42から取り出されて光拡散板80を透過した微弱な光を共振器40の出力光として検出し、その検出結果を示す信号(検出信号)をコントローラ70に出力する。光検出器60には、たとえば液体窒素冷却InSb(インジウムアンチモン)検出器を採用することができる。
【0020】
コントローラ70は、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサ71と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ72と、入出力ポート(図示せず)とを含む。
【0021】
コントローラ70は、ガス吸収分光装置1を構成する各機器を制御する。具体的には、コントローラ70は、レーザ光の発振周波数を走査するための指令をレーザドライバ12に出力したり、上述のオン信号あるいはオフ信号をAOM20に出力したりする。コントローラ70は、試料ガスを共振器40の内部に導入するための指令を導入バルブ46に出力したり、試料ガスを共振器40の外部に排出するための指令を排出バルブ47に出力したりする。コントローラ70は、ミラー42を変位させるための電圧をピエゾ素子43に印加する。また、コントローラ70は、試料ガスに含まれる目的成分の濃度(絶対濃度)を光検出器60からの検出信号に基づいて算出するための各種データ処理を実行する。
【0022】
なお、コントローラ70は、機能毎に2以上のユニットに分割して構成されていてもよい。たとえば、コントローラ70は、各機器を制御するユニットと、各種データ処理を実行するユニットとに分割されていてもよい。
【0023】
<キャビティリングダウン分光法(CRDS)による測定原理>
ガス吸収分光装置1におけるキャビティリングダウン吸収分光法による測定原理について簡単に説明する。一般に、共振器には、共振器に照射される光の周波数が特定の周波数である場合に共振が生じるとの共振条件が存在する。以下、共振器40に照射されるレーザ光の周波数を「レーザ周波数」と称し、共振器40により共振が生じ得る光の周波数を「モード周波数」と称する。
【0024】
図2は、モード周波数を説明するための概念図である。
図2に示すように、モード周波数は所定の周波数間隔で複数存在する。以下、複数のモード周波数のうちの隣合う2つのモード周波数の間隔を「自由スペクトル間隔」(FSR:Free Spectral Range)と称する。
【0025】
レーザ周波数がいずれのモード周波数とも一致しない場合には、共振器40内に光のパワーは蓄えられない。一方、レーザ周波数がいずれかのモード周波数と一致すると、共振器40内に光のパワーが蓄えられる。
【0026】
コントローラ70は、レーザ光のパワーが共振器40内に十分に蓄積されたか否かを、光検出器60の出力信号(共振器40の出力光)によって判定する。コントローラ70は、共振器40の出力光が予め定められたしきい値に達した時に、レーザ光のパワーが共振器40内に十分に蓄積されたと判定して、AOM20にオフ信号を出力する。これにより、共振器40に入力される光がAOM20によって遮断される。そうすると、共振器40内に蓄えられていた光は、ミラー41とミラー42との間を多数回(通常、数千~数万回)往復する。この光は、ミラー41,42の間を往復するうちに、ミラー41,42の反射漏れによる損失、および試料ガス中の目的成分による吸収によって、徐々に減衰する。そのため、ミラー42から漏れ出る共振器40の出力光は、徐々に減衰する。CRDSでは、光が試料ガスを通過する距離(実行光路長)を共振器40を用いて長くすることで、目的成分による光吸収が極めて僅かであっても、その光吸収を検出できる。
【0027】
コントローラ70は、共振器40に入力される光をAOM20によって遮断した後の光検出器60の出力信号を「リングダウン信号」として取得し、取得されたリングダウン信号の減衰時定数を「リングダウン時間」として算出する。コントローラ70は、算出されたリングダウン時間から、試料ガスに含まれる目的成分の濃度を算出する。
【0028】
コントローラ70は、光検出器60の出力信号を例えば0.2μsec間隔で取得し、取得された光検出器60の出力信号からリングダウン時間を算出する。共振器40の内部にレーザ光を吸収するガス成分が存在しない時、リングダウン時間は、共振器40による減衰時定数となるため、概ね一定の値となる。一方、共振器40の内部にレーザ光を吸収するガス成分が存在する場合、リングダウン時間は、ガス成分の濃度に応じて変動する値となる。この点を利用して、目的成分の濃度を定量することができる。
【0029】
<フリンジノイズの低減>
