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特開2024-179904船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179904
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システム
(51)【国際特許分類】
   B63H 3/10 20060101AFI20241219BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20241219BHJP
【FI】
B63H3/10
B63B79/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099208
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】赤松 顕子
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
(72)【発明者】
【氏名】穴井 麻利子
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成することができる船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システムを提供する。
【解決手段】船舶の省エネルギー運航方法においては、船舶を推進する可変ピッチプロペラのALC(自動負荷制御)における回転数と可変ピッチプロペラを駆動する主機の出力との関係を表すALC設定カーブを複数設定し、主機の負荷状態に応じて複数のALC設定カーブのうちの1つを選択するととともに、主機へ供給する燃料を調節するガバナーの制御条件と選択したALC設定カーブとに従いガバナーと可変ピッチプロペラを制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の省エネルギー運航方法であって、
前記船舶を推進する可変ピッチプロペラのALC(自動負荷制御)における回転数と前記可変ピッチプロペラを駆動する主機の出力との関係を表すALC設定カーブを複数設定し、前記主機の負荷状態に応じて複数の前記ALC設定カーブのうちの1つを選択するととともに、前記主機へ供給する燃料を調節するガバナーの制御条件と選択した前記ALC設定カーブとに従い前記ガバナーと前記可変ピッチプロペラとを制御することを特徴とする船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項2】
前記複数の前記ALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと、船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブであることを特徴とする請求項1に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項3】
前記複数の前記ALC設定カーブは、船速が出るカーブであることを特徴とする請求項2に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項4】
前記負荷状態が、選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件として前記回転数を一定に制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項3に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項5】
前記負荷状態が、選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件として前記出力を一定に制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項3に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項6】
前記負荷状態が、選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項3に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項7】
前記船舶の前記船速が変化することにより、選択した前記ALC設定カーブを超えた場合、前記ガバナーの前記制御条件に従い前記ガバナーと前記可変ピッチプロペラとを制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項3に記載の船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項8】
船舶の省エネルギー運航方法であって、
気象海象情報を取得し、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の船舶の省エネルギー運航方法と、前記気象海象情報に基づいたウェザールーティングとを組み合わせて、前記船舶の航海日数を考慮した運航を行うことを特徴とする船舶の省エネルギー運航方法。
【請求項9】
船舶の省エネルギー運航システムであって、
前記船舶を推進する可変ピッチプロペラと、前記可変ピッチプロペラを駆動する主機と、前記主機へ供給する燃料を調節するガバナーと、前記主機の回転数を検出する回転数検出手段と、前記主機の出力を検出する出力検出手段と、前記回転数と前記出力とに基づいて前記可変ピッチプロペラと前記ガバナーを制御する運航制御手段とを備え、前記運航制御手段は、前記可変ピッチプロペラのALC(自動負荷制御)における前記回転数と前記主機の前記出力との関係を表すALC設定カーブを複数有し、前記主機の負荷状態に応じて複数の前記ALC設定カーブのうちの1つを選択するとともに、設定された前記ガバナーの制御条件と選択した前記ALC設定カーブとに従い前記ガバナーと前記可変ピッチプロペラとを制御することを特徴とする船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項10】
前記運航制御手段の前記複数の前記ALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブであることを特徴とする請求項9に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項11】
前記運航制御手段の前記複数の前記ALC設定カーブは、船速が出るカーブであることを特徴とする請求項10に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項12】
前記運航制御手段は、前記負荷状態が選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件として前記回転数を一定に制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項11に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項13】
前記運航制御手段は、前記負荷状態が選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件として前記出力を一定に制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項11に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項14】
前記運航制御手段は、前記負荷状態が選択した前記ALC設定カーブを超えている場合、前記ガバナーの前記制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項11に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項15】
前記運航制御手段は、前記船舶の前記船速が変化することにより、選択した前記ALC設定カーブを超えた場合、前記ガバナーの前記制御条件に従い前記ガバナーと前記可変ピッチプロペラとを制御し、選択した前記ALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする請求項11に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項16】
船舶の省エネルギー運航システムであって、
気象海象情報を取得する気象海象情報取得手段を備え、請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の船舶の省エネルギー運航システムにおける運航制御手段は、前記気象海象情報に基づいたウェザールーティングを組み合わせて制御することを特徴とする船舶の省エネルギー運航システム。
