(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179911
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】印字を有する錠剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/44 20060101AFI20241219BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K9/44
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099243
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】尾曲 克彦
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA46
4C076BB01
4C076DD29B
4C076DD38
4C076DD41C
4C076EE16B
4C076EE31B
4C076EE32B
4C076EE38B
4C076EE47B
4C076FF04
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF37
(57)【要約】
【課題】光による染料インクの変色・退色を抑制した印字を素錠の表面に有する錠剤を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態によると、D-マンニトールと、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤と、を含む素錠と、前記素錠の表面に配置され、染料インクの色素成分を含む印字と、を有する錠剤であって、前記素錠は、1重量%以上50重量%以下の前記添加剤を含み、前記素錠の導水時間が35秒以上である、錠剤が提供される。前記素錠は、30重量%以上98重量%以下のD-マンニトールを含んでもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-マンニトールと、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤と、を含む素錠と、
前記素錠の表面に配置され、染料インクの色素成分を含む印字と、を有する錠剤であって、
前記素錠は、1重量%以上50重量%以下の前記添加剤を含み、
前記素錠の導水時間が35秒以上である、錠剤。
【請求項2】
前記素錠は、30重量%以上98重量%以下のD-マンニトールを含む、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記添加剤は、崩壊剤から選択される、請求項1に記載の錠剤。
【請求項4】
前記添加剤は、カルメロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、部分アルファ化デンプン、ヒプロメロース、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、印字を有する錠剤に関する。特に、本発明の一実施形態は、素錠の表面に印字を有する錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に錠剤には、識別性を付与するため、その表面に印字又は刻印が付与されている。フィルムを施さない素錠の識別表示には、刻印が広く用いられてきた。しかし、錠剤への刻印は、打錠時に錠剤表面に凹凸を施す方法で形成されるため、刻印部とそれ以外の表面部が同一色であり、視認性が十分高いとは言えない。また、錠剤表面に付与できる情報量も少ないことから、医薬品の取り違えにつながる可能性も否定できない。一方、錠剤への印字は、錠剤表面に直接印刷を施す方法で形成されるため、刻印よりも視認性、識別性が高い。また、薬物名や用量表示等、より多くの情報を錠剤表面に付与することができるため、医療過誤防止に有用であるとして、医療現場から求められている。特に、錠剤への印字ニーズの高まりとともに、従来のフィルムコーティング錠への印字だけでなく、フィルムを施さない素錠への印字が望まれている。
【0003】
錠剤への印刷方式のうち、非接触方式であるインクジェットプリントは、フィルムコーティング錠だけでなく、フィルムを施さない素錠への印字が可能である。インクジェットプリントに使用されるインクは、染料インクと顔料インクに大別されるが、染料インクは一般に、安価で、発色性が良く、色のバリエーションが豊富である等の利点がある。しかし、染料インクは耐光性が低く、錠剤表面に印刷した文字等が光の影響により変色又は退色する問題があった。
【0004】
染料インクによる印刷を施した錠剤の印字において、上記問題を解決する方法としては、錠剤処方又は染料インク自体に関する工夫がなされてきた。そのうち、錠剤処方を工夫する取り組みとしては、フィルムコーティング錠におけるフィルムを、特定の組成とすることにより、染料インクの定着性を改善する方法が報告されている。例えば、特許文献1には、フィルムコーティング中、添加剤としてのポリエチレングリコールの含有率が、フィルムコーティングの総量を100質量%としたとき、22.3質量%未満であるフィルムコーティングで、コアを被覆した固形製剤のフィルムコーティング上に、染料インクによる印刷を施すことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、素錠を被覆し、ビニルアルコールユニットを主鎖、または側鎖に有する高分子を含むコーティング層上に付着されたインクを含むフィルムコーティング錠剤が記載されている。
