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特開2024-179922リニアアクチュエータの制御システム、レンズ装置、撮像装置、リニアアクチュエータの制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179922
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】リニアアクチュエータの制御システム、レンズ装置、撮像装置、リニアアクチュエータの制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/025 20160101AFI20241219BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20241219BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20241219BHJP
【FI】
H02P7/025
G05D3/12 305L
G02B7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099259
(22)【出願日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恭輔
【テーマコード(参考)】
2H044
5H303
5H540
【Fターム(参考)】
2H044BE02
2H044BE06
2H044BE10
2H044BE18
5H303AA30
5H303BB01
5H303CC10
5H303DD04
5H303EE03
5H303FF03
5H303JJ05
5H303KK22
5H303KK23
5H303KK24
5H540BA06
5H540BB04
5H540BB06
5H540BB08
5H540EE02
5H540EE05
5H540EE10
5H540FA12
(57)【要約】
【課題】リニアアクチュエータの出力特性差による駆動性への影響を低減する。
【解決手段】コイルと界磁部とを備え、主軸に沿って駆動対象物を駆動させるリニアアクチュエータの制御システムは、駆動対象物またはリニアアクチュエータの位置情報をエンコーダから取得して、駆動対象物およびリニアアクチュエータの位置情報を演算し、駆動対象物の位置情報と駆動対象物を移動させる目標位置に基づいて、リニアアクチュエータの駆動を制御する制御量を演算し、制御量に基づいて、リニアアクチュエータの出力レベルを判定し、制御量およびリニアアクチュエータの位置情報に基づいて、リニアアクチュエータの出力方向を判別し、リニアアクチュエータの位置情報と、出力レベルと、出力方向とに基づいて、制御量を補正するための補正用ゲインを演算し、補正用ゲインを用いて制御量を補正する。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと界磁部とを備え、主軸に沿って駆動対象物を駆動させるリニアアクチュエータの制御システムであって、
前記駆動対象物と前記リニアアクチュエータとのうち少なくともいずれかの位置情報をエンコーダから取得して、前記駆動対象物および前記リニアアクチュエータの位置情報を演算する位置演算部と、
前記駆動対象物の位置情報と前記駆動対象物を移動させる目標位置に基づいて、前記リニアアクチュエータの駆動を制御する制御量を演算する制御量演算部と、
前記制御量に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力レベルを判定する判定部と、
前記制御量および前記リニアアクチュエータの位置情報に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力方向を判別する方向判別部と、
前記リニアアクチュエータの位置情報と、前記リニアアクチュエータの出力レベルと、前記リニアアクチュエータの出力方向とに基づいて、前記制御量を補正するための補正用ゲインを演算するゲイン演算部と、
前記補正用ゲインを用いて前記制御量を補正する補正部と、を有することを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記ゲイン演算部は、前記リニアアクチュエータの出力特性データ群から、前記出力レベルと前記出力方向に応じて演算に使用する出力特性データを選択し、該出力特性データを使用して前記位置情報に対応する補正用ゲインを演算することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記出力特性データは、前記リニアアクチュエータの出力特性のプロファイルを予め関数近似して格納したデータであることを特徴とする請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記出力特性データは、前記リニアアクチュエータの出力特性のプロファイルを予め離散化して格納したデータであることを特徴とする請求項2に記載の制御システム。
【請求項5】
前記リニアアクチュエータは、有限のストローク範囲において、コイルに作用する平均の鎖交磁束の極性が一定の単極型であることを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
前記リニアアクチュエータの位置がストロークの端部の場合の前記補正用ゲインは、前記リニアアクチュエータの位置がストロークの中央の場合の前記補正用ゲインより大きいことを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
前記リニアアクチュエータの出力方向が中央から端部に向かう発散方向の場合の前記補正用ゲインは、前記リニアアクチュエータの出力方向が端部から中央に向かう収束方向の場合の前記補正用ゲインより大きいことを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項8】
前記駆動対象物は、撮像光学系を構成するレンズ群の一部のレンズであり、
前記リニアアクチュエータは、前記撮像光学系の光軸と平行に前記駆動対象物を駆動させることを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項9】
撮像素子に光学像を結像させる撮像光学系と、
前記撮像光学系を構成するレンズ群の一部のレンズを、前記撮像光学系の光軸と平行な主軸に沿って駆動させるリニアアクチュエータと、
前記リニアアクチュエータの駆動を制御する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の制御システムと、を備えるレンズ装置。
【請求項10】
撮像素子と、
前記撮像素子に光学像を結像させる撮像光学系と、
前記撮像光学系を構成するレンズ群の一部のレンズを、前記撮像光学系の光軸と平行な主軸に沿って駆動させるリニアアクチュエータと、
