(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179881
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】対策提示装置
(51)【国際特許分類】
G16H 50/30 20180101AFI20241219BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099169
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】門倉 悠真
(72)【発明者】
【氏名】小山 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】長島 正和
(72)【発明者】
【氏名】三ツ谷 祐輔
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】暑さストレスを抑制可能な対策提示装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る対策提示装置は、暑さストレスに対する対策を提示する。前記対策提示装置は、使用者の生体情報、前記使用者の行動情報、及び前記使用者の環境情報の少なくともいずれかを含む状態データに基づいて、暑さストレスに対する前記対策に関して提示する提示内容を決定する処理部を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
暑さストレスに対する対策を提示する対策提示装置であって、
使用者の生体情報、前記使用者の行動情報、及び前記使用者の環境情報の少なくともいずれかを含む状態データに基づいて、暑さストレスに対する前記対策に関して提示する提示内容を決定する処理部を備えた、対策提示装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記状態データに基づいて、前記状態データが取得された前記使用者に対する前記対策の効果を予測し、前記効果の予測結果に基づいて前記提示内容を決定する、請求項1に記載の対策提示装置。
【請求項3】
前記提示内容は、前記効果の前記予測結果に関する情報を含む、請求項2に記載の対策提示装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記状態データに基づいて暑さストレスに対する複数の対策の効果を予測した予測結果と、前記複数の対策を実施するコストと、に基づいて、前記複数の対策の優先順位を決定し、前記優先順位に基づいて前記提示内容を決定する、請求項1に記載の対策提示装置。
【請求項5】
前記予測結果は、暑さストレスに対する複数の対策と、前記使用者に対する前記複数の対策の効果と、の関係を含む対策リストに基づいて算出されるものであり、
前記処理部は、前記使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、前記使用者に対する前記第1対策の効果を算出し、算出した前記第1対策の前記効果に基づいて、前記対策リストを更新する、請求項2に記載の対策提示装置。
【請求項6】
前記予測結果は、対策別暑さストレス予測モデルに基づいて算出されるものであり、
前記対策別暑さストレス予測モデルは、暑さストレスに対する複数の対策と、前記使用者に対する前記複数の対策の効果と、の関係を学習して生成されたモデルであり、
前記処理部は、前記使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、前記使用者に対する前記第1対策の効果を算出し、算出した前記第1対策の前記効果を用いた学習により前記対策別暑さストレス予測モデルを更新する、請求項2に記載の対策提示装置。
【請求項7】
前記状態データは、ウェアラブルセンサ、カメラ、及び、前記状態データを入力する入力部の少なくともいずれかを含む取得部により取得される、請求項1~6のいずれか1つに記載の対策提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、対策提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地球温暖化や異常気象などによって、暑さによるストレス(以下「暑さストレス」)の増大、高齢化や空調慣れによる暑さストレスへの許容度の低下が考えられる。暑さストレスを抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
暑さストレスを計測する製品、手法に関しては広く普及しているが、計測したいという欲求の背景には、何かの課題に対して対策/改善をしたいという要望があり、そのための計測である場合が多い。そのため、見える化だけではなく、計測データから対策や改善案を提示する対策提示機能があると価値向上が期待できる。しかしながら対策提示機能を持つ技術はなく、現状は現場管理者やユーザーの経験/感覚で対策を決定しており、経験の乏しい管理者やユーザーは有効な対策を実施できていないケースが多かった。
本発明が解決しようとする課題は、暑さストレスを抑制可能な対策提示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る対策提示装置は、暑さストレスに対する対策を提示する。前記対策提示装置は、使用者の生体情報、前記使用者の行動情報、及び前記使用者の環境情報の少なくともいずれかを含む状態データに基づいて、暑さストレスに対する前記対策に関して提示する提示内容を決定する処理部を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る対策提示装置を含む対策提示システムを例示する模式的ブロック図である。
【
図2】
図2は、提示部及び提示内容を例示する模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る対策表示システムの動作を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、表示内容決定アルゴリズムの一例を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、対策リストの一例を表す模式図である。
【
図6】
