(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179863
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】静電気インジケータおよび静電気インジケータの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 29/12 20060101AFI20241219BHJP
G01R 29/24 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01R29/12 F
G01R29/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099117
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 祥一
(72)【発明者】
【氏名】岩切 星慈
(72)【発明者】
【氏名】川口 麻未
(57)【要約】
【課題】接地することなく、静電気を可視化できる静電気インジケータの提供。
【解決手段】本発明の実施形態による静電気インジケータは、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶層を有し、前記液晶組成物が、液晶成分を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスと、前記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶層を有し、
前記液晶組成物が、液晶成分を含む、静電気インジケータ。
【請求項2】
接地せずに静電気を可視化できる、請求項1に記載の静電気インジケータ。
【請求項3】
電極を有さない、請求項1に記載の静電気インジケータ。
【請求項4】
前記高分子分散型液晶層が、少なくとも一方向に延伸された延伸層である、請求項1に記載の静電気インジケータ。
【請求項5】
前記液晶組成物が、二色性色素をさらに含む、請求項1に記載の静電気インジケータ。
【請求項6】
前記高分子分散型液晶層の少なくとも一方の側に配置された高誘電率基材をさらに有する、請求項1に記載の静電気インジケータ。
【請求項7】
高分子マトリクス形成用樹脂と液晶組成物とを含む塗工液を支持基材の一方の面に塗布して、塗布層を得ること、および
前記塗布層を乾燥させて、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶層を得ること、
を含む、静電気インジケータの製造方法。
【請求項8】
前記高分子分散型液晶層を延伸することをさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記延伸の倍率が、1.5倍以上である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気インジケータおよび静電気インジケータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気は、吸引作用、反発作用、静電誘導、放電等の静電気現象を引き起こし、電子機器の誤動作、電子部品の破損、火災等の原因となる場合がある。そのため、静電気を可視化してその状態を把握することは、生産管理、安全管理等の点で重要である。
【0003】
静電気(帯電状態)を可視化する方法として、表面電位測定器等の電気的な計測方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、帯電している部位を厳密に特定することができない。これに対し、特許文献1では、帯電している部位およびその帯電量を可視化する装置が提案されている。しかしながら、この装置は接地(アース)する必要があることから、使用場所が限定され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に鑑み、本発明は、接地することなく、静電気を可視化できる静電気インジケータの提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の1つの局面によれば、高分子マトリクスと、上記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶層を有し、上記液晶組成物が、液晶成分を含む、静電気インジケータが提供される。
[2]上記[1]に記載の静電気インジケータは、接地せずに静電気を可視化できてもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の静電気インジケータは、電極を有さなくてもよい。
[4]上記[1]から[3]のいずれかに記載の静電気インジケータにおいて、上記高分子分散型液晶層が、少なくとも一方向に延伸された延伸層であってよい。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の静電気インジケータにおいて、上記液晶組成物が、二色性色素をさらに含んでよい。
[6]上記[1]から[5]のいずれかに記載の静電気インジケータは、上記高分子分散型液晶層の少なくとも一方の側に配置された高誘電率基材をさらに有してよい。
[7]本発明の別の局面によれば、高分子マトリクス形成用樹脂と液晶組成物とを含む塗工液を支持基材の一方の面に塗布して、塗布層を得ること、および上記塗布層を乾燥させて、高分子マトリクスと、上記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶層を得ること、を含む、静電気インジケータの製造方法が提供される。
