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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179866
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A61M25/09 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099120
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 成美
(72)【発明者】
【氏名】近岡 空
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA29
4C267BB02
4C267BB07
4C267BB11
4C267BB16
4C267BB52
4C267CC08
4C267DD01
4C267FF03
4C267GG21
4C267GG33
4C267HH17
4C267HH18
(57)【要約】
【課題】コイル体の先端部における不可逆的な癖付きを抑制すると共に、コイル体を構成する素線が径方向に位置ズレするのを抑制することが可能なガイドワイヤの提供を目的とする。
【解決手段】医療デバイス1は、コアシャフト11と、素線w1を巻回することで形成された外側コイル体21と、コアシャフト11の先端と外側コイル体21とが互いに固着した先端固着部41とを備え、外側コイル体21は、コアシャフト11の長軸方向に沿って隣り合う素線w1,w1の部分に隙間を有する疎巻部21Aを具備し、外側コイル体21の疎巻部21Aは、下記式(1)および(2)を満たしている。式(1),(2)中、Dは外側コイル体21の有効径を、dは外側コイル体21の素線径を、Paは外側コイル体21の素線w1のピッチの代表値をそれぞれ示す。
3.5≦D/d≦6.5 ・・・(1)
1<Pa≦3 ・・・(2)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシャフトと、
前記コアシャフトの先端部の少なくとも一部を覆うように設けられ、素線を巻回することで形成された外側コイル体と、
前記コアシャフトの先端と前記外側コイル体の先端とが互いに固着した先端固着部と、を備えている医療デバイスであって、
前記外側コイル体は、前記コアシャフトの長軸方向に沿って隣り合う素線の部分に隙間を有する疎巻部を具備し、
前記外側コイル体の疎巻部は、下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする医療デバイス。
3.5≦D/d≦6.5 ・・・(1)
1<Pa≦3 ・・・(2)
(前記式(1)中、Dは前記外側コイル体の有効径を、dは前記外側コイル体の素線径をそれぞれ示す。前記式(2)中、Paは前記外側コイル体における素線のピッチの代表値を示す。)
【請求項2】
前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦2を満たす請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記外側コイル体の有効径Dおよび前記外側コイル体の素線径dは、4.5≦D/d≦5を満たす請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記外側コイル体の有効径Dおよび前記外側コイル体の素線径dは、5≦D/d≦5.5を満たす請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦1.5を満たす請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦1.1を満たす請求項5に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記疎巻部の先端は前記外側コイル体の先端に位置し、前記疎巻部の基端は前記外側コイル体の先端から基端側に向かって10mm~30mmの部位に位置する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記コアシャフトの先端部の少なくとも一部を覆うと共に、前記外側コイル体の内側に配置され、素線を一定のピッチで巻回することで形成された内側コイル体をさらに備えている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記外側コイル体における素線の巻回方向と前記内側コイル体における素線の巻回方向とが互いに逆向きであり、かつ前記コアシャフトの長軸に対する前記外側コイル体における素線の傾斜角度と、前記コアシャフトの長軸に対する前記内側コイル体における素線の傾斜角度とが異なる請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記先端固着部を固定しながら前記コアシャフトの基端を周方向に3周捻った後に前記先端固着部の固定を解除し、外側コイル体を取り出して測定した、長軸先端方向に対する当該外側コイル体の先端部の屈曲角度が、180度以下である請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記屈曲角度が90度以下である請求項10に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記屈曲角度が45度以下である請求項11に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、血管内に生じた病変部などを治療する際、カテーテルなどの医療器具に先行してこれらを案内するためのガイドワイヤが挿入される。
【0003】
このようなガイドワイヤとしては、例えば、複雑に湾曲した血管に追従したり、基端に加えた回転力を先端まで伝達したりするため、縮径したコアシャフトの先端部を覆うようにコイル体を配置したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-146390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなガイドワイヤは、複雑に湾曲した血管や、分岐する血管のうちの所望の血管に確実に挿入できるように、ガイドワイヤの先端部をあらかじめ所望の形状に成形して用いることがある。
【0006】
しかしながら、さまざまな形状を有する血管それぞれに対応するためにガイドワイヤ先端部の成形を繰り返しているうちに、コイル体が塑性変形してしまい、その形状に癖が付いたり、コイル体を構成する素線の一部が径方向にズレたりする傾向にある。
【0007】
このようなコイル体が塑性変形したガイドワイヤにおいては、再度成形(リシェープ)しようとする際、所望の形状に成形することが困難になったり、コイル体を構成する素線の一部が径方向にズレてガイドワイヤの外周に段部を生じたりする虞がある。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、コイル体の先端部における不可逆的な癖付きを抑制すると共に、コイル体を構成する素線が径方向に位置ズレするのを抑制することが可能なガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のいくつかの態様は、
(1)コアシャフトと、
前記コアシャフトの先端部の少なくとも一部を覆うように設けられ、素線を巻回することで形成された外側コイル体と、
前記コアシャフトの先端と前記外側コイル体の先端とが互いに固着した先端固着部と、を備えている医療デバイスであって、
前記外側コイル体は、前記コアシャフトの長軸方向に沿って隣り合う素線の部分に隙間を有する疎巻部を具備し、
前記外側コイル体の疎巻部は、下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする医療デバイス、
3.5≦D/d≦6.5 ・・・(1)
1<Pa≦3 ・・・(2)
(前記式(1)中、Dは前記外側コイル体の有効径を、dは前記外側コイル体の素線径をそれぞれ示す。前記式(2)中、Paは前記外側コイル体における素線のピッチの代表値を示す。)
(2)前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦2を満たす前記(1)に記載の医療デバイス、
(3)前記外側コイル体の有効径Dおよび前記外側コイル体の素線径dは、4.5≦D/d≦5を満たす前記(2)に記載の医療デバイス、
(4)前記外側コイル体の有効径Dおよび前記外側コイル体の素線径dは、5≦D/d≦5.5を満たす前記(2)に記載の医療デバイス、
(5)前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦1.5を満たす前記(2)から(4)のいずれか1項に記載の医療デバイス、
(6)前記ピッチの代表値Paが1<Pa≦1.1を満たす前記(5)に記載の医療デバイス、
(7)前記疎巻部の先端は前記外側コイル体の先端に位置し、前記疎巻部の基端は前記外側コイル体の先端から基端側に向かって10mm~30mmの部位に位置する前記(1)から(6)のいずれか1項に記載の医療デバイス、