【請求項17】
前記船舶にかかる負荷情報を取得する負荷情報取得手段を備え、前記運航制御手段は、前記負荷情報に基づいて主機の負荷状態を予測し制御することを特徴とする請求項16に記載の船舶の省エネルギー運航システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ピッチプロペラを備えた船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システムに関する。
【背景技術】
【0002】
可変ピッチプロペラ(CPP:Controllable Pitch Propeller)を装備した船舶において、ディーゼルエンジン(主機)はエンジンガバナーにより回転数一定で制御することが一般的であるが、燃料節約のため、ガバナーにより出力一定で制御する出力一定制御や、燃料投入量を制限するフューエルインデックス(FI:Fuel Index)制御もある。図10は従来のガバナー制御を示す図であり、横軸をプロペラ回転数NP[rpm]、縦軸を出力P[kw]としている。図10(a)は回転数一定制御、図10(b)は出力一定制御、図10(c)はフューエルインデックス制御のものである。
回転数を指令値とする回転数一定制御は、図10(a)においてビューフォート風力階級がBF0からBF7になると出力が大きくなっているように、気象海象によって主機負荷が増すと出力が増大する。
出力を指令値とする出力一定制御は、図10(b)においてビューフォート風力階級がBF0からBF7になると回転数が下がっているように、出力が一定になるように回転数が減少する。
フューエルインデックス制御は、指令値の回転数に応じた出力がFIラインよりも上であれば回転数を下げてFIライン以下とする制御方法であり、出力と回転数がともに変わる。図10(c)の例では、ビューフォート風力階級がBF0からBF7に変わり出力がFIラインよりも上のA点になると、回転数を減少させて出力をFIラインとBF7ラインとの交点まで下げている。
【0003】
一方、可変ピッチプロペラは、翼角(ピッチ角)を変えることで回転数一定のまま出力を変えることができ、制御方式としては、(1)回転数とピッチ角のどちらも任意に設定する方法と、(2)コンビネーターによる回転数とピッチ角の組み合わせを予め設定しておき同時制御する方法がある。
さらに、可変ピッチプロペラでは出力を最適にするための制御としてALC(Automatic Load Control:自動負荷制御)を用いることができ、上記二つの制御方法のどちらの場合でもそれを初期値としてALCによる制御が可能である。具体的には、上記(1)の制御方法の場合は、回転数とピッチ角のどちらにも任意の初期値を設定し、主機負荷が最適でない場合にはALCの設定を満足するようにピッチ角を自動で変更する。また上記(2)の制御方法の場合は、回転数とピッチ角の組み合わせで初期値を設定し、主機負荷が最適でない場合にはALCの設定を満足するようにピッチ角を自動で変更する。
また、外乱の影響で船速が変化した場合に船速が一定になるように可変ピッチプロペラの翼角を自動で変更するASC(Automatic Speed Contro1:自動船速制御)と呼ばれる速度一定制御の技術もある。
このように、可変ピッチプロペラに関する技術としては、プロペラ翼角とプロペラ回転数を結び付けて自動制御を行うALCや、船速が一定になるように翼角を自動で変更するASCの制御方法がある。図11は従来の可変ピッチプロペラ制御を示す図であり、図11(a)は翼角を変更したときの船速V[knot]又はプロペラ回転数Np[rpm]と出力P[kw]との関係を示し、図11(b)はALCを使用したときの船速V[knot]又はプロペラ回転数Np[rpm]と出力P[kw]との関係を示し、図11(c)はALCを用いた可変ピッチプロペラの制御を示している。
図11(a)においてθpは翼角であり、θp1が最小、θp6が最大である。図11(a)に示すように、可変ピッチプロペラは、翼角の変更によりプロペラ回転数と出力(馬力)の関係が変わる。
図11(b)の右図において一点鎖線はALCの最適ライン、点線は不感帯の幅を示す上下不感帯ラインである。図11(b)に示すように、可変ピッチプロペラの制御にALCを使用するとプロペラ回転数と出力(馬力)の関係が最適になる。
図11(c)において三つの点線のうちの中央はALCの最適ラインであり、他の二つは不感帯の幅を示す上下不感帯ラインである。また、横軸はプロペラ回転数NP[rpm]、縦軸は出力P[kw]としている。ALCは、指令値の回転数に応じた出力がALCラインの範囲外であれば回転数一定で翼角を変えてALCラインの範囲内とする制御方法である(最大翼角となるまで回転数は変えない)。図11(c)の例では、ビューフォート風力階級がBF0からBF7に変わり出力がALCの不感帯上限ラインよりも上のA点になると、回転数一定で翼角を変えることにより出力をALCの不感帯上限ラインまで下げている。
【0004】
ここで、特許文献1には、可変ピッチプロペラを回転駆動させる主機と、主機に燃料を供給するための燃料噴射ポンプと、主機の回転数を制御する速度ガバナーと、主機の回転数を減少させるべく速度ガバナーが制御されることにより後退又は前進するガバナー出力軸と、前進又は後退することにより燃料噴射ポンプの噴射量を増大又は減少させるポンプラックと、ガバナー出力軸の後退移動に追従してポンプラックを同一方向に移動させるように連結した連結部材と、過負荷時にポンプラックの前進移動を停止させるストッパーと、連結部材間に設けられ、ストッパーによりポンプラックの移動が停止されたときに圧縮されガバナー出力軸のみの移動を許容するスプリングと、ガバナー出力軸の進退移動を検出し主機の出力を検出する主機出力検出器と、検出器から得られる主機出力から主機の過負荷状態を検出し、可変ピッチプロペラのピッチを減ずるように制御する制御装置とを備えた主機出力制御装置が開示されている。
また、特許文献2には、2機関1軸方式の推進装置を備えた船舶において、2機関を切りはなして使用することにより機関の出力範囲を広げて幅広い船速制御を行う自動船速制御方法が開示されている。
また、特許文献3には、可変ピッチプロペラ駆動機関の回転速度に対し、予め最適燃料消費量曲線を設定しておき、駆動機関のある回転速度に対応する設定燃料消費量を電気量に変換し、この電気量で動作する指令燃料消費量指針と、駆動機関の実際の燃料消費量に対応する電気量で動作する実際燃料消費量指針とを共通の燃料消費量目盛板上に対向して設け、実際燃料消費量指針が指令燃料消費量指針に一致するよう翼角を制御する可変ピッチプロペラの操作方法が開示されている。
また、特許文献4には、制御指令として目標回転速度を設定し、負荷抵抗係数算出ブロックにおいて実フューエルインデックスと主機関の実回転速度から負荷抵抗係数を求め、出力制御を行う第2制御モードが選択されるとき、回転速度/出力変換ブロックにおいて負荷抵抗係数の所定時間に亘る平均値を用いて、目標回転速度が目標出力に変換され、また、フューエルインデックス制御を行う第3制御モードが選択されるとき、回転速度/フューエルインデックス変換ブロックにおいて、平均値を用いて目標回転速度が目標フューエルインデックスに変換される舶用エンジン制御システムが開示されている。
また、特許文献5には、ディーゼルエンジンの負荷に応じて可変ピッチプロペラの翼角を変更可能とする自動負荷制御機能を有する船舶であって、ディーゼルエンジンの回転数と可変ピッチプロペラの翼角とを舶用特性に応じて設定する平穏運航モードと、ディーゼルエンジンの回転数と可変ピッチプロペラの翼角とを平穏運航モードより小翼角側に設定する荒天運航モードとが予め設定されており、海象に応じて平穏運航モードと荒天運航モードとのいずれかを操作員判断により設定して運航する船舶の運航方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実願昭58-188656号(実開昭59-111797号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開昭61-291296号公報
【特許文献3】特開昭51-139097号公報
【特許文献4】特開2011-52577号公報
【特許文献5】特開2015-6848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状では、上記した個々の制御を通して主機や可変ピッチプロペラの最適な作動点が定まっているが、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定する技術はこれまで提案されていない。
特許文献1は、主機の過負荷状態が進行してポンプラックにストッパーがかかり燃料噴射量が増大しなくなったときでも過負荷の程度を検出可能にすることを目的としたものであり、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成しようとするものではない。
