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特開2024-179850組織の核酸の構成を解析するための解析プレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179850
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】組織の核酸の構成を解析するための解析プレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20241219BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241219BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099093
(22)【出願日】2023-06-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年~令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造推進事業 「1細胞遺伝子発現解析による組織微小環境情報の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真一
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 禎弘
(72)【発明者】
【氏名】今福 匡司
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029FA12
4B029GA03
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ02
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】空間的トランスクリプトーム解析のように位置情報を保持した組織核酸解析を、高い解像度でかつ従来の空間的トランスクリプトーム解析技術よりも安価に実施できる手段を提供すること。
【解決手段】本発明の解析プレートは、標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む標的捕捉オリゴが固定化された標的捕捉ビーズと、被捕捉配列、光切断部及び光バーコードを含む光切断性バーコードオリゴが固定化された光切断性バーコードビーズとがウェルに充填されたマイクロウェルプレートを含む。光切断性バーコードオリゴは、光切断部における切断により、光バーコード及び被捕捉配列を含む光バーコードオリゴを遊離する。好ましい態様において、光切断性バーコードビーズは、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを含み、光バーコードが、前記外観的特徴に対応した固有配列を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の核酸の構成を解析するための解析プレートであって、
表面に整列配置されたマイクロウェルを有するプレートと、
標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に複数固定化されてなる、標的捕捉ビーズと、
前記標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部及び光バーコードを含む光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に複数固定化されてなる、光切断性バーコードビーズと、
を含み、
1個のマイクロウェルが、少なくとも1個の標的捕捉ビーズ及び少なくとも1個の光切断性バーコードビーズを含み、
前記光切断性バーコードオリゴは、ビーズに固定化された5'末端から3'末端に向かって光切断部、光バーコード及び被捕捉配列をこの順序で含み、光切断部における切断により、光バーコード及び被捕捉配列を含む光バーコードオリゴを遊離可能であり、
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、標的捕捉ビーズごとに固有の配列からなる、前記解析プレート。
【請求項2】
プレート上のマイクロウェルの80%以上がそれぞれ1個以上の標的捕捉ビーズ及び1個以上の光切断性バーコードビーズを含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項3】
前記光切断部が、任意に置換された、o-ニトロベンジル、4-クマリニル、ピラニルメチル、アントラキノン、7-ニトロインドリニル、シンナモイル、ベンゾイン、及びp-ヒドロキシフェナシルから選択されるいずれかの構造を含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項4】
光切断性バーコードオリゴが、個々の光切断性バーコードビーズを識別するための、光切断性バーコードビーズごとに固有の配列を含む光切断性バーコードビーズ識別バーコードを、光切断部と被捕捉配列の間の任意の位置に含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項5】
標的捕捉オリゴが、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴを含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項6】
標的捕捉オリゴが、T細胞受容体(TCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するTCR遺伝子捕捉オリゴ、B細胞受容体(BCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するBCR遺伝子捕捉オリゴ、変異又は多型部位を含むゲノム部分配列と相補的な配列を標的捕捉配列として有する変異/多型捕捉オリゴ、及び非コードRNAの部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有する非コードRNA捕捉オリゴから選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項5記載の解析プレート。
【請求項7】
標的捕捉ビーズが、標的捕捉配列がポリTであるポリA核酸捕捉オリゴが複数固定化されたポリA核酸捕捉ビーズを含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項8】
標的捕捉ビーズが、
標的捕捉配列がTCR定常領域中の部分領域と相補的な配列であるTCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化された、TCR遺伝子捕捉ビーズ、
標的捕捉配列がBCR定常領域中の部分領域と相補的な配列であるBCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化された、BCR遺伝子捕捉ビーズ、
標的捕捉配列が変異又は多型部位を含むゲノム部分配列と相補的な配列である変異/多型捕捉オリゴが複数固定化された、変異/多型捕捉ビーズ、及び
標的捕捉配列が非コードRNAの部分領域と相補的な配列である非コードRNA捕捉オリゴが複数固定化された、非コードRNA捕捉ビーズ
から選択される少なくとも1種の標的捕捉ビーズをさらに含み、複数種類の標的捕捉ビーズを少なくとも1個ずつマイクロウェルに含む、請求項7記載の解析プレート。
【請求項9】
マイクロウェルがプレート上にハニカム状に整列配置される、請求項1記載の解析プレート。
【請求項10】
前記光切断性バーコードビーズは、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを含み、該複数種類の光切断性バーコードビーズがランダムな組み合わせでマイクロウェルに含まれ、光バーコードが、前記外観的特徴に対応した固有配列を含む、請求項1記載の解析プレート。
【請求項11】
前記外観的特徴が、蛍光及びサイズから選択される少なくとも1種である、請求項10記載の解析プレート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の解析プレートに光照射し、光切断性バーコードビーズから遊離した光バーコードオリゴを標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに結合させてなる、組織の核酸の構成を解析するための解析プレート。
【請求項13】
請求項10又は11記載の解析プレートに光照射し、光切断性バーコードビーズから遊離した光バーコードオリゴを標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに結合させた状態にある、光照射後の解析プレートと、光切断性バーコードビーズをマイクロウェルに添加後でかつ標的捕捉ビーズをマイクロウェルに添加前の状態のプレートを撮影した、マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成を確認するための顕微鏡画像とを含む、組織の核酸の構成を解析するための解析キット。
【請求項14】
組織の核酸を解析するためのデータを取得する方法であって、
請求項12記載の解析プレートのウェル面に組織切片を乗せた状態で組織切片を溶解処理することにより、組織切片に含まれる標的核酸を溶出させて、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉させる、標的捕捉工程、
解析プレートからビーズを回収し、標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖をそれぞれ合成した後、ビーズ識別バーコード及び標的核酸相補鎖を含む領域と、ビーズ識別バーコード及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域とをそれぞれ増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片及び光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る、核酸増幅工程、
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列を決定する、配列決定工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
請求項13記載の解析キットを用いて組織の核酸を解析する方法であって、
前記光照射後の解析プレートのウェル面に組織切片を乗せた状態で組織切片を溶解処理することにより、組織切片に含まれる標的核酸を溶出させて、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉させる、標的捕捉工程、
解析プレートからビーズを回収し、標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖をそれぞれ合成した後、ビーズ識別バーコード及び標的核酸相補鎖を含む領域と、ビーズ識別バーコード及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域とをそれぞれ増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片及び光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る、核酸増幅工程、
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列を決定する、配列決定工程、
標的増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列、光バーコード増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列及び光バーコード配列、並びに前記顕微鏡画像に示された各マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成に基づいて、各標的核酸を各マイクロウェルに紐づける、紐づけ工程
を含む、前記方法。
【請求項16】
組織の核酸の構成を解析するための解析プレート又は解析キットの製造方法であって、
表面にマイクロウェルが整列配置されたプレートを準備する工程A;
標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む複数分子の標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に結合した標的捕捉ビーズを作製する工程B;
前記標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部及び光バーコードを含む複数分子の光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に結合した光切断性バーコードビーズを作製する工程C;及び
光切断性バーコードビーズをプレートのマイクロウェルに充填した後、標的捕捉ビーズをマイクロウェルに充填する工程D
を含み、
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、標的捕捉ビーズごとに固有の配列からなる、前記方法。
