(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179832
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】昇降圧コンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099042
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 雅文
(72)【発明者】
【氏名】池田 航介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730AS13
5H730AS17
5H730BB13
5H730BB14
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB88
5H730DD03
5H730DD16
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD41
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】複数のコンバータ回路(以下「回路」)が並列に接続された昇降圧コンバータにおいて、特定の回路への電流集中を抑制する。
【解決手段】各回路は、低電圧端、高電圧端、並列に接続されている上SW素子と下SW素子、リアクトルを備える。コントローラは次の処理を実行する。(1)低電圧端の目標電圧VLTに対応する指令デューティ比dutyTを決定する。(2)各回路に対して、dutyTの上SW駆動信号とその反転信号を上SW素子と下SW素子に与え、残りの回路を停止した状態で、低電圧端と高電圧端の電圧とVLTと制御周期SWtime01からデッドタイムずれDT(i)を求める。(3)各回路の補正値dutyC(i)=DT(i)/SWtime02を計算する。(4)各回路に対してデューティ比(dutyT+dutyC(i))を有する補正上SW駆動信号とその反転信号を上SW素子と下SW素子に与え、全ての回路を駆動する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に接続されているN個のコンバータ回路と、
N個の前記コンバータ回路を制御するコントローラと、
を備えており、
それぞれの前記コンバータ回路は、
低電圧端と、
高電圧端と、
前記高電圧端とグランド線の間に直列に接続されている2個のスイッチング素子であって、前記高電圧端に接続されている上スイッチング素子と、前記グランド線に接続されている下スイッチング素子と、
前記上スイッチング素子および前記下スイッチング素子の直列接続の中点と前記低電圧端との間に接続されているリアクトルと、
前記低電圧端と前記グランド線の間の電圧を計測する低電圧センサと、
前記高電圧端と前記グランド線の間の電圧を計測する高電圧センサと、
を備えており、
前記コントローラは、
(1)前記低電圧端の目標電圧VLTを実現するための前記上スイッチング素子に対する指令デューティ比dutyTを決定し、
(2)i番目の前記コンバータ回路に対して、前記指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号を前記上スイッチング素子に与えるとともに、前記上SW駆動信号を反転させた下SW駆動信号を前記下スイッチング素子に与えつつ、残りの前記コンバータ回路を停止した状態で、
dDT(i)={(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}×SWtime01
ただし、
i:1からNまでの自然数
dDT(i):i番目のコンバータ回路のデッドタイムずれ
VLS:低電圧センサの計測値
VHS:高電圧センサの計測値
SWtime01:電圧センサの計測値取得時の上SW駆動信号の制御周期
を計算し、
(3)i番目の前記コンバータ回路に対して、前記指令デューティ比dutyTにdDT(i)/SWtime02(ただし、SWtime02は、dDT(i)の算出後に前記コンバータ回路を駆動するときの上SW駆動信号の制御周期)を加えたデューティ比を有する補正上SW駆動信号を前記上スイッチング素子に与えるとともに前記補正上SW駆動信号を反転させた補正下SW駆動信号を前記下スイッチング素子に与えつつ、全ての前記コンバータ回路を同時並列に駆動する、
昇降圧コンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、複数のコンバータ回路が並列に接続された昇降圧コンバータに関する。各コンバータ回路は、低電圧端と高電圧端を有しており、低電圧端から高電圧端へ電圧を昇圧する機能と、高電圧端から低電圧端へ電圧を降圧する機能を備える。