【0006】
上記とは別に、染料インク自体を工夫する取り組みとしては、インク組成を検討することにより、染料インクの変色又は退色を改善する方法が報告されている。例えば、特許文献3には、ポリビニルアルコール、アクリル酸、及びメチルメタクリレートを共重合した共重合体、並びに染料を含み、共重合体が組成物全体に対して0.5~10質量%含まれる、インクジェットインク組成が記載されている。
【0007】
また、染料インクの組成を検討したことが、特許文献4及び特許文献5にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-038210号公報
【特許文献2】特開2020-132600号公報
【特許文献3】特許第6345504号公報
【特許文献4】特許第6223119号公報
【特許文献5】国際公開第2020/171183号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題を解決するにあたって、これまで報告されたフィルム組成を検討する方法では、フィルムを施さない素錠に適用することができない。また、染料インクの組成を検討する方法では、利用可能なインクの組成が制限されるため、利用可能なインクや色も制限される。
【0010】
本発明の一実施形態は、光による染料インクの変色・退色を抑制した印字を素錠の表面に有する錠剤を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によると、D-マンニトールと、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤と、を含む素錠と、前記素錠の表面に配置され、染料インクの色素成分を含む印字と、を有する錠剤であって、前記素錠は、1重量%以上50重量%以下の前記添加剤を含み、前記素錠の導水時間が35秒以上である、錠剤が提供される。
【0012】
前記素錠は、30重量%以上98重量%以下のD-マンニトールを含んでもよい。
【0013】
前記添加剤は、崩壊剤から選択されてもよい。
【0014】
前記添加剤は、カルメロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、部分アルファ化デンプン、ヒプロメロース、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によると、光による染料インクの変色・退色を抑制した印字を素錠の表面に有する錠剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る印字を有する錠剤について説明する。なお、本発明の印字を有する錠剤は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例において、同一部分又は同様な機能を有する部分については、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る錠剤においては、素錠の表面に染料インクを用いた印字が直接配置される。即ち、本発明の一実施形態に係る錠剤は、フィルム表面に印字が配置されたフィルムコーティング錠とは異なる。本明細書において、「素錠」とは、原薬を含む医薬組成物を圧縮成形することにより製造された錠剤であり、その表面にフィルムや糖衣を有していない錠剤である。本明細書において、「素錠」は、裸錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、舌下錠及びバッカル錠を含む、フィルムや糖衣を有していない錠剤の総称である。
【0018】
本発明者が検討した結果、素錠を構成する賦形剤としてD-マンニトールを選択した場合に、光による染料インクの変色・退色が顕著に現れることが明らかとなった。光による染料インクの変色・退色にD-マンニトールが影響することは、これまでに報告されてはおらず、本発明者が初めて見出した知見である。この知見から、素錠に用いる賦形剤として、D-マンニトール以外の賦形剤を選択することも考えられるが、原薬によっては特定の賦形剤の影響により、原薬の類縁物質が生成する場合もある。D-マンニトールは、汎用される賦形剤の1つであることから、本発明者は、D-マンニトールを含む素錠の表面に染料インクを用いた印字を配置した錠剤において、光による染料インクの変色・退色を抑制可能な添加剤の組み合わせを検討した。
【0019】
本発明の一実施形態に係る錠剤は、D-マンニトールと、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤と、を含む素錠と、素錠の表面に配置され、染料インクの色素成分を含む印字と、を有する。本実施形態においては、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤の含有量を調整して、D-マンニトールを含む素錠の導水時間を35秒以上に調整することにより、光による染料インクの変色・退色を抑制することができる。一実施形態において、素錠は、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を1重量%以上50重量%以下含む。
【0020】
一実施形態において、錠剤は、30重量%以上98重量%以下のD-マンニトールを含んでもよい。本発明者が検討した結果、D-マンニトールを30重量%以上含む素錠において、光による染料インクの変色・退色が認められた。このため、本発明は、D-マンニトールを30重量%以上含む素錠に好適である。
【0021】