図6は、暑さストレス予測モデルの一例を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、対策別暑さストレス予測モデルを説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、表示内容決定アルゴリズムの変更を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、対策リスト反映係数を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る対策提示装置を含む対策提示システムを例示する模式的ブロック図である。
実施形態に係る対策提示システム200は、使用者等に、暑さストレスに対する対策を提示するシステムである。
図1に表したように、対策提示システム200は、取得部10と、対策提示装置100と、を有する。
【0009】
取得部10は、使用者の状態に関する状態データ(例えば体温などの生体情報)を取得する。対策提示装置100は、取得部10が取得した状態データに基づいて、暑さストレスに対する対策を提示(例えば表示)する。
【0010】
具体的には、対策提示装置100は、提示内容決定部20を有する。対策提示装置100は、さらに提示部30を有していてもよい。提示内容決定部20は、例えばコンピュータ装置である。提示内容決定部20は、処理部41と、通信部42と、記憶部43と、を含む。
【0011】
提示内容決定部20(処理部41)は、取得部10及び提示部30と、有線、無線又はその組合せにより通信可能に接続されている。処理部41は、例えば、通信部42を介して、取得部10及び提示部30と接続される。通信部42は、取得部10及び提示部30と通信するためのデータの入力部や出力部であり、例えば通信インターフェースや通信モジュールを含む。あるいは、通信部42は、データを入出力する入力端子または出力端子でもよい。
【0012】
処理部41は、通信部42を介して、取得部10が取得した状態データを取得する。処理部41は、取得部10が取得した使用者の現在の状態データ(第1状態データ)に基づいて、暑さストレスに対する対策に関して提示部30が提示する提示内容を決定する。処理部41は、例えばCPU(Central Processing Unit)等を含む演算回路である。
【0013】
記憶部43は、暑さストレスに対する複数の対策や、使用者が対策を実施した履歴などを含む対策リストを記憶する。例えば、処理部41は、第1状態データと、記憶部43に記憶されたデータ(対策リスト)と、に基づいて、提示内容を決定してもよい。対策リストの詳細については、後述する。
【0014】
記憶部43は、例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)といった記憶装置である。より具体的には、記憶部43は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み得る。記憶部43は、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を含んでいてもよい。
【0015】
処理部41で決定した提示内容は、通信部42を介して提示部30に出力される。提示部30は、当該提示内容を提示する。このように、対策提示システム200は、使用者の状態に関する状態データに基づいて、暑さストレスに対する対策を提示する。これにより、例えば、個人に適した対策を提示することができる。
【0016】
取得部10が取得する状態データは、例えば、使用者の生体情報、当該使用者の行動情報、及び当該使用者の環境情報の少なくともいずれかを含む。使用者の生体情報は、例えば、使用者の心拍、脈拍、体温、温湿度及び水分量の少なくともいずれかを含む。使用者の環境情報は、温湿度、使用者の周囲の温度、使用者の周囲の湿度及び天候情報(日照条件、日射情報又は紫外線量など)の少なくともいずれかを含む。使用者の行動情報は、使用者の運動量、行動種別、及び運動強度の少なくともいずれかを含む。使用者の行動情報は、行動履歴を含んでもよい。行動履歴は、例えば、作業種別及び作業量の少なくともいずれかを含む。作業種別は、例えば、移動、軽作業または重作業などの作業の種類を表す。作業量は、例えば歩数、作業時間又は作業回数で表される。
【0017】
状態データは、例えば取得部10に含まれる検出部11によって検出することができる。検出部11は、例えば使用者の腕などの身体の一部に装着するウェアラブルデバイスに含まれるセンサ(ウェアラブルセンサ)である。例えば、対策提示装置100は、使用者が装着したウェアラブルセンサのデータから生体状態および行動履歴を推定し、暑さストレスの抑制に有効な対策を提示する。ウェアラブルセンサは、例えば使用者の心拍や脈拍を測定するセンサ、使用者の体温(例えば皮膚温)を測定する温度センサ、使用者の周囲の温度(気温)を測定する温度センサ、使用者の周囲の湿度を測定する湿度センサ、及び使用者の周囲の明るさを測定する照度センサの少なくともいずれかを含む。
【0018】
検出部11は、カメラであってもよい。カメラは、使用者が作業を行う作業環境に設置される。例えば、対策提示装置100は、カメラが使用者を撮像した画像データから生体状態及び行動履歴を推定し、暑さストレスの抑制に有効な対策を提示する。より具体的には、例えば、画像解析により行動量が算出される。例えば、赤外線カメラを用いて使用者の脈拍を計測する。例えば、サーモカメラを用いて使用者の体温を計測する。
運動量、運動強度は使用者に装着したデバイスから取得する加速度や角速度から推定したものやカメラ画像から推定したものを利用する。運動量や運動強度の推定方法に関しては特に制限はなく、公知の手法を用いてもよい。例えば加速度であれば最も簡単な3軸の合成加速度成分の積分値を用いるものでも、複雑なアルゴリズムを用いるものでもよい。
【0019】
状態データは、例えば取得部10に含まれる入力部12によって取得されてもよい。入力部12は、例えばキーボードやタッチパネルなどの入力装置である。入力部12に状態データが入力されることで状態データが取得される。例えば、使用者に質問紙を用いて状態データを質問し、その回答結果が入力部12に入力される。例えば、対策提示装置100は、回答結果に基づいて、暑さストレスの抑制に有効な対策を提示する。質問紙による回答は、使用者の体調や疲労の程度、作業内容等を含んでもよい。
