(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179917
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H01L21/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099253
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】境 紀和
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA17
5F047BA32
5F047BA53
5F047BB11
5F047BB16
5F047FA08
5F047FA46
(57)【要約】
【課題】被接合体の角部にまで接合材を広げることと、接合材の密度をコントロールすることとの両立を図るとともに、半導体装置の信頼性の向上に寄与する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、母材10の上にペースト状の接合材20を供給する工程と、接合材20の上に被接合体30を載置し、被接合体30で接合材20を押し潰すとともに、接合材20により被接合体30を母材10に接合させる工程とを備える。被接合体30は、平面視で矩形である。母材10の上に供給された接合材20は、被接合体30の中央に位置する中央部21と、中央部21から被接合体30の各頂点に向かって延び、被接合体30の各頂点の角形状に対応する形状を持つ延伸部22と、被接合体30の各辺から後退した後退部23とを有する。被接合体30の側面への接合材20の這い上がりの上端と被接合体30の上面との間の距離は40μm以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)母材の上にペースト状の接合材を供給する工程と、
(b)前記接合材の上に被接合体を載置し、前記被接合体で前記接合材を押し潰すとともに、前記接合材により前記被接合体を前記母材に接合させる工程と、
を備え、
前記被接合体は、平面視で矩形であり、
前記工程(a)において前記母材の上に供給された前記接合材は、前記被接合体が前記接合材の上に載置されたときに、前記被接合体の中央に位置する中央部と、前記中央部から前記被接合体の各頂点に向かって延び、前記被接合体の各頂点の角形状に対応する形状を持つ延伸部と、前記被接合体の各辺から後退した後退部とを有し、
前記工程(b)の後において、前記被接合体の側面への前記接合材の這い上がりの上端と前記被接合体の上面との間の距離は、40μm以上である、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記接合材は、非溶融接合材である、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)では、前記接合材の前記後退部が押し広げられてなる部分が、前記被接合体の矩形の各辺に達する、
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)の後の前記接合材において、前記後退部が押し広げられてなる部分の空洞率は、前記中央部の空洞率よりも高い、
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
母材の上に接合材を介して接合された矩形の被接合体を備え、
前記接合材は、前記被接合体の各頂点および各辺に接しており、前記被接合体の側面への前記接合材の這い上がりの上端と前記被接合体の上面との間の距離は、40μm以上である、
半導体装置。
【請求項6】
前記接合材は、非溶融接合材である、
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記接合材において、前記被接合体の各辺の近傍における空洞率は、前記被接合体の各頂点の近傍における空洞率よりも高い、
請求項5または請求項6に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法および構造に関し、特に、ペースト状の接合材を用いて基板等の母材上に半導体チップ等の被接合体を接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な半導体装置の製造において、半導体チップを基板上に接合する場合、まず、基板の上面に溶融したはんだを供給、もしくは、はんだを基板上で溶融させ、次に、溶融したはんだの上に半導体チップを載置してはんだを押し潰すことで、半導体チップの下面の全体にはんだを濡れ広げさせ、その後、はんだを凝固させることで半導体チップを基板に接合する。半導体チップではんだを押し潰す際、はんだは同心円状に広がるため、半導体チップの角部にまでははんだが広がりにくく、半導体チップの角部にはんだの濡れ不良が生じやすい。