本発明の一実施形態において、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤は、吸水率が14重量%以上44重量%以下の崩壊剤から選択されてもよい。このような吸水率を有する崩壊剤としては、カルメロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、及び部分アルファ化デンプンからなる群から選択される1つ以上の崩壊剤を例示することができる。
【0022】
また、一実施形態において、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤は、ヒプロメロース、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1つ以上の添加剤を例示することができる。
【0023】
また、一実施形態において、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤は、上記の群から選択される1つ以上の崩壊剤及び上記の群から選択される1つ以上の添加剤から、1つ以上を選択することができ、又はそれらの2つ以上を組み合わせて本発明に係る錠剤の素錠に含有することもできる。
【0024】
本実施形態において、素錠に含まれる原薬の種類や含有量は特には限定されない。本実施形態に係る素錠にD-マンニトールを含有する錠剤においては、原薬を含む場合であっても、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を添加して素錠の導水時間を35秒以上に調整することにより、光による染料インクの変色・退色を抑制する効果を得られるため、原薬の種類や含有量は影響しない。このため、本発明の一実施形態に係る錠剤は、幅広い原薬を含有することができる。また、一実施形態において、原薬を含有しないプラセボ錠にも本発明は適用される。
【0025】
一実施形態において、錠剤は、滑沢剤を含むことができる。本実施形態において、滑沢剤は特には限定されない。本実施形態に係る素錠にD-マンニトールを含有する錠剤においては、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を添加して素錠の導水時間を35秒以上に調整することにより、光による染料インクの変色・退色を抑制する効果を得られるため、滑沢剤の種類や含有量は影響しない。このため、本発明の一実施形態に係る錠剤は、汎用される滑沢剤から選択して含有することができる。例えば、滑沢剤として、タルク、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ホウ酸、パラフィン、ココアバター、ポリエチレングリコール、ロイシン、安息香酸ナトリウム等から、1つ以上の滑沢剤を選択することができる。一実施形態において、素錠は、滑沢剤を1重量%以上30重量%以下含有することができる。
【0026】
一実施形態において、素錠は、本願の効果を奏する範囲で、D-マンニトール、上述した吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤及び滑沢剤以外の添加剤を含んでもよい。例えば、賦形剤として、乳糖水和物、白糖、マルトース、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、トレハロース、デキストリン、プルランなどの糖類、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトールなどの糖アルコール、デンプン、アルファ化デンプンなどのデンプン類、エチルセルロースのようなセルロース類、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの無機化合物からなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。また、着色剤として、例えば三二酸化鉄や黄色三二酸化鉄などの酸化鉄、酸化チタン、及びタール色素からなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。
【0027】
一実施形態において、素錠の表面に配置される印字は、染料インクの色素成分を含む。本実施形態においては、染料インクは、医薬品への印字に利用可能な染料インクであれば、特には限定されず、天然色素及び合成色素の何れであってもよい。また、染料インクの色も特には限定されない。素錠の表面に配置される印字には、染料インクの色素成分の他に、染料インクを構成する結着剤等の不揮発性の成分が含まれていてもよい。また、素錠の表面に配置される印字には、染料インクを構成する揮発性の成分は含まれないことが好ましいが、医薬品として許容される範囲で素錠の表面に配置される印字又は素錠の表面に含まれていてもよい。
【0028】
[素錠の製造方法]
本発明の一実施形態において、素錠は乾式法又は湿式法により製造することができる。乾式法として、例えば、直接打錠法を好適に用いることができる。具体的には、原薬と、D-マンニトールと、上述した吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤と、滑沢剤と、必要に応じて他の添加剤と、を均質に混合し、得られた混合物を打錠することにより素錠を製造する。または、原薬を添加せずに混合物を調製して打錠することにより、プラセボ錠を製造することもできる。素錠は、通常用いられる打錠機で圧縮成形することにより製造することができる。成形に関しては、どのような形状をも採用することができ、例えば、タブレット型、楕円形、球形、又は棒状型の形状に成形することができる。
【0029】
