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特開2024-179909ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法、および正極活物質の製造方法
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  • 特開-ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法、および正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179909
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法、および正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20241219BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241219BHJP
   C01B 35/10 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
C01B35/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099238
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 純一
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA08
5H050AA09
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB09
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】ホウ素導入のための高温での熱処理が不要であり、正極活物質とした際のリチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果が高く発揮される、正極活物質の前駆体の製造方法を提供する。
【解決手段】ここに開示されるホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法は、反応槽内に、アンモニウムイオン供給体とホウ酸イオン供給体とを含有する初期水溶液を調製する工程、および初期水溶液に、遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液と、pH調整液とを添加して、反応液を形成して、晶析反応を行う工程を備える。初期水溶液のpH(25℃)は5.5~7.0である。反応槽内の酸素濃度は5容量%以下である。遷移金属はNiを含む。ホウ素源水溶液のpH(25℃)は7.5~9.5である。pH調整液は炭酸塩を含む。反応液のpH(25℃)は5.5~7.0である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内に、アンモニウムイオン供給体とホウ酸イオン供給体とを含有する初期水溶液を調製する工程、および
前記初期水溶液に、遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液と、pH調整液とを添加して、反応液を形成して、晶析反応を行う工程
を備え、
前記初期水溶液の25℃におけるpHが、5.5~7.0の範囲内にあり、
前記反応槽内の酸素濃度が、5容量%以下であり、
前記遷移金属が、少なくともNiを含み、
前記ホウ素源水溶液の25℃におけるpHが、7.5~9.5の範囲内にあり、
前記pH調整液が、炭酸塩を含有し、
前記反応液の25℃におけるpHが、5.5~7.0の範囲内にある、
ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属が、少なくともNi、Co、およびMnを含有する、請求項1に記載のホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ素源水溶液の25℃におけるpHが、7.5~8.5の範囲内にある、請求項1に記載のホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法により、ホウ素含有遷移金属炭酸塩を合成する工程、
前記ホウ素含有遷移金属炭酸塩と、リチウム化合物とを混合して、原料混合物を得る工程、および
前記原料混合物を、650℃~1000℃で3時間~8時間焼成する工程
を備える正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法に関する。本発明はまた、当該ホウ素含有遷移金属炭酸塩を用いた、正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が知られている。リチウム遷移金属複合酸化物にホウ素(B)を導入する技術が知られている(例えば特許文献1~3参照)。特許文献1には、ホウ素の導入によって、リチウムイオン二次電池を高容量化できることが記載されている。特許文献2には、ホウ素の導入によって、リチウムイオン二次電池の保存時のガス発生を抑制できることが記載されている。特許文献1および2では、リチウム遷移金属複合酸化物とホウ素源とを混合し、高温(具体的には数百℃)で熱処理することによって、正極活物質にホウ素を導入している。特許文献3では、共沈法により作製される正極活物質の前駆体の水酸化物にホウ素を導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-146739号公報
【特許文献2】特開2010-40382号公報