[8]上記[7]に記載の静電気インジケータの製造方法は、上記高分子分散型液晶層を延伸することをさらに含んでよい。
[9]上記[8]に記載の静電気インジケータの製造方法において、上記延伸の倍率が、1.5倍以上であってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態による静電気インジケータによれば、接地することなく、静電気を可視化することができることから、接地のための使用場所の制限が無い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態による静電気インジケータの一例の構成を説明する概略断面図である。
【
図2】
図1に示す静電気インジケータの動作を説明する概略断面図である。
【
図3】延伸高分子分散型液晶層を有する実施形態による静電気インジケータの一例の動作を説明する概略断面図である。
【
図4】延伸高分子分散型液晶層を有する実施形態による静電気インジケータの一例の動作を説明する概略断面図である。
【
図5】液晶組成物が液晶成分に加えて二色性色素を含む実施形態による静電気インジケータの一例の動作を説明する概略断面図である。
【
図6】液晶組成物が液晶成分に加えて二色性色素を含む実施形態による静電気インジケータの一例の動作を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。各実施形態は、明らかに不適切な場合を除き、適宜組み合わせることができる。図面は説明をより明確にするため、実施の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、図面については、同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0010】
A.静電気インジケータ
本発明の実施形態による静電気インジケータは、マトリクスと、上記マトリクス中に分散しており、静電気反応材料を含む分散粒子と、を含む、静電気反応層を有する。本発明の実施形態による静電気インジケータは、電極を必要としない。本発明の実施形態による静電気インジケータはまた、接地することなく使用することができる。例えば、本発明の実施形態による静電気インジケータは、電極を有さず、接地することなく、静電気を可視化することができる。ここで、「静電気を可視化する」とは、静電気インジケータの外観の変化を介して検出対象の帯電箇所、帯電量、帯電電位等の帯電状態を検出することを意味する。外観の変化は、例えば、ヘイズ、輝度、透過率、色相、吸光度、反射率等の光学特性に基づいて判断することができる。
【0011】
1つの実施形態において、静電気反応層としては、高分子マトリクスと、高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、高分子分散型液晶(以下、「PDLC」とも称する)層が用いられる。
【0012】
図1は、本発明の実施形態による静電気インジケータの一例の構成を説明する概略断面図である。図示例の静電気インジケータ100Aは、高分子マトリクス12と、高分子マトリクス12中に分散している液晶組成物(以下、「液晶組成物粒子」とも称する)14と、を含む、PDLC層10を有する。液晶組成物粒子14は、液晶成分15を含んでいる。静電気インジケータ100Aにおいては、液晶成分15が静電気反応材料として用いられており、PDLC層10が静電気反応層として機能する。
【0013】
静電気インジケータ100Aは、PDLC層10の一方の側に配置されている第一基材20と、他方の側に配置されている第二基材30と、をさらに有している。第一基材および/または第二基材は、目的に応じて省略されてもよい。
【0014】
第一基材および第二基材はそれぞれ、接着層を介してPDLC層に貼り合わせられていてもよく、接着層を介さずにPDLC層と直接密着していてもよい。接着層としては、代表的には、接着剤層または粘着剤層が用いられる。接着層の厚みは、例えば0.1μm~100μm、好ましくは0.5μm~50μm、より好ましくは1μm~30μmである。
【0015】
本発明の実施形態による静電気インジケータは可撓性を有し得る。静電気インジケータの最小曲げ半径は、例えば100mm以下、好ましくは10mm以下であり得る。このような静電気インジケータによれば、検出対象の形状に沿って帯電状態を確認することが容易である。最小曲げ半径は、JIS K 5600-5-1:1999に準じて測定することができる。
【0016】
本発明の実施形態による静電気インジケータの厚みは、例えば10μm~1000μm、20μm~500μm、または40μm~300μmであり得る。
【0017】
<PDLC層>
PDLC層10は、上記のとおり、高分子マトリクス12と、高分子マトリクス10中に分散している液晶組成物粒子14と、を含む。液晶組成物粒子14は、液晶成分15を含む。
【0018】
PDLC層を有する静電気インジケータの一方の表面に帯電体を接触または接近させると、帯電体の周囲に形成されている電界に応じて液晶成分の配向状態が変化し得る。その結果、高分子マトリクスと液晶組成物粒子との屈折率差が変化し、PDLC層のヘイズも変化し得る。よって、ヘイズの変化を介して静電気を可視化することができる。
【0019】
例えば、
図1に示す静電気インジケータ100Aには帯電体が接近しておらず、液晶組成物粒子14中の液晶成分15は配向していないが、