(8)前記コアシャフトの先端部の少なくとも一部を覆うと共に、前記外側コイル体の内側に配置され、素線を一定のピッチで巻回することで形成された内側コイル体をさらに備えている前記(1)から(7)のいずれか1項に記載の医療デバイス、
(9)前記外側コイル体における素線の巻回方向と前記内側コイル体における素線の巻回方向とが互いに逆向きであり、かつ前記コアシャフトの長軸に対する前記外側コイル体における素線の傾斜角度と、前記コアシャフトの長軸に対する前記内側コイル体における素線の傾斜角度とが異なる前記(8)に記載の医療デバイス、
(10)前記先端固着部を固定しながら前記コアシャフトの基端を周方向に3周捻った後に前記先端固着部の固定を解除し、外側コイル体を取り出して測定した、長軸先端方向に対する当該外側コイル体の先端部の屈曲角度が、180度以下である前記(1)から(9)のいずれか1項に記載の医療デバイス、
(11)前記屈曲角度が90度以下である前記(10)に記載の医療デバイス、並びに
(12)前記屈曲角度が45度以下である前記(11)に記載の医療デバイス、である。
【0010】
なお、本明細書において、「有効径」とは、コイル体の外径-(コイル体素線の半径×2)で表される値を指す。「先端側」とは、医療デバイス(ガイドワイヤ)の長軸方向に沿う方向であって、体腔のより深部(遠位)に挿入される方向を意味する。「基端側」とは、医療デバイスの長軸方向に沿う方向であって、「先端側」と反対の方向を意味する。「先端」とは、任意の部材または部位における先端側の端部、「基端」とは、任意の部材または部位における基端側の端部をそれぞれ示す。「先端部」とは、任意の部材または部位において、その先端を含みこの先端から基端側に向かって長軸方向の中途まで延びる部位を指す。「基端部」とは、任意の部材または部位において、その基端を含みこの基端から先端側に向かって長軸方向の中途まで延びる部位を指す。「径方向」とは、コアシャフトの長軸方向に直交する放射方向を指す。「ピッチの代表値」とは、コアシャフトの長軸方向における、外側コイル体を構成する素線のピッチの度合を示す指標である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、先端部における不可逆的な癖付きを抑制すると共に、コイル体を構成する素線が径方向に位置ズレするのを抑制することが可能なガイドワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態を示す概略的断面図である。
図2図1の一部を拡大して示す概略的断面図である。
図3】第2の実施形態の一部を拡大して示す概略的断面図である。
図4A】癖付き試験の試験方法を示す説明図である。
図4B】癖付き試験の一例を示す外観写真である。
図5】癖付き試験の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の医療デバイスは、コアシャフトと、上記コアシャフトの先端部の少なくとも一部を覆うように設けられ、素線を巻回することで形成された外側コイル体と、上記コアシャフトの先端と上記外側コイル体の先端とが互いに固着した先端固着部と、を備えている医療デバイスであって、上記外側コイル体は、上記コアシャフトの長軸方向に沿って隣り合う素線の部分に隙間を有する疎巻部を具備し、上記外側コイル体の疎巻部は、上記式(1)および(2)を満たしている。
【0014】
以下、本発明の第1および第2の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。また、図面に示した各部の寸法は、実施内容の理解を容易にするために示した寸法であり、必ずしも実際の寸法に対応するものではない。なお、以下に示す第1および第2の実施形態では、医療デバイスとしてガイドワイヤを例示して説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1図2は、第1の実施形態を示す概略的断面図である。図1図2に示すように、ガイドワイヤ1は、概略的に、コアシャフト11と、外側コイル体21と、先端固着部41と、基端固着部51とにより構成されている。
【0016】
コアシャフト11は、ガイドワイヤ1の中心軸を構成する長手形状の部材である。コアシャフト11は、具体的には、例えば、その先端部が先端側に向かって段階的に縮径するように形成することができる。
【0017】