【特許文献3】特開2023-8932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高温での熱処理によって、リチウム遷移金属複合酸化物にホウ素を導入することは、生産性の低下を招く。また高温での熱処理は、エネルギー消費が大きいため、二酸化炭素排出量の増大を招く。一方で、共沈法によって前駆体水酸化物にホウ素を導入する場合には、ホウ素がほとんど導入されず、ホウ素によるリチウムイオン二次電池の特性向上効果を高く得ることが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、ホウ素導入のための高温での熱処理が不要であり、正極活物質とした際のリチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果が高く発揮される、正極活物質の前駆体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されるホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法は、反応槽内に、アンモニウムイオン供給体とホウ酸イオン供給体とを含有する初期水溶液を調製する工程、および前記初期水溶液に、遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液と、pH調整液とを添加して、反応液を形成して、晶析反応を行う工程を備える。前記初期水溶液の25℃におけるpHは、5.5~7.0の範囲内にある。前記反応槽内の酸素濃度は、5容量%以下である。前記遷移金属は、少なくともNiを含む。前記ホウ素源水溶液の25℃におけるpHは、7.5~9.5の範囲内にある。前記pH調整液は、炭酸塩を含有する。前記反応液の25℃におけるpHは、5.5~7.0の範囲内にある。
【0008】
このような構成によれば、ホウ素導入のための高温での熱処理が不要であり、正極活物質とした際のリチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果が高く発揮される、正極活物質の前駆体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法によって得られる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図3図2のリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスを指す。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池を指す。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法は、反応槽内に、アンモニウムイオン供給体とホウ酸イオン供給体とを含有する初期水溶液を調製する工程(以下、「初期水溶液調製工程」ともいう)S101、および当該初期水溶液に、遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液と、pH調整液とを添加して、反応液を形成して、晶析反応を行う工程(以下、「晶析反応工程」ともいう)S102を備える。ここで、当該初期水溶液の25℃におけるpHは、5.5~7.0の範囲内にある。反応槽内の酸素濃度は、5容量%以下である。当該遷移金属は、少なくともNiを含む。当該ホウ素源水溶液の25℃におけるpHは、7.5~9.5の範囲内にある。当該pH調整液は、炭酸塩を含有する。当該反応液の25℃におけるpHは5.5~7.0の範囲内にある。
【0013】
まず、初期水溶液調製工程S101について説明する。反応槽には、正極活物質の前駆体の合成のための晶析反応に用いられる公知の反応槽を用いることができる。反応槽は、晶析反応の容器となるものであり、撹拌翼等の撹拌器、温度計、pHメーター、ガス導入管、滴下漏斗等を備えていてもよい。
【0014】
アンモニウム供給体の種類は、アンモニウムイオンを供給できる限り特に限定されない。アンモニウム供給体の例としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組合わせて用いることができる。
【0015】
ホウ酸イオン供給体の種類は、ホウ酸イオンを供給できる限り特に限定されない。ホウ酸イオン供給体の例としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、酸化ホウ素等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組合わせて用いることができる。
【0016】
アンモニウム供給体およびホウ酸イオン供給体はそれぞれ、そのまま初期水溶液の調製に用いてもよいし、水溶液の形態で初期反応液の調製に用いてもよい。アンモニウム供給体は、好適にはアンモニアであり、アンモニア水の形態で用いることが好ましい。
【0017】
初期水溶液の調製は、公知方法に従い行うことができる。例えば、反応槽に水を供給し、そこにアンモニウム供給体およびホウ酸イオン供給体を添加し、アンモニウム供給体およびホウ酸イオン供給体を水に溶解させることで行うことができる。あるいは、例えば、水を供給した、または水を供給していない反応槽に、アンモニウム供給体の水溶液およびホウ酸イオン供給体の水溶液を添加することで行うことができる。
【0018】
初期水溶液の調製は、その25℃におけるpHが、5.5~7.0となるように行われる。pHは、アンモニウム供給体およびホウ酸イオン供給体の量を調整することで調整することができる。また、pHの調製のために、酸(例、硫酸、硝酸等)を使用してもよい。酸のアニオンは、後述の遷移金属の水溶性塩のアニオンと同じであることが好ましい。なお、本明細書において液体の25℃におけるpHは、pHメーターを用いて測定することができる。
【0019】
ここで、次工程の晶析反応工程S102で使用する、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液を予め作製して、これを初期水溶液の調製に用いてもよい。この場合、本実施形態の製造方法の実施が簡便となる。ここで、ホウ素源水溶液の25℃におけるpHは7.5~9.5である。よって、例えば、水を供給した、または水を供給していない反応槽にホウ素源水溶液を供給し、酸を用いて初期水溶液のpHが5.5~7.0の範囲内になるように調整する。
【0020】
一方で、初期水溶液調製工程S101において、反応槽内の酸素濃度を5容量%以下に調整する。酸素濃度の調整は、公知方法に従い行うことができる。酸素濃度は、例えば、反応槽内に、窒素、アルゴン等の不活性ガスを導入することによって調整することができる。反応槽内の酸素濃度は、好ましくは4.5容積%以下である。
【0021】
以上のようにして、初期水溶液調製工程S101を行うことができる。続いて、晶析反応工程S102について説明する。
【0022】
晶析反応工程S102に使用する、遷移金属を含有する原料水溶液は、公知方法に従い調製することができる。例えば、遷移金属の水溶性塩(例、遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物等)を水に溶解させることにより、調製することができる。
【0023】
