(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179835
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】燃料電池の製造方法、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0286 20160101AFI20241219BHJP
H01M 8/0284 20160101ALI20241219BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241219BHJP
【FI】
H01M8/0286
H01M8/0284
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099048
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】皆川 馨
(72)【発明者】
【氏名】三村 裕毅
(72)【発明者】
【氏名】橘 和孝
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD03
5H126DD05
5H126GG18
5H126HH01
(57)【要約】
【課題】セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池の製造方法、及び燃料電池を提供する。
【解決手段】本開示に係る燃料電池の製造方法は、膜電極接合体と膜電極接合体を挟持する一対のセパレータとを含む積層体と、積層体を所定の間隔を隔てて複数積層することによって積層方向に隣り合う積層体の間に形成された隙間に対して、密閉空間を形成するように設けられるシール部と、を備えた燃料電池の製造方法である。セパレータ14とシール部材31との間に設けられた樹脂層30を溶融し、セパレータ14とシール部材31とを接着させることによりシール部12を形成する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータとを含む積層体と、
前記積層体を所定の間隔を隔てて複数積層することによって積層方向に隣り合う前記積層体の間に形成された隙間に対して、密閉空間を形成するように設けられるシール部と、
を備えた燃料電池の製造方法であって、
前記セパレータとシール部材との間に設けられた樹脂層を溶融し、前記セパレータと前記シール部材とを接着させることにより前記シール部を形成する、
燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記セパレータと前記シール部材との間に前記樹脂層を配置した状態において、少なくとも前記シール部材と前記樹脂層の双方を加熱することにより、
前記シール部材を架橋させながら、前記樹脂層を溶融させて前記セパレータと前記シール部材を接着する、
請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記シール部材を架橋させた後に、前記シール部材と接する位置に前記樹脂層を配置し、前記樹脂層を加熱することにより溶融させて前記セパレータと前記シール部材を接着する、
請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記シール部を成形する金型に、前記樹脂層を表面に仮接着した前記セパレータを配置して、
前記金型に対して前記シール部材を射出して充填させることにより、前記セパレータとシール部材との間に前記樹脂層が設けられる、
請求項1又は2に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項5】
膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータと、を含む積層体を所定の間隔を隔てて複数積層した燃料電池であって、
前記積層体の積層方向に隣り合う前記積層体の間に形成される隙間に対して、密閉空間を形成するように設けられるシール部は、
前記積層体の前記セパレータとシール部材との間に樹脂層を備える、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池の製造方法、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に対しては、発電するために燃料ガスと、発電によって発生する熱を除熱するために冷却水とが供給される。燃料ガスと冷却水が燃料電池の外側に漏れないようにするためのシール部材の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃料ガスが燃料電池外に漏れないようにするためのシール部材が開示されている。特許文献1に開示されたシール部材は、発泡ゴムからなるシール部材主部の表面に粘着層が積層一体化されている。特許文献1に開示されたシール部材は、セパレータに密着するようにセパレータ上に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に開示されたシール部材では、シール部材がセパレータに対して架橋接着されているだけであり、セパレータとシール部材との接着強度が不十分であった。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みなされたものであって、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池の製造方法、及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る燃料電池の製造方法は、
