(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001799
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ステータ及びモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/02 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
H02K1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100684
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉原 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】財前 善彰
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE18
5H601EE34
5H601EE35
5H601EE39
5H601FF17
5H601GA02
5H601GC12
5H601HH02
5H601HH07
5H601JJ10
5H601KK01
5H601KK07
5H601KK08
5H601KK21
5H601KK22
(57)【要約】
【課題】巻線材料としてアルミを用い、モータ特性、経済性および資源リサイクル性に優れたステータを提供する。
【解決手段】電磁鋼板を積層してなるステータコアと、前記ステータコアに巻回された巻線とを備え、前記巻線は、質量%で、Al:99.6%以上、及びCu:0.001%以上0.15%以下を含有するアルミ合金からなり、前記電磁鋼板の積分磁束密度IB(500)が90000TA/m以上かつ積分磁束密度IB(5)が550TA/m以上である、ステータ。
ここで、前記積分磁束密度IB(500)は、磁界の強さHが0A/m~50000A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指し、前記積分磁束密度IB(5)は、磁界の強さHが0A/m~500A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を積層してなるステータコアと、
前記ステータコアに巻回された巻線と
を備え、
前記巻線は、質量%で、Al:99.6%以上、及びCu:0.001%以上0.15%以下を含有するアルミ合金からなり、
前記電磁鋼板の積分磁束密度IB(500)が90000TA/m以上かつ積分磁束密度IB(5)が550TA/m以上である、ステータ。
ここで、前記積分磁束密度IB(500)は、磁界の強さHが0A/m~50000A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指し、
前記積分磁束密度IB(5)は、磁界の強さHが0A/m~500A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指す。
【請求項2】
前記ステータコアの積層高さhと外径Dとの比D/hが、1.0≦D/h≦3.0である、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記巻線のスロット占積率が60%以上であり、
前記電磁鋼板の磁束に対して垂直な方向に外部応力10MPaを加えた際の鉄損W10/400(W/kg)が外部応力0MPaにおける鉄損W10/400(W/kg)以下である、請求項1または2に記載のステータ。
【請求項4】
前記電磁鋼板の層間が面積率85%以上で接着されている、請求項1または2に記載のステータ。
【請求項5】
前記電磁鋼板が打抜きせん断面を有し、
前記巻線と接触する前記電磁鋼板の角部が前記打抜きせん断面側であり、
前記ステータが絶縁紙を備えない、請求項1または2に記載のステータ。
【請求項6】
前記電磁鋼板が、質量%で、Cu:0.001%以上1.0%以下を含有する、請求項1または2に記載のステータ。
【請求項7】
請求項1または2に記載のステータを有する、モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステータ及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野ではCO2排出抑制のため電動化が進展しており、今後もますます電動化が進むことが予測されている。ここで、駆動力の源となるモータとしては、使用するエネルギー消費抑制の観点から、高効率化が要求されている。さらに、自動車への搭載性という観点で、モータの小型化も必要とされている。