【請求項17】
工程Cが、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを作製する工程であり、光バーコードが、該外観的特徴に対応した固有配列を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記外観的特徴が蛍光及びサイズであり、工程Cが、サイズが異なる第2のビーズのそれぞれを複数種類の蛍光物質で標識することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
工程Dは、光切断性バーコードビーズを充填後、マイクロウェルの顕微鏡画像を撮影し、次いで標的捕捉ビーズを充填することを含み、製造された解析プレートが前記顕微鏡画像と組み合わせて提供される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
工程Dは、光切断性バーコードビーズを充填後、マイクロウェルの蛍光顕微鏡画像を撮影し、次いで標的捕捉ビーズを充填することを含み、製造された解析プレートが前記蛍光顕微鏡画像と組み合わせて提供される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
工程Dの次に、プレートに光照射し、光バーコードオリゴを遊離させて標的捕捉オリゴに結合させる工程Eをさらに含む、請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の核酸の構成を解析するための解析プレート、並びに該解析プレートを用いて組織の核酸を解析するためのデータを取得する方法及び組織の核酸を解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、組織内の位置情報を保持したまま遺伝子発現を解析する空間的トランスクリプトーム解析が注目を集めている。支持体に固定化したバーコードオリゴヌクレオチドにより組織のmRNAを捕捉し、組織サンプル全体を網羅的に解析する技術をはじめとして様々な技術が開発されている。
【0003】
公知の技術例の1つとして、10x Genomics社のVisiumというプラットフォームが挙げられる(非特許文献1)。これは、直径55μmのスポットにバーコードを含むオリゴDNAを固定化した基盤に組織切片を貼り付け、組織細胞内のmRNAをオリゴDNAで捕捉し、cDNAを合成・増幅してシークエンスし、発現プロファイルを得る技術である。1種類のスポットには1種類のバーコードが付与されており、1スポットで平均1~10個の細胞を捕捉する。スポットは中央点が100μm間隔で6.5 mm x 6.5 mmのキャプチャーエリア内に整列配置されており、このエリアに載せた組織から5,000スポットの細胞を解析できる。しかしながらこの技術は、スポットサイズもスポット間の距離も大きいため、空間分解能(解像度)が低い。また、基盤上のオリゴをあらかじめシークエンスする必要があり、コスト的に非常に高額になる。
【0004】
他の技術例として、マサチューセッツ工科大学のグループが開発したSlide-seq(非特許文献2、3)がある。この技術では、多数のオリゴDNAを固定化した直径10μmの小さいビーズを敷き詰めた基盤を用いる。ビーズ上のオリゴには、ビーズごとに異なるバーコード配列が与えられており、まずそれぞれのビーズのバーコード配列をシークエンスし、ビーズごとの異なるバーコードの空間上の位置決めを行なう。その後、基盤に組織切片を貼り付け、組織細胞内のmRNAをオリゴDNAを介してビーズ上に捕捉する。その後、ビーズを回収し、cDNAを合成・増幅してシークエンスし、発現プロファイルを得る。得られた発現プロファイル情報をビーズの位置情報に応じて再構成することで、空間的なトランスクリプトーム情報が得られる。Visiumに比べて空間分解能が高く、高解像度で空間的トランスクリプトーム解析を行える利点があるが、この技術も、ビーズの場所とバーコードをマッピングした基盤の作製に非常にコストがかかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Stahl PL et al., Science, 353: 78-82, 2016
【非特許文献2】Rodriques SG et al., Science, 363: 1463-1467, 2019
【非特許文献3】Stickels RR et al., Nat Biotechnol, 39: 313-319, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、空間的トランスクリプトーム解析のように位置情報を保持した組織核酸解析を、高い解像度でかつ従来の空間的トランスクリプトーム解析技術よりも安価に実施できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、光照射でビーズから切断遊離するバーコードオリゴを、同じウェル内に存在するビーズ同士を紐づけるために利用するという着想を得て、5'末端に光切断部、3'末端にポリAを持たせたバーコードオリゴを固定化したビーズ(光切断バーコードビーズ)を、個々のビーズを識別するためのビーズ識別バーコードを有し、3'末端のポリTでmRNAを捕捉する捕捉オリゴを固定化したmRNA捕捉ビーズと組み合わせてウェルに充填したマイクロプレートを作製した。さらに鋭意研究を重ね、光切断バーコードビーズをサイズと蛍光で識別可能な複数種類のビーズとし、光照射で遊離するバーコードオリゴのバーコードにサイズと蛍光の組み合わせごとに固有の配列を持たせておき、かかる複数種類のビーズをランダムな組み合わせでマイクロプレートに充填して、ウェルの蛍光顕微鏡画像により各ウェルの光切断バーコードビーズ組成を把握し、この画像情報も紐づけに用いるという着想を得た。以上の鋭意研究をベースに、本願発明者らは、以下の態様を包含する本願発明を完成した。
【0008】
[1] 組織の核酸の構成を解析するための解析プレートであって、
表面に整列配置されたマイクロウェルを有するプレートと、
標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に複数固定化されてなる、標的捕捉ビーズと、
前記標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部及び光バーコードを含む光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に複数固定化されてなる、光切断性バーコードビーズと、
を含み、
1個のマイクロウェルが、少なくとも1個の標的捕捉ビーズ及び少なくとも1個の光切断性バーコードビーズを含み、
前記光切断性バーコードオリゴは、ビーズに固定化された5'末端から3'末端に向かって光切断部、光バーコード及び被捕捉配列をこの順序で含み、光切断部における切断により、光バーコード及び被捕捉配列を含む光バーコードオリゴを遊離可能であり、
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、標的捕捉ビーズごとに固有の配列からなる、前記解析プレート。
[2] プレート上のマイクロウェルの80%以上がそれぞれ1個以上の標的捕捉ビーズ及び1個以上の光切断性バーコードビーズを含む、[1]記載の解析プレート。
[3] 前記光切断部が、任意に置換された、o-ニトロベンジル、4-クマリニル、ピラニルメチル、アントラキノン、7-ニトロインドリニル、シンナモイル、ベンゾイン、及びp-ヒドロキシフェナシルから選択されるいずれかの構造を含む、[1]又は[2]記載の解析プレート。
[4] 光切断性バーコードオリゴが、個々の光切断性バーコードビーズを識別するための、光切断性バーコードビーズごとに固有の配列を含む光切断性バーコードビーズ識別バーコードを、光切断部と被捕捉配列の間の任意の位置に含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の解析プレート。
[5] 標的捕捉オリゴが、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の解析プレート。
[6] 標的捕捉オリゴが、T細胞受容体(TCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するTCR遺伝子捕捉オリゴ、B細胞受容体(BCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するBCR遺伝子捕捉オリゴ、変異又は多型部位を含むゲノム部分配列と相補的な配列を標的捕捉配列として有する変異/多型捕捉オリゴ、及び非コードRNAの部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有する非コードRNA捕捉オリゴから選択される少なくとも1種をさらに含む、[5]記載の解析プレート。
[7] 標的捕捉ビーズが、標的捕捉配列がポリTであるポリA核酸捕捉オリゴが複数固定化されたポリA核酸捕捉ビーズを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の解析プレート。
[8] 標的捕捉ビーズが、
標的捕捉配列がTCR定常領域中の部分領域と相補的な配列であるTCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化された、TCR遺伝子捕捉ビーズ、
標的捕捉配列がBCR定常領域中の部分領域と相補的な配列であるBCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化された、BCR遺伝子捕捉ビーズ、
標的捕捉配列が変異又は多型部位を含むゲノム部分配列と相補的な配列である変異/多型捕捉オリゴが複数固定化された、変異/多型捕捉ビーズ、及び
標的捕捉配列が非コードRNAの部分領域と相補的な配列である非コードRNA捕捉オリゴが複数固定化された、非コードRNA捕捉ビーズ
から選択される少なくとも1種の標的捕捉ビーズをさらに含み、複数種類の標的捕捉ビーズを少なくとも1個ずつマイクロウェルに含む、[7]記載の解析プレート。
[9] マイクロウェルがプレート上にハニカム状に整列配置される、[1]~[8]のいずれか1項に記載の解析プレート。
[10] 前記光切断性バーコードビーズは、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを含み、該複数種類の光切断性バーコードビーズがランダムな組み合わせでマイクロウェルに含まれ、光バーコードが、前記外観的特徴に対応した固有配列を含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の解析プレート。
[11] 前記外観的特徴が、蛍光及びサイズから選択される少なくとも1種である、[10]記載の解析プレート。
[12] [1]~[11]のいずれか1項に記載の解析プレートに光照射し、光切断性バーコードビーズから遊離した光バーコードオリゴを標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに結合させてなる、組織の核酸の構成を解析するための解析プレート。
[13] [10]又は[11]記載の解析プレートに光照射し、光切断性バーコードビーズから遊離した光バーコードオリゴを標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに結合させた状態にある、光照射後の解析プレートと、光切断性バーコードビーズをマイクロウェルに添加後でかつ標的捕捉ビーズをマイクロウェルに添加前の状態のプレートを撮影した、マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成を確認するための顕微鏡画像とを含む、組織の核酸の構成を解析するための解析キット。
[14] 組織の核酸を解析するためのデータを取得する方法であって、
[12]記載の解析プレートのウェル面に組織切片を乗せた状態で組織切片を溶解処理することにより、組織切片に含まれる標的核酸を溶出させて、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉させる、標的捕捉工程、
解析プレートからビーズを回収し、標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖をそれぞれ合成した後、ビーズ識別バーコード及び標的核酸相補鎖を含む領域と、ビーズ識別バーコード及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域とをそれぞれ増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片及び光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る、核酸増幅工程、
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列を決定する、配列決定工程
を含む、前記方法。
[15] [13]記載の解析キットを用いて組織の核酸を解析する方法であって、
前記光照射後の解析プレートのウェル面に組織切片を乗せた状態で組織切片を溶解処理することにより、組織切片に含まれる標的核酸を溶出させて、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉させる、標的捕捉工程、
