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  • 特開-透過光測定方法 図1
  • 特開-透過光測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179898
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】透過光測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 21/33 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
G01N21/01 B
G01N21/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099199
(22)【出願日】2023-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 株式会社島津製作所 分析計測事業部 Solution COE、UV TALK LETTER、Vol.23、第7頁~第12頁、令和4年6月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 和美
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF08
2G059HH02
2G059HH03
2G059LL01
2G059MM01
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】粘性を有する高濃度液体試料に対し精度及び再現性の良好な透過光測定を行う。
【解決手段】本発明に係る透過率測定方法の一態様は、高濃度液体である試料の透過光を測定する方法であって、一方の面に試料収容部となる凹部が形成された平板状の基体と、該基体の前記一方の面に密着するように装着される平板状の蓋部とを含み、光路長が100μm以下である分解可能なセル(2)を用い、該セルの前記試料収容部に所定量の試料(3)を封入し、該試料収容部に照射した測定光に対する透過光を積分球(4)を用いた検出器(5)に導入して透過光の強度を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度液体である試料の透過光を測定する方法であって、
一方の面に試料収容部となる凹部が形成された平板状の基体と、該基体の前記一方の面に密着するように装着される平板状の蓋部とを含み、光路長が100μm以下である分解可能なセルを用い、
該セルの前記試料収容部に所定量の試料を封入し、該試料収容部に照射した測定光に対する透過光を積分球を用いた検出器に導入して透過光の強度を測定する透過光測定方法。
【請求項2】
前記試料収容部に水又は有機溶媒を収容した状態でブランク測定を実施し、該ブランク測定の結果を利用して前記試料に対する測定結果から透過率を求める、請求項1に記載の透過光測定方法。
【請求項3】
前記セルの光路長は20μmである、請求項1に記載の透過光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過光の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外可視分光測定装置を用い、クリーム状又はジェル状等の粘性を有する高濃度液体の試料に対する透過光測定を行う場合、非特許文献1に記載されているような、光路長が1mm程度の短光路セルが利用されている。また、平板状であるスライドガラスの上の所定面積の範囲に所定量の試料を薄く延ばすことでその厚さを凡そ所定値とし、厚さ方向に測定光を照射して当該試料の透過光を測定する場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「紫外可視分光光度計 UV-VIS Spectrophotometers Accessories UVシリーズ 付属品ハンドブック」、[online]、株式会社島津製作所、[2023年5月26日検索]、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/sites/an.shimadzu.co.jp/files/pim/pim_document_file/an_jp/brochures/20611/c101-0758.pdf>
【非特許文献2】「短光路セル」、[online]、株式会社パシフィックサイエンス、[2023年5月26日検索]、インターネット<URL: https://pacific-sci.com/page/shortpathlength01>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば市販の日焼け止めクリームなどの特に成分濃度の高い試料の場合、光路長が1mm程度の短光路セルを用いても、試料の評価や比較が行えるような良好な形状の透過スペクトルを得ることは困難である。また、スライドガラス上に薄い厚さの試料を設ける方法では、その厚さを一定にすることが難しいために、測定の再現性を確保することが困難である。
