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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179919
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】舌下投与用の免疫寛容誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/24 20060101AFI20241219BHJP
   A61K 39/35 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K39/35
A61P37/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099255
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】黒野 祐一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正志
(72)【発明者】
【氏名】平野 隆
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB02
4C076CC07
4C076DD63
4C076FF68
4C085AA02
4C085BB03
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG10
(57)【要約】
【課題】舌下免疫療法に適用可能な舌下投与用の免疫寛容誘導剤を提供すること
【解決手段】下記式(1)(式中の記号の定義は明細書に記載した通りである)で表されるホスホリルコリン化合物(P)と、アレルゲンとを含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、Xは、水素原子、1価のカチオン残基、または下記式(2):
【化2】

で表される基である。)
で表されるホスホリルコリン化合物(P)と、アレルゲンとを含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のホスホリルコリン化合物とアレルゲンとを含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性鼻炎の根治治療法として、アレルゲン免疫療法が知られている。その中でも、アレルゲンを含む治療薬を舌下に投与する舌下免疫療法が簡便であるため、近年では多く行われている。
【0003】
舌下免疫療法は、例えば、スギ花粉症、およびハウスダストアレルギー性鼻炎に有効であることが知られている(非特許文献1および2)。また、例えば、特許文献1では、ヒアルロン酸をアレルゲンと併用して舌下免疫療法を行い、アレルゲンの作用を増強できることが開示されている。
【0004】
一方、免疫寛容誘導剤に関しても検討が行われている。例えば、特許文献2では、スギ花粉アレルゲンに対して微生物由来の消化物に特異的に応答するT細胞が、スギ花粉アレルゲンに対して交差反応性を有することから、前記消化物が免疫寛容を誘導する経口免疫寛容誘導剤として利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/189676号
【特許文献2】特開2020-33号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kimihiro Okubo, et al., A Randomized Double-Blind Comparative Study of Sublingual Immunotherapy for Cedar Pollinosis, Allergology International. 2008;57:265-75
【非特許文献2】Bohai Feng, et al., Efficacy of Sublingual Immunotherapy for House Dust Mite-Induced Allergic Rhinitis: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials, Allergy Asthma Immunol Res. 2017 May;9(3):220-228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1並びに非特許文献1および2に記載のハウスダストやスギをアレルゲンとするアレルギー性鼻炎の治療である舌下免疫療法は、ホスト(舌下免疫療法対象者:患者)の充分な免疫寛容を誘導するまでに最短でも3年もの長期間の治療期間を要する。この治療期間を短縮するため、より早期に免疫寛容を誘導できる免疫寛容誘導剤に期待が寄せられている。しかし、舌下免疫療法に適用可能な舌下投与用の免疫寛容誘導剤は未だ開発されていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、舌下免疫療法に適用可能な舌下投与用の免疫寛容誘導剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定のホスホリルコリン化合物を含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤が、ホストの免疫寛容を誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記知見に基づく本発明は、以下の通りである。
[1] 下記式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Xは、水素原子、1価のカチオン残基、または下記式(2):
【0013】
【化2】
【0014】
で表される基である。)