膜電極接合体と前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータとを含む積層体と、
前記積層体を所定の間隔を隔てて複数積層することによって積層方向に隣り合う前記積層体の間に形成された隙間に対して、密閉空間を形成するように設けられるシール部と、
を備えた燃料電池の製造方法であって、
前記セパレータとシール部材との間に設けられた樹脂層を溶融し、前記セパレータと前記シール部材とを接着させることにより前記シール部を形成する。
【0008】
本開示に係る燃料電池の製造方法では、樹脂層が溶融して固まることにより、セパレータとシール部材とが接着してシール部が形成される。そのため、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0009】
また、前記セパレータと前記シール部材との間に前記樹脂層を配置した状態において、少なくとも前記シール部材と前記樹脂層の双方を加熱することにより、
前記シール部材を架橋させながら、前記樹脂層を溶融させて前記セパレータと前記シール部材を接着してもよい。
このような構成により、シール部材が加熱されて架橋するため固まる。また、樹脂層が加熱溶融して冷却固化するため、セパレータとシール部材とが接着して、シール部が形成される。そのため、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0010】
さらに、前記シール部材を架橋させた後に、前記シール部材と接する位置に前記樹脂層を配置し、前記樹脂層を加熱することにより溶融させて前記セパレータと前記シール部材を接着してもよい。
このような構成により、架橋して固まったシール部材と樹脂層とが接して配置され、樹脂層が加熱溶融して冷却固化するため、セパレータとシール部材とが接着して、シール部が形成される。そのため、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0011】
前記シール部を成形する金型に、前記樹脂層を表面に仮接着した前記セパレータを配置して、
前記金型に対して前記シール部材を射出して充填させることにより、前記セパレータとシール部材との間に前記樹脂層が設けられてもよい。
このような構成により、樹脂層を表面に仮接着したセパレータを覆うようにシール部材が充填されるため、セパレータとシール部材との間に樹脂層を配置させることができる。
【0012】
本開示に係る燃料電池は、
膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータと、を含む積層体を所定の間隔を隔てて複数積層した燃料電池であって、
前記積層体の積層方向に隣り合う前記積層体の間に形成される隙間に対して、密閉空間を形成するように設けられるシール部は、
前記積層体の前記セパレータとシール部材との間に樹脂層を備える。
【0013】
本開示に係る燃料電池は、積層体のセパレータとシール部材との間に樹脂層が設けられている。そのため、セパレータとシール部材との界面における接着強度のバラツキを抑制でき、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池となる。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池の製造方法、及び燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施形態1に係る燃料電池の断面図(xz平面図)である。
【
図3】実施形態1に係る燃料電池の断面図(yz平面図)である。
【
図4】実施形態1に係る燃料電池のシール部の断面図である。
【
図5】実施形態1に係る燃料電池の製造方法の一例を示した概要図である。
【
図6】実施形態1に係る燃料電池の製造方法の一例を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。なお、当然のことながら、図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面である。
【0017】
(実施形態1)
<燃料電池の構成>
まず、
図1~
図3を参照しながら、燃料電池の構成について説明する。
図1は、実施形態1に係る燃料電池の斜視図である。
図2は、実施形態1に係る燃料電池の断面図(xz平面図)である。
図3は、実施形態1に係る燃料電池の断面図(yz平面図)である。
図1~
図3は、燃料電池の発電に関する部位だけを図示しており、拘束板などの部材は省略している。
【0018】
図2の上段には、
図1のマニホールド孔20を通る断面図が示されている。
図2の中段には、
図1のマニホールド孔21を通る断面図が示されている。
図2の下段には、マニホールド孔22を通る断面図が示されている。
図3では、隣り合う積層体の間の断面部が示されており、積層体のセパレータ以外の構成を省略して点線により表記している。
【0019】
図1に示すように、燃料電池10は、積層体11が所定の間隔を隔てて複数積層されている。