ここで、ホウ素含有遷移金属炭酸塩は、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物(特に層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物)の前駆体となるものである。ここで、リチウム遷移金属複合酸化物が、Niを含有する場合には、リチウムイオン二次電池の高容量化効果と、保存時のガス発生抑制効果が高く発揮される。そのため、本実施形態においては、遷移金属は、少なくともNiを含む。
【0024】
また、遷移金属は、Ni以外の遷移金属(特に、正極活物質として公知のリチウム遷移金属複合酸化物に用いられている遷移金属)を含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池に優れた諸特性を付与できることから、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物であることが好ましい。したがって、遷移金属は、少なくともNi、Co、およびMnを含むことが好ましい。このとき、遷移金属はNi、Co、およびMn以外の遷移金属元素をさらに含んでいてもよい。
【0025】
あるいは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物であってもよい。よって、遷移金属は、少なくともNi、Co、およびAlを含んでいてもよい。このとき、遷移金属はNi、Co、およびAl以外の遷移金属元素をさらに含んでいてもよい。
【0026】
遷移金属が2種以上である場合には、原料水溶液は、遷移金属の種類ごとに調製してもよいし、2種以上の遷移金属を含む一つの原料水溶液として調製してもよい。
【0027】
アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液は、前述のアンモニウム供給体と、前述のホウ酸イオン供給体とを、25℃におけるpHが7.5~9.5となるように、水に溶解させることにより、調製することができる。アンモニウム供給体およびホウ酸イオン供給体の一方または両方を水溶液の形態で準備し、これらを混合してもよい。ホウ素源水溶液の25℃におけるpHがこの範囲にあることで、反応液にホウ素源をイオンの状態(すなわち、ホウ酸イオンとして)で十分に供給することができる。リチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果がより高くなることから、ホウ素源水溶液の25℃におけるpHは、好ましくは7.5~8.5である。
【0028】
また、pH調整液として、炭酸塩を含有するものを使用する。炭酸塩を含有するpH調整液を使用することにより、正極活物質の前駆体を、炭酸塩として析出させることができる。pH調整液は、典型的には、炭酸塩の水溶液である。炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。なかでも、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0029】
遷移金属を含有する原料水溶液と、ホウ素源水溶液と、pH調整液とを、初期水溶液に添加して反応液を形成する。このとき反応液の25℃におけるpHを、初期水溶液と同じ5.5~7.0の範囲に制御する。反応液のpHがこの範囲内にあることで、析出する遷移金属炭酸塩に、ホウ素を効率よく導入することができ、リチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果を高く発揮させることができる。反応液の25℃におけるpHは、好ましくは5.7~6.7である。なお、反応液の25℃におけるpHは、遷移金属を含有する原料水溶液、ホウ素源水溶液、およびpH調整液の添加速度を制御すること等によって調整することができる。
【0030】
なお、このとき、ホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物に、遷移金属以外の金属(例、アルカリ土類金属など)を導入したい場合には、遷移金属以外の金属を含有する水溶液を添加してもよい。遷移金属以外の金属を、遷移金属を含有する原料水溶液に添加していてもよい。
【0031】
反応液の温度は、晶析反応を行える限り特に限定されず、反応液を加熱してもよいし、加熱しなくてもよい。反応液は、加熱しないことが好ましい。反応液の温度は、例えば、0℃超え45℃以下であり、好ましくは15℃~40℃であり、より好ましくは25℃~40℃である。
【0032】
晶析反応時間は、反応スケールや、ホウ素含有遷移金属炭酸塩の所望の粒子径等に応じて適宜決定してよい。晶析反応時間は、例えば0.5時間~24時間であり、好ましくは5時間~20時間である。
【0033】
なお、晶析反応工程S102においても、反応槽内の酸素濃度は、5容量%以下である。
【0034】
このようにして晶析反応を行うことにより、ホウ素含有遷移金属炭酸塩を析出させることができる。析出したホウ素含有遷移金属炭酸塩は、公知方法に従い、回収することができる。例えば、析出したホウ素含有遷移金属炭酸塩を、濾過等の固液分離法によって回収することができ、このとき洗浄および乾燥を行ってよい。
【0035】
ホウ素含有遷移金属炭酸塩は、典型的には、一次粒子が凝集した二次粒子の形態で得られる。得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩においては、二次粒子の表面だけでなく、二次粒子の内部にもホウ素が存在している。また、二次粒子の内部の方が、二次粒子の表面よりもホウ素の存在量が高くなり得る。
【0036】
ホウ素含有遷移金属炭酸塩は、好適には下記式(I)で表される組成を有する。
Ni(1-x-y-z-a)CoMnCO ・・・ (I)
【0037】
式中、x、y、z、aはそれぞれ、0≦x<0.5、0≦y<0.5、0<z<0.1、0≦a≦0.05を満たす。Aは、Mg、Ca、V、Cr、Al、Ti、Zr、Nb、Mo、およびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である。xは、好ましくは0.05≦x≦0.35を満たし、yは、好ましくは0.05≦y≦0.35を満たす。
【0038】
得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩を用いて、公知方法に従い、ホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物を作製することができる。ホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質としてリチウムイオン二次電池に用いることにより、リチウムイオン二次電池の容量を高め、かつ保存時のガス発生を抑制することができる。
