(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179821
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】水素分離フィルター
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20241219BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241219BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20241219BHJP
B01D 71/12 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D53/22
B01D71/10
B01D71/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099029
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 智司
(72)【発明者】
【氏名】小暮 智也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 瑞樹
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA21
4D006HA41
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MB16
4D006MC02X
4D006MC03
4D006MC09
4D006NA31
4D006PB63
4D006PB66
(57)【要約】
【課題】十分な水素透過性能を有しながらも高い耐傷性を有する水素分離フィルターを提供する。
【解決手段】水素分離フィルターは、多孔質基材と、前記多孔質基材上に設けられた、パラジウム層及び前記パラジウム層に包埋された繊維を含む水素分離層と、前記水素分離層上に設けられた、パラジウムが付着した前記繊維を含むガス拡散層と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられた、パラジウム層及び前記パラジウム層に包埋された繊維を含む水素分離層と、
前記水素分離層上に設けられた、パラジウムが付着した前記繊維を含むガス拡散層と、
を含む水素分離フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素分離フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原料ガスを改質し、水素を生成する触媒機能を有する改質触媒層と、水素を選択的に透過させ分離する水素分離層と、前記改質触媒層の触媒と前記水素分離層の水素分離材料との反応を防止する反応防止層と、前記水素分離層の表面を保護する表面保護層と、を備えたことを特徴とする水素製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素分離フィルターは高い耐傷性を有することが望ましい。特許文献1に記載の水素製造装置においては、イットリア安定化ジルコニアを主成分とする表面保護層により水素分離層を保護している。しかし、このような表面保護層は、緻密で水素が透過しにくいため、水素製造装置の水素透過性能を低下させる。
【0005】
本開示は、十分な水素透過性能を有しながらも高い耐傷性を有する水素分離フィルターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の態様は以下のものを含む。
[態様1]
多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられた、パラジウム層及び前記パラジウム層に包埋された繊維を含む水素分離層と、
前記水素分離層上に設けられた、パラジウムが付着した前記繊維を含むガス拡散層と、
を含む水素分離フィルター。
【発明の効果】
【0007】
本開示の水素分離フィルターは、十分な水素透過性能を有しながらも高い耐傷性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る水素分離フィルターの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照して実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面において、説明の都合上、各部材の寸法比率及び形状が誇張され、実際の寸法比率及び形状とは異なる場合がある。
【0010】
本願において、「~を含む」及び「~を含有する」は追加の成分を含み得ることを意味し、「~からなる」及び「~から本質的になる」を包含する。「~から本質的になる」は、実質的に悪影響を及ぼさない追加の成分を含み得ることを意味する。「~からなる」は、記載される材料のみを含むことを意味するが、不可避の不純物を含むことを除外しない。
【0011】
図1に示される実施形態に係る水素分離フィルター1は、多孔質基材10と、多孔質基材10上に設けられた、パラジウム層60及びパラジウム層60に包埋された繊維50を含む水素分離層20と、水素分離層20上に設けられた、パラジウム70が付着した繊維50を含むガス拡散層30と、を含む。
【0012】
多孔質基材10は、第1面12及び第2面14を有する任意の形状、例えば、板状、シート状、筒状等の形状を有してよい。多孔質基材10は、第1面12から第2面14までつながった細孔(間隙)を有する。細孔は、第1面12において、パラジウム層60により閉塞可能な開口径、例えば数nmオーダーの大きさの開口径を有する。多孔質基材10は、シリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト等の多孔質材料から構成されてよい。
【0013】
水素分離層20は、多孔質基材10の第1面12上に設けられる。水素分離層20は、パラジウム層60及びパラジウム層60に包埋された繊維50からなる。パラジウム層60は、多孔質基材10の第1面12において細孔の開口を閉塞する、緻密な連続膜である。