特許文献2は、2機関運転から1機運転に切換わる場合や、1機運転から2機運転に切換わる場合に、設定された機関の回転数から自動負荷制御装置を用いて最適の燃料ポンプラック値を目標にして可変ピッチプロペラの翼角を調整し、推進機関の出力を設定して船速の設定を行うものであり、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成しようとするものではない。
特許文献3は、燃料消費量を前提にして可変ピッチプロペラの翼角を変更するものであり、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成しようとするものではない。
特許文献4は、回転速度制御、出力制御、フューエルインデックス制御を切り替えて海象に合わせたガバナー制御を行うものであり、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御の組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成しようとするものではない。
特許文献5は、海象に応じて平穏運航モードと荒天運航モード等を操作員が設定し、設定されたモードに応じてディーゼルエンジンの回転数と可変ピッチプロペラの翼角が制御されるものであり、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成しようとするものではない。
そこで本発明は、ガバナーと可変ピッチプロペラの制御を組み合わせた場合の作動点を統合的に選定して省エネルギー運航を達成することができる船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した船舶の省エネルギー運航方法においては、船舶を推進する可変ピッチプロペラのALC(自動負荷制御)における回転数と可変ピッチプロペラを駆動する主機の出力との関係を表すALC設定カーブを複数設定し、主機の負荷状態に応じて複数のALC設定カーブのうちの1つを選択するととともに、主機へ供給する燃料を調節するガバナーの制御条件と選択したALC設定カーブとに従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、例えば、気象海象による主機の負荷状態に応じた可変ピッチプロペラの翼角と回転数の最適な作動点を選定でき、ガバナーの制御と可変ピッチプロペラ制御の組み合わせによって従来よりも優れた省エネルギー運航を達成することができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、複数のALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと、船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブであることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、主機の負荷状態に応じて、最適負荷で燃料消費率の良い制御を行なうALC設定カーブか、又は低負荷で燃料消費量を抑えた制御を行うALC設定カーブを選択することができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、複数のALC設定カーブは、船速が出るカーブであることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、船舶の運航目的に応じて、高負荷であるが船速が維持しやすい制御を行うALC設定カーブを選択することができ、高効率運航を実現できる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として回転数を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、回転数を変えないため主機の負荷変動が少ない状態で、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として出力を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、主機の出力を変えずに選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、ガバナーのフューエルインデックス制御とALC制御を組み合わせ、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、船舶の船速が変化することにより、選択したALC設定カーブを超えた場合、ガバナーの制御条件に従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、船速の変化に対応し船速が所定の範囲内となるように制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させ、省エネルギー運航に資することができる。
【0014】
請求項8記載に対応した船舶の省エネルギー運航方法においては、気象海象情報を取得し、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の船舶の省エネルギー運航方法と、気象海象情報に基づいたウェザールーティングとを組み合わせて、船舶の航海日数を考慮した運航を行うことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、ウェザールーティングと組み合わせて目的に応じた最適制御を選定し、到着予定日を守りつつ省エネルギー運航を達成することができる。
【0015】
請求項9記載に対応した船舶の省エネルギー運航システムにおいては、船舶を推進する可変ピッチプロペラと、可変ピッチプロペラを駆動する主機と、主機へ供給する燃料を調節するガバナーと、主機の回転数を検出する回転数検出手段と、主機の出力を検出する出力検出手段と、回転数と出力とに基づいて可変ピッチプロペラとガバナーを制御する運航制御手段とを備え、運航制御手段は、可変ピッチプロペラのALC(自動負荷制御)における回転数と主機の出力との関係を表すALC設定カーブを複数有し、主機の負荷状態に応じて複数のALC設定カーブのうちの1つを選択するとともに、設定されたガバナーの制御条件と選択したALC設定カーブとに従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、例えば、気象海象による主機の負荷状態に応じた可変ピッチプロペラの翼角と回転数の最適な作動点が選定され、ガバナーの制御と可変ピッチプロペラ制御の組み合わせによって従来よりも優れた省エネルギー運航を達成することができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、運航制御手段の複数のALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブであることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、主機の負荷状態に応じて、最適負荷で燃料消費率の良い制御を行なうALC設定カーブか、又は低負荷で燃料消費量を抑えた制御を行うALC設定カーブを選択することができる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、運航制御手段の複数のALC設定カーブは、船速が出るカーブであることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、船舶の運航目的に応じて、高負荷であるが船速が維持しやすい制御を行うALC設定カーブを選択することができ、高効率運航を実現できる。
【0018】
請求項12記載の本発明は、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として回転数を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、回転数を変えないため主機の負荷変動が少ない状態で、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として出力を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、主機の出力を変えずに選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、ガバナーのフューエルインデックス制御とALC制御を組み合わせ、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、運航制御手段は、船舶の船速が変化することにより、選択したALC設定カーブを超えた場合、ガバナーの制御条件に従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、船速の変化に対応し船速が所定の範囲内となるように制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させ、省エネルギー運航に資することができる。