【0039】
そこで別の側面から、ここに開示される正極活物質の製造方法は、上記の方法により、ホウ素含有遷移金属炭酸塩を合成する工程(以下、「炭酸塩合成工程」ともいう)、当該ホウ素含有遷移金属炭酸塩と、リチウム化合物とを混合して、原料混合物を得る工程(以下、「混合工程」ともいう)および、当該原料混合物を、650℃~1000℃で3時間~8時間焼成する工程(以下、「焼成工程」ともいう)を備える。
【0040】
炭酸塩合成工程は、上述の実施形態に係るホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法を実施することで、行うことができる。
【0041】
ここで、混合工程の前に、ホウ素含有遷移金属炭酸塩を100℃~500℃で熱処理する工程を行ってもよい。当該熱処理によって、ホウ素含有遷移金属炭酸塩に含まれる水分を除去することができ、これにより、得られる正極活物質の組成のバラつきの発生を抑制することができる。
【0042】
混合工程に用いられるリチウム化合物は、正極活物質のLi源となるものである。リチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の焼成により酸化物に変換される化合物を用いることができる。
【0043】
リチウム源化合物と、ホウ素含有遷移金属炭酸塩との混合割合は、所望の正極活物質の組成に応じて適宜決定してよい。例えば、正極活物質において、Li以外の金属に対するLiの割合は、好適には0.95~1.15である。よって、好適には、ホウ素含有遷移金属炭酸塩に含まれる金属に対する、リチウム源化合物に含まれるLiのモル比が、0.95~1.15となるように混合される。
【0044】
混合工程は、公知方法に従って行うことができる。例えば、ホウ素含有遷移金属炭酸塩と、リチウム化合物とを、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサ等の混合装置を用いて混合することにより、行うことができる。
【0045】
正極活物質に、ホウ素含有遷移金属炭酸塩に含まれていないLi以外の金属(他の金属ともいう)を導入したい場合には、公知方法に従って、混合工程において、他の金属源を混合してもよい。
【0046】
焼成工程は、公知方法に従い行うことができる。例えば、混合物の焼成は、例えば、バッチ式の電気炉、連続式の電気炉等を用いて行うことができる。焼成の雰囲気としては、正極活物質の酸素欠陥を抑制する観点から、酸化性雰囲気が好ましい。酸化性雰囲気として好適には、酸素濃度が10容量%以上の雰囲気であり、大気雰囲気、または酸素雰囲気(すなわち、大気よりも酸素濃度が高められた雰囲気)であってよい。焼成温度としては、650℃~1000℃であり、好ましくは700℃~900℃である。焼成時間は、3時間~8時間であり、好ましくは3.5時間~7.5時間である。
【0047】
以上のようにして、正極活物質であるホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。ホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物は、典型的には、一次粒子が凝集した二次粒子の形態で得られる。得られたホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物においては、二次粒子の表面だけでなく、二次粒子の内部にもホウ素が存在している。また、二次粒子の内部の方が、二次粒子の表面よりもホウ素の存在量が高くなり得る。
【0048】
正極活物質は、好適には下記式(II)で表される組成を有する。
LiNi(1-x-y-z-a)CoMn ・・・ (II)
【0049】
式中、d、x、y、z、aはそれぞれ、0.95≦d≦1.15、0≦x<0.5、0≦y<0.5、0<z<0.1、0≦a≦0.05を満たす。Aは、Mg、Ca、V、Cr、Al、Ti、Zr、Nb、Mo、およびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である。xは、好ましくは0.05≦x≦0.40を満たし、yは、好ましくは0.05≦y≦0.40を満たす。
【0050】
正極活物質の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。よって、焼成工程の後、ホウ素含有リチウム遷移金属複合酸化物の粒子径を調整する工程をさらに行ってもよい。粒子径の調整は、公知方法(例、解砕、分級等)によって行うことができる。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、メジアン径(D50)を指し、したがって、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径を意味する。
【0051】
以上の製造方法により得られる正極活物質によれば、リチウムイオン二次電池に、高い容量と、保存時の高いガス発生抑制性能とを付与することができる。よって、以上の製造方法により得られる正極活物質は、好適には、リチウムイオン二次電池の正極活物質である。リチウムイオン二次電池は、以上の製造方法により得られる正極活物質を用いて、公知方法に従って構成することができる。
【0052】
以下、上記の製造方法により得られる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の構成例について、図2および図3を用いて説明する。
【0053】
図2に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。なお、図2は、非水電解質80の量を正確に表すものではない。
【0054】
捲回電極体20は、図2および図3に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。
【0055】