CRDSのように高反射率ミラーを用いたガス吸収分光測定では、共振器40のミラー41,42の反射面以外の面で反射した光が共振器内に戻ってくる戻り光により、いわゆるフリンジノイズが発生する。
【0030】
図3は、比較例の構成における光路を模式的に示す図である。
図3には、本実施の形態に対する比較例として、ガス吸収分光装置1から光拡散板80を取り除いた構成における光路が示されている。
【0031】
図3に示されるように、共振器40の出力光30の一部は、光検出器60の受光面で反射して反射光31として共振器40に戻ってくる。反射光31が共振器40の内部に戻ってきた戻り光32は、共振器4内で迷光となる。その結果、吸収スペクトルのベースライン(共振器40内が真空であるときの光検出器60の出力結果)に、ノイズ(フリンジノイズ)が重畳し、分光精度が低下する可能性がある。
【0032】
以上の点に鑑み、本実施の形態によるガス吸収分光装置1においては、共振器40と光検出器60との間の光路に、透過型の板状の光拡散板80が設けられている。光拡散板80は、共振器40の出力光30を透過しつつ、光検出器60の受光面での反射光31を拡散するように構成されている。
【0033】
図4は、本実施の形態によるガス吸収分光装置1おける光路を模式的に示す図である。上述のように、光拡散板80は、共振器40と光検出器60との間の光路に設けられている。
【0034】
光拡散板80は、共振器40の出力光30の光路において、共振器40と対向する第1面と、光検出器60と対向する第2面とを有する。光拡散板80の第1面(共振器40側の面)は、光が散乱することなく透過する平坦面(フラット面)81である。光拡散板80の第2面(光検出器60側の面)は、光が散乱する微細な凹凸(表面粗さ)を有する非平坦面82である。非平坦面82の表面粗さ(凹凸サイズ)は、光が散乱する粗さであれば特に限定されるものではない。
【0035】
光拡散板80は、例えば、透明な板状ガラスの片面にサンドブラスト加工と呼ばれる加工を施すことで、片面に微細な凹凸をつけた不透明なガラス(すりガラス)とすることができる。
【0036】
本実施の形態によるガス吸収分光装置1においては、光検出器60の受光面で反射した反射光31の一部が、光拡散板80の非平坦面82において乱反射して拡散される。その結果、共振器40の内部に進入する戻り光32の量が減少するため、フリンジノイズが低減される。
【0037】
また、出力光30の一部は光拡散板80を透過することなく光拡散板80の平坦面81で反射するが、本実施の形態によるガス吸収分光装置1においては、光拡散板80の平坦面81が、出力光30の光路に直交する面に対して傾斜する状態で配置されている。そのため、平坦面81での反射光34が共振器40に戻ることを抑制し易くすることができる。これにより、フリンジノイズをより低減し易くすることができる。
【0038】
なお、共振器40と光検出器60との間の光路に光アイソレータを配置することによって戻り光32に由来するフリンジノイズを低減することも可能ではあるが、アイソレータは、光拡散板80(すりガラス等)と比べて、順方向の損失が大きく、かつ高価である。したがって、本実施の形態のように共振器40と光検出器60との間の光路に透過型の光拡散板80を設けることによって、低損失かつ安価にフリンジノイズを低減することができる。
【0039】
図5は、光拡散板を備えないガス吸収分光装置(比較例)を用いた場合のベースラインの測定結果の一例と、光拡散板80を備えるガス吸収分光装置1(本実施の形態)を用いた場合のベースラインの測定結果の一例とを示す図である。
図5において、横軸はレーザ光の波数を示し、縦軸は光検出器60の出力信号の測定強度を示す。
【0040】
光拡散板を備えない場合(比較例)においては、波数に対して周期的に比較的大きなフリンジノイズが重畳している。このフリンジノイズは、上述したように、共振器40を出た光の一部が光検出器60の受光面で反射して共振器40内に戻ってくる戻り光32の影響が大きいと考えられる。
【0041】
これに対し、光拡散板80を備える場合(本実施の形態)においては、フリンジノイズの大きさが軽減されていることが理解できる。これは、上述したように、光検出器60の受光面で反射した反射光の一部が光拡散板80によって拡散された結果、共振器40の内部に進入する戻り光32の量が減少したためと考えられる。
【0042】
以上のように、本実施の形態によるガス吸収分光装置1においては、共振器40と光検出器60との間の光路に、光透過型の光拡散板80が配置される。光拡散板80の第2面(光検出器60側の面)は、光を散乱する微細な凹凸を有する非平坦面82である。これにより、共振器40を出て光検出器60の受光面で反射した反射光の一部を光拡散板80で拡散させて、共振器40内に戻ってくる戻り光32の量を減少させることができる。その結果、フリンジノイズを低減することができる。