【0022】
請求項16記載に対応した船舶の省エネルギー運航システムにおいては、気象海象情報を取得する気象海象情報取得手段を備え、請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の船舶の省エネルギー運航システムにおける運航制御手段は、気象海象情報に基づいたウェザールーティングを組み合わせて制御することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、ウェザールーティングと組み合わせて目的に応じた最適制御が選定されるため、到着予定日を守りつつ省エネルギー運航を達成することができる。
【0023】
請求項17記載の本発明は、船舶にかかる負荷情報を取得する負荷情報取得手段を備え、運航制御手段は、負荷情報に基づいて主機の負荷状態を予測し制御することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、実際に主機負荷が変動する前に、予測した負荷状態に適したALC設定カーブを選択して主機負荷の変動に備えることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の船舶の省エネルギー運航方法によれば、例えば、気象海象による主機の負荷状態に応じた可変ピッチプロペラの翼角と回転数の最適な作動点を選定でき、ガバナーの制御と可変ピッチプロペラ制御の組み合わせによって従来よりも優れた省エネルギー運航を達成することができる。
【0025】
また、複数のALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと、船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブである場合には、主機の負荷状態に応じて、最適負荷で燃料消費率の良い制御を行なうALC設定カーブか、又は低負荷で燃料消費量を抑えた制御を行うALC設定カーブを選択することができる。
【0026】
また、複数のALC設定カーブは、船速が出るカーブである場合には、船舶の運航目的に応じて、高負荷であるが船速が維持しやすい制御を行うALC設定カーブを選択することができ、高効率運航を実現できる。
【0027】
また、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として回転数を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、回転数を変えないため主機の負荷変動が少ない状態で、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0028】
また、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として出力を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、主機の出力を変えずに選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0029】
また、負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、ガバナーのフューエルインデックス制御とALC制御を組み合わせ、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0030】
また、船舶の船速が変化することにより、選択したALC設定カーブを超えた場合、ガバナーの制御条件に従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、船速の変化に対応し船速が所定の範囲内となるように制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させ、省エネルギー運航に資することができる。
【0031】
また、気象海象情報を取得し、船舶の省エネルギー運航方法と、気象海象情報に基づいたウェザールーティングとを組み合わせて、船舶の航海日数を考慮した運航を行う場合には、ウェザールーティングと組み合わせて目的に応じた最適制御を選定し、到着予定日を守りつつ省エネルギー運航を達成することができる。
【0032】
また、本発明の船舶の省エネルギー運航システムによれば、例えば、気象海象による主機の負荷状態に応じた可変ピッチプロペラの翼角と回転数の最適な作動点が選定され、ガバナーの制御と可変ピッチプロペラ制御の組み合わせによって従来よりも優れた省エネルギー運航を達成することができる。
【0033】
また、運航制御手段の複数のALC設定カーブは、燃料消費率がよいカーブと船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブである場合には、主機の負荷状態に応じて、最適負荷で燃料消費率の良い制御を行なうALC設定カーブか、又は低負荷で燃料消費量を抑えた制御を行うALC設定カーブを選択することができる。
【0034】
また、運航制御手段の複数のALC設定カーブは、船速が出るカーブである場合には、船舶の運航目的に応じて、高負荷であるが船速が維持しやすい制御を行うALC設定カーブを選択することができ、高効率運航を実現できる。
【0035】
また、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として回転数を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、回転数を変えないため主機の負荷変動が少ない状態で、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0036】
また、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件として出力を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、主機の出力を変えずに選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0037】
また、運航制御手段は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナーの制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、ガバナーのフューエルインデックス制御とALC制御を組み合わせ、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0038】
また、運航制御手段は、船舶の船速が変化することにより、選択したALC設定カーブを超えた場合、ガバナーの制御条件に従いガバナーと可変ピッチプロペラとを制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる場合には、船速の変化に対応し船速が所定の範囲内となるように制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させ、省エネルギー運航に資することができる。
【0039】
また、気象海象情報を取得する気象海象情報取得手段を備え、船舶の省エネルギー運航システムにおける運航制御手段は、気象海象情報に基づいたウェザールーティングを組み合わせて制御する場合には、ウェザールーティングと組み合わせて目的に応じた最適制御が選定されるため、到着予定日を守りつつ省エネルギー運航を達成することができる。
【0040】
また、船舶にかかる負荷情報を取得する負荷情報取得手段を備え、運航制御手段は、負荷情報に基づいて主機の負荷状態を予測し制御する場合には、実際に主機負荷が変動する前に、予測した負荷状態に適したALC設定カーブを選択して主機負荷の変動に備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の実施形態による船舶の省エネルギー運航システムの構成図
図2】同複数のALC設定カーブの設定例を示す図
図3】同第一の制御方法におけるプロペラ回転数と出力との関係図
図4】同第二の制御方法におけるプロペラ回転数と出力との関係図
図5】同第三の制御方法におけるプロペラ回転数と出力との関係図
図6】同第三の制御方法におけるプロペラ回転数と出力との関係図
図7】同第三の制御方法におけるプロペラ回転数と出力との関係図
図8】同第四の制御方法の第一パターンを示す図
図9】同第四の制御方法の第二パターンにおける船速と出力との関係図