解析プレートからビーズを回収し、標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖をそれぞれ合成した後、ビーズ識別バーコード及び標的核酸相補鎖を含む領域と、ビーズ識別バーコード及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域とをそれぞれ増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片及び光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る、核酸増幅工程、
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列を決定する、配列決定工程、
標的増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列、光バーコード増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列及び光バーコード配列、並びに前記顕微鏡画像に示された各マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成に基づいて、各標的核酸を各マイクロウェルに紐づける、紐づけ工程
を含む、前記方法。
[16] 組織の核酸の構成を解析するための解析プレート又は解析キットの製造方法であって、
表面にマイクロウェルが整列配置されたプレートを準備する工程A;
標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む複数分子の標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に結合した標的捕捉ビーズを作製する工程B;
前記標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部及び光バーコードを含む複数分子の光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に結合した光切断性バーコードビーズを作製する工程C;及び
光切断性バーコードビーズをプレートのマイクロウェルに充填した後、標的捕捉ビーズをマイクロウェルに充填する工程D
を含み、
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、標的捕捉ビーズごとに固有の配列からなる、前記方法。
[17] 工程Cが、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを作製する工程であり、光バーコードが、該外観的特徴に対応した固有配列を含む、[16]記載の方法。
[18] 前記外観的特徴が蛍光及びサイズであり、工程Cが、サイズが異なる第2のビーズのそれぞれを複数種類の蛍光物質で標識することを含む、[17]記載の方法。
[19] 工程Dは、光切断性バーコードビーズを充填後、マイクロウェルの顕微鏡画像を撮影し、次いで標的捕捉ビーズを充填することを含み、製造された解析プレートが前記顕微鏡画像と組み合わせて提供される、[17]記載の方法。
[20] 工程Dは、光切断性バーコードビーズを充填後、マイクロウェルの蛍光顕微鏡画像を撮影し、次いで標的捕捉ビーズを充填することを含み、製造された解析プレートが前記蛍光顕微鏡画像と組み合わせて提供される、[18]記載の方法。
[21] 工程Dの次に、プレートに光照射し、光バーコードオリゴを遊離させて標的捕捉オリゴに結合させる工程Eをさらに含む、[16]~[20]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空間的トランスクリプトーム解析のように位置情報を保持した組織核酸解析を、高い解像度でかつ従来の空間的トランスクリプトーム解析技術よりも安価に実施できる。ビーズ識別バーコードの多様性はバーコードの鎖長次第で大幅に高めることができるので、標的捕捉ビーズの種類と総数、及びマイクロプレートのウェル数の設計の自由度は非常に高く、組織切片のサイズと加工には柔軟に対応可能である。例えば、本発明の解析プレートを用いた組織核酸解析では、組織を一度メンブレンに接着させるので、ビーズを充填したマイクロウェルプレートの上に乗せる前に組織に対し様々な処理を行うことができる。メンブレンは様々な材質ものを利用できるので、例えばガラスメンブレンのような高温でも変形しない耐熱性のある材質のメンブレンを利用した場合には、組織を高温で処理することも可能である。
【0010】
従来技術であるVisiumとSlide-seqは、組織を直接基盤にかぶせるため、組織を前もって加工することができない。一方、本発明の解析プレートを用いた組織核酸解析技術では、組織をメンブレンにトラップし、固定、酵素処理、PCRなどメンブレンごとに処理できる。こうした処理により、遺伝子の増幅、DNA及びRNAの抽出などの加工が可能となり、その後のビーズへの核酸のキャプチャーにとって感度上昇等の有用な処理ができる。また、本発明による組織核酸解析技術はこれらの従来技術と比べてより簡便であり、コストも安価である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光切断バーコードによる標的捕捉ビーズの紐付けの概念図である。(a) マイクロウェルプレートの同一ウェル内に存在する複数の光切断性バーコードビーズ(図中では光バーコードビーズ)から光照射により切断遊離した光バーコード分子が、同一ウェル内の標的捕捉ビーズ(図中ではmRNA捕捉ビーズ)に結合する。細胞から遊離したmRNAも、標的捕捉ビーズに結合する。(b) 標的分子がmRNAおよび任意のDNA(ゲノムDNAの変異/多型部位など)である場合の一例。同一ウェル内に、複数の光切断性バーコードビーズとともにmRNA捕捉ビーズ及びDNA捕捉/光バーコードビーズが共存する。DNA捕捉/光バーコードビーズには、DNA捕捉オリゴと光切断性バーコードオリゴが固定化されている(光切断性バーコードオリゴを持っていないDNA捕捉ビーズを用いることも可能)。標的分子を捕捉したmRNA捕捉ビーズ及びDNA捕捉/光バーコードビーズ上のオリゴヌクレオチドをまとめてシークエンスする。(c) 光バーコードビーズ上の光切断性バーコードオリゴが被捕捉配列としてポリAを有し、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴが標的捕捉配列としてポリTを有する場合の一例。光照射により光バーコードビーズから光バーコードが遊離し、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴのポリTに結合する。
図2】ビーズ上での標的捕捉オリゴ及び光切断性バーコードオリゴの合成ステップを説明した図である。これらのオリゴを異なるビーズ上に固定化する場合は、各ビーズ上で各オリゴを合成すればよい。
図3】標的分子に応じた標的捕捉オリゴの末端構造。
図4】光切断して遊離した光バーコードが他のビーズ上のmRNA捕捉オリゴに結合することを確認した結果である。
図5】実施例で作製した、サイズと蛍光により識別可能な光切断性バーコードビーズの構造及び機能を説明した図である。
図6】ハニカムウェルプレートへの、光切断性バーコードビーズ及び標的捕捉ビーズの充填。複数種類の光切断性バーコードビーズは、ランダムな組み合わせでウェルに充填される。標的捕捉ビーズは、大部分のウェルに1個のビーズが入るように充填される。
図7】実施例で作製した解析プレートを用いた組織解析の手順を説明した図である。
図8】ハニカムウェルプレートのウェルの構造。
図9】蛍光標識した光バーコードビーズ及びmRNA捕捉ビーズを添加したハニカムウェルプレートのウェルの蛍光顕微鏡画像。左はmRNA捕捉ビーズ添加前、右はmRNA捕捉ビーズ添加後。
図10図7に示した手順で組織サンプルのmRNAを解析プレートウェル内のmRNA捕捉ビーズに捕捉させ、ビーズを回収して発現プロファイルを解析し、得られた発現プロファイルを二次元上にプロットした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の解析プレートは、組織の核酸の構成を解析するための解析プレートである。解析対象とする核酸(標的核酸、ないしは標的分子)には、mRNA、非コードRNA等のRNA、及びゲノムDNA等のDNAが包含される。本発明の1つの態様において、標的捕捉オリゴにより捕捉する標的核酸は、ポリAを有する核酸(ポリA核酸)を含む。ポリA核酸という語には、mRNA等のポリAを有する天然の核酸分子、及び、人為的にポリAを付加した核酸分子(例えば、ゲノムDNA断片)が包含される。ゲノムDNA断片という語には、ゲノムDNAを断片化したものの他、ゲノムDNAを鋳型としてPCR等により増幅したゲノムDNA増幅断片も包含される。
【0013】
該解析プレートは、表面に整列配置されたマイクロウェルを有するプレート(マイクロウェルプレート、又はマイクロプレートともいう)と、標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に複数固定化されてなる標的捕捉ビーズと、光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に複数固定化されてなる光切断性バーコードビーズ(光バーコードビーズともいう)とを含み、1個のマイクロウェルが、少なくとも1個の標的捕捉ビーズ及び少なくとも1個の光切断性バーコードビーズを含む。プレート上のマイクロウェルの80%以上、例えば85%以上、又は90%以上が、それぞれ1個以上の標的捕捉ビーズ及び1個以上の光切断性バーコードビーズを含むことが好ましい。
【0014】
プレート上のマイクロウェルの配置は、一般的なELISAプレートのように縦横の両方向に整列した配置でもよいし、図8、9に示すようなハニカム状の配置でもよい。プレート表面のウェル形状は円形でもよいし、正方形、長方形、正六角形等の多角形でもよい。組織サンプルの核酸を高い解像度で解析するためには、プレート表面のウェル形状が円形又は正六角形、好ましくは正六角形であるウェルがハニカム状に整列配置されたプレートを用いることが好ましい。ウェル全体の形状は、平底の円柱状又は角柱状のような一般的な形状のほか、底面部分がU字状のもの、V字状のもの、半球状のものが挙げられる。
【0015】
プレート上のウェルの個数は、プレートの大きさや解析の目的、解析対象の組織サンプルの種類等に応じて適宜設定可能であるが、通常は10000個程度以上、例えば100000個程度以上である。ウェルの大きさは、標的捕捉ビーズ及び光切断性バーコードビーズのサイズ、解析対象の組織サンプルの種類等に応じて適宜設計できるが、通常は、ウェル直径が35~60μm程度、深さが40~70μm程度である。ここでウェル直径とは、多角形の場合は内接円の直径を意味し、正六角形のウェルがハニカム状に整列配置されたハニカムウェルプレートの場合は図8のAのサイズである。また、かかるハニカムウェルプレートの場合、隔壁の厚さ(図8のB)は、使用に耐える強度を保てる程度の厚さがあればよく、例えば10~20μm程度である。
【0016】
マイクロプレートの材質は、オリゴヌクレオチドが透過しない材質であれば特に限定されず、マイクロプレート式のシングルセル解析デバイス等において用いられる種々の材質を用いることができる。成形の容易さとビーズ回収の便宜から、その材質としては、弾性のある高分子樹脂が好ましい。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)(アクリル樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが例示される。
【0017】
マイクロプレートの作製方法は公知であり、本発明の解析プレートに使用するマイクロプレートはいかなる手法によって作製してもよい。例えば、マイクロプレートの母型を準備しておき、この母型に例えば熱硬化性樹脂を注いだのち、熱硬化性樹脂を減圧下でヒータ等によって加熱・硬化して成形することによって製造できる。あるいは、熱硬化性樹脂の代わりに、光硬化性樹脂を用いてもよい。光硬化性樹脂は紫外線等の光を照射して成形することによって硬化するものである。あるいはマイクロプレートは、抜き勾配を有する母型と離型剤を使用して、熱可塑性樹脂を減圧下で射出成形することによっても製造できる。またウェルは、ナノインプリントや、切削加工等の方法により固相基板上に成形されてもよい。あるいはまた、市販のマイクロウェルプレートを本発明のプレート部分に用いることも可能である。
【0018】
マイクロプレートが疎水性の材質からなる場合、少なくともウェルの内壁(底面も含む)は、親水化処理されることが好ましい。親水化処理には、例えば親水性樹脂の塗布、光触媒作用を利用した表面処理、アルカリケイ酸塩等の無機系コート処理、エッチング処理、プラズマクラスター処理等の方法を用いることができる。
【0019】
本発明において、「標的捕捉ビーズ」という語は、標的捕捉オリゴが固定化され、かつ、光切断性バーコードオリゴが固定化されていないビーズを指す。「光切断性バーコードビーズ」という語は、光切断性バーコードオリゴが固定化されたビーズを指す。後述する通り、光切断性バーコードビーズには、光切断性バーコードオリゴに加えて標的捕捉オリゴがさらに固定化されていてもよい。