【0043】
<変形例1>
上述の実施の形態においては光拡散板80の第1面(共振器40側の面)を平坦面81とし、第2面(光検出器60側の面)を非平坦面82としたが、光拡散板80の第1面を非平坦面82とし、第2面を平坦面81とするようにしてもよい。
【0044】
図6は、本変形例1によるガス吸収分光装置1Aの構成を模式的に示す図である。ガス吸収分光装置1Aは、上述のガス吸収分光装置1の光拡散板80を、光拡散板80Aに置き換えたものである。光拡散板80Aの第1面(共振器40側の面)は非平坦面82であり、光拡散板80Aの第2面(光検出器60側の面)は平坦面81である。
【0045】
ガス吸収分光装置1Aにおいては、共振器40の出力光30の一部が、光拡散板80を透過することなく光拡散板80の非平坦面82で乱反射して散乱する。また、光検出器60の受光面で反射した反射光31の一部が、光拡散板80を透過することなく平坦面81で反射する。これにより、共振器40の内部に進入する戻り光32の量を減少させることができるため、フリンジノイズを低減することができる。
【0046】
図7は、光拡散板を備えないガス吸収分光装置(比較例)を用いた場合のベースラインの測定結果の一例と、光拡散板80Aを備えるガス吸収分光装置1A(本変形例1)を用いた場合のベースラインの測定結果の一例とを示す図である。
【0047】
光拡散板を備えない場合(比較例)においては、波数に対して周期的に比較的大きなフリンジノイズが重畳している。
【0048】
これに対し、光拡散板80Aを備える場合(本変形例1)においては、フリンジノイズの大きさが軽減されていることが理解できる。これは、上述したように、光拡散板80Aによる光の拡散および反射によって、戻り光32の量を減少させることができるためと考えられる。
【0049】
以上のように、共振器40と光検出器60との間の光路に、第1面(共振器40側の面)が非平坦面82であり、第2面(光検出器60側の面)が平坦面81である光拡散板80Aを配置するようにしてもよい。
【0050】
なお、本変形例1によるフリンジノイズと上述の実施の形態によるフリンジノイズとを比較した場合、前者の方が後者よりもやや大きい。これは、光検出器60の受光面で反射した戻り光32に加えて、光拡散板80Aの共振器40側の非平坦面82で散乱した光の一部が共振器40内に戻ったことによるものと考えられる。
【0051】
<変形例2>
上述の変形例1による光拡散板80Aの第1面(共振器40側の面)は非平坦面82であるが、この場合、必ずしも、光拡散板80Aの第1面が、出力光30の光路に直交する平面に対して傾斜していなくてもよい。
【0052】
図8は、本変形例1によるガス吸収分光装置1Bの構成を模式的に示す図である。ガス吸収分光装置1Bは、上述のガス吸収分光装置1Bの光拡散板80Aを、光拡散板80Bに置き換えたものである。
【0053】
光拡散板80Bの第1面(共振器40側の面)は非平坦面82であり、光拡散板80Bの第2面(光検出器60側の面)は平坦面81である。さらに、光拡散板80Bの第1面(非平坦面82)は、出力光30の光路に対して直交している。
【0054】
ガス吸収分光装置1Bにおいては、出力光30の一部が光拡散板80Bを透過することなく光拡散板80Bの第1面(非平坦面82)で乱反射して散乱する。光拡散板80Bの第1面(非平坦面82)で散乱した光の一部は共振器40内に戻るが、共振器40内に戻る光の量は、光拡散板80Bの第1面の傾斜角に関係なくほぼ一定と考えられる。そのため、本変形例2のように光拡散板80Bの第1面(非平坦面82)が出力光30の光路に対して直交している場合であっても、上述の変形例1と同様に、フリンジノイズを低減することができる。
【0055】
<変形例3>
上述の実施の形態においては光拡散板80の第1面(共振器40側の面)および第2面(光検出器60側の面)のうちの第2面のみを非平坦面82としたが、光拡散板の第1面および第2面の双方を非平坦面82としてもよい。
【0056】
図9は、本変形例3によるガス吸収分光装置1Cの構成を模式的に示す図である。ガス吸収分光装置1Cは、上述のガス吸収分光装置1の光拡散板80を、光拡散板80Cに置き換えたものである。光拡散板80Cは、第1面および第2面の双方が非平坦面82である。
【0057】
ガス吸収分光装置1Cにおいては、出力光30の一部が光拡散板80を透過することなく光拡散板80の第1面(非平坦面82)で乱反射して散乱するとともに、光検出器60の受光面での反射光31の一部も光拡散板80の第2面(非平坦面82)で乱反射して散乱する。その結果、共振器40内に戻ってくる戻り光32の量を減少させることができ、フリンジノイズを低減することができる。