本実施形態のコアシャフト11は、先端から第1柱状部111、第1テーパ部112、第2柱状部113、第2テーパ部114、第3柱状部115の順で構成されている。第1柱状部111は、横断面が一定形状(例えば、扁平形状)の部位である。第1テーパ部112は、第1柱状部111の基端から基端側に向かって延設されたテーパ状の部位である。第2柱状部113は、第1テーパ部112の基端から基端側に向かって延設された横断面が一定形状(例えば、扁平形状)の部位である。第2テーパ部114は、第2柱状部113の基端から基端側に向かって延設されたテーパ状(例えば、円錐台形状)の部位である。第3柱状部115は、第2テーパ部114の基端から基端側に向かって延設された横断面が一定形状(例えば、円柱状)の部位である。なお、第1柱状部111、第1テーパ部112、第2柱状部113、第2テーパ部114、および第3柱状部115のうちの隣接する部位どうしの境界においては、互いに隣接する部位どうしの外形が同一でありかつ連続するように構成されている。
【0018】
コアシャフト11を構成する材料としては、ガイドワイヤ1の柔軟性を高めると共に、抗血栓性および生体適合性を付与する観点から、例えば、SUS304などのステンレス鋼、Ni-Ti合金などの超弾性合金等を採用することができる。
【0019】
外側コイル体21は、コアシャフト11の先端部の少なくとも一部を覆うように設けられ、素線w1を巻回することで形成された螺旋状の部材である。素線w1としては、1本若しくは複数本の単線、1本若しくは複数本の撚線、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができる。但し、単線とは1本の単一線を意味し、撚線とは複数本の単一線を予め互いに撚り合って形成した一束の線群を意味する。
【0020】
外側コイル体21は、コアシャフト11の長軸方向に沿って隣り合う素線w1,w1の部分に隙間を有する疎巻部21Aを具備し、外側コイル体21の疎巻部21Aは、下記式(1)および(2)を満たすように構成されている。
3.5≦D/d≦6.5 ・・・(1)
1<Pa≦3 ・・・(2)
ただし、式(1)中、Dは外側コイル体21の有効径を、dは外側コイル体21の素線径をそれぞれ示す。上記式(2)中、Paは外側コイル体21における素線w1のピッチの代表値を示している。
【0021】
ピッチの代表値Paとしては、具体的には、例えば、疎巻部21Aにおける外側コイル体21のピッチの算術平均値(Pmin+Pmax)/2d、各ピッチPから求めた平均値ΣP/n等が挙げられる。ただし、Pminは外側コイル体21のピッチPのうちの最小のピッチを、Pmaxは外側コイル体21のピッチPのうちの最大のピッチを、dは外側コイル体21の素線径を、Pは外側コイル体21中のピッチを、nは疎巻部21Aにおける素線w1の巻回数をそれぞれ表している。
【0022】
ここで、ピッチの代表値Paは、1<Pa≦2を満たすことが好ましく、1<Pa≦1.5を満たすことがより好ましく、1<Pa≦1.1を満たすことがさらに好ましい。また、ピッチの代表値Paの下限は、その上限がいずれの場合であっても、1.01であること(1.01≦Pa)も好ましい。ピッチの代表値Paが上記関係を満たすことで、外側コイル体21の先端部における不可逆的な癖付き、および外側コイル体21を構成する素線w1が径方向に位置ズレするのを効果的に抑制することができる。
【0023】
外側コイル体21の有効径Dおよび外側コイル体21の素線径dは、4.5≦D/d≦5を満たすことが好ましく、5≦D/d≦5.5を満たすことも好ましい。また、外側コイル体21の有効径Dおよび外側コイル体21の素線径dは、5.5≦D/d≦6.5を満たすことが好ましい。D/dが上記関係の少なくともいずれかを満たすことで、外側コイル体21の先端部における不可逆的な癖付きを抑制しつつ、位置ズレの発生の抑制との両立が実現される。
【0024】
なお、本実施形態では、疎巻部21Aの先端は外側コイル体21の先端に位置し、疎巻部21Aの基端は外側コイル体21の先端から基端側に向かって10mm~30mmの部位に位置している。言い換えれば、疎巻部21Aが外側コイル体21の先端部の特定範囲に配置されている。これにより、成形を行うガイドワイヤ1の先端部において、外側コイル体21の癖付きと素線w1の位置ズレとを効果的に抑制することができ、所望の形状に繰り返して成形(リシェープ)することができる。
【0025】
外側コイル体21を構成する材料としては、例えば、SUS316などのステンレス鋼;Ni-Ti合金などの超弾性合金;白金、タングステンなどの放射線不透過性の金属等を採用することができる。
【0026】
先端固着部41は、コアシャフト11の先端と外側コイル体21の先端とが互いに固着した部位である。先端固着部41の形状としては、ガイドワイヤ1が血管内を進行する際に血管の内壁に損傷を与えないように、先端側が滑らかに湾曲した半球形状となるように成形してもよい。