【0020】
標的捕捉ビーズ及び光切断性バーコードビーズのビーズ部分を構成する第1及び第2のビーズの材質は特に限定されず、核酸解析キットの核酸捕捉担体やイムノアッセイキットの固相粒子担体に用いられる種々の材質を採用できる。ビーズの材質の例として、ポリスチレン、ポリプロピレン等の樹脂製のビーズ等の有機ポリマー製ビーズ、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)等の半導体材料でできた量子ドット(半導体ナノ粒子)等の半導体製ビーズ、金等の金属製ビーズ、シリカ製ビーズなどの重合体ビーズ等を挙げることができる。具体例として、セルロース、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ガラス、シリカゲル、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルおよびアクリルアミドの共重合体、ジビニルベンゼン架橋ポリスチレン等(Merrifield Biochemistry 1964,3,1385-1390参照)、ポリアクリルアミド、ラテックスゲル、ポリスチレン、デキストラン、ゴム、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、セルロース、天然海綿、シリカゲル、ガラス、金属プラスチック、セルロース、架橋デキストラン(例えばSephadex(商品名))およびアガロースゲル(Sepharose(商品名))等の材質のビーズを挙げることができる。ストレプトアビジン等の特異結合分子がコートされたビーズを用いた場合には、ビオチン等の特異結合パートナー分子を利用して所望のオリゴや蛍光色素等の標識物質を容易にビーズに結合できる。
【0021】
第1のビーズのサイズは、組織サンプルからマイクロウェル内に溶出される標的核酸を捕捉できる程度の分子数の標的捕捉オリゴを結合可能な大きさであればよい。特に限定されないが、直径10~40μm程度、例えば20~40μm程度のビーズを好ましく使用できる。
第2のビーズのサイズも特に限定されないが、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを用いる場合には、複数種類の当該ビーズをランダムな組み合わせでウェルに充填した上で、各ウェルにさらに標的捕捉ビーズを充填する必要があることから、比較的多数のビーズが余裕をもってウェルに入るよう、ウェルサイズに対して十分に小さいビーズを用いることが好ましい。例えば、第2のビーズとしては、直径1~15μm程度、例えば1~10μmのビーズを好ましく用いることができる。あるいは、第1のビーズの直径又はウェル直径の1/3以下の直径のものを第2のビーズとして選択できる。
【0022】
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴは、標的核酸を捕捉するための標的捕捉配列と、個々の標的捕捉ビーズを識別するためのビーズ識別バーコードとを含むオリゴヌクレオチドである。標的捕捉オリゴは、5'末端でビーズに固定化されており、3'末端部に標的捕捉配列を有する。以下、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴが有するビーズ識別バーコードを、標的捕捉ビーズ識別バーコードということがある。
【0023】
標的捕捉配列は、標的核酸の種類に応じて適宜設計する。標的捕捉配列の構造例を図3に示す。標的核酸がmRNAのようなポリA核酸の場合、標的捕捉配列としてポリTを有するポリA核酸捕捉オリゴを好ましく用いることができる。ポリTの鎖長は、ポリA核酸の最も代表的な例であるmRNAのポリAテイルとハイブリダイズしてmRNAを捕捉できる長さであればよく、例えば15~40塩基程度であってよい。ポリTの3'末端には、所望により1~2塩基程度のアンカー配列が付加されていてもよい。アンカー配列としては、V又はVN(V = A, G又はC; N = any base (A, T, C又はG))を好ましく用いることができる。
【0024】
ポリA核酸捕捉オリゴは、人為的にポリAを付加する加工を行った核酸も捕捉できる。例えば、ゲノムDNA断片の3'末端にポリAを付加する加工を行い、mRNAと同時にポリA核酸捕捉オリゴにより捕捉してもよい。ゲノムDNA断片にポリA付加する場合、例えば、ポリAを含むオリゴヌクレオチドとTn5トランスポザーゼを複合体化したトランスポゾームを使用し、ランダムに断片化したDNAの末端にポリAを付加する方法や、ゲノムDNAを鋳型とし、5'側にポリTを持たせたプライマーを用いてin situ PCR等のPCRを行い、ゲノムDNA増幅断片の3'末端にポリAを付加する方法など、公知の様々な方法によりゲノムDNA断片の3'末端にポリAを付加することができる。
【0025】
なお、本発明において、ポリA核酸捕捉オリゴをmRNA捕捉オリゴといい、ポリA核酸捕捉ビーズをmRNA捕捉ビーズということがあるが、mRNA捕捉オリゴ及びmRNA捕捉ビーズがmRNAと同時に他のポリA核酸を捕捉してもよい。
【0026】
6~15塩基程度のランダムな配列を標的捕捉配列として有する標的捕捉オリゴは、mRNAをポリA以外の任意の部位で捕捉するオリゴとして利用可能である。ランダム配列を標的捕捉配列として有する標的捕捉オリゴは、mRNAのみならず、非コードRNAやゲノムDNA断片等の様々な核酸を捕捉し得るが、核酸を捕捉して配列決定後にインフォマティックスでRNAとゲノムの区別をつけることができる。すなわち、参照ヒトゲノム配列との照合と、コピー数の違い(ゲノム配列の場合はどの領域でもコピー数がほぼ一定であるのに対し、mRNA配列の場合は遺伝子発現量が異なるのでコピー数にばらつきがある)により、ゲノム配列とmRNA配列を区別できる。
【0027】
特定のmRNA配列中の所望の領域に対して相補的な配列を標的捕捉配列として有する標的捕捉オリゴを使用し、種類を限定してmRNAを捕捉することも可能である。この場合の標的捕捉配列は、所望の領域への特異性を発揮できる鎖長であればよく、例えば15~50塩基程度であってよい。ポリA以外の所望の領域で特定のmRNAを捕捉する標的捕捉オリゴの具体例として、T細胞受容体(TCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するTCR遺伝子捕捉オリゴや、B細胞受容体(BCR)定常領域中の部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有するBCR遺伝子捕捉オリゴ等を挙げることができる。
【0028】
その他の標的捕捉オリゴの例として、変異(mutation)又は多型(variant)部位を含むゲノム部分配列と相補的な配列を標的捕捉配列として有する変異/多型捕捉オリゴや、非コードRNAの部分領域と相補的な配列を標的捕捉配列として有する非コードRNA捕捉オリゴ等を挙げることができる。この場合も、標的捕捉配列の鎖長は、ゲノム部分配列や非コードRNA部分領域への特異性を発揮できる鎖長であればよく、例えば15~40塩基程度であってよい。なお、変異又は多型部位を含むゲノム部分配列は、上記したように、3'末端にポリAを付加してポリA核酸捕捉オリゴにより捕捉することも可能である。なお、本発明において、多型(variant)という語はポリモルフィズム(polymorphism)を包含する。
【0029】
1つの態様において、標的捕捉オリゴは、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴを含み、さらに、TCR遺伝子捕捉オリゴ、BCR遺伝子捕捉オリゴ、変異/多型捕捉オリゴ、及び非コードRNA捕捉オリゴから選択される少なくとも1種を含んでいてよい。別の1つの態様において、標的捕捉オリゴは、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴ、TCR遺伝子捕捉オリゴ、BCR遺伝子捕捉オリゴ、変異/多型捕捉オリゴ、及び非コードRNA捕捉オリゴから選択される少なくとも1種を含む。
【0030】
本発明の解析プレートでは、1個の標的捕捉ビーズ上に1種類の標的捕捉オリゴのみが固定化されていてもよいし、2種類以上の標的捕捉オリゴが固定化されていてもよい。例えば、1個の標的捕捉ビーズ上に、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴのみが固定化されていてもよいし、1個の標的捕捉ビーズ上に、ポリTを標的捕捉配列として有するポリA核酸捕捉オリゴと、TCR遺伝子捕捉オリゴ、BCR遺伝子捕捉オリゴ、変異/多型捕捉オリゴ、及び非コードRNA捕捉オリゴ等から選択される1種類以上の他の標的捕捉オリゴとが固定化されていてもよい。
【0031】
固定化されている少なくとも1種の標的捕捉オリゴの種類が同一である標的捕捉ビーズを同じ種類の標的捕捉ビーズとし、固定化されている少なくとも1種の標的捕捉オリゴの種類が異なっている標的捕捉ビーズを異なる種類の標的捕捉ビーズとすると、本発明の解析プレートは、1種類以上の標的捕捉ビーズがウェルに充填されてなる。すなわち、本発明の解析プレートは、1種類の標的捕捉ビーズのみがウェルに充填されていてもよいし、2種類以上の標的捕捉ビーズがウェルに充填されていてもよい。1つの態様において、標的捕捉ビーズは、標的捕捉配列がポリTであるポリA核酸捕捉オリゴが複数固定化されたポリA核酸捕捉ビーズを含み、さらに、TCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化されたTCR遺伝子捕捉ビーズ、BCR遺伝子捕捉オリゴが複数固定化されたBCR遺伝子捕捉ビーズ、変異/多型捕捉オリゴが複数固定化された変異/多型捕捉ビーズ、及び非コードRNA捕捉オリゴが複数固定化された非コードRNA捕捉ビーズから選択される少なくとも1種類のビーズをさらに含んでいてよい。別の1つの態様において、標的捕捉ビーズは、標的捕捉配列がポリTであるポリA核酸捕捉オリゴが複数固定化されたポリA核酸捕捉ビーズ、TCR遺伝子捕捉ビーズ、BCR遺伝子捕捉ビーズ、変異/多型捕捉ビーズ、及び非コードRNA捕捉ビーズから選択される1種類以上のビーズを含む。2種類以上の標的捕捉ビーズがウェルに充填されている解析プレートにおいては、プレート上のマイクロウェルの80%以上、例えば85%以上、又は90%以上が、2種類以上の標的捕捉ビーズを少なくとも1個ずつと、1個以上の光バーコードビーズとを含んでいてよい。
【0032】
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、標的捕捉ビーズごとに固有の配列からなる。1個の標的捕捉ビーズ上に存在する複数分子の標的捕捉オリゴは、同一の配列からなるビーズ識別バーコードを有する。ビーズ識別バーコードの長さは、解析プレートのウェル数やウェルに充填する標的捕捉ビーズの総数などに応じて十分な多様性を持つように適宜設定できるが、一般的には10~30塩基長程度である。ビーズ識別バーコードの塩基数がn個の場合、4n種類の多様性のあるバーコードを生成できるので、4n個のビーズを識別可能である。また、下記実施例のビーズ合成参考例のように、9塩基程度の適当な長さのバーコード1~3をそれぞれ96種類ずつランダムに組み合わせてオリゴを合成した場合、約90万種類の多様性のあるバーコードを生成できるので、約90万個のビーズを識別可能である。
【0033】
標的捕捉オリゴには、捕捉した標的核酸を増幅するときの便宜のため、ビーズ識別バーコードの5'側にアダプター配列を有することが好ましい。図1cにおけるUniversalが当該アダプター配列に該当する。アダプター配列は、核酸増幅反応において一方のプライマーを設定する領域として利用できる。また、所望により、標的核酸オリゴ分子ごとに異なったランダムな配列からなる分子バーコード(Unique Molecular Identifier; UMIとも呼ばれる)を、アダプター配列と標的捕捉配列との間の任意の位置に含んでいてよい。配列決定のために増幅した増幅産物が同一の分子バーコード配列を有するか否かによって、同一の標的核酸分子に由来する増幅産物であるかどうかを知ることができる。
【0034】
光切断性バーコードビーズ上の光切断性バーコードオリゴは、標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部、及び光バーコードを含むオリゴヌクレオチドである。該オリゴは5'末端でビーズに固定化されており、5'末端から3'末端に向かって光切断部、光バーコード及び被捕捉配列をこの順序で含む。該オリゴの3'末端部に被捕捉配列が存在する。また、光切断性バーコードオリゴは、光切断部と被捕捉配列の間の任意の位置に1つ以上のさらなるエレメントを含んでいてもよい。さらなるエレメントの例としては、個々の光切断性バーコードビーズを識別するための、光切断性バーコードビーズごとに固有の配列を含む光切断性バーコードビーズ識別バーコード、及び、光切断性バーコードオリゴ分子ごとに異なったランダムな配列からなる分子バーコード等が挙げられる。
【0035】
光切断部は、特定の波長の光照射により切断ないし開裂し、下流のオリゴヌクレオチド鎖を遊離可能な構造であれば特に限定されない。本発明において光切断部に利用できる、オリゴヌクレオチドに導入可能な光切断化合物は、従来より種々のものが知られ、市販もされている。そのような光切断化合物の報告例としては以下の文献が挙げられる。