図10】従来のガバナー制御を示す図
図11】従来の可変ピッチプロペラ制御を示す図
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態による可変ピッチプロペラを備えた船舶の省エネルギー運航方法、及び船舶の省エネルギー運航システムについて説明する。
図1は船舶の省エネルギー運航システムの構成図である。船舶の省エネルギー運航システムは、船舶を推進する可変ピッチプロペラ10と、可変ピッチプロペラ10を駆動する主機20と、主機20へ供給する燃料を調節するガバナー30と、主機20の回転数を検出する回転数検出手段40と、主機20の出力を検出する出力検出手段50と、回転数と出力とに基づいて可変ピッチプロペラ10とガバナー30を制御する運航制御手段60と、気象海象情報を取得する気象海象情報取得手段70と、船舶にかかる負荷情報を取得する負荷情報取得手段80を備え、省エネルギー運航方法を実行する。なお、ガバナー30は、機械式以外のものが好ましく、電子制御ガバナーであることが特に好ましい。
省エネルギー運航システムを装備した船舶においては、回転数検出手段40、出力検出手段50、気象海象情報取得手段70、及び負荷情報取得手段80等によって以下の項目をモニタリングする。
(1)主機回転数、主機負荷(主機トルク又は主機出力)
(2)波浪(波高、波周期、波向、なお方向スペクトラム情報も含めることが好ましい)
(3)風(風速・風向)
(4)対水流速
(5)舵角、舵角制御情報(オートパイロット制御のON/OFFなど)
(6)エンジンガバナー制御情報(フューエルインデックス情報など)
(7)風力推進装置制御情報(帆の角度、ローター回転数、稼動/不稼働など)
なお、波浪、風、及び対水流速は、気象海象予測情報でも良い。
【0043】
運航制御手段60には、可変ピッチプロペラ10のALC(自動負荷制御)における回転数と主機20の出力との関係を表すALC設定カーブが複数設定されており、運航制御手段60は、波・風・流れの大きさや向きによって変動する主機20の負荷状態(主機負荷の増減)に応じて複数のALC設定カーブのうちの1つを自動的に選択し、設定されたガバナー30の制御条件と選択したALC設定カーブに従ってガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御する。
【0044】
図2は複数のALC設定カーブの設定例を示す図である。横軸はプロペラ回転数NP[rpm]、縦軸は出力P[kw]としている。
従来のALCでは、一つのALC設定カーブ(目標負荷設定ライン)と不感帯の上限と下限を示す上下不感帯ライン(不感帯上限ライン、不感帯下限ラインとも言う)を設定するが、本発明ではALC設定カーブを複数準備しておき主機20の負荷状態に応じて一つのALC設定カーブを選択する。図2の例では、中央ALC設定カーブ1(実線)と、上側ALC設定カーブ2(点線)と、下側ALC設定カーブ3(一点鎖線)の計三本のALC設定カーブを予め設定している。なお、図示はしていないが、各ALC設定カーブにそれぞれ上下不感帯ラインが設定されている。不感帯は、例えば中央ALC設定カーブ1の不感帯上限ラインが上側ALC設定カーブ2と重なり不感帯下限ラインが下側ALC設定カーブ3と重なるなど、他のALC設定カーブと重複してもよい。
図2に示すような複数のALC設定カーブは、主機20の出力と燃料消費率特性を基に、人又はコンピュータが設定する。例えば、中央ALC設定カーブ1は、BF0ラインに沿うように設定して燃料消費率(SFC:Specific Fuel Consumption)が三つのALC設定カーブの中で最も良いものとし、上側ALC設定カーブ2は、三つのALC設定カーブの中で最も高負荷となり船速が速いものとし、下側ALC設定カーブ3は、三つのALC設定カーブの中で最も低負荷となり船速は遅いが出力と燃料消費量が少ないものとする。複数のALC設定カーブのなかに、燃料消費率が良いカーブと、船速は出ないが出力及び燃料消費量が小さいカーブがあることにより、主機20の負荷状態に応じて、最適負荷で燃料消費率の良い制御を行なうALC設定カーブか、又は低負荷で燃料消費量を抑えた制御を行うALC設定カーブを選択することができる。また、選択肢の一つとして複数のALC設定カーブのなかに船速が出るカーブがあることにより、船舶の運航目的に応じて、高負荷であるが船速が維持しやすい制御を行うALC設定カーブを選択することができ、高効率運航を実現できる。
なお、複数のALC設定カーブは、本実施形態のように三種類とすることが好ましいが、二種類又は四種類以上とすることもできる。
【0045】
運航中の船舶において、運航制御手段60は、三種類のALC設定カーブの中から選択した一つのALC設定カーブを用いてガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御する。どのALC設定カーブを選択するかは主機20の負荷状態によるが、例えば以下(1)~(3)のように選択する。また、風力推進制御(又は舵角制御)と組み合わせる場合における風力推進制御(又は舵角制御)の速度は、例えば以下(4)、(5)のようにする。
(1)ビューフォート風力階級がBF0やBF1の時など、気象海象が比較的穏やかな状況等では燃料消費率が最も優れた中央ALC設定カーブ1を選択することを基本とする。
(2)風速(波高・波周期、流速)が増加する場合は、風速の増加量に応じて、中央ALC設定カーブ1、又は下側ALC設定カーブ3を選択する。主機20の負荷が増大すると予測される場合には、風速の増加量が閾値を超えたときに中央ALC設定カーブ1又は下側ALC設定カーブ3に自動的に作動点を持つようにすることで、主機20の負荷が増大した場合に翼角の頻繁な変更を抑制することができる。
(3)風速(波高・波周期、流速)が低下する場合は、風速の低下量に応じて、中央ALC設定カーブ1、又は上側ALC設定カーブ2を選択する。主機20の負荷が低減すると予測される場合には、風速の低下量が閾値を超えたときに中央ALC設定カーブ1又は上側ALC設定カーブ2に自動的に作動点を持つようにすることで、主機20の負荷が低減した場合に翼角の頻繁な変更を抑制することができる。
(4)風向(波向、流向)が船舶に対して横になる場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度よりも速くする。これは横流れ防止のためである。
(5)港湾内で風向(波向、流向)が追になる場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度よりも速くする。これは突風による速度制限超過防止のためである。
また、運航制御手段60は、負荷情報取得手段80によって取得された船舶にかかる負荷情報に基づいて主機20の負荷状態を予測し、予測した負荷状態に基づいてガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御することも可能である。この場合は、実際に主機負荷が変動する前に、予測した負荷状態に適したALC設定カーブを選択して主機負荷の変動に備えることができる。
【0046】
運航制御手段60は、複数のALC設定カーブのうちの一つを選択し、ガバナー30の各制御(回転数一定制御、出力(馬力)一定制御、フューエルインデックス制御)を組み合わせて作動点(回転数、主機出力)の選定を行う。
ガバナー30や可変ピッチプロペラ10に対する制御は、ALCと組み合わせるガバナー30の制御方式によって異なる。まず、ガバナー30における回転数一定制御とALCを組み合わせた第一の制御方法について説明する。
図3は第一の制御方法におけるプロペラ回転数NP[rpm]と出力P[kw]との関係図である。
第一の制御方法において、運航制御手段60は、指定回転数(指令値の回転数)に応じた主機出力が、風速の変化等により現在選択されているALC設定カーブの不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合は、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。例えば、風速増加により負荷が増大したか又は増大することが予想される場合は、風速の増加量に応じて中央ALC設定カーブ1か下側ALC設定カーブ3を選択し、風速低下により負荷が低減したか又は低減することが予想される場合は、風速の低下量に応じて中央ALC設定カーブ1か上側ALC設定カーブ2を選択する。なお、ALC設定カーブの不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合とは、不感帯上限ラインを上側に超えるか又は超えることが予測される場合、及び不感帯下限ラインを下側に超えるか又は超えることが予測される場合の双方を含むものとする。