正極50は、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した、正極活物質層非形成部分52aを有している。負極60は、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した、負極活物質層非形成部分62aを有している。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aは、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0056】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0057】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0058】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質には、上述の実施形態に係る製造方法によって得られる正極活物質が用いられる。正極活物質層54は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上述の実施形態に係る製造方法によって得られる正極活物質に加えて、他の正極活物質を含有していてもよい。
【0059】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他の炭素材料(例、グラファイト、カーボンナノチューブなど)を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0060】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上99質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上98質量%以下である。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、0.8質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0061】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0062】
正極シート50の正極活物質層非形成部分52aにおいて、正極活物質層54に隣接する位置に絶縁粒子を含む絶縁性の保護層(図示せず)を設けてもよい。この保護層により、正極活物質層非形成部分52aと負極活物質層64との間の短絡を防止することができる。
【0063】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0064】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0065】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0066】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0067】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0068】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0069】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0070】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0071】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0072】
非水電解質80は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0073】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0074】
なお、上記非水電解質80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0075】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、容量が高く、また保存時のガス発生が抑制されている。リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。具体的な用途としては、パソコン、携帯電子機器、携帯端末等のポータブル電源;電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源;小型電力貯蔵装置の蓄電池などが挙げられ、なかでも、車両駆動用電源が好ましい。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0076】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解質二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。積層型電極体は、正極と負極の間のそれぞれに1枚のセパレータが介在するように、複数のセパレータを含むものであってよく、1枚のセパレータが折り返されながら、正極と負極とが交互に積層されたものであってよい。
【0077】
また、リチウムイオン二次電池100は、コイン型リチウムイオン二次電池、ボタン型リチウムイオン二次電池、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池として構成することもできる。
【0078】
他方で、本実施形態に係る製造方法によって得られる正極活物質を用いて、公知方法に従い、非水電解質80に代えて固体電解質を用いて全固体リチウムイオン二次電池を構築することもできる。
【0079】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の記載において「pH」は、液温25℃基準での値である。
【0080】
〔実施例1〕
<ホウ素含有遷移金属炭酸塩の作製>
アンモニウム供給体として、濃度1質量%のアンモニア水を用意した。ホウ酸イオン供給体として、濃度0.3モル%ホウ酸水溶液を用意した。このアンモニア水と、ホウ酸水溶液とを、pHが8.2となるように混合して、ホウ素源水溶液を調製した。
【0081】
5Lの反応槽内にホウ素源水溶液を供給し、600rpmで撹拌した。また、反応槽内に窒素を導入して、反応槽内の酸素濃度を3容量%に調整した。続いて濃度1モル%の硫酸を用いて、ホウ素源水溶液のpHを6.5に調整することで、初期水溶液を得た。
【0082】
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを1:1:1のモル比で水に溶解させ、濃度1モル/Lの原料金属水溶液を調製した。pH調整液として、濃度0.5モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を用意した。