- Olejnik J et al., Nucleic Acids Research, 26(15) (1998) 3572-3576.
- Shen W et al., Acta Biomaterialia, 115 (2020) 75-91
- Xiao P et al., Progress in Polymer Science, 74 (2017) 1-33
- Hausch, F., Jaeschke, A., Nucleic Acids Research 28 (2000) e35.
- Hausch, F., Jaeschke, A., Tetrahedron 57 (2001) 1261-1268.
- Wenzel, T., Elssner, T., Fahr, K., Bimmler, J., Richter, S., Thomas, I., Kostrzewa, M., Nucleosides, Nucleotides & Nucleic Acids 22 (2003) 1579-1581.
- Dell'Aquila, Christelle; Imbach, Jean-Louis; Rayner, Bernard, Tetrahedron Letters 38(30) (1997) 5289-5292
- Ordoukhanian, Phillip; Taylor, John-Stephen. Journal of the American ChemicalSociety 117(37) (1995) 9570-1.
- Saran, Dayal; Burke, Donald, H., Bioconjugate Chemistry 18(1) (2007) 275-279.
- Piggott, Andrew, M.; Karuso, Peter, Tetrahedron Letters 46(47) (2005) 8241-8244.
- 特許文献例として、WO 92/002528、WO 07/082713、US 5,258,506、WO 2016/079078、WO 2017/024298、JP 2022-130644 A、WO 2018/119063、WO 2018/118759、WO 2018/085599、WO 2017/079593、WO 2015/128272、JP 6194894 B2、WO 2014/053397、JP 6048975 B2、WO 2007/000669、JP 5635130 B2、JP 5457222 B2、JP 5453132 B2、JP 4147230 B2
【0036】
本発明における光切断部は、例えば、任意に置換された、o-ニトロベンジル(2-ニトロベンジル)、4-クマリニル、ピラニルメチル、アントラキノン、7-ニトロインドリニル、シンナモイル、ベンゾイン、及びp-ヒドロキシフェナシルから選択されるいずれかの構造を含むものでありうる。
【0037】
1つの態様において、任意に置換されたo-ニトロベンジル構造は、ベンゼン環において任意に置換された、α置換-2-ニトロベンジル構造であり、これは長波長紫外線で切断可能な構造として知られている。α置換基の例としては、水酸基と反応するホスホアミダイト、アミノ基と反応するN-ヒドロキシスクシンイミドカルボネ-ト、チオ-ル基と反応するハロゲン等が挙げられる。
【0038】
光切断部の具体的構造例を挙げると、特に好ましい例として、Olejnik J et al.(上掲)に記載された、下記のo-ニトロベンジル構造が挙げられる。
【0039】
【化1】
【0040】
構造式中、アスタリスクは、他の構造(スペーサーないしリンカー、特異結合分子等)への結合を省略していることを表している。右下のリン酸基より先は、オリゴヌクレオチド構造である。上記の構造は、300-350nmのUV波長の光照射により、式中の矢印で示した結合部分が開裂し、オリゴヌクレオチドを遊離する。
【0041】
その他の具体的構造例としては、以下のものが挙げられる。これらは光切断部の構造の公知例の一部を挙げたものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0042】
Shen W et al.(上掲)に開示される、下記のo-ニトロベンジル構造(切断波長365nm)及びクマリン構造(切断波長≧365nm):
【0043】
【化2】
【0044】
Xiao P et al.(上掲)に開示される、下記のo-ニトロベンジル構造及びp-ヒドロキシフェナシル構造(それぞれ併記されている波長で切断可能):
【0045】
【化3】
【0046】
WO 2015/128272に開示される、下記の光開裂性部分の構造(300-400nm程度の波長で開裂)。式中の破線は、光開裂性部分が結合し得る他の成分(特異的結合部分、リンカーなど)への結合を省略していることを表している。
【0047】
【化4】
【0048】
光切断性バーコードオリゴの3'末端に存在する被捕捉配列は、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴが有する捕捉配列と相補的である。被捕捉配列の鎖長は、捕捉配列とハイブリダイズする鎖長であればよく、捕捉配列と同一でもよいし異なっていてもよい。
【0049】
光切断性バーコードオリゴは、光照射により光切断部で切断され、光バーコード及び被捕捉配列を含む光バーコードオリゴが遊離する。遊離した光バーコードオリゴは、その3'末端部にある被捕捉配列によって、同一ウェル内にある標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉される。
【0050】
光バーコードは、プレート上のウェルの位置と、標的捕捉ビーズに捕捉された標的核酸を紐づける、紐づけバーコードとして機能する。1個の光切断性バーコードビーズ上にある光切断性バーコードオリゴは、同一配列の光バーコードを有する。
【0051】
本発明では、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを用いることが好ましい。すなわち、本発明の解析プレートの好ましい態様において、光切断性バーコードビーズは、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを含み、これら複数種類の光切断性バーコードビーズがランダムな組み合わせでマイクロウェルに含まれ、光バーコードが、ビーズの外観的特徴に対応した固有配列を含む。
【0052】
外観的特徴は、例えば、蛍光及びサイズ(ビーズ直径)から選択される少なくとも1種である。第2のビーズとしてサイズが異なるビーズを使用し、各サイズのビーズに複数種類の蛍光色素をそれぞれ結合させ、かつ、光切断性バーコードオリゴを各ビーズ上に固定化することにより、サイズ及び蛍光により識別可能な複数種類の光切断性バーコードビーズを調製できる。ビーズサイズを2種類(大小)とし、蛍光色素を4種類使用した場合、サイズ及び蛍光により識別可能な8種類の光切断性バーコードビーズが得られる。8種類の光切断性バーコードビーズを用いた場合には、約12,000ウェルの解析プレートに対応できる。ビーズサイズや蛍光色素を増やすなどして多様性をより高めることでより多くのウェル数に対応できる。下記実施例では、ビーズサイズが大(直径7μm)、中(直径5μm)、小(直径2μm)の3通り、蛍光色素を4種類使用しているが、互いに識別可能である限り、ビーズサイズを4通り以上とする、蛍光色素を5種類以上とする等、ウェル数に応じて自由に設計できる。なお、7種類~12種類程度の光切断性バーコードビーズを用いれば、一般的な組織サンプルの解析には十分に対応可能である。
【0053】
この態様では、ビーズの外観的特徴に対応した固有配列を光バーコードとして利用する。例えば、光切断性バーコードビーズを蛍光標識及びサイズにより識別可能とした場合には、蛍光及びサイズの組み合わせごとに異なる固有配列を光バーコードに付与する。具体的には、緑色・大ビーズには固有配列1、赤色・大ビーズには固有配列2、青色・大ビーズには固有配列3、緑色・小ビーズには固有配列4、のように付与する。このように、光切断性バーコードビーズの外観的特徴ごとに異なる光バーコードを持たせることで、ビーズの外観情報がヌクレオチド配列情報に変換される。ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉された光バーコードオリゴを鋳型として増幅産物を得た場合、光バーコードの配列によって、その増幅産物がどの外観を有する光切断性バーコードビーズに由来するか(鋳型となった光バーコードオリゴ分子がどの外観を有する光切断性バーコードビーズから遊離したか)を特定できる。
【0054】
光切断性バーコードビーズには、標的核酸を捕捉するための標的捕捉オリゴがさらに固定化されていてもよい。この場合、光切断性バーコードビーズ上の標的捕捉オリゴに含まれるビーズ識別バーコードは、当該標的捕捉オリゴが結合している光切断性バーコードビーズを識別するためのバーコードとして機能する。光切断性バーコードビーズ上に固定化された標的捕捉オリゴについての、ビーズ識別バーコードの機能以外の特徴及び条件等は、標的捕捉ビーズ上に固定化された標的捕捉オリゴと同様である。光切断性バーコードオリゴが、光切断性バーコードビーズ識別バーコードを有している場合には、当該光切断性バーコードビーズ識別バーコードと標的捕捉オリゴ中のビーズ識別バーコードは、同一配列でもよいし異なる配列でもよい。
【0055】
オリゴヌクレオチドをビーズ上に固定化する方法としては、ビーズ上でオリゴを合成する方法と、別途合成したオリゴをビーズ上に結合させる方法がある。下記実施例及び図2には、前者の方法の一例が示されている。
【0056】
第1のビーズ上での標的捕捉オリゴの合成は、例えば次のように実施できる。まず、第1のビーズ上に任意のオリゴヌクレオチドを結合させる。ストレプトアビジン等の特異結合分子がコートされたビーズを用いた場合には、ビオチン等の特異結合パートナー分子を5'末に結合させたオリゴヌクレオチドをビーズと混合することで、容易にオリゴヌクレオチドを結合できる。オリゴ結合後のビーズ約105~107個を96等分し、96ウェルプレートのウェルに分注する。次いで、5'-[2ndプライマーアニール部]-[96種類のバーコード配列]-[ビーズ上のオリゴと相補的な配列]-3'の構造を有する96種類の1stプライマーを、ウェルに1種類ずつ添加し、熱サイクル反応によりビーズ上のオリゴを伸長させる(1段階目の反応)。ビーズを回収、洗浄後、96ウェルプレートに分注し、2段階目の伸長反応を行う。2段階目の反応には、1stプライマーとは異なる96種類のバーコード配列を含む、5'-[3rdプライマーアニール部]-[96種類のバーコード配列]-[2ndプライマーアニール部と相補的な配列]-3'の構造を有する96種類の2ndプライマーを使用し、1段階目と同様に1種類ずつウェルに添加して、熱サイクル反応によりビーズ上のオリゴを伸長させる。このようにしてn段階目まで伸長反応を行うことで、96n種類の異なるビーズ識別バーコードを含むオリゴが固定化された96n種類のビーズを作製できる。mRNAを標的核酸とするトランスクリプトーム解析の場合には、3~4段階程度の反応を行えば十分であるが、解析の目的等に応じて5段階ないしそれ以上の伸長反応を行ってバーコードの多様性をさらに高めてもよい。最終段階の反応では、プライマーの5'末端に標的捕捉配列と相補的な配列を持たせることで、3'末端に標的捕捉配列を持つ標的捕捉オリゴをビーズ上に合成できる。標的捕捉オリゴに分子バーコード等の他のエレメントを持たせる場合には、いずれかの段階で使用するプライマーに他のエレメントと相補的な配列を組み込めばよい。なお、上記の説明では各段階で96種類の異なるバーコード配列を利用しているが、n個のバーコード配列の組み合わせが完全に一致するビーズが生じなければ差し支えないので、各段階において一部のウェルでバーコード配列に重複があってもよく、各段階で90種類程度以上のプライマーを使用すればよい。
【0057】
第2のビーズ上での光切断性バーコードオリゴの合成も、上記に準じて実施できる。第2のビーズ上には、光切断部を有するオリゴヌクレオチドを結合させ、このオリゴに対して、96種類のバーコード配列を含むプライマーを各段階で用いてn段階目まで伸長反応を行う。最後のn段階目では、プライマーの5'末端に被捕捉配列と相補的な配列(すなわち、標的捕捉配列の一部又は全長と同じ配列)を持たせることで、3'末端に被捕捉配列を持ち、96n種類の異なるバーコードを含む光切断性バーコードオリゴが固定化された96n種類のビーズを作製できる。このバーコードを光バーコードとして利用してもよいし、あるいは、このバーコードは光切断性バーコードビーズ識別バーコードとして利用し、これとは別の光バーコードを持たせてもよい。後者の例として、外観的特徴により識別可能な光切断性バーコードビーズを12種類(サイズ3通り、蛍光4種)作製する場合には、光バーコード配列は12種類あればよいので、ビーズの種類ごとに分けてn段階のオリゴ合成を行い、n段階目において、12種類の光バーコード配列のうちのいずれか1種の相補配列を持たせたプライマーを用いることにより、96n種類の異なるビーズ識別バーコードと、12種類の外観的特徴のそれぞれに対応する固有配列(光バーコード)とを含む光切断性バーコードオリゴが固定化された、光切断性バーコードビーズを作製できる。ビーズへの蛍光物質の結合は、例えば、別途合成したオリゴをビーズ上に結合させる方法と同様にして実施できる。
【0058】