【背景技術】
【0002】
昇降圧コンバータは、直列に接続された2個のスイッチング素子と、リアクトルを備える。2個のスイッチング素子は、高電圧端とグランドの間に接続される。説明の便宜上、高電圧端に接続されるスイッチング素子を上スイッチング素子と称し、グランドに接続されるスイッチング素子を下スイッチング素子と称する。リアクトルは、2個のスイッチング素子の直列接続の中点と低電圧端との間に接続される。上スイッチング素子のオンオフ動作が降圧動作に寄与し、下スイッチング素子のオンオフ動作が昇圧動作に寄与する。上スイッチング素子に所定のデューティ比の駆動信号を与え、その駆動信号の反転信号を下スイッチング素子に与えると、低電圧端と高電圧端の電圧比が一定となるように、低電圧端と高電圧端の電圧の状態に応じて昇圧動作と降圧動作が受動的に切り替わる。
【0003】
上スイッチング素子と下スイッチング素子が同時にオン状態になると、高電圧端とグランドが短絡する。短絡を防ぐため、一方のスイッチング素子がオンからオフ切り替わってから他方のスイッチング素子がオフからオンに切り替わる。2個のスイッチング素子が同時にオフとなる時間をデッドタイムと称する。デッドタイムを適切に選定しないと電圧変換効率が低下する。特許文献1には、デッドタイムを適宜に変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大電力を扱えるように、複数の昇降圧コンバータを並列に接続する場合がある。説明の便宜上、並列に接続された複数の昇降圧コンバータのそれぞれを以下ではコンバータ回路と称し、装置全体を昇降圧コンバータと称する。
【0006】
スイッチング素子の特性のばらつきにより、同じ駆動信号を与えてもデッドタイムはコンバータ回路ごとに異なることがある。並列に接続された複数のコンバータ回路においてデッドタイムが異なると、電流が複数のコンバータ回路に均等に分散せず、特定のコンバータ回路に電流が集中してしまうおそれがある。電流が集中したコンバータ回路ではスイッチング素子の劣化が進んでしまう。本明細書は、複数のコンバータ回路が並列に接続された昇降圧コンバータにおいて特定のコンバータ回路への電流集中を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する昇降圧コンバータは、並列に接続されているN個(Nは2以上の自然数)のコンバータ回路と、それらコンバータ回路を制御するコントローラを備える。それぞれのコンバータ回路は、低電圧端、高電圧端、上スイッチング素子および下スイッチング素子、リアクトル、低電圧センサ、高電圧センサを備える。上スイッチング素子と下スイッチング素子は高電圧端とグランド線の間に直列に接続されている。2個のスイッチング素子のうち、高電圧端に接続されている方を上スイッチング素子と称し、グランド線に接続されている方を下スイッチング素子と称する。リアクトルは、上スイッチング素子および下スイッチング素子の直列接続の中点と低電圧端との間に接続されている。低電圧センサは、低電圧端とグランド線の間の電圧を計測する。高電圧センサは、高電圧端とグランド線の間の電圧を計測する。低電圧センサは、N個のコンバータ回路で共通であってもよい。高電圧センサやリアクトルも、N個のコンバータ回路で共通であってもよい。
【0008】
コントローラは、以下の処理を実行する。(1)コントローラは、低電圧端の目標電圧VLTを実現するための上スイッチング素子に対する指令デューティ比dutyTを決定する。
【0009】
(2)コントローラは、i番目のコンバータ回路に対して、指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号を上スイッチング素子に与えるとともに、上SW駆動信号を反転させた下SW駆動信号を下スイッチング素子に与えつつ、残りのコンバータ回路を停止して次の(式1)でデッドタイムずれdDT(i)を計算する。
dDT(i)={(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}×SWtime01
・・・(式1)
ただし、
i:1からNまでの自然数
dDT(i):i番目のコンバータ回路のデッドタイムずれ
VLS:低電圧センサの計測値
VHS:高電圧センサの計測値
SWtime01:電圧センサの計測値取得時の上SW駆動信号の制御周期
【0010】