前記リニアアクチュエータの駆動を制御する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の制御システムと、を備える撮像装置。
【請求項11】
コイルと界磁部とを備え、主軸に沿って駆動対象物を駆動させるリニアアクチュエータの制御方法であって、
前記駆動対象物または前記リニアアクチュエータの位置情報をエンコーダから取得して、前記駆動対象物および前記リニアアクチュエータの位置情報を演算する工程と、
前記駆動対象物の位置情報と前記駆動対象物を移動させる目標位置に基づいて、前記リニアアクチュエータの駆動を制御する制御量を演算する工程と、
前記制御量に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力レベルを判定する判定部と、
前記制御量および前記リニアアクチュエータの位置情報に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力方向を判別する工程と、
前記リニアアクチュエータの位置情報と、前記リニアアクチュエータの出力レベルと、前記リニアアクチュエータの出力方向とに基づいて、前記制御量を補正するための補正用ゲインを演算する工程と、
前記補正用ゲインを用いて前記制御量を補正する工程と、を有することを特徴とする制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の各工程をリニアアクチュエータの制御システムのコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁リニアモータの中でも特に単極型のリニア直流モータであるリニアアクチュエータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁リニアモータは動力伝達を非接触で行うことができるため、低騒音、低振動、高耐久、また、高精度な位置決めが可能といった優れた性能を得やすく、精密な駆動機構や位置決め機構等で利用されている。電磁リニアモータの中でも特に、単極型のリニア直流モータである単極型リニアアクチュエータは、他の方式と比べて、駆動範囲が限られる代わりに小型でも高効率を示し、さらに、推力低リップルで駆動制御も容易であるといった利点がある。そのため、単極型リニアアクチュエータは、HDD(ハードディスクドライブ)やカメラ等の精密機器で利用されている。一方で、単極型リニアアクチュエータは、ストロークの中央部から端部に行くにつれて効率が低下するという特徴を有している。これは、界磁部を構成するヨークの磁化(磁界に対する磁束密度)が無限ではなく飽和することに起因している。そのため、単極型リニアアクチュエータは、ストローク位置によって出力特性差を生じてしまう。単極型リニアアクチュエータで負荷(駆動対象物)を高速に駆動して位置決め制御するようなシーン等においては、ストローク位置による出力特性差により、位置決めに要する時間や移動中の追従性等の位置決め特性が影響を受けてしまう。
【0003】
アクチュエータの出力特性差の影響を軽減するために、特許文献1は、アクチュエータのストローク位置に応じて制御のゲインを補正するゲイン調整部を設ける構成を開示している。また、特許文献2は、アクチュエータのストローク中央部付近の界磁部の一部を通常よりも小さい形状として、相対的にストローク中央部付近における効率を低下させ、端部付近における効率を向上させる構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-105641号公報
【特許文献2】特開2021-175244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されている構成だけでは、位置決め特性に及ぼす駆動中の出力特性差の影響を軽減しきるには不十分である。また、特許文献2で開示されている構成では、意図的にストローク中央部付近の効率を落としているため、位置決め時間や追従性以外にも重要な指標である定格出力や、アイドル消費電力等の性能が損なわれてしまう恐れがある。
【0006】
本発明は、リニアアクチュエータの出力特性差による駆動性への影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のリニアアクチュエータの制御システムは、コイルと界磁部とを備え、主軸に沿って駆動対象物を駆動させるリニアアクチュエータの制御システムであって、前記駆動対象物または前記リニアアクチュエータの位置情報をエンコーダから取得して、前記駆動対象物および前記リニアアクチュエータの位置情報を演算する位置演算部と、前記駆動対象物の位置情報と前記駆動対象物を移動させる目標位置に基づいて、前記リニアアクチュエータの駆動を制御する制御量を演算する制御量演算部と、前記制御量に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力レベルを判定する判定部と、前記制御量および前記リニアアクチュエータの位置情報に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力方向を判別する方向判別部と、前記リニアアクチュエータの位置情報と、前記リニアアクチュエータの出力レベルと、前記リニアアクチュエータの出力方向とに基づいて、前記制御量を補正するための補正用ゲインを演算するゲイン演算部と、前記補正用ゲインを用いて前記制御量を補正する補正部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リニアアクチュエータの出力特性差による駆動性への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】リニアアクチュエータの構成を示す図である。
図2】リニアアクチュエータの特性を説明するである。
図3】リニアアクチュエータを利用するカメラシステムの構成を示す図である。
図4】制御システムの構成を示す図である。
図5】制御システムのコントローラの構成を示す図である。
図6】リニアアクチュエータの出力特性データの第1例の格納方法を説明する図である。
図7】リニアアクチュエータの出力特性データの第2例の格納方法を説明する図である。
図8】制御システムにおけるオープン出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
まず、制御対象である単極型のリニアアクチュエータの構成および特徴について説明する。図1は、リニアアクチュエータの構成を示す図である。リニアアクチュエータ100は、コイルと界磁部とを備え、所定の方向に推力を発生して負荷を駆動するリニア直流モータである。負荷は駆動対象物であり、本実施形態では、撮像装置のフォーカスレンズを負荷(駆動対象物)とする例について説明するが、負荷(駆動対象物)はこれに限られるものではない。
【0011】