図2に示すように、帯電体200が第二基材30側に接近すると、帯電体200に対応する領域において、帯電体の電荷に起因する電界に沿って液晶成分15が配向し得る。これにより、高分子マトリクス12の屈折率と液晶組成物粒子14の屈折率との差が減少して、帯電体200に対応する領域のヘイズが減少し得る。一方、その他の領域においては、電界が及ばないかまたは電界強度が小さくなることから、液晶成分15の配向状態は大きく変化せず、結果として、ヘイズの変化も小さくなる。
【0020】
図示例のPDLC層はノーマルモードであり、静電気の影響を受けていない状態でのヘイズが静電気の影響を受けている状態でのヘイズよりも高くなる。これとは異なり、静電気の影響を受けていない状態でのヘイズが静電気の影響を受けている状態でのヘイズよりも低くなるリバースモードのPDLC層を用いることもできる。
【0021】
静電気の影響によるヘイズの変化量は、その変化を検出できる限りにおいて制限されない。本発明の実施形態による静電気インジケータに数mmの距離から10kVで気中放電した際のヘイズの変化量は、例えば5%以上、好ましくは10%以上であり得る。
【0022】
液晶組成物粒子14の平均粒子径は、例えば0.3μm~20μm、好ましくは0.4μm~15μm、さらに好ましくは0.4μm~10μmであり得る。液晶組成物粒子の平均粒子径が小さすぎると、光の波長よりも液晶組成物粒子が小さいために、光が散乱することなく液晶組成物粒子を透過してしまい、結果として、十分なヘイズを得られない場合がある。また、液晶組成物粒子の平均粒子径が大きすぎると、光の波長よりも液晶組成物粒子が大きすぎるために、十分なヘイズを得られない場合がある。上記液晶組成物粒子の平均粒子径は、等体積球相当径である。
【0023】
上記PDLC層は、少なくとも一方向に延伸された延伸層であってもよい。延伸層であるPDLC層(以下、「延伸PDLC層」とも称する)においては、除電器で除電された空間等の静電気の影響を受けない環境下(以下、「初期状態」とも称する)において、高分子マトリクスおよび液晶成分を所定の方向(例えば、延伸方向)に配向した状態とすることができる。高分子マトリクスおよび液晶成分が所定の方向に配向しているPDLC層を用いることにより、感度に優れた静電気インジケータが得られ得る。このような効果が得られる推定メカニズムを以下に
図3および4を参照しつつ説明するが、この推定メカニズムは、本発明を何ら制限するものではない。具体的には、
図3に示されるように、延伸PDLC層10aを有する静電気インジケータ100A’において、初期状態では、液晶成分15および高分子マトリクス12のポリマー鎖の配向方向およびその面内垂直方向の屈折率差の影響により光散乱が生じ、
図4に示されるように、静電気の影響によって液晶成分15にのみ再配向が生じると、無延伸PDLC層と比べて配向方向およびその面内垂直方向の屈折率差の変化が大きくなり、結果として、ヘイズも大きく変化し得ると推測される。延伸PDLC層は、例えば、乾燥誘起相分離法、重合誘起相分離法等によって作製した無延伸PDLC層を延伸することによって得ることができる。
【0024】
1つの実施形態において、初期状態における高分子マトリクスの屈折率と液晶成分の屈折率との差の絶対値A1は、0.1以上であり、例えば0.1~0.2、また例えば0.1~0.15であり得る。上記高分子マトリクスの屈折率は、PDLC層の面内における屈折率と面内垂直方向(厚み方向)の屈折率との平均値((nx+ny+nz)/3)であり、液晶成分の屈折率は液晶成分の屈折率楕円体の各軸方向の屈折率の平均値である。屈折率の差が上記範囲内であると、初期状態において十分な光散乱が得られ得る。本明細書中、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。屈折率は、23℃における波長589nmの光で測定した値である。
【0025】
1つの実施形態において、高分子マトリクスの屈折率と液晶成分の常光屈折率(No)との差の絶対値A2は、0~0.1であり、例えば0~0.08、0~0.06、0~0.05、または0~0.03であり得る。また、屈折率の差が上記範囲内であると、静電気の電界に沿って液晶成分が配向した際に十分な光散乱の低下が得られ得る。|A1-A2|は、好ましくは0.05~0.2、より好ましくは0.1~0.2である。
【0026】
高分子マトリクスの面内複屈折(nx-ny)は、好ましくは0~0.1、より好ましくは0~0.05、さらに好ましくは0~0.03である。高分子マトリクスの面内複屈折が大きいと、初期状態における液晶成分の屈折率との差が小さくなり、光散乱が弱くなる場合がある。このような問題は、延伸PDLC層において、延伸方向の高分子マトリクスの屈折率(nMD)と液晶成分の異常光屈折率(ne)との差が小さくなる場合に生じやすい。
【0027】
高分子マトリクスのnMDと液晶成分のnoと差の絶対値(|no-nMD|)は、好ましくは0~1.0、より好ましくは0~0.8、さらに好ましくは0~0.6である。上記屈折率の差が大きい場合は静電気印可時においても光散乱が強く、静電気の可視化が不十分となる場合がある。
【0028】
高分子マトリクスは、任意の適切な樹脂で構成され得る。高分子マトリクスを形成する樹脂は、光透過率、液晶成分の屈折率、基材との密着力等に応じて適切に選択され得る。
【0029】