別途合成したオリゴをビーズ上に結合させる方法では、標的捕捉オリゴ及び光切断性バーコードオリゴを常法により合成し、第1及び第2のビーズにそれぞれ結合させればよい。ストレプトアビジン等の特異結合分子がコートされたビーズを用いた場合には、ビオチン等の特異結合パートナー分子を標的捕捉オリゴ及び光切断性バーコードオリゴの5'末端に持たせ、ビーズと混合すればよい。蛍光標識した光切断性バーコードビーズを作製する場合には、3'末端に蛍光物質を含み、5'末端に特異結合パートナー分子を含むオリゴヌクレオチドを合成し、光切断性バーコードオリゴと混合してビーズに添加し反応させればよい。ビーズとオリゴの混合比は特に限定されないが、ビーズが結合できるオリゴ量の20~30倍程度のオリゴをビーズに添加すればよい。
【0059】
標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴは、光切断により同じウェル内で生じる光バーコードオリゴと、組織サンプルから解析プレートのウェル内に溶出される標的核酸を捕捉する必要がある。同一ウェル内で生じる光バーコードオリゴによって標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴの末端が飽和してしまわないように、光切断性バーコードビーズ上に固定化する光切断性バーコードオリゴ分子の量を調節する。下記実施例のように、標的核酸としてmRNAを捕捉するmRNA捕捉ビーズと、12種類(サイズ3通り×蛍光4種)の光切断性バーコードビーズを充填したプレートを作製する場合、最大で10個程度の光切断性バーコードビーズが1つのウェルに入りうるが、このようなウェルにおいて光切断により生じる光バーコードオリゴの分子数がmRNA捕捉ビーズ上のmRNA捕捉オリゴの分子数の0.1%程度以下となるように、各ビーズに固定化するオリゴ量を調節してよい。1個のビーズ上に固定化するオリゴの分子数は、解析対象の標的核酸の種類、解析の目的等に応じて自由に設計可能であり、特に限定されないが、mRNA捕捉ビーズの場合はmRNA捕捉オリゴを概ね100万分子程度以上、光切断性バーコードビーズは光切断性バーコードオリゴを概ね1万分子程度以上としてよい。
【0060】
マイクロウェルプレートにビーズを添加する際は、光切断性バーコードビーズを先に添加する。疎水性の材質からなるプレートを用いる場合には、ウェル面(ウェル内壁及び底面も含む)を親水化処理した後、速やかにビーズを添加する。外観的特徴により識別可能な複数種類の光切断性バーコードビーズを用いる場合、複数種類の該ビーズをほぼ同数ずつバッファー中に添加して混合し、プレートのウェル数に対し20~40倍程度の個数のビーズをプレートのウェル面に添加すればよい。自由落下により、ランダムな組み合わせでウェル内に光切断性バーコードビーズが充填される。ウェルに入らなかったビーズは、ウェル表面を穏やかに洗浄して除去する。
【0061】
また、外観的特徴により識別可能な複数種類の光切断性バーコードビーズを用いる場合においては、該ビーズを添加後、標的捕捉ビーズを添加する前に、マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成を確認できる顕微鏡画像を撮影する。外観的特徴の1つとして蛍光を利用した場合には、蛍光色を判別できるよう、蛍光顕微鏡画像を撮影する。1つの態様において、光切断性バーコードビーズ組成は、光切断性バーコードビーズの組み合わせ(各ウェルにどの種類の光切断性バーコードビーズが入っているか)である。別の態様において、光切断性バーコードビーズ組成は、光切断性バーコードビーズの組み合わせ及び各種類のビーズの個数(各ウェルにどの種類の光切断性バーコードビーズが何個ずつ入っているか)である。
【0062】
その後、標的捕捉ビーズをウェルに添加する。標的捕捉ビーズは、ウェル数に対し約4~5倍の個数をバッファーに懸濁してプレートのウェル面に添加する。ウェルに入らなかったビーズは、ウェル表面を穏やかに洗浄して除去する。これにより、プレートの90~99%のウェルに対し1個の標的捕捉ビーズを充填できる。2種類以上の標的捕捉ビーズを添加する場合には、1種類ずつ上記の手順でウェルに添加すればよい。
【0063】
本発明の解析プレートは、ビーズが充填された状態でユーザーに提供することができる。外観的特徴により識別可能な複数種類の光切断性バーコードビーズを用いた解析プレートにおいては、ビーズ充填が完了後、プレートに光照射して光切断性バーコードビーズから光バーコードオリゴを切断遊離させ、同じウェル内に存在する標的捕捉ビーズ上に光バーコードオリゴを捕捉させた状態のもの(光照射後の解析プレート)をユーザーに提供することが好ましい。光照射後の解析プレートは、上記したマイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成を確認できる顕微鏡画像と組み合わせて、組織の核酸の構成を解析するための解析キットとして提供することもできる。
【0064】
本発明の解析プレートは、ビーズ配置が崩れないよう、ウェルをゲルで固めてユーザーに提供することができる。ビーズを充填したマイクロウェルプレートをゲルで固めて搬送する技術は公知であり、例えばWO 2020/013133に記載されている。4℃条件で固体であり、室温条件で融解可能なゾル-ゲル相転移特性を有するゲル化剤を適当な濃度で含む溶液(プレート被覆液)を、ビーズ充填が完了したプレート、ないしは光照射後のプレートのウェル面に添加してゲル化させ、ゲル被膜を形成させればよい。ゲル化剤としては、特にゼラチンを好ましく用いることができる。ゼラチンのゲル化濃度は1.5~3.0%程度であるため、プレート被覆液中のゼラチン濃度は1.5~3.0%ないしはこれよりもやや高め(+1~2%程度)にすればよい。
【0065】
本発明の解析プレート又は解析キットの製造方法は、
表面にマイクロウェルが整列配置されたプレートを準備する工程A;
標的捕捉配列及びビーズ識別バーコードを含む複数分子の標的捕捉オリゴが第1のビーズ上に結合した標的捕捉ビーズを作製する工程B;
前記標的捕捉配列と相補的な被捕捉配列、光照射により切断可能な光切断部及び光バーコードを含む複数分子の光切断性バーコードオリゴが第2のビーズ上に結合した光切断性バーコードビーズを作製する工程C;及び
光切断性バーコードビーズをプレートのマイクロウェルに充填した後、標的捕捉ビーズをマイクロウェルに充填する工程D
を含む。各工程の詳細は上述したとおりである。
【0066】
工程Aは、マイクロウェルプレートを製造する工程であってもよいし、市販のマイクロウェルプレートを準備する工程であってもよい。
【0067】
工程B及びCは、上述したように、ビーズ上でオリゴを合成する方法で実施してもよいし、別途合成したオリゴをビーズ上に結合させる方法で実施してもよい。工程Cは、互いに識別可能な外観的特徴を有する複数種類の光切断性バーコードビーズを作製する工程であってよい。外観的特徴が蛍光及びサイズの場合、工程Cは、サイズが異なる第2のビーズのそれぞれを複数種類の蛍光物質で標識することを含む。
【0068】
工程Dは、光切断性バーコードビーズを充填後、マイクロウェルの顕微鏡画像(例えば蛍光顕微鏡画像)を撮影し、次いで標的捕捉ビーズを充填することを含んでいてもよい。この場合、製造された解析プレートは、顕微鏡画像と組み合わせて解析キットとして提供できる。
【0069】
上記製造方法は、工程Dの次に、プレートに光照射し、光バーコードオリゴを遊離させて標的捕捉オリゴに結合させる工程Eをさらに含んでいてよい。
【0070】
本発明の解析プレートを使用し、以下の工程を実施することにより、組織の核酸を解析するためのデータを取得することができる。
光照射後の解析プレート(光切断性バーコードビーズから遊離した光バーコードオリゴを標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに結合させた状態にある解析プレート)のウェル面に組織切片を乗せた状態で組織切片を溶解処理することにより、組織切片に含まれる標的核酸を溶出させて、標的捕捉ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉させる(標的捕捉工程)。
解析プレートからビーズを回収し、標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖をそれぞれ合成した後、ビーズ識別バーコード及び標的核酸相補鎖を含む領域と、ビーズ識別バーコード及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域とをそれぞれ増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片及び光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る(核酸増幅工程)。
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列を決定する(配列決定工程)。
【0071】
<標的捕捉工程>
標的捕捉工程の概要を図7に示す。組織切片としては、凍結組織切片、パラフィン包埋切片のいずれも利用可能である。固定しない切片を用いてもよいし、メタノールやホルマリン等で固定して作製した切片を用いてもよい。組織の種類にもよるが、通常は10~20μm程度の厚さの切片でよい。解析プレートのウェルがゲル被膜で保護されている場合には、室温等のゲル融解温度で解析プレートを静置してゲル被膜を融解させ、ウェルを穏やかに洗浄してから使用する。組織切片をフィルターメンブレン等のメンブレンに接着させ、所望によりメタノール等で固定処理を行なう。ゲノムの変異/多型部位など、ゲノムDNAを解析対象に含める場合には、紫外線等によりゲノムDNAを切断する処理も行う。各処理を行なった後、組織切片をプレートのウェル側に向けてウェル面に密着させる。メンブレンの上から溶解液を添加し、室温等の適当な温度条件で数十分程度放置することにより、組織切片の細胞を溶解させ、mRNA等の標的核酸をウェル内に落下させる。これにより、位置情報を担保したまま、ウェル内のビーズ上の標的捕捉オリゴに標的核酸を捕捉することができる。
【0072】
<核酸増幅工程>
解析プレートからビーズを回収し、ビーズ上の標的捕捉オリゴに捕捉された標的核酸及び光バーコードオリゴに対する相補鎖(第1鎖)をそれぞれ合成した上で、核酸増幅反応を行なう。ここでいうビーズとは、主として標的捕捉ビーズであるが、光切断性バーコードビーズが標的捕捉オリゴをさらに有している場合には、そのような光切断性バーコードビーズも包含される。ビーズ担体上に捕捉したmRNAからcDNAを合成、増幅する技術としては、TdT(ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)法、テンプレートスイッチング法などの様々な技術が知られており、当該核酸増幅工程は基本的にはそのような公知技術を用いて実施できる。
【0073】
標的核酸がmRNAを含む場合を例として説明すると、まず逆転写反応を行ないcDNA第1鎖を合成し、次いで、DNAポリメラーゼを用いた相補鎖合成反応により、光バーコードオリゴ(DNA)に対する相補鎖第1鎖を合成してよい。標的核酸としてDNAを捕捉した標的捕捉オリゴが反応系内に存在する場合には、光バーコードオリゴに対する第1鎖合成と同時に標的DNAに対する第1鎖合成が行われる。
【0074】
第1鎖合成後、RNase処理によりmRNAを分解し、cDNA第1鎖を一本鎖にする。光バーコードオリゴに対する第1鎖、及び標的DNAに対する第1鎖(存在する場合)は、熱変性によって一本鎖にする。次いで、第1鎖を鋳型として第2鎖合成を行なう。TdT法を利用する場合には、TdT反応により第1鎖の3'末端にポリTやポリC等のヌクレオチドホモポリマーを付加し、該ホモポリマーにハイブリダイズする第2鎖合成用プライマーを利用して第2鎖合成を行なえばよい。第2鎖合成用プライマーには、その後のPCR増幅反応に用いるプライマーの一方がアニールする部位を作るため、5'末端にアダプター配列を持たせることが好ましい。
【0075】
第2鎖合成により、標的捕捉オリゴ配列及びcDNA第1鎖(標的核酸の相補鎖)を含むDNA鎖と、これに対する相補鎖である第2鎖とからなるDNA二本鎖、並びに、標的捕捉オリゴ配列及び光バーコードオリゴ相補鎖を含むDNA鎖と、これに対する相補鎖である第2鎖とからなるDNA二本鎖が、ビーズ上に生成する。これらのDNA二本鎖を鋳型としてPCR増幅反応を行なう。前者のDNA二本鎖からは、ビーズ識別バーコード配列及びcDNA(標的核酸相補鎖)を含む領域を増幅し、標的核酸に由来する標的増幅断片を得る。後者の二本鎖DNAからは、ビーズ識別バーコード配列及び光バーコードオリゴ相補鎖を含む領域を増幅し、光バーコードオリゴに由来する光バーコード増幅断片を得る。このPCR増幅反応では、標的捕捉オリゴの5'末端に持たせたアダプター配列にアニールするプライマーと、第2鎖合成用プライマーに持たせたもう一つのアダプター配列にアニールするプライマーとのセットを用いることで、それぞれ目的とする領域を増幅できる。
【0076】
<配列決定工程>