図1に示した例では、燃料電池10は、3つの積層体11がz軸方向に積層されている。以下では、図面のz軸方向を積層方向と称する。なお、
図2、
図3では、2つの積層体11が積層した状態を示している。
【0020】
図2、
図3を参照しながら、積層体11について説明する。
図2、
図3に示すように、積層体11は、膜電極接合体13と膜電極接合体13を挟持する一対のセパレータ14とから構成される。膜電極接合体13は、高分子電解質膜(不図示)とこの高分子電解質膜を挟んで両側に配設されるカソード電極(不図示)およびアノード電極(不図示)とを有する。セパレータ14は、導電性を有する材料、例えば、金属、カーボン素材、導電性樹脂材により形成された部材である。
【0021】
図2の上段に示すように、積層体11には、膜電極接合体13と一方のセパレータ14との間に空間SP1が設けられている。また、
図2の下段に示すように、積層体11には、膜電極接合体13と他方のセパレータ14との間に空間SP3が設けられている。さらに、
図3に示すように、積層方向に隣り合う積層体11の間には、隙間が形成されている。その隙間には、シール部12が設けられている。すなわち、積層方向に隣り合う積層体11の間に形成された隙間に対して、密閉空間CSを形成するようにシール部12が設けられている。
【0022】
続いて、
図1~
図3を参照しながら、燃料電池に供給される水素、酸素、冷却水の流路ついて説明する。
図2、
図3には、矢印を用いて水素、酸素、冷却水の流れる方向が示されている。
図3の矢印は、図面の手前方向(x軸負方向)から図面の奥行方向(x軸正方向)に冷却水が流れることを示している。水素は、一方のマニホールド孔20をz軸正方向からz軸負方向に向かうように供給される。水素は、x軸負方向からx軸正方向に向かって、空間SP1を通過する。水素は、他方のマニホールド孔20をz軸負方向からz軸正方向に向かうように通過して回収される。
【0023】
酸素は、一方のマニホールド孔22をz軸負方向からz軸正方向に向かうように供給される。酸素は、x軸正方向からx軸負方向に向かって、空間SP3を通過する。酸素は、他方のマニホールド孔22をz軸正方向からz軸負方向に向かうように通過して回収される。
【0024】
冷却水は、一方のマニホールド孔21をz軸正方向からz軸負方向に向かうように供給される。冷却水は、x軸負方向からx軸正方向に向かって、密閉空間CSを通過する。冷却水は、他方のマニホールド孔21をz軸負方向からz軸正方向に向かうように通過して回収される。すなわち、燃料電池10では、冷却水が燃料電池10から漏れないようにするために、シール部12を設けることによって密閉空間CSを形成し、密閉空間CSを冷却水が通過するようにしている。
【0025】
<シール部の構成>
続いて、
図4を参照しながら、燃料電池のシール部の構成について説明する。
図4は、実施形態1に係る燃料電池のシール部の断面図である。
図4は、積層体11の一方のセパレータ14とシール部12とのyz平面図を示しており、積層体11の他方のセパレータ14と膜電極接合体13とは省略されている。
【0026】
図4に示すように、シール部12は、シール部材31と樹脂層30とから構成されている。シール部12は、セパレータ14とシール部材31との間に樹脂層30が設けられている。
図4に示した例では、シール部12は、セパレータ14上に配置された樹脂層30の表面及び側面をシール部材31が覆うようにして形成されている。しかし、
図4に示した例に限定されることはなく、シール部12は、セパレータ14上の樹脂層30の表面の全部あるいは一部に対して、積層されるようにシール部材31が形成されてもよい。
【0027】
シール部材31は、ゴム材料であり、例えば、エチレンプロピレンジエンゴムである。樹脂層30は、熱可塑性樹脂であり、シート形状を有する固体である。熱可塑性樹脂は、例えば、結晶性樹脂のポリエチレン、非結晶性樹脂のポリ塩化ビニルである。
【0028】
このように、実施形態1に係る燃料電池は、積層体のセパレータ14とシール部材31との間に樹脂層30が設けられている。樹脂層30は、シート形状であり、セパレータ14と密着しているため、セパレータ14とシール部材31との界面に空隙等の欠陥が少ない。これにより、セパレータ14とシール部材31との界面において、接着強度のバラツキを抑制できる。そのため、セパレータ14とシール部材31との界面において剥離することが抑制され、セパレータ14とシール部材31との接着強度が高い燃料電池となる。
【0029】
<燃料電池の製造方法>
続いて、
図5、
図6を参照しながら、燃料電池の製造方法について説明する。
図5、
図6は、実施形態1に係る燃料電池の製造方法の一例を示した概要図である。
図5は、燃料電池の製造過程におけるセパレータと樹脂層との斜視図を示している。
図6は、燃料電池の製造過程におけるセパレータと樹脂層及びシール部材との断面図を示している。
図5には、燃料電池の製造過程におけるステップST1~ステップST3が示されている。
図6には、燃料電池の製造過程におけるステップST4~ステップST7が示されている。
【0030】
図5、
図6では、シール部材31を射出成形する方法を用いた燃料電池の製造方法を示している。なお、
図5、
図6に示した燃料電池の製造方法の一例では、ステップST1~ステップST7が順番に行われる。
【0031】