【0020】
図2は、提示部及び提示内容を例示する模式図である。
この例では、提示部30は、提示内容を画面に表示する表示装置であり、例えば液晶モニタである。提示部30は、提示内容決定部20が決定した提示内容を、使用者(又は使用者の管理者)に提示する。
図2に表したように、提示部30が表示する提示内容は、暑さストレスに対する対策Mを含む。対策Mは、使用者が実施することで、使用者の暑さストレス指標の上昇を抑制する対策である。例えば、対策Mは、複数表示される。
【0021】
図2の例では、複数の対策Mとして、対策M1(この例では5分間休憩)、対策M2(この例では換気)、及び対策M3(この例では水分補給)が表示されている。対策Mはこれらに限らず、作業内容変更(作業場所の変更または作業種類の変更)、環境変更(温湿度の変更は日射の変更)、または、設備変更(空調服の変更または休憩環境改善)であってもよい。表示内容は、休憩などの行動だけでなく、行動の時間や回数を含んでよい。例えば、5分の休憩を2回とる対策と、10分の休憩を1回とる対策とでは、使用者の暑さストレス指標に対する影響が異なる。
【0022】
また、
図2に表したように、提示部30は、取得部10によって状態データを取得した使用者のID、複数の対策Mの優先順位P、各対策Mを実施した場合の使用者の所定時間後の暑さストレス指標の値の予測値V(暑さストレス値予測)、及び、各対策Mを実施するコストCを表示する。コストCは、例えば、対策の実施するために掛かる時間である。休憩に5分かかる場合は、5分がコストとなる。また、同じ対策でもユーザーの置かれている環境などによってコストが変化する。例えば、同じ休憩を実施するとしても休憩場所への距離が近い場合と離れている場合では必要なコストが異なる。移動に5分かかる場合もあれば、数十秒で済む場合もある。例えば、工事現場の作業員を例にした場合、警備員/誘導員は交代要員がくれば、比較的容易に作業を中断、再開できるが、工事をしている工事員は、機器の停止など中断、再開かかる時間が警備員/誘導員に比べて長くなる。これらの必要なコストの判定には、例えば検出部11で取得したセンサデータによる作業判定および休憩判定を用いるか、例えば入力部12におけるユーザー側からの入力によっても判定可能とする。また、作業中であった場合は作業の中断、再開に必要な時間もコストに含まれる。
【0023】
複数の対策Mは、優先順に画面の上から下へ並ぶ。暑さストレス指標の値の予測値Vとして、第1所定時間後(例えば10分後)の予測値V1、第2所定時間後(例えば30分後)の予測値V2、及び第3所定時間後(例えば60分後)の予測値V3が表示されている。
【0024】
図3は、実施形態に係る対策表示システムの動作を例示するフローチャートである。
提示内容決定部20は、取得部10(データ取得機器)から、第1状態データを取得する(ステップS101)。
【0025】
提示内容決定部20は、データベースの対策リストに、ステップS101で取得した第1状態データを収集する(ステップS102)。データベースは、例えば記憶部43に記憶されている。
【0026】
提示内容決定部20の処理部41は、後述する表示内容決定アルゴリズムを変更する(ステップS103)。処理部41は、表示内容決定アルゴリズムを稼働させて、第1状態データに基づいて表示内容を決定する(ステップS104)。提示部30は、処理部41が決定した表示内容を表示する(ステップS105)。
【0027】
使用者がいずれかの対策を実施した場合(ステップS106:yes)、処理部41は対策実施履歴を取得する(ステップS107)。対策実施履歴は、当該対策を実施したことを示す情報、及び、当該対策を実施した後の状態データを含む。当該対策を実施したことを示す情報は、例えば、使用者が入力部12を用いて入力する。または、検出部11が検出する行動情報や生体情報に基づいて、使用者が対策を実施したことを推定してもよい。例えば、カメラの画像データや加速度センサで測定した加速度に基づいて算出される使用者の運動量が低下していた場合、使用者が水分補給動作を行ったと推定する。例えば、心拍数や体温などの生理指標が急激に低下した場合、使用者が対策を実施したと推定する。
【0028】
取得された対策実施履歴は、データベースの対策リストに追加される。使用者がいずれの対策も実施しない場合(ステップS106:no)は、再び表示内容決定アルゴリズムが稼働する(ステップS104)。
【0029】
図4は、表示内容決定アルゴリズムの一例を説明するフローチャートである。
処理部41は、第1状態データを取得する。すなわち、例えば、処理部41は、使用者の環境情報、行動情報及び生体情報を取得する(ステップS111、ステップS112及びステップS113)。
【0030】
処理部41は、取得した第1状態データに基づいて、使用者の暑さストレスの度合いを示す、暑さストレス指標の値を算出する。この例では、処理部41は、取得した環境情報と環境負荷指数算出モデルとに基づいて環境負荷指数を算出し(ステップS114)、取得した行動情報と行動負荷指数算出モデルとに基づいて行動負荷指数を算出し(ステップS115)、取得した生体情報と生体情報負荷指数算出モデルとに基づいて生体負荷指数を算出する(ステップS116)。処理部41は、環境負荷指数、行動負荷指数及び生体負荷指数を算出することによって、別単位の各種データを1つの指標に統一する。例えば、処理部41は、環境負荷指数、行動負荷指数及び生体負荷指数から、暑さストレス指標の値を算出する。この例では、環境負荷指数、行動負荷指数及び生体負荷指数から暑さストレス指標を算出しているが、暑さストレス指標の算出は、これに限らない。暑さストレス指標の算出には、使用者の生体情報や環境情報等に基づいて、使用者が受ける身体的なストレスの高さを表す数値を算出可能な公知の方法を用いることができる。
【0031】
処理部41は、第1状態データと暑さストレス予測モデルとに基づいて、第1状態データが取得された使用者が現在の状態を継続した場合に、指数(例えば暑さストレス指標の値)がどのように変化するかを予測する(ステップS117)。
【0032】
また、処理部41は、対策リストの情報を取得する(ステップS118)。対策リストに含まれる複数の対策の少なくとも一部が、上述のステップS105(
図3)において提示されることとなる。すなわち、対策リストに含まれる複数の対策は、例えば提示候補であり、使用者が実施する対策の候補である。