標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列決定は常法により実施できる。使用するシークエンサーに応じて必要なアダプター等を付加し、配列決定用のコンストラクトを作製する。光バーコード増幅断片については、ビーズ識別バーコード及び光バーコードを含む領域の配列を決定する。標的捕捉オリゴに分子バーコードを含めた場合や、光切断性バーコードオリゴに光切断性バーコードビーズ識別バーコードや分子バーコードを含めた場合には、これらのエレメントも含んだ領域の配列を決定する。標的増幅断片は、ビーズ識別バーコードと、標的捕捉オリゴに含めていた場合には分子バーコードと、標的核酸の全長又は所望の一部とを含む領域の配列を決定する。標的核酸がmRNAの場合は、cDNA全長の配列を決定してもよいし、由来する遺伝子を特定するのに十分な部分領域(例えば、cDNAの3'末端領域)の配列のみを決定してもよい。標的核酸がmRNA以外の核酸の場合には、基本的には、標的核酸(あるいはその相補鎖)の全長の配列を決定する。
【0077】
外観的特徴により識別可能な複数種類の光切断性バーコードビーズを充填した解析プレートの場合は、上記した標的捕捉工程~配列決定工程に続けて、標的増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列、光バーコード増幅断片におけるビーズ識別バーコード配列及び光バーコード配列、並びに上記の顕微鏡画像に示された各マイクロウェル内の光切断性バーコードビーズ組成に基づいて、各標的核酸を各マイクロウェルに紐づける、紐づけ工程を行なう。
【0078】
<紐付け工程>
配列決定工程で得られた配列情報には、多種多様な標的増幅断片及び光バーコード増幅断片の配列が含まれているが、標的捕捉ビーズ識別バーコード配列が同一である増幅断片は、同じ標的捕捉ビーズによって捕捉された分子、すなわち同じウェル内で捕捉された分子に由来する増幅断片であると同定できる。ただし、これだけでは、どの位置のウェルで捕捉されたかまでは同定できない。
【0079】
ウェル位置の特定には、同じ標的捕捉ビーズ識別バーコード配列を有する光バーコード増幅断片の配列情報と、ウェルの顕微鏡画像を用いる。例えば、あるビーズ識別バーコード配列Aを有する光バーコード増幅断片の配列に、3種類の光バーコード配列(相補鎖の方の配列であり得る)1、3、5が見出されたとする。このことは、この光バーコード増幅断片が由来する光バーコードオリゴが、3種類の光切断性バーコードビーズ1、3、5を少なくとも1個ずつ含むウェル内で標的捕捉ビーズに捕捉されたことを意味している(ウェル内の光切断性バーコードビーズの組み合わせの同定)。
【0080】
各ビーズの個数を判別する方法としては、ビーズ識別バーコードA+光バーコード1を含む増幅断片、ビーズ識別バーコードA+光バーコード3を含む増幅断片、及びビーズ識別バーコードA+光バーコード5を含む増幅断片の量比に基づいて判別する方法が挙げられる。遊離する光バーコードオリゴ部分に分子バーコードを持たせていた場合には、分子バーコードによって増幅バイアスを補正し、より正確な量比を算出できる。その他の個数判別方法として、遊離する光バーコードオリゴ部分に光切断性バーコードビーズ識別バーコードを持たせていた場合には、該識別バーコードの配列によって各ビーズの個数を判別できる。例えば、ビーズ識別バーコードA+光バーコード1を含む増幅断片の配列情報において、2種類の光切断性バーコードビーズ識別バーコード配列が見出された場合には、光バーコード1で特定される光切断性バーコードビーズ1の個数は2個である。このようにして、光切断性バーコードビーズ1、3及び5の個数がそれぞれ2個、1個及び4個と判別されたとする。このことは、これらの光バーコード増幅断片が由来する光バーコードオリゴは、光切断性バーコードビーズ1を2個、光切断性バーコードビーズ3を1個、及び光切断性バーコードビーズ5を4個含むウェル内で生じ、標的捕捉オリゴに捕捉されたことを意味している。このビーズ組成に該当するウェルを顕微鏡画像で特定することで、解析プレート上のウェルの位置を特定できる。このウェル位置をXX列150番(XX-150)とすると、多種多様な標的核酸に由来する標的増幅断片のうち、ビーズ識別バーコード配列Aを含む標的増幅断片は、XX-150のウェルで標的捕捉ビーズ上に捕捉された標的核酸に由来する増幅断片ということになるので、当該標的核酸をこのウェル位置にマッピングする。解析プレートのウェル数が10,000ウェル程度である場合、組み合わせ及び個数の情報に基づいて紐付け工程を実施する態様においては、12種類以上の光切断性バーコードビーズを用いれば確率論的に全てのウェルを識別可能である。
【0081】
また、本発明においては、ウェル内の各ビーズの個数についての情報を利用せず、ウェル内の光切断性バーコードビーズの組み合わせのみに基づいて紐付け工程を実施することも可能である。この態様においては、解析プレートのウェル数が10,000ウェル程度である場合、15種類以上の光切断性バーコードビーズを用いれば確率論的に全てのウェルを識別可能である。
【0082】
以上のようにして、増幅した標的核酸を解析プレートのウェルに紐づけてマッピングすることで、遺伝子発現やゲノム変異等の情報を組織の形態学的位置情報と紐づけて解析することができる。紐づけ工程は、適当なアルゴリズムを設計してコンピュータ処理により実行すればよい。
【実施例0083】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0084】
1.(参考例)光切断性バーコードオリゴとmRNA捕捉オリゴを同一のビーズに固定化した光切断性バーコードビーズの合成
光切断性バーコードオリゴとmRNA捕捉オリゴを同一のビーズに固定化した光切断性バーコードビーズの合成法は、実際には、図2に示した2段階の酵素伸長反応を3段階にして使用した。
【0085】
まず、スレプトアビジンビーズ約6x106個 (Micro particles, magnetic, streptavidin coated 10μm particle size; 08014 Sigma-Aldrich)にビオチンリンカー(光切断部を有するビオチンリンカーLib-MB_PC(100μM)を1μLと、光切断部を有しないビオチンリンカーLib-A(100μM) 9μLを混合し、トータル10μL)を結合させ、TE/TW(100 mM KCl、10 mM Tris-HCl [pH 8.0]、50 mM EDTA、0.1%(v / v)Tween-20)で洗った後、96等分して96ウェルに分注した。
【0086】
その後、1段階目の反応を行なった。各ウェルに1.5μLの15μMプライマー1st barcode, LibMB_PCを90~96種類と1st barcode, LibAを90~96種類をビオチンリンカーの比率と同様に入れ(少数のウェルに同じ配列のプライマーが入っても差し支えない)、続いて酵素液(5×PrimSTAR GXL Buffer 4μL, 2.5mM dNTP mix 1.6μL, Prime STAR GXL DNA polymerase 0.4μL, Water 6.25μL) を添加し、98℃ 5分間-[98℃ 10秒, 60℃ 4分間]×7cycle-68℃ 2分間で反応させた。反応終了後、各ウェルからビーズを1.5ml チューブに回収して、磁気スタンドを利用しながらTE/TWで3回洗浄した。最終的には600μLにTE/TWで希釈し再び96ウェルに分注した。
【0087】
続けて、2次バーコード(図2中のBarcode 2)を合成する2段階目の反応を行なった。上記と同量で2nd bacodeを90~96種類をウェル添加し、98℃ 5分間-55℃ 25分間-68℃ 5分間で反応させた。上記と同様にビーズを回収、磁気スタンドでビーズを洗浄し、TE/TWで希釈して96ウェルに分注した。
【0088】
続けて同様に3次バーコードを合成した(3段階目の反応は図2中に示さず)。この時も1st barcodeと同様に光バーコード鎖には、3rd barcode polyT(90~96種類)、capture鎖側には3rd barcode polyA(90~96種類)を使用し反応させた。3rd barcode polyT及び3rd barcode polyAはモル比で1:9となるように添加して反応を行なった。最後にheat shockによる1本鎖処理を実施した。TE/TW溶液に入った1.5 mLチューブなどにビーズを移し、95℃ 5-6 minインキュベートし、on iceで3分冷却後、TE/TWで数回洗浄した。ビーズを保管する際はTEに懸濁し、4℃暗所に保管した。
【0089】
【表1】
【0090】
上記の方法によりビーズ上に合成されるオリゴヌクレオチド鎖のDNA部分の塩基配列はそれぞれ下記の通りである。各バーコード配列は、プライマー中のバーコード部分と相補的な配列となる。
光切断性バーコードオリゴ:
TCTCAGAAGCAGTGGTATCAACGCAGAGTACTATGCGCCTTGCCAGCCCGCTCAGACT-(9mer barcode 1配列)-ACTGGCCTGCGA-(9mer barcode 2配列)-GGTAGCGGTGACA-(9mer barcode 3配列)-AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA(配列番号8)
mRNA捕捉オリゴ:
ACTCTCAGCGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGAC-(9mer barcode 1配列)-ACTGGCCTGCGA-(9mer barcode 2配列)-GGTAGCGGTGACA-(9mer barcode 3配列)-NNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTTTV(配列番号9)
【0091】
光切断部を有するビオチンリンカーLib-MB_PCはIDT社に委託して合成した。このリンカーのDual Biotin/C6/AC/iSpPC部分(PC Biotin)の構造は下記の通りであり、ビオチン基とDNA塩基との間に光切断性スペーサー(photocleavable spacer)が挿入されている。最適切断条件は300-350nmのUV波長であり、光照射により破線囲みで示した部位が開裂してバーコードオリゴが遊離する。遊離したオリゴの5'末端はリン酸基となり、リンカー側の1-(2-ニトロフェニル)エチル部分は2-ニトロソアセトフェノン構造となる(Olejnik J. et al., Nucleic Acids Research, 1998, Vol. 26, No. 15, pp. 3572-3576)。
【0092】
【化5】
【0093】
2.光切断性バーコードオリゴとmRNA捕捉オリゴを別々のビーズに固定化したビーズの合成
光切断性バーコードオリゴを固定化した光切断性バーコードビーズと、mRNA捕捉オリゴを固定化したmRNA捕捉ビーズを、以下の手順で合成した。光切断性バーコードビーズの調製には、直径10μmのストレプトアビジンビーズ(BD Biosciences)を使用した。mRNA捕捉ビーズの調製には、直径32μmのストレプトアビジンビーズ(ポリスチレンビーズ、磁性、ストレプトアビジンコーティング 10 μm particle size Cat.No. 08014 Sigma-Aldrich)を使用した。オリゴ合成のプライマーは上記1.と同じものを使用した。
【0094】
2-1.光切断性バーコードビーズの合成
直径10μmのストレプトアビジンビーズに光切断部を有するビオチンリンカー(Lib-MB_PC(100μM)を10μL)を結合させ、TE/TW(100 mM KCl、10 mM Tris-HCl [pH 8.0]、50 mM EDTA、0.1%(v / v)Tween-20)で洗った後、96等分して96ウェルに分注した。
【0095】
その後、1段階目の反応を行なった。各ウェルに1.5μLの15μMプライマー1st barcode, LibMB_PCを90~96種類をそれぞれ添加し(一部のウェルでプライマーが重複しても差し支えない)、続いて酵素液(5×PrimSTAR GXL Buffer 4μL, 2.5mM dNTP mix 1.6μL, Prime STAR GXL DNA polymerase 0.4μL, Water 6.25μL) を添加し、98℃ 5分間-[98℃ 10秒, 60℃ 4分間]×7cycle-68℃ 2分間で反応させた。反応終了後、各ウェルからビーズを1.5ml チューブに回収して、磁気スタンドを利用しながらTE/TWで3回洗浄した。最終的には600μLにTE/TWで希釈し再び96ウェルに分注した。
【0096】
続けて、2次バーコード(図2中のBarcode 2)を合成する2段階目の反応を行なった。上記と同量で2nd bacodeを90~96種類をウェル添加し、98℃ 5分間-55℃ 25分間-68℃ 5分間で反応させた。上記と同様にビーズを回収、磁気スタンドでビーズを洗浄し、TE/TWで希釈して96ウェルに分注した。
【0097】
続けて同様に3次バーコードを合成する3段階目の反応(図2中に示さず)を行なった。90~96種類の3rd barcode polyTをそれぞれウェルに添加して反応させた。最後にheat shockによる1本鎖処理を実施した。TE/TW溶液に入った1.5 mLチューブなどにビーズを移し、95℃ 5-6 minインキュベートし、on iceで3分冷却後、TE/TWで数回洗浄した。ビーズを保管する際はTEに懸濁し、4℃暗所に保管した。
【0098】
2-2.mRNA捕捉ビーズの合成