【0027】
先端固着部41は、具体的には、例えば、ロウ材を用い、コアシャフト11の先端と外側コイル体21の先端とをロウ材を介して一体的にロウ付けすることで形成したり、元々コアシャフト11の先端部であった部位と、元々外側コイル体21の先端部であった部位とを溶融成形したりすることで形成することができる。ロウ付けする場合のロウ材としては、例えば、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金、Au-Sn合金などの金属ロウ等が挙げられる。
【0028】
基端固着部51は、コアシャフト11の外周面sと外側コイル体21の基端部とが固着した部位である。基端固着部51は、コアシャフト11の外周面sのいずれの位置に設けられていてもよい。本実施形態では、基端固着部51が、第3柱状部115の外周面s上に設けられている。
【0029】
基端固着部51は、具体的には、例えば、コアシャフト11の外周面sと外側コイル体21の基端部とをロウ材を介してロウ付けしたり、接着剤を用いて接着したりすることで形成することができる。ロウ材としては、例えば、先端固着部41の形成に用いたロウ材等が挙げられる。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、アクリル系接着剤等が挙げられる。
【0030】
次に、ガイドワイヤ1の使用態様について説明する。まず、ガイドワイヤ1を血管に挿入する前に、ガイドワイヤ1の先端部を所望の形状(例えば、J字形状)に屈曲(成形)する。次いで、ガイドワイヤ1をその先端から血管内に挿入し、体外に露出しているガイドワイヤ1の基端部を操作することにより先端部を血管内の処置する部位まで押し進める。
【0031】
次に、ガイドワイヤ1の先端部が処置する部位まで到達した後、ガイドワイヤ1の基端をカテーテルなどの医療器具(不図示)の先端からその内腔に挿入し、上記医療器具をガイドワイヤ1に沿って血管内に押し進める。次いで、医療器具が処置する部位に到達した後、上記医療器具を用いて各種の処置を行う。次いで、処置が完了した後、ガイドワイヤ1に沿って医療器具を体外に引き抜くと共に、ガイドワイヤ1を血管から抜去する。
【0032】
なお、上述したガイドワイヤ1の使用により、抜去したガイドワイヤ1の先端部は、最初に成形した形状とは異なる他の形状に変形する傾向にある。そのため、他の医療器具を続けて使用したり、同じ医療器具を再び血管に挿入する場合、一度抜去したガイドワイヤ1の先端部を所望の形状(最初に成形した形状とは異なる新たな形状であってもよい)に成形し直して用いたりしてもよい(リシェープ)。リシェープされたガイドワイヤ1は、例えば、上述したガイドワイヤ1の使用手順と同様にして再度使用することができる。
【0033】
以上のように、ガイドワイヤ1(医療デバイス)は、上記構成であるので、外側コイル体21の先端部における不可逆的な癖付きを抑制すると共に、外側コイル体21を構成する素線w1が径方向に位置ズレするのを抑制することができる。その結果、ガイドワイヤ1の先端部の成形を繰り返したとしても外側コイル体21に癖が付き難くなり、再度成形する際、所望の形状に容易かつ確実に成形することができる。また、外側コイル体21に段部を生じ難い分、ガイドワイヤ1や、ガイドワイヤ1と併用されるカテーテルなどの医療器具をより円滑に処置する部位までデリバーすることができる。
【0034】
なお、上述した不可逆的な癖付きの抑制や、素線の位置ズレの抑制は、以下の理由によると推察される。
【0035】
すなわち、外側コイル体の有効径Dに対して素線径dが大きくなると、素線の横断方向における相対的な剪断力が大きくなって内部応力の蓄積により癖が付き易くなる。一方、外側コイル体の有効径Dに対して素線径dが小さくなると、素線が径方向に移動し易くなって位置ズレを起こし易くなる。
【0036】
また、外側コイル体における素線のピッチの代表値Paが大きくなると、コイル体特有の柔軟性が向上するため外側コイル体を屈曲(成形)したときに塑性的な癖付きが起こり難くなる。外側コイル体における素線のピッチの代表値Paが大きくなると、外側コイル体の長軸Z1(図3参照)軸方向への自由度が大きくなることで、外側コイル体の素線が径方向に移動し難くなって位置ズレを起こし難くなる。一方、外側コイル体における素線のピッチの代表値Paが小さくなると、素線の存在可能な空間が小さくなってしまい、その結果、外側コイル体を屈曲したときに生じる内部応力の蓄積により癖が付き易くなると共に、素線が径方向に移動し易くなって位置ズレを起こし易くなる。
【0037】