【0058】
<変形例4>
上述の実施の形態においては光拡散板80の数が1つであるが、光拡散板80の数は2つ以上であってもよい。
【0059】
図10は、本変形例4によるガス吸収分光装置1Dの構成を模式的に示す図である。ガス吸収分光装置1Dは、共振器40と光検出器60との間の光路に、上述の光拡散板80を2つ配置したものである。ガス吸収分光装置1Dにおいては、2つの光拡散板80を配置したことにより、戻り光32をより多く低減することができる。その結果、フランジノイズをより低減することができる。
【0060】
[態様]
上述した実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0061】
(第1項) 本開示によるガス吸収分光装置は、ガス成分を計測するガス吸収分光装置であって、少なくとも2つのミラーを含む共振器と、共振器に照射するためのレーザ光を発する光源と、共振器から取り出される光を検出する光検出器と、共振器と光検出器との間の光路に配置される少なくとも1つの板状の光透過部材と、光検出器の出力信号を用いて共振器に存在するガス中の目的成分を計測する制御装置とを備える。光透過部材は、光路において共振器と対向する第1面と、光路において光検出器と対向する第2面とを有する。第1面および第2面の少なくとも一方は、光を散乱する凹凸形状を有する非平坦面である。
【0062】
第1項に記載のガス吸収分光装置においては、共振器と光検出器との間の光路に、少なくとも1つの光透過部材が配置される。光透過部材の第1面(共振器と対向する面)および第2面(光検出器と対向する面)の少なくとも一方は、光を散乱する凹凸形状を有する非平坦面である。これにより、共振器を出て光検出器の受光面で反射した反射光の一部を光透過部材の非平坦面で拡散させて、共振器内に戻ってくる戻り光の量を減少させることができる。その結果、フリンジノイズを低減することができる。
【0063】
(第2項) 第1項に記載のガス吸収分光装置において、第2面は、非平坦面である。
【0064】
第2項に記載のガス吸収分光装置においては、共振器を出て光検出器の受光面で反射した反射光の一部を光透過部材の第2面(光検出器と対向する面)で拡散させることによって、共振器内に戻ってくる戻り光の量を減少させることができる。
【0065】
(第3項) 第2項に記載のガス吸収分光装置において、第1面は、光路に対して傾斜する平坦面である。
【0066】
第3項に記載のガス吸収分光装置においては、共振器を出て光透過部材の第1面(共振器と対向する面)で反射した光が共振器に戻ることを抑制し易くすることができる。これにより、フリンジノイズをより低減し易くすることができる。
【0067】
(第4項) 第2項に記載のガス吸収分光装置において、第1面は、非平坦面である。
【0068】
第4項に記載のガス吸収分光装置においては、光透過部材の第1面および第2面の双方で光を散乱させることによって、共振器内に戻ってくる戻り光の量を減少させることができる。
【0069】
(第5項) 第1~4項のいずれかに記載のガス吸収分光装置において、制御装置は、キャビティリングダウン分光法を用いてガス中の目的成分を計測する。
【0070】
第6項に記載のガス吸収分光装置においては、キャビティリングダウン分光法を用いてガス中の目的成分を計測する場合のフリンジノイズを低減することができる。
【0071】
(第6項) 第5項に記載のガス吸収分光装置において、光源と共振器との間に配置され、光源からのレーザ光を共振器へ出力するオン状態と、光源からのレーザ光を共振器へ出力しないオフ状態とに切り替えられる切替器をさらに備える。制御装置は、切替器がオン状態からオフ状態に切り替えられた後の光検出器の出力信号を用いて目的成分を計測する。
【0072】
第6項に記載のガス吸収分光装置においては、切替器がオン状態からオフ状態に切り替えられた後の光検出器の出力信号に重畳するフリンジノイズを低減することができる。その結果、ガス中の目的成分を精度よく計測することができる。
【0073】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B,1C,1D ガス吸収分光装置、10 レーザ光源、11 量子カスケードレーザ、12 レーザドライバ、30 出力光、31,34 反射光、32 戻り光、40 共振器、41,42 ミラー、43 ピエゾ素子、44 導入管、45 排出管、46 導入バルブ、47 排出バルブ、60 光検出器、70 コントローラ、71 プロセッサ、72 メモリ、80,80A,80B,80C 光拡散板、81 平坦面、82 非平坦面。