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、基板上に、半導体チップの中心部の下に交差部を有し、半導体チップの四隅に向かって延びる十字型にはんだを供給することにより、半導体チップの角部にまではんだが広がりやすくする技術が開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2に説明されているように、一般的な焼結接合材(以下「焼結材」という)を用いた半導体装置の製造においては、ペースト状の焼結材を半導体チップと同一の形状に供給し、焼結材を乾燥させてからその上に半導体チップを載置し、加圧および加熱によって、半導体チップを基板に接合する。特許文献2には、焼結材の焼結密度をコントロールする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-238647号公報
【特許文献2】特開2014-29897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体チップの角部にまで接合材を広げることと焼結密度のコントロールとを両立させることが課題となる。
【0007】
また、接合材がはんだであれば、半導体チップで押しつぶされたはんだが半導体チップの外側にはみ出しても、表面張力によってはんだの形状が変化するため、はんだに濡れにくい半導体チップの側面にはんだが這い上がることはない。しかし、接合材がペースト状の焼結材である場合は、表面張力による形状変化が生じず、半導体チップの側面へ焼結材料が這い上がる。焼結材料が半導体チップの側面に這い上がった場合、高温高湿バイアス試験(THB試験)等にかけたときにリーク電流が増加し、信頼性が低下するという問題が生じる。
【0008】
本開示は以上のような課題を解決するためになされたものであり、ペースト状の接合材を用いて母材上に被接合体を接合させる際に、被接合体の角部にまで接合材を広げることと、接合材の密度をコントロールすることとの両立を図るとともに、半導体装置の信頼性の向上に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る半導体装置の製造方法は、(a)母材の上にペースト状の接合材を供給する工程と、(b)前記接合材の上に被接合体を載置し、前記被接合体で前記接合材を押し潰すとともに、前記接合材により前記被接合体を前記母材に接合させる工程と、を備え、前記被接合体は、平面視で矩形であり、前記工程(a)において前記母材の上に供給された前記接合材は、前記被接合体が前記接合材の上に載置されたときに、前記被接合体の中央に位置する中央部と、前記中央部から前記被接合体の各頂点に向かって延び、前記被接合体の各頂点の角形状に対応する形状を持つ延伸部と、前記被接合体の各辺から後退した後退部とを有し、前記工程(b)の後において、前記被接合体の側面への前記接合材の這い上がりの上端と前記被接合体の上面との間の距離は、40μm以上である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ペースト状の接合材を用いて母材上に被接合体を接合させる際に、被接合体の角部にまで接合材を広げることと、接合材の密度をコントロールすることとを両立できるとともに、半導体装置の信頼性の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る半導体装置の製造方法における、母材上に被接合体を接合する工程を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る半導体装置の製造方法における、母材上に被接合体を接合する工程を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る半導体装置の製造方法における、母材上に被接合体を接合する工程を示す図である。
【
図4】実施の形態に係る半導体装置の製造方法における、母材上に被接合体を接合する工程を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る半導体装置の製造方法を用いて母材上に接合された被接合体を観察した画像を示す図である。
【
図6】
図5の四角で囲んだ領域の拡大画像を示す図である。
【
図7】THB試験で不良が発生した半導体チップにおける上面から接合材の上端までの距離の観察結果を示す図である。
【
図8】被接合体の中央部近傍の接合材を観察した画像を示す図である。
【
図9】被接合体の頂点近傍の接合材を観察した画像を示す図である。
【
図10】被接合体の辺の近傍の接合材を観察した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図4は、本開示の技術の実施の形態に係る半導体装置の製造方法における、母材10上に被接合体30を接合する工程を示す図である。
