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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179840
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20241219BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20241219BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20241219BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B23K9/16 M
B23K9/167 B
B23K9/12 310C
B23K9/29 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099057
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】富樫 政樹
(72)【発明者】
【氏名】星野 忠
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001BB07
4E001BB08
4E001BB09
4E001BB10
4E001BB11
4E001CB04
4E001DC02
4E001DD02
4E001DD05
4E001DD06
4E001LB07
4E001LH03
4E001NA01
4E001NA05
4E001NA08
(57)【要約】
【課題】溶接ワイヤを送出するワイヤノズルから溶接雰囲気への外気の混入を抑制し、溶接雰囲気のシールド性を向上させる。
【解決手段】不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接装置1において、溶接トーチ10と、溶接トーチ10と母材2との間に送給される溶接ワイヤ21が内部を通るワイヤ送給路30と、ワイヤ送給路30内に不活性ガスを主成分とするガスを供給する不活性ガス供給路40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接装置であって、
溶接トーチと、
前記溶接トーチと母材との間に送給される溶接ワイヤが内部を通るワイヤ送給路と、
前記ワイヤ送給路内に不活性ガスを主成分とするガスを供給する不活性ガス供給路と、を備えることを特徴とする、溶接装置。
【請求項2】
前記溶接トーチは、非消耗電極を有し、
前記ワイヤ送給路は、前記溶接トーチの外部に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記ワイヤ送給路内を通る前記溶接ワイヤを加熱する給電電極を備えることを特徴とする、請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記ワイヤ送給路に、前記給電電極が取り付けられた筐体が設けられ、
前記不活性ガス供給路は、前記筐体に接続されていることを特徴とする、請求項3に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記ワイヤ送給路に、前記ガスの一部を該ワイヤ送給路の外部に放出するリリーフ孔が形成され、
前記リリーフ孔は、前記ワイヤ送給路に対する前記不活性ガス供給路の接続箇所よりも前記母材側に位置していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接装置。
【請求項6】
不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接方法であって、
内部に溶接ワイヤが通るワイヤ送給路を介して溶接トーチと母材との間に前記溶接ワイヤを送給する際に、前記ワイヤ送給路内に不活性ガスを主成分とするガスを供給して前記溶接を行うことを特徴とする、溶接方法。
【請求項7】
前記溶接トーチは、非消耗電極を有し、
前記ワイヤ送給路は、前記溶接トーチの外部に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記ワイヤ送給路内を通る前記溶接ワイヤに給電し、該溶接ワイヤを加熱して前記溶接を行うことを特徴とする、請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記ワイヤ送給路に設けられた筐体に前記溶接ワイヤへの給電を行うための給電電極が取り付けられ、