[錠剤の製造方法]
医薬的に許容される染料インクを用いて、インクジェットプリントにより、得られた素錠の表面に印字を配置する。インクジェットプリントは、公知の印刷技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
[添加剤の吸水率の評価方法]
本明細書において、添加剤の吸水率は、以下の方法により評価するものとする。まず、添加剤を保存する瓶の重量を測定し、3gの添加剤を瓶に入れる。添加剤の入った瓶を60℃、10%RHの条件下で4日間保存した後、瓶と添加剤の重量を測定する。その後、25℃、90%RHの条件下で4日間保存した後、瓶と添加剤の重量を測定して、下記式により添加剤の吸水率を算出する。
添加剤の吸水率(重量%)=(Wc-Wb)×100/(Wb-Wa)
Wa:瓶の重量
Wb:60℃、10%RHの条件下で4日間保存後の瓶と添加剤の重量
Wc:25℃、90%RHの条件下で4日間保存後の瓶と添加剤の重量
【0031】
[素錠の導水時間の評価方法]
本明細書において、素錠の導水時間は、以下の方法により評価するものとする。まず、直径4cmのシャーレにキムワイプ(登録商標)を二つ折りで入れ、精製水3mlをキムワイプ(登録商標)に滴下し、素錠1錠をキムワイプ(登録商標)の上に設置する。キムワイプ(登録商標)に接する素錠の一端から他端(素錠の上面)まで精製水を浸透させ、素錠の上面全てが濡れた時間を測定する。3錠につき、この方法で測定した値の平均値を素錠の導水時間とする。
【0032】
[光安定性の評価方法]
本明細書において、錠剤の素錠表面に配置された印字の光安定性は、光照射前の印字と光照射後の印字との色差により評価するものとする。まず、クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置する。素錠表面に印字が配置された錠剤を、25℃、60%RHの条件下、1000lx・hrで8日間保存する。分光色差計(型式SE-6000、日本電色工業株式会社製)を用いて、光照射前の印字の色調を基準に、上記の条件下に保存した錠剤の印字の色調変化量ΔE*値を測定する。3錠につき、この方法で測定した値の平均値を算出し、色差(ΔE*)とする。
【実施例0033】
[参考例1]
参考例として、賦形剤がインクの変色・退色に与える影響について検討した。参考例1として、D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社) 147.0gと、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社) 3.0gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して錠剤を得た。
【0034】
[参考例2~3]
D-マンニトールを無水リン酸水素カルシウム(GS、無水リン酸水素カルシウム)に変更したこと以外は参考例1と同様の方法により、参考例2の素錠と錠剤を製造した。また、D-マンニトールを乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S、フロイント産業株式会社)に変更したこと以外は参考例1と同様の方法により、参考例3の素錠と錠剤を製造した。
【0035】
上記方法により、参考例1~3の素錠の導水時間を測定し、錠剤の印字の光安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0036】
本明細書においては、錠剤の素錠表面に配置された印字につき、色差(ΔE
*)が5.0以下であれば、光による染料インクの変色・退色が抑制されたと判断する。一方、色差(ΔE
*)が5.0を超えるものは、光による染料インクの変色・退色が生じ、印字の外観が大きく変化したと判断する。表1のとおり、参考例2及び参考例3の色差が5.0以下となったのに比して、参考例1の色差が5.0を超えたことから、賦形剤として含まれるD-マンニトールが、光による染料インクの変色・退色に強く影響を及ぼすことが明らかとなった。一方、無水リン酸水素カルシウム及び乳糖水和物は、光による染料インクの変色・退色には影響が小さいことが明らかとなった。
【表1】
【0037】
[参考例4~7]
参考例1の結果より、D-マンニトールが、光による染料インクの変色・退色に強く影響を及ぼすことが明らかとなったため、素錠におけるD-マンニトールの含有量が、光による染料インクの変色・退色に与える影響について検討した。参考例1に対して、D-マンニトールの含有量を減じ、参考例3において光による染料インクの変色・退色には影響が小さいことが明らかとなった乳糖水和物を添加した参考例4~7の素錠と錠剤を製造した。
【0038】
[参考例4]
具体的には、D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社) 30.0gと、乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S、フロイント産業株式会社) 117.0gと、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社) 3.0gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して参考例4の素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して参考例4の錠剤を得た。
【0039】
[参考例5]
D-マンニトールを45.0gに変更し、乳糖水和物を102.0gに変更したこと以外は、参考例4と同様の方法により、参考例5の素錠と錠剤を製造した。