【0033】
対策リストは、後述する
図5のように、例えば、各対策と、各状態データと、各状態データの使用者に対する各対策の効果に関する情報と、を対応付けたテーブルである。対策リストは、対策リストに含まれる対策ごとに、状態データと、その状態データが示す状態の使用者が対策を実施した場合の当該使用者への効果と、の関係を表す。
【0034】
処理部41は、第1状態データに基づいて、第1状態データが取得された使用者が対策リストに含まれる各対策を実施した場合の、当該使用者への効果を予測する。例えば、処理部41は、第1対策を使用者が実施した効果を予測した第1予測結果や、第2対策を使用者が実施した効果を予測した第2予測結果を算出する。予測には、後述する対策別暑さストレス予測モデルを用いることができる(ステップS119)。対策別暑さストレス予測モデルは、現在の状態に対して使用者が各対策を実施した場合に、暑さストレス指標がどのように変化するかを算出するモデルである。各対策を実施した場合の使用者への効果の予測結果は、各対策を実施した場合の使用者の所定時間後の暑さストレス指標の予測値(例えば
図2に表した予測値V)を含んでもよい。対策の効果の予測結果は、対策を実施することによる、暑さストレス指標の変化を含んでもよい。すなわち、対策の効果は、使用者が対策を実施する前から当該対策を実施した所定時間後までにおける、暑さストレス指標の変化量であってもよい。
【0035】
対策リストは、対策リストに含まれる各対策を使用者が実施するコストを含んでもよい。処理部41は、ステップS119で算出した各対策の効果の予測結果と、各対策のコストと、に基づいて、対策リストに含まれる各対策の優先順位を決定する。優先順位の決定には、費用対効果を加味した対策表示モデルを用いる(ステップS120及びステップS121)。
【0036】
処理部41は、優先順位に基づいて、提示内容を決定する。例えば、
図2に表したように、提示内容は、対策の優先順位を含む。複数の対策は、優先順に並べて表示されてもよい。提示内容は、効果を予測した全ての対策に関する情報を含んでもよいし、一部の対策に関する情報のみであってもよい。例えば、処理部41は、優先度が高い対策を提示し、優先度が低い対策を提示しないことを決定してもよい。
【0037】
提示部30は、処理部41が決定した提示内容を提示する。例えば、提示部30は、第1状態データが取得された使用者やその管理者に、対策を表示する(ステップS105)。
【0038】
このように、処理部41は、状態データに基づいて、状態データが取得された使用者に対する暑さストレス対策の効果を予測し、その効果の予測結果に基づいて、提示内容を決定する。提示内容は、例えば、暑さストレスに対する対策と、当該対策の効果の予測結果に関する情報(例えば優先順位や、所定時間後のストレス指標の予測値)と、を含む。
例えば、第1状態データが取得された使用者は、暑さストレスに関する知識が少なくても、提示内容を参照することで、より適切な対策を実施することができる。
【0039】
なお、費用対効果を加味した対策表示モデルは、対策実施に必要な費用と対策を実施した場合に期待できる効果を同一指標軸に変換し、各対策の費用を分母に、効果を分子に置いた際に値が高い対策順に提示できるようにする。具体例として、作業員の工数を統一指標、暑さストレス指標の値が一定以上になると作業ができなくなるという環境を想定する。休憩時間Aという対策(対策(1))を実施すると、暑さストレス指標の値が一定以下で作業できる時間がBになる、休憩時間Aを2回実施する対策(対策(2))を実施すると、暑さストレスの値が一定以下で作業できる時間がB+(1/2)Aになる、という条件において、効果だけを見て対策を提示する場合は、対策(1)<対策(2)となるため対策(2)が上位に提示される。しかし、実際には休憩時間にかかる時間よりも作業できる時間が増えていないため、対策(1)の方が費用対効果としては大きい。本手法では対策に必要なコストを算出し、効果を予測することで費用対効果を考慮した対策を提示できるようにする。例えば、効果(例えば対策を実施することにより増大した作業可能時間)と、コスト(例えば対策の実施にかかる時間)と、の差(又は比)に基づいて、優先順位を決定してもよい。
【0040】
図5は、対策リストの一例を表す模式図である。
対策リストに含まれる複数の対策は、例えば、使用者が過去に実施した対策(実施済み対策)を含む。
図3に関して述べたとおり、処理部41は、使用者がいずれかの対策を実施すると、対策実施履歴を取得する(
図3のステップS107参照)。これにより、対策リストに、使用者が実施した対策や、当該対策の実施時(例えば実施の前後)の当該使用者の状態データが追加される(
図3のステップS103参照)。
【0041】
図5に表したように、対策リストは、複数の対策(対策内容及び対策量)と、その対策を実施した日時(実施日及び対策開始時刻)と、その対策を実施した使用者のID(ユーザー名)と、その対策を同時に実施した別の使用者のID(同時対象群)と、を対応付けて、組合せとして記録している。さらに、対策リストは、各対策と、各対策を実施する前(介入前)における使用者の状態データと、予測された暑さストレス指標変化時刻と、を対応付けて、組合せとして記録している。対策リストは、各対策と、各対策を実施した後(介入後)における使用者の状態データと、暑さストレス指標基準継続時間と、を対応付けて、組合せとして記録している。
【0042】
この例では、1つの状態データは、生体情報(心拍数及び体温)、行動状態指数(運動強度、運動量及び作業時間)及び環境情報(気温及び湿度)により構成されている。
【0043】
暑さストレス指標変化時刻は、例えば、暑さストレス予測モデル(
図4のステップS117参照)に基づいて予測される。暑さストレス指標変化時刻は、使用者が、ある対策を実施した時点において、もし対策をしていなかったら暑さストレス指標が事前に設定した基準値以上になると予想される時刻である。例えば、第1使用者(東芝太郎)が第1日時(1月1日の15時30分)に、第1対策(5分休憩)を開始したデータD1において、暑さストレス指標変化時刻が「0:45」であることは、第1使用者が15時30分に休憩をせずにそのまま作業を継続したと仮定した場合に、45分後の16時15分に、第1使用者の暑さストレス指標が基準値以上になると予想されたことを意味する。
【0044】