図5を参照しながら、ステップST1~ステップST3について説明する。まず、セパレータ14を準備する(ステップST1)。
図5に示すように、セパレータ14は、マニホールド孔20、21、22を備えている。
【0032】
次に、セパレータ14上にシート形状の樹脂層30を配置する(ステップST2)。より具体的には、樹脂層30は、セパレータ14の表面に配置され、セパレータ14に仮接着される。ステップST5におけるシール部材の射出によって、樹脂層30がセパレータ14からはがれるのを抑制するためである。また、ステップST4において樹脂層30を表面に設けたセパレータ14を金型に配置する際に、樹脂層30の位置がセパレータ14からずれることを抑制するためである。セパレータ14に対する樹脂層30の仮接着は、例えば、レーザーの照射、熱圧着、超音波圧着、振動圧着により行われる。
【0033】
次に、樹脂層30の余剰部を除去する(ステップST3)。より具体的には、セパレータ14の周縁部、マニホールド孔20、22の周縁部に樹脂層30が配置されるように、樹脂層30の余剰部を除去する。樹脂層30の余剰部は、例えば、レーザーの照射や刃物によって除去される。
【0034】
図6を参照しながら、ステップST4~ステップST7について説明する。ステップST3に続けて、金型に対して、樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14を配置する(ステップST4)。金型は、開閉可能な一対の可動型50、51を備える。可動型50、51を開いて、可動型50、51の間に対して、樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14を配置する。その後、一対の可動型50、51を閉じる。これにより、金型と樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14との間に空間SP4が形成される。なお、可動型50、51の一方が固定型でもよい。
【0035】
次に、金型内部の空間SP4に対して、シール部材31を射出して充填させる(ステップST5)。これにより、樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14を覆うようにシール部材31が充填されるため、セパレータ14とシール部材31との間に樹脂層30を配置させることができる。
【0036】
次に、金型内部を加熱することにより、少なくともシール部材31と樹脂層30の双方を加熱する(ステップST6)。より具体的には、金型内部を加熱することにより、シール部材31が加熱される。これにより、シール部材31が架橋して固まる。また、金型内部を加熱することにより、樹脂層30が加熱溶融する。その後、樹脂層30は冷却固化するため、セパレータ14とシール部材31とが接着して、シール部12が形成される。このように、ステップST6では、1度の加熱処理によって、シール部材31を架橋させながら、樹脂層30を溶融させてセパレータ14とシール部材31とを接着できる。なお、樹脂層30の冷却方法は、樹脂層30を冷却することができればいかなる方法でもよく、例えば、自然冷却、水冷、風冷などである。
【0037】
次に、可動型50、51を開くことによって、セパレータ14を取り出す(ステップST7)。取り出したセパレータ14は、シール部材31とセパレータ14との間に樹脂層30を備える。換言すると、ステップST7では、セパレータ14と、セパレータ14上に配置された樹脂層30の表面及び側面をシール部材31が覆うようにして形成されたシール部12と、が一体化されている。
【0038】
このように、
図5及び
図6に示した燃料電池の製造方法では、樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14を覆うようにシール部材31が充填されるため、セパレータ14とシール部材31との間に樹脂層30を配置させることができる。その後、シール部材31が加熱されることにより架橋して固まる。また、樹脂層30が加熱溶融して冷却固化するため、セパレータ14とシール部材31とが接着して、シール部12が形成される。このように、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、セパレータ14とシール部材31との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0039】
<変形例>
ここで、
図5及び
図6では、シール部材31を射出成形する方法を用いた燃料電池の製造方法を示した。しかし、実施形態1に係る燃料電池の製造方法は、この製造方法に限定されることはなく、ステップST4とステップST5とを逆にした、シール部材31を転写する燃料電池の製造方法でもよい。シール部材31を転写する燃料電池の製造方法についてより具体的に説明する。シール部材31を転写する燃料電池の製造方法では、ステップST1~ステップST3、ステップST6、及びステップ7は、
図5及び
図6に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0040】
シール部材31を転写する燃料電池の製造方法では、
図6に示したステップST4とステップST5とに相当するステップを、それぞれステップST4(転写)、ステップ5(転写)と表記して説明する。また、適宜、