【0083】
反応槽内に、上記調製した原料金属水溶液と、pH調整液と、ホウ素源水溶液とを1:1:1の体積比で、適時供給し、pHが6.5の条件で晶析反応を10時間行った。得られた生成物を水洗後、ろ過し、乾燥して、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩(すなわち、ホウ素含有ニッケルコバルトマンガン複合炭酸塩)を得た。
【0084】
<正極活物質の作製>
上記作製したホウ素含有ニッケルコバルトマンガン複合炭酸塩と、リチウム化合物とを、ニッケル、コバルト、マンガンの合計モル数と、リチウムのモル数とが1:1.1となるように混合した。得られた混合物を、焼成炉において、酸化性雰囲気中780℃で6時間焼成した。これにより、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0085】
〔実施例2〕
撹拌速度を700rpmに変更し、ホウ素源水溶液のpHを表2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして、初期水溶液を得た。得られた初期水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして晶析反応を行い、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩を得た。
【0086】
得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩を用い、焼成温度および焼成時間を表2に示す温度および時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0087】
〔実施例3〕
撹拌速度を700rpmに変更し、ホウ素源水溶液のpH、反応層内の酸素濃度、初期水溶液のpHを表2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして、初期水溶液を得た。得られた初期水溶液を用いて、晶析反応時の反応液のpHを表2に示す値に変更し、反応時間を11時間に変更した以外は、実施例1と同様にして晶析反応を行い、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩を得た。
【0088】
上記作製したホウ素含有ニッケルコバルトマンガン複合炭酸塩と、リチウム化合物とを、ニッケル、コバルト、マンガンの合計モル数と、リチウムのモル数とが1:1.2となるように混合した。焼成温度および焼成時間を表2に示す温度および時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法により焼成して、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0089】
〔実施例4〕
撹拌速度を700rpmに変更し、ホウ素源水溶液のpHを表2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして、初期水溶液を得た。
【0090】
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンおよび硫酸ジルコニウムを55.9:19.9:19.9:0.3のモル比で水に溶解させ、濃度1モル/Lの原料金属水溶液を調製した。この原料金属水溶液と得られた初期水溶液とを用いた以外は、実施例1と同様にして晶析反応を行い、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩を得た。
【0091】
得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩を用い、焼成温度を表2に示す温度および時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0092】
〔比較例1〕
撹拌速度を700rpmに変更し、ホウ素源水溶液のpH、反応層内の酸素濃度、初期水溶液のpHを表2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして、初期水溶液を得た。得られた初期水溶液を用いて、晶析反応時の反応液のpHを表2に示す値に変更し、反応時間を11時間に変更した以外は、実施例1と同様にして晶析反応を行い、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩を得た。
【0093】
得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0094】
〔比較例2~5〕
撹拌速度を700rpmに変更し、ホウ素源水溶液のpH、反応層内の酸素濃度、初期水溶液のpHを表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして、初期水溶液を得た。得られた初期水溶液を用いて、晶析反応時の反応液のpHを表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして晶析反応を行い、粉末状のホウ素含有遷移金属炭酸塩を得た。
【0095】
得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩を用い、焼成温度および焼成時間を表2に示す温度および時間に設定した以外は、実施例1と同様の方法により、正極活物質である、ホウ素含有リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0096】
<ホウ素含有遷移金属炭酸塩のICP分析>
実施例1~4および比較例1で得られたホウ素含有遷移金属炭酸塩の組成を、市販のICP発光分光分析装置を用いて分析した。その結果、Ni、Co、MnおよびBの原子比は、以下の表1の通りであった。なお、実施例4ではZrの原子比も求めた。
【0097】
【表1】
【0098】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、活物質:AB:PVdF=100:1:1の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。このとき、リード接続部として、アルミニウム箔上に、正極スラリー未塗工部を設けた。塗布したスラリーを乾燥して正極活物質層を形成した。正極活物質層をロールプレス後、得られたシートを所定の寸法に加工して、正極シートを得た。
【0099】