暑さストレス指標基準継続時間は、各対策を実施したデータにおいて、暑さストレス指標が基準値未満の状態で、使用者が活動を継続できた時間である。例えば、データD1において、暑さストレス指標基準継続時間が「1:50」であることは、第1使用者が、5分休憩を取得した後の15時35分から作業を開始して、1時間50分後の17時25分に、第1使用者の暑さストレス指標が基準値以上になったことを意味する。例えば、暑さストレス指標が基準値を超えずに、使用者が作業を終了または次の対策(休憩等)を実施した場合は、暑さストレス指標基準継続時間は、空欄でもよい。
【0045】
各対策の使用者への効果は、例えば、各対策を実施することによって増える使用者の作業可能時間によって評価される。作業可能時間とは、暑さストレス指標が事前に設定した基準値未満の状態において使用者が作業を継続可能な時間である。例えば、
図5に例示した対策リストにおいては、暑さストレス指標基準継続時間と、暑さストレス指標変化時刻と、の差が効果に対応する。すなわち、データD1においては、1時間50分と45分との差である65分が、5分休憩の効果となる。
【0046】
あるいは、例えば、暑さストレス指標が1~5レベルの5段階で表され、暑さストレス指標がレベル3になると作業が出来ない現場において、仮に、対策なしの場合は、作業時間120分で暑さストレス指標がレベル3になり、その後、60分の休憩が実施されないと、暑さストレス指標がレベル3未満にならないとする。一方で、この現場において、休憩を作業開始25分おきに5分取得すると、暑さストレス指標がレベル3にならずに使用者が作業できる場合、30分が対策効果となる。
【0047】
このように、対策リストは、状態データと、その状態データと対応付けられた使用者に対する各対策の効果と、の関係を含む。例えば、対策リストは、第2状態データと対応付けられた使用者が、第1対策を実施した場合の当該使用者への効果、及び、第2対策を実施した場合の当該使用者への効果、を含む。例えば、対策リストは、第3状態データと対応付けられた使用者が、第1対策を実施した場合の当該使用者への効果、及び、第2対策を実施した場合の当該使用者への効果、を含む。なお、対策リストが効果を含む、とは、効果を算出可能な情報を含むことであってもよい。例えば対策リストに含まれた状態データ等の他のデータから、必要に応じて、都度、効果の値を算出することも可能であり、必ずしも効果の値自体が記録されていなくてもよい。
【0048】
対策リストは、複数の使用者についてデータを含んでもよい。
図5の例では、対策リストは、ある使用者「東芝太郎」についてのデータと、別の使用者「東芝花子」についてのデータと、を含む。
【0049】
対策リストは、使用者等が追加したデータを含んでもよい。例えば、管理者又はサービス提供者が任意の対策を追加してもよい。例えば、使用者が、経験則などに基づいて任意の対策を追加してもよい。使用者等が追加したデータは、追加した対策、及び、その対策に対応付けられた状態データと使用者に対する効果とを含んでもよい。例えば、使用者等は、入力部12への入力により対策リストにデータを追加することができる。
【0050】
論文に公開された対策から有効な対策を自動取得してもよい。例えば、利用が限定されていない暑さストレス指標低減対策(行政予算での研究など)に関する研究情報をスクレイピングするように設定しておき、対策の種別が常に更新されるようにする。デバイス等へはファームウェアの更新で対応する。例えば、処理部41は、インターネット等のネットワークを経由して外部のデータベースから対策を取得してもよい。対策リストは、処理部41が外部の情報源を参照して、取得した対策を含んでもよい。
【0051】
例えば、使用者等が追加した対策や自動取得された対策については、表示内容決定アルゴリズム変更などの改善手法に従って、対策の効果が有れば、対策提示回数の増加、他ユーザーへの提示などが実施される。
【0052】
例えば、第1状態データが取得された使用者(第1使用者)が各対策を実施した場合の効果の予測には、第1使用者についてのデータのみを用いてもよいし、その他のデータを適宜組み合わせて用いてもよい。例えば、第1使用者が各対策を実施した場合の効果の予測は、対策リストのデータのうち、例えば、第1使用者についてのデータ、第2使用者についてのデータ、使用者等が対策リストに追加したデータ、及び、公開データから自動で取得されたデータの少なくともいずれかに基づく。
【0053】
なお、対策リストは、必ずしも
図5の例に限らない。例えば、対策リストは、対策ごとに、対策を実施する前の暑さストレス指標の値や、対策を実施後の暑さストレス指標の値の時間変化のデータを含んでもよい。対策リストには、対策実施履歴に基づいて、対策の実施において実際にかかった時間に基づくコストが追加されてもよい。
【0054】
図6は、暑さストレス予測モデルの一例を説明する模式図である。
上述したように、暑さストレス予測モデル(
図4参照)は、使用者が現在の状態を継続した場合に、指数(例えば暑さストレス指標)がどのように変化するかを予測する。暑さストレス予測モデルが指数を予測する予測アルゴリズムは、例えば、
図6に表した式に基づく。
図6の式により、暑さストレス指標変化時刻が算出される。
【0055】
標準暑さストレスレベル変化指数は、BMI(体重/身長/身長)を4等級に分けた群における過去の暑さストレス指標変化時刻の平均値である。作業強度指数Aは、期間中に実施した作業量の総和に対応する。
【0056】
作業強度指数Aはカルボーネン法(((220-年齢)-安静時心拍数)×運動強度(%)+安静時心拍数における運動強度目安を3軸合成加速度成分に置き換えたもの)に基づく。
【0057】
環境負荷指数は、期間中の環境負荷の総和に対応する。環境負荷指数は、WBGT(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)と温湿度とを組み合わせた指標である。
【0058】
作業強度指数Bは、同作業労における負荷強度の違いを反映する。作業強度指数Bは、作業期間中の心拍数の分散値である。運動量は、寄与度が低く、除外される。
【0059】
個人特性指数は、高齢者、基礎体力などといった個人特性を反映する。個人特性指数は、年齢と安静時心拍数から算出される。
【0060】