【0003】
金属資源を有効活用するという観点から、使用済みのモータコアから巻線材の銅と鉄である電磁鋼板とを分離し、製品への再利用がされている。ただし、モータの高特性化のためには、モータコアに高占積率で巻線を巻回す必要がある。高占積率で巻回された巻線をモータコアから完全に分離して資源の再利用を行うには多大な労力とコストとを要する。場合によっては樹脂などで巻線がモールドされていることもあり、鉄と銅とを分離できず鉄中に銅を混入させる原因となる。また、上記のような電動車の普及により銅の需給が逼迫している。銅の重量単価の急激な増加が進むだけでなく、資源枯渇の可能性が考えられる。そこで、モータのコスト低減及び他資源活用のために、巻線材料を銅からアルミへ転換することが検討されている。
【0004】
アルミは銅に対して電気抵抗率が約1.6倍であり、単純に巻線材料を銅からアルミへ置き換えると銅損が約1.6倍となり、モータ効率の低下を招く。このような背景のもと、特許文献1においては、ディスプロシウム等のレアアースを含有させた残留磁束密度1.32T以上1.39T以下の永久磁石を使用することで銅損を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ディスプロシウム等のレアアースを含有させた永久磁石を用いるとコストが嵩み、巻線材料をアルミに変更することによるコスト低減効果を損なう。
【0007】
また、資源リサイクル性という観点では、重量単価が銅よりも低いアルミでは、使用済みのモータからアルミを分離し回収するコストが材料価値に見合わない。
【0008】
以上のように、巻線材料としてアルミを用いる場合、モータ特性、経済性および資源リサイクル性の両立が困難であった。
【0009】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたもので、巻線材料としてアルミを用い、モータ特性、経済性および資源リサイクル性に優れたステータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、以下の知見を得て本発明に至った。
【0011】
・Al:99.6%以上のアルミ合金からなる巻線と、
・積分磁束密度IB(500)が90000(TA/m)以上かつ積分磁束密度IB(5)が550(TA/m)以上の電磁鋼板からなるステータコアを用いることにより、ステータコアと巻線材料とを分離することなく、鉄スクラップとして有効に再利用でき、かつ優れたモータ特性を発揮することができる。
【0012】
本開示は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本開示の要旨構成は以下のとおりである。
【0013】
[1] 電磁鋼板を積層してなるステータコアと、
前記ステータコアに巻回された巻線と
を備え、
前記巻線は、質量%で、Al:99.6%以上、及びCu:0.001%以上0.15%以下を含有するアルミ合金からなり、
前記電磁鋼板の積分磁束密度IB(500)が90000TA/m以上かつ積分磁束密度IB(5)が550TA/m以上である、ステータ。
ここで、前記積分磁束密度IB(500)は、磁界の強さHが0A/m~50000A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指し、
前記積分磁束密度IB(5)は、磁界の強さHが0A/m~500A/mの区間における磁束密度(T)の積分値を指す。
【0014】
[2] 前記ステータコアの積層高さhと外径Dとの比D/hが、1.0≦D/h≦3.0である、前記[1]に記載のステータ。
【0015】
[3] 前記巻線のスロット占積率が60%以上であり、
前記電磁鋼板の磁束に対して垂直な方向に外部応力10MPaを加えた際の鉄損W10/400(W/kg)が外部応力0MPaにおける鉄損W10/400(W/kg)以下である、前記[1]または[2]に記載のステータ。
【0016】
[4] 前記電磁鋼板の層間が面積率85%以上で接着されている、前記[1]~[3]のいずれかに記載のステータ。
【0017】
[5] 前記電磁鋼板が打抜きせん断面を有し、
前記巻線と接触する前記電磁鋼板の角部が前記打抜きせん断面側であり、
前記ステータが絶縁紙を備えない、前記[1]~[4]のいずれかに記載のステータ。