で表されるホスホリルコリン化合物(P)と、アレルゲンとを含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の舌下投与用の免疫寛容誘導剤を用いれば、免疫寛容を誘導することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<舌下投与用の免疫寛容誘導剤>
本発明は、舌下投与用の免疫寛容誘導剤(以下「本発明の誘導剤」と略称することがある)を提供する。ここで「免疫寛容誘導剤」とは、免疫寛容を誘導する剤を意味する。「免疫寛容を誘導する」とは、免疫応答が抑制されることを意味する。免疫応答の抑制は、例えば、抗体の産生量から確認することができる。「舌下投与用の免疫寛容誘導剤」とは、舌下投与に用いられる免疫寛容誘導剤を意味する。
【0017】
本発明の誘導剤は、下記式(1):
【0018】
【化3】
【0019】
で表されるホスホリルコリン化合物(P)(以下「ホスホリルコリン化合物(P)」と略称することがある)と、アレルゲンとを含む。ホスホリルコリン化合物(P)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、アレルゲンも1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
式(1)中のXは、水素原子、1価のカチオン残基、または下記式(2)で表される基である。
【0021】
【化4】
【0022】
本明細書中、「1価のカチオン残基」とは、1価のカチオンであるX(但し、プロトンを除く)が、-COOと結合して、式(1)中の-COOXを形成する場合のXを指す。
【0023】
1価のカチオン残基としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;アンモニア、イミダゾール、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等の含窒素化合物がプロトン化されたものが挙げられる。
【0024】
式(1)中の-COOX基は、ベンゼン環上のいずれかの炭素原子と結合しているが、ホスホリルコリン基に対してパラ位で結合していることが好ましい。
【0025】
式(1)中のXは、アレルゲン(特に、オボアルブミン)との反応性が高いことから、式(2)で表される基であることが好ましい。ホスホリルコリン化合物(P)は、後述の実施例に記載の式(5)で表される化合物であることがより好ましい。
【0026】
本発明の誘導剤中のホスホリルコリン化合物(P)の含有量は、特に限定されないが、本発明の誘導剤全体に対して、好ましくは0.2質量%以上、20質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上、5質量%以下である。
【0027】
アレルゲンは、例えば、吸入性アレルゲン、食物性アレルゲン、または接触性アレルゲンに分類される。吸入性アレルゲンとしては、例えば、花粉、ハウスダスト、カビが挙げられる。食物性アレルゲンとしては、例えば、卵、乳、小麦、そば、落花生、エビ、カニが挙げられる。接触性アレルゲンとしては、例えば、金属、化粧品が挙げられる。本発明の誘導剤が含有するアレルゲンは、好ましくは花粉または食物性アレルゲンであり、より好ましくは食物性アレルゲンであり、さらに好ましくは卵アレルゲンであり、特に好ましくはオボアルブミンである。
【0028】
本発明の誘導剤中のアレルゲンの含有量は、特に限定されないが、ホスホリルコリン化合物(P)1質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、10質量部以下、より好ましくは0.3質量部以上、3質量部以下である。
【0029】
本発明の誘導剤中、ホスホリルコリン化合物(P)と、アレルゲンとは、結合していてもよく、これらは、結合せずに別々に存在していてもよい。「ホスホリルコリン化合物(P)とアレルゲンとの結合体を含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤」も、本発明の「ホスホリルコリン化合物(P)と、アレルゲンとを含む舌下投与用の免疫寛容誘導剤」に包含される。本発明の誘導剤は、ホスホリルコリン化合物(P)とアレルゲンとの結合体を含むことが好ましい。前記結合体を使用することによって、効率よく免疫寛容を誘導することができる。
【0030】
本発明の誘導剤は、溶媒を含有してもよい。溶媒は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、グリセロール(現行の注射製剤に用いられる溶媒)、エタノール等が挙げられる。原料の溶解度や反応速度を考慮すると、溶媒は水が好ましく、中でも精製水(例えば蒸留水)がより好ましい。
【0031】
本発明の誘導剤中の溶媒の含有量は、特に限定されないが、ホスホリルコリン化合物(P)1質量部に対して、好ましくは1質量部以上、500質量部以下、より好ましくは20質量部以上、200質量部以下である。
【0032】
本発明の誘導剤の形状としては特に限定されないが、例えば、タブレット、シート、パウダー、液体(例えば粘性液体)、ジェル、乳濁液、分散液が挙げられる。
【0033】
本発明の誘導剤は、ホスホリルコリン化合物(P)、および必要に応じて配合される溶媒以外の成分(以下「他の成分」と略称することがある)を含んでもよい。他の成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他の成分としては、本発明の誘導剤の効果(免疫寛容の誘導)を妨げない限り特に制限されないが、例えば、湿潤剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐殺菌剤、抗炎症剤、甘味剤、香料、粘稠化剤、乾燥剤、粘膜附着剤、色素が挙げられる。
【0034】
湿潤剤としては特に限定されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトールなどの多価アルコール、ヒアルロン酸、アルギン酸、ジュランガムなどの多糖類が挙げられる。