高分子マトリクス形成用樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は、水溶性樹脂または水分散性樹脂であることが好ましい。また例えば、高分子マトリクス形成用樹脂としては、液晶ポリマー、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド樹脂等の硬化型樹脂が挙げられる。高分子マトリクス形成用樹脂は、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726:1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れたPDLC層が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0031】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726:1994に準じて求めることができる。
【0032】
液晶組成物に含まれる液晶成分としては、目的に応じて、任意の適切な液晶成分を用いることができる。液晶成分は、一種の液晶化合物から構成されてもよく、目的の特性が得られるように二種以上の液晶化合物を混合して調製されてもよい。液晶成分は、例えば、ネマティック型液晶、スメクティック型液晶、またはコレステリック型液晶であり得る。分子運動性に優れることから、液晶成分は常温でネマティック型液晶であることが好ましい。
【0033】
ネマティック型の液晶化合物としては、ビフェニル系化合物、フェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルベンゼン系化合物、アゾキシベンゼン系化合物、アゾベンゼン系化合物、アゾメチン系化合物、ターフェニル系化合物、ビフェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルビフェニル系化合物、フェニルピリジン系化合物、シクロヘキシルピリミジン系化合物、コレステロール系化合物、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0034】
液晶成分の誘電率異方性(Δε)は正であっても負であってもよい。液晶成分のΔεは、例えば1~35、好ましくは5~35、より好ましくは10~35であり得る。Δεが上記範囲内であると、感度に優れた静電気インジケータが得られ得る。
【0035】
液晶成分の複屈折(ne-no)は、好ましくは0.1~0.5、より好ましくは0.15~0.5、さらに好ましくは0.2~0.5である。液晶成分の複屈折が上記範囲よりも小さい場合、液晶成分のneと無延伸PDLC層の高分子マトリクスの屈折率との差、あるいは、液晶成分のneと延伸PDLC層の高分子マトリクスの延伸方向の屈折率(nMD)または延伸方向に垂直な面内方向の屈折率(nTD)との差が小さくなり、結果として、光散乱が小さくなる場合がある。液晶成分の複屈折が上記範囲よりも大きい場合、液晶自体の分子設計が困難となり得る。
【0036】
液晶成分のネマティック相の粘度(23℃)は、好ましくは3mPa・s~50mPa・s、より好ましくは3mPa・s~40mPa・s、さらに好ましくは3mPa・s~30mPa・sである。この範囲の粘度であれば、液晶成分の流動性が良く、感度に優れた静電気インジケータが得られ得る。粘度は、例えば、JIS Z 8803:2011に従って測定され得る。
【0037】
1つの実施形態において、液晶組成物は、液晶成分に加えて二色性色素を含むことができる。液晶成分と二色性色素とを含む液晶組成物を用いると、液晶成分の配向状態に追随して二色性色素の配向状態も変化し得ることから、着色状態の変化を介して静電気を可視化することができる。
【0038】
図5および
図6は、液晶組成物が液晶成分に加えて二色性色素を含む実施形態による静電気インジケータの一例の動作を説明する概略断面図である。
図5に示すように、静電気インジケータ100Bに帯電体が接近していない場合には、液晶組成物粒子14中の液晶成分15および二色性色素16はいずれも配向しておらず、よって、二色性色素16による吸収に起因した着色が観察される。
図6に示すように、帯電体200が静電気インジケータ100Bの第二基材30側に接近すると、帯電体200に対応する領域において、液晶成分15が帯電体200周囲に形成されている電界に沿って配向し、これに追随して二色性色素16も厚み方向に沿って配向し得る。これにより、帯電体200に対応する領域における二色性色素16による吸収が減少して退色し得る。
【0039】
二色性色素としては、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ナフトキノン系染料、ペリレン系染料、キノフタロン系染料、テトラジン系染料、ベンゾチアジアゾール系染料等が挙げられる。なかでも、吸光係数、液晶成分への溶解度、耐光性等の観点から、二色性色素はアントラキノン系染料またはアゾ系染料を含むことが好ましい。例えば、日本学術振興会第142委員会編;「液晶デバイスハンドブック」日本工業新聞社(1989年)、第192頁~第196頁及び第724頁~第730頁に記載のアゾ系染料、アントラキノン系染料またはこれらの混合物を用いることができる。また、種々の二色性色素が市販されており、これらを適宜用いることができる。
【0040】
PDLC層における高分子マトリクスと液晶成分との合計含有割合は、例えば90重量%以上、好ましくは95重量%以上であり、例えば100重量%以下、好ましくは99.9重量%以下である。
【0041】
PDLC層における高分子マトリクスと液晶成分との重量基準の含有量比(前者:後者)は、例えば10:90~60:40、好ましくは15:85~50:50、より好ましくは20:80~50:50である。このような含有量比である場合、安定したエマルション塗工液を好適に調製することができ、効果的な光散乱を生じるPDLC層を得ることができる。