前記筐体内に前記ガスを供給することを特徴とする、請求項8に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記ワイヤ送給路に対する前記ガスの供給箇所よりも母材側において、前記ワイヤ送給路内を流れる前記ガスの一部を該ワイヤ送給路の外部に放出することを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の溶接方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の肉盛溶接においては、耐環境性に配慮しながらも高能率化と高品質化が要求されている。高能率化の面では消耗電極式溶接が有利であったが、CO2排出量やヒューム、スラグ廃棄などの耐環境性、美麗なビード外観や低希釈率などの高品質化の面では非消耗電極式溶接の方が有利であった。これら要求をすべて満たすために、TIG溶接やプラズマ溶接などの非消耗式電極溶接法においてホットワイヤ方式の溶接法を導入することが進んでいる。
【0003】
ホットワイヤ方式の溶接法として、特許文献1~3には通電加熱した溶接ワイヤを溶融プールに供給して溶接を行う非消耗電極式の溶接装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-006907号公報
【特許文献2】特開昭62-026867号公報
【特許文献3】特開平1-192477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタンやマグネシウムなどの活性金属を多量に含む合金を母材又は溶接材料に使用してホットワイヤ方式の肉盛溶接を行う場合、溶接中の高温状態にある合金に空気が接触すると、合金の機械的特性が容易に変質するおそれがある。これに加えて、溶接金属中に気泡が発生し、ピットやブローホール等の気孔欠陥が生じるおそれがある。このため、溶接トーチの先端部に形成される溶融プールの周囲には、シールドガスとしてアルゴンガスなどの不活性ガスが供給され、不活性ガス雰囲気で溶接が行われる。
【0006】
一方、従来の溶接装置においては、溶接ワイヤが送出されるワイヤノズルの先端部から溶接ワイヤと共に外気が放出され、シールドガスによって不活性ガス雰囲気に保持された溶融プールの周囲に外気が流入する。すなわち、従来の溶接装置においては、溶接雰囲気のシールド性を高めて高品質のビードを得るという観点で、溶融プールの周囲に外気が流入することが弊害となっていた。
【0007】
また、上記のような溶接雰囲気のシールド性を向上させるという課題は、ホットワイヤ方式の肉盛溶接のみならず、溶接ワイヤを供給しながら不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接法に共通する課題である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶接ワイヤを送出するワイヤノズルから溶接雰囲気への外気の混入を抑制し、溶接雰囲気のシールド性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接装置であって、溶接トーチと、前記溶接トーチと母材との間に送給される溶接ワイヤが内部を通るワイヤ送給路と、前記ワイヤ送給路内に不活性ガスを主成分とするガスを供給する不活性ガス供給路と、を備えることを特徴としている。
【0010】
別の観点による本発明は、 不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接方法であって、内部に溶接ワイヤが通るワイヤ送給路を介して溶接トーチと母材との間に前記溶接ワイヤを送給する際に、前記ワイヤ送給路内に不活性ガスを主成分とするガスを供給して前記溶接を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接ワイヤを送出するワイヤノズルから溶接雰囲気への外気の混入を抑制し、溶接雰囲気のシールド性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るホットワイヤ方式のプラズマ溶接装置の概略構成を示す図である。
図2】溶接部周辺の装置構成について説明するための図である。
図3】ワイヤ送給路の概略構成について説明するための図である。
図4】ワイヤ送給路における不活性ガスの流れを説明するための図である。
図5】プラズマ溶接装置における不活性ガスの流れを説明するための図である。
図6】他の実施形態に係る不活性ガス供給路の配置例を示す図である。
図7】他の実施形態に係る不活性ガス供給路の配置例を示す図である。
図8】他の実施形態に係る不活性ガス供給路の配置例を示す図である。
図9】他の実施形態に係る複数のワイヤ送給路を備えるプラズマ溶接装置の概略構成を示す図である。
図10】他の実施形態に係るホットワイヤ電源の接続例を示す図である。
図11】他の実施形態に係るホットワイヤ電源の接続例を示す図である。
図12】他の実施形態に係るコールドワイヤ方式のプラズマ溶接装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