(3)コントローラは、i番目のコンバータ回路に対して、補正指令デューティ比dutyC(i)=dutyT+dDT(i)/SWtime02を算出する。ここで、SWtime02は、この補正指令デューティ比duty比dutyC(i)を用いてコンバータ回路を駆動するときの上SW駆動信号の制御周期である。
【0011】
次いで、コントローラは、補正指令デューティ比dutyC(i)を有する補正上SW駆動信号を上スイッチング素子に与えるとともに補正上SW駆動信号を反転させた補正下SW駆動信号を下スイッチング素子に与えつつ、全てのコンバータ回路を同時並列に駆動する。なお、「同時並列に駆動する」とは、全てのコンバータ回路の上スイッチング素子を同じタイミングでオンオフすること、あるいは、全てのコンバータ回路の上スイッチング素子を特定の位相差で順にオンすること、のいずれかでよい。
【0012】
(式1)の(VLT/VHS)は、デフォルトのデッドタイムを含む駆動信号を与えたときの理論上の昇圧比の逆数を意味する。(式1)の(VLS/VHS)は、実際の昇圧比の逆数を意味する。実際の昇圧比は、i番目のコンバータ回路で生じる実際のデッドタイムに影響される(デッドタイムが大きくなると、昇圧比の逆数は大きくなる)。(数1)の{(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}は、デフォルトのデッドタイムと実際のデッドタイムのずれに相当する。昇圧比はデューティ比に比例する。すなわち、{(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}は、デフォルトのデッドタイムと実際のデッドタイムのずれに相当するデューティ比を意味する。デッドタイムのずれに相当するデューティ比に制御周期SWtime01を乗じると、制御周期に現れるデッドタイムのずれdDT(i)が得られる。デッドタイムのずれdDT(i)を、新たな制御周期SWtime02で割ると、デッドタイムのずれdDT(i)を相殺するためのデューティ比補正値となる。SWtime02は、先のSWtime01と同じであってもよい。
【0013】
上記の処理によると、i番目のコンバータ回路に固有のデッドタイムとデフォルトのデッドタイムとのずれdDT(i)に応じて当初の指令デューティ比dutyTが補正される。補正されたデューティ比を含む駆動信号で各コンバータ回路を駆動することで、i番目のコンバータ回路に固有のデッドタイムのずれdDT(i)が相殺される。すなわち、全てのコンバータ回路が実質的に同じデッドタイムで動作する。その結果、それぞれのコンバータ回路に流れる電流が平均化される。従って特定のコンバータ回路への電流集中が抑えられる。
【0014】
なお、上SW駆動信号(下SW駆動信号)は、スイッチング素子をオンに保持するHIGH電位と、オフに保持するLOW電位の二値のPWM信号である。デューティ比は、制御周期SWtimeにおけるスイッチング素子のオン時間の割合で表される。
【0015】
また、「指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号を反転させた下SW駆動信号」は、より正確には、「指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号を反転させた信号の立ち上がりタイミング(LOW電位からHIGH電位に変化するタイミング)をデフォルトのデッドタイムの時間だけ後ろにずらした下SW駆動信号」である。例えば、制御周期SWtimeが100[msec]、指令デューティ比dutyTが40[%]でデフォルトのデッドタイムが2[msec]の場合、上SW駆動信号は、最初の40[msec]がHIGH電位で後半の60[msec]がLOW電位のPWM信号となる。下SW駆動信号は、最初の42[msec]がLOW電位で残りの58[msec]がHIGH電位のPWM信号となる。デフォルトのデッドタイムは上SW駆動信号の立下りタイミングと下SW駆動信号の立ち上がりタイミングの差に反映されるが、それぞれのコンバータ回路において実際に生じるデッドタイムはデフォルトのデッドタイムからずれる。(数1)のdDT(i)が、ずれに相当する。本明細書が開示する技術は、各コンバータ回路に固有のデッドタイムずれ(dDT(i))を特定する。そして、デッドタイムのずれに応じて指令デューティ比を補正する。そのような処理により、特定のコンバータ回路への電流集中を抑えることができる。
【0016】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】コントローラが実行するデッドタイムずれ特定処理のフローチャートである。
【