このように暑さストレス予測モデルは、BMI(体重/身長/身長)を4等級別に分けた群における、過去の暑さストレス指標変化時刻の平均値(標準暑さストレスレベル変化指数)をベースに、どれくらい負荷の高い作業(作業強度指数A)を、どのような環境(環境負荷指数)で実施しているか、という2つの情報から算出した。作業強度指数Aは、運動強度を推定する手法としてよく用いられているカルボーネン法を基に算出した。本来のカルボーネン法は、事前に設定した運動強度や運動時心拍数、旧Borg scaleなどを用いて算出する。センサ情報から取得できない場合は、3軸合成加速度成分で代替する。環境負荷指数は、WGBTと温湿度を組み合わせた指標とした。また、作業強度指数Aは、静止立位姿勢の維持など、指数の値が低かったとしても、気温が高く、日差しが強い環境(環境負荷指数が高い環境)の場合、暑さストレスレベルが変化しうる(熱中症になる可能性がある)。一方で、環境負荷指数は、気温が低いなどの指数の値が低ければ、どれだけ作業強度の高い運動を実施しても、暑さストレスレベルは変化しない。そのため、環境負荷指数の小さな変化でも、暑さストレスレベルが大きく変化するように、環境負荷指数の影響が大きくなるように見直した。
これらの算出式に、同作業量における負荷強度の違いを反映する作業強度指数Bおよび、高齢者や基礎体力などの個人特性を反映する個人特性指数を追加して、パーソナライズできるようにした。作業強度指数Bは、作業強度指数Aが期間中の作業量の総和を計測するのに対して、同じ作業量でもどのような強度の作業を実施したかのレベルを示す指標とした。例えば100mを移動する場合、時速3kmで移動した場合と、時速6kmで移動した場合の作業量は同じだが、身体にかかる負荷は時速6kmで移動したほうが大きく、暑さストレスレベルが変化しうる(時速6kmで移動した場合は、移動後に静止立位したと仮定)。そのため、同じ作業量における負荷強度の違いを算出するために、心拍数の分散値を用いて作業強度指数Bとした。個人特性指数に関して、より高齢の作業員の方が変化し易い。また、基礎体力が低い方が、暑さストレスレベルが変化しやすい。そこで、年齢と安静時心拍数を用いて、個人特性指数を算出した。安静時心拍数が低い方が、より基礎体力が高くなるように、予測モデルのパラメータの値を設定した。
【0061】
図7は、対策別暑さストレス予測モデルを説明するフローチャートである。
上述したように、対策別暑さストレス予測モデルは、現在の状態に対して使用者が各対策を実施した場合に、暑さストレス指標がどのように変化するかを算出するモデルである。
【0062】
特徴量が算出される(ステップS130)。個人過去同一状態一致度判定が行われる(ステップS131)。
特徴量算出及び個人過去同一状態一致度判定においては、環境情報(温湿度、日射情報、天候、紫外線の情報)、行動情報(運動量、行動種別、運動強度)、及び生体情報(心拍、体温、温湿度、水分量)をそれぞれ1つの要因とした際に、クラス分類を行い、近い属性をもっていた際に実施した対策を抽出する。一致度は最も離れたクラスから外れ値として特定の値、例えば10%などを除外したのちに、相対値として算出する。例えば、運動量が多く、心拍数が高いけど、温度が低い際には小まめな休憩が有効であったことなどが分かる。
【0063】
以下に、一致度の閾値の例を記載する。一致度が70%よりも大きい場合、一致した対策を実施した場合の予測が引き出される(ステップS132)。一致度が50%以上70%以下の場合、一致度が高い特徴量のみが算出される(ステップS133)。一致度が50%以上70%以下の場合、他のユーザーデータを対象に実施した対策のうち、特徴量算出に用いた要因と一致している指標のみを算出して対策リストに追加する。具体的な算出手法の例として、実施対策別の要因の差分を算出方法等を用いて算出する。
【0064】
対策リストが作成される(ステップS134)。
各対策のコストのデータが呼び出される(ステップS135)。
コストと効果を同一軸で算出し割合が高い順に表示する(ステップS136)。コストは、作業員の工数を統一指標として算出してもよい。例えば、各対策に必要な時間をコストとする。暑さストレス指標が高くなってしまった場合に低くなるまでに必要な時間を少なくすることを効果として算出してもよい。
【0065】
各対策の効果の予測方法は上記に限らず、
図5に表したような対策リストと、使用者の現在の第1状態データと、に基づいて各対策の効果を予測可能な任意の方法でよい。例えば、
図5に表したような対策リストに含まれる状態データのうち、使用者の現在の第1状態データに類似する状態データを任意の手段により抽出する。対策リストにおいて、抽出した状態データに対応付けられた対策の効果を、第1状態データが取得された使用者が当該対策を実施した場合に予測される効果としてもよい。
【0066】
図8は、表示内容決定アルゴリズムの変更を説明するフローチャートである。
図9は、対策リスト反映係数を例示するグラフ図である。
図8に表したように、使用者が対策を実施すると、処理部41は、実施ログを取得する(ステップS140)。実施ログは、使用者が実施した対策の情報を含む。すなわち、実施ログは、例えば使用者がどの対策を実施したかの情報、言い換えれば使用者が実施した対策の内容を含む。実施ログは、例えば、使用者が対策の実施を開始した時刻の情報を含む。
【0067】
処理部41は、使用者が対策を実施してから所定時間後の当該使用者の状態データを、取得部10によって取得する(ステップS141)。例えば、処理部41は、対策の実施開始時刻から所定時間後、または、実施終了時刻から所定時間後の状態データを取得する。
図8では、一例として、所定時間は120分以上の時間としている。
【0068】
処理部41は、対策実施前の使用者の状態データ(第1状態データ)と、ステップS141で取得した対策実施後の使用者の状態データと、に基づいて、当該対策の使用者への効果を算出する(ステップS142)。
【0069】
また、処理部41は、対策リストを読み込む。ステップS140で取得した実施ログで示される対策と同一の対策を過去に使用者が実施していた場合、対策リストには、その対策の過去の実施時における効果を示す情報が記録されている。対策リストは、例えば各対策を実施した場合に、維持することができた作業時間を集計したリスト(過去の同一対策実施時の低減効果リスト)である。(ステップS143)
【0070】