【0040】
[参考例6]
D-マンニトールを75.0gに変更し、乳糖水和物を72.0gに変更したこと以外は、参考例4と同様の方法により、参考例6の素錠と錠剤を製造した。
【0041】
[参考例7]
D-マンニトールを105.0gに変更し、乳糖水和物を42.0gに変更したこと以外は、参考例4と同様の方法により、参考例7の素錠と錠剤を製造した。
【0042】
上記の方法により、参考例4~7の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表2に示し、参考例1の結果を再掲する。なお、表2において、(20重量%)等は、素錠に対するD-マンニトールの含有量の割合を示す。表2の結果より、D-マンニトールを30重量%以上含有する錠剤では、光による染料インクの変色・退色が生じることが明らかとなり、その影響がD-マンニトールの含有量に依存することが分かった。
【表2】
【0043】
[添加剤の吸水率の測定]
D-マンニトールを含有する錠剤において、光による染料インクの変色・退色を抑制可能な添加剤の組み合わせを検討するために、まず、上記の方法により、素錠に添加する添加剤の吸水率を測定した。
【0044】
添加剤として、カルメロース(NS-300(登録商標)、ニチリン化学工業株式会社)、トウモロコシデンプン(xx16、日本食品化工株式会社)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(登録商標)LH-21、信越化学工業株式会社)、クロスポビドン(kollidon(登録商標)CL-F、BASF)、デンプングリコール酸ナトリウム(プリモジェル(登録商標)、DMV)、カルメロースカルシウム(E.C.G-505(登録商標)、五徳薬品株式会社)、クロスカルメロースナトリウム(アクジゾル(登録商標)、FMC International)、結晶セルロース(セオラス(登録商標)PH102、旭化成株式会社)、部分アルファ化デンプン(PCS(登録商標)PC10、旭化成株式会社)、ヒプロメロース(TC-5(登録商標)E、信越化学工業株式会社)、含水二酸化ケイ素(SYLOPURE(登録商標)、富士シリシア化学株式会社)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー(登録商標)101、フロイント産業株式会社)、及びヒドロキシプロピルセルロース(L、日本曹達株式会社)の吸水率を測定した。また、参考として、乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S、フロイント産業株式会社)、無水リン酸水素カルシウム(GS、無水リン酸水素カルシウム)、D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社)、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社)、ジブチルヒドロキシトルエン(Butylhydroxytoluene、メルク株式会社)、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー(オイドラギット(登録商標)RSPO、エボニック社)、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)及びスクラロース(P、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)の吸水率も測定した。各添加剤の吸水率を表3に示す。
【表3】
【0045】
[実施例1]
吸水率を測定した添加剤を用いて、光による染料インクの変色・退色の抑制効果を検討した。実施例1として、D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社) 139.5gと、結晶セルロース(セオラス(登録商標)PH102、旭化成株式会社) 7.5gと、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社) 3.0gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して実施例1の錠剤を得た。
【0046】
[実施例2]
結晶セルロースを、カルメロースカルシウム(E.C.G-505(登録商標)、五徳薬品株式会社)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例2の素錠及び錠剤を製造した。
【0047】
[実施例3]
結晶セルロースを、クロスカルメロースナトリウム(アクジゾル(登録商標)、FMC International)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例3の素錠及び錠剤を製造した。
【0048】
上記の方法により、実施例1~3の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表4に示す。なお、表4において、(14重量%)等は、各添加剤の吸水率を示す。表4の結果より、吸水率が14重量%~44重量%の添加剤を5重量%含有する素錠に染料インクを用いて印字を配置した錠剤では、光による染料インクの変色・退色を抑制可能であることが明らかとなった。
【表4】
【0049】
吸水率が高いクロスカルメロースナトリウムを用いて、素錠における添加剤の含有量が光による染料インクの変色・退色の抑制効果に与える影響について検討した。
【0050】
[比較例1]