【0018】
[6]前記電磁鋼板は、質量%で、Cu:0.001%以上1.0%以下を含有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載のステータ。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかに記載のステータを有する、モータ。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、巻線材料としてアルミを用い、モータ特性、経済性および資源リサイクル性に優れたステータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】直流B-H曲線の測定例及び積分磁束密度IBの決定方法について説明するための図である。
【
図2】複数の電磁鋼板における直流B-H曲線の測定例を示す図である。
【
図3】試験用モータの構成を模式的に示す図である。
【
図4】巻線と電磁鋼板の打抜きせん断面との位置関係について説明するための図である。
【
図5】実施例1における積分磁束密度とトルクとの関係を示すグラフである。
【
図6】実施例2の発明例におけるD/hとトルクとの関係を示すグラフである。
【
図7】実施例3における、無応力における鉄損(W
10/400)に対する応力10MPaを加えた際の鉄損(W
10/400)の比とモータ効率の変化との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例4における接着面積率(%)とモータ騒音(dB)およびモータ効率の変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。以下の説明において、成分元素の含有量を表す「%」は、特に明記しない限り「質量%」を意味する。また本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0022】
ステータは、電磁鋼板を積層してなるステータコアと、ステータコアに巻回された巻線とを備える。
図3に示すように、一例において、ステータコア10は、円環または円筒形のバックヨーク11と、バックヨーク11の内周面に間隔を空けて周方向に配置されて間にスロット12を規定するティース13とを有し、該ティース13に巻線が巻回されている。
【0023】
[巻線]
まず、ステータコアに巻回された巻線について説明する。
【0024】
・Al:99.6%以上のアルミ合金
巻線はAl:99.6%以上のアルミ合金からなる。巻線のAl含有量が高いことで、巻線の抵抗を下げ、銅損(アルミ損)を低減させることができる。なお、モータの損失のうち、銅損(アルミ損)は一般的に下記式(1)で示される
PCu=RI2
=ρL/S×I2 …式(1)
ここで、R(Ω):巻線抵抗、I(Arms):モータ電流、ρ(Ω・m):巻線材料の比抵抗、L(m):巻線長さ、S(m2):巻線断面積である。
【0025】
さらに、Al含有量が高い、すなわち不純物元素が少ないアルミ合金を巻線として利用することで、使用後のモータから巻線をモータコアから分離することなく、鉄スクラップとして処理することができる。Alは電磁鋼板の磁気特性を向上させるための元素として活用されており、電炉等で電磁鋼板を製造する際に積極的に添加する元素であるためである。
【0026】
アルミ合金のCu含有量は、0.001%以上0.15%以下とする。使用後のモータを鉄スクラップとする際にCuが多量に混入すると、鋼からCuを取り除くことが難しい。混入したCuは、鉄スクラップを再度電磁鋼板とする際に粒成長性の妨げとなり、電磁鋼板の磁気特性を悪化させてしまう。よって、アルミ合金のCu含有量は0.15%以下とする。一方、アルミ合金へのCu添加は強度を向上させる効果があり、巻線を高占積率にステータコアへ巻き付ける際に有効に作用する。そのため、Cu含有量は0.001%以上とする。
【0027】
[ステータコア]
次に、ステータコアを構成する電磁鋼板の要件及びその限定理由について説明する。なお、電磁鋼板については規定した磁気特性を有すれば発明の効果を発揮でき、発明の効果はその他の成分、板厚及び製造方法には依存しない。
【0028】