ビオチンリンカーとしてLib-A(100μM)を10μL、1段階目の反応のプライマーとして1.5μLの15μMプライマー1st barcode, LibAを90~96種類、3段階目の反応のプライマーとして3rd barcode polyAを90~96種類を使用した他は、光切断性バーコードビーズの合成と同様にして、直径10μmのストレプトアビジンビーズ上にmRNA捕捉オリゴが結合したmRNA捕捉ビーズを合成した。
または、既製品の直径32μmのmRNA捕捉ビーズ(Enhanced Cell Capture Beads, Becton, Dickinson and Company BD Biosciences, Cat.No. 700027881)を使用した。
【0099】
2-3.光切断して遊離した光バーコードが他のビーズ上のmRNA捕捉オリゴに結合することの確認
光切断性バーコードビーズ及びmRNA捕捉ビーズを用いて、光照射により光切断性バーコードビーズから遊離したバーコードオリゴ(以下、「光バーコード」ということがある)がmRNA捕捉ビーズ上のmRNA捕捉オリゴのポリT部分に結合するか否かを確認した。
【0100】
3'末端にpoly-Aを有する光切断性バーコードオリゴのみが固定化された小ビーズ(光切断性バーコードビーズ)は、上記2-1.に準じた方法で作製した。3'末端にpoly-Tを有するバーコードオリゴ(光切断部なし)のみが固定化された大ビーズ(poly-Tビーズ)は、既製品の直径32μmのmRNA捕捉ビーズ(Enhanced Cell Capture Beads, Becton, Dickinson and Company BD Biosciences, Cat.No. 700027881)を使用した。光バーコードを認識するための蛍光標識オリゴとして、光切断後の光バーコードの5'末配列と相補的な配列のオリゴ(Lib-A配列の相補鎖)をFAMで標識したFAMオリゴ(FAM-CTGATGGCGCGAGGGAGGCGATACG、配列番号10)を用いた。
【0101】
光切断性バーコードビーズ、QC buffer (50 mM Tris-HCl, pH8.0, 5 mM EDTA, 10% Tween20, 1M KCl)及び10μM FAMオリゴを混合し、20分間室温で静置した。QC bufferで洗浄した後、一部をスライドガラスに載せて蛍光顕微鏡で観察した。
【0102】
次に、QC bufferで洗浄した光切断バーコードビーズとpoly-Tビーズを混ぜて培養皿に播種し、光照射装置(300Wキセノン抗原MAX-350, ミラーモジュールUV-VIS 300-600 nm, 朝日分光株式会社)にて1分間光照射した。遊離した光バーコードのpoly-Aが大ビーズ上のpoly-T配列に結合することを確認するために、同様に10μM FAMオリゴを添加して顕微鏡で観察した結果、大きなpoly-Tビーズの周囲がFAMで認識されていた(図4)。
【0103】
3.外観により識別可能な複数の光切断性バーコードビーズとmRNA捕捉ビーズとをマイクロウェルプレートに充填した解析プレートの作製
トランスクリプトームを形態学的な情報にマッピングし、細胞の種類と位置を同時に観察可能とする空間的トランスクリプトーム法(Spatial Transcriptomics)を確立するため、外観により識別可能な2種類以上のビーズに光切断性バーコードオリゴを固定化した光切断性バーコードビーズと、mRNA捕捉オリゴを固定化したmRNA捕捉ビーズをマイクロウェルプレートに充填した解析プレートを開発した。
【0104】
本実施例で作製した解析プレートの構成及びこれを用いた組織解析の概要を図5~7に示す。光切断性バーコードオリゴを固定化するビーズには、サイズが異なる大中小のビーズを使用し、4種類の蛍光色素を結合させることにより、色とサイズで識別可能な光切断性バーコードビーズを計12種類作製した。光切断性バーコードオリゴにはポリAを持たせてあり、ポリTを有するmRNA捕捉オリゴを固定化したmRNA捕捉ビーズ上に光切断後の光バーコードが捕捉される。
【0105】
これらのビーズをマイクロウェルプレートに充填する。光切断性バーコードビーズは、12種類がランダムな組み合わせでウェルに充填されており、mRNA捕捉ビーズがさらに1個ずつ充填される。光切断性バーコードビーズを充填後、ウェルの蛍光顕微鏡像を撮影してからmRNA捕捉ビーズを充填する。このプレートに光照射すると、光切断性バーコードビーズから光バーコードオリゴが遊離し、同一ウェル内に存在するmRNA捕捉ビーズ上に捕捉される。
【0106】
光照射後のプレートに、図7に示した手順で組織スライスを載せてLysis bufferを添加し、mRNAを溶出させることで、ウェル内のmRNA捕捉ビーズ上の、光バーコードオリゴが結合していないmRNA捕捉オリゴにmRNAを捕捉させる。これにより、mRNAが位置情報を担保したままウェル内のビーズに捕捉される。光バーコードオリゴには、ビーズの蛍光及びサイズの組み合わせごとに固有の配列を光バーコードとして持たせておくことで、ビーズの外観情報をヌクレオチド配列情報に変換する。こうすることで、mRNA捕捉ビーズ上に捕捉された光バーコードオリゴに由来する最終的なPCR増幅産物中の光バーコード配列から、該増幅産物がどの外観を有するビーズに由来するかを特定できる。光切断性バーコードビーズ充填後のウェルの蛍光顕微鏡画像と増幅産物の配列情報を照合することで、組織内の形態学的位置情報と遺伝子発現情報を紐付けた解析が可能となる。
【0107】
3-1.光切断性バーコードビーズの合成
大中小のストレプトアビジン結合ビーズ(直径2μm、5μm、7μm; Streptavidin Coated Polystyrene Particles, Spherotech, Inc. USA)に対し、蛍光色素を含むビオチン標識オリゴ(ビオチン標識プローブオリゴ)、及び光バーコードを含むビオチン標識オリゴ(ビオチン標識光切断性バーコードオリゴ)を同時に混合し、2種類のオリゴを各ビーズに結合させることにより、サイズ及び蛍光により識別可能な12種類の光切断性バーコードビーズを調製した。また、各サイズのビーズについて、蛍光なしの光切断性バーコードビーズも作製し、合計で15種類の光切断性バーコードビーズを作製した。
【0108】
使用したプローブオリゴ及び光切断性バーコードオリゴ(IDT社に合成を委託)の配列を表2-1、2-2にそれぞれ示す。プローブオリゴとしては、蛍光色素なしのプローブオリゴN(オリゴヌクレオチド部分の塩基配列を配列番号11に示す)、Alexa750(青色)を含むプローブオリゴA、FAM(緑色)を含むプローブオリゴF、Tex615(赤色)を含むプローブオリゴT、Cy5(桃色)を含むプローブオリゴC(計5種類)を用いた。光切断性バーコードオリゴとしては、下記の光切断構造(アスタリスクはスペーサー構造及びその末端に結合したビオチンを含み、矢印で示した結合部分が光開裂部)を含み、それぞれ異なるバーコード配列を持たせた15種類のオリゴを用いた。
【0109】
【化6】
【0110】
【表2-1】
【0111】
【表2-2】
【0112】
プローブオリゴと光切断性バーコードオリゴを表2-2に示す組み合わせで各サイズのストレプトアビジンビーズに結合させた。ストレプトアビジンビーズ500000個/100μlに対し、プローブオリゴと光切断バーコードオリゴを各75pmol(合計150pmol)を添加し、60分間室温で反応させた。なお、光切断性バーコードビーズとしては表2-2に示した15種類を作製したが、プレートへの充填には蛍光なしのものを除く12種類のビーズを用いた。
【0113】
3-2.mRNA捕捉ビーズ
mRNA捕捉配列としてポリTを有するオリゴヌクレオチドが固定化された、既製品の直径32μm のmRNA捕捉ビーズ(Enhanced Cell Capture Beads, Becton, Dickinson and Company BD Biosciences, Cat.No. 700027881)を使用した。
【0114】
3-3.マイクロウェルプレートへのビーズの充填
マイクロウェルプレーとして、ハニカム状のウェルを有するマイクロウェルプレート(材質:PDMS、ウェル数:10,000ウェル、ウェルサイズ:内接円の直径45μm、深さ55μm、隔壁の厚さ:15μm)を使用した。プレートをプラズマクラスター処理して親水化した後、速やかにビーズの充填を行なった。
【0115】
12種類の光切断性バーコードビーズをほぼ同数ずつバッファー中に添加して混合し、プレートのウェル数に対し約30倍量のビーズをプレートのウェル面に添加することにより、12種類の光切断性バーコードビーズを各ウェルにランダムに充填した。光切断性バーコードビーズ充填後のウェルを蛍光顕微鏡下で撮影した画像を図9左に示す。また、各ウェル(185ウェルを観察)におけるビーズの分布を蛍光顕微鏡下で目視で確認し、ビーズ数をカウントした結果を表3-1~3-5に示す。各ウェルには、同サイズ・同色のビーズが最大で6個まで入っていた。サイズ及び色の組み合わせが同一のビーズが入っているウェルが2個存在したが、これらのウェル中のビーズの個数は異なっており、全く同じビーズ組成のウェルは存在しなかった。
【0116】
【表3-1】
【0117】
【表3-2】
【0118】
【表3-3】
【0119】
【表3-4】
【0120】
【表3-5】
【0121】
光切断性バーコードビーズを充填後、mRNA捕捉ビーズ(Enhanced Cell Capture Beads, Becton, Dickinson and Company BD Biosciences, Cat.No. 700027881)をウェルに添加した。ウェル数に対し約4-5倍量のmRNA捕捉ビーズをバッファーに懸濁してプレートのウェル面に添加し、その後、ウェル表面をwashし、ウェルに入っていないビーズを除去することにより、プレートの90~99%のウェルに対しそれぞれ1個のmRNA捕捉ビーズを充填した。mRNA捕捉ビーズ充填後のウェルの画像を図9右に示す。ビーズ径32μmのmRNA捕捉ビーズをウェルに充填すると、図示したように光切断性バーコードビーズのウェル内組成の確認が困難になるので、mRNA捕捉ビーズを添加する前にウェルの蛍光顕微鏡像を撮影する必要がある。
【0122】
3-4.光照射による光バーコードの遊離およびmRNA捕捉ビーズへの結合
光切断性バーコードビーズ及びmRNA捕捉ビーズを充填後のプレートに波長330nmの光を180秒間ほど照射し、ビーズ上の光切断性バーコードオリゴ鎖を切断してバーコードオリゴ(光バーコード)を遊離させた。室温で30分間程度プレートを静置し、遊離した光バーコードを、同一ウェル内に存在するmRNA捕捉ビーズ上のmRNA捕捉オリゴのポリT部分に結合させた。
【0123】
4.解析プレートによる組織サンプルRNAのキャプチャーの検討
組織サンプルとしてマウス脳組織を使用し、上記3-4.で調製した光照射後の解析プレートを用いて、図7に示した手順により組織サンプル中のmRNAを溶解し、位置情報を担保したままmRNA捕捉ビーズ上にmRNAを捕捉できるかどうかを検討した。
【0124】
マウス脳組織を凍結させ、クライオスタットで厚さ10micronに切り、ピンと貼ったフィルターメンブレン(Fisherbrand Dialysis Tubing, Fisher Scientific, Nominal MWCO 12,000-14,000 Flat with:33mm, wall thickness:23micronまたは、Polycarbonate membrane filters, 0.01 micron, Steritech)に接着させた。-20℃でメタノールに30min処理し、その後、組織をウェル側に向けてフィルターメンブレンをプレートに覆いかぶせた。その後、300μlのLysis buffer(500 mM LiCl in 100 mM TRIS buffer (pH 7.5) with 1% lithium dodecyl sulfate, 10 mM EDTA and 5 mM DTT)を組織が接着していない側のメンブレンの上から添加した。室温で20分間放置後、4℃にて20分間放置した。その後メンブレンを剥がして、プレートを2mlの冷Lysis bufferが入った1.5mlのチューブに入れ、遠心してビーズを回収した。その後、ペレットであるビーズを用いて、ビーズに結合したmRNAについて逆転写反応を行い、1st strand cDNAを合成した。続けてシークエンス用のコンストラクトを作製し、シークエンスを行った。
【0125】
発現プロファイルの解析にはSeurat softwareを使用した。得られた発現プロファイルデータをUMAP解析を用いて、結果を二次元上にプロットした。その結果、図10に示すように、脳の部位ごとのクラスターが得られた。図中の1つの点が1つの細胞を示しており、各点には各細胞の発現プロファイルが紐づいている。発現プロファイルが類似しているほどより近くにプロットされる。脳の部位ごとのクラスターが得られたことは、本手法により空間的な情報を維持したまま組織中mRNAをビーズに捕捉できていることを示している。mRNA捕捉ビーズ充填前のウェル画像(ウェル内の光切断性バーコードビーズの組成)と、発現プロファイルデータ中の光バーコードの各固有配列の情報とを照合し、図10中の各点(=各細胞の発現プロファイル、トランスクリプトーム)を形態学的情報にマッピングすることにより、空間的トランスクリプトーム解析が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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