【0005】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、粘性のある高濃度試料に対しても精度や再現性が良好である透過光測定を行うことができる測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る透過光測定方法の一態様は、高濃度液体である試料の透過光を測定する方法であって、
一方の面に試料収容部となる凹部が形成された平板状の基体と、該基体の前記一方の面に密着するように装着される平板状の蓋部とを含み、光路長が100μm以下である分解可能なセルを用い、
該セルの前記試料収容部に所定量の試料を封入し、該試料収容部に照射した測定光に対する透過光を積分球を用いた検出器に導入して透過光の強度を測定するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘性のある高濃度試料に対しても精度や再現性が良好である透過光測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である透過光測定方法で用いられる測定系の概略構成図。
図2】本実施形態の透過光測定方法に使用されるセルの一例を示す図。
図3】本実施形態による透過光測定方法と従来の測定方法との透過スペクトルの比較の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る透過光測定方法の一実施形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、この実施形態の透過光測定方法を実施するための測定系の概略構成図である。
ここでの測定対象の試料は、例えば日焼け止めクリームのような、白濁した粘性を有する高濃度液体試料である。所定量のこの試料が後述する密閉型のセル2に封入される。
【0011】
分光光照射部1は光源、波長走査可能な分光器などを含み、所定の波長の光を測定光として出射する。この測定光の波長は、所定の波長範囲に亘って高速で走査され得る。測定光はセル2中の試料3に照射され、試料3を透過した光は積分球4に導入される。よく知られているように、積分球4はその球内面のほぼ全体が高反射率の面になっており、導入された様々な方向に向かう光(拡散光)を収束して検出器5に導く。検出器5は光強度を検出し、データ処理部6は検出器5からの検出信号に基いて試料3の透過率を算出する。なお、図1では、セル2と積分球4とを互いに離して配置しているが、実際には、セル2から様々な方向に出射する透過光をできるだけ漏れなく積分球4に導入するために、セル2と積分球4とはごく近接して(又は密着して)配置される。
【0012】
図2は、セル2の構造を示す概略図である。このセル2は、例えば英国スターナ・サイエンティフィック(Starna Scientific)社製の短光路分解セル(密封型)Type20/Cである(非特許文献2参照)。
【0013】
このセル2は、図2(A)に示すように、試料収容部として機能する凹部21が一方の面に形成された基板20と、該基板20の凹部21の形成側の面に密着するように装着される蓋状の窓板22と、から成る。基板20、窓板22はいずれも石英製である。図2(B)に示すように、窓板22を基板20に密着させるように装着すると、窓板22の内側面と凹部21の底面との間に、所定の光路長Lの試料収容部が形成される。上記短光路分解セルType20/Cでは、光路長Lは8μm、10μm、20μm、50μm、100μm、200μm、500μm、…など種々のものが用意されているが、ここで想定している粘性のある白濁した高濃度液体試料に対して十分な評価が可能な透過率を求めるには、光路長Lを、一般的な短光路セルにおける光路長の下限1mmの1/10である100μm以下とすることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下とするとよい。
【0014】
上記測定系を用いた透過光測定の手順を説明する。測定者はまず以下のように測定対象の試料を準備する。
測定者は、凹部21(試料収容部)の内容積とほぼ同等の量の試料を該凹部21に入れ、図2(B)に示すように窓板22を基板20の一面に密着させる。粘性を有する高濃度液体試料は、単に凹部21に入れただけではその試料の上面の高さが不均一になるし、凹部21の底面と試料との接触もむらになり易い。それに対し、適宜量の試料を凹部21に入れたあと窓板22を装着することで、試料は窓板22に押され、窓板21の内面及び凹部21の底面に密着する。これにより、試料は試料収容部にほぼ完全に充満し、窓板22の内面全体及び凹部21の底面全体にそれぞれ試料がほぼむらなく接触した状態となる。
【0015】
なお、セル2は基板20と窓板22とに完全に分離可能であるため、綿棒や紙製ウエスを用いたふき取りにより、試料収容部の内側の洗浄を簡便に行うことができる。また、その際に水や有機溶媒を使用しても、それらを短時間で揮発させることができる。
【0016】
測定者は、上記のように試料3を封入したセル2を所定のセルホルダーにセットし、紫外可視分光測定装置の所定位置にセットする。そして、該測定装置の操作部(図示せず)で所定の操作を行う。これにより、紫外可視分光測定装置では試料3に対する測定が実施される。具体的には、分光光照射部1から所定の波長の測定光がセル2中の試料3に照射され、該試料3を透過した光が積分球4に導入される。測定光の波長は、測定者により設定された所定の範囲で時間経過に伴って走査される。