そのため、ガイドワイヤ1を、上述した式(1)および式(2)の関係を満たす特定の形状とすることで、外側コイル体21の先端部における不可逆的な癖付きを抑制しながら、外側コイル体21を構成する素線w1が径方向に位置ズレするのを抑制することができるものと推察される。
【0038】
[第2の実施形態]
図3は、第2の実施形態を示す概略的断面図である。図3に示すように、ガイドワイヤ2は、概略的に、コアシャフト11と、外側コイル体21と、内側コイル体32と、先端固着部41と、基端固着部51、52とにより構成されている。ガイドワイヤ2は、内側コイル体32をさらに備えている点で、第1の実施形態と異なっている。なお、以下に示す内側コイル体32の構成以外の構成は第1の実施形態のものと同様であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。また、ガイドワイヤ2の使用態様は、第1の実施形態のものと同様である。
【0039】
内側コイル体32は、コアシャフト11の先端部の少なくとも一部を覆うと共に、外側コイル体21の内側に配置され、素線w2を一定のピッチで巻回することで形成された螺旋状の部材である。素線w2としては、例えば、1本若しくは複数本の単線、1本若しくは複数本の撚線、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0040】
内側コイル体32を構成する材料としては、例えば、SUS316などのステンレス鋼;Ni-Ti合金などの超弾性合金;白金、タングステンなどの放射線不透過性の金属等を採用することができる。
【0041】
内側コイル体32は、例えば、先端が先端固着部41にてコアシャフト11および外側コイル体21と一体的に固着されていると共に、基端がコアシャフト11のいずれかの外周面s上に固着することができる。本実施形態の内側コイル体32は、先端が先端固着部41にて固着され、基端がコアシャフト11の第2テーパ部114の外周面s上に固着されている。先端固着部41および基端固着部52における内側コイル体32の固着方法としては、例えば、それぞれ上述した外側コイル体21の先端固着部41および基端固着部51における固着方法と同様の方法等を採用することができる。
【0042】
ここで、外側コイル体21における素線w1の巻回方向と内側コイル体32における素線w2の巻回方向とが互いに逆向きであり、かつコアシャフト11の長軸z1に対する外側コイル体21における素線w1の傾斜角度θ1と、コアシャフト11の長軸z1に対する内側コイル体32における素線w2の傾斜角度θ2とが異なっていてもよい(図3参照)。
【0043】
すなわち、外側コイル体21および内側コイル体32は、それらの一方がS撚りで他方がZ撚りであり、コアシャフト11の長軸z1の先端方向に対する外側コイル体21の巻線角度θ1と、コアシャフト11の長軸z1の先端方向に対する内側コイル体32の巻線角度θ2とが、互いに異なるように構成されていてもよい。これにより、一方のコイル体(例えば、内側コイル体32)の隣り合う素線の隙間に他方のコイル体(例えば、外側コイル体21)の素線が入り込むのをより効果的に防止することができる。
【0044】
以上のように、ガイドワイヤ2(医療デバイス)は、内側コイル体32を備えているので、外側コイル体21を構成する素線w1が径方向に位置ズレするのを抑制することができる。
【0045】
なお、本開示は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。上述した実施形態の構成のうちの一部を削除したり、他の構成に置換したりしてもよく、上述した実施形態の構成に他の構成を追加等してもよい。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、外側コイル体21が疎巻部21Aと密巻部21Bとを有するガイドワイヤ1(医療デバイス)について説明した。しかしながら、外側コイル体21は、密巻部21Bを有さず疎巻部21Aのみで構成されていてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、疎巻部21Aが外側コイル体21の先端部に位置するガイドワイヤ1,2(医療デバイス)について説明した。しかしながら、疎巻部21Aは、外側コイル体の長軸方向における中途に配置されたり、基端部に配置されたりしてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、疎巻部21Aが外側コイル体21の一箇所にのみ設けられたガイドワイヤ1,2(医療デバイス)について説明した。しかしながら、疎巻部21Aは、外側コイル体における独立した二箇所以上の部位に設けられていてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、コアシャフト11が先端から第1柱状部111、第1テーパ部112、第2柱状部113、第2テーパ部114、第3柱状部115の順で構成されたガイドワイヤ1,2について説明した。しかしながら、コアシャフトの形状は特に限定されるものではない。コアシャフトは、例えば、テーパ部を有さなくてもよく、テーパ部のみから構成されていてもよい。