リニアアクチュエータ100は、小型の単極型のリニア直流モータである。リニア直流モータは、負荷(駆動対象物)を高速に移動させる駆動装置である。リニアアクチュエータ100は、負荷(駆動対象物)を高速に移動させつつ、短時間で位置決めを完了したり、移動中も目標値に対して高精度に追従させたりすることが可能である。
【0012】
単極型のリニア直流モータであるリニアアクチュエータ100は、コイル111と界磁部120を備える。コイル111と界磁部120の間の電磁的な相互作用、すなわち、コイル111におけるローレンツ力の発生により、主軸100aと略平行な方向に推力を発生して不図示の負荷(駆動対象物)を駆動する。すなわち、リニアアクチュエータ100は、主軸100aをガイドレールとして駆動することで、リニアアクチュエータ100に固定される負荷(駆動対象物)を駆動する。なお、図1および図2において、X軸は主軸100aと平行である。Y軸は、Z軸を水平方向と平行としたときに鉛直方向と平行となる軸である。Z軸は、X軸およびY軸と直交する軸である。
【0013】
コイル111は、例えば、円筒形状の空芯コイルである。円筒形状の空芯コイルは、一般的なエナメル線等を円形状に巻き固めることで構成される。コイル111に通電すると、円筒形状の周方向に電流が流れる。周方向の電流に対して直角な方向、すなわち、円筒形状の中心軸である巻芯を基準とした半径方向に相当する鎖交方向の磁界を作用させることで、これらに対して直角な方向の中心軸方向にローレンツ力を発生する。リニアアクチュエータ100は、発生したローレンツ力を推力として利用する。リニアアクチュエータ100における主軸100aは、コイル111の中心軸である巻芯と一致する。
【0014】
界磁部120は、ローレンツ力を発生させるためにコイル111に作用する鎖交方向の磁界を形成する。界磁部120は、永久磁石(永久磁石122a、永久磁石122b)およびヨーク(ヨーク121、ヨーク123a、ヨーク123b、ヨーク124a、ヨーク124b)を有する。永久磁石122aおよび永久磁石122bは、例えば、一般的な単方向着磁の永久磁石である。永久磁石122aおよび永久磁石122bはそれぞれ、コイル111に対して外側(巻芯の逆側)の位置に、主磁化方向を巻芯の方向に近付けた姿勢で対向配置されている。コイル111を挟んで対向配置された永久磁石122aおよび永久磁石122bにより、ローレンツ力を発生するための鎖交方向の磁界が形成される。
【0015】
ヨーク121、ヨーク123a、ヨーク123b、ヨーク124a、ヨーク124bは、永久磁石122aおよび永久磁石122bの磁束の閉磁路を形成する。ヨークにより磁束の閉磁路を形成することで、コイル111に作用する磁界を強めてリニアアクチュエータ100の効率を高めている。ヨーク121、ヨーク123a、ヨーク123b、ヨーク124a、ヨーク124bは、例えば、軟鉄等の高飽和磁束密度を有する材料により形成される。ヨーク121は、コイル111の内側で巻芯方向に延在する。ヨーク123a、ヨーク123b、ヨーク124a、ヨーク124bは、コイル111、永久磁石122a、永久磁石122bを囲うように配置される。ヨーク123aは永久磁石122aよりさらに外側(Y軸方向でコイル111とは逆側)に、ヨーク123bは永久磁石122bよりさらに外側(Y軸方向でコイル111とは逆側)に配置される。すなわち、各永久磁石においてコイル111側を正面とした場合に、永久磁石の背面に各ヨークが配置される。ヨーク124aおよびヨーク124bは、それぞれヨーク123aの端とヨーク123bの端とを繋ぐように配置される。ヨーク124aおよびヨーク124bの中心付近では、主軸100aが貫通している。このように配置されたヨークは永久磁石121a、121bの磁束の閉磁路を形成し、コイル111に作用する磁界を強めてリニアアクチュエータ100の効率を高める役割を果たしている。
【0016】
コイル111は、内側で主軸100a方向に延在するヨーク122とは、主軸100a方向で互いに自由に相対移動が可能である。また、コイル111は、主軸100a方向で前後のヨーク124aおよびヨーク124bによって囲まれており、有限のストローク範囲が決定される。そのためリニアアクチュエータ100においては、コイル111が主軸100a方向で前後のヨーク124aおよびヨーク124bの丁度中間付近の位置にある時をストローク中央部付近の位置にあるとみなすことができる。同様に、コイル111が主軸100a方向で前後のヨーク124aおよびヨーク124bのいずれかに近い位置にある時をストローク端部付近の位置にあるとみなすことができる。以下では、主軸100a方向におけるコイル111の重心位置がヨーク124aおよびヨーク124bの内壁面間の中央に位置する状態をストロークの中央位置にある状態であるとし、ストロークの中央位置にある状態をストローク量が0の原点Оとして定義する。また、主軸100a方向において原点Оよりヨーク124a側(-X方向)をマイナス側、原点Оよりヨーク124b側(+X方向)をプラス側とする。また、マイナス側とプラス側それぞれのストローク端部位置における最大のストローク量(絶対値)をそれぞれx-max、x+maxとして定義する。
【0017】
リニアアクチュエータ100における効率の指標は、コイル111の各部におけるローレンツ力を発生するための鎖交方向の磁束密度をコイル全体で積分平均した、平均鎖交(有効)磁束密度Bvとして示すことができる。vはvalidの略意である。平均鎖交磁束密度Bvでリニアアクチュエータ100の効率の指標を示すことができるのは、コイル111を流れる電流の密度が巨視的に見れば一様であるためである。そして、平均鎖交磁束密度Bvとコイルを流れる電流とコイル部の導線の総長の積が、リニアアクチュエータ100の推力となる。よって、平均鎖交磁束密度Bvは、リニアアクチュエータ100の推力の比例定数となっており、コイル部の導線の総長との積がいわゆる電磁リニアモータの推力定数に相当する。
【0018】
図2は、リニアアクチュエータの特性を説明する図である。図2(A)は、単極型リニア直流モータであるリニアアクチュエータの平均鎖交磁束密度のプロファイルを示すグラフである。グラフの縦軸は、リニアアクチュエータ100の出力特性に相当する、コイルに作用する平均鎖交磁束密度Bvを示している。グラフの横軸は、リニアアクチュエータ100のストローク位置を示している。グラフは、リニアアクチュエータ100の出力レベルと出力方向ごとの平均鎖交磁束密度Bvを示している。なお以下では、グラフの横軸のリニアアクチュエータ100のストローク位置を第1のパラメータ、リニアアクチュエータ100の出力レベルを第2のパラメータ、リニアアクチュエータ100の出力方向を第3のパラメータとする。
【0019】
特性200は、出力が0の状態(無負荷時)の特性である。特性201pは、小レベル出力時でかつストローク正方向に出力する状態の特性である。なお、pはpositiveの略意である。特性201nは、小レベル出力時でかつストローク負方向に出力する状態の特性である。なお、nはnegativeの略意である。特性202pは、大レベル出力時でかつストローク正方向に出力する状態の特性である。特性202nは、大レベル出力時でかつストローク負方向に出力する状態の特性である。