図3】ずれ特定後の昇降圧コンバータ駆動処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して実施例の昇降圧コンバータ2を説明する。実施例の昇降圧コンバータ2は、電気自動車100に搭載されている。
図1に、昇降圧コンバータ2の回路図と、電気自動車100のブロック図を示す。
【0019】
電気自動車100は、昇降圧コンバータ2のほかに、バッテリ101、インバータ102、走行用のモータ103、コントローラ104を備えている。電気自動車100は、モータ103で走行する。インバータ102が、バッテリ101の直流電力を交流電力に変換してモータ103へ供給する。インバータ102は、モータ103が逆駆動されて発電した交流の電力(回生電力)を直流電力に変換してバッテリ101へ供給することもできる。
【0020】
昇降圧コンバータ2は、バッテリ101とインバータ102の間に接続されている。昇降圧コンバータ2の低電圧端21がバッテリ101に接続され、高電圧端22がインバータ102に接続される。昇降圧コンバータ2は、双方向の電圧変換装置であり、バッテリ101の出力電圧を降圧してインバータ102へ供給する昇圧動作と、インバータ102から送られる直流の回生電力の電圧を降圧してバッテリ101へ供給する降圧動作を行うことができる。
【0021】
コントローラ104は、車速とアクセル開度とブレーキペダル踏込量からモータ103の目標出力を決定し、その目標出力が実現するように昇降圧コンバータ2とインバータ102を制御する。
【0022】
昇降圧コンバータ2の回路について説明する。昇降圧コンバータ2は、並列に接続された4個のコンバータ回路10a-10d、コンバータ回路10a-10dを制御するコントローラ20、電圧センサ18a、18bを備える。なお、
図1において、点線矢印線は信号線を表す。すなわち、コントローラ20はコンバータ回路10a-10dと通信を行うことができるとともに、バッテリ101とコントローラ104とも通信する。
【0023】
コンバータ回路10aについて説明する。コンバータ回路10aは、低電圧端11に印加された電圧を昇圧して高電圧端12から出力する昇圧機能と、高電圧端12に印加された電圧を降圧して低電圧端11から出力する降圧機能を有する。コンバータ回路10aはいわゆる双方向DC-DCコンバータである。4個のコンバータ回路10aが並列に接続された昇降圧コンバータ2も、双方向DC-DCコンバータである。4個のコンバータ回路10aを並列に接続することにより、昇降圧コンバータ2は大電力を扱える。
【0024】
コンバータ回路10aは、2個のスイッチング素子(上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15b)と、2個のダイオード16a、16bと、リアクトル14と、2個のコンデンサ17a、17bと、電流センサ19を備える。上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15bは、高電圧端12とグランド線13の間に直列に接続されている。上スイッチング素子15aが高電圧端12に接続されており、下スイッチング素子15bがグランド線13に接続されている。上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15bは、電圧変換用の素子であり、パワートランジスタと呼ばれることがある。上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15bの一例は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0025】
上スイッチング素子15aにダイオード16aが逆並列に接続されており、下スイッチング素子15bにダイオード16bが逆並列に接続されている。ダイオード16a、16bは、グランド線13から高電圧端12への電流は通すが逆方向には電流を通さない。
【0026】
リアクトル14は、2個のスイッチング素子15a、15bの直列接続の中点と、低電圧端11の間に接続されている。コンデンサ17aは、低電圧端11とグランド線13の間に接続されており、コンデンサ17bは高電圧端12とグランド線13の間に接続されている。コンデンサ17a、17bは、コンバータ回路10aに流れる電流の脈動を抑えるために備えられている。
【0027】
電圧センサ18aは、低電圧端11の電圧(低電圧端11とグランド線13の間の電圧)を計測する。電圧センサ18bは、高電圧端12の電圧(高電圧端12とグランド線13の間の電圧)を計測する。電流センサ19はリアクトル14に流れる電流(すなわちコンバータ回路10aに流れる電流)を計測する。電圧センサ18a、18b、電流センサ19の計測データはコントローラ20に送られる。