【0050】
<実験結果>
評価に供する医療デバイス(ガイドワイヤ)の仕様を表1に示す。また、その他の仕様は以下の通りである。なお、各サンプルにおけるピッチの代表値Paは、Pa=(Pmin+Pmax)/2dの値を用いたものである。ただし、Pminは外側コイル体のピッチのうちの最小のピッチを、Pmaxは外側コイル体のピッチのうちの最大のピッチを、dは外側コイル体の素線径をそれぞれ表している。また、各サンプルにおける疎巻部の先端は、外側コイル体の先端に位置し、表1中の疎巻部の長さは、疎巻部の先端から基端までの長さを示している。
【0051】
[外側コイル体]
・材質 :Pt-Ni合金
・コイル有効径D :0.36mm-(d/2×2)
・コイル外径 :0.36mm
・素線径d :表1に記載
・ピッチの代表値Pa :表1に記載
・疎巻部の長さ :表1に記載
[内側コイル体]
・材質 :ステンレス鋼
・コイル外径 :0.2mm
・素線径 :0.025mm
【0052】
<評価>
表1に示した各ガイドワイヤを用い、癖付き抑制性および位置ズレ抑制性を下記方法に従い評価した。その結果を表1に合わせて示す。
【0053】
[癖付き抑制性]
試験(癖付き試験)に供するガイドワイヤの先端固着部を固定しながら、コアシャフトの基端を周方向に3周捻った後、先端固着部の固定を解除し、外側コイル体を取り出して測定した。この際、長軸先端方向に対する当該外側コイル体の先端部の曲がり度合(屈曲角度)を測定し、この測定値を指標として癖付き抑制性を評価した。
【0054】
具体的には、図4A(a)に示すように、試験に供するガイドワイヤを内径1.25mmの透明なシリコーンチューブ91の一方の開口91aから挿入し、孔91bを介してガイドワイヤの先端部をシリコーンチューブ91に固定した。次いで、図4A(b)に示すように、シリコーンチューブ91に対してガイドワイヤを周方向に3回捻った。図4Bは、周方向に3回捻った後のガイドワイヤの一例を示す外観写真である。次いで、ガイドワイヤ先端の固定を解除してシリコーンチューブ91から取り出した。次いで、ガイドワイヤを分解して外側コイル体を取り出し、図5に示すように、外側コイル体(21)の長軸z2(試験前の外側コイル体の長手方向の軸と同じ)に対して外側コイル体(21)の先端部が屈曲する角度(屈曲角度θ3)を測定した。
【0055】
このとき、屈曲角度θ3が180度以下である場合、癖付き抑制性は良好と、屈曲角度θ3が180度よりも大きい場合、癖付き抑制性は不良と評価した。また、屈曲角度θ3が90度以下である場合、癖付き抑制性はさらに良好であると、屈曲角度θ3が45度以下である場合、癖付き抑制性は最も良好であると評価した。
【0056】
[位置ズレ抑制性]
上述した癖付き抑制性の評価後の外側コイル体を用い、顕微鏡により倍率20倍の実体像を観察した。その際、外側コイル体1本当たりの位置ずれ箇所(明らかに位置ズレしていると認められる箇所)の数をカウントし、その数を指標として位置ズレ抑制性を評価した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から分かるように、No.1~No.29については、ピッチの代表値Paが1よりも大きいため、位置ズレ抑制性が良好であった。外側コイル体21の有効径D/外側コイル体21の素線径dは、4,5以上5.5以下が好ましい。外側コイル体21の有効径D/外側コイル体21の素線径dは、4.5以上5以下が好ましい。有効径Dが小さくなると、最大外径が小さいガイドワイヤに適用しやすくなるからである。また、外側コイル体21の有効径D/外側コイル体21の素線径dは、5以上5.5以下も好ましい。屈曲角度が抑制されるからである。
【符号の説明】
【0059】
1,2 医療デバイス(ガイドワイヤ)
11 コアシャフト
21 外側コイル体
21A 疎巻部
32 内側コイル体
41 先端固着部
D 外側コイル体の有効径
d 外側コイル体の素線径
Pa ピッチの代表値
θ1,θ2 傾斜角度
θ3 屈曲角度
z2 外側コイル体の長軸
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5