なお、電磁鋼板のCu含有量は0.001%以上1.0%以下が好ましい。使用後のモータを鉄スクラップとする際に混入するCuの量を低減することで、鋼からCuを取り除くことがより容易である。また、鉄スクラップに混入するCuの量を低減することで、鉄スクラップを再度電磁鋼板とする際にCuが粒成長性の妨げとなることを好適に防ぎ、電磁鋼板の磁気特性をより向上することができる。よって、電磁鋼板のCu含有量は1.0%以下とすることが好ましい。一方、Cuは鋼板の強度を高め、モータの高速回転化に寄与するため、Cu含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0029】
・積分磁束密度IB(500):90000TA/m以上
・積分磁束密度IB(5):550TA/m以上
上述した式(1)の電流を低減させるために、モータ電流を低減させることが重要である。積分磁束密度IB(500)が90000TA/mかつ積分磁束密度IB(5)が550TA/m以上の材料を用いることで、低いトルク領域から高いトルク領域までの広い領域に亘ってモータトルクを向上させ、モータ電流を低減することができ、銅損(アルミ損)を低減することができる。積分磁束密度IB(500)は、好ましくは95000以上、より好ましくは100000以上とする。積分磁束密度IB(5)は、好ましくは600以上、より好ましくは620以上とする。積分磁束密度IB(500)の上限は特に限定されないが、一例においては150000以下である。積分磁束密度IB(5)の上限は特に限定されないが、一例においては700以下である。
【0030】
ここで、積分磁束密度IBとは、下記の測定方法によって得られた値である。
(1)直流B-H曲線の測定
下記磁界の強さH(A/m)における鉄心材料の磁束密度B(T)を測定することにより、直流B-H曲線を測定する。たとえば、0,10,20,30,40,50,60,70,80,100,125,150,175,200,250,300,400,500,800,1000,1500,2000,2500,3000,4000,5000,8000,10000,15000,20000,30000,50000A/mでのデータを用いて直流B-H曲線を測定する。
【0031】
(2)数値積分を実施する
得られた直流B-H曲線について、磁界の強さHが0A/m~500A/mの区間において積分を行い、得られた値をIB(5)とする。同様に得られたB-H曲線について、磁界の強さHが0A/m~50000A/mの区間において積分し、得られた値をIB(500)とする。
【0032】
なお、直流B-H曲線の測定はステータコアのバックヨークに励磁コイルおよびサーチコイルを巻き付けてリング測定で実施してもよいし、ステータコアに適用する電磁鋼板を用いてエプスタイン試験により直流B-H曲線を測定してもよい。
図1に直流B-H曲線の測定例を示す。積分磁束密度IB(5)は、
図1に示した斜線部の面積に相当する。さらに、4種類の電磁鋼板について上述した方法により積分磁束密度を評価した例を
図2に示す(表1の材料A,B,C,Dに対応)。積分磁束密度IBは従来電磁鋼板の磁束密度の指標とされるB
50などの指標とは必ずしも大小の傾向が一致しない。巻線材料として銅を用いる場合、巻線の抵抗値を低くすることが比較的容易である。これに対し、アルミを巻線材料として用いる場合、銅を巻線材料とした場合に問題とならなかったような低い電流(トルク条件)における銅損(アルミ損)が問題になり得る。発明者らは、独自の鋭意検討により、低い電流における損失の改善に、積分磁束密度IB(5)及び積分磁束密度IB(500)が高い電磁鋼板を用いることが有用であることを見出した。
【0033】
・モータコアの積層高さhと外径Dとの比D/h:1.0≦D/h≦3.0
式(1)より、巻線を太く短くすることが銅損(アルミ損)を低減するために有効である。電磁鋼板の積分磁束密度IB(500)及び積分磁束密度IB(5)を調整してモータ電流を低減するとともに、巻線を太く短くして巻線の抵抗を低減することで、効果的に銅損(アルミ損)を低減することができる。積層高さhを短くすることは、巻線長さLも短くでき、銅損(アルミ損)の低減に有利である。また、外径Dを拡大しスロット面積を拡大させると、太い巻線を適用が可能となるので、巻線長さLを維持したままに巻線の断面積Sを大きくすることができて、銅損(アルミ損)の低減に有利である。よって、積層高さhと外径Dの比D/hは大きい方が銅損(アルミ損)抑制の観点で好ましい。また、積層方向の磁束漏れを好適に防ぎ、銅損(アルミ損)をより低減するために、D/hは3.0以下とした。より好ましくは、1.5≦D/hである。また、より好ましくはD/h≦2.0である。
【0034】
・巻線のスロット占積率が60%以上