【0028】
上スイッチング素子15aを適宜にオンオフすると、高電圧端12に印加された電圧が降圧されて低電圧端11から出力される。下スイッチング素子15bを適宜にオンオフすると、低電圧端11に印加された電圧が昇圧されて高電圧端12から出力される。上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15bは、スイッチング素子をオンに保持するHIGH電位と、オフに保持するLOW電位の二値が繰り返されるPWM信号(パルス幅変調信号)で駆動される。説明の便宜上、上スイッチング素子15aを駆動するためのPWM信号を以下では上SW駆動信号と称する場合があり、下スイッチング素子15bを駆動するためのPWM信号を以下では下SW駆動信号と称する場合がある。また、上SW駆動信号と下SW駆動信号を区別せずに表す場合には単純に「駆動信号」と表記する場合がある。
【0029】
コントローラ20は、所定の周期の駆動信号を生成する。駆動信号の制御周期を記号「SWtime」で表す。駆動信号の一制御周期においてHIGH電位に保持される割合はデューティ比と呼ばれる。デューティ比の単位はパーセントである。
【0030】
コントローラ20は、まず上SW駆動信号を生成する。コントローラ20は、上SW駆動信号を反転させた信号を下SW駆動信号として生成する。より正確には、コントローラ20は、上SW駆動信号を反転させた信号において、電位がLOWからHIGHへ切り替わるタイミングを、上SW駆動信号の電位がHIGHからLOWに切り替わってから所定のデフォルトデッドタイムだけ後ろにずらして下SW駆動信号を生成する。上SW駆動信号を反転させた信号のLOWからHIGHに切り替わるタイミングは、当初は、上SW駆動信号において電位がHIGHからLOWに切り替わるタイミングに一致する。コントローラ20は、反転させた信号において電位がLOWからHIGHへ切り替わるタイミングをデフォルトデッドタイムだけ後ろへずらす。この処理により、上スイッチング素子15aがオンからオフに切り替わってからデフォルトデッドタイム後に下スイッチング素子15bがオフからオンに切り替わるようになる。デフォルトデッドタイムは、上スイッチング素子15aと下スイッチング素子15bがともにオンになって高電圧端12がグランド線13と短絡状態となることを防ぐために導入される。
【0031】
コンバータ回路10aで実際に生じるデッドタイム(実デッドタイム)は、コンバータ回路10aの物理的特性に依存する。そこでコントローラ20は、コンバータ回路10aにおいてデフォルトデッドタイムと実デッドタイムのずれを特定し、このずれに基づいた補正値でコンバータ回路10aへの指令値を補正する。デッドタイムずれ特定処理と、指令値の補正処理は後に説明する。
【0032】
下SW駆動信号として上SW駆動信号の反転信号(デッドタイム考慮後の反転信号)を用いると、コンバータ回路10aは、低電圧端11と高電圧端12の電圧比が一定となるように動作する。この電圧比は、デューティ比で定まる。デューティ比で定まる電圧比を以下では目標電圧比と称する。コンバータ回路10aの実際の電圧比(高電圧端の電圧/低電圧端の電圧)が目標電圧比よりも高ければ高電圧端12から低電圧端11へ向けて電流が流れる。逆に、実際の電圧比が目標電圧比よりも低ければ低電圧端11から高電圧端12へ向けて電流が流れる。コンバータ回路10aは、アクセル開度とブレーキペダル踏込量が頻繁に変化し、加速と減速を繰り返す電気自動車に特に有効な回路である。
【0033】
コンバータ回路10b-10dの回路構成はコンバータ回路10aと同じであるので説明は割愛する。4個のコンバータ回路10a-10dの低電圧端11と高電圧端12は、それぞれ、昇降圧コンバータ2の低電圧端21と高電圧端22に接続されている。すなわち、4個のコンバータ回路は並列に接続されている。
【0034】
コントローラ20は、4個のコンバータ回路10a-10dを同時並列に駆動する。4個のコンバータ回路10a-10dを同時並列に駆動することで、昇降圧コンバータ2は大電力を扱える。コントローラ20は、4個のコンバータ回路10a-10dの上スイッチング素子15aを同じタイミングでオンオフしてもよいし、位相をずらしてオンオフしてもよい。
【0035】