図6を参照しながら、説明する。
【0041】
ステップST4(転写)では、金型を閉じて形成される金型内部の空間SP4に対して、シール部材31を射出して充填させる。ステップST5(転写)では、ステップST4(転写)に続けて、金型を開き、金型に対して、樹脂層30を表面に仮接着したセパレータ14を配置する。これにより、セパレータ14とシール部材31との間に樹脂層30を配置させることができる。そのため、ステップST6において、金型内部を加熱することにより、少なくともシール部材31と樹脂層30の双方を加熱することができる。
【0042】
このように、シール部材31を射出成形、及びシール部材31を転写する燃料電池の製造方法では、シール部材31を架橋させながら、樹脂層30を溶融させてセパレータ14とシール部材31とが接着して、シール部12が形成される。そのため、シール部材31を射出成形、及びシール部材31を転写する燃料電池の製造方法では、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0043】
さらに、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、シール部材31を架橋させながら、樹脂層30を溶融させることに限定されず、シール部材31を架橋させた後に、樹脂層30を溶融させてもよい。すなわち、実施形態1に係る燃料電池の製造方法は、架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法でもよい。
【0044】
架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法について、より具体的に説明する。架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法では、ステップST1~ステップST3、及びステップ7は、
図5及び
図6に示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0045】
架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法では、
図6のステップST4~6に相当するステップを、それぞれステップST4(貼り合わせ)~ステップST6(貼り合わせ)と表記して説明する。また、適宜、
図6を参照しながら、説明する。
【0046】
ステップST4(貼り合わせ)では、シール部材31を架橋させる。より具体的には、
図6に示した金型内部の空間SP4に対して、シール部材31を射出して充填させ、加熱することにより、シール部材31を架橋させる。
ここで、ステップST4(貼り合わせ)では、金型に対して、架橋が完了したシール部材31を配置してもよい。すなわち、ステップST4(貼り合わせ)では、ステップST5における樹脂層30の配置前に、シール部材31の架橋が完了していればよい。
【0047】
ステップST5(貼り合わせ)では、ステップST4において架橋が完了したシール部材31と接する位置に樹脂層30を配置する。より具体的には、金型を開き、セパレータ14と架橋が完了したシール部材31との間に、樹脂層30を設ける。これにより、
図6に示したステップST5と同等の状態となる。ただし、
図6に示したステップST5とは、シール部材31の架橋が完了している点で異なる。
【0048】
ステップST6(貼り合わせ)では、樹脂層30を加熱することにより溶融させてセパレータ14とシール部材31とを接着して、シール部12を形成する。より具体的には、金型内部を加熱することにより、樹脂層30が加熱溶融する。その後、樹脂層30が冷却固化するため、セパレータ14と架橋が完了したシール部材31とが接着して、シール部12が形成される。
【0049】
このように、架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法では、架橋されて固まったシール部材と樹脂層とが接して配置される。金型を加熱することにより、樹脂層が加熱溶融して冷却固化するため、セパレータとシール部材とが接着したシール部が形成される。そのため、架橋が完了したシール部材31に樹脂層30を貼り合わせる燃料電池の製造方法では、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0050】
<接着強度>
続いて、表1を参照しながら、実施形態1に係る燃料電池のシール部の接着強度について説明する。表1は、燃料電池のシール部の各構成が異なる実施例1~11における各評価項目に対応する結果を示した表である。
【0051】
【0052】
表1に示すように、燃料電池のシール部の各構成には、セパレータの材質、樹脂層の材質、樹脂層とセパレータの仮接着方法、シール部材の材質、シール部の成形方法及び金型の加熱温度の諸条件が記載されている。セパレータは、ステンレス、又は樹脂を主材料とする基板である。表1では、セパレータの材質の欄に主材料を記載しており、ステンレスをSUS(Steel Use Stainless)と表記している。樹脂層は、熱可塑性を有する、ナイロン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を主材料とするシートである。表1では、樹脂層の材質の欄に主材料を記載しており、ポリプロピレン系をPP(polypropylene)と表記している。