【0017】
試料3を透過した光の一部は試料3と基板(凹部21の底面)20との界面等で拡散するため、セル2からの透過光の出射方向はばらつく。積分球4はこのような進行方向がばらついている透過光を効率良く収束して検出器5へと送り込む。それによって、拡散等による透過光の減少を軽減することができる。
【0018】
検出器5からの検出データを受けたデータ処理部6は、試料3に対する測定に先立って実施されたブランク測定の結果を利用して試料3に対する測定で得られた光強度データを補正し、波長毎に透過率を計算する。周知のように、ブランク測定は、試料3による測定光の減衰以外の、光路上における様々な要素による光の減衰を反映した測定である。通常、ブランク測定の際には、試料3が収容されていないセル2を装置に装着して分光測定を実施する。光路長はごく短いため、セル2の試料収容部に空気のみが入っている状態であるとしても、その空気による光の減衰は殆ど無視できる程度である。
【0019】
しかしながら、ここでは透過光のごく微小な減衰も透過率の精度に影響を与えるため、その影響をできるだけ小さくするために、試料収容部に水又は有機溶媒(典型的にはエタノール)を充填した状態でブランク測定を実施する。試料収容部に水又は有機溶媒を充填すると、セル2中を測定光が通過する際の界面が石英と水又は有機溶媒との接触面となり、界面が石英と空気との接触面である場合に比べて光の拡散が生じにくくなる。これによって、ブランク測定時の光強度の測定をより正確に行うことができ、ブランク測定結果を利用した透過率算出の正確性も向上させることができる。
【0020】
図3は、本実施形態による透過光測定方法と従来の測定方法との透過スペクトルの比較の一例を示す図である。本実施形態による透過光測定方法では、セル2として光路長Lが20μmである上述した短光路分解セルType20/Cを用いた。一方、従来の測定方法は非特許文献1に記載したような光路長が1mmのセルを用いた。
【0021】
図3から、本実施形態による透過光測定方法では、約400nm以下の波長領域において透過率が急激に低下していることが明瞭に分かる。また、従来の測定方法では把握不可能であった、220~300nmの波長領域における透過率の変動も十分に観測可能である。このように、本実施形態による透過光測定方法では、従来の測定方法では捉えられないような透過率の変化を明瞭に捉えることができ、透過率に基く品質の評価や比較などに本実施形態の透過光測定方法が有用であることが確認できる。
【0022】
なお、上記実測例では光路長Lが20μmであるセル2を用いたが、上述したように光路長Lは概ね100μm以下であれば良い。但し、日焼け止めクリーム等の、人間が皮膚の上に塗布して使用するクリーム、ジェルなどを試料とする場合、光路長Lを20μmとすることは単に光路長が短いという点以外の点でも利点がある。即ち、クリームやジェルなどの粘性を有する液体試料を人間が皮膚に塗布して使用する場合、皮膚の上での標準的な膜厚は20μm程度になることが多い。そのため、光路長Lを20μmとした透過光測定は、そうした試料の実使用に近い状態での測定であると言え、人間の実使用に近い状態での透過率を評価することができるという点で有用である。
【0023】
なお、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0024】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0025】
(第1項)本発明に係る透過光測定方法の一態様は、高濃度液体である試料の透過光を測定する方法であって、
一方の面に試料収容部となる凹部が形成された平板状の基体と、該基体の前記一方の面に密着するように装着される平板状の蓋部とを含み、光路長が100μm以下である分解可能なセルを用い、
該セルの前記試料収容部に所定量の試料を封入し、該試料収容部に照射した測定光に対する透過光を積分球を用いた検出器に導入して透過光の強度を測定するものである。
【0026】
第1項に記載の透過光測定方法によれば、クリーム状又はジェル状などの粘性のある高濃度試料に対しても精度や再現性が良好である透過光測定を行うことができる。
【0027】
(第2項)第1項に記載の透過光測定方法において、前記試料収容部に水又は有機溶媒を収容した状態でブランク測定を実施し、該ブランク測定の結果を利用して前記試料に対する測定結果から透過率を求めるものとすることができる。
【0028】
試料収容部を空の状態として(空気等が充満した状態で)ブランク測定を行うのではなく、試料収容部に水又は有機溶媒を収容した状態でブランク測定を行うことで、ブランク測定自体の精度を高め、その結果を利用した透過率算出等の精度を向上させることができる。
【0029】
(第3項)第1項又は第2項に記載の透過光測定方法において、前記セルの光路長は20μmであるものとすることができる。
【0030】
第3項に記載の透過光測定方法によれば、例えば日焼け止めクリームなどの粘性を有する液体試料を人間の皮膚に塗布した使用時に近い状態での透過率を取得することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…分光光照射部
2…セル(短光路分解セル)
20…基板
21…凹部
22…窓板
3…試料
4…積分球
5…検出器
6…データ処理部
図1
図2
図3