電気自動車100のコントローラ104が、車速とアクセル開度とブレーキペダル踏込量に応じてモータ103の目標出力を決定する。目標出力は昇降圧コンバータ2のコントローラ20に送られる。コントローラ20は、目標出力から昇降圧コンバータ2の目標昇圧比を決定する。次いでコントローラ20は、目標昇圧比から各コンバータ回路10a-10dの指令デューティ比を決定し、その指令デューティ比に基づいて上SW駆動信号と下SW駆動信号を生成する。詳しくは後述するが、駆動信号にはデフォルトデッドタイムが反映される。しかしながら、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれで実際に生じる実際のデッドタイムはデフォルトデッドタイムからずれる。複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれで物理特性が少しずつばらつくからである。コントローラ20は、各コンバータ回路で実際に生じる実デッドタイムとデフォルトデッドタイムの間のずれを特定する。コントローラ20は、特定したデッドタイムずれに基づいて上SW駆動信号と下SW駆動信号を補正する。この補正により、複数のコンバータ回路に均等に電流が流れ、特定のコンバータ回路への電流集中が抑制される。
【0036】
図2に、コントローラ20が実行するデッドタイムずれ特定処理のフローチャートを示す。
図2を参照しつつ、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれのデッドタイムずれを特定する処理を説明する。実施例の昇降圧コンバータ2では4個のコンバータ回路10a-10dが並列に接続されている。
図2ではより一般的に、並列に接続されたコンバータ回路の数を記号「N」で表している。Nは2以上の自然数であればよい。
【0037】
コントローラ20は、特定のコンバータ回路(i番目のコンバータ回路)のみを駆動し、他のコンバータ回路を停止した状態で、特定のコンバータ回路のデッドタイムずれを特定する。1個のコンバータ回路に過大な電流が流れないように、コントローラ20は、まず、昇降圧コンバータ2に流れる最大電流を制限する(ステップS12)。具体的にはコントローラ20は、バッテリ101の出力電流が所定の制限値を超えないように、バッテリ101へ指令を送る。
【0038】
次にコントローラ20は、昇降圧コンバータ2の低電圧端21(すなわち各コンバータ回路の低電圧端11)の目標電圧VLTを決定する。そして、コントローラ20は、目標電圧VLTを実現するための指令デューティ比dutyTを決定する(ステップS13)。
【0039】
ステップS14からS18までは、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれに対して実行される。
図2の記号「i」は、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれを表すための序数である。i=1は、第1番目のコンバータ回路10aを指し、i=2は第2番目のコンバータ回路10bを指す。i=3、i=4も同様である。ステップS17の記号「N」は、コンバータ回路10a-10dの総数を意味する。実施例の昇降圧コンバータ2は、4個のコンバータ回路10a-10dを有しているのでN=4である。
【0040】
コントローラ20は、第i番目のコンバータ回路を駆動し、その他のコンバータ回路は停止する(ステップS15)。ここで、コントローラ20は、指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号をi番目のコンバータ回路の上スイッチング素子15aに与え、上SW駆動信号を反転させ、さらにデフォルトデッドタイムを考慮した下SW駆動信号を下スイッチング素子15bに与える。なお、前述したように、デフォルトデッドタイムを考慮した下SW駆動信号とは、上SW駆動信号を反転させた信号においてLOW電位からHIGH電位へ立ち上がるタイミングを所定のデフォルトデッドタイムだけ遅らせた信号である。
【0041】
コントローラ20は、i番目のコンバータ回路のスイッチング素子15a、15bのそれぞれに前述した上SW駆動信号と下SW駆動信号を与えつつ、次の(式1)によってi番目のコンバータ回路のデッドタイムずれdDT(i)を特定する(ステップS16)。
【0042】
dDT(i)={(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}×SWtime01
・・・(式1)
ただし、
dDT(i):デフォルトデッドタイムと、i番目のコンバータ回路の実際のデッドタイムとのずれ
VLS:電圧センサ18aの計測値
VHS:電圧センサ18bの計測値
SWtime01:電圧センサの計測値取得時の駆動信号の制御周期
である。
【0043】