【0053】
樹脂層とセパレータの仮接着方法は、レーザーによる接着又は熱圧着である。シール部材は、エチレンプロピレンジエンゴムである。表1では、シール部材の材質の欄にエチレンプロピレンジエンゴムをEPDM(Ethylene Propylene Diene Methylene Linkage)と表記している。シール部の成形方法は、前述したように、転写成形、射出成形、貼り合わせ成形のいずれかである。また、金型の加熱温度は、190℃、170℃、160℃のいずれかである。
【0054】
表1では、セパレータ汚染の有無、樹脂層とセパレータの仮接着のはがれ具合、剥離試験の結果の3つの評価項目が記載されており、それぞれの評価項目に対応した実施例1~11における結果が示されている。セパレータ汚染の有無は、目視検査により行われる。樹脂層とセパレータの仮接着のはがれ具合では、仮接着のはがれがない場合、仮接着面の一部が剥がれているがセパレータに対して樹脂層の位置がずれていない場合、仮接着がはがれている場合の3段階に分けて評価している。
【0055】
表1に示した剥離試験の結果では、破壊部の状態、及び破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合を示している。樹脂層の凝集破壊とは、樹脂層の内部に亀裂が入り破壊している状態を示している。界面破壊とは、樹脂層とセパレータとの界面に亀裂が入り破壊している状態を示している。よって、破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が高いことは、シール部材とセパレータとの界面の破壊よりも樹脂層の内部の破壊の割合が高いことを示している。すなわち、破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が高いほどシール部の接着強度が高く、好ましい結果である。
【0056】
表1に示した実施例1、6、7について説明する。実施例1、6、7では、シール部の成形方法が異なっているが、シール部の成形方法以外の構成は同じである。実施例1、6、7のいずれにおいても、セパレータ汚染は確認されていない。また、実施例1、6、7のいずれにおいても、セパレータと樹脂層との仮接着のはがれもない。さらに、実施例1、6、7のいずれにおいても、破壊部の状態は、樹脂層と凝集破壊と界面破壊が混在している状態である。
【0057】
実施例1、6では破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が90%よりも多い結果であったのに対して、実施例7では破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が51%~70%占める結果であった。すなわち、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、シール部の成形方法が転写成形や射出成形の場合の方が、貼り合わせ成形の場合よりも、セパレータとシール部材との接着強度が高い結果を示している。
【0058】
また、実施例1、2では、樹脂層の材質が異なっているが、樹脂層の材質以外の構成は同じである。実施例1、2では、どちらも破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が90%よりも多い結果であった。すなわち、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、樹脂層の材質に関わらず、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0059】
さらに、実施例1、5では、セパレータの材質が異なっているが、セパレータの材質以外の構成は同じである。実施例1、5では、どちらも破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合が90%よりも多い結果であった。すなわち、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、セパレータの材質に関わらず、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0060】
ここで、樹脂層の融点は、ナイロン系樹脂の場合、約170℃である。実施例1、8、10では、樹脂層の材質がナイロン系樹脂であり、金型の加熱温度の高い実施例1、8、10の順に剥離試験の結果が好ましい結果を示している。すなわち、樹脂層の融点以上に金型を加熱することにより、破壊部における樹脂層の凝集破壊部の割合を高めることができ、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。なお、樹脂層の融点は、表1に示したポリプロピレン系樹脂の場合、約115℃である。
【0061】
このように、実施形態1に係る燃料電池の製造方法では、セパレータとシール部材との接着強度が高い燃料電池を製造できる。
【0062】
なお、本開示は、上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 燃料電池
11 積層体
12 シール部
13 膜電極接合体
14 セパレータ
20、21、22 マニホールド孔
30 樹脂層
31 シール部材
50、51 可動型
CS 密閉空間
SP1、SP3、SP4 空間