【0035】
界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エチレン付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アシルアミノ酸塩、脂肪酸アミノプロピルベタイン、脂肪酸アミドベタインが挙げられる。
【0036】
緩衝剤としては特に限定されないが、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸およびこれらの塩が挙げられる。
【0037】
防腐殺菌剤としては特に限定されないが、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサニド、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヒノキチオール、安息香酸およびこの塩、パラベン類、塩化アルキルジアミノエチルグリシンが挙げられる。
【0038】
抗炎症剤としては特に限定されないが、例えば、グリチルリチン酸およびこの塩、グリチルレチン、アズレン、イプシロン-アミノアプロン酸、アラントインが挙げられる。
【0039】
甘味剤としては特に限定されないが、例えば、サッカリン、ステビオシド、スクロース、アスパルテーム、甘草抽出物が挙げられる。
【0040】
粘稠化剤としては特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系粘稠化剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子系粘稠化剤、キサンタンガムなどの多糖類が挙げられる。
【0041】
本発明の誘導剤は、アレルゲンとホスホリルコリン化合物(P)とを混合することにより調製することができる。混合は、上記した溶媒の存在下において行うことが好ましい。
【0042】
アレルゲンとホスホリルコリン化合物(P)とを混合する際の温度は、特に限定されないが、通常0~100℃、好ましくは20~50℃である。アレルゲンとホスホリルコリン化合物(P)とを混合する時間は、特に限定されないが、通常1~120時間である。
【0043】
本発明の誘導剤は、哺乳動物に舌下投与することができる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等が挙げられ、これらの中でヒトが好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0045】
<ホスホリルコリン化合物(P1)の合成>
以下の製造方法により、ホスホリルコリン化合物(P)の1種であるホスホリルコリン化合物(P1)を合成した。
【0046】
<式(3)で表される化合物の合成>
4-ヒドロキシ安息香酸メチル20gに、アセトニトリル160g、トリエチルアミン15gを加えて溶解させ、0℃に冷却した。その後、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン21gを滴下した。滴下終了後、0℃で5時間反応させ、生成したトリエチルアミン塩酸塩をろ過で除いた。得られたろ液に、アセトニトリル200gとトリメチルアミン12gとを加えた後、75℃で15時間反応させた。その後、60℃まで冷却し、窒素を吹き込みながら溶液量が約200mlになるまで濃縮した。濃縮後、溶液を25℃まで冷却し、析出した結晶をろ別し、減圧乾燥することにより白色固体を35.2g得た。
【0047】
得られた上記の白色固体についてのH-NMR測定、31P-NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、上記の白色固体を、式(3)で表される化合物と同定した。
H NMR:δ=8.04ppm(d,2H,J=8.8:d),7.30ppm(d,2H,J=8.8:e),4.41ppm(brs,2H:c),3.91ppm(s,3H:f),3.68ppm(m,2H:b),3.18ppm(s,9H:a)
31P NMR:-4.59ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]=317.91,[M+Na]=340.01
【0048】
【化5】
【0049】
<式(4)で表される化合物の合成>
得られた式(3)で表される化合物5gを蒸留水45gに溶解させ、トリエチルアミンを3.19g加え、還流下4時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、濃塩酸3.4gを加えることにより反応液を中和し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた残留物に、2-プロパノール50gを添加して減圧濃縮する操作を2回行い、さらに、2-プロパノール50gを加え、-10℃で終夜撹拌して結晶を析出させた。溶液を加圧ろ過し、得られた結晶を減圧乾燥することにより、白色固体を4.0g得た。
【0050】
得られた上記の白色固体についてのH NMR測定、31P NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、上記の白色固体を、式(4)で表される化合物と同定した。なお、式(4)で表される化合物も、ホスホリルコリン化合物(P)の1種である。
H NMR測定の結果は以下の通りである。
H NMR:δ=8.06ppm(d,2H,J=8.8:d),7.33ppm(d,2H,J=8.8:e),4.43ppm(brs,2H:b),3.70ppm(m,2H:c),3.19ppm(s,9H:a)
31P NMR:-4.56ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]=304.12
【0051】
【化6】
【0052】