コントローラ20は、4個のコンバータ回路10a-10dのそれぞれについて、デッドタイムずれdDT(i)を算出する(ステップS17:NO、S18、S15)。なお、
図2の記号「i」は1から4の自然数のいずれかである。
【0044】
全てのコンバータ回路10a-10dのデッドタイムずれdDT(i)が求まったら、コントローラ20は、
図2の処理を終了する。なお、
図2では省略しているが、最後にコントローラ20は、ステップS12で加えた電流制限を解除する。
【0045】
図2のデッドタイムずれ特定処理は、定期的に、あるいは、所定の条件が成立したときに実行される。所定の条件とは、例えば、車速が低いとき(モータ103の目標出力が小さいとき)など、昇降圧コンバータ2に流れる電流が低くなる条件であることが好ましい。
【0046】
通常の走行中は、コントローラ20は、
図3の駆動処理で昇降圧コンバータ2を駆動する。コントローラ20は、コントローラ104から送られる目標出力(モータ103の目標出力)に基づいて、昇降圧コンバータ2の低電圧端21の目標電圧VLTを決定する。さらに、コントローラ20は、目標電圧VLTを実現するための指令デューティ比dutyTを決定する(ステップS22)。次いで、コントローラ20は、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれに対して、補正指令デューティ比dutyC(i)を算出する(ステップS23)。ここで、補正指令デューティ比dutyC(i)=dutyT+dDT(i)/SWtime02である。SWtime02は、この補正指令デューティ比dutyC(i)を用いて各コンバータ回路を駆動する際の上SW駆動信号の制御周期を意味する。SWtime01とSWtime02は同じであってもよい。
【0047】
補正上SW駆動信号は、指令デューティ比dutyTにデューティ比補正値(すなわち、dDT(i)/SWtime02)を加えたデューティ比を有する駆動信号である。補正上SW駆動信号は、HIGH電位が保持される時間が(SWtime02×(dutyT+dDT(i)/SWtime02))であり、LOW電位が保持される時間が{SWtime02×(1-(dutyT+dDT(i)/SWtime02))}であるパルス幅変調信号である。
【0048】
また、補正下SW駆動信号は、補正上SW駆動信号を反転させた信号である。より正確には、補正下SW駆動信号は、補正上SW駆動信号を反転させ、さらにその反転信号においてLOW電位からHIGH電位の立ち上がりタイミングをデフォルトデッドタイムだけ遅らせた信号である。
【0049】
コントローラ20は、ステップS23で生成した補正上SW駆動信号と補正下SW駆動信号で4個のコンバータ回路10a-10dを同時並列に駆動する(ステップS24)。「同時並列」の意味は前述した通りである。
【0050】
図2の処理により、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれに対して適正なデッドタイムずれdDT(i)が特定される。そして
図3の処理により、複数のコンバータ回路10a-10dのそれぞれに対して、デッドタイムずれdDT(i)に基づいて補正された駆動信号が供給される。その結果、複数のコンバータ回路で実際のデッドタイムが同じになる。そして、複数のコンバータ回路において流れる電流が平準化され、特定のコンバータ回路に電流が集中してしまうことが回避される。
【0051】
(式1)の意味を説明する。右辺第1項の(VLS/VHS)は、コンバータ回路の低電圧端11の実際の電圧VLSと高電圧端12の実際の電圧VHSの比である。右辺第2稿の(VLT/VHS)は、低電圧端11の目標電圧VLTと、高電圧端12の実際の電圧VHSの比である。デッドタイムが大きいほど、低電圧端11の電圧と高電圧端12の電圧の差が小さくなる。右辺第2項(VLT/VHS)は、指令デューティ比dutyTの駆動信号(デフォルトデッドタイムを考慮した駆動信号)を与えたときの理論上の電圧比を意味する。この理論上の電圧比には、上SW駆動信号と下SW駆動信号に含まれるデフォルトデッドタイムが反映されている。一方、右辺第2項(VLS/VHS)は、実際の電圧比であり、ここには、実際のデッドタイムが反映されている。従って右辺第1項-右辺第2項は、デフォルトデッドタイムと実デッドタイムのずれに起因する値となる。この値に制御周期SWtime01を乗ずると、デフォルトデッドタイムと実デッドタイムのずれ(dDT)が得られる。なお、実際のデッドタイムはデフォルトデッドタイムよりも大きいので、右辺第1項は、必ず右辺第2項よりも大きくなる。なお、低電圧端11の実際の電圧VLSが目標電圧VLTに一致する場合、デッドタイムずれdDT(i)はゼロとなる。すなわち、実際に生じるデッドタイムはデフォルトデッドタイムに等しいことになる。