D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社) 146.8gと、クロスカルメロースナトリウム(アクジゾル(登録商標)、FMC International) 0.2gと、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社) 3.0gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して比較例1の素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して比較例1の錠剤を得た。
【0051】
[実施例4]
D-マンニトールを145.5gに変更し、クロスカルメロースナトリウムを1.5gに変更したこと以外は比較例1と同様の方法により、実施例4の素錠及び錠剤を製造した。
【0052】
[比較例2]
D-マンニトールを142.5gに変更し、クロスカルメロースナトリウムを4.5gに変更したこと以外は比較例1と同様の方法により、比較例2の素錠及び錠剤を製造した。
【0053】
[実施例5]
D-マンニトールを72.0gに変更し、クロスカルメロースナトリウムを75.0gに変更したこと以外は比較例1と同様の方法により、実施例5の素錠及び錠剤を製造した。
【0054】
上記の方法により、実施例4~5及び比較例1~2の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表5に示し、実施例3の測定結果を再掲する。なお、表5において、(0.1重量%)等は、素錠に対するクロスカルメロースナトリウムの含有量の割合を示す。表5の結果より、光による染料インクの変色・退色の抑制効果は、クロスカルメロースナトリウムの含有量に必ずしも依存するわけではないことが明らかとなった。クロスカルメロースナトリウムを3重量%含有する比較例2の素錠では、導水時間が22秒と顕著に短くなり、光による染料インクの変色・退色の抑制効果が低下することが明らかとなった。この結果より、素錠の導水時間が光による染料インクの変色・退色の抑制効果に大きく影響することが示唆された。
【表5】
【0055】
素錠の導水時間が光による染料インクの変色・退色の抑制効果に与える影響について検討した。
【0056】
[実施例6]
D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社) 145.5gと、結晶セルロース(セオラス(登録商標)PH102、旭化成株式会社) 1.5gと、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社) 3.0gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して実施例6の素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して実施例6の錠剤を得た。
【0057】
[実施例7]
D-マンニトールを142.5gに変更し、結晶セルロースを4.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、実施例7の素錠及び錠剤を製造した。
【0058】
[比較例3]
D-マンニトールを72.0gに変更し、結晶セルロースを75.0gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、比較例3の素錠及び錠剤を製造した。
【0059】
[比較例4]
D-マンニトールを139.5gに変更し、結晶セルロースをカルメロース(NS-300(登録商標)、ニチリン化学工業株式会社) 7.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、比較例4の素錠及び錠剤を製造した。
【0060】
[比較例5]
D-マンニトールを139.5gに変更し、結晶セルロースを低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(登録商標)LH-21、信越化学工業株式会社) 7.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、比較例5の素錠及び錠剤を製造した。
【0061】
[比較例6]
D-マンニトールを139.5gに変更し、結晶セルロースをトウモロコシデンプン(xx16、日本食品化工株式会社) 7.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、比較例6の素錠及び錠剤を製造した。
【0062】
[実施例8]
D-マンニトールを139.5gに変更し、結晶セルロースをクロスポビドン(kollidon(登録商標)CL-F、BASF) 7.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、実施例8の素錠及び錠剤を製造した。
【0063】
[実施例9]
D-マンニトールを139.5gに変更し、結晶セルロースをデンプングリコール酸ナトリウム(プリモジェル(登録商標)、DMV) 7.5gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法により、実施例9の素錠及び錠剤を製造した。
【0064】
上記の方法により、実施例6~9及び比較例3~6の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表6に示す。表6の結果より、素錠の導水時間が35秒以上である錠剤においては色差が5.0以下となり、光による染料インクの変色・退色が抑制された。
【表6】
【0065】