【0020】
図2(A)に示されるように、本実施形態のリニアアクチュエータ100は、ストローク全域において平均鎖交磁束密度の符号が一定であるため、コイル111に作用する平均の鎖交磁束の極性も一定である。また、ストローク中で平均鎖交磁束密度Bvの極端な周期的変動はない。これらは単極型の特徴であり、これらの特徴により、モータを小型に構成できることに加えて、ストローク位置によりコイル111への通電方法等を切り替える必要がなく容易に駆動制御を行うことが可能である。さらに、推力も低リップルであるという利点が得られる。このような単極型のリニア直流モータが一般にリニアアクチュエータとも呼ばれる。したがって、リニアアクチュエータ100は、有限のストローク範囲において、コイル111に作用する平均の鎖交磁束の極性が一定の単極型のリニア直流モータである。
【0021】
また、図2(A)に示されるように、リニアアクチュエータ100においてはストローク中央付近の位置で平均鎖交磁束密度Bvが最も高く、これに対して両側のストローク端部に行くにつれて平均鎖交磁束密度Bvは低くなる。すなわち、リニアアクチュエータ100においては、ストローク中央付近の位置で推力定数が大きくなり、ストローク端部に行くにつれて推力定数が小さくなる。これは、界磁部120のヨークの磁化が無限ではなく飽和することに起因している。
【0022】
図2(B)は、リニアアクチュエータ100における磁束を説明する図である。図2(B)では、リニアアクチュエータ100のXY平面における断面と、磁束を模式的に示している。矢印で示される磁束203は、界磁部120により形成される磁束の流れを示している。磁束203は、永久磁石122aおよび永久磁石122bから出入りしてヨーク121中を流れる。
【0023】
ヨーク121において、ストローク中央付近の領域は磁化が小さいのに対して、そこから両端側に行くにつれて、永久磁石122aおよび永久磁石122bから流入する磁束203が積分されるため、磁化が強くなる。そのため、ヨーク121は途中で磁化が飽和に至り、それ以降のストローク端部付近では永久磁石121aおよび永久磁石121bの磁束203は入らなくなり、周囲に散開してしまう。ストローク端部付近では磁束203がコイル111に対して有効な向き(鎖交方向)で作用せず、ストローク端部に行くほど平均鎖交磁束密度Bvは低下する。
【0024】
ストローク端部における平均鎖交磁束密度の低下により、効率が悪化することによる定格出力の低下や、アイドル消費電力の増加などが生じる。さらに、ストローク中央部とストローク端部との間で出力特性に差が生じるため、例えば、これらの位置の間で駆動対象物を高速に駆動して位置決め制御するようなシーン等においては、位置決めに要する時間の増加や移動中の追従性が悪化してしまう。そこで、本実施形態では、ストローク中央部とストローク端部との出力特性の差による影響を軽減するために、リニアアクチュエータ100の駆動量に対して補正用ゲインを用いて補正を行う。
【0025】
ここで、図2(A)に示すように、リニアアクチュエータ100における平均鎖交磁束密度Bvはストローク位置の他にも、出力レベルやその方向によっても変化する。例えば、平均鎖交磁束密度Bvは、特性200に示す無負荷時よりも、特性201pおよび特性201nに示す小レベル出力時の方がストローク端部に行くにつれてより低くなる。さらに、平均鎖交磁束密度Bvは、小レベル出力時よりも特性202pおよび特性202nに示す大レベル出力時の方がストローク端部に行くにつれてより低くなる。すなわち、同じストローク位置でも出力レベルが大きくなるほど平均鎖交磁束密度Bvは下がり、効率は低下する。
【0026】
また、小レベル出力時の特性201pのストローク負側(グラフ左半分)と特性201nのストローク正側(グラフ右半分)よりも、特性201pのストローク正側と201nの特性ストローク負側の方が平均鎖交磁束密度Bvは低くなる。また、大レベル出力時でも同様の傾向となる。すなわち、同じストローク位置と出力レベルでも、出力の方向がストロークの中央部側から端部側に向く、いわゆる発散方向の出力時の方が、反対のいわゆる収束方向の出力時よりも平均鎖交磁束密度Bvは下がり、効率が低下することを意味している。
【0027】
これらの効率が低下する現象については、ストロークによる変化と同様に、界磁部120のヨークの磁化が飽和することに起因している。推力を出力するためにコイル111に通電すると、コイル111が形成する磁界によってもヨークが磁化される。この時、前後2種類の推力の出力方向による正逆2種類のコイル111の通電方向により、コイル111による磁化は既存の永久磁石(永久磁石121aおよび永久磁石121b)による磁化を弱める場合と強める場合とに分かれる。磁化を弱める場合が収束方向の出力に対応し、磁化を強める場合が発散方向の出力に対応する。そして、コイル111による磁化が既存の永久磁石による磁化を強める方向であった場合、ヨークはより飽和が早く進むため、永久磁石からの磁束が周囲に散開する割合も大きくなり、平均鎖交磁束密度Bvと効率はより低下する。リニアアクチュエータ100が発散方向の出力の場合は、収束方向の出力の場合よりも平均鎖交磁束密度Bvは下がり、効率が低下するため、発散方向の場合には収束方向に比べて制御量の補正に用いる補正用ゲインを大きくする。したがって、リニアアクチュエータ100の駆動制御を行う際に出力特性差による影響を補正して軽減しようとする場合には、リニアアクチュエータにおけるストローク位置に加えて、出力のレベルと方向も考慮して補正を行うことが望ましい。これにより、出力方向と出力レベルによる出力特性差の影響を軽減することができる。
【0028】
ここで、リニアアクチュエータ100が装置で利用される例について説明する。図3は、リニアアクチュエータを利用するカメラシステムの構成を示す図である。カメラシステム1は、画像や動画を撮影するための装置である。カメラシステム1は、撮像手段に相当するイメージセンサ11を備えたカメラ本体10と、レンズ群を備えた交換用レンズ20を有する。交換用レンズ20が備えるレンズ群には、焦点調節を行うためのフォーカスレンズ21が含まれる。リニアアクチュエータ100は、フォーカスレンズ21を交換用レンズ20の撮像光学系の光軸20a方向に移動させるための駆動手段として用いられる。すなわち、リニアアクチュエータ100の負荷(駆動対象物)がフォーカスレンズ21となる。リニアアクチュエータ100によりフォーカスレンズ21を光軸20a方向に移動させるため、リニアアクチュエータ100の主軸100aが光軸20aと平行となるように、リニアアクチュエータ100は交換用レンズ20に配置される。
【0029】