本実施形態においては不活性ガス雰囲気で溶接を行う溶接装置として、肉盛溶接を行うホットワイヤ方式のプラズマ溶接装置を例に挙げて溶接雰囲気のシールド性が向上する溶接装置について説明する。
【0015】
<プラズマ溶接装置>
図1は、本実施形態に係るホットワイヤ方式のプラズマ溶接装置1の概略構成を示す図である。図2は、溶接部周辺の装置構成について説明するための図である。いずれの図においても、溶接部周辺の装置の構成要素の一部を切断面で図示している。
【0016】
プラズマ溶接装置1は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給機20と、溶接対象である母材2と溶接トーチ10との間に溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給路30を備える。
【0017】
溶接トーチ10は、非消耗電極の一例であるタングステン電極11と、タングステン電極11の周囲を囲うチップ12と、チップ12の周囲を囲うシールドキャップ13を有する。
【0018】
溶接トーチ10において、タングステン電極11とチップ12の内周面との間には、パイロットガスとして例えばアルゴンガスなどの不活性ガスが供給される流路が形成されている。また、チップ12の外周面とシールドキャップ13の内周面との間には、シールドガスとして例えばアルゴンガスなどの不活性ガスが供給される流路が形成されている。
【0019】
溶接トーチ10の周囲には、下方が開口した容器であるシールドボックス14が設けられている。シールドボックス14は、溶接部近傍の雰囲気を不活性ガス雰囲気に保持し易くするために必要に応じて設置されるものであり、シールドボックス14の天板部に溶接トーチ10が配置されている。
【0020】
シールドボックス14の天板部には、シールドボックス14内にシールドガスを供給する複数のシールドガス供給管15が接続されている。シールドガスとしては例えばアルゴンガスなどの不活性ガスが使用される。母材2の肉盛溶接中は、シールドガス供給管15から不活性ガスが供給されることによって、溶融プール3と、その溶融プール3近傍のビード4を不活性ガス雰囲気に保持し易くなる。
【0021】
ワイヤ送給機20は、溶接ワイヤ21が巻きつけられたワイヤスプール22と、ワイヤスプール22から送出された溶接ワイヤ21を溶接トーチ10側に送る一対の送給ローラ23と、送給ローラ23の回転駆動源であるモータ24を有する。
【0022】
ワイヤ送給路30は、上述したワイヤ送給機20から送出された溶接ワイヤ21を溶接トーチ10の先端部近傍まで送るための送給経路であり、単一部品または複数部品の組み合わせによって構成される。本実施形態に係るワイヤ送給路30は、内部を溶接ワイヤ21が通過する筐体31と、第1筒状体としてのコンジットライナ32と、第2筒状体としてのワイヤノズル33で構成されている。
【0023】
筐体31は、ワイヤ送給路30の中途部に設けられ、コンジットライナ32とワイヤノズル33との間に配置されている。なお、筐体31のより詳細な説明については後述する。
【0024】
コンジットライナ32は、ワイヤ送給機20と筐体31との間に配置され、コンジットライナ32の一端部はワイヤ送給機20に接続され、他端部は筐体31に接続されている。ワイヤ送給機20から送出される溶接ワイヤ21は、コンジットライナ32の内部を通り、筐体31まで送られる。
【0025】
ワイヤノズル33は、筐体31から溶接トーチ10の先端部近傍まで延びている。筐体31内を通過する溶接ワイヤ21は、ワイヤノズル33の内部を通り、溶接トーチ10の先端部近傍に形成された溶融プール3に到達する。なお、本実施形態においてはワイヤノズル33内での溶接ワイヤ21と接触する部分全てが絶縁材料で形成されている。
【0026】
次に、上述した筐体31の周辺構造について図3を主に参照しながら説明する。図3(a)は、筐体31の周辺をワイヤ送給機側から見た側面図であり、図3(b)は、筐体31の正面図である。なお、図面の視認性の担保と説明の便宜のため、筐体31内の隠線で図示され得る構成要素のうち、一部の構成要素の隠線による図示が省略されている。
【0027】
筐体31は、内部に空間34を有する本体容器31aと、当該本体容器31aの空間34を覆うカバー31bで構成されている。本体容器31aは、図3(a)のようにワイヤ送給機側から筐体31を見たときの右側面部に開口を有しており、カバー31bは、その本体容器31aの右側面部の開口を覆うようにボルト締結されている。
【0028】
本体容器31aとカバー31bとの間には、シール材としてOリング35が設けられている。Oリング35が設けられている場合には、本体容器31aの空間34内からカバー31bの外部への雰囲気の流出を抑制でき、後述する筐体31内の雰囲気置換をした後の筐体31内への外気の流入を抑制できる。