巻線のスロット占積率は60%以上であることが好ましい。スロット占積率の向上により、巻線の断面積Sを大きくとることができるので、銅損(アルミ損)の低減に有効である。スロット占積率は、50%以上であることがより好ましい。なお、巻線のスロット占積率は下記式(2)で定義される。
スロット占積率(%)=(導体断面積+被膜断面積)/(スロット断面積-絶縁物断面積)×100 …(2)
【0035】
スロット占積率は、ステータを切断して断面を画像解析することにより、評価することができる。
【0036】
特に、巻線の断面形状は四角形状である(平角線である)ことが好ましい。巻線の断面形状が四角形状であることで巻線を高占積率にステータコアに施しやすい。
【0037】
巻線のスロット占積率の上限は特に限定されないが、90%以下とすることが好ましい。巻線のスロット占積率を90%以下とすることで、急激な発熱および温度上昇の際、巻線による電磁鋼板へ応力付与を好適に防ぐことができる。発進時や登坂走行時など大きな電流を流す駆動をした際に、巻線の発熱による急激な発熱が起こり得る。銅に比べてアルミは巻線の抵抗が大きいため、通電に伴う発熱量が大きい。その上、アルミは熱伝導率も低いため冷却されにくいので、温度上昇しやすい。さらに、アルミの熱膨張率(23.9×106/℃)は銅(16.5×106/℃)よりも大きい。急激な発熱および温度上昇の際、熱膨張した巻線が電磁鋼板へ応力を加え得るが、巻線のスロット占積率を90%以下とすることで、空間的な余裕が好適にあるため、巻線による電磁鋼板への応力付与を好適に防ぐことができる。
【0038】
・電磁鋼板の磁束に対して垂直な方向に外部応力10MPaを加えた際の鉄損W10/400(W/kg)が外部応力0MPaにおける鉄損W10/400(W/kg)以下
磁束に対して垂直な方向に外部応力10MPaを加えた際の鉄損W10/400(W/kg)が外部応力0MPaにおける鉄損W10/400(W/kg)以下であることが好ましい。巻線の熱膨張により、電磁鋼板へ応力が付与された場合であっても、応力が付与されなかった場合の鉄損以下であることで、上述した応力付与時にモータ特性が劣化することを好適に防ぐことができる。
【0039】
電磁鋼板の磁束に対して垂直な方向に外部応力10MPaを加えた際の鉄損W10/400(W/kg)、及び外部応力0MPaにおける鉄損W10/400(W/kg)の評価は、以下のとおり行う。評価方法は単板評価とする。磁束と垂直方法に外部応力を10MPa加えた状態で、1.0T及び400Hzで励磁した際の鉄損を評価する。エプスタイン評価の場合は、参考文献1に示される単板評価方法に従って、面圧を付与する。
[参考文献1]千田ら、「電磁鋼板の応力下での磁気測定方法の検討」、電気学会論文誌A vol.137,No.11,pp.654-660(2017)
【0040】
電磁鋼板は、接着により積層(接着積層)されていることが好ましい。接着積層することで、カシメなどの塑性加工領域を有さない電磁鋼板とすることができ、より高い積分磁束密度を得ることができるためである。
【0041】
・電磁鋼板の層間が、面積率85%以上で接着されている
接着積層をする場合、電磁鋼板の層間が、面積率85%以上で接着されていることが好ましい。85%以上の面積率で接着積層することにより、ステータコアをより高剛性とすることができるため、高占積率な巻線が熱膨張した際にステータコアへ付与される応力がカシメ等で積層した場合に比べてより均一となり、応力付与時の磁気特性の悪化をより好適に抑制することができる。特に1.0≦D/h≦3.0とした場合であっても、カシメ等で積層した場合よりもステータコアの剛性を高く確保することができ、電磁加振力によるモータ振動および騒音の増加をより好適に抑制することができる。なお、接着剤としては一般的なカットコア用の接着剤を使用することができ、アクリル系、エポキシ系など一般的な接着剤を使用することができる。電磁鋼板の層間の接着面積率は、以下のとおり測定する。接着により積層した電磁鋼板を剥がし取り、接着されていた2枚の電磁鋼板の剥離面に接着剤が残留している面積を評価する。この際、2枚の電磁鋼板を評価するのは、剥がしとった際に、電磁鋼板-接着界面での剥離がある可能性があるためである。このようにして評価した接着面積とステータコアの面積との比率を百分率で評価する。
【0042】
・巻線と接触する電磁鋼板の角部は打抜きせん断面側とする
電磁鋼板を打抜き加工によりステータコアとする場合、