イメージセンサ11は、撮影光学系を介して結像された被写体の光学像を光電変換して画像データを生成する撮像素子である。イメージセンサ11は、例えばCMOSやCCDといった光電変換を行うセンサである。カメラシステム1においては、被写体からの光束を交換用レンズ20の撮像光学系により集光してイメージセンサ11の撮像面上に結像させる。そして、撮影光学系を介して結像された被写体の光学像をイメージセンサ11で光電変換して電気信号として取り出し、信号に対して各種の処理を行い、画像データを生成することで、画像を取得する。
【0030】
撮像光学系においては、一つの状態におけるイメージセンサ11の撮像面上に結像させる対象の光束はカメラシステム1から所定の距離(フォーカス位置)のものに限られている。それ以外の距離からの光束はイメージセンサ11の撮像面上には結像されず、撮影される画像はぼやけたいわゆるピントの合っていないものになる。交換用レンズ20が備えるレンズ群には、焦点距離を調整することが可能なフォーカスレンズ21が含まれており、フォーカスレンズ21を光軸20a方向で前後に移動することで、結像対象の光束の距離(フォーカス位置)を変化させることができる。
【0031】
カメラシステム1では、不図示の測距手段等により被写体の位置を検出し、検出結果に応じてフォーカスレンズ21を光軸20a方向に移動調整することで、至近から無限まで様々な距離の被写体にピントを合わせて撮影することが可能である。カメラシステム1におけるこのような動作はフォーカシングと呼ばれており、フォーカシングはフォーカスレンズ21を光軸20a方向に移動させることにより実現される。カメラシステム1のフォーカスレンズ21の駆動手段は、小型であることに加えて、快適な撮影を実現するために、フォーカスレンズ21を高速に駆動し、目標位置に対して短時間で位置決めを完了し、移動中も被写体に高精度に追従させることが求められる。そのため、フォーカスレンズ21を駆動させる駆動手段として、単極型リニア直流モータであるリニアアクチュエータ100が用いられる。リニアアクチュエータ100は、フォーカスレンズ21など撮像光学系を構成するレンズ群の一部のレンズを撮像光学系の光軸20aと平行な主軸100aに沿って駆動させる。なお、本実施形態ではフォーカスレンズ21の駆動にリニアアクチュエータ100を利用する例について説明したがこれに限られるものではない。また、カメラシステム1としてカメラ本体に対してレンズ装置が着脱可能な例を説明したが、カメラ本体とレンズが一体となっている撮像装置でもよいし、他の装置に組み込みようにモジュール化されたカメラモジュール等であってもよい。
【0032】
図4は、リニアアクチュエータの制御システムを示す図である。制御システム1000は、制御対象であるリニアアクチュエータ100と、コントローラ1100、ドライバ1200、エンコーダ1300を備える。負荷1400は、リニアアクチュエータ100による駆動対象物である負荷である。図3に示される例では、カメラシステム1のフォーカスレンズ21を含む構造物が負荷1400に相当する。
【0033】
リニアアクチュエータ100は、主軸100a方向で互いに相対移動するコイル111と界磁部120のどちらか一方を、基準の駆動側、他方を被駆動側とする。被駆動側は、負荷1400と一体に固定される。これにより、基準の駆動側からリニアアクチュエータ100によって被駆動側の負荷1400に推力が伝達され、負荷1400はリニアアクチュエータ100の主軸100a方向に駆動される。
【0034】
コントローラ1100は、負荷1400およびリニアアクチュエータ100の駆動指令と制御演算を行う制御手段である。コントローラ1100は、負荷1400またはリニアアクチュエータ100の逐次的な駆動目標量(位置や速度)を決定し、これに応じてリニアアクチュエータ100を駆動するようにドライバ1200に制御量を伝える。コントローラ1100が行う制御は主にフィードバック制御を中心としたものである。そのため、コントローラ1100は逐次的にエンコーダ1300から負荷1400またはリニアアクチュエータ100の位置情報を取得して、駆動目標量との差分(偏差)を0に近付けるように制御量を決定する。
【0035】
ドライバ1200は、リニアアクチュエータ100を駆動する。具体的には、ドライバ1200は、リニアアクチュエータ100がコントローラ1100からの制御量に略比例した推力を発生するように、コントローラ1100からの制御量に基づいてコイル111に電圧を印可し、電力を供給する。ドライバ1200は、直流成分が制御量に比例した電圧を印可するために、例えば所定のデューティー比によるPWM方式や、または可変リニアレギュレータ方式等を用いる。
【0036】
エンコーダ1300は、負荷1400またはリニアアクチュエータ100の位置情報を検出し、これをコントローラ1100に伝達する。リニアアクチュエータ100の被駆動側と負荷1400は一体に固定されているため、負荷1400とリニアアクチュエータ100のどちらか一方の位置を検出すれば、他方の位置は間接的に求めることができる。よって、本実施形態の制御構成においては、エンコーダ1300が位置を検出する対象は負荷1400とリニアアクチュエータ100のどちらでも構わない。
【0037】
図5は、制御システムのコントローラの構成を示す図である。コントローラ1100は、駆動指令部1110、位置情報演算部1120、制御演算部1130、メモリ1140を有する。また、コントローラ1100は、ハードウェア構成として、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM等の不揮発性メモリと、RAM等の揮発性メモリとを有する。ROM(Read Only Memory)は、プログラムを記憶している。RAM(Random Access Memory)は、CPUの主メモリ、ワークエリア等の一時記憶領域として用いられる。RAMは、メモリ1140を含む。CPUが、ROMに記憶されたプログラムを実行することで、駆動指令部1110、位置情報演算部1120、制御演算部1130の機能が実現される。
【0038】
駆動指令部1110は、駆動対象物である負荷1400の逐次的な位置または速度に関する駆動目標値を決定し、制御演算部1130に伝える。駆動指令部1110は、負荷1400の駆動目標値を決定するのに必要な駆動情報を取得し、外部からの指令または自身の演算により、負荷1400の逐次的な位置または速度に関する駆動目標値を決定する。カメラシステム1における駆動情報は、例えば、被写体までの距離を計測する測距手段が測距した測距結果である被写体までの距離情報である。カメラシステム1における駆動指令部1110は、駆動情報として被写体までの距離情報を取得し、距離情報に基づいて負荷1400に相当するフォーカスレンズ21の逐次的な目標位置を駆動目標値として決定する。カメラシステム1における駆動指令部1110は、交換用レンズ20のメイン制御部における処理内容に相当する。
【0039】