<式(5)で表される化合物(即ち、ホスホリルコリン化合物(P1))の合成>
得られた式(4)で表される化合物5.0gとN-ヒドロキシスクシンイミド3.0gとを、N,N-ジメチルホルムアミド35gに懸濁させた。この溶液を25℃に保ち、10gのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド6.8gを加え、25℃にて72時間反応させた。反応後、溶液をろ過して固体を回収し、アセトニトリル160gで再結晶することにより白色固体4.5gを得た。
【0053】
得られた上記の白色固体についてのH-NMR測定、31P-NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、上記の白色固体を、式(5)で表される化合物(即ち、ホスホリルコリン化合物(P1))と同定した。
H NMR:δ=8.23ppm(d,2H,J=8.8:e),7.42ppm(d,2H,J=8.3:d),4.45ppm(brs,2H:b),3.72ppm(m,2H:c),3.22ppm(s,9H:a),3.04ppm(s,4H:f)
31P NMR:-4.96ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]=400.99、[M+Na]=423.03
【0054】
【化7】
【0055】
上記したH NMR測定、31P NMR測定、および質量分析についての測定条件を以下に示す。
H NMR測定]
日本電子社製「JNM-AL400」を用い、溶媒:DO、標準物質:HOD、試料濃度:10mg/g、積算回数:32回の条件で測定を行った。
31P NMR測定]
日本電子社製「JNM-AL400」を用い、溶媒:DO、標準物質:HPO、試料濃度:10mg/g、積算回数:32回の条件で測定を行った。
[質量分析]
質量分析装置としてWaters社製、商品名「Q-micro2695」を用い、試料濃度:100ppm、検出モード:ESI+、キャピラリー電圧:3.54V、コーン電圧:30V、イオン源ヒーター:120℃、脱溶媒ガス:350℃の条件で測定を行った。
【0056】
<オボアルブミン>
実施例1におけるアレルゲンとして、市販のオボアルブミン(シグマアルドリッチ社製、A5503-5G)を用いた。
【0057】
[実施例1および比較例1]
(本発明の誘導剤の調製)
1mLの蒸留水にオボアルブミン(以下「OVA」と略称する)10mgを溶解し、ホスホリルコリン化合物(P1)10mgを加えて40℃で18時間撹拌して、本発明の誘導剤を調製した。
【0058】
(手順)
以下の手順に従って、評価を実施した。
(1)あらかじめ6週齢の雄性BALB/cマウスを18匹準備した。
【0059】
(2)実施例1では、腹腔内麻酔を実施後、マウス9匹に、それぞれ本発明の誘導剤を1日1回舌下投与し(1回の投与量:5μL)、30分間うつ伏せ状態で維持した。この操作を14日間実施した。一方、比較例1では、マウス9匹に、それぞれリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」と略称する)を1日1回舌下投与し(1回の投与量:5μL)、実施例1と同様に操作した。この操作を14日間実施した。
【0060】
(3)本発明の誘導剤またはPBSの舌下投与の開始日(以下「開始日」と略称する)から21日目、28日目、および35日目に、1日1回OVA腹腔内投与を行った(腹腔内投与した溶液中のOVAの濃度:0.008質量%、Alum(アジュバント)の濃度:0.33質量%、溶液の1回の投与量:300μL)。開始日から35日目のOVA腹腔内投与5分後に、マウスの鼻掻きおよびくしゃみの回数を測定した。結果を下記表1に示す。なお、表1には「平均±標準偏差」の値を示す。
【0061】
(4)開始日から35日目でOVA腹腔内投与を終了し、開始日から42日目よりOVA鼻腔内投与を開始した。OVA鼻腔内投与は、開始日から42日目および49日目の間1日1回実施した(鼻腔内投与した溶液中のOVAの濃度:1.6質量%、溶液の1回の投与量:30μL)。
【0062】
(5)本発明の誘導剤またはPBSの舌下投与前、開始日から21日目(OVA腹腔内投与後)および開始日から42日目(OVA鼻腔内投与後)にマウスから血清を採取し、Cayman Chemical Company社製のELISAキット(Anti-Ovallbmin IgE(mouse) EIA Kit)を使用して、採取した血清中のOVA特異的IgE抗体の量を測定した。結果を下記表2に示す。なお、表2には「平均±標準偏差」の値を示す。
【0063】
(6)開始日から49日目のOVA鼻腔内投与後に、生理食塩水にてマウスの鼻咽頭腔を洗浄し、洗浄に使用した生理食塩水(以下「洗浄後の生理食塩水」と記載する)を回収し、Cayman Chemical Company社製のELISAキット(Anti-Ovallbmin IgE(mouse) EIA Kit)を使用して、洗浄後の生理食塩水中のOVA特異的IgE抗体の量に関係するOD値(optical density 値)をプレートリーダーで測定した。結果を下記表3に示す。なお、表3には「平均±標準偏差」の値を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
(評価)
表1に示すように、比較例1よりも実施例1では、鼻掻きおよびくしゃみの回数が抑制され、本発明の誘導剤の有効性が確認できた。
【0068】
表2に示すように、比較例1よりも実施例1では、血清中のOVA特異的IgE抗体の量が抑制され、本発明の誘導剤の有効性が確認できた。
【0069】
表3示すように、比較例1よりも実施例1ではプレートリーダーで測定したOD値が小さく、洗浄後の生理食塩水中のOVA特異的IgE抗体の量が抑制され、本発明の誘導剤の有効性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の誘導剤は、舌下免疫療法のために有用である。