図4に示すように、加工後の各電磁鋼板Sは打抜きせん断面及び破断面を有する。破断面にはバリを有する場合があり、バリと巻線Aとが接触すると巻線Aの絶縁が破壊されてしまうおそれがある。特に、断面形状が四角形状の巻線Aの場合、ヘアピン型の巻線Aをスロットに挿入した後、電磁鋼板からはみ出た先端部を曲げ加工し、隣接する巻線Aの先端部と溶接するプロセスによって成形される場合がある。このようなプロセスの場合、前述のバリが曲げ加工側の端面に存在すると、バリと曲げ加工された巻線とが接触して、絶縁破壊を起こすおそれがある。そこで、
図4に示すように、打抜きせん断面側を巻線の曲げ加工側にすることで、絶縁破壊のリスクがより低いステータを提供することができる。
【0043】
絶縁破壊を防ぐために、スロットの電磁鋼板断面を覆うように絶縁紙を設けてから巻線を巻回すことが一般的になされている。巻線と接触する電磁鋼板の角部を打抜きせん断面側とすることで、ステータが絶縁紙を備える必要がない。ステータが絶縁紙を備えないことで、製造コストをより低減することができる。また、絶縁紙を備えないことで、巻線を太く設計できるのでアルミ合金からなる巻線で問題となる銅損(アルミ損)を抑制でき、モータ性能をより向上することができる。
【0044】
ステータは、ステータコアに巻線を施した後にワニス含侵処理が施されていることが好ましい。
【実施例0045】
(実施例1)積分磁束密度の影響
表1に示す電磁鋼板を積層し、打抜き加工を行って、
図3に示すステータを準備し、外径Dが200mm、積層厚さhが100mmの8極-48スロットのIPMモータを作製した。電磁鋼板については予めエプスタイン試験により直流B-H曲線を決定し、積分磁束密度IB(5)および積分磁束密度IB(500)を評価した。巻線はAl:99.7%、Cu:0.05%の平角線アルミ合金を使用した。巻線のスロット占積率は、65%であった。各電磁鋼板を用いて作製したモータについて、回転速度1500rpm、電流300A、および50Aで通電した際のトルクを測定した。トルクは、負荷試験機にカップリングにより機械的に接続し、モータと負荷試験機との間に設置したトルク計により測定した。材料Bの場合のトルクを100(基準)とした結果を表1に示す。また、積分磁束密度IB(5)および積分磁束密度IB(500)を横軸にとり、縦軸にトルクをとったグラフを
図5に示す。
【0046】
積分磁束密度IB(5)が高いほど50Aにおけるトルクが高く、積分磁束密度IB(500)が高いほど300Aにおけるトルクが高い結果が得られた。さらに、積分磁束密度IB(500)が90000TA/m以上かつ積分磁束密度IB(5)が550TA/m以上の電磁鋼板では、上記の相関から外れて顕著に高いモータトルクを発揮することができる。
【0047】
(実施例2)D/hの影響
ステータコアの外径D及び内径dを
図3に示した形状とし、積層高さを変更することによりD/hを変化させたモータを作製した。巻線としては、Al:99.7%、Cu:0.05%の平角線のアルミ合金を使用した。スロット占積率は65%であり実施例1と同等であった。表2に回転速度1500rpm、電流300Aで駆動した際のトルクを材料Bの計測値を100(基準)として評価した結果を示す。また、
図6に、実施例2の発明例におけるD/hとトルクとの関係を示す。
図6から、1.0≦D/h≦3.0を満たす条件において、トルク改善効果が特に大きいことがわかる。
【0048】
(実施例3)面圧下鉄損の影響
実施例1の材料B,E,F,Gについて、単板試験にて磁束と垂直方向(面圧)に外部応力を10MPa加えた状態で、1.0T-400Hzで励磁した際の鉄損を評価した。応力を加えない状態での鉄損に対する応力を10MPa加えた状態での鉄損の比を表4に示す。また、
図3に示した外径D、内径dを有し、積層高さhが170mmのステータを用いたモータの効率を下記の手順で評価した。巻線のスロット占積率は、65%であった。
(1)4000rpm-50Aで駆動:定常状態でモータ効率測定
(2)4000rpm-300Aで駆動:20秒駆動
(3)4000rpm-50Aで駆動:電流変更後すぐ、モータ効率測定
なお、モータの効率は、モータへの入力電力Pi(W)とモータの出力Po(W)=トルクT(Nm)×回転数(rpm)×2π/60との比(Po(W)/Pi(W))を百分率で評価した値である。
【0049】
(1)と(3)とのモータ効率の変化(百分率(%)の差、以下ポイントともいう)を表3に示す。また、無応力における鉄損(W
10/400)に対する応力10MPaを加えた際の鉄損(W