運航制御手段60は、ALC設定カーブを再選択した後、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。ここで、ALC設定カーブの範囲内とは、ALC設定カーブを中心とした上下不感帯ライン内の領域である。図3の例では、ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数に応じた出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブを選択し、回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のA’点としている(A→BF0)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのまま回転数一定制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
このように第一の制御方法は、主機20の負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる。第一の制御方法は、回転数を変えないため主機20の負荷変動が少ない状態で、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0047】
次に、ガバナー30における出力一定制御とALCを組み合わせた第二の制御方法について説明する。
図4は第二の制御方法におけるプロペラ回転数NP[rpm]と出力P[kw]との関係図である。第二の制御方法は、三つのパターンに分かれる。
図4(a)は第二の制御方法における第一パターンのものである。運航制御手段60は、指定出力(指令値の出力)が、風速の変化等により現在選択されているALC設定カーブの上下不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合は、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。そして、ガバナー30の制御条件として出力を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。図4(a)の例では、ビューフォート風力階級がBF7となり指定出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブを選択し、出力一定で翼角を変えることにより回転数を上げて作動点を設定カーブ上のA’点としている(A→BF0)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのまま出力一定制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
このように、第二の制御方法は、主機20の負荷状態が、選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナー30の制御条件として出力を一定に制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させる。第二の制御方法は、主機20の出力を変えずに選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0048】
図4(b)は第二の制御方法における第二パターンのものである。運航制御手段60は、指定出力が、風速の変化等により現在選択されているALC設定カーブの上下不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合は、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。そして、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。作動点がALC設定カーブの範囲内となった後は再び出力一定制御を行う。
図4(b)の例では、ビューフォート風力階級がBF7となり出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブを選択し、回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のA’点としている(A→A’)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのまま出力一定制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
第二パターンは、第一パターンよりも燃料節約効果を高めることができ、また、出力及び回転数を極力変えずに最適負荷にすることができる。
【0049】
図4(c)は第二の制御方法における第三パターンのものである。運航制御手段60は、指定出力が、風速の変化等により現在選択されているALC設定カーブの上下不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合は、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。そして、ALC設定カーブの範囲内に定めた目標の作動点へ向けて、ガバナー30による回転数の変更と可変ピッチプロペラ10の翼角の変更を同時に行う自動制御を行う。作動点がALC設定カーブの範囲内となった後は再び出力一定制御が行われる。
図4(c)の例では、ビューフォート風力階級がBF7となり出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブを選択し、回転数を上げると共に翼角変更により出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のC点としている(A→C)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのまま出力一定制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
第三パターンは、燃費及び船速の条件から最適な作動点(回転数、主機出力)を選択することができ、また、図4(c)に示すように、主機負荷を最適ラインとして、回転数変動を抑制しながら船速低下を第二パターンよりも緩和させた作動点を選定することができる。
【0050】
次に、ガバナー30におけるフューエルインデックス制御とALCを組み合わせた第三の制御方法について説明する。
図5から図7は第三の制御方法におけるプロペラ回転数NP[rpm]と出力P[kw]との関係図である。
第三の制御方法において運航制御手段60は、第一の制御方法と同様に、指定回転数に応じた主機出力が風速の変化等により現在選択されているALC設定カーブの上下不感帯ラインを超えたか又は超えることが予想される場合は、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択し、作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行うが、その制御は、指定回転数での主機出力におけるFIラインとBFライン等との位置関係によって異なるため、以下に場合分けして説明する。
【0051】
図5は、ALC設定カーブを再選択した場合において、指定回転数での主機出力が、上からFIライン、BFライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインとなった位置にある場合(ケースα)である。この場合は二つの制御パターンがある。
一つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。この制御パターンでは、可変ピッチプロペラ10の制御の後にガバナー30の制御を行う順番としても、ガバナー30の制御の後に可変ピッチプロペラ10の制御を行う順番としても、どちらでも動作は同じとなる。
図5(a)は一つ目の制御パターンの例である。図5(a)では、ビューフォート風力階級がBF7となり出力がALC設定カーブを超えて作動点がBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からFIライン、BF7ライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインの順となり、回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のA’点としている。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースαの一つ目の制御パターンは、回転数を変えないため主機20の負荷が少なく、ALC設定カーブの違いで作動点を選定することができる。
【0052】
二つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ALC設定カーブの範囲内に定めた目標の作動点へ向けて、ガバナー30による回転数の変更と可変ピッチプロペラ10の翼角の変更を同時に行う自動制御を行う。作動点は、ガバナー30と可変ピッチプロペラ10の制御の条件を満たしつつ、目的に応じて定める。