【0014】
繊維50は、三次元網目状構造を有してよく、この三次元網目状構造は、数十μmオーダーの大きさの直径の細孔(間隙)を形成してよい。繊維50は、例えば、チタン繊維、カーボン繊維等であってよい。
【0015】
ガス拡散層30において、繊維50の表面にパラジウム70が付着している。繊維50及び繊維50に付着したパラジウム70はともに三次元網目状構造を形成する。この三次元網目状構造は、数十μmオーダーの大きさの直径の細孔(間隙)を形成してよい。この細孔を介して、ガス拡散層30内をガスが拡散することができる。
【0016】
実施形態に係る水素分離フィルター1は以下のようにして水素を選択的に分離する。水素分子を含む混合ガスが、ガス拡散層30に供給され、ガス拡散層30内を拡散する。混合ガス中の水素分子が、ガス拡散層30のパラジウム70の表面、又は水素分離層20のパラジウム層60の表面62に解離吸着し、水素原子が生成される。水素原子は、ガス拡散層30のパラジウム70内及び水素分離層20のパラジウム層60内に溶解して拡散する。水素原子は、水素分離層20と多孔質基材10の界面(すなわち多孔質基材10の第1面12)において再結合し、水素分子を形成する。水素分子は、多孔質基材10の細孔を通って多孔質基材10の第2面14に至り、水素分離フィルター1を離れる。このようにして、水素分離フィルター1により混合ガスから水素が選択的に分離される。
【0017】
水素分離層20(特にパラジウム層60)に傷が生じると、水素分離フィルター1の水素分離性能が損なわれる。実施形態に係る水素分離フィルター1では、ガス拡散層30により水素分離層20が保護されるため、水素分離層20に傷が生じにくい。そのため、実施形態に係る水素分離フィルター1は、高い耐傷性を有する。また、ガス拡散層30は、三次元網目状構造を有するため、特許文献1に記載されるようなイットリア安定化ジルコニアを主成分とする表面保護層と比べて、ガスの拡散抵抗が非常に小さい。そのため、水素分離フィルター1は、十分な水素透過性能を有する。また、実施形態に係る水素分離フィルター1では、耐傷性を持たせるために水素分離層20の厚さを大きく設定する必要がないため、パラジウムの使用量を節減できる。
【0018】
実施形態に係る水素分離フィルター1では、パラジウム層60の表面62だけでなく、ガス拡散層30のパラジウム70の表面においても水素分子が解離吸着する。ここで、ガス拡散層30の三次元網目状構造により、パラジウム70は大きな表面積を有する。そのため、水素分子の解離吸着が高効率に行われる。それゆえ実施形態に係る水素分離フィルター1は、高い水素分離効率を有する。
【0019】
実施形態に係る水素分離フィルター1の製造方法の一例を説明する。まず、多孔質基材10の第1面12に三次元網目状構造を有する繊維50からなるシート(繊維シート)を重ねて圧着する。得られた圧着体に、繊維シート側から、スパッタ、イオンプレーティング、蒸着等の物理気相蒸着(PVD)法によりパラジウムを堆積させる。それにより、繊維50の表面にパラジウム70が付着するとともに、多孔質基材10の第1面12上にパラジウム層60が形成される。パラジウム層60は、繊維シートの繊維50の一部を包埋し、水素分離層20を形成する。こうして、実施形態に係る水素分離フィルター1が製造される。
【0020】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(1)水素分離フィルターの作製
実施例
多孔質チタニア基板とチタン繊維シートを重ね合わせて圧着して圧着体を得た。この圧着体を、純Pdターゲットを備えるスパッタ装置の成膜室内に置いた。このとき、チタン繊維シートと純Pdターゲットを対向させた。圧着体の表面をArイオンエッチングにより清浄化した。次にPdをスパッタした。それにより、水素分離フィルターを得た。水素分離フィルターは、多孔質チタニア基板と、パラジウム層及びパラジウム層に包埋されたチタン繊維からなる水素分離層と、パラジウムが付着したチタン繊維からなるガス拡散層とをこの順で備えていた。
【0023】
比較例
多孔質チタニア基板を純Pdターゲットを備えるスパッタ装置の成膜室内に置いた。多孔質チタニア基板の表面をArイオンエッチングにより清浄化した。次にPdをスパッタした。それにより、水素分離フィルターを得た。水素分離フィルターは、多孔質チタニア基板と、多孔質チタニア基板上に形成されたパラジウム層からなる水素分離層とを備えていた。
【0024】
(2)水素分離性能評価
JIS K7126:2006(プラスチック及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法)に準拠して、ガスクロマトグラフ法により実施例及び比較例の水素分離フィルターの水素ガス透過度及び窒素ガス透過度(単位:mol・m-2・s-1・Pa-1)を測定した。実施例及び比較例の水素分離フィルターは、十分に高い水素ガス透過度と窒素ガス透過度の比(すなわち、水素ガス透過度/窒素ガス透過度。以下、単に「透過度比」という)を有していた。
【0025】
(3)耐傷性評価
実施例の水素分離フィルターのガス拡散層側の表面を、ISO20502:2005(ファインセラミック(アドバンスドセラミック、アドバンストテクニカルセラミック)-スクラッチテストによるセラミックコーティングの接着性の測定)に準拠してスクラッチした。比較例の水素分離フィルターの水素分離層(すなわちパラジウム層)側の表面も同様にスクラッチした。上記(2)と同様にして、スクラッチ後の水素分離フィルターの水素ガス透過度及び窒素ガス透過度を測定し、透過度比を求めた。実施例の水素分離フィルターは、十分に高い透過度比を有していたが、比較例の水素分離フィルターの透過度比は不十分であった。この結果から、実施例の水素分離フィルターは、比較例の水素分離フィルターと比べて高い耐傷性を有していたことが示された。
1:水素分離フィルター、10:多孔質基材、12:第1面、14:第2面、20:水素分離層、30:ガス拡散層、50:繊維、60:パラジウム層、70:パラジウム