【0029】
筐体31内の空間34には、筐体31を通過する溶接ワイヤ21を下方から支持する2つのガイドローラ36が間隔を空けて設置されている。
【0030】
ガイドローラ36の上方には、溶接ワイヤ21に給電するための給電電極として給電棒37が設けられている。給電棒37は、延伸方向が鉛直方向に向いた状態で筐体31に対して固定され、給電棒37の下端は、スプリング(図示せず)により筐体31内を通過する溶接ワイヤ21に常に接触している。
【0031】
図3(b)に示すように、筒状のワイヤノズル33には、内周面から外周面に貫通したリリーフ孔38が形成されている。リリーフ孔38は、ワイヤ送給路30に対する後述する不活性ガス供給路40の接続箇所よりもワイヤノズル33の先端側(すなわち母材側)に位置している。このようなリリーフ孔38が設けられている場合には、ワイヤノズル33内に供給されるガスの一部をリリーフ孔38からワイヤノズル33の外部に放出できる。
【0032】
(不活性ガス供給路)
図3(a)において、本体容器31aに対するカバー31bの取り付け側を説明の便宜上、本体容器31aの前面側と称したとすると、本体容器31aの背面側には、不活性ガス供給路40が接続されている。不活性ガス供給路40は、不活性ガスを主成分とするガスをワイヤ送給路内に供給するための流路である。
【0033】
図3(a)に示した例においては、不活性ガス供給路40は、ガスタンクなどのガス供給源(図示せず)に接続されたガスチューブ41と、そのガスチューブ41が接続されたエルボ42で構成されている。ガスチューブ41に一端部が接続されたエルボ42の他端部は、筐体31内の空間34に接続されている。このような不活性ガス供給路40が設けられていることによって、筐体31内に不活性ガスを主成分とするガスを供給可能となっている。
【0034】
なお、不活性ガスを主成分とするガスとは、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの体積分率が70%以上となる組成を有したガスであり、空気とは異なるガスである。不活性ガスの体積分率は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは99%以上である。
【0035】
不活性ガスを主成分とするガスの具体例としては、アルゴンガスと水素ガスの混合ガスや、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガス等が挙げられる。また、不活性ガスを主成分とするガスは、不活性ガスの体積分率が100%のガスであってもよいし、アルゴンガスとヘリウムガスの混合ガス又はアルゴンガスと窒素ガスの混合ガスのように2種以上の不活性ガスを含む混合ガスであってもよい。
【0036】
図1に示すように、プラズマ溶接装置1は、プラズマアーク5を形成するための第1電源としてプラズマ溶接電源50が設置されている。溶接トーチ10のタングステン電極11及び母材2は、プラズマ溶接電源50に対して電気的に接続されており、通電時にはタングステン電極11の下端と母材2の表面との間にプラズマアーク5が形成される。
【0037】
また、プラズマ溶接装置1は、溶接ワイヤ21を通電加熱するための第2電源としてホットワイヤ電源51が設置されている。給電棒37及び母材2は、ワイヤ送給開始後に、溶接ワイヤ21と母材2又は溶融プール3又はプラズマアーク5と接触することで、ホットワイヤ電源51に対して電気的に接続され、通電時には溶接ワイヤ21における先端部から給電棒37の下端近傍までの領域が抵抗発熱によって加熱される。
【0038】
以上、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1の概略構成について説明した。このプラズマ溶接装置1においては、母材2の肉盛溶接を開始する前に図3(a)に示した不活性ガス供給路40から筐体31内に不活性ガスを主成分とするガスとして例えばアルゴンガスが供給される。
【0039】
ここで図4を参照してワイヤ送給路30内に供給されるアルゴンガスの流れを説明する。図4は、ワイヤ送給路30の断面を模式的に示した図であり、図中の直線矢印はワイヤ送給路30から放出されるアルゴンガスを示している。
【0040】
不活性ガス供給路から筐体31内にアルゴンガスが供給される前の筐体31内は大気雰囲気であるが、筐体31内にアルゴンガスが供給されることによって、筐体31内にアルゴンガスが充填される。これによって、筐体31内の空気が筐体31からコンジットライナ32の内部またはワイヤノズル33の内部に排出される。
【0041】