以上の結果より、D-マンニトールを含む素錠の表面に染料インクによる印字を配置した錠剤においては、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を含み、且つ、素錠の導水時間を35秒以上に調整することにより、光による染料インクの変色・退色が抑制されることが明らかとなった。
【0066】
次に、錠剤に含まれる原薬が、光による染料インクの変色・退色の抑制効果に与える影響について検討した。
【0067】
[実施例10]
原薬A 7.5g、ヒドロキシプロピルセルロース(L、日本曹達株式会社) 3.75g、D-マンニトール 53.42g、トウモロコシデンプン 11.73g、結晶セルロース 5.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 5.0g、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社) 0.9g、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(登録商標)、富士シリシア化学) 0.9g、ステアリン酸マグネシウム 1.8gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して実施例10の素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して実施例10の錠剤を得た。なお、素錠に含まれるD-マンニトールの含有量の割合は、59.4重量%であり、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤の含有量の割合は、29.3重量%であった。
【0068】
[実施例11]
原薬Aを添加しなかったこと以外は実施例10と同様の方法により、実施例11の素錠と錠剤を製造した。なお、素錠に含まれるD-マンニトールの含有量の割合は、64.8重量%であり、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤の含有量の割合は、32.0重量%であった。
【0069】
上記の方法により、実施例10及び実施例11の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表7に示す。表7の結果より、D-マンニトールを含む素錠において、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を添加して導水時間を35秒以上に調整した錠剤においては、原薬の有無にかかわらず、光による染料インクの変色・退色を抑制することができた。
【表7】
【0070】
[比較例7]
原薬B 2.5g、ヒプロメロース(TC-5E(登録商標)、信越化学工業株式会社)1.75g、含水二酸化ケイ素(SYLOPURE P100(登録商標)、富士シリシア化学株式会社) 10.0g、ジブチルヒドロキシトルエン(メルク株式会社)0.14g、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー(オイドラギットRSPO(登録商標)、Evonik Roehm) 4.25g、軽質無水ケイ酸 2.2g、D-マンニトール 77.44g、酸化チタン(NA61(登録商標)、東邦チタニウム株式会社)1.5g、結晶セルロース 19.3g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 4.4g、クロスポビドン 3.52g、スクラロース 1.1g、ステアリン酸マグネシウム 1.9gをビニール袋で混合し、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して比較例7の素錠を製造した。クオリカプス株式会社の染料インク(Black No1)を用いて、得られた素錠の表面にインクジェットプリントにより印字を配置して比較例7の錠剤を得た。なお、素錠に含まれるD-マンニトールの含有量の割合は、59.6重量%であり、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤の含有量の割合は、31.7重量%であった。
【0071】
[比較例8]
原薬Bを添加しなかったこと以外は比較例7と同様の方法により、比較例8の素錠と錠剤を製造した。なお、素錠に含まれるD-マンニトールの含有量の割合は、60.7重量%であり、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤の含有量の割合は、32.3重量%であった。
【0072】
上記の方法により、比較例7及び比較例8の素錠の導水時間と、錠剤の印字の色差を測定した。測定結果を表8に示す。表8の結果より、D-マンニトールを含む素錠において、素錠の導水時間が35秒未満である錠剤においては、原薬の有無にかかわらず、光による染料インクの変色・退色を抑制することはできなかった。
【表8】
【0073】
表7及び表8の結果より、錠剤に原薬を含有するか否かにかかわらず、D-マンニトールを含む素錠の表面に染料インクによる印字を配置した錠剤においては、吸水率が14重量%以上44重量%以下の添加剤を含み、且つ、素錠の導水時間を35秒以上に調整することにより、光による染料インクの変色・退色が抑制されることが明らかとなった。
前記添加剤は、カルメロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、部分アルファ化デンプン、ヒプロメロース、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の錠剤の製造方法。