図1~
図4のそれぞれにおいて、上段には平面図、中段には上面図のA-A線に沿った断面図、下段には上面図のB-B線に沿った断面図が示されている。また、
図4にはさらに、A-A線に沿った断面図における端部の拡大図も示されている。
【0013】
まず、
図1のように、母材10の上に、ペースト状の接合材20を供給する。母材10は、例えば絶縁基板、放熱板などであり、被接合体30よりも面積が大きい。被接合体30は、例えば、半導体チップ、絶縁基板、端子などであり、平面視で矩形状であるものとする。ペースト状の接合材20は、例えば銀(Ag)などの金属からなる融点が400℃以下の焼結材や、導電性接着剤などの非溶融接合材である。接合材20は、被接合体30の外寸と同一以下の面積に供給される。
【0014】
本実施の形態では、母材10を絶縁基板とし、被接合体30を半導体チップとし、接合材20を銀からなる焼結材とした。なお、半導体チップの材料はシリコンでもよいし、炭化珪素(SiC)などのワイドバンドギャップ半導体でもよい。ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成された半導体装置は、シリコンを用いた従来の半導体装置と比較して、高電圧、大電流、高温での動作に優れている。ワイドバンドギャップ半導体としては、炭化珪素の他、窒化ガリウム(GaN)系材料、ダイヤモンドなどがある。
【0015】
次に、
図2のように、被接合体30をコレット40に吸着させて、接合材20の上に被接合体30の位置を合わせる。
図1および
図2に示すように、母材10の上に供給された接合材20は、被接合体30が接合材20の上に載置されたときに、被接合体30の中央に位置する中央部21と、中央部21から被接合体30の各頂点(角部)に向かって延び、被接合体30の各頂点の角形状に対応する形状を持つ延伸部22と、被接合体30の各辺から後退した後退部23とを有する。
【0016】
その後、
図3のように、被接合体30を接合材20の上に載置して、コレット40を用いて被接合体30を0.05MPa以下の圧力でペースト状の接合材20に押し当てて、接合材20を押し潰す。これにより、接合材20は、
図4のように、被接合体30の下面の全体に押し広げられる。接合材20の後退部23が押し広げられてなる部分は、矩形の被接合体30の各辺に達し、さらに、被接合体30の各辺を超えた接合材20は、被接合体30の側面へ這い上がる。このとき、
図4に示す被接合体30の端部の拡大図のように、被接合体30の上面から当該被接合体30の側面に這い上がった接合材20の上端までの距離を40μm以上確保する。また、接合材20の延伸部22が押し広げられてなる部分の先端は、被接合体30の頂点の位置に合わせられる。
【0017】
そして、
図4の状態で加熱することにより、被接合体30と母材10とが接合材20を介して接合される。接合材20は非溶融接合材であるため、加熱による接合プロセス中においても接合材20の形状を保持することが可能である。なお、接合材20が焼結材の場合は、はんだとは異なり、加熱による接合プロセスは無加圧、すなわち加圧はゼロでもよい。
【0018】
図5は、母材10上に接合材20を介して接合された被接合体30を観察した画像であり、
図6は、
図5の右上の四角で囲んだ領域の拡大画像である。接合材20は、被接合体30の各辺からはみ出すまで押し広げられるが、各辺からはみ出した接合材20は被接合体30の側面に這い上がるため、
図5のように、そのはみ出し量は僅かである。そのため、被接合体30を複数個並べて接合する場合、その間隔を0.5mm程度まで狭めることができる。
【0019】
また、押し広げられた接合材20は、被接合体30の角部にまで達している。ただし、接合材20の延伸部22が押し広げられてなる部分の先端は、被接合体30の頂点の位置に合わせられるため、
図6のように、被接合体30の角部(矢印で示す部分)から接合材20がはみ出すことは抑制されている。接合材20は被接合体30の角部にまで達していることで、熱応力に起因する応力集中が低減され、接合材20にクラックが発生することが抑制される。また、被接合体30の放熱性の向上という効果も得られる。
【0020】
実施の形態に係る半導体装置の製造方法により製造した半導体装置(母材10は絶縁基板、被接合体30は半導体チップ、接合材20は銀からなる焼結材)に対し、温度90℃、湿度90%の環境で、2970Vの電圧を印加するTHB試験を行った。その結果、試験開始から1000時間後にリーク電流が増加する不良が発生した。リーク電流が増加した半導体チップに対し、放電痕のある箇所周辺を光学顕微鏡(ハイソメット(登録商標))で観察したところ、
図7のように、その箇所では半導体チップの上面から当該半導体チップの側面に這い上がった接合材の上端までの距離が40μm未満であることが確認された。一方、半導体チップの上面から接合材の上端までの距離が40μm以上であるものでは、上記の不良は発生しなかった。よって、半導体チップの上面から接合材の上端までの距離を40μm以上確保することで、半導体装置の信頼性向上に寄与できる。