【0042】
液晶組成物粒子が二色性色素を含む場合、PDLC層における二色性色素の含有割合は、液晶成分100重量部に対して、例えば0.1重量部~20重量部、好ましくは1重量部~20重量部、より好ましくは1重量部~10重量部である。
【0043】
PDLC層は、目的に応じて、任意の適切な成分をさらに含んでもよい。このような任意成分としては、界面活性剤、レベリング剤、架橋剤、分散安定剤等が挙げられる。
【0044】
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。レベリング剤としては、例えば、アクリル系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤等を挙げることができる。架橋剤としては、例えば、アジリジン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤等を挙げることができる。
【0045】
PDLC層における任意成分の合計含有割合は、例えば10重量%以下、好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~5重量%である。
【0046】
PDLC層の厚みは、例えば1μm~200μm、好ましくは5μm~100μm、より好ましくは10μm~100μmである。このような膜厚である場合、静電気による変化の視認性が高く、製膜性の高いPDLC層が得られ得る。
【0047】
<基材>
第一基材および第二基材は、PDLC層を支持し得る。第一基材および第二基材はそれぞれ、目的に応じて、基材本体および高誘電率基材から選択される少なくとも1つを含むことができる。第一基材および第二基材は、互いに同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。
【0048】
第一基材および第二基材の全光線透過率はそれぞれ、好ましくは40%以上であり、例えば60%以上、また例えば80%以上であってもよい。全光線透過率は、JIS K 7361:1997に従って測定され得る。
【0049】
第一基材および第二基材のヘイズ値はそれぞれ、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは0.1%~10%である。ヘイズは、JIS K 7136:2000に従って測定され得る。
【0050】
基材本体は、任意の適切な材料を用いて形成され得る。代表的には、基材本体は、熱可塑性樹脂を主成分とする高分子フィルムまたはガラスフィルムであり、好ましくは高分子フィルムである。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂;ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;セルロース系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは、ポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂またはアクリル系樹脂である。これらの樹脂は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れる。上記熱可塑性樹脂は、単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
基材本体の厚みは、例えば10μm~200μm、好ましくは20μm~150μm、より好ましくは30μm~100μmである。
【0052】
高誘電率基材は、電界に対して分極しやすい性質を有する。高誘電率基材は、例えば3~10、また例えば5~10の誘電率を有し得る。例えば、第一基材および/または第二基材が高誘電率基材を含む場合、高誘電率基材を含む基材表面に帯電体を接近させると、高誘電率基材が帯電体周囲に形成されている電界に対して容易に分極して電荷を生じ、生じた電荷によって形成される電界に対して液晶成分が配向し得る。その結果、静電気を高い感度で可視化し得る。誘電率は、JIS C 2138:2007に準じて測定することができる。
【0053】
第一基材および第二基材はそれぞれ、基材本体に加えて、高誘電率基材を含んでもよく、高誘電率基材を第一基材および/または第二基材として用いてもよい。前者の場合、高誘電率基材の位置は限定されない。高誘電率基材は、基材本体のPDLC層側(例えば、基材の最内層)、あるいは、基材本体のPDLC層と反対側(例えば、基材の最外層)に配置され得る。
【0054】
高誘電率基材としては、上記誘電率を有する任意の適切な基材が好ましく用いられ得る。高誘電率基材の具体例としては、高誘電率の無機材料が添加された樹脂フィルム等が挙げられる。
【0055】
高誘電率基材の厚みは、例えば10μm~200μm、好ましくは20μm~150μm、より好ましくは30μm~100μmである。
【0056】
B.静電気インジケータの製造方法
A項に記載の静電気インジケータは任意の適切な製造方法で製造することができる。
1つの実施形態において、静電気インジケータの製造方法は、
(工程Ia)高分子マトリクス形成用樹脂と液晶組成物とを含む塗工液を支持基材の一方の面に塗布して、塗布層を得ること、および
(工程IIa)上記塗布層を乾燥させて、高分子マトリクスと、上記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、PDLC層を得ること