位置情報演算部1120は、負荷1400またはリニアアクチュエータ100の位置情報をエンコーダ1300から取得して、負荷1400およびリニアアクチュエータ100の現在の位置情報を演算して、制御演算部1130に出力する位置演算部である。カメラシステム1における位置情報演算部1120は、フォーカスレンズ21またはリニアアクチュエータ100の位置情報をエンコーダ1300から取得して、フォーカスレンズ21およびリニアアクチュエータ100の現在の位置情報を算出する。なお、リニアアクチュエータ100の被駆動側と負荷1400は一体に固定されているため、位置情報演算部1120は、負荷1400とリニアアクチュエータ100のどちらか一方の位置情報に基づいて、他方の位置情報を算出することができる。
【0040】
メモリ1140は、リニアアクチュエータ100の出力特性を補正するための補正用ゲインを演算するためのリニアアクチュエータ100の出力特性をデータとして格納する。メモリ1140が格納しているリニアアクチュエータ100の出力特性は、制御演算部1130において、リニアアクチュエータ100の制御量を補正するための補正用ゲインを演算するために用いられる。
【0041】
制御演算部1130は、負荷1400の駆動目標値と負荷1400の現在の位置情報との差分(偏差)を0に近付けるようなフィードバック制御や各種のフィルタ処理等の制御演算を行い、アクチュエータ100の制御量を決定する。また、本実施形態の制御演算部1130では、駆動目標値と負荷1400の位置情報に基づいて算出した制御量を、補正用ゲインを用いて補正する。補正用ゲインは、リニアアクチュエータ100のストローク位置、出力レベル、出力方向に基づいて決定される。
【0042】
制御演算部1130は、制御量演算部1131、制御量補正部1132、フィルタ・リミッタ等1133、出力レベル判定部1134、出力方向判別部1135、補正用ゲイン演算部1136を有する。制御量演算部1131は、主な制御量に関する演算を行い、偏差入力等から制御量を決定して出力する。制御量演算部1131は、駆動指令部1110から負荷1400の目標位置である駆動目標値を、位置情報演算部1120から負荷1400の現在の位置情報を取得する。そして、制御量演算部1131は、駆動目標値と現在の位置情報との差分(偏差)を0に近付けるように、制御量を算出する。制御量演算部1131での制御内容には、例えばPID制御に代表されるフィードバック制御や、フィードフォーワード制御、また、各種補正用のオフセット演算やゲイン演算等が含まれる。制御演算部1130は、算出した制御量を制御量補正部1132に出力する。なお、制御演算部1130が制御量補正部1132に出力する制御量は、制御量補正部1132による補正が行われる前の補正前制御量である。
【0043】
制御量補正部1132は、制御演算部1130が算出した制御量に対して補正用ゲインによる補正を行う。そして、制御量補正部1132は、補正を行った補正後制御量をフィルタ・リミッタ等1133に出力する。制御量補正部1132が用いる補正用ゲインは、補正用ゲイン演算部1136で算出される。補正用ゲインの算出の詳細については後述する。補正用ゲイン演算部1136は逐次的に演算して補正用ゲインを決定し、制御量補正部1132で用いる値として設定する。
【0044】
フィルタ・リミッタ等1133は、制御量補正部1132から取得した補正後の制御量に対して、所定のフィルタリング処理や、リミッタ処理を行い、ドライバ1200に出力する制御量を決定する。なお、制御量に関する演算は上記で説明した構成に限られるものではない。制御量補正部1132がリニアアクチュエータ100の出力特性差に対して制御量を直列的に補正用ゲインにより補正する構成であればよく、他の順番で演算を行ったり、他の異なる演算を間に追加したりしてもよい。
【0045】
ここで、補正用ゲインの算出について説明する。本実施形態では、リニアアクチュエータ100の出力特性に影響を及ぼす3つの要因であるストローク位置、出力レベル、出力の方向を考慮して補正用ゲインを決定する。このため、補正用ゲイン演算部1136は、少なくともストローク位置、出力レベル、出力の方向のそれぞれに関する3つパラメータを取得し、補正用ゲインを算出する。以下では、リニアアクチュエータ100のストローク位置を第1のパラメータ、リニアアクチュエータ100の出力レベルを第2のパラメータ、リニアアクチュエータ100の出力の方向を第3のパラメータとして説明する。
【0046】
第1のパラメータは、ストローク位置、すなわちリニアアクチュエータ100の位置情報である。補正用ゲイン演算部1136は、位置情報演算部1120からリニアアクチュエータ100の位置情報を取得する。位置情報は、ストローク方向における中心位置を0とし、中心位置から前後に正負の値を取るストローク位置で示される。フィードバック制御系において、ストロークによる推力定数の変動をキャンセルするように、ストローク位置に応じて補正用ゲインを調節するため、ストローク位置がパラメータの1つとなる。図2(A)で示されるように、ストローク位置により推力定数が異なり、特にストローク端部では補正用ゲインを大きくする必要がある。
【0047】
第2のパラメータは、リニアアクチュエータ100の出力レベルである。補正用ゲイン演算部1136は、出力レベル判定部1134からリニアアクチュエータ100の出力レベルを取得する。出力レベル判定部1134は、制御量演算部1131から取得した補正前の制御量に基づいて出力レベルを判定する。例えば、リニアアクチュエータ100は補正前の制御量に略比例した推力を出力するため、出力レベル判定部1134は、補正前の制御量の絶対値(ABS)を出力レベルとして補正用ゲイン演算部1136に出力してもよい。なお、出力レベルは、補正前の制御量の絶対値(ABS)を所定の段階に離散化したレベル値であってもよい。
【0048】
第3のパラメータは、リニアアクチュエータ100の出力の方向である。補正用ゲイン演算部1136は、出力方向判別部1135からリニアアクチュエータ100の出力の方向を取得する。出力方向判別部1135は、制御量演算部1131から取得した補正前の制御量を符号化(SIGN)し、更に位置情報演算部1120から取得したリニアアクチュエータ100の位置情報(ストローク位置)を参照することで、出力方向を判定する。出力方向判別部1135は、出力方向が収束方向であるか、発散方向であるかを判定し、判定結果を補正用ゲイン演算部1136に出力する。磁化が飽和の影響により、中央から端部への出力方向の出力時は、端部から中央への収束方向の出力時よりも、補正用ゲインを大きくする必要がある。
【0049】
補正用ゲイン演算部1136は、リニアアクチュエータ100のストローク位置、リニアアクチュエータ100の出力レベル、リニアアクチュエータ100の出力の方向の少なくとも3つのパラメータを使用して、補正用ゲインを演算し決定する。すなわち、補正用ゲイン演算部1136は、位置情報演算部1120による位置情報演算結果と、出力レベル判定部1134による出力レベル判定結果と、出力方向判別部1135による出力方向判別結果とに基づいて補正用ゲインを演算する。
【0050】