10/400)の比と、モータ効率の変化との関係を
図7に示す。無応力における鉄損(W
10/400)に対する応力10MPaを加えた際の鉄損(W
10/400)の比が小さい材料ほど、モータ効率の変化が小さくなった。つまり、(2)のような大電流条件での駆動直後でもモータ効率の低下が小さい。このように、電磁鋼板の材料によってモータ効率変化に差が生じたのは、以下のように考えられる。(2)のモータ駆動によって、瞬時的に巻線が発熱し、巻線材料であるアルミが熱膨張したことによりティースへ加わる応力が生じ、材料そのものの鉄損、ひいてはモータ鉄損を変化させる。しかしながら、面圧下鉄損特性の良好は材料E、Fではその応力よるモータ鉄損、すなわちモータ効率の変化は少ない。一方、面圧下鉄損特性が良好でない材料B,Gではモータ効率が大きく変化(劣化)したのである。なお、材料E,Fにおいて材料の評価では、鉄損が応力を加えることで減少しているのに対して、モータ効率は低下している。これは巻線の温度上昇による比抵抗ρの増加に起因する銅損(アルミ損)の増大と、鉄損の減少とが相殺して、前者の方が大きかったからであると考えられる。
【0050】
(実施例4)接着面積の影響
図3に示したIPMモータにおいて、電磁鋼板の加工方法がモータ効率および騒音に及ぼす影響を評価した。実施例1の材料F又はBを用い、積層方法としてカシメ又は接着積層を用いて、回転速度4500rpm、トルク50Nmでのモータ騒音(dB)およびモータ効率(%)を評価した。
ここで、モータ騒音は、モータの回転軸の延伸方向においてコイルエンドから0.5m先に騒音計を設置し、騒音のオーバーオール値にて比較評価した。カシメにより作製したモータの評価結果を基準とし、該評価結果からの変化を表4に示す。また、接着面積とモータ騒音(dB)およびモータ効率(%)との関係を
図8に示す。
【0051】
モータ効率およびモータ騒音について、いずれの条件でもカシメにより作製したモータよりも良好な特性が得られた。特に、材料Fでは接着面積を高めるほどに、モータ効率およびモータ騒音の大きな改善が得られた。一方、表3に示すように、応力付与により鉄損が増加する材料Bの条件においては、接着積層によりカシメによる積層よりも高いモータ特性が得られるものの、接着面積を高めてもさらなるモータ特性の向上が認められなかった。これは、接着積層による圧縮応力が、磁気特性に悪影響を及ぼし鉄損の増大や透磁率の低下に伴う電流の増大などを招いたためと考えられる。
【0052】
(実施例5)打ち抜きせん断面および絶縁紙の影響
続いて、
図3に示したIPMモータ特性に及ぼす打ち抜きせん断面および絶縁紙の影響について、材料Aを用いて検証を行った。打ち抜き成形により電磁鋼板よりステータを形成し、表5に示す条件で積層し、巻線を施した。巻線材料および絶縁紙の使用有無を変化させ、各々の条件につきモータを10台作製した。電磁鋼板-巻線間で短絡が生じた割合を評価した結果を表5に示す。なお、短絡が生じた割合の評価は、メガオームテスタにてUVW相のモータ端子とステータ鉄心の外周部間での抵抗値とを評価することで判定した。1kΩ以下の抵抗値が検出された場合を短絡発生と判定した。
【0053】
絶縁紙を挿入した場合は、いずれの条件でも短絡は生じなかった。一方、絶縁紙を使用しないで、バリと接触する向きから巻線を挿入した場合、電磁鋼板と巻線との間で短絡が生じた。アルミ合金からなる巻線では、通常マグネットワイヤ材料として使用される銅(Cu≧99.95%)を巻線材料とした場合に比べ、短絡する割合が高くなった。アルミ合金からなる巻線では、巻線材料の強度が低いため、巻線工程での巻線材料にかかる応力により巻線が伸び、絶縁被膜が引き延ばされることにより絶縁性能が低下しやすいためと考えられる。しかしながら、バリの生じている方向と反対から巻線を挿入した条件、すなわち、巻線と接触する電磁鋼板の角部が打抜きせん断面側である条件においては、アルミ巻線を絶縁紙なしで巻き付けても短絡が抑制された。このように、巻線の挿入方向を制御することで、絶縁紙を使用せずとも電磁鋼板と巻線と間の短絡を効果的に抑制することができ、モータ製造の歩留まりを向上させることができる。さらに、絶縁紙を使用しないことで、巻線を太く設計できるので、アルミ合金からなる巻線を用いた場合に問題となる銅損(アルミ損)を抑制することができ、モータ性能のさらなる向上に有効である。
【0054】
【0055】
【0056】
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【0058】