を含む。
上記静電気インジケータの製造方法は、
(工程IIIa)上記PDLC層を延伸すること
をさらに含み得る。
【0057】
<工程Ia>
工程Iaにおいては、高分子マトリクス形成用樹脂と液晶組成物とを含む塗工液を支持基材の一方の面に塗布して、塗布層を得る。
【0058】
上記塗工液は、液晶成分を含む液晶組成物粒子が溶媒中に分散しているエマルション塗工液であることが好ましい。塗工液は、例えば、高分子マトリクス形成用樹脂粒子と、液晶成分を含む液晶組成物粒子とが溶媒中に分散したエマルション塗工液である。また例えば、塗工液は、高分子マトリクス形成用樹脂溶液中に、液晶成分を含む液晶組成物粒子が分散したエマルション塗工液である。液晶組成物粒子は、液晶成分に加えて二色性色素をさらに含み得る。
【0059】
エマルション塗工液は、例えば、高分子マトリクス形成用樹脂粒子を含む樹脂エマルションまたは樹脂溶液と、液晶組成物粒子を含む液晶エマルションとを混合することによって調製され得る。必要に応じて、溶媒および/または任意成分をさらに添加および混合してもよい。あるいは、エマルション塗工液は、溶媒中に高分子マトリクス形成用樹脂、液晶成分、任意成分等を添加し、機械的に分散させること等によっても調製され得る。
【0060】
上記樹脂エマルションおよび液晶エマルションは、例えば、機械的乳化法、マイクロチャネル法、膜乳化法等によって調製され得る。膜乳化法によれば、粒度分布が揃ったエマルションが好適に得られ得る。膜乳化法の詳細については、特開平4-355719号公報、特開2015-40994号公報(これらは、本明細書に参考として援用される)等の開示を参照することができる。
【0061】
溶媒としては、水または水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が好ましく用いられ得る。水混和性有機溶媒としては、C1-3アルコール、アセトン、DMSO等が挙げられる。
【0062】
高分子マトリクス形成用樹脂、液晶成分、二色性色素、およびその他の任意成分(例えば、界面活性剤、レベリング剤、架橋剤、分散安定剤)ならびに塗工液の固形分におけるそれらの含有割合については、上述のとおりである。
【0063】
塗工液の固形分濃度は、例えば5重量%~50重量%、好ましくは5重量%~40重量%であり得る。
【0064】
塗工液を塗布する支持基材としては、任意の適切な基材を用いることができる。例えば、第一基材を支持基材として用いることにより、第一基材上にPDLC層が直接形成された静電気インジケータが好適に得られ得る。
【0065】
工程IIIaの延伸が行われる場合、支持基材としては、吸水率が例えば0.2%以上、好ましくは0.3%以上である熱可塑性樹脂基材が好ましく用いられる。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、後述する水中延伸を好適に行うことができる。熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209:2000に準じて求められる値である。
【0066】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下であり、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、後述する水中延伸を好適に行うことができる。熱可塑性樹脂基材のTgは、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。Tgは、JIS K 7121:2012に準じて求められる値である。
【0067】
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0068】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸および/またはシクロヘキサンジカルボン酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0069】
塗布層の厚みは、好ましくは10μm~1000μmであり、より好ましくは20μm~900μmであり、さらに好ましくは50μm~800μmである。このような範囲であれば、厚みの均一性に優れるPDLC層を得ることができる。
【0070】
<工程IIa>
工程IIaにおいては、上記塗布層を乾燥させて、高分子マトリクスと、上記高分子マトリクス中に分散している液晶組成物と、を含む、PDLC層を得る。塗布層を乾燥させることにより、溶媒が除去されて高分子マトリクス形成用樹脂が融着し、高分子マトリクスが形成される結果、高分子マトリクス中に液晶組成物粒子が分散した構造を有するPDLC層が好適に形成され得る。
【0071】
塗布層の乾燥は、任意の適切な方法によって行われ得る。乾燥方法の具体例としては、自然乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。塗工液が架橋剤を含む場合、乾燥時において、高分子マトリクスの架橋構造が形成され得る。
【0072】
乾燥温度は、例えば20℃~150℃であり、好ましくは25℃~100℃である。乾燥時間は、好ましくは1分~100分であり、より好ましくは2分~60分である。
【0073】