【0052】
このように、(式1)のdDT(i)は、第i番目のコンバータ回路におけるデフォルトデッドタイムと実デッドタイムのずれを意味する。デッドタイムのずれdDT(i)を制御周期SWtime01で割った値は、デッドタイムのずれdDT(i)に相当するデューティ比を意味する。すなわち、dDT(i)/SWtime01は、デッドタイムのずれを相殺するためのデューティ比を意味する。
【0053】
コントローラ20が実行する処理をまとめると以下の通りである。(1)コントローラ20は、低電圧端の目標電圧VLTを実現するための上SW素子に対する指令デューティ比dutyTを決定する。(2)コントローラ20は、i番目のコンバータ回路に対して、指令デューティ比dutyTを有する上SW駆動信号を上SW素子に与えるとともに、上SW駆動信号を反転させかつデフォルトデッドタイムを考慮した下SW駆動信号を下SW素子に与えつつ、残りのコンバータ回路を停止した状態で、dDT(i)={(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}×SWtime01を計算する。(3)コントローラ20は、i番目のコンバータ回路に対して、指令デューティ比dutyTにdDT(i)/SWtime02(ただし、SWtime02は、dDT(i)の算出後にコンバータ回路を駆動するときの上SW駆動信号の制御周期)を加えたデューティ比を有する補正上SW駆動信号を上スイッチング素子に与えるとともに、補正上SW駆動信号を反転させてさらにデフォルトデッドタイムを考慮した補正下SW駆動信号を下スイッチング素子に与えつつ、全てのコンバータ回路を同時並列に駆動する。なお、「SW素子」とは、「スイッチング素子」の略である。
【0054】
dDT(i)を求めるときの制御周期SWtime01と、全てのコンバータ回路を同時並列に駆動するときの制御周期SWtime02が同じ場合、補正後のデューティ比は、dutyT+{(VLS/VHS)-(VLT/VHS)}となる。すなわち、低電圧端と高電圧端の実際の電圧の比(VLS/VHS)と、目標電圧VLTと高電圧端の実際の電圧VHSの比(VLT/VHS、すなわち理想的な電圧比)との差が、デフォルトデッドタイムと実デッドタイムのずれを相殺するための補正デューティ比に相当する。
【0055】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。昇降圧コンバータ2は、他の目的にも適用可能である。例えば、昇降圧コンバータ2は、バッテリ101の電圧よりも出力電圧が低い電源とバッテリ101の間に接続されてもよい。この場合、低電圧端21が電源に接続され、高電圧端22がバッテリ101に接続される。昇降圧コンバータ2は、電源の電圧を昇圧してバッテリ101へ供給することができる。
【0056】
あるいは、実施例の昇降圧コンバータ2は、バッテリ101の電力を降圧して車両外部の負荷に供給する場合に用いてもよい。この場合、低電圧端21が外部の負荷に接続され、高電圧端22がバッテリ101に接続される。昇降圧コンバータ2は、バッテリ101の電圧を降圧して負荷へ供給することができる。
【0057】
実施例の昇降圧コンバータ2は、並列に接続された4個のコンバータ回路10a-10dを備えている。本明細書が開示する昇降圧コンバータは、並列に接続されたN個のコンバータ回路を備えていればよい。Nは2以上の自然数であればよい。
【0058】
電圧センサ18aが低電圧センサに対応し、電圧センサ18bが高電圧センサに対応する。実施例の昇降圧コンバータ2では、4個のコンバータ回路10a-10dは共通の電圧センサ18a、18bを備えている。4個のコンバータ回路10a-10dのそれぞれが独自の電圧センサを備えていてもよい。また、実施例の昇降圧コンバータ2では、4個のコンバータ回路10a-10dのそれぞれが独自のリアクトル14を備えている。4個のコンバータ回路10a-10dが1個のリアクトルを共有していてもよい。
【0059】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
2:昇降圧コンバータ 10a-10d:コンバータ回路 11、21::低電圧端 12、22:高電圧端 13:グランド線 14:リアクトル 15a、15b:スイッチング素子 16a、16b:ダイオード 17a、17b:コンデンサ 18a、18b:電圧センサ 19:電流センサ 20、104:コントローラ 100:電気自動車 101:バッテリ 102:インバータ 103:モータ