負極活物質としての黒鉛(C)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、スチレンブタジエンラバー(SBR)とを、C:CMC:SBR=98:1:1の質量比で水と混合し、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを、銅箔の両面に塗布した。このとき、リード接続部として、銅箔上に、負極スラリー未塗工部を設けた。塗布したスラリーを乾燥して負極活物質層を形成した。負極活物質層をロールプレス後、得られたシートを所定の寸法に加工して、負極シートを得た。
【0100】
上記作製した正極および負極のそれぞれに、リードを取り付けた。単層のポリプロピレン製のセパレータを用意した。正極と、負極とをセパレータを介して積層して電極体を作製した。
【0101】
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:40:30の体積比で含む混合溶媒を用意した。この混合溶媒に、ビニレンカーボネートを2質量%の濃度で溶解させ、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。これにより、非水電解液を得た。
【0102】
上記作製した電極体と非水電解液とをラミネートフィルム製の電池ケースに収容し、封止して、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0103】
<放電容量評価>
上記作製した各評価リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。次いで、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定した。結果を表2に示す。
【0104】
<ガス発生量評価>
各評価用リチウムイオン二次電池の体積を、フロリナートを溶媒としたアルキメデス法により求めた。この体積を初期体積とした。次いで、25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池を、0.3Cの電流値で4.4Vまで定電流充電を行った後、電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。充電した各評価用リチウムイオン二次電池を、60℃の恒温槽内に入れ、24時間保存した。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下で放冷した。再び、各評価用リチウムイオン二次電池の体積を、フロリナートを溶媒としたアルキメデス法により求めた。保存後の体積と初期体積との差(mL)を求め、これをガス発生量とした。結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表1の結果より、ニッケルおよびホウ素を含有する遷移金属炭酸塩を製造する条件について、初期水溶液のpHが5.5~7.0の範囲内にあり、ホウ素源水溶液のpHが7.5~9.5の範囲内にあり、反応液のpHが5.5~7.0の範囲内にあり、反応槽内の酸素濃度が5容量%以下である場合に、保存時のガス発生量が少ないと同時に放電容量が高いことがわかる。よって、ホウ素のための高温での熱処理を行うことなく、正極活物質の前駆体である遷移金属炭酸塩に、効率よくホウ素を導入できていることがわかる。
【0107】
また、遷移金属炭酸塩を正極活物質に変換するための焼成条件としては、焼成温度が650℃~1000℃の範囲であって、焼成時間が3時間~8時間の範囲が好適であることがわかる。
【0108】
よって、以上の結果より、ここに開示されるホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法によれば、ホウ素導入のための高温での熱処理が不要であり、正極活物質とした際のリチウムイオン二次電池の高容量化効果および保存時のガス発生抑制効果が高く発揮される、正極活物質の前駆体を製造できることがわかる。
【0109】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0110】
すなわち、ここに開示されるホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法、および正極活物質の製造方法は、以下の項[1]~[4]である。
[1]反応槽内に、アンモニウムイオン供給体とホウ酸イオン供給体とを含有する初期水溶液を調製する工程、および
前記初期水溶液に、遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウム供給体とホウ酸イオン供給体とを含むホウ素源水溶液と、pH調整液とを添加して、反応液を形成して、晶析反応を行う工程
を備え、
前記初期水溶液の25℃におけるpHが、5.5~7.0の範囲内にあり、
前記反応槽内の酸素濃度が、5容量%以下であり、
前記遷移金属が、少なくともNiを含み、
前記ホウ素源水溶液の25℃におけるpHが、7.5~9.5の範囲内にあり、
前記pH調整液が、炭酸塩を含有し、
前記反応液の25℃におけるpHが、5.5~7.0の範囲内にある、
ホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
[2]前記遷移金属が、少なくともNi、Co、およびMnを含有する、項[1]に記載のホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
[3]前記ホウ素源水溶液の25℃におけるpHが、7.5~8.5の範囲内にある、項[1]または[2]に記載のホウ素含有遷移金属炭酸塩の製造方法。
[4]項[1]~[3]のいずれかに1項に記載の方法により、ホウ素含有遷移金属炭酸塩を合成する工程、
前記ホウ素含有遷移金属炭酸塩と、リチウム化合物とを混合して、原料混合物を得る工程、および
前記原料混合物を、650℃~1000℃で3時間~8時間焼成する工程
を備える正極活物質の製造方法。
【符号の説明】
【0111】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極集電体露出部
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極集電体露出部
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解質
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3