その後、筐体31内にアルゴンガスが供給され続けることによって、筐体31内の空間34、その空間34に通ずるコンジットライナ32の内部とワイヤノズル33内がアルゴンガス雰囲気に置換される。すなわち、筐体31内にアルゴンガスが供給されることによって、ワイヤ送給路30内がアルゴンガス雰囲気に置換される。これによって、ワイヤノズル33の先端からは溶接ワイヤ21が送出されると共にアルゴンガスが放出される。
【0042】
すなわち、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1によれば、図5のような母材2の肉盛溶接時にワイヤノズル33の先端からアルゴンガスが放出されることによって、溶接トーチ10の先端部周辺の溶接雰囲気への外気の混入を抑制できる。これにより溶接雰囲気のシールド性を向上させることができ、溶接中の高温状態にある母材への空気の接触に起因する溶接金属の機械的特性の変質および気孔欠陥の発生を抑制できる。
【0043】
なお、筐体31内に供給されるアルゴンガスの流速が過度に大きい場合、ワイヤノズル33の先端から放出されるアルゴンガスの流速も増大する。この流速の速いガス流は、プラズマアーク5のアーク流を乱す作用として働き、プラズマアーク5の不安定化を招く。その結果、肉盛ビード4も不均一となり、正常な肉盛ビードとならず、溶接品質に悪影響を及ぼす可能性がある。このような問題を回避するために筐体31へのアルゴンガスの流量を低く抑えた場合には、筐体31内の雰囲気置換に時間を要すこととなる。
【0044】
一方、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1においては、ワイヤノズル33のリリーフ孔38が設けられていることによって、ワイヤノズル33内を流れるアルゴンガスの一部がリリーフ孔38からシールドボックス14の内部に放出される。これにより、ワイヤノズル33の先端から吐出されるアルゴンガスの吐出速度を減少させることができる。
【0045】
換言すると、筐体31内へのアルゴンガスの流量を増大させた場合であっても、リリーフ孔38からアルゴンガスの一部を放出できるため、ワイヤノズル33の先端からのアルゴンガスの吐出速度を抑制できる。すなわち、リリーフ孔38が設けられている場合には、アルゴンガスの流量を増大させて筐体31内の空気排出時間を短縮できると共に、ワイヤノズル33の先端からのアルゴンガスの吐出速度を適正に保つことでプラズマアーク5の乱れを抑制できる。
【0046】
なお、プラズマ溶接装置1で行う溶接は、肉盛溶接に限定されず、突合せ溶接や重ね溶接、すみ肉溶接等の他の溶接であってもよい。また、溶接の姿勢や開先の形状も特に限定されない。一方で、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1は、肉盛溶接に適用することが好ましい。
【0047】
肉盛溶接は、余盛量の確保や欠陥の発生を抑制する観点からは複数の母材同士を溶接する場合と比較して溶接速度を低下させることが有利である。しかし、溶接速度が低下すると溶融プールの凝固が完了するまでに時間を要し、溶融プールの領域も広範囲となる。したがって、肉盛溶接においては、広範囲の溶融プールの凝固が完了するまでの間、溶接雰囲気を保持するために高いシールド性が要求される。このため、溶接雰囲気のシールド性を向上させることが可能なプラズマ溶接装置1は、肉盛溶接に適用されることが有用である。
【0048】
また、溶接ワイヤ21を加熱するホットワイヤ方式の溶接を行う場合には、コールドワイヤ方式の溶接よりも溶融プールの凝固が完了するまでに時間を要する。このため、前述したように溶接雰囲気を保持するために高いシールド性が要求されることから、プラズマ溶接装置1は、ホットワイヤ方式の溶接に適用されることが有用である。
【0049】
また、チタンやマグネシウムなどの活性金属を多量に含む合金を母材又は溶接材料に使用する場合には、高温状態となっている溶融プールが外気と接触することで、外気中に含まれる諸成分と反応し欠陥を生じやすい。このため、前述したように溶接雰囲気を保持するために高いシールド性が要求されることから、プラズマ溶接装置1は、活性金属の溶接に適用されることが有用である。
【0050】
また、ワイヤ送給路30内には、通常、銅部品が使用されるが、ホットワイヤ方式の溶接を行う場合にワイヤノズル33内に空気が存在すると、加熱された溶接ワイヤ21によって銅部品の酸化が促進され銅部品が消耗し易くなる。一方、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1においては、ワイヤ送給路内の雰囲気が不活性ガスを主成分とするガスで置換された状態で、加熱された溶接ワイヤ21がワイヤ送給路内を通過するため、ワイヤノズル33を構成する銅部品の酸化消耗を抑制できる。
【0051】
以上の観点から、本実施形態に係るプラズマ溶接装置1は、活性金属を含む母材又は溶接材料に対するホットワイヤ方式の肉盛溶接に適用されることが特に有用である。また、プラズマ溶接装置1は、活性金属を含む母材以外にも溶接金属への空気の混入が好ましくない例えば原子力関係部品や極低温用鋼等の厳環境対応用、医療用あるいは食品用の高品質用途材の溶接に適用することも有用である。