本実施形態において補正用ゲインは、任意の状態におけるリニアアクチュエータ100の推力定数を一定とするようなゲインである。すなわち、平均鎖交磁束密度との積が常に一定となるようなゲインを補正用ゲインとして設定すればよい。また、制御量演算部1131における本来のフィードバック制御の内容には影響を与えないようにするために、例えば無負荷時のストローク中央位置の状態における値が1となるように補正用ゲインを設定すればよい。ここで、リニアアクチュエータ100の無負荷時のストローク中央位置の状態における平均鎖交磁束密度をB、各状態における平均鎖交磁束密度をBとする。補正用ゲインG(cはcorrectionの略意)は、次の式(1)で求めることができる。
【数1】
このように、リニアアクチュエータ100の各状態における平均鎖交磁束密度の逆数1/Bに一定値Bを乗算したものを出力特性データとしてメモリ1140に格納すれば、これを参照して、補正用ゲインGを求めることができる。したがって、メモリ1140には、リニアアクチュエータ100の各状態における平均鎖交磁束密度の逆数1/Bに一定値Bを乗算した出力特性データ群が格納されている。補正用ゲイン演算部1136は、メモリ1140から出力特性データを取得し、補正用ゲインの算出に用いる。
【0051】
リニアアクチュエータ100の平均鎖交磁束密度の逆数1/Bの格納方法および推定方法としては、例えば、予め図2(A)で示したような既知の平均鎖交磁束密度のプロファイルの逆数をとり、これを関数近似すればよい。これは、単極型のリニアアクチュエータ100における平均鎖交磁束密度のプロファイルが、図2(A)で示したような2次や4次の多項式で精度良く近似可能な連続的な形となるためである。
【0052】
図6は、出力特性データの一例を説明する図である。図6(A)は、メモリ1140に保存される出力特性データ群の一例を示す図である。図6(B)は、出力特性データを使用して推定される補正用ゲインGを示す図である。図6(B)に示されるように、補正用ゲインGは、関数近似により連続的な関数で示される。図6(A)に示すように、リニアアクチュエータ100の平均磁束密度に影響を及ぼす3つのパラメータに対して、それぞれに対応する関数近似を行い、その係数(a等)およびオフセット値(b)等を出力特性データ600としてメモリ1140に保持される。すなわち、出力特性データ600は、出力レベルごとに、出力方向が収束方向と発散方向のそれぞれに対応する関数近似結果の各係数の値を保持している。なお、リニアアクチュエータ100は主軸100a方向でストローク中央部の前後で略対称な形状を有しており、これらの間では出力特性は似通った形となるため、リニアアクチュエータ100における関数近似において奇数次の項の成分は大きくはない。そのため、奇数次の項を省略することで、メモリ1140に保存するデータ領域の節約や、計算量の削減といったメリットを得ることができる。
【0053】
リニアアクチュエータ100のストローク位置をxとすれば、補正用ゲインGは次の式(2)で表される。
【数2】
ここで、a、a、aは関数近似結果の係数である。bは推定用のxのオフセット値であり、例えばリニアアクチュエータ100の実機構成上の各種調整や、その他細かい調整用に使用することができる。なお、このオフセット値のbは省略することもできる。本実施形態では出力レベルは所定の段階に分類したレベルとしており、その各々のレベルにおいて、出力方向が収束方向と発散方向のそれぞれに対応する関数近似結果を保持している。よって、補正用ゲイン演算部1136は、3つのパラメータ入力のうち、出力レベルと出力方向に応じて出力特性データ600の中から適切な関数データを選択して、選択した出力特性を示す関数データを使用してストローク位置に対応する補正用ゲインを求める。
【0054】
なお、リニアアクチュエータ100の出力特性データは各々のパラメータに対して離散化した直接的なデータとしてもよい。離散化した出力特性データの例を図7に示す。図7は、出力特性データの一例を説明する図である。図7(A)は、メモリ1140に保存される出力特性データ群の一例を示す図である。図7(B)は、出力特性データを使用して推定される補正用ゲインGを示す図である。図7(B)に示されるように、補正用ゲインGは、離散化した直接的なデータで示される。図7(A)に示すように、出力特性データ700は各々の出力レベルと出力方向において、所定のストローク位置xのビン毎の値としてテーブル形式で、出力特性データ700としてメモリ1140に保持される。したがって、補正用ゲイン演算部1136は3つのパラメータ入力を出力特性データ700のテーブルと照合して、最も近い条件の値を選択して補正用ゲインとして用いればよい。
【0055】
以上説明したように、補正用ゲイン演算部1136は、リニアアクチュエータ100のストローク位置、出力レベル、出力の方向と、出力特性データに基づいて補正用ゲインを決定し、制御量補正部1132に出力する。制御量補正部1132には、制御量演算部1131が算出した制御量に補正用ゲイン演算部1136が決定した補正用ゲインを乗算して補正する。なお、コントローラ1100の動作は一般にデジタル信号処理(DSP)により実装され、所定の制御周期毎に演算および出力がなされる。このような定周期の動作を行うために、コントローラ1100にはクロック信号(CLK)が供給される。また、コントローラ1100には不図示の電源等も供給される。
【0056】
図8は、リニアアクチュエータ100のオープン出力特性を説明する図である。図8(A)は、制御システム1000におけるオープン出力を示すブロック図である。図8(B)は、リニアアクチュエータ100のオープン出力特性の一例として、所定の駆動条件下におけるリニアアクチュエータ100のオープン出力ゲインGоを示すグラフである。
【0057】
リニアアクチュエータ100および制御システム1000におけるオープン出力は、制御量演算部1131への偏差入力から、リニアアクチュエータ100による推力の出力に至る部分の応答として説明される。図8(A)において、制御量演算部1131への偏差入力から、リニアアクチュエータ100による推力の発生までの部分は制御システム1000aで示されている。オープン出力ゲインをGоとして、所定の駆動条件下における特性が図8(B)に示される。図8(A)において、制御量演算部1131は制御システム1000aで示されている。
【0058】
図8(B)において、点線899は、制御量補正部1132による補正を行わない場合のオープン出力特性を示している。点線850は、制御量補正部1132で使用する補正用ゲインの算出において、ストローク位置のみ、すなわち、1つのパラメータのみを考慮して補正用ゲインを算出した場合のオープン出力特性を示している。一方、実線800は、本実施形態のオープン出力特性を示している。すなわち実線800は、制御量補正部1132で使用する補正用ゲインの算出において、ストローク位置、出力レベル、出力の方向の3つのパラメータを考慮して補正用ゲインを算出した場合のオープン出力特性を示している。