処理部41は、実施ログで示される使用者が実施した対策と、算出したその対策の効果と、を対策リストに結合する(ステップS144)。ステップS140~ステップS144の処理は、例えば
図3に関して説明した、ステップS107及びステップS102に対応する。
【0071】
処理部41は、対策リストに含まれる各対策に実施日による重み付けを行う(ステップS145)。
図9に表したように、実施日に応じて各対策に、対策別リスト反映係数が定められる。例えば、実施日が現在に近いほど対策別リスト反映係数は大きい。例えば、過去の実施日から現在までの時間が長いほど、対策別リスト反映係数は小さい。このような対策別反映係数を用いて、より直近の対策ほど学習に大きく影響を与えるようにしてもよい。以上の処理により、更新された対策リストが作成される(ステップS146)。
【0072】
このように、処理部41は、使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、当該使用者に対する第1対策の効果を算出し、算出した第1対策の効果に基づいて、対策リストを更新する。これにより、例えば、対策リストに含まれる各対策の使用者に対する効果の予測精度が向上し、より適切な提示内容を決定することができる。
【0073】
なお、ステップS141における所定時間は、必ずしも120分以上に限らず、例えば120分より短い時間であってもよい。例えば、処理部41は、複数の所定時間後に状態データを取得してもよい。これにより、複数のタイミングにおける対策の効果を評価し、複数のタイミングの評価結果を対策リストに追加してもよい。
【0074】
実施形態に係る対策提示装置100は、例えば、提示した対策、提示していない対策を問わず、使用者が何か対策を実施した場合は、その施策による影響(生理指標など)を評価し、その対策が有効であれば、表示内容決定アルゴリズムにフィードバックを与えて、各種精度(例えば対策の効果の予測精度)を向上させる。例えば、対策実施結果に基づいて対策提示内容及びタイミングが自動で調整される。
【0075】
なお、対策別暑さストレス予測モデルは、必ずしも上記の例に限らない。対策別暑さストレス予測モデルは、例えば、対策リストに記録されたデータに基づいて、現在の使用者の状態データから、対策リストに含まれる各対策の現在の使用者に対する効果を予測できればよい。例えば、対策別暑さストレス予測モデルは、機械学習により生成されたモデルであってもよい。
【0076】
すなわち、例えば、対策別暑さストレス予測モデルは、暑さストレスに対する複数の対策と、使用者に対する当該複数の対策の効果と、の関係を学習して生成されたモデルでもよい。対策別暑さストレス予測モデルは、対策と使用者の状態データとを入力データとし、その状態データが示す状態の使用者がその対策を実施した効果を教師データとする教師有り学習により、生成されてもよい。
【0077】
モデルの学習に用いられるデータは、過去の対策実施結果を含んでいてもよい。すなわち、学習に用いられるデータは、使用者が過去に実施した実施済み対策と、その実施済み対策の実施時に取得した使用者の状態データに基づいて算出された効果と、の関係を含む。処理部41は、例えば使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、当該使用者に対する第1対策の効果を算出し、算出した第1対策の効果を含むデータセットの学習により、対策別暑さストレス予測モデルを更新する。これにより、対策別暑さストレス予測モデルによる予測の精度を向上させることができる。
【0078】
対策別暑さストレス予測モデルは、対策リストのデータを学習することにより生成される。例えば、対策別暑さストレス予測モデルは、対策リストの更新に伴って更新されてもよい。すなわち、対策リストが更新された場合、対策別暑さストレス予測モデルは、更新された対策リストを再び学習して再生成されてもよい。
【0079】
学習データの不足によって各種精度(予測や提示する推薦施策など)が低くなる可能性がある。その対応として、初期はアイテムベースで運用し、並行して機械学習での仮想環境での検証も実施し、機械学習手法の方が精度が高くなった(学習データが増えてきた)タイミングで徐々に移行してもよい。すなわち、例えば初期(第1期間)においては、提示内容は、使用者の状態データに対して予め定められた内容であり、第1期間の後の第2期間においては、提示内容は、更新した対策リストに基づいて算出された予測結果に基づいてもよい。
【0080】
例えば、暑さストレス指標の上昇を検知し、使用者等に検知結果を通知する参考例がある。しかし、検知結果に対する具体的な対策は、例えば、本人や現場の管理者がそれぞれの経験や感覚に基づいて決定される。この場合、暑さストレスに関する知識が少ない使用者や管理者にとって、適切な対応を取ることが難しい。これに対して、実施形態に係る対策提示システムは、例えば、生体情報、行動情報、環境情報などから、暑さストレス指標の上昇の抑制に有効な対策及びその対策の適切な量を、適切なタイミングでユーザーに伝える。具体的には、対策提示システムは、上述したように、例えば(1)各対策実施時の効果を提示、(2)対策実施時の効果だけでなくコストも考慮した費用対効果を踏まえた優先順位の提示、(3)対策実施結果に基づく対策提示内容及びタイミングの自動調整、(4)対策内容を公開データから自動追加、の少なくともいずれかを実行する。これにより、例えば、暑さストレス対策に関する知識が少ない人でも、適切な施策を、適切なタイミングで、適切な量実施できるような支援を提供できる。実施形態に係る対策提示システムは、例えば、センシングデータおよびその学習結果に基づいて各現場、個人に最適な対策を提示する。有効な対策とは、例えば、対策による暑さストレス指標上昇抑制効果だけでなく、対策実施に必要なコストや実施の最適なタイミングも考慮した対策である。
【0081】
例えば、取得部10は、使用者の状態データをリアルタイムに検出する。処理部41は、検出された状態データに基づいてリアルタイムに、表示内容決定アルゴリズムを稼働させる。対策提示システム200は、現在の使用者の状態データに応じた対策を、リアルタイムに提示することができる。状態データの検出や表示内容の決定などの上記の処理は、定期的に行われてもよい。
【0082】
図10(a)~
図10(c)は、提示部による提示内容を例示する模式図である。