【0052】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態に係るプラズマ溶接装置1について順に説明する。
【0053】
図6に示すように、筐体31に対するエルボ42の接続位置は例えば筐体31の底面側であってもよい。すなわち、ワイヤ送給路30に対する不活性ガス供給路40の接続位置は特に限定されない。
【0054】
例えば図7および図8に示すように、不活性ガス供給路40は、筐体31ではなく、コンジットライナ32に接続されてもよい。図7に示す例では、コンジットライナ32の中途部に不活性ガス供給路40が接続され、図8に示す例では、ワイヤ送給機20とコンジットライナ32の接続部に不活性ガス供給路40が接続されている。
【0055】
図9に示すように、溶接ワイヤ21の送給路は複数設けられてもよい。図9に示す例では、2つのワイヤ送給路30a、30bが設けられ、一方のワイヤ送給路30a用の給電棒37aに給電する第1ホットワイヤ電源51と、他方のワイヤ送給路30b用の給電棒37bに給電する第2ホットワイヤ電源52が設置されている。
【0056】
以上の例では、ホットワイヤ電源51が給電棒37と母材2に接続されていたが、図10に示すように、ホットワイヤ電源51は、ワイヤノズル33と給電棒37に接続されてもよい。この場合、ワイヤノズル33の通電部は、例えば銅などの導電性材料で形成され、通電部以外の溶接ワイヤ21と接触する部分は全て絶縁性材料で形成される。ワイヤノズル33の通電部は発熱するため、ワイヤノズル33内に空気が存在すると、通電部を構成する部品が酸化消耗し易いことに加え、通電部が銅製の場合に生じる酸化被膜に起因するスパーク放電により、溶接ワイヤ21と通電部との溶着によるワイヤ座屈詰まりが発生することがある。そのようなワイヤ座屈詰まりが発生すると、ワイヤノズル33の構成部品が破損する、座屈解消メンテナンスにより生産が一時的に止まる、などの問題が生じる。しかし、ワイヤノズル33内が不活性ガスを主成分とするガスに置換されるプラズマ溶接装置1によれば、そのような酸化に起因する部品の消耗や破損、生産性の低下を抑制できる。
【0057】
また、図11に示すように、複数のワイヤ送給路30を設ける場合においても、ワイヤノズル33と給電棒37に対してホットワイヤ電源51、52を接続してもよい。
【0058】
プラズマ溶接装置1は、ホットワイヤ方式ではなくコールドワイヤ方式の溶接装置であってもよい。図12は、コールドワイヤ方式のプラズマ溶接装置1の一例であり、ワイヤ送給路30のワイヤノズル33に不活性ガス供給路40が接続されている。
【0059】
以上の説明では、非消耗電極を用いたプラズマ溶接を例示したが、溶接法は特に限定されず、非消耗電極を用いたTIG溶接やレーザー溶接、電子ビーム溶接であってもよい。また、溶接法は、例えばMAG溶接、MIG溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接、エレクトロガス溶接であってもよい。
【0060】
なお、非消耗電極式の溶接装置においては、ワイヤ送給路30が溶接トーチ10の外部に設けられるが、消耗電極式の溶接装置においては、ワイヤ送給路30が溶接トーチ10の内部に設けられる。この場合においても、ワイヤ送給路内に不活性ガスを主成分とするガスを供給することによって、ワイヤ送給路の外側を流れるシールドガスによって形成された溶接雰囲気への外気混入を抑制できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0063】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ホットワイヤ方式のプラズマ溶接装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 プラズマ溶接装置
2 母材
3 溶融プール
4 ビード
5 プラズマアーク
10 溶接トーチ
11 タングステン電極
12 チップ
13 シールドキャップ
14 シールドボックス
15 シールドガス供給管
20 ワイヤ送給機
21 溶接ワイヤ
22 ワイヤスプール
23 送給ローラ
24 モータ
30 ワイヤ送給路
31 筐体
31a 本体容器
31b カバー
32 コンジットライナ
33 ワイヤノズル
34 空間
35 Oリング
36 ガイドローラ
37 給電棒
38 リリーフ孔
40 不活性ガス供給路
41 ガスチューブ
42 エルボ
50 プラズマ溶接電源
51 ホットワイヤ電源
52 ホットワイヤ電源




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12