【0059】
点線899で示される制御量補正部1132による補正を行わない場合、ばらつき幅899aで示されるストローク位置によるオープン出力特性のばらつきが生じる。制御量補正部1132による補正を行わない場合は、図2で示したリニアアクチュエータ100のばらつきのある出力特性がそのままオープン出力特性としても出力される。そのため、点線899では、ばらつき幅899aで示されるようにストローク位置によるオープン出力特性のばらつきの幅が大きい。
【0060】
点線850で示されるストローク位置のみ(すなわち、1つのパラメータのみ)を考慮して補正を行う場合、ばらつき幅850aで示されるストローク位置によるオープン出力特性のばらつきが生じる。ストローク位置のみを考慮して補正を行う場合は、制御量補正部1132による補正を行わない場合に比べてばらつきの幅は小さくなるものの、依然として一定のばらつきが残る。ストローク位置のみを考慮して補正を行う場合には、リニアアクチュエータ100の出力レベルや出力方向によるばらつきはそのまま残り、条件によってはストローク位置のみを考慮した補正では過補正となるためである。
【0061】
実線800で示されるリニアアクチュエータ100のストローク位置、出力レベル、出力方向の3つのパラメータを考慮した本実施形態における補正を行う場合、ばらつき幅800aで示されるストローク位置によるオープン出力特性のばらつきが生じる。ストローク位置、出力レベル、出力方向の3つのパラメータを考慮して補正を行う場合は、オープン出力特性のばらつきが小さく、ほぼ一定の特性が得られる。このように本実施形態によると、リニアアクチュエータ100を用いた位置決め制御において、リニアアクチュエータ100の出力特性のばらつきに起因する影響を軽減して、リニアアクチュエータ100の制御を行うことができる。
【0062】
ストローク位置、出力レベル、出力方向の3つのパラメータを考慮した補正用ゲインで制御量を補正することで、実線800で示されるようにストローク端部の出力ゲインを高められる。そのため、リニアアクチュエータ100の出力特性差による駆動性への影響を低減することができる。出力特性差による駆動性への影響を低減するリニアアクチュエータ100の制御を行うことで、カメラシステム1においては、フォーカスレンズ21の焦点位置への追従性、すなわち被写体への追従性を向上させることができる。
【0063】
なお、本発明のリニアアクチュエータの制御システムはその要旨の範囲内で自由に変形して適用しても構わない。例えば、本実施例では制御構成の適用先として単極型のリニアアクチュエータ100の例を説明したが、他の多極型のリニアアクチュエータにおいても出力特性のプロファイルをデータ化、格納して、補正用ゲインを演算して制御量の補正を行ってもよい。また、本発明が対象とするリニアアクチュエータとは、完全な直線運動を行う物に限らず、例えばHDD等で用いられるような有限の円弧軌道上で接線方向に推力を出力するアクチュエータを対象としてもよい。
【0064】
本実施形態の開示は、以下の制御システムの構成を含む。
(構成1)
コイルと界磁部とを備え、主軸に沿って負荷を駆動させるリニアアクチュエータの制御システムであって、
前記負荷または前記リニアアクチュエータの位置情報をエンコーダから取得して、前記負荷および前記リニアアクチュエータの位置情報を演算する位置演算部と、
前記負荷の位置情報と前記負荷を移動させる目標位置に基づいて、前記リニアアクチュエータの駆動を制御する制御量を演算する制御量演算部と、
前記制御量に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力レベルを判定する判定部と、
前記制御量および前記リニアアクチュエータの位置情報に基づいて、前記リニアアクチュエータの出力方向を判別する方向判別部と、
前記リニアアクチュエータの位置情報と、前記リニアアクチュエータの出力レベルと、前記リニアアクチュエータの出力方向とに基づいて、前記制御量を補正するための補正用ゲインを演算するゲイン演算部と、
前記補正用ゲインを用いて前記制御量を補正する補正部と、を有することを特徴とする制御システム。
(構成2)
前記ゲイン演算部は、前記リニアアクチュエータの出力特性データ群から、前記出力レベルと前記出力方向に応じて演算に使用する出力特性データを選択し、該出力特性データを使用して前記位置情報に対応する補正用ゲインを演算することを特徴とする構成1に記載の制御システム。
(構成3)
前記出力特性データは、前記リニアアクチュエータの出力特性のプロファイルを予め関数近似して格納したデータであることを特徴とする構成2に記載の制御システム。
(構成4)
前記出力特性データは、前記リニアアクチュエータの出力特性のプロファイルを予め離散化して格納したデータであることを特徴とする構成2に記載の制御システム。
(構成5)
前記リニアアクチュエータは、有限のストローク範囲において、コイルに作用する平均の鎖交磁束の極性が一定の単極型であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の制御システム。
(構成6)
前記リニアアクチュエータの位置がストロークの端部の場合の前記補正用ゲインは、前記リニアアクチュエータの位置がストロークの中央の場合の前記補正用ゲインより大きいことを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の制御システム。
(構成7)
前記リニアアクチュエータの出力方向が中央から端部に向かう発散方向の場合の前記補正用ゲインは、前記リニアアクチュエータの出力方向が端部から中央に向かう収束方向の場合の前記補正用ゲインより大きいことを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の制御システム。
(構成8)
前記負荷は、撮像光学系を構成するレンズ群の一部のレンズであり、
前記リニアアクチュエータは、前記撮像光学系の光軸と平行に前記負荷を駆動させることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の制御システム。
【0065】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークまたは記憶媒体を介してシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 カメラシステム
21 フォーカスレンズ
100 リニアアクチュエータ
100a 主軸
111 コイル
120 界磁部
1000 制御システム
1100 コントローラ
1110 駆動指令部
1120 位置情報演算部
1130 制御演算部
1131 制御量演算部
1132 制御量補正部
1134 出力レベル判定部
1135 出力方向判別部
1136 補正用ゲイン演算部
1140 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8