必要に応じて、PDLC層と支持基材との積層体から支持基材を剥離除去してもよい。あるいは、PDLC層と支持基材との積層体のPDLC層表面に別の基材(例えば、第二基材)を積層することができる。また、PDLC層から支持基材を剥離除去して、剥離面に別の基材(例えば、第一基材)を積層してもよい。これにより、PDLC層からなる静電気インジケータ、および、PDLC層と第一基材および/または第二基材とを有する静電気インジケータが得られ得る。支持基材の剥離および/または別の基材の積層は、工程IIIaの前に行われてもよく、工程IIIaの後に行われてもよい。
【0074】
上記別の基材の積層は、接着層を介して行われてもよく、接着層を介さずに行われてもよい。接着層を介さずに行われる場合、十分な密着性を得る観点から、好ましくはラミネーターを用いて、0.006MPa/m~7MPa/mのラミネート圧、より好ましくは0.06MPa/m~0.7MPa/mのラミネート圧をかけながら行われ得る。
【0075】
<工程IIIa>
工程IIIaにおいては、上記PDLC層を延伸する。延伸により、高分子マトリクスおよび液晶成分を所定の方向(例えば、延伸方向)に配向した状態とすることができる。
【0076】
延伸方法および延伸条件は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に制限されない。延伸方法としては、自由端一軸延伸、固定端一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸等が例示でき、自由端一軸延伸および固定端一軸延伸がより好ましい。延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上であり、例えば1.5倍~7倍、また例えば3倍~7倍であり得る。
【0077】
延伸は、水中延伸(湿式延伸)であってもよく、空中延伸(乾式延伸)であってもよい。
【0078】
水中延伸は、PDLC層を、好ましくはPDLC層と支持基材との積層体を延伸浴に浸漬させて行う。高分子マトリクス形成用樹脂がPVA系樹脂を含む場合、水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中にPDLC層を浸漬させて行う。ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂を含むPDLC層に剛性と耐水性とが付与され、良好に延伸することができる。
【0079】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂の溶解を効果的に抑制することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0080】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。延伸温度が40℃を下回ると、水による支持基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂の溶解性が高くなる。PDLC層の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0081】
空中延伸の延伸温度は、例えば支持基材のTgおよび高分子マトリクス形成用樹脂のTgの高い方のTg以上であり、好ましくは高い方のTg+10℃以上、より好ましくは高い方のTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。
【0082】
別の実施形態において、静電気インジケータの製造方法は、
(工程Ib)第一基材の片面に高分子マトリクス形成用の硬化型樹脂および液晶組成物を含む塗工液を塗布して塗布層を形成すること、
(工程IIb)塗布層上に第二基材を積層して積層体を形成すること、および、
(工程IIIb)積層体に活性エネルギー線を照射して硬化型樹脂を重合させてPDLC層を得ること、
を含む。
上記静電気インジケータの製造方法は、
(工程IVb)上記PDLC層を延伸すること
をさらに含み得る。
【0083】
塗工液は、均一相状態であり得る。硬化型樹脂の重合に伴って高分子マトリクスと液晶組成物とが相分離し、PDLC層が得られ得る。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましく用いられる。工程Ibおよび工程IIbの代替として、スペーサーを介して積層された第一基材と第二基材との間に塗工液を充填し、その後、工程IIIbの活性エネルギー線照射を行ってもよい。工程IVbについては、工程IIIaと同様の説明を適用することができる。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例等における、試験および評価方法は以下のとおりである。なお、「部」と記載されている場合は、特記事項がない限り「重量部」を意味し、「%」と記載されている場合は、特記事項がない限り「重量%」を意味する。
・厚み
デジタルアップライトゲージ(株式会社尾崎製作所社製、製品名「R1-205」)を用いて測定した。
・高分子マトリクスの屈折率
高分子マトリクスの屈折率は直接測定することが困難であるため、PDLC層と同様の延伸比および膜厚で形成された液晶組成物粒子を含まない高分子マトリクス単体フィルムを測定することで代用した。具体的には(Metricon社製、製品名「モデル2010/Mプリズムカプラー」を用いて測定した。測定は臨界角モードにて波長444nm、594nm、655nmにて測定し、コーシーの分散式にてフィッティングを行い589nmでの換算値を得た。延伸フィルムに関しては入射TE偏光の電場ベクトルに対して延伸軸が平行または垂直となるようにそれぞれ設置してnx、nyを測定し、それぞれの設置時にTM偏光にて測定した値の平均値をnzとした。測定は23℃で実施した。