【0021】
特に、接合材が銀(Ag)からなる焼結材である場合、半導体チップの側面へのAgの這い上がりは、Agエレクトロマイグレーションを誘発するというデメリットがある。しかし、本実施の形態のように、半導体チップの上面から接合材(Ag)の上端までの距離を40μm以上確保することで、Agエレクトロマイグレーションの発生を回避できるという効果も得られる。
【0022】
ここで、接合材20の密度について説明する。ペースト状の接合材20が押し広げられる際、接合材20の中央部21および延伸部22では、接合材20内の粒子が互いぶつかり合うため、接合材20は緻密な状態となる。一方、延伸部22の後退部23では、接合材20は空間へ広がるため疎な状態となる。
【0023】
図8~
図10に、焼結後の接合材20の状態を観察した画像を示す。
図8は、接合材20の中央部21が押し広げられてなる部分(被接合体30の中央部近傍)を観察した画像であり、
図9は、接合材20の延伸部22が押し広げられてなる部分(被接合体30の頂点近傍)を観察した画像であり、
図10は、接合材20の後退部23が押し広げられてなる部分(被接合体30の辺の近傍)を観察した画像を示す図である。中央部21が押し広げられてなる部分(
図8)および延伸部22が押し広げられてなる部分(
図9)では、空洞率(空洞部の割合)が10%以下(すなわち緻密度が90%以上)であるのに対し、後退部23が押し広げられてなる部分では、空洞率が20%程度(すなわち緻密度が80%程度)であった。
【0024】
接合材20の空洞率がこのような分布となることで、接合材20の特に角部のクラックが抑制される。また、被接合体30が半導体チップである場合、被接合体30の中央部近傍で接合材20の密度が高いことにより、半導体チップの放熱性向上に寄与できる。このように、本実施の形態では、接合材20の密度をコントロールすることができる。
【0025】
以上のように、本実施の形態に係る半導体装置の製造方法によれば、ペースト状の接合材20を用いて母材10上に被接合体30を接合させる工程において、被接合体30の角部にまで接合材20を広げることと、接合材20の密度をコントロールすることとの両立を図ることができる。
【0026】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0027】
<付記>
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0028】
(付記1)
(a)母材の上にペースト状の接合材を供給する工程と、
(b)前記接合材の上に被接合体を載置し、前記被接合体で前記接合材を押し潰すとともに、前記接合材により前記被接合体を前記母材に接合させる工程と、
を備え、
前記被接合体は、平面視で矩形であり、
前記工程(a)において前記母材の上に供給された前記接合材は、前記被接合体が前記接合材の上に載置されたときに、前記被接合体の中央に位置する中央部と、前記中央部から前記被接合体の各頂点に向かって延び、前記被接合体の各頂点の角形状に対応する形状を持つ延伸部と、前記被接合体の各辺から後退した後退部とを有し、
前記工程(b)の後において、前記被接合体の側面への前記接合材の這い上がりの上端と前記被接合体の上面との間の距離は、40μm以上である、
半導体装置の製造方法。
【0029】
(付記2)
前記接合材は、非溶融接合材である、
付記1に記載の半導体装置の製造方法。
【0030】
(付記3)
前記工程(b)では、前記接合材の前記後退部が押し広げられてなる部分が、前記被接合体の矩形の各辺に達する、
付記1または付記2に記載の半導体装置の製造方法。
【0031】
(付記4)
前記工程(b)の後の前記接合材において、前記後退部が押し広げられてなる部分の空洞率は、前記中央部の空洞率よりも高い、
付記1から付記3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【0032】
(付記5)
母材の上に接合材を介して接合された矩形の被接合体を備え、
前記接合材は、前記被接合体の各頂点および各辺に接しており、前記被接合体の側面への前記接合材の這い上がりの上端と前記被接合体の上面との間の距離は、40μm以上である、
半導体装置。
【0033】
(付記6)
前記接合材は、非溶融接合材である、
付記5に記載の半導体装置。
【0034】
(付記7)
前記接合材において、前記被接合体の各辺の近傍における空洞率は、前記被接合体の各頂点の近傍における空洞率よりも高い、
付記5または付記6に記載の半導体装置。
【符号の説明】
【0035】
10 母材、20 接合材、21 中央部、22 延伸部、23 後退部、30 被接合体、40 コレット。