提示部30は、例えば、表示する各対策を過去に実施した場合の情報や、表示する各対策に関連する研究データなどを提示してもよい。提示部30は、例えば、各施策について根拠となるエビデンス(学術論文等)を提示してもよい。エビデンスは通常表示されておらず、使用者が閲覧したいと感じた際に、リンクやポップアップなどで表示される。例えば、
図10(a)のような表示において、提示された対策をクリックすると、クリックした対策に関連する付帯情報が表示される。
図10(b)及び
図10(c)は、付帯情報の例である。
【0083】
提示部30は、使用者が装着しているデバイス(センサを含むウェアラブルデバイスなど)であってもよい。提示方法は、例えば、バイブレーション、画面への表示、及び音声、またはこれらの組合せである。
【0084】
提示部30は、スマートフォンなど、個人が所有するデバイスであってもよい。提示方法は、例えば、バイブレーション、画面への表示、及び音声、またはこれらの組合せである。なお、実施形態において、対策提示装置100が提示するということは、提示内容決定部20がスマートフォンなどの提示部30に提示内容を出力(送信)することを含む。
【0085】
状態データが取得される使用者を管理する管理者用のアプリケーションによって、管理者に対して提示が行われてもよい。例えば、提示部30は、管理者が各使用者を管理するために状態を閲覧するためのPCなどのデバイスであってもよい。提示方法は、音声及び画面への表示の少なくともいずれかである。
【0086】
複数の使用者が管理される場合においては、各使用者及び管理者に個別の内容が提示されてもよい。作業現場などで複数人を管理者が管理する場合、個人ごとの最適な施策を実施すると、全体の効率が低下する場合がある。例えば個人ごとの理想的な水分補給のタイミングは異なる可能性が考えられるが、複数人で共同作業を実施する場合、ある使用者だけが離脱してしまうと作業が進まないことがある。そこで、個人ごとの許容範囲を設定し、その許容範囲を超えない範囲で、全体最適化が図れるように対策を提示する。この提示においては、全体の中から1名が欠けても実施可能などの条件を設定した場合は、それに合わせて対策が提示される。
【0087】
なお、実施形態において説明した機能ブロックは、機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示したように構成されていなくてもよい。適宜、複数の機能ブロックの一部又は全部を集約してもよいし、各機能ブロックをネットワークを介して通信可能に接続される複数の装置に分散してもよい。各機能ブロックの一部を他のブロックに移してもよい。実施形態の各構成要素は、機能的又は物理的に適宜、分散または統合されてもよい。
【0088】
実施形態は、上述の対策提示装置100の処理を、コンピュータに実行させる対策提示プログラムであってもよい。提示内容決定部20(処理部41等)は、プログラムに基づいて、上述の各処理を実行する。また、プログラムは、上述の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態(コンピュータに設けられた形態)に限ることなく、コンピュータに読み取り可能な記録媒体の形態であってもよい。記録媒体としては、例えば、CD-ROM(-R/-RW)、光磁気ディスク、HD(ハードディスク)、DVD-ROM(-R/-RW/-RAM)、FD(フレキシブルディスク)、フラッシュメモリ、これらに類する記録媒体、及び、その他各種ROM、RAM等を用いることができる。
【0089】
実施形態は、以下の構成を含んでもよい。
(構成1)
暑さストレスに対する対策を提示する対策提示装置であって、
使用者の生体情報、前記使用者の行動情報、及び前記使用者の環境情報の少なくともいずれかを含む状態データに基づいて、暑さストレスに対する前記対策に関して提示する提示内容を決定する処理部を備えた、対策提示装置。
(構成2)
前記処理部は、前記状態データに基づいて、前記状態データが取得された前記使用者に対する前記対策の効果を予測し、前記効果の予測結果に基づいて前記提示内容を決定する、構成1に記載の対策提示装置。
(構成3)
前記提示内容は、前記効果の前記予測結果に関する情報を含む、構成2に記載の対策提示装置。
(構成4)
前記処理部は、前記状態データに基づいて暑さストレスに対する複数の対策の効果を予測した予測結果と、前記複数の対策を実施するコストと、に基づいて、前記複数の対策の優先順位を決定し、前記優先順位に基づいて前記提示内容を決定する、構成1~3のいずれか1つに記載の対策提示装置。
(構成5)
前記予測結果は、暑さストレスに対する複数の対策と、前記使用者に対する前記複数の対策の効果と、の関係を含む対策リストに基づいて算出されるものであり、
前記処理部は、前記使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、前記使用者に対する前記第1対策の効果を算出し、算出した前記第1対策の前記効果に基づいて、前記対策リストを更新する、構成2または3に記載の対策提示装置。
(構成6)
前記予測結果は、対策別暑さストレス予測モデルに基づいて算出されるものであり、
前記対策別暑さストレス予測モデルは、暑さストレスに対する複数の対策と、前記使用者に対する前記複数の対策の効果と、の関係を学習して生成されたモデルであり、
前記処理部は、前記使用者が暑さストレスに対する第1対策を実施した場合、前記使用者に対する前記第1対策の効果を算出し、算出した前記第1対策の前記効果を用いた学習により前記対策別暑さストレス予測モデルを更新する、構成2または3に記載の対策提示装置。
(構成7)
前記状態データは、ウェアラブルセンサ、カメラ、及び、前記状態データを入力する入力部の少なくともいずれかを含む取得部により取得される、構成1~6のいずれか1つに記載の対策提示装置。
【0090】
実施形態によれば、暑さストレスを抑制可能な対策提示装置が提供できる。
【0091】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
10:取得部
11:検出部
12:入力部
20:提示内容決定部
30:提示部
41:処理部
42:通信部
43:記憶部
100:対策提示装置
200:対策提示システム
C:コスト
D1:データ
M、M1、M2、M3:対策
P:優先順位
S101~S107、S111~S121、S130~S136、S140~S146:ステップ
V、V1、V2、V3:予測値