図5(b)は二つ目の制御パターンの例である。図5(b)では、ビューフォート風力階級がBF7となり出力がALC設定カーブを超えて作動点がBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からFIライン、BF7ライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインの順となり、回転数を上げると共に翼角変更により出力を下げて作動点をALC設定カーブの不感帯上限ライン上のC点としている。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースαの二つ目の制御パターンは、燃費及び船速の条件から最適な作動点(回転数、主機出力)を選択することができ、また、図5(b)に示すように、回転数変動を極力抑制しながら船速低下を第二の制御方法の第三パターン(図4(c)参照)よりも緩和させた作動点を選定することができる。
【0053】
図6は、ALC設定カーブを再選択した場合において、指定回転数での主機出力が、上からBFライン、FIライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインとなった位置にある場合(ケースβ)である。この場合は三つの制御パターンがある。なお、図6の下図は、上図の一部を拡大したものである。
一つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。この制御パターンでは、可変ピッチプロペラ10の制御の後にガバナー30の制御を行う順番となる。
図6の下図における黒矢印は一つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、FIライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインの順となり、回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のA’点としている(A→BF0)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースβの一つ目の制御パターンは、回転数を変えずに作動点を選定することができる。
【0054】
二つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ガバナー30により回転数を変更してそのときの風速におけるBFラインとFIラインとの交点まで出力を下げ、次にガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。この制御パターンでは、ガバナー30の制御の後に可変ピッチプロペラ10の制御を行う順番となる。
図6の下図における白矢印は二つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、FIライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインの順となり、まず回転数を低下させることにより出力をB点(BF7ラインとFIラインとの交点)に下げ、次に回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のB’点としている(B→BF0)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースβの二つ目の制御パターンは、ケースβの一つ目の制御パターンよりも燃料節約効果を向上させることができる。また、出力及び回転数を極力変えずに作動点を選定することができる。
【0055】
三つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ALC設定カーブの範囲内に定めた目標の作動点へ向けて、ガバナー30による回転数の変更と可変ピッチプロペラ10の翼角の変更を同時に行う自動制御を行う。作動点は、ガバナー30と可変ピッチプロペラ10の制御の条件を満たしつつ、目的に応じて定める。
図6の下図における斜線矢印は三つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、FIライン、ALC設定カーブの不感帯上限ラインの順となり、回転数を上げると共に翼角を変更することにより作動点をALC設定カーブ上のC点としている。C点の出力はA点の出力と略同じである。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースβの三つ目の制御パターンは、ALCとFI制御の条件を満たしつつ、船速を変えない作動点とするなど、作動点を自由に設定することができる。
【0056】
このようにケースβにおいては、どの制御パターンでもALC設定カーブ上に作動点を持たせている。但し、一つ目の制御パターン(可変ピッチプロペラ10→ガバナー30の順番で制御する場合)と、二つ目の制御パターン(ガバナー30→可変ピッチプロペラ10の順番で制御する場合)と、三つ目の制御パターン(可変ピッチプロペラ10とガバナー30の制御条件を満たしつつ目的に応じた作動点とする場合)で、最終的な作動点が変わる。いずれの制御パターンについても複数のALC設定カーブのうちの一つを選択するという条件は適用可能であり、目的に応じた運用が可能である。
【0057】
図7は、ALC設定カーブを再選択した場合において、指定回転数での主機出力が、上からBFライン、ALC設定カーブの不感帯上限ライン、FIラインとなった位置にある場合(ケースγ)を示している。この場合は三つの制御パターンがある。なお、図7の下図は、上図の一部を拡大したものである。
一つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて出力をALC設定カーブの範囲内に入れ、次に回転数を変更することにより作動点をALC設定カーブとFIラインとの交点に合わせる自動制御を行う。この制御パターンでは、可変ピッチプロペラ10の制御の後にガバナー30の制御を行う順番となる。
図7の下図における黒矢印は一つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、ALC設定カーブの不感帯上限ライン、ALC設定カーブ、FIラインの順となり、まず回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げてALC設定カーブ上のA’点とし(A→BF0)、次に回転数を低下させることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブとFIラインとの交点であるA’’点としている(BF0→A’’)。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースγの一つ目の制御パターンは、回転数を極力変えずに作動点を選定することができる。
【0058】
二つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ガバナー30により回転数を変更してそのときの風速におけるBFラインとFIラインとの交点に出力を変更し、次にガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。この制御パターンでは、ガバナー30の制御の後に可変ピッチプロペラ10の制御を行う順番となる。
図7の下図における白矢印は二つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、ALC設定カーブの不感帯上限ライン、ALC設定カーブ、FIラインの順となり、まず回転数を低下させることにより出力をB点(BF7ラインとFIラインとの交点)に下げ、次に回転数一定で翼角を変えることにより出力を下げて作動点をALC設定カーブ上のB’点としている。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースγの二つ目の制御パターンは、ケースγの一つ目の制御パターンよりも燃料節約効果を向上させることができる。
【0059】
三つ目の制御パターンでは、運航制御手段60は、ALC設定カーブの範囲内に定めた目標の作動点へ向けて、ガバナー30による回転数の変更と可変ピッチプロペラ10の翼角の変更を同時に行う自動制御を行う。作動点は、ガバナー30と可変ピッチプロペラ10の制御の条件を満たしつつ、目的に応じて定める。