・液晶成分の屈折率
製造業者が開示する値(アッベ屈折計にて白色光を用いて測定しており波長589nmでの測定と同等の値、測定温度:20℃)を採用した。
・液晶成分の誘電率
製造業者が開示する値(測定周波数:1kHz、測定温度:25℃、印加電圧:20V)を採用した。
【0085】
[実施例1]
(1)エマルション塗工液の調製
重合度1700、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製、商品名「JC-17」)の9重量%水溶液5gを調製し、混合液晶(株式会社LCC製、商品名「E-8」、Δε=15.95、ne=1.770、no=1.525のネマティック型液晶)0.8mlを添加した。得られた混合液をホモジナイザー(株式会社ブランソン製、商品名「超音波ホモジナイザーSFX250」)で全体が乳化するまで攪拌した。得られた乳化液に対して撹拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE―310」)を用いて、混合モード(2000rpm)で5分間、脱泡モード(2200rpm)で5分間攪拌し、エマルション塗工液を形成した。
(2)PDLC層の形成
上記エマルション塗工液を、熱可塑性樹脂基材であるアモルファスポリエチレンテレフタレート(A-PET)フィルム(三菱樹脂社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)の片面にアプリケーターを用いてWet塗布厚み700μmで塗布し、恒温槽で乾燥させた。乾燥温度は80℃、乾燥時間は30分であった。これにより、塗布層を乾燥させて、熱可塑性樹脂基材とその片面に形成されたPDLC層(厚み55μm)との積層体を得た。乾燥後、積層体を室温(23℃)まで自然冷却した。PDLC層の高分子マトリクスの屈折率((nx+ny+nz)/3)は1.530であった。
(3)延伸PDLC層の形成
上記積層体を40mm×35mmの大きさに切断し、チャック部分がフィルム幅40mm×チャック間距離11mmとなるようにフィルムがたわまないように両端が固定できる手延伸治具に設置した。その後、70℃の3重量%ホウ酸水溶液中に浸漬した状態でチャック間距離が4.5倍になるように水中延伸を行った。延伸後の積層体を、チャック間距離を固定した状態で恒温槽にて乾燥させた。乾燥温度は80℃、乾燥時間は15分であった。乾燥後、積層体を室温(23℃)まで自然冷却して、[延伸PDLC層/A-PETフィルム]の構成を有する静電気インジケータ1を得た。延伸PDLC層の厚みは22μmであった。延伸PDLC層の高分子マトリクスの延伸方向の屈折率(nMD)は1.547、延伸方向と直交方向の屈折率(nTD)は1.521であった。
【0086】
<静電気の検出>
上記静電気インジケータ1に関して、静電気試験器(株式会社ノイズ研究所製、型番「ESS-S3011A&GT-30RA」)を用いて静電気の検出を行った。具体的には、静電気試験器のプローブを、気中放電モードにて印可電圧10kVで、静電気インジケータ1の延伸PDLC層側に1mmの距離まで接近させた。その結果、静電気インジケータ1は、プローブの接近前は一様に白濁した外観を呈していたが、プローブを接近させると、接近箇所のみ透明性が増大し、これにより、静電気が可視化できることが確認された。
【0087】
[実施例2]
延伸PDLC層の形成時にチャック間距離が3倍になるように水中延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にエマルション塗工液の調製、PDLC層の形成、および延伸PDLC層の形成を行って静電気インジケータ2を得た。得られた延伸PDLC層の厚みは31μmであった。
静電気インジケータ2は、静電気試験器のプローブの接近前は一様に白濁した外観を呈していたが、プローブを実施例1と同様に接近させると、接近箇所のみ透明性が増大し、これにより、静電気が可視化できることが確認された。
【0088】
[実施例3]
延伸PDLC層の形成時にチャック間距離が5.5倍になるように水中延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にエマルション塗工液の調製、PDLC層の形成、および延伸PDLC層の形成を行って静電気インジケータ3を得た。得られた延伸PDLC層の厚みは18μmであった。
静電気インジケータ3は、静電気試験器のプローブの接近前は一様に白濁した外観を呈していたが、プローブを実施例1と同様に接近させると、接近箇所のみ透明性が増大し、これにより、静電気が可視化できることが確認された。
なお、静電気インジケータ1~3のプローブを接近させる前のヘイズはいずれも同程度であったが、プローブを接近させた際の透明度は、インジケータ3が最も高く、インジケータ1が次いで高く、インジケータ2が最も低かった。
【0089】
[実施例4]
エマルション塗工液の調製時に二色性色素(株式会社林原製、製品名「G-470」)を13.5mg添加したこと以外は実施例1と同様にエマルション塗工液の調製、PDLC層の形成、および延伸PDLC層の形成を行って静電気インジケータ4を得た。得られた延伸PDLC層の厚みは25μmであった。
静電気インジケータ4は、静電気試験器のプローブの接近前は一様に不透明なオレンジ色(橙白色)の外観を呈していたが、プローブを実施例1と同様に接近させると、接近箇所のみ透明性が増大し、これにより、透明感が生じるとともに着色が弱まり、静電気が可視化できることが確認された。