図7の下図における斜線矢印は三つ目の制御パターンの例を示す。ビューフォート風力階級がBF7となり指定回転数での主機出力がALC設定カーブを超えてBF7ライン上のA点となったとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、上からBF7ライン、ALC設定カーブの不感帯上限ライン、ALC設定カーブ、FIラインの順となり、回転数を上げると共に翼角を変更して出力を下げて作動点をALC設定カーブの不感帯下限ライン上のC点としている。C点は、FIラインとALC設定カーブの不感帯下限ラインとの交点である。なお、ALC設定カーブを再選択したことにより回転数や可変ピッチプロペラ10の翼角を変更せずとも作動点がALC設定カーブの範囲内に収まる場合は、そのままフューエルインデックス制御に移行し、再選択後のALC設定カーブの範囲内から作動点が外れないように自動制御が行われる。
ケースγの三つ目の制御パターンは、ALCとFI制御の条件を満たしつつ、作動点を自由に設定することができる。
【0060】
このように、第三の制御方法は、負荷状態が選択したALC設定カーブを超えている場合、ガバナー30の制御条件をフューエルインデックスに基づいて制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることにより、ガバナー30のフューエルインデックス制御とALC制御を組み合わせ、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることができる。
【0061】
次に、ALCについて複数のALC設定カーブを設定し、ガバナー30の制御及び自動船速制御(ASC)と組み合わせて作動点を選定する第四の制御方法について説明する。
第四の制御方法は、船舶の船速が変化することにより、選択したALC設定カーブを超えた場合、ガバナー30の制御条件に従いガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させるものであり、以下の二つのパターンがある。
図8は第四の制御方法の第一パターンを示す図であり、図8(a)は船速V[knot]と出力P[kw]との関係図、図8(b)はプロペラ回転数NP[rpm]と出力P[kw]との関係図である。
第四の制御方法の第一パターンは、船舶が風力推進を用いていない場合の制御方法である。運航制御手段60は、船速がASC下限又はASC上限を超えた場合に、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。そして、プロペラ回転数と出力との関係が再選択したALC設定カーブの範囲内であれば、ガバナー30の制御条件として回転数を一定に制御し、可変ピッチプロペラ10の翼角を変えて船速がASCの範囲内になるように制御する。一方、プロペラ回転数と主機出力との関係が再選択したALC設定カーブの範囲外であれば、作動点をALC設定カーブの範囲内に入れる自動制御を行う。
図8の例では、ビューフォート風力階級がBF0からBF7に変わり船速がASC下限を超えてBF7ライン上のA点へ低下したとき、三つのALC設定カーブの中からBF0ラインに沿ったALC設定カーブが選択されると、出力がALC設定カーブの不感帯上限ラインを超えてBF7ライン上のA点となるため、回転数を上げると共に翼角変更により出力を上げ、船速を図8(a)に示すようにASCの範囲内のD点、作動点を図8(b)に示すようにALC設定カーブの不感帯上限ライン上のD点としている。
このように、船舶の船速が変化することにより主機出力が選択したALC設定カーブを超えた場合は、ガバナーの制御条件に従いガバナーと可変ピッチプロペラを制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させることにより、船速の変化に対応し船速が所定の範囲内となるように制御し、選択したALC設定カーブの作動点に整定させ、省エネルギー運航に資することができる。
【0062】
図9は第四の制御方法の第二パターンにおける船速V[knot]と出力P[kw]との関係図であり、図9(a)は追風の場合、図9(b)は向風の場合を示している。
第四の制御方法の第二パターンは、船舶が風力推進を用いている場合の制御方法である。運航制御手段60は、船速がASCの下限又は上限を超えた場合に、三種類の中から一つのALC設定カーブを改めて選択する。
ASCのモードにおいては、港内規則で速度制限がある港湾内を風力推進を用いて航行するとき、追風によって船速が速度制限を上回る場合がある。そこで、風力推進を用いて港湾内を航行しているときに追風となる場合は、制御速度をASC下限に合わせて余裕を持つようにする。図9(a)の例では、ビューフォート風力階級がBF0からBF7に変わり船速がASC上限を超えてBF7ライン上のA点へ上昇したとき、BF7ラインとASC下限ラインが交差したA’点で制御するようにしている。このように制御速度を低速側に設定することにより、追風により船舶が速度制限を超過してしまうことを防止できる。
一方、風力推進を用いて港湾内を航行しているときに向風で船速が低下する場合は、制御速度をASC上限に合わせて急な突風にも耐えられるようにする。図9(b)の例では、ビューフォート風力階級がBF0からBF7に変わり船速がASC下限を超えてBF7ライン上のA点へ低下したとき、BF7ラインとASC上限ラインが交差した点A’’点で制御するようにしている。このように制御速度を高速側に設定することにより、突風対応として速度低下時に翼角で船舶の速度を速やかに回復することができる。
【0063】
さらに、第四の制御方法における運航制御手段60は、風力推進制御(又は舵角制御)における速度を自動的に変化させる。どのように変化させるかは波・風・流れの大きさや向きによるが、例えば以下のように変化させる。
(1)ビューフォート風力階級がBF0やBF1の時など、気象・海象が比較的穏やかな状況等では、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度とすることを基本とする。
(2)風速(波高・波周期、流速)が増加する場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度よりも速くする。
(3)風速(波高・波周期、流速)が低下する場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度とする、もしくは通常速度よりも遅くする。
(4)風向(波向、流向)が船舶に対して横になる場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度よりも速くする。これは横流れ防止のためである。
(5)港湾内で風向(波向、流向)が追になる場合は、風力推進制御(又は舵角制御)の速度を通常速度よりも速くする。これは突風による速度制限超過防止のためである。
【0064】
以上説明したように、船舶を推進する可変ピッチプロペラ10のALCにおける回転数と可変ピッチプロペラ10を駆動する主機20の出力との関係を表すALC設定カーブを複数設定し、主機20の負荷状態に応じて複数のALC設定カーブのうちの1つを選択するととともに、主機20へ供給する燃料を調節するガバナー30の制御条件と選択したALC設定カーブとに従いガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御することにより、例えば気象海象による主機の負荷状態に応じた可変ピッチプロペラ10の翼角と回転数の最適な作動点を省エネルギーの観点から選定でき、ガバナー30の制御と可変ピッチプロペラ10の制御との組み合わせによって全体として省エネルギー効果を最大限に引き出し、従来よりも優れた省エネルギー運航を達成することができる。
【0065】
また、上記した第一から第四の制御方法では、ガバナー30と可変ピッチプロペラ10を制御する順番によって最終的な回転数、ひいては船速が変わる場合があるが、実運航では航海期間が決められており、回転数が下がり過ぎると予定日に到着できなくなる。そこで、気象海象情報取得手段70により気象海象情報を取得し、運航制御手段60が、第一から第四のうちのいずれか一つの制御方法と、航海スケジュール及び気象海象情報に基づいたウェザールーティングとを組み合わせて、ガバナー30及び可変ピッチプロペラ10を制御することが好ましい。
これにより、船舶の航海日数を考慮して目的に応じた最適制御が選定され、到着予定日を守りつつ省エネルギー運航を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、船舶のガバナーの制御と可変ピッチプロペラの自動負荷制御を組み合わせた方法に着目したものであり、実海域を航行する船舶の省エネルギー運航や船舶の制御システム等に用いること等ができる。
【符号の説明】
【0067】
1,2,3 ALC設定カーブ
10 可変ピッチプロペラ
20 主機
30 ガバナー
40 回転数検出手段
50 出力検出手段
60 運航制御手段
70 気象海象情報取得手段
80 負荷情報取得手段
図1
図2
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図11